風祭文庫・ヒーロー変身の館






「神託戦士イシュタル」
(第2話:変身!イシュタル)



作・風祭玲


Vol.527





「うっうぐぅ…

 なっなんでこんな目に…」

クレアが放った雷撃の直撃を受け、

煙を噴き上げながら翼が倒れていると、

スタッ

その翼の目の前にさきほどの笑みをたたえたクレアが降り立ち、

『わたくしたちはその邪悪な者ザ・ケルナーが放った

 極悪モンスターに追われているのです、

 ですから、
 
 そのモンスターを退治して欲しいのです。
 
 お願いです、伝説の勇者様…』

と懇願をはじめる。

「あっあの…

 一言言っていいっすか?

 さっきの雷撃って、
 
 結構、凄かったんですけど…
 
 その雷撃でも倒せないのですかぁ?」

クレアの言葉に翼は這い蹲りながら言い返すが、

『はいっ

 わたくしの雷撃などザ・ケルナーにとっては、
 
 針でつつくようなもの…

 ですので、
 
 わたくし達には伝説の勇者様にしか頼めないのです』

クレアはそう訴え、潤んだ目で翼を見つめる。

「うっ」

思いがけないクレアの眼差しに翼は心を射抜かれつつも、

「でっでも、

 そんなに強いモンスターに僕が勝てるのですか?」

と尋ねると、

『それは大丈夫です。

 だって、翼様は伝説の勇者様ですもの、

 きっと倒してくれると思います』

クレアはそう返事をして、

また笑みを浮かべつながら翼を見つめる。

しかし、

「なっ

 なんか引っかかるんだよなぁ…」

クレアの話に翼はどうしても胡散臭さを払拭できず、

「ところで、

 そんな悪いモンスターってどこにいるんです?
 
 クレアさんの話ではこのスグ傍にきていると思うんだけど…」

と尋ねながら周囲を見回した。

すると、

『え?

 あっあの…

 わたくし達はもっモンスターの隙をついてこの世界にやって来たので…

 あっでっでも、もうじきここに来ます。
 
 わたくしには感じるのです。
 
 邪悪な者が迫ってきている感じが…

 だからお願いです』

翼の指摘にクレアはややうろたえながらそう言うと、

サッサ

翼に気づかれないように後方で控えているスケとカクに指で合図を送った。

そして、その合図に

『おいっ

 クレア様からの合図だ』

『判っている。

 早くしろ!!』

その合図を見たガーディアン・スケとカクはアタフタと周囲を駆け回った後、

ザッ

ザザッ

二人とも近くの草むらに飛び込むと、

カチャカチャ

草むらに仕掛けておいた怪しげな光が明滅するメカにスケが座り、

『音声変換システム正常。

 3Dフォログラム起動。
 
 準備は良いかっ』

メカを操作しながら声を上げた。

と同時に、

『おっけーっ

 こっちは準備完了!!』

インカムとスキャナスーツを身に纏ったカクが返事をすると、

『よしっ、

 投影開始っ』

カチッ!

その声を合図にスケはメカのスイッチを入れた。

すると、

キュィィン!!

メカの起動音と共に

カッ!!

幾筋もの光を発し、

ブンッ!!

瞬く間に空中に巨大な3D映像が映し出す。



「うわっ何だコイツ!!」

突然草むらより姿を見せた歌舞伎役者を思わせる異様な者の姿に翼が驚くと、

『(キラ)きゃっ

 もぅここに!!』

一瞬目を輝かせ、クレアは悲鳴を上げながら翼にしがみつく。

すると、

『はーはははは…

 ここにいらっしゃいましたか、
 
 お探しをしましたよ
 
 女神・クレア…』

空中に浮かぶ異形の者は親しそうに話しかけてきた。

『だっだれが』

その言葉にクレアは毅然と言い返すと、

『ふふっ

 さて、我が主・ザ・ケルナー様へ献上するべき、

 シルバーストーンはどちらにお持ちでしょうか?』

と異形の者は尋ねる。

『そのような物はここにはない!!』

『ほぅ…

 女神・クレアなる者がシルバーストーンを持っていないとは
 
 これは奇っ怪な』

『持っていません。

 ここはお前の様な者が来るところではありません。

 直ぐにここから立ち去りなさい』

首をかしげる異形の者にクレアは勇敢に言うと

『ふふっ

 よろしいでしょう。
 
 では言いたくなるまで我が下僕に相手して貰いましょう』

と異形の者は言い放った。

「え?

