風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−敵は高校教師−



作・風祭玲


Vol.728





「先生、さよぉ〜ならぁ〜」

「はーぃ、気をつけて帰るのよぉ」

ここはとある街にある

ごく普通の高等学校。

黄昏色から漆黒色へと姿を変えていく空の下、

今日の部活を終えた生徒達が

別れの挨拶をしながら帰宅の徒についていくのを

ここで教鞭をとる酒江由紀は笑顔で見送っていた。

「はぁ…

 今日も一日、

 無事に終わったか」

最後の生徒を見送った後、

由紀は肩をトントンと叩きなが安堵の表情を見せると、

「あら、酒江先生。

 また残っていたんですか?」

同じこの学校の教員であり親友の長田香織が声を掛けてきた。

「香織っ、

 やめてよ、

 その先生呼びは」

香織が発した先生という言葉に由紀は軽く身震いをしてみせると、

「そりゃぁねっ、

 由紀とは親友同士だし、

 呼び捨てでもいいけどさっ、

 でも、生徒の手前それはできないでしょう?」

と香織は指摘する。

すると、

「はいはい」

香織の指摘に由紀は呆れたポーズを軽くして見せたとき、

ブルルル…

突如、彼女の胸ポケットにある携帯電話が激しく震動をした。

「あっ電話」

それに気づいた由紀はおもむろに携帯を取り出し画面を見ると、

「え?」

一瞬、由紀は驚いた顔をした後、

キョロキョロと周囲を見始めた。

「どうしたの?」

挙動不審者を思わせるの彼女の振る舞いに

香織は怪訝そうにその理由を尋ねると、

「え?

 あぁ…

 いえ、別に…」

由紀は慌てて取り繕い、

そして、

「!」

何かに気づくと、

「ねっねぇ香織、

 いま、暇?」

と尋ねてきた。

「いいけど一体なんで?

 っていうか、

 もぅすぐ臨時の職員会議があるんじゃないの?」

その理由を香織が尋ねながら、

まもなく始まることになっている臨時の職員会議について指摘するが、

「あっうん、

 大丈夫、

 それまでには終わるわ、

 ちょっとやりたい事があるのよ」

と由紀は返事をした。



それから程なくして、

ガラッ!

生徒の間では”忘れられた教室”と呼ばれている、

資料室になっている旧校舎の教室のドアが開かれると、

「香織さ〜ん、

 こっち」

とまるで自分の自宅に招くかのように由紀は声を上げた。

「ちょっとぉ、由紀。

 ふざけないでよ、

 ていうか、ここってヤバイところなんじゃないの?」

そんな由紀に向かって香織は怪訝そうな目つきで

この部屋が曰く付きの部屋であることを指摘すると、

「大丈夫、大丈夫、

 この学校で人目につかない所ってここしかないんだから」

由紀は部屋のいわれについて気にせずにそう返事をし、

「さ、入って、入って、

 時間がないんだから」

と嫌がる香織の背中を押しながら教室の中へと入っていった。



ギラッ!

窓から差し込む月明かりに照らし出され、

部屋に置かれている異形のもの達は一斉に侵入者を出迎える。

「うひゃぁぁ!!

 不気味ぃ!」

先代の校長が世界各地から集めてきたという、

民芸品が所狭しとおかれている部屋の光景に

香織は思わず身をすくめると、

「まるで異世界って感じね

 これじゃぁ何かが起きてもおかしくはないわ」

この部屋で起きたとされる生徒失踪事件を思い出すが

だが、怯える香織とは対照的に、

シュルッ!

由紀は平然と着ている服を脱ぎ始めると、

「え、ちょっと由紀、

 何してんの?」

由紀の行為に香織はその理由を問いただした。

すると、

「ん?

 今日やることにはこれが必要なのよ。

 さ、香織さんも脱いで」

香織に服を脱ぐ様に薦めた。

「えぇ!」

由紀の口から出たその言葉に香織は驚きの声を上げると、

クワッ!

