風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−急襲・ハチ女−
(後編)



作・風祭玲


Vol.447





『おーほほほほほ!!

 無駄よ無駄!!

 小娘ごときが束になってもこの紅のハチ女の敵ではない!!
 
 そらそらそら!!』
 
「きゃぁぁぁ!!」

「だめだわっ

 いったん退却!!」

その頃、

校庭ではハチ女の猛攻にバニーエンジェル達が苦戦を強いられていた。

「おのれっ」

「あっイエローちゃん、駄目よ」

退却するバニーエンジェル達の中から、

一人、バニーイエローが飛び出すと、

キッ

っとその仮面から覗く目でハチ女を見据える、

「これでも喰らいなさい!!!

 イエローボンバー!!」

とかけ声をかけると、

ズゴォォォン!!

金色の光球がハチ女にめがけて飛び出していった。

が、しかし、

『ほほほほほほ!!!』

ハチ女は余裕の笑い声を上げると、

『ふんっ』

向かってくる光球を振り上げた片手で軽く往なしてしまった。

「くっそぅ!!」

「今日のイエローちゃん、随分と燃えているのね」

「駄目だって

 みんなで力を合わせないと今度の敵は倒せないわ」

「うん

 確かに、レベルが違うわ」

なおも戦おうとするイエローを押し込めながら

校舎の陰に隠れたバニーエンジェル達はそう話し合うと、

「ところで、

 レッドちゃんはどうしたの?
 
 この学校にいるんでしょう?」

とバニーブルーがなかなか姿を見せないバニーレッドのことを指摘した。

「そういえば…」

「どうしたのかしら?」

ブルーの指摘にバニーパープルやバニーグリーンが周囲を見渡していると、

とそのとき、

『ふふふ

 見つけたわよ

 そんなところに隠れても無駄よ、

 ウサギ娘たち』

ブンッ!!

空に浮かび上がったハチ女の声が響き渡ると、

ヒュンッ

ヒュンッ

っとハチ女より放たれた毒針が一斉にバニーエンジェル達を襲いかかってきた。

「うわっ」

「散って!!」

不意を疲れたバニーエンジェル達が慌てて散開するが、

『ほほほほ

 逃げろや逃げろ、

 でもね、

 お空からは丸見えなのよ、

 ふふ、

 さぁて、どの子兎から始末してあげましょうかしら?

 そうねぇ

 さっきあたしに歯向かったあなたにしましょう』

制空権を握っているハチ女は一気に降下し、

その狙いをさっき攻撃を仕掛けたバニーイエローへと絞る。

「イエローちゃん!」

「危ない、伏せて!!」

「負けるかぁ!!」

バニーイエローにその場から逃げるように指示を出すバニーパープルたちの言うことには従わず、

バニーイエローは降下してくるハチ女と対峙するかのように見据えると、

「イエローボンバー!!」

と腕を構えるのと同時に声を上げた。

しかし、

『ふふふ

 何度同じ手を使っても

 無駄よ無駄ぁ!!』

シャッ

それを見たハチ女が勝ち誇るように手に鈎爪が光せ、

みるみるバニーイエローへと迫っていった。

すると、そのとき、

「レッドウィップ!!!」

突然、叫び声が響き渡ると、

ヒュンッ!!!

真紅の鞭が一気に伸びてくるなり、

ピシィィィッ!!

降下するハチ女の身体を思いっきり叩いた。

『ぎゃぁぁぁぁ!!!』

叩かれるのと同時にハチ女の悲鳴が響き渡ると、

ギュゥゥゥン!!

叩かれた衝撃でハチ女の体は横に飛ばされ、

ドカン!!

そのまま校庭に激突してしまうとぱったりとその場に倒れてしまった。

「レッドちゃん!」

「バニーレッドぉ!」

「ふっ

 愛と情熱の戦士・バニーレッド、ただいま参上!!」

バニーエンジェル達の声が響く中、

校舎2階のベランダに立った俺はビシッとキメポーズをキメながら口上を言う。

「ねぇ、どこかで聞いたようなセリフだけど」

俺の肩に乗るラビがポツリとつぶやいたその言葉に、

「うるさい、気のせいだ」

俺はそう言い聞かせると、

シュタッ!!

