風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−ゴキブリ男の恐怖−



作・風祭玲


Vol.364





ガラッ!!

「ありがとうございましたぁ!!」

店員達の声に送られて最後の客が店を出ると、

フッ

”居酒屋・ととちゃん”

の看板の明かりが静かに落とされた。

そして、店内と厨房の片づけと明日への準備が終わったころ、

「おうっ新入りっ

 生ゴミは一つに纏めて出して置くんだぞ」

と言う声を残して店長が店を後にすると、

それに続くようにして

「お疲れさま」

と言いながら店員達も三々五々店から出て行く、

しかし、最後に残ったアルバイトの高畠克彦にはまだ仕事が残っていた。

そう、店長に言いつけられた生ゴミを、

ゴミのステーションに持っていくという重大な仕事が残っていたのだった。

「よっこらしょっ」

克彦は一つの袋に纏めた生ゴミを担ぐと、

勝手口より少し離れたゴミステーションへと向かう、

そして、ゴミステーションについたとき、

「うわぁぁぁ!!」

その様子に思わず悲鳴を上げてしまった。

カサカサカサ!!

そう彼の目の前にあるゴミステーションには無数のゴキブリが屯し、

不気味な触覚を盛んに動かしていたのだった。

「うへぇぇぇぇ」

克彦は目を瞑りながら持ってきたゴミの袋を持ち上げると、

ズシンッと適当な場所に勢いよく降ろした。

そして、うっすらと目を開けると、

サササササ!!

彼の足下には逃げまどうゴキブリの姿があった。

「うわぁぁぁ!!」

そんなゴキブリたちの姿に克己は悲鳴を上げ、

「くっ来るなっ!!」

と叫びながら次々と踏みつぶしていくと、

『貴様ぁ…

 良くも私の可愛い子供達を踏みつぶしたなぁ』

と言う声が響き渡った。

「へ?」

その声に克己は振り返ると、

クワサクワサ…

と言う音をたてながら、

ヌッ

言いようもない不気味な怪人が彼の目の前に姿を見せる。

「でっでたぁぁぁぁぁ!!」

それを見た克己はその場で腰を抜かすと、

「お助けぇぇぇ!!」

と叫びながら、這いずるようにして逃げ出してしまった。

しかし、怪人は克己を言う掛けることなく、

『まったく、勿体ない』

と呟くと、

ガサッ!!

ゴミ袋を開けるとモグモグと中の物を食べ始めた。

…帝都に新たな脅威が席巻していく。



キーンコーン!!

ザワザワ…

「おっはよーっ

 隼人、
 
 あれ?どーしたの?
 
 元気ないじゃん」

元気良く教室に入ってきた黄土圭子が俺・赤沢隼人に向かって挨拶をすると、

「あぁ…圭子か…」

俺は彼女を一瞥するとそのまま机の上に突っ伏してしまった。

「どうしたの?」

そんな俺を見ながら圭子は俺の隣に立つ友人の八王寺勝に訳を尋ねると、

八王寺は肩を窄め

「さぁ?」

と言う返事をして見せる。

「?」

圭子はそんな俺を訝しげながら自席に着くと、

フンフン

と鼻歌を歌いながら鞄から取りだした教科書やノートを机の中に仕舞い始めた。

「…随分とご機嫌じゃないか?」

圭子を見ながら俺はそう言うと、

「あら?

 そぉ?」

圭子はニコリと微笑むとそう返事をした。

「気味が悪いなぁ…」

「なによっあたしが鼻歌を歌ってはいけないと言うの?」

「いやっ

 それよりさっ」

「ん?」

「お前っ夕べ…」

と俺が言いかけたところで、

「黄土さーん!!」

クラスの女子が圭子に話しかけてきた。

「…何処に行っていたんだ…」

話の腰を折られた俺は徐々にトーンダウンをしながらそう呟く。

そう、

昨夜、俺は自宅から出ていった圭子の後を追っていくと、

大通りに面した宝石店で盗みを働く妖しげな集団に出くわしてしまった。

そして、その連中に掴まってしまったとき、

あのバニーエンジェルが現れると俺を助けてくれたんだ。

その時まではバニーエンジェルなんて信じてなかったけど、

でも、今度はラビと言う言葉を喋る変な黒ウサギが俺の前に現れると、

俺をバニーエンジェルの一員だと言い、

そして…俺は…

おっおっ俺は……

………女に…

…ばっバニーエンジェルに変身してしまったんだ!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その時の様子を思い出した俺は思わず頭を抱えながら立ち上がると

