風祭文庫・ヒーロー変身の館






「神託戦士イシュタル」
(第4話:空からのシ者)



作・風祭玲


Vol.531





リーリー

リーリー

『うーん、良い夜ねぇ』

窓の外から響く虫の音を聞きながら、

女神・クレアは大きく背伸びをすると、

『はいっ』

『真に良い夜です』

クレアの言葉にガーディアン・スケとカクは跪いたまま同意する。

『ふふっ

 なにもかも飲み込み、

 覆い隠してしまう漆黒の闇…

 そして、そこにあるのは…

 光もなにも無い無限の静止した時間。

 はぁ…なんて素晴らしい』

窓枠に肘を着き、まるで闇を寿ぐようにクレアはつぶやくと、

バサバサバサ!!

「スバラシイ

 スバラシイ
 
 スバラシイ」

クレアの隣に置かれている鳥かごの中で、

一羽の大型インコが緑の羽を羽ばたかせながら声を上げた。

『そうですが、

 あなたも、この闇が気に入りましたか』

インコの言葉にクレアは嬉しそうに目を細めると、

ガチャッ

閉じられていた部屋のドアが開き、

「ふぅ」

タオルで頭を拭きながら湯上りの翼が入ってきた。

と同時に、

「スバラシイ!!」

一際大きくインコが声を上げる。

「あっ、

 クレアっ!!

 ジャックに変な事を教えるなよ」

ジャックの上げた声に驚きながらも、

間髪いれずに翼が怒鳴ると、

『無礼者!!

 クレア様に対してなんと言う口の利き方!!

 そこへなおれ!!』

天誅を下そうとしたのか、

スケ・カクの二人が翼に向かって飛び掛ってきた。

「何だやるかっ」

スケ・カクの行動に翼はすかさず応戦体勢に入ると、

『どりゃぁ!!』

「なんのっ」

『ごるぁぁぁ』

「るせー!」

たちまち翼の部屋のなかで翼vsガーディアンとの格闘が始まった。

無論、体のサイズが大きく違うために、

傍目で見ると結構滑稽に見えるのだが、

しかし、

『はぁ…』

そのドタバタ騒ぎを背後に聞きながらクレアはため息を一つ吐くと、

『もぅ…

 せっかくの雰囲気が台無しじゃない』

と文句を言いながら、

『翼っ

 はいっ!』

掛け声を掛ける。

「え?」

クレアの掛け声に翼の動きが止まり、

それと同時に彼の指にクレアが投げたリングがはまると、

『シルバー・トランス・フォーメーション…!!』

とクレアが叫び、

「え?

 あっ
 
 シルバー・トランス…」

その声につられるように翼も掛け声を上げた。

その途端。

シャパァァァ!!

「え?

 うわぁぁぁぁ!!」

指にリングをはめた翼は悲鳴と共に吹き上がる銀色のオーラの中へと取り込まれ、

程なくして、

「なんでだよぉぉぉ」

と泣き叫ぶ少女・イシュタルへと変身してしまった。

『わたくしが夜の闇を楽しんでいるに騒々しいからです』

イシュタルに変身した翼に向かってクレアはそういうと、

「だからって

 無理やり変身させること無いだろう」

とイシュタルはクレアに迫る。

『あらっ

 無理やりだなんて…
 
 ご自分でも変身のかけ声を掛けたでしょう?』

クレアはそう指摘すると、

「うっ」

イシュタルは返答に困る。

そして、

『ふふっ

 その顔…
 
 可愛いですよ』

そんなイシュタルにクレアはそうつぶやくと、

シュルンっ

いきなりイシュタルと等身大の大きさに変化し、

そのまま傍に近寄ると下唇に人差し指を当てた。

「え?

 なっ
 
 なんで…」

クレアの変化に翼は驚くと、

『ふふっ

 何を驚いているのですか?
 
