風祭文庫・ヒーロー変身の館






「神託戦士イシュタル」
(第5話:嵐の学園祭)



作・風祭玲


Vol.533





”もんすたぁ!!!”

黄昏時の公園にザ・ケルナーが降臨させたモンスターの雄たけびが響き渡る。

そして間髪をおかずに、

『シルバー・トランス・フォーメーション!!』

新庄翼と女神・クレアの叫び声が響き渡ると、

ドォォォン!!

夕闇の中に没しようとしていた公園を白銀の輝きが浮き立たせ、

その輝きの中より、

『神託戦士・イシュタル参上!!』

の威勢のいい掛け声と共に、

シュタッ

タタッ!!

銀の輝きを放つ薄紫の戦闘服に身を包んだ少女が飛び出し、

「みんなに迷惑を掛けるこのおじゃま虫っ

 このイシュタルが女神に代わり成敗してあげますっ」

ビシッ!

対峙するモンスターをビシッと指差し口上を叫ぶ。

そう、この少女・イシュタルは、

女神・クレアがシルバーストーンの力を翼に与えて変身させたもので、

クレアが持つそのシルバーストーンを狙い襲ってくるザ・ケルナーが

降臨させるモンスターと日々戦っている正義の味方なのである。

しかし…

それは、女神クレアが暇つぶしに考えた”狂言”であり、

翼はクレアにマンマと乗せられているのだが…



『はーははは…

 これはこれはイシュタル殿、
 
 ご機嫌麗しゅう…』

ブンッ!!

山のように聳え立つモンスターの背後に金色の衣装を身にまとった

時代劇の悪役を思わせる男が姿を現し、

余裕の微笑をたたえイシュタルを見下ろすと、

『ア・クダイ・カーンっ

 今日こそはお前をぶん殴ってやるからなっ』

その台詞にイシュタルは拳を握り締め言い返す。

すると、

『イシュタル、

 気をつけてください、

 ア・クダイ・カーンよりもモンスターを倒すのが先決です。

 今度のモンスターは公園の遊具に憑りつきましたから

 少々手ごわいかも…』

すでに3代目となるア・クダイ・カーンに向かって悪態をつくイシュタルの肩に

女神クレアが姿を見せるとすかさずアドバイスをした。

『わかっているよっ

 クレア』

クレアのアドバイスにイシュタルはそう返事をすると、

『いくよっ』

の掛け声と共に

シュタッ!!

一気にジャンプをすると、

『くらえっ』

の声の元、

ゲシィ!!

モンスターの喉元に一撃を喰らわせた。

しかし、

”もんすたぁ!!”

砂場がモンスター化した砂場モンスターは

めり込むイシュタルの脚をそのまま飲み込んでしまうと、

ブッ!!

っと吐き出してしまった。

『ちっ

 蹴りが通じないか』

最初の一撃が通じない事をイシュタルは悟り、

そして、数回回転をした後着地をすると、

『じゃぁ、

 これならどうだ!!』

と叫びながらすばやく公園の中を走り始めた。

すると、

”もんすたぁ!!”

砂場モンスターは目の前から去っていくイシュタルを追い、

ズシン

ズシン

地響きを上げながら移動を始めた。

『どうするのです?

 イシュタルっ』

『いい考えがある

 モンスターと言っても所詮は砂場っ

 砂場の苦手なものといったらやっぱりコレだろう』

心配顔のクレアにイシュタルは自信満々に答え、

そして、

『モンスター!!

 こっちだこっち!!』

と後を追うモンスターを誘導しながら、

公園の真ん中にあるカッパ池へとおびき寄せた。



ズシン!!

”もんすたー!!”

『へへっ

 どうせ、後先の事は考えないモンスターの事だ、
 
 ここがどういう意味を持っているか、
 
 判らないだろう』

迫るモンスターに対して池を背後にイシュタルは笑みを浮かべる。

『ちょちょっと

 イシュタルっ

 これからどうするのですかっ
 
(濡れるのは出来ればやめてほしいのですが…)』

そんなイシュタルに対してクレアは背後を眺めながら顔を引きつらせると、

”もんすたぁ!!”