 下僕」

異形の者の言葉に翼は驚くと、

『来ます。

 モンスターです』

とクレアはヒソヒソ声で翼に告げた。



その頃、スケとカクはというと、

映し出している映像を固定するなり、

『急げ、

 モンスターをでっちあげるんだ』

というスケの声が響くと、

『そんなこと言ったってどれにするだよ』

カクは声を上げた。

『どうせ、クレア様の暇つぶしに付き合うんだ。

 てきとーでいいんだよ、

 てきとーで!!』

『てきとーっていっても、

 なんでも良いってモノじゃないだろう』

『ったくぅ、

 それくらい、自分で判断しろよ』

カクとのやり取りにスケが切れ掛かったとき、

たまたま堤防の上に駐車してある宅配便の配送車を見つけると、

『よしっ

 アレにしよう』

とスケは宅配便の配送車を指差した。

『あれか?

 判った』

『二人同時で狙うんだぞ!』

『おっけー』

その声と同時に

ギュッ

スケとカクは互いの手を取り、

ムンッ!!

気合を込めると、全身の筋肉を盛り上げる。

そして、

バッ

空いている片方の腕を空に掲げると、

『スケサンダー!!』

『カクサンダー!!』

と声を張り上げた。

すると、

ビシャァン!!

天空より2本の稲妻がスケとカクが掲げた腕目掛けて走り、

そして、それを受け止めた二人は

掲げた腕に力が宿るのを感じつつ

『ガーディアンの美しき想いがっ』

『女神クレアの希望となるっ』

と叫び、オーラを吹き上げる腕を大きく構えると、

『スケ・カク!!』

『マーブルサンダー!!!』

その掛け声と共に握っていた手を大きく開き、

一気に突き出した。

すると、

カッ!!

一瞬の閃光を輝かせ、

ズドォォォン!!

スケ、カクの腕より噴出したオーラの流れが渦巻きながら

宅配便の配達車へ向けて闇を切り裂いていく。



「あの…

 なぁんにも出てきませんけど」

リーリー

秋の虫が無く川原で翼は不審なものを探しながら翼はポツリと言うと、

『………』

翼の前のに立つ異形の者は黙ったまま宙を見つめていた。

「?」

その様子に翼が首をかしげていると、

コクリ

スケ・カクから送られてきた合図を見たクレアは頷き、

『きっ来ます、

 もぅすぐ

 ほらっ

 すぐそこにまで、

 伝説の勇者であるあなたにはわからないのですか?』

と体中を震わせながら訴えた。

「え?

 えぇ?」

クレアの様子に驚きながら翼が振り返ったとき、

カッ!!

ガラガラガラ!!

突然、雷光が川原に落ちると、

間髪いれずに閃光が走った。

すると、

ドゴォォォン!!

堤防のほうより爆発音が響き渡ると、

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

不気味な影がむっくりと起き上がり、

そして、

”ふぁぁぁぁぁ!!!

 もんすたぁぁぁぁぁ”

の掛け声と共に配送トラックの姿をしたトラック・モンスターが姿を見せた。

「なっ何だあれは!!!」

トラック・モンスターのその姿に翼は目を剥くと、

『きゃぁぁぁ!!

 あれです

 あれです。

 うわぁぁぁ』

火がついたようにクレアは泣き声を上げ、

そして翼の手に顔を伏せる。

「そっそんな…

 あっあれが…
 
 クレアが言っていたモンスターなの?

 で、ぼっ僕に一体…どうしろって…」

ズシンズシン

堤防を降りてきたトラックモンスターの姿に翼はオロオロしていると、

『お願いです。

 勇者殿、変身をして戦ってください。

 あなたなら出来ます』

いつの間にか翼の傍に来ていた

クレアのガーディアン・スケ・カクの二人が懇願をする。

「え?