 これくらいの事…簡単ですわ』

そう言いながらクレアはイシュタルの体に自分の体を寄せる。

「ちょっちょっと、

 クレアさんっ
 
 何を…」

ズザザザ…

クレアの積極的な行動にイシュタルは慌てて間合いを取るが、

『あら、なにを逃げているのです?』

サラッ

クレアは身に着けているドレスを肌蹴させるしぐさをしながらイシュタルに迫ると、

ドサッ

そのままベッドにイシュタルを押し倒し、

そして、ゆっくりと身を寄せながら、

『イシュタル…』

と優しく声を掛けた。

「え?

 いっ
 
 だっダメですよぉ…」

圧し掛かられ迫るクレアにイシュタルはギュッと体を縮めながらもそういうと、

『ふふっ

 何がダメなのです?』

とクレアは問いかける。

「何がダメって…

 それは…
 
 だって、
 
 ぼっ僕、
 
 いま女の子だし、
 
 そっそれに…
 
 けっ経験無いし…」

クレアの問いかけにイシュタルは顔を赤らめながら返事をすると、

『それがどうかしたの?』

イシュタルの返事にクレアはそう返し、

『ふふっ

 女の子同士だから、
 
 良いんでしょう?
 
 さぁ…
 
 力を抜いて』

「でっでも」

『大丈夫、

 あたしにすべてを任せて…
 
 さぁ目を瞑りなさい、
 
 イシュタル』

「あうぅ」

吐息が掛かるくらいに迫られ

ついにイシュタルは目を瞑ってしまうと、

との次にくるであろうクレアの指技を期待する。

しかし…

「………」

いつまで経っても次は来なかった。

「?」

不審に思いながらもイシュタルはじっと待っていると、

チクッ

チクッ

次第に胸元がチクチク感じ始め、

バサバサ

と何かが羽ばたき始めた。

「なんだ?

 これ?」

そう思いながらついにイシュタルは目を開けると、

クワッ!!

目の前いっぱいにインコ・ジャックが口をあけた光景が飛び込み、

「イッイケマセン。

 シュジンガ。

 オッオクサン。

 イイデショウ」

と声を上げた。

「は?

 ジャック?」

突然の場面転換にイシュタルは呆気にとられていると、

『きゃはははははは!!!

 見て見て
 
 インコ相手に本気になっちゃって
 
 きゃははは
 
 可笑しい!!』

部屋の中にクレアの笑い声が響き渡り、

翼の机の上で手のひら大の姿に戻っているクレアはが腹を抱え

ひっくり返って笑っていた。

プルッ

プル

プルプルプル

笑い転げるクレアの姿にイシュタルは怒りに体を震わせると、

「ひっっどーぃっ

 純情な男の子の心を手玉に取るだなんて、
 
 鬼っ!
 
 悪魔っ!」

と声を張り上げるが、

『なに言っているの?

 いまは女の子でしょう』

クレアは突っ込み返す。

「うっうるさいっ

 うわぁぁん!!」

クレアの突っ込みにもかかわらず、

イシュタルは自分の純情を手玉に取られた悔しさから、

目に涙をいっぱい貯め、

そのままベッドに突っ伏すと声を上げて泣きはじめてしまった。

そして、その上にジャックが止まり、

「ヒドイ」

「ヒドイ」

と同じ言葉を繰り返す。

『あーぁ、泣かしちゃって…』

『クレア様も可愛い顔して性格歪んでいるからなぁ』

そんなイシュタルの姿にスケとカクは同情するが、

しかし、肝心のクレアはどこ吹く風で夜の闇を楽しんでいた。



翌日、

カチッ!!

キーンコーン!!

昼休みを告げるチャイムが校舎内に鳴り響くと、

「じゃぁ、これまで」

教壇に立つ教師は授業の終了をつげ、

「きりーつっ!!」

その号令と共に午前の授業は終了した。

「はぁ飯だ飯だ」

「ねぇ…お昼どうする?」

「そーね」

授業中の静寂さとは打って変わって喧騒が教室を支配し、

生徒達は教室内で食事を取るもの、

外に食べに行く者と散って行く。

しかし、そんな声を背後に聞きながら、

「ふぅ…」

諏訪梓はぼんやりと考え事をしながら頬杖をついていた。

「どぅしたの

 梓?」

そんな梓の様子に気づいてか

同じクラスの東海林望が声を掛けてくると、

「んー?

