風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−嵐の予感−



作・風祭玲


Vol.855





『オケラ男よ!!!』

『オケラ男は何所におる!!』

地の底。

闇の底。

鍋の底。

どこかの底にでーんと厚かましく聳え立つゴーストバグのアジト。

そのアジトにゴーストバグを束ねるブンブン総帥の声が響くと、

『はいっ

 ただいまぁ…』

オケラ男は慌てふためきながら参上をする。

『オケラ男よぉ、

 何時になったら我の目的は達成できるのだぁ!!!』

眼下にひれ伏すオケラ男に向かってブンブンは威厳を満ちた声を上げると、

バシャッ!

ブンブンの前で静かに輝く水面は大きく波立ち、

ゴワッ!!

その池の真ん中で燃え盛る青白き炎が大きく揺らいでみせる。

『もっ目的でございますか?』

その声にオケラ男は目を見開き顔を挙げると、

『そうだ、

 我の目的の達成こそゴーストバグの目的。

 まさか、それを忘れたのではあるまいな』

ギンッ!

燃え上がるような目光を輝かせブンブンは迫ると、

『めっ滅相もございませんっ

 ブンブン総帥の目的の達成のため、

 我らは一丸となって日夜励んでおりますぅ』

気迫で迫るブンブンにオケラ男はひれ伏して返事をした。

『で?』

『へ?

 で…ですか?』

『我の目的、

 当然、お前は知っておろうな』

『はぁ?』

ブンブンの口から出た言葉にオケラ男は呆気に取られると、

『オケラ男ぉ!!!』

その直後、落雷を思わせるブンブンの怒鳴り声が鳴り響き、

ゴワッ!

燃え盛る炎はオケラ男を焼き焦がさんと燃え上がった。

『申し訳ございませんっっっ!!!!』

怒鳴り声が鳴り響いた後、

オケラ男は身体を1/10に縮めて許しを請い、

そしてチラリとブンブンを見上げると、

『あの…まことに申し訳ありませんが、

 わたくしめが理解しているのは

 この世界のどこかにあるというゴールデンクリスタルを手に入れ、

 それを総帥の御前に差し出すこと…ですが…

 それ以外になにか』

と恭しく尋ねた。

『むん?』

オケラ男の言葉にブンブンはジロリを睨みつけると、

『誠に申し訳ありません、

 ただ、愚かなわたくしめの思い違いで総帥の御手を煩わせたくは無いのです。

 どうか、ご教授を…』

オケラ男は必死に食い下がる。

すると、

ツイッ

ブンブンは視線を外し、

『ならば、教えてやろう…』

そう言うと、

『さっ左様でございますか、

 して、

 総帥の真の目的とは…』

パァァっと目を輝かせてブンブンは聞き返す。

期待の視線を一身に浴びながら、

『それは、

 アレだ…』

とブンブンは言うだけだった。

『はぁ?

 アレというのは?』

その答えにオケラ男は思わず聞き返してしまうと、

『”アレ”だというのが判らんのかっ!』

ブンブンの怒鳴り声が響き渡り、

『はっ

 ありがとうございます。

 では、大至急、

 ”アレ”

 を実現するためゴールデンクリスタルを手に入れてまいります』

これ以上の質問はブンブンの逆鱗に触れると判断したオケラ男は飛び上がって戻ろうとすると、

『オケラ男!!!』

ブンブンの声が響いた。

『はっ!』

その声にオケラ男は直立不動になると、

『我の目的は?』

とブンブンは尋ねてきた。

『はっ、

 ゴールデンクリスタルを手に入れ、

 ”アレ”を現実のものといたします』

その質問にオケラ男はそう答えると、

『うむ、励め』

ブンブンは満足そうに返すと闇の中へと姿を消したのであった。



ところ変わって大都会の中に聳える高層ビル。

ポーン!!

エレベータホールにチャイムの音が響き渡ると、

「はぁ…

 総帥の相手は肩がこる」

愚痴をこぼしながらスーツ姿の管理職サラリーマン・桶羅が出てくると、

コキコキ

凝り固まった肩を解きほぐしながら自席に戻っていく。

そして、

「あっ桶羅専務!」

桶羅が自席に戻るのを確認した秘書の女性の一人が書類を手に駆けつけてきた。

「ん?

 なにかねっ

 のぞみくん」

ドカッ!

