風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−強敵・アリジゴク女−
(前編)



作・風祭玲


Vol.496





『うぎゃぁぁぁぁ!!

 煙がぁぁぁ
 
 体がぁぁぁ

 体が痺れるぅぅ!!』

「いまだ!!

 バニーブルー!!」

「うんっ!

 いくよっ

 バニーフラーッシュ!!」

『ブンブン総帥!!

 申し訳ありませ…』

ブチッ!!!

ザァーーーーーー…

『ふっ、ハチ女め、

 あれだけの大口を叩いておきながらこの有様か』

予想外の煙幕攻撃によって体の動きを封じられたハチ女目掛けて

バニーエンジェルがバニーフラッシュを放った途端、

ゴーストバク総帥・ブンブンは戦闘の成り行きを映し出していたモニターのケーブルを引き抜き、

苛立ちを露にしながらそう呟いた。

すると、

『総帥!!』

脇で控えていた女性怪人たちが一斉に一歩前へと踏み出し声を上げた。

『………』

この声にブンブンは答えず視線だけをその怪人達へと向けると、

『ハチ女の弁明をするわけではありませんが…

 彼女はコレまでの怪人たちよりもバニー共を追い詰めまし、

 その功績は認めてあげても…』

と怪人・タマムシ女は声を張り上げる。

『で?』

『え…』

『それで…?』

『あっあの…』

『では、貴様がウサギ狩りに行くのか?』

タマムシ女の話の腰を折ったブンブンはそう尋ねる。

すると、

『はっ

 総帥のご命令とあらば!!』

ブンブンの言葉にタマムシ女は語気荒くそう返事をすると、

ズシン!!

『お待ちください!!』

突如ゴーストバグ本部を突き動かすような振動が襲い、

その直後、女性の声が鳴り響いた。

『何者だ!!』

その声に成り行きを見守っていたオケラ男が飛び出し声を上げると。

ズゴ!!

ゴゴゴゴゴ!!

いきなりオケラ男の真下の地面がえぐられ、

見る見る擂り鉢状の穴となって広がり始めた。

『うっうわぁぁぁぁぁ』

まさにオケラ男を飲み込まんとするかの如く口を開ける穴に

オケラ男は這いずりながら逃げるもの、

『うわぁぁぁ』

ズザザザザザ!!!

ついにその穴に填まってしまうと擂り鉢状の穴の下へ落ちてしまった。

『ひぃぃぃ

 お助けぇ!!』

必死で泣き叫びながらオケラ男は這い上がろうとするが、

しかし、藻掻けば藻掻くほどオケラ男の身体は穴の中へと落ち込み、

ついに穴の底へと落ちてしまった。

『だっ誰か、頼む

 助けてくれぇぇぇ!!』

穴の底でオケラ男は助けを求めながら手を伸ばすと、

ズゴッ!!

いきなりそのオケラ男の腰の両側に二本の角が突き出し、

グイッ!!

角はオケラ男の身体を挟み込んだ。

『うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!』

身体を挟まれオケラ男は泣き割れんばかりの悲鳴をあげると、

その途端、オケラ男の身体が一瞬浮き上がり、

ポイッ!!

っと穴の中から外へと放り出されてしまった。

『え?

 あっあれ?』

放り出されたオケラ男は目に涙を溜めながら呆気に取られると、

ズズズズズ

擂り鉢状の穴の中よりゆっくりとコゲ茶色の殻に覆われた怪人が姿を見せる。

『おっお前は!!』

それを見たオケラ男が声を上げるのと同時に、

『アリジゴク女!!

 誰がここに出て来て良いと言った!』

ブンブンの脇に控えている女性怪人たちが一斉に怒鳴った。

すると、

『フンッ!!』

ズザァァ…

その声に答えるようにアリジゴク女は大きく片足を上げ、

ズシン!!

っと勢いをつけて下ろし、四股を踏んで見せた。

その途端、

ドゴォン!!

ゴーストバク本部が大きく揺れると、

ドゴドゴドゴ!!

