風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−ノミ男からの挑戦状−



作・風祭玲


Vol.397





『おのれっ!!

 またしてもバニーエンジェルごときにしてやれておって!!』

ゴーストバグの本部に総帥・ブンブンの怒鳴り声が響き渡る。

『申し訳ございませんっ

 この次は!

 この次こそ絶対に!!』

『えぇぃっ、

 その台詞は聞き飽きたわっ!!

 なら、貴様が出撃するがよい』

『ひぇぇぇぇ!!

 そればかりはお許しを!!

 わたくしは実戦能力を持ってない中間管理職のオケラ男でございます。

 そのようなわたくしが出撃していっても総帥の顔に泥を塗るばかりでございます』

怒り心頭の総帥・ブンブンの前にバニーエンジェル対策協議会・議長を務めるオケラ男が

ひれ伏しながら必死で許しを請うと、

『ふわっはっはっはっはっ』

突如、男の笑い声が豪快に響き渡った。

『だれぞ、

 総帥の御前であるぞ』

男の笑い声にオケラ男は肝を潰しながら注意をすると、

ヌッ

闇の中から中肉中背の男が姿を見せた。

『ふっふっふっ

 ゴーストバグ会員ナンバー201!

 ノミの心臓を持つノミ男、ただいま参上!』

ワシワシ

ワシワシ

ノミ男はそう口上を述べると、

せわしななそうに小さな腕を動かし

その一方で、物凄く太くて大きな両足を弄ぶように屈伸運動を繰り返す。

『ほぅ、ノミ男か、

 それだけのことを言うからには

 なにか策があるのだな』

眼光鋭く総帥・ブンブンはノミ男を見据えながら尋ねると、

『ははははっ

 ご安心ください総帥。

 これまでの連中がバニーエンジェルに敗れたのは

 どいつもこいつもその場しのぎの行き当たりばったりの作戦で詰めが甘かったため
 
 故に、バニーどもにしてやられましたが、
 
 しかし、私は違います。
 
 どんなに無敵を誇っているバニーどもと言えども所詮は小娘。
 
 あの小憎らしい仮面の下には我々には見せたくない弱点が山とあるでしょう。
 
 ふふ…』

ブンブンの問いにノミ男は自信満々にそう答える。

すると、

『ほっ本当に大丈夫なんだな?』

と自信満々のノミ男に向かってオケラ男が背後から尋ねた途端。

『うわっ!!』

突然、ノミ男は悲鳴を上げ、

ビンッ!!

っと飛び上がると、

ピンピン!!、

そのまま一目散に柱の影に潜り込み、

『おっ俺の背後に回るな!!』

身体を震わせながら怒鳴り声を上げた。

『なにを…』

オケラ男が呆気にとられている中

『ふっ…

 まぁよいっ

 行ってくるがいい、ノミ男!

 行って、バニーエンジェルどもを叩きのめすのだ!!』

総帥・ブンブンは小さく笑い、

そしてノミ男に向かって声をあげた。



『ヒムカっ

 ヒムカはおるか』

白いモヤに包まれる神殿に女性の声が響き渡る。

(どこだここは?)

『はっここに控えておりますっ』

(えっ俺がしゃべっているのか?)

タタタタタ…

(おっ走り出した?…

 って…うわっすっげー美人のねーちゃんがでてきたぞ)

『ヒムカ…

 外の様子はどうじゃっ』

『はいっ

 黒巫女の軍勢はさらに勢いを増し、
 
 我らを盛んに攻め立てております』

『大丈夫か?』

(あれ?、心配そうな顔になった)

『はっ、

 黒巫女がどのような呪術を用いましてもこの神殿には指一つふれることができません。

 クィーンバニー様、どうか心安らかに…』

(クィーンバニー?

 どこかで聞いたな…

 えっとなんだっけ…
 
 んーと…)

「…わ…

 …かざわ!」

(誰だ?、俺を呼ぶのは…)

「赤沢!!」

「うるせー!!

 いま思い出しているところだ!!

