風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−急襲・ハチ女−
(前編)



作・風祭玲


Vol.446





『そうか

 ノミ男も…終わったか…』

ゴーストバグの本部に総統ブンブンの威厳に満ちた声が響き渡ると、

『申し訳ございませんっ

 この次は…この次こそは!!』

バニーエンジェル対策本部長のオケラ男がブンブンが座る玉座の元にひれ伏しながら許しを請うた。

しかし、

いつもなら雷のごとく浴びせられるはすのブンブンの怒鳴り声がそのときは響かず、

『え?』

何時までも続く不気味な静寂に恐る恐るオケラ男が顔を上げると、

『そうか……』

そう呟くブンブンは何かを決意した表情をしていた。

そして、

ジロリ!

『ふっ

 よかろう、

 今度からはあの者たちに行って貰う…

 もぅよいっ

 貴様は下がれ』

ブンブンはオケラ男を睨みつけそう命令を下すと、

『え?

 それはどういうことで…』

ブンブンのその命令が理解できないオケラ男が首を傾げていた。

すると、

『リストラ…

 ということよ、
 
 オケラ男さん』

ゴーストバグの本部内に女性の声が響き渡り、

スタッ

一人の人影がオケラ男の前に立つと、

『ハチ女、ただいま参上いたしました』

と言いながら頭を下げる。

『こっこらっ

 総帥の御前であるぞ!!

 誰が入ってよいと言った!!』

ハチ女の振る舞いにオケラ男が慌てて怒鳴るが、

『おほほほほほほほほ…

 たかが小兎相手になにを手こずっているのかしら…』

とハチ女は一蹴する。

「なっ!!」

『ほぅ大した自信だな…』

玉座よりブンブンはハチ女性にそのわけを尋ねると、

『ほほほほ

 これまで我がゴーストバグの会員怪人が敗れたのは、

 全て、女であるバニーエンジェル共の色気に惑わされたもの…
 
 バニー共の色気に惑わされ、
 
 そして、奴らの術中に嵌っていく…
 
 まさに、奴らの思う壺…』
 
ハチ女はそう敗北の原因を告げ、

『ほぅ』

それを聞いたブンブンは感心したように頷いた。

そして、

『しかし、女である私はこれまでの愚か者とは違います。

 バニー共がいくら色気を使っても容赦しません。
 
 ふっふっふっ、
 
 生意気な小娘どもをこの針で一刺しにしてご覧にいれてみますわ』

とハチ女が自信タップリに告げると、

『なるほど…

 よかろう、
 
 行ってくるがよい!!
 
 ハチ女!!』

『ははー』

響き渡ったブンブンのゲチにハチ女は跪き、

『では』

と言い残しすと、

ブンッ!!

羽の音を響かせゴーストバグの本部より飛び出していった。



キーンコーン!!

予鈴のチャイムが響き渡る中、

「はぁはぁはぁ」

俺・赤沢隼人はやっと正面に見えてきた月華高校の正門に向かって全速力で走っていた。

「やべー

 完璧に遅刻だぁ!!
 
 しかも、朝練もサボったとなると、
 
 うわぁぁぁぁ
 
 先輩にしばかれるぅぅぅぅ」

そのとき俺の脳裏には遅刻状態の現状よりも、

空手部の朝練をサボって仕舞ったことに対する先輩達の仕置きへの恐怖が支配していた。

「くぅぅぅぅ

 痛恨のミスぅぅぅぅ」

まさに泣きたかった。

無理もない、

男子高校生としての生活と、

美少女戦隊(おぃおぃ)バニーエンジェル・バニーレッドとの二重生活に疲れていたうえに、

昨日は運動部部室の周囲の草刈に借り出されてすっかり疲れ果ててしまったらしく、

今朝、親に叩き起こされるまでぐっすりと寝込んでしまっていたのであった。

「あぁもぅ

 このままばっくれるか…」

半ば諦めながらそう叫んだとき、

タッタッタッタ!!

俺の背後から駆け足の音が響いてくると、

「あらっ

 珍しいじゃない。
 
 隼人が遅刻スレスレだなんて」

と言う声とともに黄土圭子の姿が俺の視界に飛び込んできた。

俺とは幼馴染の圭子だが、

しかし、何か俺に隠し事をしているらしく、

時たま姿をくらませることがあった。

「(まさか…バニーエンジェル?)」

圭子の姿に俺はバニーエンジェルの姿を重ね合わせるが、

しかし、

「(あはは、あの圭子がまさか…

  いくらラビでもそこまで物好きじゃないだろう)」

と頭を横に振りながらそれを否定すると、

「よぅっ

 圭子っ

 お前も遅刻か?
 