っと席に身を預けて桶羅は用件を聞き返すと、

「先ほどより業屋様がお待ちになっておりますが」

と秘書は桶羅に来客が来ていることを告げる。

「なに?

 それを早く言え!」

来客のことを聞いた桶羅は慌てて立ち上がると、

「商談コーナーのA室でお待ちです」

と言う声に送られて商談コーナーへと向かっていった。



その頃、商談コーナーでは和服姿をした中肉中背の初老の男が

湯気が立つ湯のみを啜りながらまったりと過ごしていた。

ズズズズ…

『はぁ…

 商談前のこのひと時がたまりませんなぁ』

お茶を飲みながら業屋は隣に座る顎長の男に話しかけると、

『何時まで待たせるつもりなんだ!』

と男はイラついてみせる。

『まぁまぁ…

 カリカリすると思わぬところで損をしますよ』

そんな男に向かって業屋は注意をすると、

ジロッ!

顎長の男は業屋を見据え、

『それよりも、

 あっちの方はどうする気だ?』

と問いただした。

『あっち?』

男の言葉の意味が判らない業屋は小首を捻りながら聞き返すと、

『ルインの件だ。

 業屋、言っておくがあの男はリスクが高すぎる。

 肩を入れすぎて手に負えなくなる前に

 適当なところで見切りをつけておく必要があるぞ』

腕を組みながら男は警告をすると、

『ほっほっほっ、

 そうですなぁ…

 損切りだけはしたくありませんなぁ…』

と業屋は何か考えがあるのか口を濁す。

すると、

「お待たせしました」

その声とともに桶羅がやってくると、

『おぉ、

 桶羅専務、いつもお世話になっております』

と桶羅に向かって業屋は頭を下げる。



「え?

 バニーエンジェルのさらなるパワーアップぅ?」

『そっ、パワーアップよ』

学校帰り

ひょっこりと路地裏から出てきた黒ウサギ・ラビに話しかけられた赤沢隼人は驚きながら聞き返していた。

『このところの戦いぶりをみても、

 ゴーストバグのスキル向上は目を見張るものがあるわ。

 バニーレッドのレッドランスもどこまで通用するか、

 そのことを考えるだけでもヒヤヒヤしているのよ。

 だからこそ私たちバニーエンジェルも

 一段大きく飛び上がる必要があると思うの』

とラビは最近、ゴーストバグの会員怪人が手ごわくなってきたことを指摘する。

「まぁ、確かに新しい奴が出てくるたびに手ごわくなっているけど、

 でも、俺だけでは決められないぞ、

 一応、他のみんなの意見も聞かないと」

ラビの提案に隼人は自分と同じバニーエンジェルであるメンバーのことを指摘すると、

『うーん、確かに隼人君の指摘の通りかも、

 一度、みんなで集まって話し合いをする必要があるわね』

とラビは大きく頷いた。

「黒蛇堂か?」

ラビの言葉に隼人は必要としているものの前にだけ姿を見せると言う黒蛇堂のことを指摘すると、

『まぁ、あそこが一番落ち着くわね』

すまし顔でラビは口をモグモグさせる。

「はっ、

 全くラビは気楽で良いや、

 そうして口をモグモグさせて居ればいいんだからな」

そんなラビの姿を見ながら隼人は悪態をついて見せると、

『気楽って何よぉ、

 あたしだって気苦労が多いんだから、

 そっちこそ、他人事でいない?』

とラビは言い返す。

「なんだとぉ!

 俺のどこが他人事だ!

 男の俺が無理やり女にされた挙句にバニー戦士だぞぉ!

 ちっとは俺の胸のうちを思いやれって言うのっ』

ラビを喉元を締め上げながら隼人は怒鳴ると、

『ぐるじぃ!』

たちまちラビは目を白黒させた。

と、その時、

「隼人じゃない、

 そんなところで何をしているの」

と黄土圭子が話しかけてきた。

ビクッ!!!!!

思うがけない彼女の声に隼人とラビは逆毛を立たせると、

「やっやぁ、

 圭子じゃないか、

 お久しぶりだね。

 いま帰り?」

と振り返りながら隼人は顔を引きつらせた。

「なぁに言っているのよ、

 ホームルームまで一緒だったでしょ」

隼人の言葉に圭子は呆れ顔でそういうと、

「あれ?

 何を持っているの?」

と隼人が抱きかかえているものを指差した。

ギクッ!