 あっあれ?」

思いっきり怒鳴り声をあげながら俺が起きあがると、

「なにを思い出そうとしているのだ?」

ピシッ!!

と言う声とともに俺の目の前に数学教師の三好がメガネを冷たく輝かせながら立っていた。

「え?

 いやそのぅ…」

誤魔化すように頭をかきながら俺はそう返事をすると、

「ほほう

 机に突っ伏していながらも私が出した問題を解こうとするその姿勢は非常に感激した。

 では、赤沢にこの問題の答を前に出て書いてもらおうか」

嫌みにも聞こえる台詞を言いながら三好が黒板を指さす。

「えぇ!!」

「まさか、これまで寝ていたとでも言うのか」

「いっいやっ…」

「じゃぁ、答えを書きなさい」

「………」

クスクス…

三好とのやり取りにクラスの中から苦笑が聞こえてくる中、

俺は渋々黒板の前に立つと、

こと細かく書き連ねてある問題を眺めた。

「さぁどうした、五十嵐君っ

 好きな問題を一つ…

 いや、全部答えても良いんだよ」

そんな俺を責め立てるように三好が声を上げると、

「ったくぅ…

 こんなもん、分かるわけがないだろう」

そう文句を言いながら俺はチョークを片手に黒板に書かれている問題を改めて眺めた。

とそのとき、

スッ

っと俺の頭の中に問題の解き方が一気に流れ始めた。

「え?」

頭の中を流れていく解き方に俺は驚くと、

それを書き留めるかのように、

カッカッカッ!!

慌てて問題の下に方程式の解法とその答えを書き始めた。

「え?

 なんで…おっ俺…これが判るのか?」

次々と流れていく情報に困惑しなが俺は書き続けていくと、

ザワッ

次第に教室の中からざわめきが起こり始めた。

そして、すべての問題の答えを書き込んだところで俺は手を止めると、

「すっげーっ

 俺、全部答えを書いちまったよ…」

とびっしりと書き込まれた答えを見ながら全問を答えてしまったことに改めて驚く。

そして、振り返ってみると、

「…………」

俺の後ろに立っていた三好はメガネを半分ずり落としながら唖然としていて、

そんな三好の姿に

ニヤリ…

と俺は笑みを浮かべると、

「先生っ

 これで良いですかっ」

とわざと大きな声をあげた。

すると、

ツカツカツカ!!

メガネを直し、顔を真っ赤にした三好が俺のそばに立つなり、

俺が書いた答えを一門一門じっくりとチェックを始めだした。

最初のうち、三好は余裕がある表情をしていたが、

しかし、次第に血の気が引いていくと、

ついにはワナワナと肩を振るわせながら、

「席に戻ってよしっ」

と俺の席を指さしながら怒鳴り声をあげた。

その途端、

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」

教室を揺るがせるような歓声が一斉にわき起こると、

俺は歓声の中、悠然と自席へと戻って行った。



「ちょっと、どうしたのよっ」

数学の授業が終わり、三好が逃げ帰るように教室から出て行くと、

今度は黄土圭子が俺の前に押し掛けてきた。

「ん?

 なにが?」

教科書を仕舞いながら俺は圭子の質問の意味を聞き返すと、

「さっきのことよっ

 なんであんなたがあんなにスラスラと答えを書けたのよっ」

と圭子はさっき俺が三好の問題に答えたことについて詰め寄る。

「あぁ…あれか…

 いやぁ、最初は分からなかったんだけど

 うや、ほらっ

 黒板の前に立ったら、突然答えが頭の中に浮かんできたんだよ。

 いやぁ…俺って天才だったのかも」

ふざけるようにして圭子の質問に俺はそう答えると、

「ジロッ」

圭子は俺を疑り深い目で見つめる。

「なっなんだよっその目は、

 ほらっよく言うだろう、

 能ある烏は身を隠す。って」

圭子の眼圧を押し返すようにして俺はそう言うと、

「それを言うなら、

 能ある鷹は爪を隠す。でしょう。

 どうせ、何かやったんだと思うけど…

 まぁ、あの三好の鼻の穴を開かしただけでも、良しとしますか」

「なんだよっ、その台詞は!