 珍しいなぁ」

返事をする。

すると、

「まぁいろいろとあってね」

俺の返事に圭子は難しい表情になると、

それなりの事情を抱えていることを言った。

そのとき、

「ん?、

 圭子、お前、目の回りに隈ができているじゃないか

 ははは…

 なぁに夜更かししているんだよ」

圭子の目に隈ができていることに気づいた俺はニヤケながらそう指摘すると、

「あぁ、これ?

 さっきも言ったでしょう色々あってねって、

 それを言うなら隼人だって目に隈ができているわよ、

 全く…夜遅くまでエッチなビデオなんか見ているからよ」

俺の指摘に圭子はそう返してくると、

「だれが、そんなもん見ているかよ

 俺はお前と違ってそんな不純な物は見ませんよっ」

と俺は言い返す。

「へぇぇ…

 隼人が柄にもなくテスト勉強?

 信じられない?」

「何だよ、文句あるのか?」

「何の勉強だか?」

「お前こそ、何をしていたんだよ」

「さっきも言ったでしょう、

 いろいろだって」

「へぇ…

 何の勉強をしているんだか、

 ははん…

 まぁ、やめとけ
 
 やめとけ
 
 どうせ赤点なんだからな」

「隼人と一緒にしないでよっ

 もぅ、
 
 こっちは、本当に大変なんだからぁ」

「へぇぇぇ

 大変かぁ
 
 お前の口からその台詞が出る方が大変と思うけど」

「うっるさいわねぇ!!」

走りながらそんな口げんかをしているうちに、

遠くに見えていたはずの校門が間近に迫っていた。

ところが、

「あれ?

 生活指導の関水がいない…」

いつもなら校門に立ち、

遅刻してくる生徒達から生徒手帳を没収しているはずの生活指導の関水の姿がないことに俺は気づいた。

「あっ本当だ。

 いない…」

俺の声に圭子も気づくと、

「なぁ、1時間目ってまだ始まってないよな」

「うん、だってほら

 校舎の時計を見て」

そう尋ねた俺に圭子は校舎の時計を指差すと、

「うむ…

 まだだよな…」

俺はそう言いながら関水のいない校門を見つめる。

そして、校門の中から漂ってくる気味の悪い…そんな気配に

「なんか変だ…」

と俺の第六感はしきりに警戒音を鳴らしていた。



タッタッタッ

次第に迫ってくる校門を見据え、

グッ

俺は反射的に気合を入れると、

ダッ!!

一気に校門を抜けた。

すると、

「え?」

目の前に広がる校庭の様子に思わず眼を疑った。

「なっなによ、これぇ!!」

「うっ」

校庭にはおびただしい生徒達や先生達が倒れていて、

こうして立っているのは俺と圭子だけだった。

「どうなっているんだ一体…」

「ちょっちょっと、

 どぅしちゃったのよ、みんな!!
 
 ねぇ
 
 起きてってば」

俺があっけに取られている間に

圭子は近くに倒れている女子生徒を揺り動かす。

そのとき、

『あら…

 遅刻とは感心しませんわね』

と言う声が生徒達が倒れている校庭に響き渡った。

「な?」

突然響き渡った声に俺が振り返ると、

『ふふふふ…』

不敵な笑い声響かせながらハチ…

いや、人の姿をしたハチがサッカーゴールのポールの上に立ち、

こっちをじっと見据えていた。

「ゴーストバグの会員怪人!」

ハチ人間を見た途端、

俺と圭子の口からその言葉が飛び出すと、

「え?」

「なに?」

俺と圭子は慌てて口を塞ぐと互いに見合わせた。

『あら…

 あたし達の事知っているの?
 
 それだけ有名になったのかな?
 
 そうよ、
 
 ゴーストバグ会員ナンバーF-007の紅のハチ女と言ったらあたしのこと…
 
 ブンブン総帥のお許しを得てバニーエンジェル達の臭いを追ってここに来たんだけど、
 
 でも居ないのよねぇ…バニーエンジェル…
 
 ねぇ、あなた達…知らない?』

バニーエンジェルのことを訪ねるハチ女のその声に、

「(まずいっ!