 あぁ、望ぃ」

望に向かって梓はそう返事をする。

「どうしたの?

 元気ないみたいだけど」

「え?

 別に…」

「そう…

 それなら良いんだけど」

上手くつながらない会話の後、

「ふぅ…」

梓はため息を一つつくと、

「うん、実はねっ」

と望に掛けようとした途端、

「望ぃっ

 新体操部の人が来てるよぉ」

と言う声が教室内に響き渡った。

「あっ

 うんっ行く、
 
 ごめんね」

その声に望は返事をすると、

小さく梓に向かって謝り立ち去っていった。

「ふぅ…」

一人取り残された梓はプリントアウトをした1枚の写真を取り出し、

それをじっと目つめながら、

「これって一体、何だったんだろう」

と呟く。

梓が見つめる写真には銀の衣装を翻しながら、

水着の化け物に挑む一人の少女、

そう、イシュタルに変身した翼の姿が映し出されていた。



キーンコーン!!

「ねぇねぇ、

 澪っ

 お昼、行こう」

「うん、ちょっと待ってて」

同じ頃、

翼のクラスも昼休みを向かえ、

教室内は喧騒としていた。

しかし、

「はぁ…」

皆が昼食へとあわただしく動き回る中、

翼一人はぐったりと机の上に突っ伏している。

「おいっ

 何、突っ伏しているんだよ」

そんな翼の様子に気づいたクラスメイトが声を掛けると、

「あぁ、

 悪いが、僕の事は放置しててくれないか?」

顔を上げることなく翼はそう返事をする。

「?」

いつもならスグに誘いに応じるはずの翼からの返事に

クラスメイト達は首をかしげた後、

「じゃぁ、先に行っているから…」

と言い残して去って行く。

そして取り残された形になった翼は

「はぁ…」

小さくため息をつくと、

「まったく、クレアめぇぇ」

っと恨めしそうに呟きながら顔を上げた。

そう、昨夜、

クレアに嵌められたことへの悔しさで

翼はほとんど寝ていなかったのだ。

すると、

バサバサバサ!!

遠方より一羽の鳥が羽ばたきながら接近し、

そのまま

バタバタバタ!!

教室内に飛び込んでくると、

『クワッ!

 ツバサニツグ

 クレアピンチ
 
 クレアピンチ』

と声を上げながら教室内を旋回すると、

バサッ

机に突っ伏している翼の頭に着地した。

「きゃーみてみて」

「インコよインコ」

翼の頭の上に止まるインコを見て

教室に残っていた女子生徒達が騒ぎ出すと

「ん?

 ジャックじゃないか」

翼は自分の頭の上に止まるインコを見てそう呟いた。

「えーっ

 このインコ、新庄君のなの?」

翼の言葉を聞いた女子生徒が尋ねると、

「あぁ

 まぁ、確かに僕が飼っているインコだけど、
 
 でも、なんでここまで飛んできたんだ?」

頭の上から自分の指にジャックを止まらせた翼はそういうと、

「ほーっ

 新庄のトコのインコは伝書鳩にもなるのか、
 
 しかも、録音機能付きとはポイント高いな」

とクラスメイトが覗き込んだ。

「別に伝書鳩なんかにする気はないよ、

 きっと籠から逃げ出してたんだろう」

ジャックを見つめながら翼はそういうが、

「でも…

 変だな…
 
 何でジャックがここまで飛んで来たんだ?
 