「ふ・く・を・ぬ・い・で」

目をまん丸にして由紀は香織に命令をする。

その途端、

「え・・・うん」

香織はまるで暗示にかかったかのように手を自分の服に掛けると

それを脱ぎ始める。

シュル

パサッ

股間の秘部を覆っていたショーツが脱ぎ捨てられ、

二人は全裸になると、

「さぁ、香織。

 こっちに来て」

と白い肌をさらしながら由紀は香織を招く。

「は・い」

その声に香織は抵抗することなく由紀の元へと向かうと、

二人は向かい合った。

「うふっ

 おいしそ〜う。」

由紀は香織の自分より大きな乳房を見ながらそう呟くと、

ペロリと軽く舌なめずりをし、

「さぁ、香織、

 あたしのこれを舐めて」

と言いながら、

キュッ!

自らの乳房を両手で盛り上げるように持ち上げ、

キラリと光る乳首を香織へと向けた。

すると、

「は・い」

香織は自分の手を由紀の乳房へと伸ばし、

自分に向けられている乳房を揉みはじめた。

「あっ

 あはっ

 いいわ…

 とっても感じちゃう」

自分の乳房が揉まれることに由紀は身もだえ、

次第に上気してゆくと、

ジワッ…

隆起した由紀の乳首より白い液体が零れはじめた。

「はぁん…

 舐めて…

 あたしのミルクを舐めてぇ」

両乳首からミルクを滴らせながら由紀はそう命じると、

「はぃ」

香織は言われたとおりに由紀の乳首に口を付け、

滴り落ちるミルクを飲み始める。

チュゥチュゥ

チュゥチュゥ

吸い付けば吸い付くほど

絞れば絞るほど香織の乳首からミルクがこぼれ落ち。

香織はまるで赤子の如くミルクを飲み込んでいった。

すると、

ミルクを飲み続ける香織の乳房はどんどん膨らんでいき、

逆に由紀の乳房はそのたびに縮みはじめる。

すると、由紀の乳房にしゃぶり付いている

香織の身体に変化が始まった。

ビクン!

一瞬、

香織の身体が小さく飛び上がると、

モコッ

モコモコモコ!!

彼女の白い手足から筋状に皮骨が姿を見せ、

白い肌は暗緑色へと染まりはじめた。

肌の変化は背中にも広がり

背中全体を変化させてしまうと、

ニュッ!

お尻から突起物が突き出した。

突き出した突起物はさらに成長を続け、

巨大な”尾”へと変化すると、

香織の顎を含む腹全体は蛇腹に覆われていった。

それと時を合わせるように

メキメキメキ!

香織の顎が伸びはじめると、

髪は抜け落ち、

瞳は黄色く染まていく。

すると、

『はうっ、

 こ…これは?」

その時になって突然、香織は正気に戻ったらしく、

分厚い皮膚に覆われ

太く短く退化して行く自分の手を見ながら驚き叫ぶと、

「あら、気がついたの?

 うふふ、

 香織さん。

 とっても逞しくなったわよ、

 その姿ならバニーエンジェルと存分に戦えるわね」

すっかりワニ人間になってしまった香織を

由紀は愛おしそうに眺めなていた。

『バニーエンジェル?

 何なのそれ?

 由紀ちゃん。

 あたしに何をしたの?』

由紀の告げた言葉の意味が判らずに、

自分の身体が醜く変身してしまった理由を問いただすと、

「あら、バニーエンジェルを知らないなんて…

 教職一直線も考え物よ、

 バニーエンジェルはあたし達の敵…」

由紀は視線を鋭くしながらそう応えると

突如自分の胸を揉み始めた。

「はぁん、

 はぅ、

 はぅ〜」

教室の中に由紀の艶めかしい声が響き渡ると、

モコッ!

今度は由紀の身体に変化が起った。

メリメリメリ!

突如、尻から尻尾のような突起物が盛り上がると、

やがてそれは由紀の2本の足と融合しはじめていく。

「はぁぁん

 あんあんあん」

突起物と足が融合していく中、

由紀はさらに身もだえると、

ジワ…

足の色は群青色へと変化し

さらにその群青は足から広がりはじめると

瞬く間に上半身を覆い尽くしてしまった。

すると、

メキッ!

今度は由紀の指が潰れて広がりはじめると、

なりの指と融合し、

それがさらに隣の指をも飲み込んでしまうと、

瞬く間に彼女の両腕は鰭へと変化してしまった。

一方で顔は鼻が尖りながら伸びると

それに引っ張られるように由紀の顔は伸び。

髪は抜け、

歯がとがり、

由紀は獰猛そうな鮫へと変化をとげてしまった。

『うっうそぉ!