  このままでは圭子に俺がバニーエンジェルであることがバレる!!)」

俺の心の中にその言葉が響き渡ると、

「なんだ、そのバニーナントカっていうのは?」

それをごまかすように叫び声を上げた。

『あら?

 知らないの?
 
 ふぅーん

 有名人だと思ったのにね、

 まぁいいわ、折角だからあなた達を調べてあげる。

 どうやらこの学校で最後の人間みたいだし』

ハチ女は俺達に向かってそう言うと、

ブン!!!

背中の羽を羽ばたかせてふわりと浮かび上がり、

俺達に向かって突進してきた。

「うわっ」

一直線に向かってくるハチ女の姿に俺は慌てて圭子を抱きかかえると、

間一髪、ハチ女をかわした。

『ほほほほ…

 素早いことで』

ブゥゥゥン!!

俺達を捕まえそこなったハチ女は高笑いをしながら高く舞い上がると、

『さぁて

 これはどうかしら?』

と言いながら羽を止め一気に落下して来た。

「うわぁぁぁ!!」

ギュォォォン!!

空から迫ってくるハチ女の姿に俺は慌てて圭子を抱えてその場から逃げ出し、

「そのまま地面に激突しろ!!」

と叫んだが、

『ほーほほほほほ

 逃げ出すのも計算のうちよ』

ハチ女の余裕の声が響き渡ると、

ギュォォン!

ハチ女の身体は地面スレスレで一度ホバーリングをしたのち、

ブンッ

向きをこっちに変えて飛んできた。

「うわぁぁぁ

 なんて奴だぁ!!」

追いかけてくるハチ女の姿に俺は悲鳴を上げ、校庭を逃げ回る。

『ほーほほほほ

 そーら、
 
 逃げろや逃げろ
 
 でも、いつまで走り続けていられるかしら?』

「くっそぉ

 こいつ…

 これまでのアホ怪人とはまるでレベルが違うぞ!!」

後から追って来るハチ女を横目で見ながら

俺はこれまでの怪人と各段に格が違うことに困惑をしていた。

すると、

「隼人ぉ、

 あたしを下ろして!!
 
 早く!!」
 
抱えていた圭子は俺に向かって声を上げた。

「え?

 でも、こんな危ないところでお前を下ろすわけには行かないよ」

圭子の申し出に俺はそう怒鳴るが、

「でも、

 このままじゃぁ隼人、アイツに捕まってしまうでしょう?
 
 こうして逃げるより二手に分かれたほうが」

「それはそうだが…」

俺と圭子がそんなことを話していると、

『ふっ

 すばしっこいっ
 
 ならば』

俺達を追いかけてきていたハチ女はそう呟くと、

ブンッ!!

その場にホバーリングをはじめだした。

「諦めたか?」

動きを止めたハチ女の姿に俺はそう思っていると、

『さぁ

 僕たちよっ
 
 私に力を貸しなさい』

ホバーリングをするハチ女の声が響き渡った。

すると、

ムクッ!!

校庭の方々で倒れていた女子生徒たちが次々と起き上がると、

まるで操られているかのように俺の回りに集まりはじめだした。

「おっおいっ」

「ちょちょっとみんな、どっどうしたの?」

『ほーほほほほ

 何を言っても無駄よ、
 
 あたしの毒を受けた女達はあたしの奴隷…
 
 さぁ、その者たちを取り押さえなさい』

迫ってくる女子生徒たちにハチ女はそう命令を下すと、

まるでゾンビ映画のごとく女子生徒たちが一斉に飛び掛ってきた。

「きゃぁぁぁ!!」

「んなろー」

圭子の悲鳴が上がる中、

俺は襲ってきた女子生徒を空手技で往なすと突破口を開いた。

そして、

「圭子!!

 お前はここを走っていけ」

と叫ぶと、

「隼人はどうするの?」

間髪いれず圭子は聞き返した。

「俺か?

