風祭文庫・ヒーロー変身の館






「神託戦士イシュタル」
(第1話:女神の降臨)



作・風祭玲


Vol.526





カチン…

コチン…

カチン…

コチン…

白銀の明かりがほのかに照らし出す部屋の中を、

壁に掛かる柱時計が奏でる規則正しい音が支配している。

カチン…

コチン…

カチン…

コチン…

「ふあぁぁぁぁ〜っ」

その支配を崩すかのように女性の声が響き渡ると、

ぐぃぃぃん!!

2本の白い手が勢い良く伸び、

「あー退屈退屈…」

と言う声と共に銀色の髪の毛に覆われた頭をクシャクシャと掻きながら

不満を鬱積したような表情の女性がむっくりと起き上がる。

「う〜…

 いま何時ぃ?」

歳は20歳くらいだろうか、

腰まで伸びる銀色の髪を真珠色のドレスに絡ませ

どよぉぉぉん

とした眼で女性は時を刻む時計を眺めると、

「はぁぁ…

 なによ、まだこんな時間なのぉ!」

彼女が期待していた時間とは程遠い時を差す時計に

女性はがっくりとうな垂れると

「はぁ…

 退屈で死にそう…」

と文句を言いながら、

バフッ!!

豪華な装飾が施されているベッドに突っ伏した。

すると、

コンコン!!

そのタイミングを見計らうかのように部屋のドアがノックされ、

「モーリアです。

 お起きになられましたか?

 クレア様…」

と言う男性の声がドア越しに響いた。

「ん?

 あぁ、モーリア。
 
 ちょうどいま起きたところよ」

モーリアの声にクレアと呼ばれた女性は、

すべるようにしてベッドから降りると、

ササッ

乱れた髪とドレスを軽く整え、

可憐な花が咲き競う花瓶が於いてある丸テーブルの席に着く。

すると、重厚そうな部屋のドアが開き、

湯気が上がるティーポットと空のティーカップ1つが載った銀の盆を持つ

執事姿の老紳士・侍従のモーリアが部屋に入ってくると、

「良質のダージリンティが手に入りましたのでお持ちしました」

優しく声をかけけながらテーブルの上においてある花瓶に手を触れた。

その瞬間、

ポンッ!!

いまさっきまで数々の花が咲き誇っていた花瓶があっと言う間に

純白のテーブルクロスに変化すると、

テーブルいっぱいに広がり、

クレアに向けて大きな花の絵を向ける。

けど、

「ふぅ…」

そのような事が目の前で起きてもクレアは目を輝かせることなく、

「モーリア、退屈なのです
 
 何か面白い事はないのですか?」

とモーリアに尋ねる。

「退屈…ですか?」

「えぇ…

 もぅ死にそうなくらい…
 
 はぁ…
 
 何か面白いことは無いのでしょうか?」

モーリアに向かってクレアは訴えかける目でそう言うと、

「ふむっ

 そうですな」

彼女の言葉にモーリアは大きくうなづき、

そして、

ササ

手早くクレアの前にティーの支度を整えた後、

「では

 久方ぶりに下界へ降りてみてはいかがですか?

 気晴らしになるかと思いますが」

と提案をした。

「下界へ?」

モーリアの言葉と同時にクレアの瞳が光ると、

「はいっ

 クレア様が前回下界に降りられてから大分経ちますし、

 それに下界もすっかり様変わりしていると聞いております」

コポコポ…

ティーカップへ飴色に光る紅茶を注ぎつつ、

モーリアは言葉静かにそう告げる。

「うん…

 そうですわね。

 久方ぶりに降りてみましょうか、

 でも、わたくしが降りるからには

 それなりの理由がないと…」

紅茶の香りが仄かに上がるティーカップを持ちながらクレアは思案すると、

「!!」

何かを思いついたのかその目が大きく開き、

「そうですわ…

 わたくしが、邪悪な者に追われている。

 というのはどうでしょうか?」
 
と逆に提案をした。
 
「邪悪な者…ですか?」

クレアからの突拍子もない提案にモーリアは目を白黒させると、

「そうです。

 邪悪な者が放った魔物にここを追われわたくしが、

 そして、下界で共に戦ってくれる伝説の勇者を探す。

 そうねぇ…勇者の名前は何にしましょうか…」

クレアは思案をめぐらせると、

キラッ

さっきまで自分が突っ伏していたベッドの頭元で光るリングに目が行くと、

手を伸ばしてそれを拾い、

そして、手の上で転がるリングをじっと見つめながら、

「イシュタル…」

クレアはそうつぶやくと、

「うん、

 イシュタルが良いですわ、

 女神であるこのわたくしが託す戦士…イシュタル…

 神託戦士・イシュタル…
 
 あぁ、なにかとても楽しめそうですわ」

リングを握り締めながらクレアは自分の脳裏にストーリーを組み立てる。

そして、すべてが組みあがったとき、

クレアは希望に満ちた目を光らせながら勢い良く立ち上がると、

「モーリア、出かけます。

 スグに支度をしなさい。

 贄の絞込み。

 それとガーディアンの人選も」

と張りのある声を響かせた。



キーンコーンカーン…

学園の中央部にそびえる時計塔校舎より鳴り響くチャイムの音を聞きながら、

「ちくしょう!!