一気に飛び降りた。

そして

「いやぁ、遅れてごめん、

 ちょっといろいろあったので」

と訳を言いながらメンバー達と合流した途端、

ピクッ

いきなりバニーイエローの手が動くと、

ピシャッ!!

俺の頬が叩かれた。

「え?」

あまりにものことに俺はあっけに取られていると、

「これまで、どこで何をしていたの?

 あなたこの学校の生徒でしょう?
 
 あんな奴が暴れているのに何しないで見ていたの?
 
 あたし達がどれだけ苦労していると思っているの?
 
 こうしている間にも苦しんでいる人がいるんだからぁ!!」

涙を流しながらバニーイエローは俺に訴えた。

「いやっ

 あのぅ
 
 そういわれても…」

バニーイエローの言葉に俺はどう返事をしていいのか判らず困惑していると、

「ねぇレッドちゃん、

 何か切羽詰ったことでも起きているの?」

とバニーブルーが聞いてきた。

フルフル…

バニーブルーの質問に俺は首を振って答えた後、

「とにかく、

 込み入った話は後、

 いまはあのハチ女を倒すことに専念しよう、
 
 話はそれから」

バニーイエローを宥めるかのように俺はそう言うと、

「でも、全然動かないよ」

バニーパープルがいまだにピクリともしないハチ女を指差すが、

「そう?

 じゃぁさっさとやっちゃってバニーブルー」

俺はバニーブルーに倒れたままのハチ女を始末するように頼んだ。

ところが、

ピクッ

『むわだ

 むわだよ』

もはや復活は無いと思っていたハチ女が身体を奮い立たせながら起き上がってくると、

「げっまだ生きていたの」

「うわぁぁぁ

 タフぅ」

俺達バニーエンジェルは驚くのと同時に皆一斉に縮み上がってしまった。

「どっどうする?」

「頑丈…」

「倒せるの?」

「駄目よみんなあきらめちゃぁ」

「じゃぁ、何か策はあるの?

 レッドちゃん?」

弱気になったみんなを励ますように言った俺の言葉にバニーブルーがた尋ねた。

「うん

 まぁね
 
 昨日TVでハチ取り名人のことやってたでしょう」

バニーブルーの声に俺は昨夜観たTV番組のことを言うと、

「あぁ、観たそれ、

 なんか煙を焚いてハチを麻痺させたんでしょう?」

バニーグリーンがすかさず返事をする。

「そー

 それで、ハチ女も煙に弱いんじゃないかなぁってね」

「そっかぁ

 煙かぁ」

「でも、煙なんてどうやって起こすの?

 燃える物なんてないよ」

「ふふん、

 あたしに任せて」

あることを思いついていた俺は意味深な笑みを浮かべると、

「でね、こうして欲しいんだけど」

と他のバニーエンジェル達に思いついた作戦を小声で話した。



「大丈夫かなぁ…

 みんな」

「よいしょっ

 時間稼ぎということで適当に往なしてと言っておいたから、
 
 たぶん、大丈夫だと思うよ」

校舎裏にバニーイエローとともに来ていた俺は、

別れた仲間達のことを気遣うバニーイエローにそう言うと、

部室棟の周囲に置いてあった草の束を校舎裏に置いてある焼却炉に次々と放り込んでいた。

「こんなので大丈夫なの?」

「うん…

 乾ききっていない草って、ものすごい煙を出すのよ、

 もっとも、火をつけるのも大変だけどね、

 でも、その辺の準備は万端にしておいたから。

 まぁ問題ないね」

ウィンクをしながら俺はそう言うと、

「はぁ…」

バニーイエローは関心したように頷き、

「でも…」

とつぶやきながら俺の足元を見た。

「なにか?」

バニーイエローの視線に俺は聞き返すと、

「うっうん

 でも…いいの?」

と俺の足下を指さし尋ねた。

「あっあぁ

 大丈夫
 
 大丈夫」

ガサッ

心配するような目つきのバニーイエローを安心させる様に俺はそう返事をして。

足下に置いてある新聞紙の束を軽く蹴飛ばした。



「ふぅこれでいい」

先に丸めた新聞紙を適当に配置した後

持ってきた草の束を放り込んだ俺は

パンパン

と手を叩きながら、

新聞紙と草で一杯になってしまった焼却炉を眺めていると、

「ねぇ、この草を集めているときに部室の方を見ていたけど、

 なにかあったの?」

とバニーイエローがやたらと部室の方を気にしていたことを尋ねた。

「え?