「やっやば…」

彼女の指摘に隼人は顔を引きつらせるが、

だが、もはや言い逃れは出来る状態ではない。

「えぇぃ!」

半ばヤケになりながら、

「けっ圭子、

 ほら、珍しいだろう。

 うっウサギだぜ。

 そっそこを歩いていたんだよ」

と言いながら手にしていたラビを圭子に見せた。

その途端、

「いっ!」

今度は圭子が驚いた顔をすると、

「隼人…

 そのウサギ、ちょっと貸してくれない?」

と持ちかけてくるなり、

バッ!

圭子は隼人の手からウサギを奪取し、

「・・・・・」

ウサギに向かって何かを話しかける。

「何をしているんだ?」

圭子の行為を怪訝そうな目で見ながら隼人は尋ねると、

「なっ何でもないわ、

 あっ、このウサギの飼い主知っているから、

 あたし届けてくるね」

隼人に向かって圭子はそういい訳をすると、

ダッシュで駆け出していったのであった。

「ほぅ、

 ラビの奴、どこかで飼われているのか、

 優雅なもんだなぁ」

走っていく圭子を見送りながら隼人はそう呟きながら見送っていた。



『ほぉ、”アレ”ですか?』

「はぁ、”アレ”なんです」

とあるビルのとある企業の商談室では桶羅と業屋の話は続き、

『ただ、”アレ”では…』

「えぇ、”アレ”と言われましても」

ブンブンの発言を巡って二人とも深刻な表情で考え込んでしまっていた。

すると突然、

『ふんっ、

 くだらんっ』

ジッと話を聞いていた顎長の男が一蹴すると、

『そう言うものは大抵、

 ”この世界を暗黒で満たす”だとか、

 ”すべての破滅”だとか言うものに決まっている』

と言い切った。

「おぉ!」

男の言葉に桶羅はハタと手を打つが、

『あのぅ、もし”背を高くして欲しい”だったらどうしますぅ?』

すかさず業屋が突っ込みを入れると、

『だったら、それも”お願いリスト”に入れておけば問題は無かろう、

 全く、下らん。

 というか、

 何を目的として動いていたのか判らずに行動をしていたのかっ』

顎長の男は苛立ちながら指摘する。

「はぁ、誠にもって…情けない限りで、

 とりあえずその辺を当たってみます」

男の指摘に桶羅は額の汗を拭いながら礼を言うと、

『そういえば…

 バニーエンジェルでお悩みだとか』

業屋が目を光らせ話を振る。

「あっはぁ…」

その言葉に桶羅は汗を拭い業屋を見ると、

「あの、お茶のお代わりをお持ちいたしました」

声と共に秘書が桶羅のところに来ると、

「あぁ、こまち君すまないね」

桶羅は秘書に向かって礼を言い、

コト

コト

業屋、顎長の男、そして桶羅の前に湯気が立つお茶と豆大福を置いて行く。

一瞬の間を置き、

「実は…」

と空気を読みながら桶羅が切り出すと、

「バニーエンジェルにはとても手を焼いているのです」

とこれまでバニーエンジェルに受けた度重なる妨害について話し始めた。



「えぇ、バニーエンジェルのパワーアップですかぁ?」

「あらまたぁ…」

「こういう展開ってよくあるよね」

黒蛇堂の2階に少女達の声が響き渡ると、

「あれ?

 一人足りないなぁ…」

と頭に”TSカチューシャ・かえるくん”をつけ、

女子高生モードの隼人はメンバーが一人足りないことを指摘する。

「あぁ、イエローちゃんは用事があるから後で来るって」

お菓子の袋を持ちながらバニーパープルである紫雲紗緒はそういうと、

「なぁ、ラビ、

 こういう会合での欠席って認められるのか?」

とラビに向かって隼人は尋ねた。

すると、

『うーん、

 問題はあるんだけどね、

 ただ、黒蛇堂もいつまでもココに錨を下ろしておくわけには行かないから、

 さっさと進めましょ』

口をモグモグさせながらラビはそういうと、

『で、みんな、

 みんなの意見としてはどうなの?