 俺はちゃんと答えたんだぞ!!」

「はいはいっ」

感心したようなバカにしたようなそんな態度をしながら

圭子は抗議する俺に背を向けると

そのまま教室から出ていってしまった。

「なんだよっ

 ムカつくなぁ」

去っていく圭子の後ろ姿を眺めながら俺は隣の机をけ飛ばし、

そして、再び席に座ると

フワァァァ!!

っと大あくびをした。

「ったく

 考えてみたら寝不足なわけだよなぁ…」

そう呟きながら俺は昨日の戦いのことを思い出した。




「こらぁ!!」

ラビからの情報で兎野中央公園に駆けつけてみると、

『イッ・イッ・イー!!』

ゴーストバグの下っ端戦闘員達が円陣を組み気合を入れると、

まるで蜘蛛の子を散らすかのように一斉に散っていった。

そして、俺達バニーエンジェルはスグに散開すると、

下っ端戦闘員達を追いかけ始めたのだが、

しかし、これがいけなかった。

公園内各所に散っていった戦闘員は大したことは出来ないものの、

けど、チョコマカチョコマカと俺達を翻弄する。

そして、ようやく戦闘員の退治が終わったときには、

俺達はヘトヘトに疲れ果ててしまっていた。

「まったく、なんなんだ?

 昨日のあいつらは…」

丁度部活が終わったところで召集が掛かっただけに、

俺の疲労は文字通りピークに達し、

変身を解除して家に帰り着くまでがまさに地獄だった。

「ふわぁぁぁ〜っ」

そんなことを思い出していると、

再び睡魔が忍び寄ってきて、

俺は再び机に突っ伏すとそのまま寝入ってしまった。



「ん?

 あっ」

どれくらい寝ただろうか

ハッ

と俺が目を覚ますと、

すっかり暗くなった教室に一人ポツンと取り残されていた。

「え?

 あっあれ?」

教室内の豹変振りに俺は驚いていると、

カサッ

”逝ってよし”

と書かれた一枚の紙が机の上で静に揺れていた。

「ぬわにが、”逝ってよし”だ」

グシャッ

その紙を握り潰しながら俺が怒鳴り声を上げると、

パサッ

一通の封筒が机の中から飛び出してきた。

「封筒?」

そう思いながら封筒を拾い上げたとたん。

サァー

俺の頭から一気に血の気が引いていった。

『バニーレッド様へ』

そう書かれている封筒を俺は震える手を押させつつ、

封を切り、中に入っている書面に目を通す。

『前略、

 バニーレッドこと、五十嵐隼人殿。

 大切なお話があります。

 つきましては、今宵、兎野中央公園までお越しください。

 早々

 ゴーストバグ会員ナンバー201・ノミ男』

「おっ俺の正体がばれた?」

衝撃的なその文面に俺の心臓は高鳴り、全身から滝のような汗が噴出す。

そして、止めを刺すように一枚の写真が俺をノックアウトした。

それはまさにバニーレッドから五十嵐隼人へ変身していく俺の姿だった。

「いっいつの間に、こんな写真を!!」

おれは食い入るように写真を見据えると、

「まずいっ

 俺がバニーエンジェルだってことがみんなに知れ渡ったら…」

その瞬間、俺の脳裏にみんなから後ろ指を指され、

そして、バニーの格好のまま晒し者にされている自分の姿が映し出される。

「だぁぁぁぁ!!」

そんな妄想を吹き飛ばすように俺は声を上げると、

ダッ!!

俺の秘密を握っているノミ男を倒すために教室を飛び出していった。

「くっそう!!