思いっきり叫び声を挙げてしまった。



「…ぁぁぁぁ…あっあれ?」

ふと気が付くと俺の周囲には人の姿はなく、

まるで、爆心地の如く教室の中にポッカリと開いた空間の真ん中で俺は佇んでいた。

「どっどうしたの?」

「だっ大丈夫?」

「保健室…行くか?」

クラスメイトや保健委員が恐る恐るそう尋ねてくると、

「あっいやっ

 大丈夫だよ、
 
 あははははははは…」

俺は誤魔化すように笑い、大人しく席に座った。



キーンコーン

「あぁ…

 全然っ授業に集中が出来ねーよ」

昼休み…

俺は屋上に出ると、

ボケー

っと昼下がりの街を見下ろしていた。

そして、徐に制服のポケットの中に手を忍ばせると、

コツンっ

俺をバニーエンジェルへと変身をさせるチョーカーが指に当たった。

「はぁ…」

チョーカーを触りながら俺は思いっきりため息を吐くと、

「やっぱ、夢じゃないんだよなぁ…」

と呟くとガックリと項垂れ、

そしてその場に座り込んでしまった。

『力をあわせて、クィーンバニーを探しましょうね…』

その台詞と共に俺に向かって手を差し伸べるバニーエンジェル達の姿が脳裏に浮かぶと、

「だぁぁぁぁぁ!!!

 だーかーらっ、

 俺は男だっつーのっ!!」

俺は頭を抱えながらそう叫んだ。

とそのとき、

バタバタバタ!!!

羽を広げた一匹の虫が俺の頬にとまると、

サササササ!!!

っと下へと降りていった。

「ん?」

それに気づいた俺がその方を見ると、

「げっゴキブリ!!」

そう一匹のゴキブリが屋上の床の上を這っていく様子が目に入ってきた。

「きったねぇっ」

それ見た俺は慌てて袖口で頬を拭くと、

サササササ…

屋上のあちらこちらでゴキブリが蠢いていることに気づいた。

「なんじゃぁ

 これは…」

その様子に俺は慌てて腰を上げると、

そそくさと校舎内に戻って行く。

しかし、

「きゃぁぁぁぁ!!」

「そっちに行ったぞ!!」

「いやぁぁぁ来ないでぇ!!」

校舎内はあちらこちらを徘徊するゴキブリで大混乱に陥っていた。

「なに?」

校内挙げての捕り物を俺は唖然としてみていると、

ぶ〜ん…

一匹のゴキブリが俺の方に向かってきた。

「!!、なろぅ!!」

俺はすかさず上履きを手にとると、

パシッ!!

真横の壁にへばりついたゴキブリを思いっきりひっぱたいた。

「へんっ、

 ざまみろ!!」

そう言いながら壁に内容物をぶちまけて絶命しているゴキブリを見たとき、

「ん?」

そのゴキブリの羽に小さな紋章が入っていることに気づいた。

そして、その紋章をじっくりと見てみると

それは間違いなく昨夜俺を襲った蝶男の羽に記されていた紋章だった。

「これは…あいつらの紋章…

 と言うことは…
 
 このゴキブリの群は…
 
 はっ!!」

俺はこのゴキブリはあの連中が操っていることに気づくと、

「ピピッピピッ」

ポケットの中のチョーカーが音をたてた。

「はいっ」

すかさず俺はチョーカーを手にとって返事をすると、

『あっバニーレッドちゃん?

 急いで来て!!
 
 彼奴らが現れたの!!』

と言う声が響き渡った。

「わかった…」

俺はそう返事をした後、

大騒ぎの校内を駆け抜けて運動部の部室が集まる棟へと向かうと、

その中にある空いている部室の中に駆け込んだ。

そして、誰の目も無いことを確認すると、

徐にチョーカーを首に当て、

「チェーンジ・バニー!!」

と叫びながら右腕を高く掲げた。

その途端、

シュパァァァァァァ!!