 いまのバニーエンジェルでやっていけそうなの?』

とこの場に居るリーダー兼バニーブルーの青田亜由美、

バニーグリーンの緑川光子、

そして、バニーパープルの紫雲紗緒と、

バニーレッドである隼人に尋ねた。

「そうねぇ…」

ラビの質問に4人は考え込むと、

「俺…じゃなかった、あたしとしては大丈夫だと思うけど」

と隼人は現状維持を訴える。

「え?」

隼人の声に考えていた3人は振り返ると、

「だって、まだみんなの力を出し切っているとは思えないし、

 それに安易なパワーアップをしてはそれに頼ってしまうと思うんだ。

 だから、もうちょっと様子を見ては…と思うんだけど

 どっどっどうかしら…」

顔を引きつらせながらも隼人は女の子ぽく振舞い

そう指摘すると、

「そうねぇ…

 その通りかもしれないわね」

と皆は静かに頷いてみせる。

『ってことは、

 4人は現状維持で良いのね』

隼人たちの意見を聞いたラビは改めて確認すると、

「えぇ、この場にイエローは居ませんが、

 みんなの力はまだ十分居は出ていないと思います。

 それを発揮しても太刀打ちが出来ないことになったとき、

 改めて考える。

 で良いではないでしょうか」

と4人の意見を締めくくって亜由美はラビに言う。

『判ったわ、

 じゃぁ、この新しいチョーカーは必要となるときまで鍵屋さんにお預けしておきましょう』

皆の意見を聞いたラビはこれまでとは形が違う5色のチョーカーを仕舞い始めた。

「ん?

 ラビ、いま言った鍵屋ってなんだ?」

ラビの話を聞いた隼人はそのことを尋ねると、

「あっあたしもそれ気になった」

と光子や紗緒も同じように尋ねた。

『あぁ、

 鍵屋って言うのは何ていうか、

 そうそうレンタル屋みたいなものよっ、

 あななたちがいま使っているそのチョーカーも元をただせば

 鍵屋からの借り物。

 ただし、製作を発注したのはクィーンバニーと縁のある確かな人よぉ』

目をキラリと輝かせ意味深にラビはそう言うと、

「へぇ、知らなかったな…」

それを聞いた隼人たちは驚きながらそれぞれのチョーカーを見る。

と、その時、

ビクッ!

いきなりラビの耳が立ち上がり、

『なっ何か出たラビ…』

と呟いたのであった。



『ほぉほぉ、それはそれは難儀ですなぁ』

話を聞き終わった業屋は桶羅に同情しつつ豆大福に舌鼓を打つと、

「はぁ…

 ブンブン様の意向を受けて、

 先ほどカマキリ男の霧間君を派遣してはみたのですが。

 果てしてどうだか…」

汗を拭きながら桶羅はゴーストバグの会員怪人を派遣したことを言う。

『大丈夫ですかぁ?

 桶羅専務ご自身がそのような気構えで…』

そんな桶羅の様子を見て業屋は囁くと、

ビクッ!

一瞬、桶羅は身を凍らせた後、

「はぁ…」

と小さくため息を付いた。

すると、

『なにをしているのだ』

ジッと話を聞いていた顎長の男が再び怒鳴り始め、

スクッ

徐に立ち上がると、

『上に立つ者自身がその様な腑抜けだから、

 バニーエンジェルなどという者にしてやられるのだ』

と指摘する。

「うっ!」

男のその指摘に桶羅は喉を詰まらせると、

コツ

コツ

男は肩にかけていた上着をなびかせながら歩き始め、

『どっどちらに…』

業屋は驚きながら向かう先を尋ねると、

『ふんっ、

 見てやるのだ。

 そのバニーエンジェルという者達をなっ、

 ちょうどいま、カマキリ男というのが戦っているのだろう?

 場所はどこだ?』

男は振り返りながらカマキリ男が向かった先を尋ねた。



『バニーエンジェル!!

 今日という今日こそ、

 ゴールデンクリスタルを渡して貰おうかぁ!!』

丁度その頃、

カマキリ男は勢ぞろいしたバニーエンジェル達に向かって声を張り上げると、

『うりゃぁぁぁ!!』

手首か伸びる鎌を振り上げて襲い掛かっていた。

「なんのっ!!!」

ガシッ!

間近に迫って来た鎌を素早く変身を終えたバニーレッドが蹴り上げると、

「たぁーっ!」

「てぇーぃ!」

続いて遅れて合流したバニーイエローとバニーグリーンが左右からキック攻撃を掛けてくる。

だが、

『甘いわ』

素早くカマキリ男はバニーレッドを往なして飛び上がると、

『これでも喰らえ!!』

っと両手首の鎌を切り離し、

イエローとグリーンに向かって飛ばした。

「きゃぁ!」

イエローとグリーンの悲鳴が上がるものの、

「あぶないっ!」

それを見たバニーパープルとバニーブルーが飛び上がると、

二人に飛びつき、

飛んできた鎌を蹴り上げた。

『ちぃ!