その直後、

モンスターの雄たけびと共に、

ザザザザ…

腕のような姿になった砂の柱がイシュタルに襲い掛かった。

『ばーかっ

 これを待っていたんだ!!』

まるでこのときを待っていたかのように

イシュタルは襲い掛かる砂の腕を軽くかわして高く飛び上がると、

『水の中に落ちろ!!』

の叫び声と共に、

ドカッ!!

前のめりになっている砂場モンスターの背後を蹴り込んだ。

すると、

”もんすたぁ!!”

砂場モンスターは絶叫を上げながら

ザザザザ…

ザボンっ!!

崩れ落ちるようにしてカッパ池へと落ち、

池の中を大きく埋め立ててしまった。

『へへっ

 ざまー見ろっ
 
 砂場で水遊びをするとぐちゃぐちゃになってしまうんだよ』

埋め立て地と化した砂場モンスターを見下ろしながらイシュタルは勝ち誇るが、

ところが、

ズゴゴゴゴ…

”もっもんすたー!!”

池の水をたっぷりと含んだ砂場モンスターは再び起き上がると、

”もんすたー”

の雄たけびと共に

ズドドドド!!

勝ち誇るイシュタルに向けて湿った砂鉄砲を浴びせ始めた。

『うわっ

 何だコイツっ
 
 ぜんぜん応えてないっ』

復活した砂場モンスターにイシュタルは驚き、

そして、慌てて退散すると、

『ちょっと、

 イシュタルっ
 
 戦いなさいよ!!』

その耳元でクレアが怒鳴り声を上げた。

『そんな事言っても、

 うわぁぁぁ!!』

”もんすたぁ!!”

水分を含んだ砂場モンスターは身が引き締まり、

乾いたときよりも3倍の運動能力でイシュタルに襲い掛かる。

『うわっ

 畜生っ

 なんでこうなるんだぁ』

額の部分に角を立て、

巨大なモノアイを輝かせながら

砂場モンスターは執拗にイシュタルに攻撃を行い、

イシュタルもまた逃げ惑いながらも攻撃のチャンスを伺うものの、

しかし、なかなか砂場モンスターの死角をつく事は出来なかった。

『くっそうっ

 どうすれば…』

荒い息と共にイシュタルの表情に疲れと焦りの色が出てくる。

『(今回は少し…強すぎましたか…)』

そんなイシュタルの横顔を見ながらクレアはそう思うと、

『ハチベエは居ますかっ』

と小声でスケ・カクのほかに連れてきていた

ガーディアン・ハチベエの名を呼んだ。

『はいっ

 ここに控えております、ご隠居っ』

その声と同時にクレアの足元に小柄なガーディアン・ハチベエが姿を見せると、

『誰がご隠居ですかっ!』

不機嫌な表情をしながらクレアは怒鳴る。

『あっこれは失礼しました。

 クレア様』

クレアの叱咤にハチベエは恐縮しながら言い直すと、

『もぅっ

 今度、わたくしとお爺様とを間違えたましたらお仕置きですからねっ

 さて、ハチベエ、
 
 お前を呼んだのは他でもない、
 
 スケ・カクが作り上げたあのモンスター、
 
 少々強すぎるみたいです。
 
 手頃なくらいに力を吸い取ってあげなさいっ』

ハチベエに向かいクレアはそう命じた。

すると、

『はっ畏まりましたっ』

ハチベエはその一言共に、

クワッ

小さな口を大きく開くと、

ゴワァァァァ!!

砂場モンスターからエネルギーを吸い取り始めた。

”もっモンスター!’

ハチベエの吸引が始まると共に

砂場モンスターの動きが鈍くなり、

さっきまでの素早さが雲散霧消する。

すると、

『(キラッ)チャーーンスッ!!』

イシュタルの目が光ると

ハッ!!

パンッ

拍手を打つように両手を合わせ、

そして、思いっきり気合を込めた後、

「食らえっ!!!

 イシュタル・バースト!!」

の掛け声と共にイシュタルは右腕を大きく振りかぶり、

思いっきり地面を叩いた。

その瞬間。

ズシンッ!!

イシュタルの足下より砂場モンスターめがけて衝撃波が走ると、

”もんすたぁぁぁぁぁ!!!”

衝撃波の直撃を受けた砂場モンスターはかき消すように消えうせ、

ズザザザザザザザ!!