 変身って、僕がぁ?」

スケ・カクの言葉に翼は顔を真っ赤にして驚くと、

『こっこれを…

 このリングを…

 シルバーストーンの力を封じ込めたこのリングを
 
 あなたの右手の薬指にはめてください』

とクレアは先ほどのリングを翼に差出し告げた。

「へ?

 こっこれを?」

クレアからリングを受け取った翼は胡散臭そうな目で見つめていると、

”もんすたぁ!!!”

ぶぉぉぉぉっ!!

トラックモンスターはエンジンを全開にするなり翼に向かって突進してくる。

「うわぁぁぁ!!

 走ってきたよ」

『だから早く変身を!!』

「そんなこと言ったって」

『だからぁ!!』

追ってくるモンスターから翼は必死で逃げ回り、

その一方でクレアは幾度も変身を促した。

しかし、肝心の翼は逃げ回るだけで精一杯の有様。

すると、

『えぇい、

 もぅ

 さっさと往生しろや、ゴルァ!!!』

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、

クレアは怒鳴り声をあげると、

スルリ…

翼の手より逃れ、

シュパッ

リングをひったくると、

スポッ!!

強引に翼の右手の薬指にはめさせた。

そして、

『さぁ、あたしと声を合わせて!!』

と怒鳴りながら、

『シルバー・トランス・フォーメーション!!』

クレアと翼、二人で変身の呪文を声を上げた。



その直後…

シュパァァァァ!!

翼の指にはめられたリングが銀色の輝きを発すると、

ズドン!!!

たちまち翼は銀色の光に包み込まれる。

そして、

翼を包み込んだ光はその体を一気に天界へと運び、

一際強く輝いた。

『え?

 うっわぁぁぁぁぁぁ!!
 
 なっなんだ…
 
 ここは?
 
 どこなんだよっ
 
 うっ
 
 かっ身体が
 
 身体が!!
 
 いててて!!
 
 引っ張られる。
 
 潰される。
 
 うぎゃぁぁぁ!!!
 
 たっ助けてくれぇぇぇぇ!!!』

瞬間的に天界へつれて来られた翼は周囲の変化に驚くが、

しかし、それに驚いている暇も無く、

着ていた制服が瞬く間に消し飛んでしまうと、

続いて襲ってきた激痛に悲鳴を上げた。

「なっなんだよぉ

 なんで、こんな目に遭うんだぁぁぁ!!!」

しゅるしゅるしゅる

短く刈り上げていた髪を伸びてくると、

ググググググ…

柔道部でそれなりに鍛えてきた翼の身体はまるで粘土の如く潰され、

そして引き伸ばされ、

まさにこの世の有りとあらゆる苦しみが一度に襲ってきた。

「うぐわぁぁぁ!!!」

その苦しみの中、翼の体が次第に引き締まっていくと、

身長は少し小さくなり、

また少々胸板が盛り上がっていた胸には2つの膨らみが姿を見せる。

そして、窪みが出来ていたヒップの周りが張り出してくると、

伸びていた髪がきれいに纏め上げられ、

翼のシルエットは次第に女性のシルエットへと変化していった。

そして、そのシルエットが完成の域に達すると、

シュシュシュシュ!!!

周囲より一斉に光が翼の体へと集まり、

その体に新しい衣装を形作った。

こうして変身が終わると、

一気に翼は下界へと落下し、



ズドォォン…

川原に吹き上がる銀色の光柱より銀色をベースにした動きやすい装束を輝かせながら

一人の少女が飛び出してくると、

ゲシッ!!

迫るモンスターに向かって一撃を食らわせる。

”もんすたぁ!!”

フロントの下を蹴り上げられたトラックモンスターは大きくのけぞり、

そのまま横転をするが、

しかし、すぐに体勢を持ち直すと、

ズシンっ

まるで四股を踏むかのように構え直す。



一方で、

スタッ

淡い青色の髪を左右に分けそれを小さなリング状に結い上げた少女は

トラックモンスターを間合いを取るようにして立つと、

ビシッ!