 チョロチョロと』

なかなか決まらない自分の攻撃にカマキリ男は苛立ち、

『ならばこれでどうだ!』

と今度は下に居るレッドめがけて切りかかるが、

『同じ手には乗らないんだよ!』

レッドのその叫びと共に、

『レッドウィップ!!!』

と声が響くと、

シャッ!

カマキリ男に向けて真紅の鞭が伸びる。

だが、

スパッ!

鞭の先端がカマキリ男の手前で切断されてしまうと、

『うはははは!!

 その程度の飛び道具で俺様を倒せると思うな!』

とカマキリ男の笑い声が響き渡り、

その直後、

ドカッ!

『うげっ!!』

カマキリ男のハラの真ん中に真紅の棒の柄が直撃したのであった。

「レッドランス…

 決まったなっ…」

ニヤリと笑いながらバニーレッドが呟くと、

「イエローボンバー!!!」

バニーイエローの声が響き、

チュドドドドドドド!!!

『うぎゃぁぁぁぁ!!』

カマキリ男の悲鳴と共にその身体が爆発の煙で覆いつくされた。

瞬く間に戦いはバニーエンジェルへと靡き、

カマキリ男が絶体絶命へと突き落とされていく。

そして、

『ブルーっ、いまよっ』

その声が響くと、

『まーかせて!』

バニーブルーの声が響き。

『バニーフラッシュ!!!』

と掛け声が響き、

シュパァァァン!!!

カマキリ男に向けて黄金のウサギが向かって行った。

『うわぁぁぁ!!

 ブンブン総帥ごめんなさぁーぃ』

カマキリ男の絶叫が響き、

勝負がついたように思えたとき。

パシッ!

黄金のウサギを何者かの手が止めると、

『なんだ、これは…』

そう言いながらバニーエンジェル達の前に姿を見せた顎長の男は

自分の手の中でジタバタして見せるウサギを睨みつけた。

そして、

グッ!

その手に力を込めると

メコッ!

男の腕が一瞬膨らんだと思った後、

パキーン!

黄金のウサギはあっけなく握りつぶされてしまったのであった。

「うそぉ!」

「うさちゃんがぁ」

「誰?」

「敵?」

予想もしてない新手の登場にバニーエンジェル達は驚き身構えると、

『あっあなた様は?』

男に向かってカマキリ男は尋ねる。

『ふんっ、

 名乗るほどのものではない。

 オケラに頼まれた。

 お前は一旦引けっ』

顎長の男はカマキリ男に向かってそう指示をすると、

『はっはいっ

 ありがとうございます』

男の指示にカマキリ男はすたこらさっさと逃げ出してしまったのであった。

「待て!」

バニーエンジェル達はカマキリ男を呼び止めようとするが、

ズイッ!

顎長の男が一歩前に出ると、

『いまのお前達の相手はこの俺だ。

 ふんっ、

 あいつ等と比べてどれだけ強いのか試してやろう』

と言うなり、

バッ、

羽織っていた上着を投げ捨て、

『行くぞ!』

の声と共にバニーたちに向かって飛び出してきた。



ドガンッ!

「きゃぁぁぁぁ!!!」

地響きと共にバニーエンジェルの悲鳴が響くと、

「このぉぉぉ!!!!」

吹き飛ばされたバニーエンジェルの中でただ一人、

渾身の力を込めてバニーレッドが男の手を止めていた。

『ほぉ、

 お前には戦いの心得があるようだな』

自分の拳を止めたレッドを見ながら男は感心すると、

『じゃぁこれはどうかな…』

というや否や、

ドスッ!

レッドの鳩尾に強烈な一発を喰らわせる。

「うげっ!」

身体が真っ二つにされてしまうほどの重く響いた一発にレッドは気を失いかけるが、

「なっなんのっ!」

空手の試合のことを思い出して踏みとどまると、

「レッドを助けろ!」

の声と共に、

「たぁぁぁぁぁ!!!!」

他のバニーたちが一斉に襲い掛かった。

『望むところだぁぁぁ!』

向かってきたバニーエンジェル達に向かって男は怒鳴り声を上げると、

「でやぁぁぁぁ!!!」

『うらぁぁぁぁ!!!』

男とバニーの熾烈な闘いが始まるが、

戦いは完全に男のペースとなっていたのであった。

「くっくそぉ!!