 もぅこんな時間だぁ…!!」

新庄翼は叫び声をあげ、

肌蹴ているYシャツのボタンをつけながら廊下を走る。

「くっそぉ…

 こんなことなら部活休めばよかった。

 部長めっ

 声を掛けてきたと思ったら、

 あんなに雑用を押し付けやがってぇ!!

 くっそぉ!!
 
 望さん!!
 
 ごめんなさぁぁいっ
 
 もぅ少し、
 
 もぅ少しの間待っててくださーぃ」

廊下の窓から見える時計塔校舎に掛かる時計をちらりと見た後、

翼は訴えかけるように叫び、

全速力で駆け抜けていった。

しかし、

「遅い!!

 このあたしを10分も待たせるだなんて、

 どういう神経しているのよ」

正門横”銀の鈴”で先に待っていた東海林望は

到着した翼に向かって開口一番怒鳴り声を上げた。

「ごっごめんなさいっ

 急いだんだけど…」

望の剣幕に翼はひたすら頭を下げるが、

「まったく…

 清美たちがうるさいから、
 
 わざわざ練習時間を切り上げて時間を作ってあげたのに
 
 待たせるだなんて、いい根性ね」

新体操部・キャプテンを務める望は嫌味たっぷりに

翼に向かってそう言うと、

「もっ申し訳ありません」

直ちに翼は頭を下げる。

が、しかし、

「ふぅぅん、

 あなたが時間にルーズだってコト良くわかったわ、

 もぅいいっ
 
 時間の無駄だったわ、

 こんなことなら新人の勧誘でもしていたほうがマシよ。

 まったく、こっちは大会を控えて猫の手も借りたいくらいなのに

 もぅいいっ
 
 あたし帰る!!」

翼に向かって望はそう言うなりカバンを手に取った。

「え?

 そんなっ
 
 だから遅れた事は謝るって」

「あのねっ

 謝るもなにも、

 約束を破る人って
 
 あたしっ
 
 大っ嫌いなの。

 さよなら」

困惑顔の翼に向かって望はそう言い放ち、

スタスタと歩き始めてしまった。

「まっ待って、

 謝る。

 本当に謝る。

 でも、仕方が無かったんだよっ

 部活の意地悪な部長が…」

歩き始めた望に翼は縋りながら言い訳をすると、

ピタッ

望は足を止め、

「あのねっ

 そうやって自分の失敗を人のせいにするのって、

 あたしがもっとも嫌いなのっ

 そういうことも判らないであたしに交際を申し込んだの?

 あーぁ、幻滅ぅ

 もぅ、ついてこないでよっ

 あんたの顔を見るだけでムカつくのよ」

後を追いながら必死に弁明する翼に止めを刺すかのように、

望はそう言い放つと、

「(グサッ!)そんな…」

その言葉に翼は呆然と立ちすくんでしまった。

そして、涙でかすむ視界の中、

望の姿がゆっくりと消えて行くと、

「ふむ」

「完璧なる玉砕か」

「だーから、やめとけって言ったのに…」

「大体、新庄が新体操部キャプテン・東海林望に交際を申し込むこと

 そのものが間違いなんだよ」

「しかし、東海林さんも残酷だよなぁ…

 面等向かって”くるな。”なんてな」

「まぁ、君にはあの田口さんがお似合いだと思うけど」

「あはは、

 あのうちの部長の彼女か?

 そりゃぁお似合いだ」

「そーだな、さらに磨きが掛かったあの巨体なら、

 投げ技から寝技、そして癒しまで
 
 さまざまなバリエーションで柔道の特訓が出来るぞ」

翼の背後よりニョッキリと生えるがごとく姿を見せた柔道着姿の男子柔道部員達が

口々にそういうと、

ポンポンポンッ!

