風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部轟轟」
(第4話:空からの訪問者)



作・風祭玲


Vol.962





「小町さん。

 可憐さん。

 おっはぁよぉ!!」

朝日が照らし出す沼ノ端高校へと続く通学路に夢原希の元気な声が響くと、

「希っ、馬鹿みたいに大声を張り上げないの」

と周囲を気にしながら夏木凛は大きく開いたその口を塞いで見せる。

「もがっ、

 いいじゃない、凛ちゃん。

 朝の挨拶は元気に大きくって言うじゃないの」

自分の口を塞ぐ手を振りほどいて希は文句を言うと、

「(くす)相変わらずね」

と小町は笑ってみせるが、

「あれ?

 そういえば可憐さん。

 じぃやさんが運転するクルマじゃないんですか?」

執事・坂本が運転する自家用車ではなく、

徒歩で歩いて登校する可憐の姿を見て凛が尋ねた。

「えぇ。

 クルマが故障してしまって、

 今日はみんなと一緒に登校よ」

凛に向かってに可憐は事情を話すと、

「へぇ、

 可憐さんのクルマでも壊れることがあるんだ」

感心したように凛は頷いてみせるが、

ムッ

凛のその態度を見て可憐が不機嫌そうな顔をした時、

「お主らもいま登校か」

の声と共に保健医を勤める巫女の声が響き渡った。

「柵良先生!」

出退勤用のスカートスーツ姿の巫女を見た途端、

彼女達は一斉に巫女の名前を口にすると、

「4人そろって仲良く登校か、

 ん?

 水無月が徒歩とは珍しいのぅ、

 で、春日野の姿が見えぬようじゃが?」

と巫女は春日野麗の姿が無いことを指摘する。

「あれ?

 そういえば麗は?」

その指摘にいつもならすでに合流しているはずの麗の姿がいまだに無いことに気づくと、

「そういえば姿が見えないわね」

「いつもならもぅ来てもいいころなのに…」

と凛と小町も周囲に気を配りながら探す素振りを見せる。

すると、

シャアァァァ!!

「うあぁぁぁ!!

 どいてくださーぃ」

と言う麗の声と共に一台の自転車が急接近してくると、

「麗?」

「わっどうしたの?」

爆走してくる自転車に皆の視線が釘付けになる。

「誰か止めてくださぁぃ!、

 ブレーキが壊れて止まらないんですぅ!」

通学路の真ん中で立ち止まっている希達に向かって麗は泣きながら訴えると、

「ぷりきゅあ・めたもるふぉーぜ!」

と小町の声が響き渡り、

バッ!

制服が朝の空に舞い上がると、

「安らぎの、緑の大地っ、きゅあ・みんとぉ!」

の声と共に

パァン!

腰に締められた緑色の廻しが大きく叩かれる。

そして、

「ふんっ、

 どすこぉぉぉいっ!」

きゅあ・みんとが放つ気合が響き渡ると、

カラカラカラ…

暴走していた自転車は乗っていた麗もろとも高々と持ち上げられ、

空回りする車輪の音が響いていたのであった。



「はぁ、助かりましたぁ」

怪我ひとつ無く降ろされた麗がへたりながら礼を言うと、

「いいのよ、

 ちょうど良い稽古になったわ」

ときゅあ・みんとは笑みを浮かべてみせる。

すると、

「あのぅ、

 用が済みましたら一応何か羽織ったほうがいいですよ、

 ここはあくまで公道ですので…」

廻し一本のみのいでたちのきゅあ・みんとの耳元で凛はささやいて見せると、

「もぅ、

 面倒くさいわね」

と文句を言いながらそそくさと脱ぎ捨てた制服を身に着け始める。

「それにしても麗、

 珍しいわね、

 自転車に乗って登校だなんて」

そこそこ使用感のある自転車を見ながら希は尋ねると、

「えへへへ…

 驚きました?