 なんとしても口封じをしないと!!」

もはや俺の心の中はそのことでいっぱいになっていた。



「あっきたきた!!」

「おーぃ、レッドちゃーん」

学校から飛び出した俺は公園の傍でバニーレッドの姿に変身し、

そしてノミ男に指定された場所に着くと、

そこにはバニーブルーやバニーグリーン、そしてバニーイエロー達が手を振っていた。

「みんな来てたの?」

俺一人だけ呼び出されたと思っていただけに驚きながら尋ねると、

「そーよ、

 ノミ男ってヤツから、

 正体をバラす。

 なんて脅しをね」

「どうやって、あたし達の正体を調べたのかしら」

「そうよ、しかも写真までとってさ」

「ホント迷惑よね」

「ねぇ、レッドちゃんのところにも来たんでしょう?」

バニー達はそう言い合った後、

俺のほうに話が振られた。

「うっうん、まぁ」

バニーブルーからの質問に俺は適当に答えると、

『れでぃーす、あんど、じぇんとるまん。

 私の招待に応えてくださり、

 まことにありがとございまーす』

という男の声が公園に響き渡った。

「だれ?」

その声に俺達バニーエンジェルは一箇所に固まると、

全神経を集中させた。

すると、

「あっあそこ!」

バニーパープルが声を上げ指差すと、

ちょうどそこににある街路灯の上に乗る人影があった。

「あれ?」

「多分」

ザッ!!

即座に俺達は戦闘隊形を取ると、

ビンッ

人影は高くジャンプをすると、

シュタッ!!

俺達の前にすばやく着地する。

『ふっふっふっ

 はじめまして、

 バニーエンジェル!!

 私、ゴーストバグ会員ナンバー201のノミ男と申します。

 お見知りおきを』

と文字通りノミの姿をした小男はそう言うと深々と頭を下げた。

「なっなに?」

「随分と紳士的じゃない?」

確かにこれまでの変態怪人と違って紳士的なその様子に俺達は出鼻をくじかれた感じがした。

しかし、

「で、何が目的だ!!」

一歩前に出た俺がノミ男に目的を尋ねると、

『目的!

 そう、私には目的があるのです』

俺の言葉にノミ男はそう返事をすると、

『ジャーン!!』

と言いながら右手に茶封筒を差し出し、

『ここに、君達のその変身を解いた姿を写した写真のネガが入っています。

 これは、昨日、
 
 私の手の者が戦闘後、
 
 すっかり油断をしている君たちの後をつけ、
 
 命がけの撮影をしたまさにゴーストバグの血と汗の結晶!!

 ふふ

 もしも、ばら撒かれたくなければ

 大人しく私の餌食になりなさい!!』

と声を張り上げた。

「えぇ!!

 後をつけるなんて卑怯よ」
 
「そうよそうよ

 プライバシーを侵害しているわ」
 
「言って置きますけどね、

 肖像権の侵害は高くつきますわよ」

ノミ男の言葉に俺たちバニーエンジェルから一斉にブーイングがあがるが、

しかし、ノミ男は茶封筒を人質のごとく抱きかかえ、

『ははは!!

 なんとでも言え!!

 さぁ、戦闘員のみなさん!!

 バニーエンジェル達を懲らしめてお挙げなさい』

と声を張り上げると、

『イー!!』

ズザザザザ!!

どこに隠れていたのか草葉の陰から一斉に戦闘員が飛び出し、

そして、俺達に襲い掛かってきた。

「みんな!!」

「うん!!」

スグにいつもと同じ戦いが始まったが、

しかし、

『いいのかなぁ…』

ノミ男はそう呟くと、

写真のネガが入った茶封筒を俺達に見せ付ける。

「うっ」

その途端、

俺たち、バニーエンジェルの動きが鈍ると、

その隙を突くようにして戦闘員達が襲ってきた。

「くっそう!!」

苦戦するみんなの様に俺は歯軋りをすると、

「このぉ!!」

シュタッ

俺はウサギの様に一気に飛び上がってノミ男の目の前に着地すると、

「それをよこせ!!」

と怒鳴りながら

バッ!!

ノミ男が抱えていた茶封筒を強引にひったくった。

「ナイス!