 えぇ…

 ちょっとね、

 あのハチ女が来ないか…心配だったから」

「ふーん」

バニーイエローの言葉に俺は頷いていると、

「ねぇ、バニーレッドって何年の何組なの?」

と今度はバニーイエローが俺に聞いてきた。

「え?」

バニーイエローのその質問に俺は驚くと、

「べっ別にいいじゃないっ

 生身で会うわけではないんだから」

と言い分けをすると、

「あら、あたしは別に構わないわ、

 そうだ、あたしのクラスと名前、教えておくね…」

「いっいいよ、あたしは」

自分のクラスと本名を言おうとするバニーイエローの言葉をさえぎるように俺は声を上げ、

「じゃぁ、

 点火するよ」

と言うと、

用務員室からくすねてきたマッチで手にした新聞紙に点火した。



パキパキパキ!!

モクモクモク!!

火がついた新聞紙を焼却炉に放り込み、

そしてしばらくして煙を噴き上げながら草が燃え出し始めると、

「うん、大丈夫だ」

投入口と煙突より吹き上がり始めた煙を確認した後、

バタン!!

と焼却炉の蓋を閉じる。

「え?

 何で蓋を閉じるの?」

「ん、こうして蓋を閉じて、酸欠状態にして、

 奴が来たときに開けるのよ、

 すると、激しい煙があのハチ女を襲うことになるからね」

蓋を閉じたわけを聞くバニーイエローに俺はそう訳を説明すると、

「よーし、

 ラビッ
 
 みんなを呼んできて」

俺はラビにバニーブルー達にハチ女をココに誘ってくるように依頼した。

「はいはい」

俺の依頼にラビは面倒臭そうな表情をしながら

シュタッ

脱兎のごとく消えていった。

ゴォォォ…

蓋を閉じられた焼却炉の中では雑草が燻り気味ながらも燃えていく音が響く、

「ねぇ」

そのとき、バニーイエローが俺に声を掛けると

「さっきは

 その…ごめん」

と謝りながら俺に頭を下げた。

「あぁ、

 あのこと?」

彼女の謝罪に俺は気にしていないような仕草をすると、

「あたし、

 ちょっと熱くなっちゃっていたから」

「いぃっていぃって

 それよりも、
 
 来たよ!!」

バニーイエローに俺がそういった途端、

「レッドちゃぁぁん

 イエローちゃぁぁん
 
 連れてきたよ」

バニーブルーの声が響き渡ると、

『まてぇ!!』

逃げるバニーブルーやバニーグリーンの後を追いかけてハチ女がこっちに向かってきた。

「よしっ

 やるよ!!」

逃げるバニーエンジェル達を追いかけてきたハチ女の姿を見た俺は

バニーイエローの方を向いて尋ねると、

「えぇ!!

 何時でもオッケーよ」

バニーイエローは大きく頷いて返事をした。

そして、

ダッ!!

そのまま燃え盛る焼却炉の裏に隠れバニーブルー達が来るのを待ち構えた。

「きゃぁぁぁぁ!!」

『待てぇ!!』

タッタッタッタッ!!

悲鳴とともに接近してくるバニーブルー達の足音に耳を澄まし、

「きゃぁぁぁ!!!

 あとはよろしく

 レッドちゃん、イエローちゃぁぁん!」

と響き渡るバニーブルーの声とともにバニーの一団が焼却炉の前を一気に走り抜けていくのを確認した俺は

「いまだ!!」

と一気に飛び出し、

「ハチ女!!

 これでも喰らえ!!」
 
そう叫び声を上げながら

ガバッ!!

焼却炉の蓋を一気に開けた。

すると、

モワッ!!!

まるでキノコ雲の様な煙の塊が焼却炉の納入口から立ち上がると、

『なにっ』

ハチ女に向かって煙が一気に襲い掛かっていく

『うぎゃぁぁぁぁ!!

 煙がぁぁぁ
 
 体がぁぁぁ

 体が痺れるぅぅ!!』

煙に飲み込まれたハチ女は悲鳴を上げながら

ボタッ!!

とその場に倒れるように落ちてしまうと、

『うぐぐぐぐぐぐ』

煙によって体の自由を奪われたのか、

その場でのた打ち回り始めた。

「いまだ!!