首のチョーカーから炎が噴出すと俺の身体を見る見る包んでいく、

そして、熱さを感じない炎の中、

俺の身体を取り巻いた炎は着ていた制服を焼き尽くすと、

炎は真っ赤な網タイツとなって俺の脚を覆い、

胴体には同じような赤い光沢を放つバニースーツが俺の身体を包み込んでいく。

その一方で、筋肉の陰影が消えると身体は女のような柔らかい曲線美を描きはじめ、

男の手足が細くなっていくと、

プルンっ

たわわに揺れる膨らみがバニースーツを下から押し上げる。

「くぅぅぅぅぅ」

次第に変化していく身体に俺の口から女性の声が漏れはじめると、

顔には炎を模した仮面と唇に真っ赤なルージュ、

また、腰まで長くのびた髪の上には2本の耳が起立した。

最後に足先に赤いハイヒールが姿を見せると、

それを合図に、

パァァァ!!

俺の身体を包み込んでいた炎が飛び散っていった。

「ふぅ…よしっ」

サラッ

長い髪を払いながら俺は

ダッ

っと空き部室を飛び出し、ゴキブリで混乱する街を駆け抜けて行った。



街中は既にゴキブリの大群で大混乱に陥っていて、

走り抜けていくバニーガールの姿に気を止める人はいなかった。

すると、

「待って!!」

と言う声と共に黄色のバニースーツを身につけたバニーイエローが俺を追いかけてきた。

「バニーイエロー」

その声に立ち止まった俺はそう叫ぶと、

「やっぱり、同じ学校にいたのね」

バニーイエローは息を切らせながらそう言うと、

「そのことは後回し!!」

俺は彼女にそう言い残して再び走り始めた。

彼女がつけている仮面のせいでその正体は判らないが、

でも、同じ学校に仲間がいることを俺は再確認すると、

「俺が男だって事…バレないように注意しないと…」

と呟いた。



やがて、

「おそいっ」

と叫ぶ声を挙げるバニーブルー他、3人のバニーエンジェル達と俺達は合流した。

「すまん」

開口一番、俺はそう謝ると、

シュタッ

俺にチョーカーを渡したあの黒ウサギ・ラビが俺達の前に姿を見せ、

『これは間違いなく、

 ゴースト・バグたちの仕業よ』

と叫んだ。

「?…なぁゴーストバグってなんだ?」

それを聞いた俺は隣に立つバニーイエローに尋ねると、

「あぁ…

 バニーレッドはまだ知らないも無理はないわね、

 ゴーストバグって言うのはブンブンって奴がボスをしている悪の組織の名前で、

 それで、あたしたちはそのブンブンよりも早く、

 この世界のどこかにあると言われるゴールドクリスタルを見つけだして、

 それに封印されているクィーンバニーを解放してあげるのがあたし達の役目なの」

と教えてくれる。

「ブンブン…

 そう言えば、昨夜会った変な蝶男もそんなことを言っていたな」

俺は昨夜のことを思い出しながらそう思っていると、

バタバタバタ

見る見る俺達の周りにゴキブリが集まり始めた。

「なっ」

「ごっゴキブリが…」

「こっこんなにいっぱい…」

次第に数を増してくるゴキブリに俺以外のバニーエンジェル達は怯え始めた。

「だっ大丈夫よっ」

そんなみんなを励まそうとしてかバニーブルーがそう声をあげると、

「ホラッ、ちゃんと殺虫剤を持ってきたから!!」

と言いながら一本の殺虫剤を掲げると、

「で、どうするんだ、それ?」

俺は思わず突っ込みを入れてしまった。

「え?」

「その一本の殺虫剤でこのゴキブリの群れを退治できると思っているのか?」

ザワザワ

文字通り周囲を真っ黒にしているゴキブリを指さして俺がそう言うと、

「いやっ

 そっその…」

「はぁ(おめでたい奴)」

俺は思わず頭を抱えた。

そして、モリモリと盛り上がっていくゴキブリの山を見据えながら、

「レッドウィップ!!」

と叫び声を上げると、

俺の手から飛び出した鞭を唸らせながら

ゴキブリ目掛けて鞭を放った。

しかし、

パシッ!!

「なにっ!」

ゴキブリの山めがけて放った鞭の先が

突然その中から付きだした腕に握りしめられると、

『ふっふっふっ

 ゴーストバグ・会員ナンバー49、ゴキブリ男…

 参上!!』

と言う声と共にゴキブリの山の中より

頭の上より突き出た2本の触覚を忙しなく動かしながら、

ツヤツヤした身体を持った怪人が姿を見せた。

「でっでたぁ!!」

それを見た俺は思わず悲鳴を上げると、

『ふわーはっはっはっ!!