 レッドちゃん」

その様子にバニーブルーが声を上げると、

「みんなっ

 これを処分してくる!!」

俺はノミ男からひったくった茶封筒を掲げると、

シュタシュタ!!

っとジャンプをしながら一気に飛び出して行った。

しかし、

『ふははははは!!

 何をしているのかな?

 子ウサギちゃん』

俺の真上からノミ男の声が響き渡ると、

ヒュンッ!!

俺の目の前をノミ男の影が一瞬、通り過ぎて行く。

「なっ」

突然のことに俺は思わず驚くと、

ヒュン!!

再び俺の目の前を影が過ぎ、

『ははは、どこを見ているんだい、

 子ウサギちゃん、

 私はここだよ』

とノミ男の声が響き渡る。

『ははは

 ノミは自分の体長の30倍の高さまで飛び上がることは出来るんだよ、

 そして、目に留まらぬこのスピード、

 私から見れば、君はカメなのだよ』

ノミ男は俺に向かってそう言うと、

ヒュン

ヒュン!

ヒュン!!

と俺の周りをすばやく飛び回った。

「くっそう!!」

文字通り俺はノミ男の掌の中だった。

『さぁ、

 お行儀の悪いウサギはお仕置きをしないとね』

ノミ男はそう言った途端、

ヒュン

パシッ

ヒュン

ガシッ

ノミ男は俺の周りを飛びながら次々と攻撃を仕掛けてくるが、

しかし、俺は攻撃をしのぐのが精一杯で、

こちらから仕掛けることは出来なかった。

「ちっ

 なんとしても、

 逃げ切ってこの写真を処分しないと」

ノミ男の檻の中を俺は必死で掻い潜り、

公園から出ると、裏通りを進み始めた。

『ふっふっふっ

 あのバニーエンジェルが反撃も出来ずに逃げ惑っている。

 完璧だ!!

 私の作戦は完璧だ!!

 さぁ、

 一気に始末をつけて上げよう』

自信に満ちたノミ男の声が響き渡る中、

「ダメかぁ」

俺の心の中にある種の絶望感が沸き起こり始めた。

とそのとき、

ガァァァン!!

突然、大きな音が響き渡った。

「なに?」

その音に思わず振り返ると、

メリッ

そこには信号機のアームに激突しているノミ男の姿があった。

恐らく、俺に攻撃しようと思いっきり飛び上がった先に信号機のアームがあったために

それに激突したのであろう。

「うわぁぁ

 痛そう…」

ノミ男の惨状に俺は思わず口を押さえると、

ズルリ…

ベチャッ!!

血を滴らせながらノミ男は地面に落下し、

『みっ見事な攻撃だ、バニーエンジェル!』

と叫びながら起き上がった。

「いやっ、

 別に攻撃をしたわけでは…」

ノミ男の声に俺はそう言い掛けると、

『だが、これしきで

 敗れる私ではない!!』

俺の声をさえぎるようにしてノミ男はそう叫び再び飛び上がったが、

バリバリバリ!!

『うぎゃぁぁぁぁぁ!!』

その直後、放電光とともにノミ男の絶叫が響き渡ると、

ボタッ

今度は煙を吹きながらノミ男が降ってきた。

「感電か…お約束だな」

道路上に張られている送電線を見上げながら俺はそう呟くと、

『ははは

 むわだむわだ!!

 これで終わりと思うな、バニーエンジェル!!』

ガクガクと震える膝を抑えながらノミ男は立ち上がると、

ビンッ!!

っと飛び上がった。

しかし、

ザクッ!!