 やりやがったな」

戦いから一人外れてバニーレッドはフラフラになりながら立ち上がると、

『だめよ、寝てなきゃ』

それを見たラビが飛び出し、

レッドを止めようとする。

「行かせてくれ、ラビ…」

ラビに向かってレッドはそう言うと、

立ちはだかるラビを跨ぎ、

優勢に戦いを進める顎長の男へと向かっていく。

「ちっ、

 ゴーストバグだと思って油断したよ、

 あいつ、滅茶苦茶強い…

 だけど、

 このまま見ているわけには行かないんだよ」

オーラを吹き上げてレッドが向かっていくと、

『!!っ』

背後から迫るレッドの気配を察してか、

『ハッ!!』

「きゃぁぁ!」

イエロー達バニーを気合で吹き飛ばし、

顎長の男はゆっくりと振り返る。

『ほぉ…

 まだ戦う気力が残っていたか』

レッドを見ながら男はニヤリと笑って見せると、

「当たり前だろう!

 みんなが戦っているんだ、

 休んでいられないだろう」

男に向かってレッドはそう言い返す。

そして、

「いくぜっ!」

の声と共に男に向かって飛び込んでいった。

『望むところだ!』

突っ込んでくるレッドを見据えながら男は構えると、

バシッ!

ガシッ!

ビシッ!

ビシッ!

バシッ!

ガシッ!

ビシッ!

ビシッ!

男とバニーレッドは壮絶な突き合いを演じ始めた。

「すごい…」

「あんなレッドを見たのは初めて」

「あれって空手技でしょう?」

「レッドって空手の心得でもあるのかしら?」

レッドの戦いぶりを見ながらバニーたちは声を揃えると、

「あれ?

 あれって?」

バニーイエローはレッドが見せる動きにデジャブーを感じていた。

そして、

「似ている…

 あいつの動きに…」

イエローがよく知っている人物の動きをレッドの動きがそっくりであることに気づくと、

「でも…

 まさか…

 だって、女の子じゃない…

 レッドがあいつであるわけが…」

その考えを強く否定した。

とその時、

「でぇぃっ」

ガシッ!

レッドが放った回し蹴りが男の腹を直撃すると、

『うがぁぁぁ!!』

苦しい声を上げながら男は片膝をついてしまう。

「やったぁ!」

それを見たバニーレッドは声をあげるが、

『甘いわぁ!!』

男の声が響くのと同時に、

『ハァッ!』

気合と共に男の手から放たれたエネルギー弾がレッドを直撃した。

ズドォン!

一瞬のうちにバニーレッドの身体は吹き飛び、

レッドは近くの壁にたたきつけられた。

「レッドぉ!」

衝撃の展開にバニーたちは倒れているレッドに近寄ると、

「しっかりして」

と介抱をし始める。

だが、

『ふふふふ…

 この私に膝をつかせたのは褒めてやる。

 だが、そこまでだ!!!』

立ち上がった男は両手にエネルギー弾を作り上げると、

急速にそれを成長せていく。

「にっ逃げろっ、

 あいつから…」

痛みを堪えてレッドは立ちはだかるバニーたちに言うと、

「レッドを見捨てて逃げるわけには行かないでしょう」

「そうよ、

 みんなの力を合わせてあいつを倒す!」

ブルー、パープル、グリーン、イエローの4人は力強く言うと、

「どうなっても知らないぞ」

その後ろでレッドはよろめきながらも立ち上がる。

『ほぉ…

 ゴーストバグの連中よりかは根性があるか、

 だが、

 その頑固さが命取りになる事もあるのだ!!』

それを見た男は怒鳴りながら続けてエネルギー弾を放つと、

『みんなっ

 心を一つにして、

 ブルーに全てを託すのぉ』

とラビが声を張り上げる。

「!!っ」

そのラビの指摘にバニーエンジェル達は輪になって手を繋ぐと、

「バニーフラーッシュ!!!」

声を合わせた。

その瞬間、

カカッ!!!

5人の身体が黄金に光り輝き、

『ごわぁぁぁぁ!!!』

輪の中心から大型の光る黄金のウサギが飛び出すと、

ズドドドドド!!!