 実はこの自転車、

 光画部の備品で”轟天号”って言うんですよ。

 朝一の撮影に使うので借りたのですが、

 まさかブレーキが壊れるだなんて」

そう言いながら麗は自転車を指差してみせる。

「ほぉ…

 轟天号とな…」

備品となってからさほど時間が経ってないのか

使用感が若干ある自転車を眺めつつ巫女はそう呟くと、

「そういえば、

 鍵屋のクルマもそのような名前であったな、

 同じ名のものは互いに影響し合うというが、

 …無事なら良いが」

と巫女は鍵屋が使っているオート三輪のことを思い出す。

その頃鍵屋は…

パァァァァァン…

竜宮へと続くハイウェイをワープ航行モードでひたすら突っ走っていたのであった。



『ふぅ…

 この調子で行けばあと3・4時間ほどで到着ですね』

ナビケーションシステムに表示されているロードマップを見ながら鍵屋はそう呟くと、

『あのぅ…』

と申し訳なさそうに轟天号を統括する人工知能が話しかけてきた。

『なんだ、R』

その声に鍵屋は掛けているサングラスを光らせ聞き返すと、

『このまままっすぐ走っていいのでしょうか?』

と人工知能は進路について尋ねる。

『決まっておろうが、

 大体、ワープ中に角を曲がれると思っているのか?』

ハリセンに手を伸ばして鍵屋は聞き返すと、

『あぁ、真っ直ぐ…

 真っ直ぐ…

 真っ直ぐ…』

と人工知能は唱えながら、

パァァァン!!!

竜宮へと続くハイウェイを走行して行くが、

だが、

パリッ!

ピシッ!

ワープインの際に発生した衝撃破が

轟天号のディメンジョン・スタビライザーを必要以上に振動させてしまったために

轟天号を取り巻く空間が微妙に歪み、

ワープイン時に一致していたはずの空間要素の位相がズレはじめだしていた。

さらに、

その轟天号を付けねらう一体の怪物体が

若干の距離を開けて追尾していたのであった。



『アナコンデさま、

 轟天号を補足いたしました』

オレンジ色の球体の胴体に上下左右前後に大きく見開いた目を持つ怪物体の中、

画像処理された轟天号の画像を見るスコルブの声が響き渡ると、

『そうですか』

後ろのソファでボンテージ衣装に身を包みながらも資料に目を通し続けるアナコンデはそう呟く。

すると、

『アナコンデさま、

 このまま没収なさいますか?』

とスコルブの隣席に座るタゴスが尋ねると、

『決まっているでしょう。

 轟天号の没収は館長自ら指示をされたのです。

 指示が出ている以上、

 速やかに没収しなさい』

ようやく資料から顔を上げたアナコンデが指示をした途端、

『アラホラサッサ!!』

と二人の活きのある声が操縦席に響き渡り、

ギンッ!

『ほしぃなぁぁ!!』

”ほしぃなぁ”の目がさん然と輝き、

一気に轟天号の間をつめ始めた。



『ん?

 後続車?

 ワープ中にも拘らず追い抜こうと言うのですか…』

後方より迫ってくる”ほしぃなぁ”に鍵屋が気がつくと、

『R!

 スピードを上げなさいっ!』

と人工知能に向かって命令をする。

すると、

『あいっ』

の返事と共に轟天号はさらに加速をするが、

『ほしぃなぁぁぁぁ!!』

”ほしぃなぁ”もまた加速を開始すると、

開いていた車間が見る見る詰まりだし、

『ほぉ…

 この私に戦いを挑みますかっ、

 いいでしょう!

 挑まれた戦いには受けて立ちます!!』

それを見た鍵屋はキラリをサングラスを輝かせながら中指を一本立たせると、

『R!

 ワープファクター2へジャンプしなさい!』

と人工知能に命じた。

その途端、

ゴワァァァ!!!