女性怪人たちの足元が崩れ、

次々と擂り鉢状の穴を作って行く。

『わっ!!』

『きゃぁぁぁ!』

足元に開いた穴に填ってしまった怪人たちの悲鳴が響き渡ると、

『ほぅ…

 お前がウサギ狩りに行くのか?』

冷静な目でブンブンはアリジゴク女を見下ろした。

『はっ

 ブンブン総帥!

 このアリジゴク女にお任せを』

ブンブンのその声に答えるようにアリジゴク女は跪くと、

『お待ちください、ブンブン総帥!』

アリジゴク女があけた穴より這い上がった怪人が声を上げる。

『なんだ?』

『はっ、

 見ての通り、

 このアリジゴク女は極めて太っている上に非常に醜いです。

 このような怪人が出撃するのは如何なものかと思いますが』

『そうですっ

 総帥っ

 ウサギ共に笑われるのが関の山です

 出撃はこの私、タマムシ女に…』

『ちょっとぉ、

 出撃はこのあたし、カマキリ女よ、

 総帥、このカマキリ女がウサギ共をバリバリと食べてご覧に入れますわ』

『なに、気取っているのよ

 行くのはこのあたしよ!』

『あたしだって!』

と女性怪人たちは順番争いでもめ始めた。

すると、

『黙らないか!!』

争いを制するかのようにブンブンの怒鳴り声が響き渡ると、

『アリジゴク女…

 勝てるのか?』

とブンブンは改めて尋ねた。

『えぇ…

 総帥…
 
 このアリジゴク女にお任せを…』

ブンブンの問いにアリジゴク女は自信満々の顔をしながら頭を下げた。

『ふっ

 良かろう!!

 アリジゴク女、お前に出撃を命ずる』

それを見たブンブンは満足そうな笑みをたたえるとアリジゴク女に出撃を命じた。




「お疲れ様でーす」

「おうっ」

「お先ぃ〜っ!」

「気をつけて帰れよ」

空手部の稽古を終えた俺・赤沢隼人はタオルで汗を拭きながら部室へと引き上げていくと、

一足先に着替え終わった部員達が挨拶をしながら俺の脇を通り過ぎていく。

「ふぅ…

 あのハチ女の騒動から一月か…」

そして、人気の無くなった部室で着替えながら

ふと一ヶ月前にこの学校で繰り広げられた戦闘のことを思い出すと、

空手着を脱いだ自分の身体を見つめ、

無言で陰影が浮かび上がっている腹の溝を撫でながら、

「はぁ…

 男に戻れてよかった…

 もし、男に戻れなかったら俺どうなっていたんだ…」

とハチ女の毒で女性化したあの時のことを思い出すと、

もし、あのまま女性のまま生きることになったことを想像した途端、

ゾワッ!!

言いようもない悪寒が俺の背筋を走り抜けていった。

そして、

「とにかくさっさとゴーストバグを倒して、

 こんな異常な世界とはオサラバしないとな」

俺は決意を新にすると、

バッ

制服を羽織った。



部室の戸締りなどを終え校門を出たときにはあたりはすっかり夕暮れから夜へと趣を換え、

空には星が瞬きだしていた。

「さぁて、

 来来軒でジャンボラーメンでも食って帰るか」

星を眺めながら俺はそう言った途端。

『あっちょうど良かった!』

「え?」

突然響き渡った声に俺は視線を移動させていくと、

モグモグ…

俺の足元で口を忙しなく動かす黒ウサギ・ラビの姿があった。

「うわっ!

 らっラビ!!」

それを見た俺はが思わず叫び声を上げると、

『なによぉ

 まるでお化けに遭ったような声を上げてぇ』

とラビは文句を言う、

そして、

『隼人君…

 …と言うよりバニーレッド』

と俺に話しかけてくると、

「うわっ

 シーっ!!!」

俺はラビの口を塞ぎ黙るように声を上げ、

周囲を気にしながら脱兎の如く走り去り、

そのままとある路地裏へと逃げ込んだ。

ハァハァ

「だっ誰も見ていなかっただろうなぁ…」

いまのシーンを誰かに見られたかと思いながら、

周囲を見回していると、

いきなり、

ガブリ!!