差し出された複数の手が一斉に翼の肩に乗せるが、

その直後、

「うっうるさーぃ!!」

翼は怒鳴り声があげるものの、

しかし、その声は涙声になっていた。



とぼ

とぼ

それから約1時間後…

がっくりと肩を落としながら、翼は堤防上の道を歩いていた。

陽はすでに没し、さっきまで茜色に染まっていた空を夜の闇が覆い隠そうとしている。

「はぁぁぁぁ〜っ」

歩きながら翼は大きくため息をつくと、

今日に至るまでの経緯を思い返していた。

…学園のマドンナでもある望との約束を取り付けたときの喜び。

…彼女の好みに合わせるための様々な努力。

…ところが、稽古に出なくても日ごろ見て見ぬ振りをしていた部長からの呼び出しと、

 予想外の雑用…

「くっそぉ…

 誰の陰謀だ?
 
 部長を裏で焚き付けやがって」

開いていた手をぐっと握りしめながら翼はそう呟くが、

しかし、翼自身、

望から受けた痛烈な一撃からまだ立ち直っておらず、

自分の顔を上げるパワーすらも消えうせていた。

そして、いつの間にか、

翼に向かって昇り始めた月が優しく明かりを放ち始めていた。

「神様…

 どうして、そんな意地悪をするのですか?

 これだけ意地悪をしたんだから、

 たまにはいい思いをさせてくださいよ」

ふと立ち止まった翼は

迫る闇を押しのけるかのように銀色に輝く月を恨めしそうに見ながらつぶやくと、

キラッ!!!

その月より小さな光点が飛び出し、

そして、ユラユラと夜空を漂い始めた。

「ん?

 何だあれは?」

”飛ぶ”というより、

”舞う”といったほうが似合っているその光点の姿に、

翼は足を止め、しばしの間、見とれていると、

ムクムク!!

揺らめく光点は少しずつその大きさを大きくし、

次第に翼に向かって迫ってくるかのように見えた。

「ん?

 なっなにかな?

 なんか迫ってきているように見えるけど、

 きっ気のせいかな?」

目をこすりながら大きさを増す光点を翼は幾度も見直していると、

シュォォォォン…

何か物体が空を切る音が翼の耳に届きはじめた。

「え?」

すると、さっきまで水滴を垂らしたような小ささだった光点が

瞬く間にバレーボール大へと膨らみ、

間違いなく翼に迫ってきているのが目で見てわかる。

「え?

 え?

 え?

 いっ隕石ぃぃぃぃぃ!!!」

自分に向かって迫って来る光点の姿に

ペタン!!!

翼は思わず腰を抜かしてしまうと、

スグに

「にっ逃げなきゃぁ…」

と叫びまがらアタフタと這いずるようにして逃げ始めた。

しかし、

しゅごぉぉぉぉぉぉぉ!!!

翼に向かって落ちてくる光点はさらに膨れ、

まるで翼を飲み込むかのごとく迫ってきた。



「うっうわぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 いやだ、死にたくないよ!!!

 ぼっ僕はまだやることがあるんだぁ!

 望さんとお付き合いが出来ないこのまま、
 
 死ねるかぁぁぁぁ!!!」

滝のような涙を流し

そして鼻水を噴出しながら翼はそう叫んだ後、

迫る光に対して本能的に身を庇う。

そして、その直後、


ドォォォォォォォォォン!!!!


翼のすぐ近くに隕石が落下したのか、

大音響の爆発音とともに爆風が翼に襲いかかり、

「うわぁぁぁぁ!!!」

身を庇う翼を翻弄するかのように吹き飛ばしてしまった。



『…モーリア』

『はい』

『この者がわたくしが求める者ですか?』

『はい、その通りでございます』

…だれだ?

『大丈夫なのですか?』

『えぇ…

 知力・体力・時の運。
 
 若干周期にブレもございます上に、
 
 現在、ドン底の状態ではありますが、
 
 ほぼクレア様の希望を叶えるスペックがあるかと』

…うっドン底だってぇ

 腹立つな

 一体だれなんだよ。
 
 こんな適当な事をいう奴は!!

『ふぅぅん、

 まぁ確かに冴えない顔をしていますが、
 
 本当に大丈夫なのですか?』

『はい

 このように冴えない者だからこそ、
 
 意義があるのです』

…なっ、なんだお前等

 ぼっ僕をバカにするのかっ

さっきから聞こえる自分を馬鹿にするかのような声に

ついに腹を立てた翼は

「うるせー!!!」

と思いっきり怒鳴りながらガバッと起き上がったが。

しかし、そんな彼の目に真っ先に入ってきたのは星が瞬く夜空だった。

「あっあれ?

 誰かの声が聞こえていたような…

 ん?
 
 ん?