吹き上がった大量の砂が砂場があったところに雨のように降りそそぐ。

『…くっ

 わが砂場モンスターを良くぞ倒してくれたなっ
 
 この借りは必ず返すからな…』

砂場モンスターが倒された事に

宙に浮かぶア・クダイ・カーンは悔しそうな表情をした後、

かき消すように姿を消した。

『あっ待て!!』

消えるア・クダイ・カーンを追ってイシュタルは飛び出そうとするが、

しかし、

フラッ

『アレ?』

その脚がふらつくと

ドサッ

その場に尻餅をついてしまった。

『くっそう…』

夕闇の空にイシュタルの悔しそうな声が響き渡った。



カッ!!

ゴロゴロゴロ!!

闇夜を切り裂き光り輝く雷光を背に受け佇む一軒の洋館…

その大広間に据えられた大テーブルを取り囲むように

上座にクレア、

次にテーブルを挟んでガーディアンのスケとカクが席に座り、

スケの隣には執事・モーリアが、

また、カクの隣にはハチベエが座っていた。

カチッ!

ボーン

ボーン

小さな稼動音と共に柱時計が時を告げると、

スッ

女神クレアは閉じていた目をゆっくりと開け、

それを合図に、

『さて、本日はお集まり頂き、

 ありがとうございます』

とモーリアが切り出した。



ゴロゴロゴロ!!

ズズン…

うなり声のような音を上げ、

雷は暗黒の空を駆け巡る。

『…(コホン)さて、

 クレア様がこの下界にご降臨なされて、

 はや、一月が過ぎようとしております。

 今回この会議を催した理由ですが、

 クレア様のご降臨からのひと月を振り返り、

 各プロジェクトの反省点や改善点など

 クレア様の御前にて屈託のない意見を出し合い、

 下期に向けた中国市場の新規開拓と、

 米国大統領選挙によるイラク問題の影響…じゃなかった…

 えっと、こっちじゃなくて…

 そうそう、こっちこっち
 
 えーと…
 
 で、あるかしらして、
 
 我々は如何なることをしたら良いのかを
 
 考えようとした次第であります』

予想外の資料の混入にモーリアは慌てながら資料をめくると、

やや脱線をしながらもこの会議の理由を告げた。

すると、


バサバサバサ!!!