俺の指に激痛が走った。

「いてぇぇぇ!!」

その痛みに俺は悲鳴をあげ、掴んでいたラビを放り出すと

『なっなにするのよ、

 苦しいじゃないのよ!』

と痛がる俺に構わずにラビは文句を言う。

「いきなり、噛み付くな!!」

『仕方がないでしょう、

 苦しかったんだから』

「いきなり俺の前に現れるからだ、

 で、何の用だ?

 ゴーストバグの変態怪人でも現れたか?」

制服を調えながら俺はラビに理由を尋ねると、

『そんなんじゃないわ、

 頼んでいた荷物が届いているのでその引取りの手伝いをして欲しいのよ』

とラビは俺に言う。

「荷物?」

『そうよ、

 この間のハチ女で判ったと思うけど、

 ゴーストバグも大分スキルアップしているわ、

 恐らく、バニーレッド、あなたがバニーエンジェルに加わったことで
 
 戦力バランスが崩れたためにゴーストバグもそれに対応したためだと思うわ、

 だから、バニーエンジェルもそれに対応しないとならないの、

 わかる?』

「はぁ?

 だったら、俺をバニーエンジェルに加えなければ良いじゃないかよ、

 そうすれば、あの変態共も大人しかったんじゃないのか?」

俺が原因であると言うラビの説明にすかさず突っ込み返すと、

『過ぎ去った昔のことをごちゃごちゃ蒸し返すんじゃないのっ

 男の子でしょう?』

とラビは言い返した。

「男の子って、

 その男の子を無理やり女の子にして変態共と戦わせているのは何処のどいつだよ」

ラビのその言葉に俺はすかさずお返しをすると、

『もぅ、

 いちいち細かいわねぇ、

 あんまり煩いとお嫁さんにしちゃうわよ、

 さっ行くわよ』

墓穴掘りを切り上げるかのようにラビは声をあげ、

さっさと路地を進み始めた。

「おっおいっ

(ったくぅ、逃げやがったな)」

そんなラビを俺は呆れながらも後をついて行く。

そして、クネクネと路地を進むこと30分近く掛かって1軒の古風な店が俺の前に姿を見せた。

「ここは?」

時代掛かった黒レンガ作りの店を見ながら俺はラビに尋ねると、

『あぁ

 黒蛇堂って言って、

 まぁ、簡単に言うと”秘密基地”ってとこかしら』

と返事をする。

「はぁ?

 秘密基地ぃ?」

ラビのその説明に俺は呆れながら聞き返しながら

”黒蛇堂”と言う看板が掛かる店を仰ぎ見ていると、

『さぁ、

 なに突っ立っているの?

 行くわよ』

黒蛇堂をジッ眺めている俺にラビはそう言い、

ぴょんと飛び上がると重そうなドアを押した。

すると、

キィ…

とてもラビの体重では開かないと思っていた重厚なドアがまるでラビを招き入れるように開き、

ラビは店の中へと入って行く、

「おっおいっ

 まっマジかよ」

その様子に俺は驚きながら慌てて店の中に入ると、

ドォォォォン!!

表からではさほど大きさを感じられなかった店だったが、

しかし、その内部は古風な木製の棚が整然と並び、

棚に置かれている無数の品物とあいまってまるで博物館の倉庫か資料室を思わせていた。

「すげー…」

無数の品物を見ながら俺は関心をしていると、

『いらっしゃいませ』

と言う声とともに店の奥から初老の男性が姿を見せる。

『あれ?

 玄武じゃない、

 黒蛇堂は?』

男性を見ながらラビはそう尋ねると、

『あぁ、

 黒蛇堂はちょっと店を開けているよ、

 冥界で良い出物があったって朱雀から連絡があってね』

ラビの言葉に玄武と名乗る男性はそう返事をした。

『そう…

 でも、冥界ってなにかお宝でも見つけたの?』

『さぁ?