 どうだ、驚いたかっ
 
 バニーエンジェル共!!』

怪人・ゴキブリ男はそう叫ぶとでっぷりとした身体を揺らせ笑い始めた。

「うげぇ…キモイ!!」

そんなゴキブリ男の容姿に俺は思わずそう呟くと、

『はははははは…

 いやぁ…

 不況とは言え、ゴミの中には新鮮な残飯が多くて…

 こんなに太ってしまったわい』

ゴキブリ男はそう言いながら肥えた身体を叩いてみせる。

「なによぉ」

「ゴキブリ男ってホームレスなの?」

「いや、人間辞めている分

 ホームレスの方が遙かにマシじゃない?」

「とっとにかく

 さっさとやっつけてしまいましょう」

俺を含めたバニーエンジェル達はそう結論を出すと、

ザッ!!

「バニーエンジェル参上!!」

改めて勢揃いをするとそう声をあげた。

ところが、

『へっへっへっ』

ゴキブリ男はイヤらしい笑いを浮かべながら俺達を見ると、

『バニーか…

 うへへへ…良いねぇ…』

と言いながら股間をまさぐりだした。

「いっいやぁぁぁぁ!!」

その様子を見たバニーイエローとバニーパープルが反射的に飛び出すと

「あっちいけぇぇぇぇ」

と叫び声を挙げながら次々とゴキブリ男を攻撃始めた。

しかし、

『あぁ!!

 いいっ
 
 もっと、
 
 もっと
 
 攻撃してぇ』

バニーイエローとバニーパープルの攻撃にゴキブリ男は悶え始めると、

「妙だな…何でアイツは反撃をしてこないんだ?」

一方的に袋叩きに合っているゴキブリ男を見ながら俺はそう考えていた。

すると、

「どうする?

 やっちゃおうか」

「そうねぇ

 サッサと片付けてしまいましょう」

バニーイエローとバニーパープルの一方的な戦いを見ていた

バニーグリーンとバニーブルーがそう囁き合うと、

バニーイエロー達に混ざってゴキブリ男を攻撃し始めた。

しかし、

「おかしい…」

俺はイヤな予感をを感じると戦いには参加せずにじっとその様子を眺めていた。

すると、

『ふわっふわっふわっ

 掛かったなっ
 
 バニーエンジェル共っ』

袋叩きに合っていたゴキブリ男が突然笑い声を挙げると、

「なによっ」

「この期に及んで負け惜しみ?」

「やっちゃえ!!」

それを聞いたバニーエンジェルの攻撃は激しさを増した。

「(はっ)まさか…

 あっおいっ

 ちょっと待てっ

 これは罠だ」

咄嗟にそう悟った俺が声をあげと途端、

カッ!!

ゴキブリ男の身体が輝き始めた。

すると、

ズザザザザザザザザ

これまで周囲にいたゴキブリが一斉に動くと、

見る見るゴキブリ男の身体に集まり始めていく、

「きゃっ」

「なっなによっ」

集まってくるゴキブリによってゴキブリ男がムクムクと膨れあがっていくと、

『ふはははははは!!

 お前達から受けた攻撃はすべて私のエネルギーにしてもらったぞ!!

 こんどは私が攻撃をする番だぁ』

ズシン!!

ズシン!!

地響きをたてながら身長8mほどの巨体になってしまったゴキブリ男はそう叫ぶと、

グググッ

っと腕を持ち上げ、

『それぇぇぇぇ』

と言う声と共に一気に振り下ろした。

すると、

ブワアァァァァァ

腕から離れたゴキブリがまるで弾丸の如くこっちに向かってきた。

「危ない!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!

 ゴキブリぃ!!」

ヒュンヒュン!!

音をたてながらゴキブリが俺達を襲うと、

ビチャビチャビチャッ!!

路面に叩きつけられたゴキブリは内容物を四散させていく、

「うげぇぇぇ」

その様子にバニーエンジェル達は口を手で覆うと、

『はーははははは

 どうだ、
 
 ゴキブリ弾丸攻撃は!!
 
 ふっふっふっ
 
 女のお前達には耐え切れまい』

満足げにゴキブリ男はそう言うと、

『そうれ!

 そうれ!』

と次々とゴキブリの雨を降らせ始めた。

「にっ逃げろぉ」

「いやぁぁぁ」

『はーははははは!!