 由紀が…

 由紀がサメ女になってしまった』

呆然とする香織を余所に、

『うふふ、

 どう香織さん。

 あたしの姿は…

 とっても恐ろしそうでしょう?』

ピタピタ

ピタピタ

足を失い床に這い伏す由紀は

足が変化した尾びれと

腕が変化した胸ぴれで床を叩きなから

自慢そうに鮫となった姿を香織に見せ付けた。

『由紀ちゃんおかしいよ!!

 なんで、なんでこんなことを!!』

ワニ女・香織はサメ女になった由紀に再度理由を尋ねようとするが、

『うふっ

 どれもこれもブンブン総帥の為…

 さぁ行くわよ、

 タコ男がピンチなのよ』

由紀はそう言うと、

ギロッ!

まん丸になった目で香織を見つめた。

その途端、

『は・い』

再び暗示に掛かってしまったのか、

香織の黄色い目がキュッと締まり、

まるで操り人形の如く、

サメ女・由紀を抱きかかえると、

闇の中へと消えていった。



『ブンブン総帥!!

 ごめんなさーぃ』

月明かりが差し込むダウンタウンの一角、

そこにタコ男の絶叫が響き渡ると、

チュドォォン!!!!

爆発音と共に吸盤のついた手が四方八方に飛び散っていく。

『ふぅ…

 タコ男、手強い相手だった』

バニーレッドは手にしたウィップを素早くしまうと、

額の汗を思わ拭った。

『お疲れ様!』

そんなレッドをバニーイエローが労うと、

『でも、スグにまた次の変態怪人が現れるんでしょう?

 イヤになっちゃうわ』

と大きく背伸びをしながらバニーパープルが呆れ半分にぼやき、

『そうだな、

 早く元を絶たないと

 あたし達はいつまで経っても同じ事の繰り返し、

 総帥・ブンブンの掌の上で踊らせられているのよ』

悔しそうにバニーブルーが吐き捨てると、

『とにかく一歩一歩進んでいくしかないよ、

 何事も焦ってはダメだ』

とレッドが言ったとき、

『あらあら?

 タコ男、負けちゃったの?

 あれだけバーコード攻撃に自信を持っていたのに、

 やっぱりリストラされたスケベオヤジじゃ素体がダメだったのね』

と言う女性の声と共に、

シュタッ!

二つの影がバニーエンジェル達の前に降り立った。

『え?』

『なに

 なに?』

『新しい敵?』

『ちょとっとぉ、

 延長線だなんて聞いてないわよ』

まさに降って湧いた事態にバニーエンジェル達は動揺をすると、

ドドドドドド!!!

突然、一方の影がバニー達に向かって突撃をしてくるなり、

ドォォォン!!

『きゃぁぁぁぁ!!』

たちまちバニーブルーとパープルの二人が吹き飛ばされてしまった。

『パープル!』

『ブルー!』

それを見たレッドは声を上げると、

シュタッ

シュタッ

『だっ大丈夫よ』

『ちょっと油断しただけ』

謎の影に吹き飛ばされたものの

ブルーとパープルは空中でクルリと回ると、

何もなかったかのように着地をした。

だが、

『うふふふ…

 そんな暢気なことを言っていられるのはいまのうちだけよ、

 あたし達の恐ろしさをとくと見せつけてあげるわ』

再び女性の声が響くと、

ドドドドドド!!!

ブルーとパープルを吹き飛ばしたあの影が急接近し、

ドカッ!

『キャッ!』

今度はバニーイエローとグリーンを吹き飛ばした。

『この野郎!

 卑怯だぞ!』

それを見たバニーレッドが怒鳴ると、

一度は別れた二つの影は1つにまとまり、

ブンブンブン!

1つに纏まった影が回転をはじめ出だした。

『なっなに?』

回転をする影に皆が驚くと、

ビュッ!

バニーレッドに向かって影は巨大な何かを放り投げた。

シャァァァ!

一直線に向かってくる影にレッドは素早くレッドウィップを取り出し構えるが、

クワッ!