モンスターを指差しながら、

「神託戦士・イシュタル参上!!

 人々の平和を乱すモンスター、
 
 このあたしが成敗してあげるわ!!!」

と口上を叫んだ。

『きゃぁぁぁ!!

 パチパチパチ!!』

それを聞きいたクレアが拍手喝さいを浴びせると、

「え?

 なっなに?

 いま、僕
 
 何を言ったんだ?

 なにこれ?

 僕…変身したの?

 やだ、

 足がスースーするし

 うわっ
 
 スカート!!!

 それに、

 うわっ胸があるよ!!!

 それに
 
 なっ無いよぉぉぉ!!!

 え?

 えぇ?

 僕、女の子になっちゃったの?」

モンスターと対峙していたイシュタルがふと何かに気が付くと、

突然内股になり、顔を真っ赤にしながら防具に覆われた胸と

ひざ上までのスカートが巻き付く股間を押さえはじめた。

そう、このイシュタルの正体はあの翼が変身したものであった。

『もぅ、なにをしているんです。

 さっさとモンスターを倒しなさい』

イシュタルに変身した翼の頭の上からクレアの苛立った声が響くと、

「え?

 クレアさん?

 どっどこに居るの?」

イシュタルはクレアの姿を求め探し始めた。

『もぅ

 あたしのことは構わないで、

 いいですか?

 いまあなたはわたくしの力の源であるシルバーストーンの力を借りて変身しているんです。

 大丈夫です。

 存分に戦って、あのにっくきモンスターを倒してください』

と嗾けるが、

「え?

 いきなり戦えなんていわれても、
 
 その…

 あのぅ

 どうやって戦うのですか?

 なにか必殺技とかないのですか?」

イシュタルはクレアに聞き返した。

『ちょちょっと、

 いきなり必殺技とはどういうことですか』

「だぁって、

 さっさと必殺技でやっつけたほうが早いでしょう?」

『あのねっ

 出たとたんに必殺技を使っては間が持たないでしょう、
 
 少しは焦らすのです』

「えぇ…!!」

『えぇ!!

 じゃありませんっ』

「だぁって、

 あんな化け物相手に丸腰で戦えって言うんですか?」

『当たり前です。

 伝説の勇者・イシュタルは無敵なのです。
 
 どんなモンスターにも勇敢に戦うのがイシュタルの役目なのです』

「そんなこといっても…

 まさか素手で戦え。て言うわけじゃぁ…」

『はいっ、そのとーりです』

「は?」

あまりにもストレートなクレアからの返事にイシュタルの目は点になると、

「あっあのぅ…

 それってマジっすか?」

頬をポリポリと掻きながらつぶやいた。

しかし、その間にも、

”もんすたぁ!!”

イシュタルの前に立ちはだかるトラックモンスターはさらに迫り、

グィン!!

後輪だけで立ち上がると、

右腕に相当する右側の前輪を大きく振りかぶった。

『来ます。

 避けなさい!!』

その光景にクレアが叫ぶと、

「え?

 うわぁぁぁ!!」

シュタッ!!

イシュタルは思いっきり飛び上がると、

たちまち10m近く上昇し、

”もんすたぁ!!”

と叫びながら前輪を振り下ろすモンスターの屋根に一度タッチした後、

その反対側に降り立った。

「ひょぇぇぇ!!
 
 あそこからあっという間に…

 すごい」

わずか一瞬のうちにトラックモンスターの反対側に降り立ったことにイシュタルは驚くと、

『だから大丈夫だって言ったでしょう』

とクレアの声。

「あっあのですねぇ」

そのクレアに反論するかのようにイシュタルは声を上げると、

”もんすたぁ!!”

ごわぁぁぁ!!

イシュタルを再確認したモンスターは砂埃を上げ瞬く間に切り返しを行い、

猛然と突進してきた。

「うわぁぁ!!