何かが切れる音が響くと、

三度ノミ男が落下してきた。

今度は道路の案内表示板に激突したらしい。

「うわぁぁぁぁ」

「悲惨…」

「日本の道路って凶器だらけなのね」

「あたし達も注意しなくっちゃ」

戦闘員を片付けたのか、

バニーブルー達が俺を追って駆けつけてくると、

文字通り、ボロボロになっているノミ男を遠巻きにして見ながらそう呟いた。

「をーぃ、

 文句を言うなら

 役所と電力会社に言えよ」

身体をピクピクさせているノミ男に俺はそう告げると、

ムクリ…

ノミ男は起き上がり、

「くっ

 さすがだな…
 
 しかし、これしきで参る私ではない」

ノミ男は立ち上がるとなおもジャンプをするが、

そんな彼に待っていたのは牙をむいた大都会の空間だった。

四方に張り巡らされた看板やアンテナ、電線が容赦なくノミ男に襲い掛かる。

『かっ返せ…

 おっ俺の写真を返せ!!』

地面に叩きつけられノミ男は這いずりながら俺に寄ってきた。

「うっうわぁぁぁ」

ノミ男の鬼気としたその様子に俺は震え上がると、

「来るなぁぁ!」

と叫びながら茶封筒を抱きかかえて逃げ出してしまった。

『まてぇ

 俺の写真を返せ!!』

逃げる俺を追いかけノミ男は最後の力を振り絞って大ジャンプを仕掛ける。

が…

ドカン!!

今までの中で最も大きい音が響き渡ると、

静寂が辺りを支配した。



ドッドーン

ゴワァァァ

その静寂を破るかのように高架橋の上をトラックや乗用車が走り去っていく。

「とどめは高架橋か…」

「可愛そうに…」

「空高く飛びたかったんだよねぇ」

追いかけてきたバニーエンジェルたちはそう呟きながら見上げると、

高速道路の高架橋に文字通り突き刺さったノミ男の姿があった。

「バニーブルー、

 早くヤツを楽にしてやれ」

息を整えた俺はそっとバニーブルーに囁くと、

「うっうん」

バニーブルーは大きく頷き、

そして、手を掲げ、

「バニーフラーッシュ!!」

と掛け声を上げた。



『ノミ男…終わったか…』

高架橋から少し離れた雑居ビルの屋上に

ちょうど高架橋を見下ろす位置に立つ1人の人影からその台詞が漏れると、

『大口を叩いたわりには呆気なかったですわね』

『まぁそういうものでしょう、

 で、誰が行きますの?』

その影に他の影が寄り添うとお互いに詮索を始める。

すると、

『待ちなさい、

 まずはブンブン総帥の許しを得てからよ』

その言葉とともに、別の影が姿を見せると、

『はっ』

影達はいっせいに頭を下げた。

『さて、バニーエンジェル。

 男どもとは違って、私は容赦はしませんからね』

頭を下げる影を従え、

その者はニヤリと笑うと眼下を見下ろした。



「強敵だったね」

「うん」

「ゴーストバグって変なのばっかりだと思っていたけど」

「まぁまともだった奴かもしれなかったな」

ノミ男が消えた影を見上げながら俺たちバニーエンジェルはそう囁いていると、

…東京に空がないと云う…

ふと、俺の頭の中に千恵子抄の有名な一節が流れていった。

「ノミ男よ、確かにお前は俺達には勝った。

 が、しかし、お前はお役所に負けたのだ」

そう思いながらノミ男から奪い取った茶封筒を握り締めていると、

「ところで、

 レッドちゃん

 その封筒の中身、ちょっと見せて」

とバニーブルーが興味深そうに尋ねてきた。

「え?

 いや、
 
 これはこのまま焼き捨てようよ」

バニーブルーの言葉に俺はそう返事をすると、

「えぇ!!」

バニーイエローやバニーパープルたちが一斉に声をあげ、

「いいじゃない」

「みんなで見ようよ」

「他にどんな写真があるのか見てみたいしさ」

と言いながら俺に詰め寄ってきた。

「え?

 いやっ、
 
 やっぱり良くないよ
 
 うっうん」

俺は冷や汗を流しながらそう返事をすると、

封筒を抱えて一目散に逃げ出した。

「あっ!!」

「待て!!」

「レッドちゃん、ずるい!!」

逃げる俺にバニーエンジェル達が追いかけてくる。

「ダメ、絶対見せられない!!」

そう叫ぶと俺の声が都会の夜に響き渡っていった。



おわり