 俺は、アイツを倒す」

圭子の言葉に俺はそう返すと、

「うりゃぁぁ!!」

叫び声を上げながら、

目の前の女子生徒を踏み台にして、

『ふふふ…』

女子生徒たちの後ろで余裕のポーズをとっているハチ女に蹴り技を入れた。



『なっ』

いきなり飛び上がってきた俺にハチ女は驚くが、

しかし、驚く暇もなくその首筋に俺の蹴りが炸裂した。

「ちっ外したか」

足の感触からそう判断した俺は着地をした後、

すぐに体制を立て直すが、

『うふっ』

ハチ女は小さく笑い声をあげる。

「なっなんだよ」

『ふーん、

 男の分際でこの私の顔に傷をつけるだなんて
 
 ふふ、気に入ったわ』

「へーそうかい、

 それは光栄だなぁ
 
 じゃぁもぅ一発その気味の悪い顔にお見舞いをしてやろうか」

ハチ女の言葉に俺はそう言いながら拳を振り上げると、

『ふふふふ…』

ハチ女の口から意味深な笑声が上がった。

「なっなんだ?

 この余裕は…」

それを声に俺は本能的に危機を察すると、

ダッ!!

ハチ女を突き飛ばすように押し出し、間合いを取る。

その瞬間、

ハチ女の背後に突き出ていた斑模様の腹が動いたと思うと、

ヒュッ!!

カッ!!

さっきまで俺が居た空間を何かが飛ぶと、地面に何かが突き刺さった。

「なに?」

俺は構えを崩さずにそこを見ると、

キラッ!!

地面には半透明な針のようなものが突き刺ささり、

ジワッ

っとその周囲を濡らしていた。

「毒針?」

その様子に俺は思わずそう呟くと、

ヒュッ!!

再び針が飛んできた。

「うわっ!!」

それを寸前で交わすと

『ふふっ

 さすがに運動神経は抜群のようね』

とハチ女は俺に腹を向けながらそう告げる。

「なっなんだ?」

驚く俺に

「ふふ…

 あたしのこの毒針の毒はねぇ、
 
 男性ホルモンと結合すると強力な性転換効果を起こしてね、
 
 刺された男はあっという間に女になってしまうのよ…

 ふふ…
 
 だから、

 そこの子みたいに女になってしまうのよ、
 
 さぁ女になってあたしの僕になりなさい』
 
ハチ女の声が響き渡ると、

「え?」

その言葉に俺は女子生徒たちを改めて見る。

すると、確かに女子の制服を着た者のほかに、

男子生徒の制服を着た女性の姿もあった。

「まっマジかよぉ

 お前ら、女になってしまったのかよ」

女性にされてしまった男達の姿に俺は改めて驚くと、

『ふふふ

 わかったぁ?

 さぁ女におなり!』

と言う声とともに

ヒュッヒュッヒュッ!!

俺にめがけて毒針が一斉に飛んできた。

「どわぁぁぁ!!

 フルタイムで女だなんてゴメンだぁ!!」

そんな声を上げながら踊るように毒針を避けるが、

『おのれっ

 ちょこまかと
 
 ふふ
 
 でも、ますます気に入ったわ、
 
 何があってもお前を女にしてやる!!』

逃げ回る俺の動きを追いかけながら、

ハチ女は噴出す毒針の方向を修正していった。

「冗談じゃねぇ!!」

精度を増して襲い掛かる毒針を避けながら俺は怒鳴ると、

「隼人!!

 えいっ!!」

ドン!!

『なにっ!?』

てっきり逃げ出したと思っていた圭子が突然、ハチ女を背後から現れて思いっきり突き飛ばした。

そして、

「こっち!!」

と叫びながら俺の手を掴むと、

一気に俺を引っ張った。

「ばかっ

 まだ逃げてないのかよ」

「隼人一人置いていけるわけないでしょう」

「危ないだろうが」

「それはお互い様」

「とっとにかく逃げるぞ!!」

「うん」

圭子に突き飛ばされて、

ハチ女がひるんだ隙に俺と圭子は手を取って逃げ出すが、

しかし、

『おのれ!!』

体制を立て直したハチ女は俺達に狙いを済ませると、

ヒュッ!!

一発毒針を撃った。

「なっ」

その様子を見ていた俺は咄嗟に圭子を庇うが、

圭子を狙った毒針は

プスッ!!

俺の腕に見事突き刺さると、

その毒を俺の体内へと流し込み始める。

「痛てぇぇぇぇ!!」

「隼人ぉ!!」

俺が上げた声に圭子が悲鳴を上げるが、

「立ち止まるな」

「でっでも」

「いいから!!

 逃げるんだ!!」

早速毒の効果が出たのか

ムリムリムリ!!!