ボンネットの中の波動エンジンが唸り声を上げ、

ズドォォン!

瞬く間に轟天号はワープファクター2へとジャンプをするが、

『ほぉ…

 あんなクラシックカーなのにワープファクター2にジャンプするとは、

 ドライバーなかなかの腕のある奴だと見た。

 これは負けられんっ!

 アナコンデさまっ、

 シートベルトをしっかりと閉めてください』

目の前に迫った轟天号のジャンプを見てスコルブもまた対抗意識を燃やすと、

『こっちも、ワープファクター2へジャンプ!』

と叫びつつ、

ポチッ!

目の前のボタンを押してみせる。

すると、

ズドン!!

轟天号を追いかけている”ほしぃなぁ”もワープファクター2にジャンプし、

瞬く間にワープファクター2で走行している轟天号の真後ろについてみせた。

『ふっやりますね…

 この先は竜宮へ向かって一気に下っていく九十九折の峠下り、

 よろしいでしょう。

 かつて走り屋たちからゴッドハンドと恐れられた

 わたしのハンドル裁き、

 とくと見せてあげましょう』

かつて峠の山下りで走り屋たち震撼させていた頃を思い出しながら、

鍵屋は全身の血を滾らせると、

『R!

 波動エンジンを8000まで廻せ、

 そして、ワープファクター3にジヤンプ!』

と人工知能に命令をしたのであった。



「それでさぁ」

「ねぇ、どう思います?

 この話」

異空間で行われている鍵屋と”ほしぃなぁ”とのバトルとは未だ無縁の希たちがはしゃいでいると、

ピリリリリ…

突然、可憐の携帯が鳴った。

「じぃやから?

 はい、

 可憐です」

可憐は相手が執事の坂本であることに訝しがりながら電話に出た途端、

『可憐お嬢様、

 申し訳ありませんが、

 取り急ぎ沼ノ端パニックセンター内の発令所までお越しください。

 緊急事態です』

とやさしくも緊張感を漂わせる坂本の声が響いた。

「え?」

その指示に可憐が驚くと、

「どうしたんですか?」

「どうかしたの?」

と可憐の異変を察した麗と希が理由を尋ねる。

「えっ

 えぇ、じぃやが急いで発令所に来てくれって、

 何かしら?」

不安そうに可憐はそう返事をすると、

ぷりきゅあ・ふぁい部が部室としているHattuHouseへと向かい、

さらにその地下に建設された水無月家・沼ノ端パニックセンター・発令室へと降りていく。

すると、

「お待ちしておりました」

の声とともに執事兼お世話係の坂本が待機していたのであった。

「じぃやさん!」

「何が起きたんです?」

彼の姿を見て希たちが声を上げると、

「で、緊急事態ってなんです?」

他のメンバーを押しのけ可憐は問い尋ねる。

「お嬢様、

 大変なことになりました」

坂本は深刻な表情をしてみせ、

「どうしたんですか?」

その表情を見て希が理由を尋ねたとき、

『パターン、青!

 接近中の飛行物体は円堂家私設空軍所属・バウ攻撃空母と確認。

 水無月家戦略自衛隊、第一種戦闘配備!

 繰り返す。

 水無月家戦略自衛隊、第一種戦闘配備!』

水無月家戦略自衛隊本部からの通信が入った。

「なっ!

 円堂ですってぇ!」

その報告を聞いた途端、可憐は驚いてみせると、

「円堂って、

 あの大財閥の円堂?」

それを聞いた小町が聞き返す。

すると、

「えぇ…そうですとも

 我が水無月の宿命のライバル…

 でもそれがなんで…」

握ったこぶしを震わせながら可憐はそう呟く。



そしてこちらはその沼ノ端高校へと侵攻するバウ攻撃空母の中、

カコーン!!