 匂いでも判るのか」

と訝しがると、

『ツバサニツグ

 クレアピンチ
 
 クレアピンチ』

とジャックは再び声を上げた。

「クレアピンチって」

ジャックが上げた声を聞いた男子生徒がその事を指摘すると、

「クレアがピンチ?!」

ジャックの言葉を翼は復唱し、

そして、

ガタン!!

いきなり立ち上がると、

バサバサバサ!!

翼の上から飛び立ったジャックは

まるで翼を誘導するかのように教室内を旋回すると、

開け放たれているドアから廊下へと飛び出して行った。

「あっジャック

 待て!!」

それを見た翼はそう叫び教室から飛び出していくと、

「クレアめ

 今度はどこに居るんだ?」

クレアが現在居る場所を思案しながらジャックを追って行った。

バサバサバサ…

ジャックは廊下を一気に飛び、

そして、階段を上っていくと校舎の屋上へと飛んでいった。

「屋上か?」

それを見た翼はジャックに誘われるまま屋上へ飛び出すと、

”もんすたぁ!!”

ザ・ケルナーのモンスター雄たけびは響き渡った。

「モンスター!!」

その雄たけびに翼はモンスターの姿を探すが、

しかし、雄たけびは響けど肝心のモンスターの姿は見えなかった。

「どっどこに居るんだ?」

モンスターの姿を求めて翼がキョロキョロしていると、

『おぉ、待っていたぞ!!』

クレアの声が響く。

「クレアっ

 また学校に来たのかっ
 
 で、どこに居るんだよ」

モンスター同様、姿の見えないクレアに向かって翼が怒鳴ると、

『えぇ、

 あまりにも退屈だったので、
 
 インコと共にちょっと散歩をしていたのです』

と悪びれることなくクレアは返事をすると、

バサバサバサ!!

翼の肩にジャックが止まり、

ポンッ!!

その反対側の肩に小さな爆発音と共にクレアが姿を見せた。

「なるほど…

 それでジャックがクラスに飛んできたのか…」

クレアの姿を見ながら翼は一人で納得した後、

「で、モンスターはどこに?」

とクレアに今回襲ってきたモンスターの居所を尋ねた。

すると、

ニコッ

クレアは笑みを浮かべ上を指差すと、

『さぁ、イシュタルに変身しましょう。

 モンスターはすでに攻撃態勢に入っています』

と声を上げ、

サッ

変身のリングを掲げた。

「まったく、

 モンスターが見えない状態での変身かよ」

リングを見つめながら翼はため息混じりに文句を言うと、

クレアが差し出したリングを指にはめ、

『シルバー・トランス・フォーメーション…』

と声をそろえて叫んだ。

すると、

ブォッ!!

リングより銀色の光が噴出し、

その光に包まれた翼は女戦士・イシュタルへと変身する。

シュタッ!!

変身完了後、

「さぁ、

 モンスター!!

 どこからでも掛かって来いっ」

と気合を入れて叫ぶと、

’もんすたぁ!!!!’

それに応えるように空からモンスターの雄たけびが響き渡った。

「空か…」

さっきクレアが指差した空をイシュタルは見上げると、

ヒラッ…

青空のかなたに小さなエンジ色の点が姿を見せる。

ヒラッ…

「ん?」

それに気づいたイシュタルは目を凝らすと、

ヒラ…

ヒラ

しゅぉぉぉぉん…

点は次第に大きさまし

点から三角形へ

そして長辺と短編を組み合わせた六角形へと姿を変えていった。

「なっなんだ…

 あれは」

自分に向かって迫ってくるエンジ色の六角形の物体にイシュタルは唖然とすると、

程なくして、長辺の端と長辺の端を結ぶ白のラインが目に飛び込んできた。

「え?

 これって…
 
 まさか…

 ぶっブルマぁ?」

迫りくる物体に向かってイシュタルはそのものの正体を叫ぶと、

’もんすたぁ!!!’

ブルマモンスターは雄たけびを挙げ、

グンッ!!