これまで大人しくモーリアの言葉を聴いていたインコ・ジャックが

籠の中で大きく羽ばたき、

『タダイマヨリ

 ゴゼンカイギヲヒラキマス
 
 タダイマヨリ

 ゴゼンカイギヲヒラキマス』

と声を上げる。

しかし、その一方で、

『なぁ…

 御前会議つってもなぁ』

『仰々しく舞台をセットした割には

 肝心の参加者はクレア様に』

『モーリアに』

『我々ガーディアンと(なんでハチベエがここにいるんだ?)』

『あのインコ…(はぁ)』

ガーディアン・スケとカクはそう言い会ったのち、

小さくため息をついた。

すると、

『こらっ

 そこっ』

いわゆる”お誕生席”に座るクレアはすかさずスケ、カクを指差し

『わたくしに意見がある場合は起立しその旨を申すように』

とキツイ視線で注意する。

『あっいえっ』

クレアの注意に二人は縮みあがると、

慌ててモーリアより配布された資料に目を通し始めた。

『まったく…』

そんなスケとカクの姿にクレアはため息をつくが、

しかし、会議を仕切るのが大好きなモーリアによって、

会議は粛々と進行して行った。

そして、会議も一段落し、

『では、なにか意見があれば…』

とモーリアが声を上げると、

スッ

と手が挙がり

『はいっ!』

ガーディアン・スケの声が響き渡った。

『はいっ

 スケさん』

モーリアはスケの名前を呼ぶと、

『本日の砂場モンスターとイシュタルとの戦いぶりを見て感じたのですが、

 イシュタル一人にモンスター退治をさせるのは
 
 いかがなものかと申し上げます』

とスケは意見を言う。

『そうですねぇ…

 これからモンスターはどんどんと強くなるのに対して

 イシュタルのパワー増強はそれほど早くないですし』

スケの言葉にカクもそう言いながら大きくうなづくと、

『なるほど…

 イシュタル一人ではモンスター退治には手に余るというわけですな』

スケ・カクの発言をモーリアは簡単にまとめた後、

『クレア様っ

 なにかと負荷が掛かると思いますので、

 ここは増員を図ったほうがよろしいかと思います』

クレアに向かいモーリアは意見を述べた。

『増員…ですか?』

意見の要点をクレアは復唱すると、

スッ

再びスケは立ち上がり、

『はいっ

 このままイシュタル一人でクレア様のお守り…じゃなかった、

 ザ・ケルナー達と戦わせ続けますと、

 やがて要らぬ邪推をし、
 
 クレア様にとってよからぬ方向へと向かう可能性があります』

と補足理由を述べる。

『なるほど…』

スケの説明にクレアは大きくうなづくと、

改めて椅子に深く座り直す。

すると、

『クレア様

 その点はご心配なく、

 このモーリア。
 
 記憶消去の術を心得ておりますので
 
 面倒が起こる前に片付けてご覧に入れます』

とモーリアはその問題の解決方法を述べ、

『ふむ、

 頼りにしております』

モーリアの言葉にクレアは満足そうに返事をした。

すると、

『聞いたか今の?』

『あぁ…

 俺達…大丈夫かな…』

モーリアの言葉にスケ・カクの二人がテーブル越し目で話をし始めた。

『ところで…』

そんな二人の間を裂くようにクレアはそう切り出すと、

グルリと周囲を見渡し、

『先ほどよりイシュタル・翼の姿を見かけないのですが、

 何処に行ったのですか?』

と翼が不在である事を質問した。

『え?』

『へ?』

クレアの思いがけない言葉にスケ・カクの目が点になると、

『そういえば見かけませんな…』

『いつもなら

 そろそろ風呂上りの姿で登場してくるはずなのに…』

なかなか姿を見せない翼の姿を探して館の窓越しに外を眺め始めた。

すると、

ゴゴゴゴ!!!

ダァァン!!

『……翼めぇ…

 コレまでこのようなことが無かったのに

 きっと、このわたくしに隠れてなにか楽しいをしているに違いありません』

こぶしを握り締めそうつぶやくクレアの髪は逆毛立ち、

また温和な表情が見る見る般若のように変わっていく。

すると、

ピシピシピシ!!

クレアが放つパワーに押され洋館の壁に蜘蛛の巣状の亀裂が入ると、

ガラガラガラ!!!

地響きを立てながら洋館が崩壊し始めた。

『うわっ!!』

『たっ建物が崩れるぅぅ!!』

『簡易セットなんですから、無茶しないでください!!』

悲鳴をあげながらスケ・カクたちは慌ててテーブルの下に潜り込み、

またモーリアは

『くっクレアさまっ

 どうか、
 
 どうか、お鎮まりください』

とクレアの元に跪き懇願する。

『これじゃぁ

 逃げたくもなるよなぁ…』

『あぁ…

 まったくだ…

 翼殿の気持ちもわかる…』

テーブルの下でスケとカクはしきりに頷きあっていた。

やがて、洋館の崩壊が収まり、

『ふぅ、終わったみたいだな…』

テーブルの下よりスケカクが顔を出すと、

スケカクたちが用意したセットは無残に崩壊し、

いつもの翼の部屋が彼らの視界に入る。

『やれやれ、

 後片付けが大変だな…』

崩れ落ち残骸と化してしまった館を見ながらスケとカクはため息をつき、

そして、セットの中で唯一残ったテーブルに再びつくと、

シュッ!

カッ!!

埃をかぶるクレアの目の前に一本の風車が突き刺さると、

カラカラカラ…

と乾いた音を立てた。

『この風車は…』

『ヤシチ(お前もこっちに来ていたのかっ)!!』

風車を見ながらスケとカクは驚くと、

『もぅ、親分たら脅かしっこ無しですよ』

コレまで議論に加わらなかったハチベエが風車を抜き取ると、

『クレア様

 文が…』

その柄に結び付けられていた文をクレアに差し出した。

『まぁ…』

モーリアより差し出された文をクレアは嬉しそうに広げると、

『ふむ、

 ヤシチが台所で聞いた話によると、

 翼は帰宅後、準備を整え、
 
 ガクエンサイとか言うもののために改めて学校へと戻ったそうです』

と翼がこの部屋に姿を見せない理由を言う。

『ガクエンサイですか?』

『それはいかなるもので?』

クレアが告げたその言葉にスケとカクが聞き返すと、

『えぇっと…』

ヤシチからの文をクレアは目を皿のようにして見直すが、

しかし、

『あっあれぇ?