シシオドシが鳴る畳敷きの部屋にて座禅を組む一人の若者の姿があった。

シシオドシと流れる水の音以外一切音の無い世界の中、

若者は座禅を組み続けていると、

「若っ、

 まもなく沼ノ端高校上空です」

と閉められた障子戸の向こう側から若者を呼ぶ声が響き渡る。

「うむっ」

それを聞いた若者は言葉少なめに返事をしながら、、

徐に立ち上がりると、

パァァン!!

勢い良く障子戸を開けて見せる。

すると、

ざわざわざわ

障子戸の向こう側は無数の計器と光に埋もれたコントロールルームがあり、

計器の奥にある強化ガラスの窓には

いままさに向かわんとしている沼ノ端高校が姿を見せていたのであった。

「あれが、沼ノ端高校か…」

学校の建物を眺めながら若者がコントロールルームに降りてくるなり、 

「ちっ忠太郎!」

突然、和装姿の老人が飛び出してくると、

「曾おじい様」

若者は老人を受け止め、

「あまり無理をなさらないでください」

とやさしく声を掛けてみせる。

だが、

「判っておるな」

老齢ながらも眼光鋭く老人は若者に向かって尋ねると、

「はっ、

 円堂家の名に恥じぬよう心がけてまいります」

と若者は覇気強く心構えを言う。

「うむっ、

 それでこそ円堂家の男子じゃぁ」

それを聞いて老人は安心したのか笑みを見せるが、

そのとき、

「パターン赤!

 みっ水無月家戦略自衛隊の空軍機がこちらに向かってきます!」

と索敵班の黒メガネが声を上げた。

「なに?

 水無月だとぉ

 そうか、そういえば沼ノ端高校は水無月が前線基地を築いていたと聞いている。

 ふっ面白い、

 早速の歓迎と言うわけか」

その報告を聞いた若者は不敵な笑みを浮かべると、

「進路そのまま!!

 御旗を掲げよ!

 円堂家の心意気を見せるのだ!」

そう声を張り上げ、

カシャっ

自分は降下用のパラシュートを背中に背負ってみせたのであった。
 


「可憐お嬢様、

 水無月戦略自衛隊がスクランブルをかけました。

 円堂など直ぐに追い払って見せます」

NattuHouse地下の発令室に坂本の自信に満ちた声が響き渡ると、

「うぉっ、

 なんかすごいことになってきたよ、凛ちゃん!!」

「あのぅ可憐さん。

 まじで戦争を始める気ですか?」

ワクワクしてみせる希とは打って変わって凛はあきれて見せると、

「水無月と円堂は水と油の存在よ、

 向こうがその気ならこっちもそれなりのものを見せてやらないとね、

 じぃ、陸上軍も直ぐに出撃しなさい」

と鼻息荒く可憐は言う。

そして、

ギュォォォン!!!

水無月家の家紋をつけた戦闘機が水無月高校上空を通過していくと、

キュラキュラキュラ…

校庭内へと戦車を伴った兵団が突入し、

一斉にその砲身を戦闘機が向かっていた先へと向けて見せたのであった。



「おっおいっ、

 何が始まったんだ?」

この異変は登校していた生徒達にも直ぐに伝わり、

「なんだなんだ?

 戦争が始まるのか?」

と皆は一斉に空軍機が消えていった空を見上げてみせる。

「お嬢様、

 我々の警告にも円堂は耳を貸さず、

 攻撃空母は進路を変えません。

 つきましては交戦許可を求めてきていますが」

坂本からの問い合わせに可憐は少し考えるが、

「判りました」

と頷いてみせると、

「可憐…」

そんな可憐に向かって皿に切り分けられている羊羹を食べつつ小町は話しかけ、

「学校のみんなに迷惑をかけちゃだめよ」

と釘を刺してみせる。

「判ってますっ、

 じぃ、交戦の許可はします。

 しかし、あくまで相手側が先に手を出してからです。

 いいですか、絶対にこちらから撃ってはいけません」

そう可憐は指示をすると、

皆の視線は一斉に発令室の大型パネルスクリーンへと向けられた。



一方、

ギャォォォン!!!