っと一気に広がると、

屋上のイシュタルを押し潰すかのごとく落ちてきた。

『モンスターを受け止めるのです

 イシュタルっ』

屋上いっぱいに迫るブルマを見上げながらクレアは叫ぶが、

「無理だって!!」

イシュタルはそう叫びながら、

ヒュンッ!!

一気に走ると、

スタッ!

ブルマモンスターの落下点から外れている水タンクの上に降り立つ。

その直後、

バフンッ!!

ブルマモンスターは校舎の屋上に落下するが、

しかし、元々軽い物であるが故に、

大した衝撃は起きなかった。

しかし、

「はぁ…

 危なくブルマの下敷きになるところであった」

間一髪逃げ遂せたイシュタルは一息を入れながら額の汗をぬぐっていると、

”もんすたぁ!!”

イシュタルを取り逃がしたブルマモンスターは雄たけびを上げ、

バフン

バフン

と体を動かし、

イシュタルに対してファイトの意思を明確にする。

「…前回がスクール水着で、

 今回がブルマっ
 
 ってことは次回は…
 
 セーラー服か?」

そんなブルマモンスターの姿にイシュタルは憂いのポーズをした後、

「しょうがないっ

 降りかかる火の粉は振り払うしかないか」

と呟くと、

「……田口のブルマ…

 じゃないよなっ」

前回の経験からかイシュタルはブルマに

あの田口鞠子の名前が書かれていないか確かめる。

しかし、

「うーん、

 名札はないか…」

そのブルマの所有者を表す名札等がない事に困惑すると、

「えぇいっ

 仕方がない!
 
 出来れば望さんのブルマであってほしいよ」

と声を上げながら

タンッ!

イシュタルは思いっきり飛び上がると、

「うぉりゃぁぁぁぁ!!」

の掛け声と共に一気にブルマモンスターに蹴りを入れた。



ところが、

びろーん!!!

「なに?」

イシュタルの蹴りを受けたブルマモンスターはその部分を大きく伸ばし、

”もんすたぁ!”

掛け声と共に反動をつけると、

ポーンっ

イシュタルの体を高く飛ばしてしまった。

「うわぁぁぁぁ!!」

見る見る小さくなっていく校舎にイシュタルは悲鳴を上げると、

『もうっ

 しっかりしてよ』

イシュタルにしがみつくクレアが文句を言う。

「そんなこといったって!!」

クレアの文句にイシュタルは反論するものの、

ポーン

ポーン

ポーン

まるでトランポリンのごとくイシュタルはブルマモンスターにあしらわれていた。

「てっ(ぽーん)」

「くそっ(ぽーん)」
 
「どうやって(ぽーん)」
 
「倒せば(ぽーん)」

上下に放り投げられ、

なかなか攻撃のチャンスをつかめないイシュタルに次第に焦りの色が出てくるが、

ブルマモンスターもそんなイシュタルに積極的に攻撃を仕掛けず、

まるでイシュタルをからかっているかのように放りなげ続けていた。

「くっそぉ!!

 ブルマがこんなに伸び縮みするだなんて…
 
 知らなかった」

実質上攻撃力を封じ込められている状況にイシュタルは臍を噛んでいると、

バサバサバサ!!

どこかに消えていたジャックがイシュタルの元に戻り、

そのままイシュタルの頭の上へと止まる。

「おいっ、ジャックっ

 この状況の主人の頭の上に止まるとは見上げた根性だな」

自分の頭の上に止まるジャックにイシュタルは嫌味たっぷりに言うと、

「シャツガナイ

 シャツガナイ」

と声を上げる。

「シャツ?

 シャツがどうしたって言うんだよ」

ジャックの声にイシュタルはその意味を尋ねるが、

「シャツガナイ

 シャツガナイ」

ジャックは相変わらず同じ言葉を繰り返す。

「だからぁ…」

押し問答の様相を呈してくると、

『シャツというのが、

 鍵じゃないですか?』

とクレアがイシュタルに告げた。

「え?