自分に向かってくる大きく開かれた巨大な口を見た途端。

『うわっ!』

レッドは反射的に飛び上がり避ける。

だが、

ザリッ!

影がレッドの真横を横切る瞬間、

非常にザラザラとした何かがレッドの脇腹を掠め、

引っかかれたかのような痛みがレッドを襲った。

『痛ぅ〜っ』

痛む脇腹を押さえながらレッドは片膝を付いてしまうと、

『大丈夫?

 レッド!』

それを見たバニーイエローが駆け寄ってくるが、

『大丈夫だ』

バニーレッドはそう言うものの、

彼女の脇腹のバニースーツは大きくえぐり取られ、

その中から覗く白い肌からは赤い血がにじみ出ていた。

『なんだぁ?』

これまでの敵とは明らかに違う攻撃力にバニーレッドは困惑していると、

ドドドドドドド!!!

ドカァァン!

『きゃぁぁぁぁ!!』

飛んでいった影を追うように地上を猛進してゆく別の影に

バニーエンジェル達が吹き飛ばされていく。

『手怖い!』

それを見たレッドは反射的に新たな敵の強さを感じ取るが、

だが、ココで怖じ気づくわけにはいかなかった。

ギュッ!

レッドウィップを力強く握りしめると、

『ちっ、

 待ってろぉ』

レッドは気合いを入れながら立ち上がり、

バラバラと落ちてしまったバニーエンジェル達の前に立ちはだかった。

すると、

『ふふっ、

 おーほほほほほ!!!

 バニーエンジェルって言ってもたいしたことが無いわね』

勝ち誇ったような女の声が響くと、

ヌッ!

月明かりがその二人の姿を照らしはじめる。

『うそっ』

『さっサメ…に

 ワニ?』

『なんなの?

 この組み合わせは?』

一見、アメフト選手を思わせる逞しい皮骨に覆われたワニ怪人と、

群青色の肌を曝し、

ピタピタと尾びれで地面を叩くサメ怪人の姿を見て

バニーエンジェル達は言葉を失ってしまった。

『ふふっ、

 ゴーストバグの会員怪人、

 このサメ女と』

『ワニ女…』

『あたし達がお相手をしますわ』

サメ女とワニ女は互いにそう言うと、

ムンズ!

ワニ女はサメ女の尾びれを鷲づかみにすると、

ブン

ブン

ブン

まるで砲丸投げの如くサメ女を振り回しはじめ、

そして、

シュンッ!

バニーエンジェルに向かってサメ女を放り投げた。

すると、

クワッ!

宙を飛ぶサメ女はその口を大きく開け、

立ちはだかるバニーレッドに向かって突き進む、

一方でサメ女を放り投げたワニ女は地上を猪突猛進してゆくと、

レッドの脇に居る他のバニー達に向かって突撃してくる。

シャァァァ!!

『くぉのぉ!!』

バシッ!!

バニーレッドのレッドウィップがサメ女の口に炸裂するが、

だが、

ガシッ!

レッドのウィップはサメ女に囓られ、

吐き捨てられると宙を舞うと、

同時に鮫肌に擦られたバニースーツが引き裂けた。

一方、その横では

ドカァァァ!!

『きゃぁぁぁ!!』

ワニ女の直撃を受けたバニーエンジェル達が次々と空高く吹き飛ばされる。



『まったく、

 こんな小兎どもに何を手こずっているのだか』

ワニ女と合流をしたサメ女はニヤリと微笑むと、

『ふふっ、

 因幡の白兎のように真っ赤にひん剥いてあげるわ』

と言いながらバニースーツを引き裂かれたバニーレッドを見た。

その時、

『因幡の白兎?