 いっいったい…
 
 確か、隕石が…
 
 (はっ)
 
 そうだ、隕石!!
 
 警察に連絡をしないと」

爆風で吹き飛ばされたのか、

さっきまで歩いていた堤防の下、

川原との境目で倒れていた翼は頭を抑えながら、

立ち上がろうとしたとき、

『もしっ

 そこの人間!』

と翼を呼ぶ女性の声が背後で響き渡った。

「え?

 女の人の声?」

突然の声に翼はびっくりしながら自分の周囲を見渡すが、

しかし、360度見回しても翼に声を掛けた女性の姿を見つける事が出来なかった。

「あれ?

 確か声がしたはずだけど」

首をかしげながら翼が堤防を見ていると、

『どこを見ているのです。

 こちらです。

 こちら!!』

と再び声が響いた。

「こちらって言われても…

 いったいどこ…

 って…え?

 うわぁぁぁぁ!!」

声に導かれるようにして翼が自分の後ろを見たとき、

その視野に入った者の姿に思わず腰を抜かしてしまった。

すると、

『こらぁ!!

 貴様っ

 なんだその態度は!!

 えぇいっ
 
 控えおろう!!

 このお方を何方と心得る。

 恐れ多くも天界よりご降臨なされた女神・クレア様なるぞ!
 
 頭が高いっ
 
 控えおろう!!』

と女性の両脇から二人の男達が飛び出してくるなり、

翼に向かって怒鳴り声を張り上げる。

「へ?

 クレ…ア?」

男達の言葉に翼は驚きながらも、

目の前に進み出た銀色の髪に古代ギリシャ風の真珠色のドレス翻す一人の女性と、

その女性を警護するかのようにしてヘラクレスの様な体格の男性二人をしげしげと見つめた。

すると、

『これ、スケにカク、

 あまり堅苦しい事を言うでない』

翼の驚いた表情を見た女性はさりげなく男達に注意をすると、

『はっ、

 申し訳ございません』
 
『しかし、我らはクレア様をお守りするのが
 
 使命でございますので』

スケ・カクと呼ばれた男達は女性に向かって片膝を付きながら弁明をする。

『判っております。

 でも、初対面でいきなり怒鳴りつけるのは如何なものかと…

 さて、わたくしのガーディアンが迷惑をかけてしまいましたコトをお詫びします。

 ところで、あなたの名前を聞いてはいませんでしたが
 
 名は何と申しますのか?』

とクレアと名乗る女性は優しく翼に名前を尋ねた。

すると、

グググググ…

いきなり巨大な手が空よりクレアに迫ってくるなり、

『へ?

 うっ
 
 きゃぁぁぁぁ!!!』

響き渡る悲鳴と共に、

巨大な手はムンズとクレアの体を掴みあげ、

そして高々と持ち上げられてしまった。

『こらっ

 貴様っ』

『クレア様に何をする!』

突然の拉致劇にガーディアンのスケとカクは怒鳴り声を上げるが、

しかし、そのときには彼らが守護すべきクレアは

彼らの手の届かないところへと高々と持ち上げられた後だった。



『ぶっぶっ

 無礼者!!!

 いきなりなっなにをするっ!!』

巨大な手に体を掴まれたクレアは自由に動く腕で叩きながら抵抗をすると、

「うわぁぁぁ!!