胸が急速に膨らみ始めたのを感じながら、

俺はうろたえる圭子にそう言い聞かせ、

校庭を一気に突き抜けると、

運動部の部室が集まる部室棟へと逃げ込み、

昨日草刈をした雑草の束を押し分けて空手部の部室へと駆け込むと、

「ふっ

 ここなら簡単には見つけられないだろうけど」

と言いながら外の気配を探り始めた。

「それよりも

 だっ大丈夫なの隼人?」
 
「大丈夫かって?

 駄目に決まっているだろう、
 
 ほらっ」

俺の体のことを気遣う恵子に俺はそう言いながら

体型が変わりダブダブになってしまった制服を下から押し上げるCカップに膨らんだ胸を見せる。

「そんなぁ

 あたしよりも大きいだなんて

 ショック!!」

俺の胸を見た圭子はそう嘆くと、

「違うだろうが!!」

即座に俺の怒鳴り声が響き渡った。

「あっごめん」

「あーぁ、くっそぉ

 もぅ下も無くなっているよぉ」

寂しくなった股間を確かめながら俺はそうぼやくと、

「ウソッ

 ほっ本当に女の子になっちゃったの?」

にじり寄りながら圭子は俺を見る、

「もぅほとんどな

 ほら髪の毛も伸びてきた」

いつの間にか鈴の音のような女性の声になってしまった声を上げながら

シュルリ…

俺は肩に掛かりはじめた髪を引っ張って圭子に見せると、

「うー…

 明日からなんて呼べば良いの

 隼人だから隼子ちゃん?」

圭子は女となってしまった俺の名前について悩み始めた。

「楽しんでないか?

 お前…」

その姿に俺はふとそう漏らすと、

「待ってて、

 あたしが何とかしてくる

 あのハチ女なら、隼人を元に戻す方法を知っているかもしれない」
 
立ち上がった圭子は俺にそう言うと、

「隼人はここで待ってて」

と言い残して部室から飛び出していった。

「あっおいっ

 待て!!」

俺は飛び出して行った圭子を追いかけようとしたが、

ガッ!!

体が一回り小さくなり、

緩んでしまったズボンの裾を思わず踏んづけてしまうと、

ドタン!!

とその場にひっくり返ってしまった。

「痛ったぁぁぁ」

モロに顔面を強打し、

ポタポタと鼻血を滴らせながら俺が起き上がったところで、

「あーぁ、

 無様ねぇ…」

と言う声とともに

タンッ

ラビが姿を見せると俺の目の前で口をモゴモゴさせる。

「ラビッ!!

 この非常事態にどこで油を売っていた!!」

ラビの姿を見た俺は思わず叫ぶと、

「あらっ

 失礼ねぇ
 
 あたしは、バニーエンジェル達をここに誘導してきたのよ、
 
 もぅ外では戦いが始まっているわ、
 
 で、レッド、
 
 あなたはこんなところでなんでひっくり返っているの?
 
 あなたこそ、遊んでいる暇はないんじゃぁ?」
 
「あのなぁ!!

 俺のこれを見てなんとも思わないのか?」

ラビの小馬鹿にしたようなセリフに俺は頭にくると、

プルン

と膨らんだ胸を強調して見せた。

「あらっ

 立派なオッパイねぇ
 
 で、それが?」

「それが?じゃないだろう。

 あのハチ女にやられたんだよ、
 
 アイツの毒を受けると男は女にして仕舞んだよ」

「ふぅぅん

 で?」
 
「で?

 ってお前なぁ」

「怒鳴っている時間があるのならさっさと変身しなさいよ、

 変身する際のヒーリング効果でそんな毒、消えちゃうから」

「え?

 そうなの?」

ラビの口から出た意外な言葉に俺の目が点になると、

「あのね

 レッド、あなたこれまで変身したときに何も感じてなかったの?」

「え?

 う〜ん、女になるだけでもショックが大きかったから
 
 そこまで気がつかなかったなぁ…」

ラビの指摘に俺は頭をかきながらそう返事をする。

「まぁ仕方がないわねぇ

 さっ、そんなことを言っている暇はないわ、
 
 さっさと変身して!」

「へぃへぃ」

ラビに急かされ、

俺はポケットから真紅のチョカーを取り出すと、

「チェンジバニー!!」

とかけ声をあげた。



つづく