 そうだわ』

それを聞いたラビの目が赤く光り。

『ちょっと、レッド!』

拾ったウィップを構えるバニーレッドに向かって声を上げた。

『なっなんだよっ』

ラビからの声にレッドは振り返らずに声を上げると、

レッドの頭の上にラビが飛び乗り、

『ちょっと来て、

 いいから来て!』

と声を上げた。

すると、

『レッド、

 一端、あなたは引きなさい』

『そうよっ、

 大怪我をしているじゃない

 早くラビに手当をして貰って』

『大丈夫、ココはあたし達に任せて』

『いつまでもヤラレっ放しには済ませないわよ』

とワニ女に翻弄され続けてきた

イエロー・ブルー・グリーン・パープルの4人がレッドの前に立った。

『みんな…』

それを見たレッドは4人を見つめていると、

『早くぅ』

ラビは声を上げながら、

レッドの耳にかじり付いた。

『判った

 判った』

緊迫した状況の中、

ラビに引っ張られるようにレッドは持ち場を離れると、

物陰へと向かっていく、

そして、その途端、

『変身を解いて!』

ラビはレッドにそう命令をした。

『はぁ?』

思いがけないラビからの指示にレッドは驚きの声を上げると、

『あのサメ女とワニ女は目茶強いわ、

 でも、弱点はある。

 そこを突くにはあなたがバニーエンジェルじゃなくて

 別のものに変身する必要があるのよ、

 時間が無いのっ

 早くして』

ラビはそう命じるが、

『ちょちょっとぉ、

 いきなりそう言われても、

 ちゃんと納得のいくように説明してくれよ

 別のものって俺は一体何になるんだ?』

ラビの言っている意味が判らないレッドはそう聞き返した。

すると、

『きゃぁぁぁ!!』

残ってサメ女とワニ女に対峙していたバニーエンジェル達の悲鳴が上がると、

『あははは、

 そらそらそら!

 全員、ひん剥いてくれるわ

 丸裸の赤ウサギにしてくれるわ』

サメ女の喜びに満ちた声が上がった。

『みんな!!』

それを聞いたバニーレッドが飛び出そうとすると、

『あぁ、もぅじれったいなっ』

ラビはレッドの上に飛び乗り、

強制的に変身を解いてしまった。

「うわっ

 なっ何をするんだよっ
 
 ラビ!!」

バニーレッドから赤沢隼人に戻ってしまったことに、

隼人は驚いて物陰に引っ込むと、

カッ!

続いて強い光が繭のようにして隼人を飲み込んでしまった。

「なんなんだぁ!

 一体!」

光の繭の中で隼人はあるものへと姿を変え、

そして、その繭が弾け飛ぶと、

シュタッ!

頭巾を頭に被り、

古代風の衣装に大黒様の仮面を付け、

片手に木槌、

片手で大きな袋を担いだ男が降り立った。

『うんっ、

 立派よっ隼人君!

 さぁみんなを助けに行くわよ』

隼人の姿を見たラビは満足そうに頷き、

ワニ女とサメ女に攻撃されているバニー達の元に向かおうとするが、

ムンズ!

そんなラビの襟首が持ち上げられると、

『おうっ、

 この状況をどぅ説明してくれるんだ?』

青筋を立てる仮面を被った顔がラビに迫る。

すると、

モグモグ

モグモグ

ラビは口を細かく動かしながら、

『因幡の白ウサギっておとぎ話知っているでしょう?

 それが答えよ』

とあっさりと答えた。

『はぁ?

 おいっ、

 全然説明になってないだろう。

 ちゃんと説明をしろ!

 何で俺が大黒様にならないとならないんだよっ』

そんなラビに隼人は掴みかかると、

『仕方がないでしょう?

 この場にいる男の子は貴方だけなの。

 女の子がこの変身を行うと弁天様になっちゃうのよっ、

 それじゃぁ、あの二人を倒せないの。

 隼人君、

 いま貴方が担いでいるその袋がココでは必用なの』

急かすようにラビはそう答えると、

『はっはぁ…』

大黒様の姿をした隼人はキツネに抓まれたような表情をする。

そして、

『さっさとみんなを助けるの!

 言っておくけど、

 大黒様はシバ神が転じたもの、

 戦いの神様なんだから!』

ラビは声を上げ、

隼人を思いっきり突き飛ばした。



ハァハァ

ハァハァ

『ほほっ、無様ね

 すっかり赤むけにされてもまだあたし達に立ち向かってくるなんて』

サメ女・ワニ女の攻撃に全身傷つき、

まさにボロボロ状態になってしまった

バニーエンジェル達をサメ女は勝ち誇ったように見つめていた。

そして、

『ワニ女、

 さっさと片付けてしまいましょう』

と自分を抱えるワニ女に向かって命令をすると、

『は・い』

ワニ女は抑揚の無い声で返事をする。

『ハァハァ

 ねぇ、

 何かおかしくない?』

サメ女達のやり取りを聞いていたバニーイエローが

バニーブルーに向かって話しかけると、

『おかしいって?』

荒い息をしながらバニーブルーは聞き返す。

すると、

『なんかさ、

 あのワニ女…

 自分の意志で闘っている。っていうよりも

 あのサメ女に操られて居るみたい』

バニーイエローはワニ女がサメ女の操り人形にされていることを指摘した。

『あぁ、イエローもそう感じていた?』

『じゃぁ、ブルーも?』

『あたしもそうじゃないかな?