男めがけて走り始めた。

『させるかぁぁ!』

迫ってくる黄金のウサギめがけて男はエネルギー弾を放つが、

ドガッ!

エネルギー弾をいとも簡単に弾き飛ばし、

ウサギは一直線に男に向かって突っ込んで来る。

『おのれぇぇっ!』

ガシッ!

叫び声を上げながらも男は一歩も引かず、

その場に踏ん張ると身の丈以上もあるウサギを全力で押し返し始めた。

フッー

フッー

ガシガシガシ!!!

止められてもなおもウサギは前に進もうとするが、

『くぅぅぅ!!!

 このわたしは負けんっ、

 負けんぞぉ!!』

全身の筋肉を小山の如く盛り上げて男は押し返す。

「んんんんんんっ!!」

「行けぇぇぇぇぇ!!」

一方で手を繋ぐバニーエンジェル達もあらん力をウサギに注ぎ込むと、

ガッシガッシガシガシガシ…

黄金のウサギは機関車の如く男を押し、

『くぉぉぉぉぉ…

 負けるかぁぁぁぁ〜っ』

次第に押され始めた男は顔を真っ赤にしていく。

勝負あり…

バニーエンジェル達の心の中にその言葉が駆け巡るのと同時に、

シャカタタタタタタ…

突然一条のレールが築き上げられると、

黄金のウサギの下で鈍い光を放った。

「レール?」

「電車が来るの?」

キョトンとしながらバニーエンジェル達はレールの先を見ると、

カンカンカンカン!!!

いつの間に姿を現したのか警報機が鳴り響き、

続いて遮断機が下りてきた。

そして、

フォォォン…

タイフォンの音と共に、

カッ!

煌々とライトを輝かせた列車がそのレールの上を驀進してくると、

「あーっ!」

バニーエンジェル達の悲鳴が響く間もなく、

ドォォォン(グモ)!!!

黄金の巨大ウサギは列車に跳ね飛ばされ、

雲散霧消してしまったのであった。



「あぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うっうさちゃんがぁ!!」

バニーエンジェル達の悲鳴が辺りに響き渡り、

シャカタタタタタタ…

警報機・遮断機共にレールが消えていくと、

ニタァ…

さっきまで黄金のウサギがいた場所に和服姿の男性が立ち、

笑みを浮かべながら皆を見つめていた。

『ごっ業屋!!』

その男性を見て顎長の男は声を上げると、

『お帰りが遅いので、お迎えに参りましたぁ』

と業屋はもみ手をしながら男に言う。

すると、

「何てコトをしてくれたのよ」

「あたし達のうさちゃんをひき殺さなくてもいいでしょう!!」

とバニーエンジェルたちは業屋に向かって一斉に抗議し始めるが、

ジロッ!

業屋はバニーエンジェルを一瞥するなり、

『お嬢さんたちぃ、

 警報機が鳴ったら速やかに踏切から出てもらわないと困りますねぇ。

 ちゃぁんと遮断機も下りたでしょう?』

と指摘すると、

「うっそれは…そうだけど…」

業屋のその指摘にそれ以上の抗議は出来なくなってしまったのであった。

とその時、

『業屋!!』

ラビが声を上げると、

『おやおや、

 ラビ殿、

 お久しぶりでございますなぁ』

ラビに向かって業屋は頭を下げる。

「ラビ…知り合いなの?」

業屋を指差してバニーブルーが声をかけると、

『知り合いも何も…

 どういうこと業屋。

 なんであなたがゴーストバグの肩を持つの?』

とラビは聞き返す。

『肩を持つ?

 いいえ、わたしくは商いをしているだけです。

 たまたま、お客様がブンブン様だっただけのこと』

ニヤリと笑いながら業屋はそう返すと、

シャカタタタタタ…

顎長の男の背後に再びレールが姿を見せ、

フォォォン!

その上をさっきの列車が驀進してくる。

『下らんな…』

顎長の男は落ちていた上着を拾いあげると、

「あっ待って!」

男を呼び止めようとバニーブルーが声を上げるが、

『ほっほっほ、

 私どもは先を急いでおりますので、

 この辺で失礼いたします。

 では…』

ブルーの前に立ちはだかった業屋は一礼してそう告げると、

『あぁそうそう、ラビ殿…

 ブンブンはいつまでもやられっぱなしではありませんよ。

 あなた方を倒す準備は着々と進んでいます。

 あなた方も早くクィーンバニーの元に参上すべきではないですか?』

ラビに向かってそう告げたとき

フォォォォン!!!