 シャツが?」

『えぇ…

 このモンスターも何かを待っているみたいですし』

キラッ☆

何かを合図するかのような視線で横を見ながらクレアはそういうと、

「ふむ…

 ブルマに合うシャツというと、
 
 やっぱ、体操着の上か…」

イシュタルは考えながらそうつぶやく、

すると、

『クレア様っ

 それそれ、コレいきますか?』

クレアのガーディアン・スケとカクの叫び声が響き渡り、

ぞぞぞぞ…

程なくして一着の女子用体操着の上着が屋上の床を這いながら動いてきた。

「あっ

 それだ!!」
 
その体操着を見た途端イシュタルは叫び

そして、

「パスッ!!」

と大声で叫ぶ。

『え?」

イシュタルの叫び声に上着の下からスケとカクが顔を出すと、

『スケっ

 カクっ
 
 それを勇者・イシュタルへ渡しなさいっ』

即座にクレアが命じた。

『はっ

 ただ今』

そのクレアの命令にスケ・カクの二人はテキパキと上着をたたみ、

そして

『せーのっ!』

の掛け声と共に

ポーン!!

ブルマモンスターに弄ばれているイシュタルへ向けて放り投げた。



「よしっ」

バサッ!!

タイミングよく放り投げられたイシュタルが上着を受け取ると、

「見ろっ

 ブルマモンスター
 
 お前が探していた上着だ!!」

と叫びつつ、

バッ!

イシュタルは大きく見えるように体操着の上着を空中で広げてみせる。

すると、

’もんすたー!!’

その上着に惹かれるかのようにブルマモンスターは起き上がると、

一直線にイシュタル目掛けて飛び上がる。

「よーしっ

 このときを待っていたんだよ」

イシュタルから見てブルマモンスターの動きが止まったことに、

攻撃の好機とイシュタルは判断すると、

ハッ!!

パンッ

拍手を打つように両手を合わせ、

そして、気合を込めた後、

「食らえっ!!!

 イシュタル・バースト!!」

の掛け声と共に右腕を大きく振りかぶり、

突進してくるブルマモンスターを思いっきり殴りつけた。

その途端、

’もっもんすたぁ!!!’

ブルマモンスターは弱弱しい声を上げた後、

しゅるるる!!

イシュタルの体に抱きつくようにして巻きついた後、

「うわっ!」

ボムッ!

イシュタルの悲鳴と共に自爆をした。



「ケホケホ」

『うー、非道い目に遭った』

ブルマモンスターの自爆後、

立ち込めていた煙を払いのけながらイシュタルとクレアが飛び出してくると、

「わっなんだこれは!!」

イシュタルの悲鳴があがった。

『どうかしまし…

 あらっ」

そのイシュタルが上げた悲鳴にクレアは改めてイシュタルを見ると、

慌てて片手で口を抑え、

そしてしげしげと眺めた。

「なっなんで…?」

『さぁ?

 それがモンスターの真の望みだったのでは?』

「これが?」

『えぇ…』

そう言い会うイシュタルとクレアの視線の先にあるのは、

体操着とブルマ姿になったイシュタルことイシュタルの姿だった。

「じっ冗談じゃないぞ…」

自分のブルマ姿を見下ろしながらイシュタルはそうつぶやいていると、

ガチャッ

いきなり出入り口のドアが開き、

「はぁっ、

 屋上で少し景色でも見てよ」

と言う声と共に東海林望が屋上に上がってきた

そして、

立ちすくむイシュタルの姿を見るなり、

「あら…」

と声を掛けると、

「え?

 あっいやっ
 
 あの
 
 これは
 
 その…」

望の視線にイシュタルはモジモジしながらしどろもどろになり、

「しっ失礼します」

と言う声を残して望の横を脱兎のごとく駆け抜け、

一気に階段を駆け下りていってしまった。

そして、

「……この学校の子だったんだ、

 あの子…」

イシュタルが去った後、望はそうつぶやきながら、

振り返り見つめていた。



つづく