 来たよ!」

突進してくるモンスターにイシュタルは一目散に逃げ出すと、

『あっこらっ

 何をしているのですイシュタルっ

 戦うのです』

とクレアはイシュタルをたしなめるが、

「いっいやだぁぁぁ!!」

イシュタルは泣き叫びながら走り続ける。

『だめぇぇぇ!!』

”もんすたぁ!!”

イシュタルは文字通り脱兎のごとく走り、

そして、その後を追ってモンスターが追いかけていた。



はぁはぁ

はぁはぁ

「なんで、

 なんで、僕ばっかりこんな目に…」

目から涙を流しながらイシュタルは堤防の上を疾走し、

そして、その頭の上からは、

『何を逃げているんですっイシュタル!!

 逃げないで戦いなさぁいっ!!』

とクレアの怒鳴り声が響き渡るが、

しかし、一刻もこの状況から脱出したいイシュタルにとってはその声は聞こえないも同然だった。

ところが、

「え?」

逃げるイシュタルの視界に堤防を歩く望の後姿を捕らえられるのと同時に、

ヒュンッ!!

一瞬のうちに彼女の横を通り過ぎると、

「あっ望さん?」

ズザザザザザザ!!!

イシュタルは足元から煙を噴き上げながら向きを反転した。

そして、歩く望の後方からトラックモンスターが接近していく様子が見えると、

「まずい!!」

イシュタルは声を上げ、駆け戻っていく。



「さーて、

 どうしようか…
 
 うーん」

月明かりを受けながら堤防を歩く望は

近づいてくる新体操の大会に出場させる選手の人選について悩んでいた。

「はぁ…

 キャプテンというのも大変よねぇ
 
 こんなことにまで悩むだなんて…
 
 あーぁ、選手の方がよかったなぁ…
 
 自分の技術のみに専念できるし」

ため息にもにた愚痴を言いながら望が歩いていると、

ヒュンッ!

「きゃっ(ドタ!!)

 痛ーぃ」

一瞬のうちに自分の横を何者かが通り過ぎ、

そしてそれによる突風をまともに受けた彼女は

そのまま尻餅をついてしまった。

「え?

 なっなに?

 なんかいま、人が通り過ぎたような…」

突然のことに望は呆然としながら眺めていると、

ごわぁぁぁぁ!!!

”もんすたぁ!!”

という叫び声と地響きを上げながら

今度は異様な怪物・モンスターが自分に向かって迫ってきているのが目に入った。

「なっなによ、

 あれ…」

あまりにも奇怪なその姿に望はその場から逃げ出さず、

ただ唖然として見つめていると、

グングンとトラックモンスターは望に近づいてくる。

そして、モンスターが間近に迫ったとき、

「はっ!」

望は持ち前の運動神経でモンスターをかわし、

クルン

スタッ!

体操部張りの空中回転で堤防の斜面に着地する。

一方、そのシーンを見たイシュタルは

「あぁっ

 望さんっ!!」

トラックモンスターが望を撥ねたように見えたため、

「おのれ!!」

湧き起こってきた怒りに開いていた両手を握り締めると、

「ごらぁぁぁぁ!!

 望さんに何をしたっ!!」

と怒鳴りながら

シュタタッタッタッ!!

猛然とトラックモンスターに向かってダッシュをすると、

タンッ!!

勢いよく飛び上がり、

ドガァァン!!

モンスターの真正面に強烈な蹴りを入れた。

そして、蹴りを入れた後、

ガンッ!!

開いていた片方の足でモンスターを蹴り上げると、

シュルン!!

シュタッ!!

体を回転させながらモンスターから離れ、

大きくのけぞるモンスターの前に立ちはだかった。

「え?

 女の子?」

奇怪なトラックモンスターの前に立ちはだかる少女の姿に望は驚いていると、

キッ

少女は望のほうを向くなり、

「スグにここから逃げなさい!!」

と望に命じた。

「え?

 あっはっはい」

少女の言葉に従い、望が逃げ出そうとすると、

”もんすたぁ!!”

トラックモンスターはその行く手を遮ろうと、

ごわぁぁぁ!!

タイヤをきしませ、堤防の土手を回り込み始めた。

「あっこらぁ!!」

シュタッ!!