 どこにも書いていない…』

と呟くなり、

バリバリバリ!!

いきなり文を引き裂くと、

『ごるぁ!!

 ヤシチぃっ
 
 ガクエンサイって何なのかも書けっ
 
 つーのっ』

と怒鳴り声を張り上げた。

『クレア様っ

 お鎮まりくださいっ

 翼殿の部屋を壊してしまっては一大事、

 その件に関しましてはこのわたくしがご説明をいたします。

 ガクエンサイというのは、

 一種のお祭り…カーニバルのようなものです』

割って入ったモーリアが説明を始めだした。

『カーニバルですか?』

モーリアの説明にクレア・スケ・カクが声を合わせる。

『はい

 老いも若きも我を忘れ、

 ただひたすら日ごろのことを忘れ、
 
 己を捨てて祭りに興じる。
 
 と聞いております』

『そういうものですか…』

クレアは大きくうなづくと、

『うわぁぁ…

 きっと何か美味しいものがあるんでしょうねぇ』

と話を聞いていたハチベエが舌なめずりをする。

『おいっハチ!!』

そんなハチベエをスケがたしなめると、

キラッ☆

クレアのその瞳が好奇心で大きく光った。

『うっ』

それを見たスケとカクが反射的に身構えると、

『そうですか…

 何もかも忘れてのカーニバルだなんて…
 
 なぁんて楽しい事でしょう…
 
 そのような楽しき宴にこのわたくしを連れて行かないだなんて、
 
 女神クレアを愚弄していると思いませんか?』

両手を合わせまるで訴えるかのようにクレアは皆に告げると、

チラッ

クレアはスケ・カク、そしてモーリアへと視線を送る。

その途端、

バサバサバサ!!

籠の中のジャックが羽を羽ばたかせ、

「オシオキ!

 オシオキ!
 
 オシオキ!」
 
と声を上げた。

そしてその声をバックにクレアは

ゆっくりと自分の口の前に手を組みあわせると、

その影を自分の顔を落としながら、

『…東の風・雨…か』

と呟き、

『海軍は…やってくれますね』

チラリとモーリアを見る。

すると、

ビシッ

『かしこまりました』

モーリアは直立不動の姿勢になりそう返事をすと、

『御聖断がおりた。

 ニイタカヤマノボレ!!
 
 総員出撃!!』

とスケカク・並びにハチベエに向かって命令した。

その途端、

ビーッ!!

部屋の中に緊急を知らせるブザー音が鳴り響き渡り、

ガシャーン!!

ジャックが入っている鳥かごの口が大きく開くと、

止まり木もろともジャックが籠の外へと引き出される。

そして、

『D番通路開きます』

と言う案内放送が流れる中、

ガチャッ

翼の部屋のドアが開かれると、

バン

バン

バン

ガララララ!!

翼の部屋から玄関までの戸が次々と開いて行く、

『進路オールグリーン』

『自動誘導システム作動開始』

『カタパルト接続』

競りあがるジャックを乗せた止まり木が

発進用のカタパルトへと接続したところで

『さて、では参りましょう』

クレアはそう言いながら腰を上げ、

シュンッ

クレアを先頭にスケ・カク・モーリアにハチベエらが

次々とジャックに乗り込むと、

『3!』

『2!』

『1!』

『発進!!!』

『ハッシーン!!!』

バシューン!!!

バサバサバサ!!!