キキキキッ

ゴワアァァァァ!!

パァァン!!

竜宮峠と呼ばれる九十九折の急坂を轟天号と”ほしぃなぁ”は一気に駆け下って行く。

『ちっ、

 引き離せないとは…

 この私の腕が鈍ったのか、

 それとも相手の腕がいいのか』

右腕一本でハンドルを捌きつつ鍵屋は臍を噛むと、

『くっ、

 この俺が追い越せないとは…

 こいつは只者じゃないぞ』

右へ左へと激しく揺れる”ほしぃなぁ”の操縦桿を握るスコルブもまた

鍵屋のテクニックレベルに焦りを感じていたのであった。

ギャォォォン!!!

キキキキッ

ゴワアァァァァ!!

鍵屋が運転する轟天号と、

その轟天号を没収すべく後を追う”ほしぃなぁ”との熾烈なバトルが続くが、

ピキッ!!

ピキピキッ!!

轟天号のワープインの際に発生した位相のずれはさらに拡大し、

この峠でもっともきついと言われるオメガカーブに差し掛かった時、

パキンッ!

ついに走行面の空間が耐えられずに引き避けてしまうと、

その途端、

ガクンッ!

キキキキッ!!!

『うわっ!』

タイヤの粘着バランスが一気に崩れた轟天号はスピンしてしまい、

『なにぃ!

 スピンしたぁ!』

後続の”ほしぃなぁ”は避けきれず轟天号が引き裂いた亜空間内へと突入し、

スピンする轟天号もまた引きずり込まれるように亜空間へと飲み込まれてしまったのであった。



『攻撃空母さらに前進!

 距離3000!!』

NattuHouse地下の発令室に攻撃空母接近の声が響く。

「まさに持久戦ね」

互いに戦火を交えず、

だが緊張感だけは増していく様子を可憐は皮肉って見せると、

「可憐、

 戦況は有利なんじゃない?