 まぁ冥界は場所柄お宝が多く出るからねぇ…

 ちょうど昨日から、向こうのビッグサイトでフリーマーケットが開かれているから

 そこだと思うよ』

『そっか

 でも、あそこのフリーマーケットって参加者がスゴイって聞いたけど…』

『あぁ、それは…半端じゃないよ、

 天界・神界・修羅界…ありとあらゆるの世界から好き者が集まるんだからな

 はははは』

とラビと玄武の話は弾む。

そんな二人の会話の腰を折るようにして、

「なぁ、ラビ、

 荷物ってなんだよ」

俺は尋ねると、

『あっそうだった

 ねぇ、玄武、

 頼んでいたものが届いた。

 って黒蛇堂から連絡があったけど』

『あぁ、

 アレね、

 えっと、

 まだ梱包を解いていないから地下の倉庫にあると思うよ』

俺の言葉にラビは荷物のことを玄武に尋ね、

そして、玄武は地下にそれがあると返事をした。

『そう、

 地下ね。

 勝手に取りに行って良いかしら?』

『あぁどうぞ、

 そこのエレベータから降りると良いよ』

玄武はそう言いながら店の端を指差す。

「えっエレベータ?

 そんなものがこの店に?」

玄武の口から出てきた横文字に俺は驚くと、

『さぁ行きましょう』

「え?

 あぁ…」

店の隅へと向かうラビに催促をされて俺はそこへと向った。

すると、

フッ!!

いきなり俺の足元が光ったかと思うと、

ストン!!

っと体が闇に向かって落ちていった。

「うわぁぁぁぁ

 落ちる!!」

『いちいち煩いわねぇ、

 少しは黙っていなさい』

「でっでも」

『大丈夫よ、

 ちゃんと止まるから』

ストーーーン!!

まっ逆様に闇の中へと落下していくその感覚に俺はうろたえるが、

ラビは慣れているのか平然と注意をした。

やがて落ちていく先に小さな光点が見えてきたと思った途端、

ブンッ!!

一瞬のうちに俺は光に飲まれ、

気がつくと俺は周囲が石で作られた部屋の中に立っていた。

「え?

 え?

 えぇ?」

黒蛇堂の店内とは打って変わって天窓より日が差し込む部屋の様子に俺は戸惑うと、

『えっと…

 どれだっけかなぁ…』

そんな俺に構わずにラビは部屋の中に積み上げられている荷物の山に登り探し始めた。

そして、

『ちょっとぉ、

 そんなところでボケってしていないで手伝ってよぉ』

と声を上げた。




「よっ

 どっこいしょっ

 あらよっ」

積まれている荷物を移し変えながら俺はラビの手伝いをする。

そして、手伝いながら

「なぁ、ラビ…

 ここって、地下室だよなぁ…

 なんで日が入っているんだ?
 
 いま外は夜のはずだぜ」

と質問をした。

『ん?

 あぁ…

 地下室といっても君が考えている地下室とは違うわよ、

 玄武が言っていた地下室というのはあくまで便宜的な表現、

 本当は貸し倉庫の中にあたし達は居るの。

 黒蛇堂はねぇ、

 あっちこっちに貸し倉庫を借りているのよ、

 そして、ここはその貸し倉庫の一つ』

「はぁ、そう言うものか…」

ラビの説明になっているのかないのか判らないその言葉に俺は騙されたような気持ちになると、

―○△■・・・・!!

窓の外より聞いたことのない声が響き渡った。

「え?

 外人が居るの?」

その声に俺はそう呟くと、

ニヤッ

ラビの顔が微かに笑い、

『気になる?』

と尋ねてきた。

「え?

 まっまぁな」

ラビの声に俺は返事をすると、

『興味を持つのは良いけど

 程ほどにしなさいよ、

 もし、この倉庫から一歩でも表に出たら君は元の世界には戻れないからね』

とさりげなく注意をする。

「ちょちょっと待って、

 それってどういうこと?」

『ん?