 なんだこれぇ」

と言う言葉とともに巨大な翼の顔が彼女に迫った。

『きゃぁぁぁ!!』

迫る顔に思わずクレアは悲鳴を上げると、

『この、この、この』

力の限り必死の抵抗を試みる。

そう、翼の前に降り立ったクレア他2人の身長は

翼から見ればが手のひらサイズ…

5cmほどにも満たない小人であった。

「へぇぇぇ

 こういうのって妖精って言うんだよな、

 でも本当にいたんだ…

 あっそういえばさっき女神とか言っていたよなぁ」

物珍しそうに翼はクレアを見回しながらそういうと、

『うっうわぁぁぁ

 たっ食べないで、

 わっわたくしは美味しくは無いですよ』

とクレアは恐怖に慄きながら命乞いをはじめだした。

「あははは…

 食べやしないよ」

クレアの絶叫に翼はそう返事をすると、

『そっそうなのか?』

安心したのか、クレアは少しホッとした表情をした後、

『あっそうだ』

何かを思い出した表情をした後、

改めて翼を見つめ、

『あなたに頼みがあります』

と切り出した。



「僕に頼み?」

クレアからの言葉に翼はきょとんとすると、

『はい、

 わたくし達はいま邪悪な者・ザ・ケルナーに天界を追われ、
 
 この窮地を救ってくれる伝説の勇者を探しているところなのです』

と翼に事情を説明し始めた。

「邪悪な者?」

『はいっ

 ザ・ケルナーは天界にてわたくしが守っているこのシルバーストーンを狙い、
 
 戦いをしかけてきたのです』

クレアはそう説明をしながらクレアから見て巨大なリングをかざす。

「指輪?」

クレアのリングを見ながら翼はそうつぶやくと、

『はい』

クレアは大きくうなづき、

『ザ・ケルナーはわたくし達の不意を突いて襲い、

 その為、どうすることも出来なく、
 
 わたくしはこのリングを持って地上に逃げてきたのです。

 わたくし達の窮地を救ってくれる伝説の勇者を求めて…』

「それは、大変なんですね」

彼女が説明する事情に翼は同情しながらそういうと、

キラッ

クレアは希望の光を眼に点しながら、

『でも、その放浪の旅もようやく終わりを告げる事ができました』

と言い切った。

「あっそうなんですか」

『はい、

 やっと巡り会えたのです、伝説の勇者に…』

「え?

 そっそうなんですか
 
 それは良かったですね」

『えぇ』

クレアのその説明ににこにこ顔で翼は返事をしながら、

「じゃぁ、

 僕は大切な用事があるのでこの辺で…」

と言って、クレアを地面に置き、

そして腰を上げようとしたとき、

『お待ちなさいっ!!』

翼を引き留めるクレアの怒鳴り声が響き渡った。

「へ?」

クレアの声に翼は身体を止めると、

『お願いです。

 ぜひ…

 困窮の極みにある私たちをお救いください。
 
 伝説の勇者様』

と縋るようにして言い、

そして、それに合せるかのように

スケ・カク二人の従者も笑みを浮かべて

『お願いします』

といいながら頭を下げた。

「え?

 えぇ…伝説の勇者って僕が…ですか?」

3人の声に翼は戸惑うながら自分を指差すと、

『はいっ

 あなた様です』

とクレアは満面の笑みをたたえそう告げる。

「はぁ…」

ニコニコ顔のクレアと

同じように笑みを浮かべる従者のスケ・カクを翼は見下しながら、

「あのぅ」

翼はクレアに尋ねると、

『はいっ

 何でしょう』

身を乗り出しながらクレアは聞き返す。

「僕の代わりの人探すから、

 その人に代わって頂けるってコトできます?」
 
そんなクレアに翼は提案をすると、

『ダメです』

即座にクレアは返答する。

「え?

 だめですか?」

『はいっ』

「ってことは、

 僕がその伝説の勇者にならないとだめなの?」

『はいっ

 天界が誇るスーパーコンピュータ・MAG。
 
 そのMAGを構成する3つのコンピュータ・雪・月・花が一致して出した答えは
 
 新庄翼さん、あなたなのです。
 
 この決定には逆らえません」

「てっ天界のコンピュータって…

 あの、それって拒否権あります?」

『ありません』

「どうしても?」

『はいっ

 伝説の勇者はあなた様しかいません』

なにか理由をつけて断ろうとする翼に向かってクレアはキッパリと言い放つと、

「あっ

 UFO!!!」

突然、翼は大声を上げながら夜空の一点を指さし怒鳴り声を上げた。

『え?』

翼の声に全員がその方向を見上げた瞬間。

「いまだ!!」

ダッ!

その瞬間を見逃さずに翼はダッシュで脱兎のごとく逃げ出した。

しかし、

『!!』

翼の脱走にクレアが気づくと、

『(クワッ)逃がすかぁ!!!』

瞬く間に笑みをたたえていたクレアの顔は般若の顔へと変わり、

フワリと空中に浮かびあがると、

スッ!!

銀色の袖に隠れた右手を高々と掲げ、

そして、

『天誅!!!』

の叫び声と共に一気に振り下ろした。

すると、

カッ!!

ビシッ!!!

空の彼方より生じた雷撃が逃げる翼の体を一気に貫くと、

ドサッ!!

雷撃の直撃を受けた翼は煙を噴出しながら崩れるように倒れ、

そのままピクリとも動かなくなってしまった。

『ふんっ

 わたくしから逃げようとするからだ』

動かなくなった翼を見ながらクレアはそうつぶやきながら

スッ

手を上げると、

『はっ!!』

ガーディアンのスケとカクはそそくさと何かの準備を始めだした。

そして、

『ふふっ

 せっかく降臨したのですもの…

 たっぷりと楽しませてもらわなくっちゃ』

カチャカチャ

背後でメカが組み立てられていく中、

クレアの口元がかすかに笑う。



つづく