 って思っていたよ』

『でも、操られていたとしても、

 どうやってそこを突くの?』

『あのサメ女の攻撃を止めることが出来れば』

バニー達はひそひそ話をしている最中にも、

ブンブンブン!

ワニ女はサメ女を振り回しはじめた。

『くるわっ!』

それを見たパープルが声を上げると、

ザザッ

バニー達は一斉に身構える。

『なんとかあのサメ女を止めることが出来れば…』

ぐるぐる回るサメ女を目で追いながらバニーイエローはそう思い、

ズイッ

一歩前に出た。

『イエロー!

 何をするの?』

それを見たバニーブルーが声を上げると、

『あたしがサメ女を止める、

 その隙にみんなはワニ女を!』

バニーイエローがそう怒鳴るのと同時に、

シャッ!

イエロー目がけてサメ女が空中を飛んできた。

『来る!』

クワッ!

口を大きく開けるサメ女を見据えながら、

バニーイエローは覚悟を決めたとき、



シュッ!

カッ!

一本の小槌が飛んでくるなり、

イエローとサメ女の真ん中に突き刺さると、

グンッ!

一気に巨大化する。

『何ッ!』

突然目の前に現れた巨大小槌にサメ女は驚くが、

だが、宙を飛ぶサメ女を止める術もなく、

また自分をキャッチすることになっていた相棒のワニ女は

バニー達の後側に回り込んでしまった後だった。

『きゃぁぁぁぁ!!

 止まってぇぇぇぇ!!』

止める者もなく、また止まる術もないサメ女は

見る見る迫ってくる小槌に向かって悲鳴を上げるが、

ゴォォォン!!!

その声が尽きる直前、

小槌に激突してしまうと、

ズルッ!

バタン!

白目を剥きながらその場に落ちてしまった。

『なにが…』

急展開の事態にバニーエンジェル達が呆気にとられると、

『ははははは!!』

とあるビルの屋上で煌々と夜空を照らし出す月をバックに、

古代風の衣装を身に纏い、

大黒様のお面を付けた男が大きな袋を担いだ姿を見せる。

『誰?』

『また新しい変態怪人?』

袋を担ぐ男をバニーエンジェル達は怪訝そうに見つめると、

『平和な街を脅かす変態怪人よ、

 阿漕なマネはおやめなさい』

と白目を剥くサメ女を指さし男が口上を言うや否や

『トゥ!』

シュタッ!

かけ声と共にバニーエンジェル達の前に降り立った。

その男の身なりを見た途端、

『はぁ?』

バニーエンジェル達は一斉に引いてしまうと、

ツツーッ

大黒様の仮面を被る男の頬に冷や汗が流れ落ちる。

だが、

『ほらっ、

 何をしているの』

の声と共にラビが姿を見せると、

『あっあぁ』

大黒様の仮面をつける男の脇腹を蹴飛ばした。

『痛っ!』

打ち所が悪かったのか、

脇腹を押さえながら男は痛がってしまうと、

『ラビ!

 この人は?』

咄嗟にバニーブルーが尋ねる。

すると、

『ふふっ、

 聞いて驚きなさい。

 助っ人の大黒仮面様よ!』

ラビは意味深な含み笑いをしながらそう返事をした。

『だっ大黒仮面ん?』

『何か近寄りたくないような…』

『ひょっとして、アキバ系ってヤツぅ?』

『うわぁぁ、キモイ…』

それを聞いたバニーエンジェル達は一斉に身を引き、

一方で大黒仮面と紹介された男はショックを受けたのか、

ガックリと両手をついてしまった。

『もぅ、何落ち込んでいるのよ、

 さっさと仕事をしなさいよ』

そんな大黒仮面に向かってラビは声を上げると、

痛みを堪えながら大黒仮面は立ち上がり、

ブワッ!