 黒蛇堂の倉庫は同じ世界にあるわけではないの、

 いろんな世界にそれぞれ置かれているわ、

 そして、この倉庫もそのうちの一つ』

「せっ世界って?」

『あぁ、君には理解できないことかもしれないけど、

 この世にはいろんな世界があるのよ』

「それって、SFかなにかで聞いたことがあるなぁ、

 世界は一つだけではなくて良く似た世界が幾つもあるって話だろう」

『そうそれよ、

 で、君はその良く似た世界の一つに居るって事』

「!!!」

ラビの説明がようやく理解できた俺は逆毛を立てると、

『さぁ、

 さっさと探しましょう』

とそんな俺を横目で見ながら荷物の捜索を再開した。



それから約1時間後…

キィ…

黒蛇堂のドアを開けながら、

『じゃぁ、黒蛇堂によろしくって伝えといてね』

と言葉を残してラビが先に表に出ると、

「あっ

 では失礼します」

両手に紙袋を提げた俺も追って外へと飛び出していく、

そして、先を進むラビに

「おいっ待てよ!」

と声をかけると、

タンッ

俺の声が届いたのかラビはその場に立ち止まり、

ジッと俺を見つめる。

「なっなんだよっ」

『ふふっ

 後ろを振り返ってごらん』

含み笑いをしながらラビは俺にそう言うと、

「え?」

ラビのその言葉に誘われて俺は振り返った。

すると、

「え?

 あれ?

 そんな…」

ついさっきまでそこにあった黒蛇堂の建物が姿を消し、

ポッカリと、コイン駐車場が空間を空けていた。

「どっどういうこと?」

駐車場を眺めながら俺は呆然としていると、

『黒蛇堂そのものも

 異世界から異世界へと移動するお店なのよ、

 そして、黒蛇堂を必要としている者の前にのみ姿を現すのよ』

とラビは説明をした。

「はぁ」

ラビの説明に俺はただ関心をしていると、

ズズズズン!!!

いきなり俺の下の地面が揺れ、

ボコンッ!!

俺の居るところを中心にして丸い穴が開いた。

「うわっ」

スタッ!!

反射的に俺は穴の外へと飛ぶと、

『この匂い、

 ゴーストバグよ!!』

毛を逆立ててラビは注意をした。

「わかってるって」

ラビの言葉に俺は中段の構えをして返事をする。

そして、

「さぁて、

 こんどはどんな奴だぁ?」

っと気合を入れながら広がっていく穴を見つめていると、

ドォォォン!!

グラグラグラ!!!

再び地面が揺れ、

ボコッ

ボコッ

ボコッ

俺の周囲に次々と穴が開いて行った。

「ちっ

 地下か…」

なかなか姿を見せないその様子に俺は舌打ちをしていると、

『桃栗三年柿八年、いつか見てやる日の目を…と…』

と地面の中より声が響き、

「え?」

その声に俺が驚くと、

ズドォォォォォォン!!

いきなり目の前に土柱が立つと、

『どすこぉぉぉぉい!!!』

と言うかけ声とともに大きな2本の顎を突きたて巨体の怪人が姿を見せた。

「うわっ!!」

怪人の登場に俺は声を上げると、

『バニーレッド、早く変身して!』

ラビが声を上げた。

「わっ判った!」

ラビの声に俺は一時的に姿を隠す場所へと走っていこうとしたが、

しかし、

『逃がさないよ!!』

巨漢の怪人はそう叫ぶと、

ドドドドド!!!

その体つきと思えない素早さで俺に襲い掛かってきた。

『どすこいっ!!』

怪人の気合の声と同時に襲ってきた”ぶちかまし”に俺は吹き飛ばされると、

俺は傍の公園まで飛ばされ、そのまま生垣に突っ込んでしまった。

バキッ

ザザザザ…

ドサッ!!

「うげぇ

 なっ何だこいつ!!」

生垣がクッションとなって叩きつけられはしなかったが、

しかし体中から来る痛みを堪えながら改めて怪人を見ると、

『ふんっ!!』

怪人は気合を入れながら腰を落とし、

そして、

ズサッ!!

っと片足を高く掲げたのち、勢い良くその脚を下ろした。

ドスンッ!!!

怪人の脚が地面に着くのと同時に、

ボコ!!

ボコ!!

ボコ!!

道路や公園に擂り鉢状の穴が次々と開き、

遊具などを飲み込んでいく、

「こいつ…

 相撲取りの怪人か?