 あのバニーエンジェル共が逃げまどって居るぞ、

 所詮は女よのぅ

 ほーら、ゴキブリだぞぉ!!』

ゴキブリ男はそう叫ぶと、

ブワァァァァァァ!!

逃げまどう俺達の真上から攻撃を始めた。

「くっそう!!」

弾丸のように降ってくるゴキブリの雨をよけながら俺は臍を噛んでいると、

「ん?

 あれは…」

俺の目に【温泉】と書かれた看板が立つ工事現場が目に入った。

「こんな所に温泉?

 あっそうかっ」

それを見てあることに気づいた俺は

「おいっ、ゴキブリ男っ

 こっちだ!!」

と怒鳴ると、

ピシッ!!

鞭でゴキブリ男の足を思いっきり叩いて、

ダッ

工事現場に向かって飛び出していった。

「バニーレッドちゃんっ

 何処に行くの!!」

俺の行動にバニーブルーが声をあげて尋ねると、

「俺…じゃなかった、あたしに任せて!!」

俺はそう声をあげて一目散に工事現場へと向かっていく、

そしてその後ろから、

『まてぇぇぇ』

巨大ゴキブリ男が追いかけて来ていた。


ヒョイッ

工事現場を覆う鋼板壁を軽々と乗り越えた俺は工事現場の中を探し回ると、

「あった!!」

そう工事現場の片隅で

【源泉】

とペンキ書きされモウモウと湯気を上げている源泉のパイプを見つけると、

「おいっ

 こっちだ!!
 
 ゴキブリ男!!」

とパイプを背にして叫び声を挙げた。

すると、

ズズズズン!!

バリバリバリ!!!

ブブブブブブブ!!

飛び交うゴキブリを纏わせ、

鋼板を押し倒して工事現場に入って来たゴキブリ男が俺の目の前に悠然と姿を見せる。

そして、

『覚悟しろっ

 バニーエンジェル!!』

ググググ!!!

そう言いながらゴキブリ男は両腕を高く掲げたとき、

「くたばるのはお前だ!!」

俺はそう怒鳴ると、

パシッ!!

鞭で源泉のパイプを思いっきり叩いた。

その途端、

ブワッシュッ!!

モウモウと湯気を上げながら源泉のパイプから温泉水が吹き上げると、

覆い被さるように迫ってきたゴキブリ男を直撃した。

『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

温泉水の直撃を受けたゴキブリ男は絶叫を響かせると、

バラバラバラバラ!!!

ゴキブリ男の巨体が崩れ落ちるように崩壊し始めた。

「バニーレッドちゃん!!」

「バニーブルーっ

 いまだっ」

バニーブルーの声に俺は振り返るとそう叫んだ。

「わっ判った!!」

俺の声に押されるようにしてバニーブルーは大きく振りかぶって。

「バニー…フラッシュッ!!!」

っと叫ぶと、

シュタッ!!!

バニーブルーの体から光り輝く金色のウサギが飛び出し、

崩壊していくゴキブリ男を見事蹴散らすと、

『ぐわぁぁぁぁぁ…

 ブンブン様っ

 申し訳ございませーーん』

ゴキブリ男はそう言い残して俺達の前から消えていった。



「ふぅ…」

シャァァァァァァ!!!

山のようになったゴキブリを流していく温泉を眺めながら俺は息を吐くと、

「お湯でゴキブリを退治するとは良く思いついたな」

俺の肩を叩きながらバニーグリーンが称えた。

「いやっ

 咄嗟に思いついただけだよ」

彼女の言葉に俺はそう返事をすると、

「怪人もやっつけたし、

 ねぇ、元に戻ってどこかでお茶しませんか?」

とバニーパープルが提案をしてきた。

「あっいいわねぇ、それ」

「あたしも、バニーレッドちゃんの素顔みたいしさ、

 ねぇみんなっ」

「え?

 そっそれはちょっと…」

話の方向が段々俺の正体へと向かい始めたことに俺は危機感を覚えると、

「いやぁ…

 あっそうだ!!
 
 あっあたし…
 
 用事を思い出したのでじゃぁ!!」

と言うと、その場から逃げ出すようにして飛び出してしまった。



「ヤバイヤバイ!!

 正体なんて教えられるわけないだろう!!」

そう言いながら俺はゴキブリが姿を消し平和を取り戻した街の中へと消えていった。



おわり