迫る列車はタイフォンの音を高らかに響かせ、

タタン

タタン

タタン

顎長の男と業屋の前を遮るように通過し、

その直後、二人は姿を消してしまったのであった。



「消えた…」

業屋と顎長の男が消えた跡をバニーエンジェル達は集まり、

そして、列車が消えた闇を見つめる。

「ラビ…

 あの二人ってなんなの?」

闇を見つめながらバニーブルーが尋ねると、

『ごめんなさい。

 いまは何も言えないわ。

 あたしだって整理が出来ないの、

 誰が見方で誰が敵なのか』

口をもぐもぐさせながらラビは目をまん丸に開き、

ブルー達に向かってそう言い、

そして、

ピョンピョン

っと跳ねながら闇の中へと姿を消していく。

「ラビ…」

「よほどショックだったのか…」

「業屋って言っていたよね、

 ラビとは知り合いだったみたいだけど…」

ラビを見送りながらバニーエンジェル達は囁きあっていた。



『随分と苦戦を強いられた様ですが、

 あなたらしくないですな』

時と空間の狭間を驀進する列車”業ライナー”

その食堂車でチャーハンにレンゲを当てつつ業屋は尋ねると、

『ふん、ちょっと油断をしただけだ。

 バニーエンジェル。

 私を苦しめたあの者達と匹敵する力を持っていると言うわけか』

顎長の男はそう呟きつつ湯気の立つコーヒーに口をつける。

すると、

『侮られましたか?』

と通路を挟んだ反対の席に座る鍵屋が声をかけてきた。

『!!っ

 鍵屋っ

 何でお前がこれに乗っているっ』

鍵屋の存在に気づいた男は腰を上げて声を荒げると、

『まぁまぁ、

 丁度良い電車があったので乗っているだけです。

 降りる駅に到着したら降りますよ』

と涼しい顔をしながら鍵屋はIC乗車券・業Caを掲げて見せる。

『ちっ勝手にしろっ!』

それを見た顎長の男は腕を組み、

ふて腐れるようにそっぽを向いてしまうが、

『全く子供なんだから…』

男のその姿を見た白蛇堂が呆れた声を上げると、

『!!っ

 白蛇っ

 お前も乗っていたのかっ!』

白蛇堂の声に男は飛び起きて怒鳴った。

『あたしも途中で降りるわよ。

 はいっ、鍵屋さんっ

 ご注文のココナッツミルクプリン!!』

男に向かって白蛇堂はそう告げると、

鍵屋の前に盛大にプリンが盛り付けられた皿を差し出した。

『おぉ、これはおいしそうですね。

 では、いただきます』

スプーンを片手に鍵屋はプリンを食べ始めると、

『何であたしがウェイトレスをしないとならないのよ』

白蛇堂はそう文句を言いつつ、引き上げていく。

『まったく、どいつもこいつも…』

予想外の展開に顎長の男は苦々しくすると、

『まぁまぁ、

 旅は道連れ…と言うではではないですか…

 ほっほっほっ』

そういって笑う業屋達を乗せた業ライナーは加速し、

時と空間の中を駆け抜けていく。



「それにしてもあいつ…

 これまでの怪人とは全くレベルが違っていた。

 っていうか、異質の者?」

皆と別れ、

元の姿に戻った隼人はあの顎長の男の強さに畏怖を感じると、

「ゴーストバグが何かを仕掛けてくる。

 早く何とかしないと」

忍び寄ってくる黒い影を感じながら隼人は思わずそう呟いた。

すると、

「何を何とかするの?」

と突然圭子が姿を見せると隼人に話しかけて来る。

「うわぁ!」

思うがけない圭子の声に隼人は飛び上がってしまうと、

「こんなところで何をしていたのよ」

と圭子は普段の通学路から大きく外れたこの路地にいる事を尋ねる。

「いっいいじゃないかよ、

 寄り道をしても良いだろう?」

ジっと自分を見つめる圭子から目を逸らして隼人はそういうと、

「バニーエンジェル…」

と圭子は小さく呟いてみせる。

「え?」

圭子の口からその言葉が漏れたことに隼人は驚くと、

「うっ

 ううん、なんでもない」

隼人の腕を掴み、

圭子は走り出したのであった。



おわり