 なんかえらくぶっさいくな奴だけど

 でも、すげー攻撃力だ…」

たった1回の四股での破壊力に俺は目を剥くと、

『ふふふふっ

 さぁ

 バニーエンジェル、

 出ておいで!!』

と怪人は叫び声を上げた。

しかし、その女性を思わせる声に俺は、

「なんだ、アイツ、

 女だったのか…」

と改めて怪人を見ると、

確かに胸は出て、

腰周りもどこか女性的な特徴があったが、

しかし、それを遥かに上回る体積の大きさに俺はかつて大相撲を席巻した巨漢力士を連想した。

「…それにしても…

 どう見えも…

 関取にしか見えないな…」

体重は200kgを超えているのだろうか、

身体を揺らせ、

ノッシ

ノッシ

と歩き始めたその姿に俺はそう呟くと、

ジロッ!!

怪人の目と俺の目が一瞬、合い、

「え?」

そのことに気づいた俺が慌てて視線を逸らすと、

『そこっ

 何かくれているの?

 この、アリジゴク女の醜い姿がそんなに見たいの?』

と俺に向かって叫んだ。

「うっ

(そっか、アリジゴク女だったのか)」

アリジゴク女の自己紹介に俺はあの怪人がアリジゴクの怪人であることを頭にインプットすると、

「とにかく…

 バニーレッドに変身をしないと…」

と思いながら制服のポケットに入れてあるチョーカーに手をしのばせる。

すると、

『フンッ!!!』

アリジゴク女の掛け声が上がると、

追って、

ズシン!!!

と四股の音が鳴り響いた。

バコッ!!

ズザァァァァ!!!

「うわっ!」

その音ともにいきなり俺の真下の地面が陥没し生垣を飲み込んでしまうと、

俺は炙り出されるように飛び出していった。

『なーんだ、

 バニーエンジェルではないのか』

生垣から飛び出した俺をシゲシゲと見ながらアリジゴク女はそう呟く、

そして、

『まぁ、いいわっ

 思いっきり運動をしてちょうど喉が乾いたところだから、

 お前のエキスを頂こうかしら』

カシッ

カシッ

っと突き出した顎を動かしアリジゴク女は俺を見据えながら迫ってくる。

「くそっ」

俺は迫ってくるアリジゴク女から逃げおおせそうなルートを探るが、

アリジゴク女が開けた穴と公園の壁に阻まれ

なかなか脱出ルートが見つからなかった。

「ちくしょう!!」

ジリジリ公園の奥にある砂場へと俺は追い詰められ、

そして、ついに

ドンッ!!

俺の背中に砂場の壁が当たってしまった。

「ちっ!」

事実上逃げ道がないことを知ったとき、

『いただきまーす』

アリジゴク女は涎を垂らしながら俺に襲い掛かってきた。

「うわっ」

襲い掛かるアリジゴク女から身を庇ったとき、

「イエローボンバー!!」

夜空にバニーイエローの声が響き渡り、

シュォォォォン!!

ドゴォォォン!!

バニイエローが放ったイエローボンバーがアリジゴク女の背中に炸裂した。

『うぎゃぁぁぁ!!』

背中を攻撃されたアリジゴク女は叫び声を上げのた打ち回ると、

「さぁ、

 すぐに逃げなさい!!」

と言う声とともに俺の前に黄色いバニースーツに身を包んだバニー戦士が降り立った。

「あっ

 はぁ」

現場の緊張感とは裏腹に俺は間が抜けた返事をすると、

「!!」

バニーイエローは俺の顔を見るなり、

何か気づいたような表情をするが、

俺はそれを尋ねることなくアタフタと立ち上がるとそのまま公園から逃げ出していった。

そして、その直後、

「そこまでよ、

 ゴーストバグの会員怪人!!」

と叫ぶバニーブルーやパープルたちの声が響き渡った。

「あっ

 みんな来たんのか」

バニーエンジェル達の声を聞きながら俺はそう思うと手ごろな路地の中に飛び込み、

そして、周囲に人の目がないことを確認すると、

サッ!!

制服のポケットより真紅のチョーカーを掲げ、

「チェンジ・バニー」

と掛け声を上げた。



つづく