トラックモンスターの動きにイシュタルは再び飛び上がると、

げしぃぃぃん!!!

真横を通り過ぎようとしたモンスターの側面に蹴りを入れ、

そして、

「でぁぁぁぁぁぁ!!!」

ズドドドドドドドド!!!

徹底的にモンスターのボディに蹴りと打撃を食らわせた。

その一方で、

『そうだ、

 いいぞ、

 やれぇ!!

 右だ、

 左だ

 そこで蹴りを入れろ、

 やれぇぇ

 徹底的にやれぇ』

執拗な攻撃を繰り出すイシュタルの耳元では

宙に浮きつかず離れずの位置にいるクレアが盛んに煽りを入れ、

そして、その煽りにイシュタル自身も攻撃をヒートアップさせていった。

ゲシッ

ガツン

ドガッ!!

”もっもんすたぁ〜”

イシュタルの猛攻にモンスターは次第に弱っていくと、

ついに、

ドガン!!

大きな音を上げてすべてのタイヤを地面につけ、

ついに身動き出来なくなってしまった。

「よしっ」

それを見たイシュタルは

シュタッ!!

ぐったりとするトラックモンスターの前に降り立ち。

ビシッ

モンスターを指差すと、

「邪悪なものっ、

 ここはお前の世界じゃないよっ

 さっさと自分の世界に帰りなさい」

と怒鳴りながら、

ハッ!!

パンッ

拍手を打つように両手を合わせ、

そして、気合を込めた後、

「食らえっ!!!

 イシュタル・バースト!!」

の掛け声と共に右腕を大きく振りかぶり、

空手の瓦割の要領で地面を叩いた。

その瞬間。

ズシンッ!!

イシュタルの足下よりトラックモンスターめがけて衝撃波が走り、

”もんすたぁぁぁぁぁ!!!”

その直撃を受けたモンスターはかき消すように消えうせてしまった。



「…………」

静寂があたりを包むなか、

「はっ

 あっあれ?
 
 モンスターは…」

イシュタルは我に返ると、

さっきまで目の前にいたはずのモンスターが消え

代わりに無人の配送車が堤防の上に鎮座していた。

いきなり変わった場面にイシュタルはパチクリしていると、

「あのぅ…」

っと背後から望の声が響いた。

「え?」

その声に驚きながらイシュタルは振り返ると、

「あっのぞ…」

とまで言いかけたところで

眼下に見える自分の姿にハッと気づき、

そして口を覆いながらその先の台詞を飲み込むと、

「ごっごめんなさい!!!」

と叫び声をあげながら一目散に逃げ出してしまった。



はぁはぁはぁ

「うわぁぁぁ!!!

 望さんに僕のこんな姿を見られてしまったよぉ!!」

泣き叫ぶイシュタルはいつの間にか変身が解け、

元の翼の姿で月が照らし出す堤防の上を走り続けていたが

しかし、肝心の翼自身はあの姿を望に見られたことに対する恥ずかしさでいっぱいだった。

そしてその肩の上にはあのクレアが気晴らししたような表情でちょこんと座り、

夜風を思いっきり受けている。

すると、

ポンッ!!

小さな爆発音と供にあの老紳士・モーリアが姿を見せると、

『クレア様っ』

と話しかけてきた。

『あら…』
 
『いかがでしかか?

 少しは気晴らしになりましたでしょうか…』

『うんそうねぇ…

 面白かったわ…

 でも、なんか遊び足らないの。

 ねぇ、スケとカクに今度はもぅ少し上のモンスターを出してくれるように言って』

とクレアはモーリアに伝えると、

『はっ、

 かしこまりました』

モーリアは頭を深く下げ、

ポムッ

爆発音と共に姿を消した。

『ふふっ

 しばらく付き合ってもらうわよ、

 翼君っ』

老紳士・モーリアが姿を消した後、

クレアはそうつぶやくと、

ポン

と翼の肩を叩いた。

しかし、肝心の翼はそんな陰謀が張り巡らされていることなど

つゆ知らずただひたすら走り続けていた。

絶望と希望が混ざり合う明日に向かって…



つづく