担いでいた袋をバニーブルーに素早く被せた。

『キャッ!』

『ブルーに何をするのよ!』

ブルーの小さな悲鳴が上がり、

他のバニーエンジェル達が男に詰め寄ろうとするが、

パァァァ!

バニーブルーを包み込んだ袋が光り輝くと、

その中よりすっかり傷が癒え、

またバニースーツが元に戻ったブルーが元気良く飛び出してきた。

『見ての通りよ!

 みんな、この袋の中に入って

 スグに元気になるから、

 ほらっ、

 大黒仮面っ

 さっさとする』

呆気にとられるバニーエンジェル達をラビはそう指示すると、

『誰が大黒仮面だ!』

と男は怒鳴りながらラビに迫った。

だが、

『へぇぇ…

 ダサイけどいいか』

『味方なのなら

 この際どうでもいいわ』

『ねぇ、さっさと治しよ』

さっきまでの態度とは打ってかわってバニーエンジェル達は

そう言いながら大黒仮面の前に行列を作った。

『こいつら…』

そんなバニーエンジェル達の姿に大黒仮面は

愚痴をこぼしながらも次々と袋で被せると、

シュタン

シュタン

サメ女の攻撃で傷だらけにだったバニー達は傷が癒え、

また、破れ放題だったスーツも綺麗に戻ると、

『よしっ!』

『うんっ』

力が漲ってくるのを実感しながら、

『狙いはサメ女よっ、

 ワニ女は相手にしないで』

と声を上げながら一斉に地面に落ち、

身動きが取れないサメ女目がけて飛び出していった。

そして、最後にイエローが戦いに向かおうとしたとき、

『そうだ、大黒仮面、

 あのワニ女は操られているだけなの。

 彼女を元の女の人に戻してあげて、

 あなたなら出来るでしょう?』

と言い残して戦いの中へと戻っていった。

『だってさ、

 隼人君』

そんな彼女たちの後ろ姿を見ながらラビは大黒仮面を小突くと、

『ちっ、

 仕方がないな』

大黒仮面はそう言い残してクルリと背中を向け、

ギュッ!

人形のように立ちつくしているワニ女へと向かって行くと、

ブワッ!

その袋を大きく広げる。



クワッ!

『あのれ、バニーエンジェル!!』

相棒を失い、

口を大きく開け威嚇するサメ女に

『散々痛めつけてくれたわねぇ』

『あんたの相棒のワニ女は大黒仮面が元の女の人に戻したわ』

バニーエンジェル達は口々にそう言うと、

一斉に攻撃を開始しようとした。

だが、

『チィ!』

バニーエンジェル達の攻撃を受ける前に、

サメ女は大きく尾びれを叩くと、

宙高く舞い上がり、

『今夜は小手調べよ、

 今度会うときは只では済まさないわ!』

と叫ぶと、

ヒュン!

サメ女は夜の闇の中へと姿を消してしまった。



「先生、おはようございます」

「はぅ、おはよう」

翌朝。

ここはとある街にある

ごく普通の高等学校。

学校へと向かう生徒の中に酒江由紀の姿があった。

「(ちっ、

  バニーエンジェルめ、

  あと一歩だったのに)}

生徒に向ける笑みとは裏腹に由紀は心の中で悔しがっていると、

「あっ、酒江先生」

彼女の親友である長田香織が声を掛けてきた。

「香織っ、

 やめてって言ったでしょう?

 その先生呼びは」

香織が発した先生という言葉に由紀は軽く身震いをしてみせると、

「じゃぁ、由紀っ

 あのさ、

 あたし、昨日の夕方から何をしていたんだっけ?」

と尋ねてきた。

「はぁ?」

彼女のその問いに由紀は首を捻ってみせると、

「うーん、

 夕方からの記憶がないのよぉ、

 気がついたら今朝になっていて、

 それに、なんだか思いっきり運動をしたような気も…」

口に人差し指を当てながら香織は記憶を探ろうとする横で、

「そうか、記憶が無くなったの…か」

そう呟く由紀の口が

ニヤリ

とかすかに笑った。



おわり