 この辺で一息入れてははどう?」

と言いつつ小町は切り分けたお皿に乗せた羊羹を差し出してみせるが、

「私はいま戦争をしているのよ、

 その大切な時間を羊羹で台無しにしないで!」

そう怒鳴りながらお皿ごと払ってしまったのであった。

「あっ」

手に払われた羊羹が床に落ちてしまうと、

可憐と小町の間に気まずい雰囲気が流れるが、

「あーぁ、

 もったいない。

 もったいない。

 この物資欠乏の折、

 こんなにもったいないことをしてしまっては帝国の勝利はありませんよ」

そんな二人の間を割るようにして麗が落ちた羊羹を拾い上げてみせる。

「麗、一体いつの話をしているの?」

麗に向かって凛は眉をひそめて話しかけると、

「3秒ルール内なのでいけると思いますよ、

 凛さん、希さん、如何ですか?」

そう言いながら麗は凛と希に羊羹を差し出してみせる。



「ほぉ、水無月も我慢強い」

武力を前面に押し出しながらも一切発砲してこない水無月側の様子に忠太郎は笑って見せると、

「若っ、

 この状況下で降下するのは危険だと思います」

と黒メガネたちが忠太郎の身を心配してみせる。

だが、

「ふっ

 僕は大丈夫だ、

 利は我々の方にある。

 バウはこのまま直進を続けよ、

 そして僕が校庭に降り立った後、

 一気にこの場を離脱するのだ。

 良いか、決して先に発砲をしてはならん。

 水無月に口実を絶対に与えるな!」

黒メガネたちに忠太郎はきつく申し付けると

点滅する降下口へと愛用の日本刀を手に携えて向かっていく、



「まったく、春日野さんときたら」

「あらあら…

 新しいのを切りますわよ」

麗の機転で可憐と小町は笑ってみせると、

『距離2000を切りました、

 攻撃空母なおも侵攻中!!』

発令室内に緊張感のある声が響く、

「くっ

 それにしても忌々しい円堂め」

振り返った可憐は口元が悔しそうに歪ませると、

「それにしてもさ、

 一体何しに来たんだろうね、

 その円堂さんって人は?」

画面を見ながら希が呟く、

「そうよね、

 可憐さんと戦争をするのならとっくに始めているだろうし、

 ここまで何もしないって…

 戦争が始まったらマズイことでもあるんじゃない?」

希の言葉を受けて凛は言うと、

「はっ

 それよ!」

二人の会話に可憐は何かに気付くなり、

「じぃ、校長に問い合わせてくれない、

 円堂家からなにかアクションが来ているのかってこと」

と可憐は坂本に命じる。

そして、

「えぇ!!!

 転校ですってぇ?」

校長より円堂家の御曹司である忠太郎の転校を聞かされた可憐は驚くと、

「如何いたしましょうか、

 お嬢様」

と坂本は善後策をたずねる。

すると、

「ってことは、向こうはあくまでも脅しってことね。

 いいわ、向こうがそうならこっちもそうさせていただきます。

 じぃ、”みるきぃろぉず”を出せる?」

と可憐は聞き返す。

「はっ、

 準備は整っております」

そう坂本は返事をするなり、

「判りました。

 みるきぃろぉず、射出!

 円堂に水無月の底力を見せてあげるのです」

と可憐は声を張り上げて見せる。



ウォォォン…

突如校庭内にサイレンの音が鳴り響くと、

校庭の一角が盛り上がり折りたたまれ、

巨大な射出口が口をあける。

そしてまもなく、

ガゴォォォン!!

地下より一体のロボットを乗せたリフトが上がってくると、

『青いバラは秘密のしるしっ』

の声と共に人造人型決戦兵器・みるきぃろぉずがリフトオフされたのであった。

「かぁぁ…

 なんか、無茶苦茶派手な事になってきたなぁ」

「水無月ってロボットまで保有していたのか」

「この様子じゃぁ、

 噂の秘密戦隊の登場もあるかもな」

「相手は一体なんだよ、

 水無月可憐がここまで手の内を明かすだなんて、

 よっぽど切羽詰っているのか?」

「渡君っ、何が起きているの?」

「俺が知るかっ」

みるきぃろーずの背後、

沼ノ端高校内2年B組の教室では授業そっちのけで皆が窓際に集まり、

いままさに戦いの火蓋が切られようとしている校庭の様子を眺めていた。

そして、その生徒達の後から、

「お前らっ、

 さっさと席につかないかっ」

このクラスの担任である英語教師が怒鳴り声を上げるものの、

「えぇいっ、

 この非常事態にオチオチ授業なんて聞いていられるか」

「す巻きじゃぁぁ!」

の声と共にその教師が瞬く間に拘束され、

ロッカーの中へと放り込まれる。



「若っ、

 緊急事態です、

 水無月がロボットを繰り出してきました」

降下口で準備中の忠太郎に向かって黒メガネが事態の急変を告げに向かうと、

「なにぃ!

 ロボットが出てきたぐらいで怯むような僕ではない。

 沼ノ端高校の上空には達しているのか?」

と忠太郎は尋ねると、

「はっ、

 あと30秒ほどで到達します」

直立不動の姿勢で黒メガネは返事をする。

「よしっ、

 30秒後に降りる」

それを聞いた忠太郎はそういいつけると、

パシュッ!!

降下口の内扉のロックを掛け、

外扉のハッチを開けてみせる。

「ふむ、

 紫色のロボットか、

 水無月め、

 面白いのを作っていたな」

開け放たれたハッチから顔をのぞかせ、

忠太郎はみるきぃろぉずの感想を言うと、

ビィィィ!!!