カウントダウンの声の後、

カタパルトより打ち出されたジャックは

星が瞬く夜空へと舞い上がっていった。



翌朝…

「よーしっ

 準備は良いかっ」

柔道場に柔道部主将の声が響き渡ると、

「うぃっすっ」

それに呼応して一斉に返事が返ってくる。

その反応に主将は満足そうに頷くと、

「今日は待ちに待った学園祭である。

 日ごろの特訓の成果を如何なく発揮し、

 売り上げのナンバー1を成し遂げるように。
 
 よいかっ
 
 新体操部には負けるなっ」

拳を振り上げて主将は檄を飛ばすと、

「うぃっすっ!!」

元気よく返事が返ってきた。

「よぉしっ

 では着替え始めっ!」

その返事に満足しながら主将は着替えを指示すると、

「うぃっす」

その返事と共に厳つい柔道着姿の部員達は一斉に上着を脱ぎ捨て、

めいめい胸にブラジャーをつけ始めた。

「ねぇ、ちょっと

 ホックお願い」

「うー届かないよぉ」

「あーそれ、

 あたしのパンティ!!」

まるで、女子更衣室かと思わせる声が柔道場に響き渡る中、

「はぁ…」

目不足の目をしばたたかせながら翼はブラを片手にため息をついていた。

すると、

「ちょっとぉ、新庄さんっ

 ため息なんてついてないで、
 
 さっさと着替えるのよっ」

先に着替えが終わり、

メイクにいそしむ部員がほとんど動きを止めている翼に気がつくなり、

さっさと着替えをするように注意をすると、

「判っているよ

 でも…
 
(うひゃぁぁ、

 マジで

 コレを着るのかよ)」

女物の衣装を手に翼は顔を真っ赤にして俯き続けていた。



しかし、流れていく時間は容赦なく翼を押し流し、

学園祭の開始と共に、

「いらっしゃいませぇ!」

柔道部は部員全員が女装しての甘味所”柔”をオープンした。

「きゃぁぁ!!、

 藤崎せんぱーぃ!」

「よぉ来てくれたか!」

「あはは…

 セーラー服に合っていますよ」

「そうか?」

”柔”のオープンと同時に女子生徒が押しかけ、

そして冷やかしの言葉を浴びさせる。

その一方で、”柔”の隣では、

全員が男装しての新体操部の喫茶店”飛翔”がオープンし、

無論、こちらも一目見ようと言う女子生徒でごった返していた。

「おーぃ、

 新庄っ
 
 しるこの在庫が少なくなってきたから追加しろ」

「はーぃ、

 (まったく…

  なんで、僕が…)」

ウェイトレス役のレギュラーメンバーからの注文に

セーラー服にエプロン姿の翼は返事をしながら、

店の厨房せっせとしるこを作り始める。

そして、

「さて、コレを捨ててくるか」

バケツに溜まったゴミに翼は息をつくと、

ヨイショッ

バケツを抱え店の外に出ると、

満タンになったゴミ袋をバケツから取り出した。

そして、ふと顔を上げたとき、

「あっ」

新体操部の店からウェイター姿の東海林望が出てくくると、

バッチリ

翼と目が合ってしまった。

「のっ望さんっ」

お互いに相手をじっと見詰めた後、

「あっあの…」

翼が声を掛けようとすると、

プッ!!

望は小さく笑い、

そのまま店の中へと戻っていってしまった。

「なっ

 ガーーーン!!
 
(望さんに笑われた…そんな)」

望のその行動に翼は頭を殴られたような錯覚に陥り、

そして、その衝撃に打ちひしがれるとガックリと手をつき、

「あはは…

 望さんに笑われた…
 
 望さんに笑われた…」

その言葉がエンドレスとなって翼の口から漏れる。



一方、ジャックと共に夜空に飛び出したクレアはと言うと、

バサッ

バサッ

『もぅ、

 すっかり出遅れてしまったじゃないのっ』

秋の陽光が照らす青空の下、

学校へ向かって空を飛ぶジャックの背中でクレアは文句を言う。

『クレア様っ

 それは仕方が無いのでは?』

『そうですよ、

 鳥の目が利かない夜間に飛び出したから、

 迷ってしまったんですよ。

 こういうときはあまり慌てないほうが』

グズるクレアにすかさずガーディアン・スケとカクが注意を促すと、

『なに?

(キッ!)』

クレアは鋭い視線で二人を見る。

『あっいえっ』

クレアの視線にスケ・カクの二人が縮こまると、

『クレア様っ

 翼殿の学校が見えてまいりました』

モーリアが視界に見えてきた校舎を指差した。

『ようしっ

 翼めっ
 
 このわたしに恥をかかせた報い
 
 しっかりと受けるがよいっ』

徐々に大きさを増す校舎を見ながらクレアはそう呟くと、

『それって、八つ当たりじゃないのか?』

スケとカクは囁きあっていた。



つづく