 バニーブルー!!」

ハチ女が動けなくなったのを見届けた俺はバニーブルーに向かって叫ぶと、

「うんっ!

 いくよっ

 バニーフラーッシュ!!」

作戦が上手く成功し引き返してきたバニーブルーのその掛け声と共に

金色の兎が俺の俺の目の前を駆け抜けていくと、

『ブンブン総帥!!

 申し訳ありませーん!!』

と叫ぶハチ女を蹴散らしていった。



「ふぅ

 強敵だったわね」

「うん、

 それだけゴーストバグも本気になってきた…
 
 ということかしら」
 
「かもね…」

ハチ女が居た影を眺めながら俺達、バニーエンジェルはそう言い合っていると、

「あのぅ…、

 ハチ女に操られていた人たちも元に戻ったようよ」

表の様子を見ていたラビが戻ってくるなりそう報告をした。

「そう」

「じゃぁ、あたし達も引き上げますか」

「そうね」

「レッドちゃん、イエローちゃん

 後、お願いできる?」

「えぇ、いいわっ

 適当にごまかしておくから」

「じゃぁ今日はここで解散しましょう」

「反省会はまたいつものところで」

「はいはい」

「じゃぁねぇ」

「気をつけてぇ」

手を振ってバニーブルー達が引き上げていくのを見送った俺とバニーイエローだったが、

「あっそうだ!!」

そのときになって俺は圭子のことを思い出すと、

「どうしたの?

 バニーレッド?」

「ちょっとあたし、

 ここにいる場合じゃないんだ。

 悪いけど、

 ココお願い」

俺の声に驚くバニーイエローにそう言い訳をすると、

「あっちょっと!!」

呼び止めるバニーイエローの声を振り切って脱兎のごとく駆け出していった。

そして、校舎裏から表に向かう途中で変身を解くと、

俺の体は胸が膨らんだ女の体ではなくいつもと同じ男の肉体に戻っていた。

「おぉっ

 男に戻っている!!」

体中から伝わってくる男の体の感覚に俺はホッとするが、

けど、ハチ女を退治し終わった後なので、

果たしてラビが言ったことが本当なのかどうかまでは確認できなかった。

「っと、それよりも

 圭子だ、

 あいつ、どこに行ったんだ?」

とりあえず男に戻れた事に安心した俺は

「あれ?」

「何があったんだろう?」

「えっと?」

「確か、校庭に変なのが居なかった?」

「さぁな?

 俺は何も見ていないけど?」

「なぁ何か居たか?」

「さぁ?」

ハチ女の術から解け呆然としている生徒達の中を圭子を探し掻き分けていった。



「居ないか…」

結局、圭子の姿を見つけ出すことが出来ず、

空手部の部室のドアを開けると、

「こらっ、

 どこに行っていたの?」

と言う声と共に圭子が俺を待っていた。

「あっ圭子、

 ここに居たのか?」

圭子の姿に俺はホッとしながらそう言うと、

「へぇぇぇ

 元の男の子に戻ったんだ」

圭子は俺を見ながらそう指摘した。

「おぉ、そうだ元に戻ったぞ」

圭子の言葉に俺は男に戻ったことをアピールするように片腕を上げると、

「よかったぁ」

圭子は表情を綻ばせながら俺に抱きつくと、

その場で泣き出し始めた。

「おっおいっ」

「隼人がこのまま女のままだったらどうしようかと思っていたのよ」

「え?」

「よかった、本当によかった」

「そうか、ありがとう…」

泣き続ける圭子を俺は抱きしめると、

「ん?(クン)」

圭子の体からほのかに煙の臭いが香り、

「なぁ、お前

 煙の臭いがするけど…」

と指摘した。

「え?

 そう?
 
 それなら
 
 隼人からも煙の臭いがするけど…」

俺と圭子は互いに顔を見合わせながらそう指摘し合い、

「あぁ、あれのせいかな…」

部室の表で棚引く煙を指差した。



「なぁ」

「なに?」

「あのハチの化け物はどうなったんだ?」

「あぁ

 バニーエンジェルが倒したそうよ」

「へぇぇ、この学校にもきたんだ

 一度会いたかったなぁ…」

「え?

 興味があるの?
 
 嫌らしい…」

「誰が!!」

「じゃぁ、今度あたしが会わせてあげようか」

「なんだよ、お前の知り合いか?」

「うふっ

 さぁね」



おわり