降下時間を知らせるブザーが鳴り、

「いざ!」

の掛け声と共に忠太郎の体は空に舞った。



『攻撃空母、沼ノ端高校南端に到達、

 何者かがキタカタより飛び降りた模様!』

忠太郎の降下が発令室に知らされると、

「おぉ!」

驚く希たちに対して、

「無茶を…」

と凛は一人あきれてみせる。

と、そのとき、

ズシン!!!

緊張がピークに達している沼ノ端高校全体が大きく振動すると、

『時空震発生!!

 マグニチュード4.2!!

 震源地は沼ノ端高校上空!!

 ワープアウトしてくる物体あり!!』

発令室に振動が時空震であることと、

ワープアウトしてくる物体があることを告げた。

と同時に、

グォン!

校庭上空の2箇所で空間が見る見る歪み始めると、

ウォォォン!!!

片方からクラシカルなオート三輪が、

そして、もぅ片方から、

『ほしぃなぁぁぁ!』

と雄たけびを上げるヱターナルの”ほしぃなぁ”が飛び出してきたのであった。

「あれは!」

「ヱターナル!!」

オレンジ色の球体を目にした希たちは互いに頷くと、

一斉にNattuHouseを飛び出し、

混沌の地、校庭へと向かって行く。



『なっ』

ワープ空間に発生した空間の断裂に飲み込まれた後、

やっとの思いで通常空間に飛び出したものの、

だが、地上から数十メートルの上空にワープアウトしてしまったことに鍵屋は驚きつつも、

『Rっ

 トランスフォーメーション!!』

と人工知能に向かって指示をする。

すると、

『あいっ!』

と言う返事と共に、

バッ

轟天号の両脇から蝙蝠の羽を思わせる羽が生え、

バサバサ

と羽ばたき始めるが、

だが、落下速度を減衰させるほどの揚力は得られず、

ガァァン!!!

何かに盛大にぶち当たった後、

それを押し倒すようにして地上に軟着陸してみせる。

『いたたた…

 何とか着陸できましたが…

 ってなんですかこれ?』

校庭に着陸した轟天号から鍵屋は降り立ち、

そして、自分が押し倒したものを見ると、

そこにはあの”みるきぃろぉず”が水無月地上部隊を巻き添えにしながら倒れ、

その後頭部には轟天号が激突して出来た傷がついていたのであった。

『あぁぁ…

 なんてことを…』

倒れている”みるきぃろぉず”の姿を見て鍵屋は目を覆うと、

「またあなたなのっ!!」

の声と共に希たちが鍵屋の前に立っていた。

『やっやぁ、

 久しぶりですね。

 え?

 あぁこれは…

 まぁ不幸な事故と言いますか』

と鍵屋は両腕を振りながら弁明しようとすると、

「みんなっ!」

「Yes!」

の声の元、

「ぷりゅあ、めたもるふぉーぜ!!!」

と言う掛け声と共に一斉に制服が宙を舞い、

「ふんっ!」

ビシッ!

バトルコスチュームに身をまとったぷりきゅあ・ふぁい部が勢揃いしてみせる。

『いや、

 これはまずい展開ですね』

気合十分のぷりゅあ・ふぁい部の姿に鍵屋は1・2歩下がりながらそう呟くと、

轟天号に飛び乗ろうといたとき、

『ほしぃなぁぁぁ!!!』

の声と共に

ズシンッ!!

ぷりきゅあ達の背後に”ほしぃなぁ”が降り立ったのであった。



『アナコンデさまっ、

 ぷりきゅあです』

モニターに映るぷりきゅあ達を指差しスコルブが声を上げると、

『捨て置きなさい。

 いまは轟天号の没収が優先です』

とアナコンデは命令をする。

『はっはぁ』

その命令にスコルブは浮かない返事をして見せると、

『不服そうですが、何かありますか?』

ジロリとスコルブを睨みつけ、

アナコンデは尋ねると、

『いえ、

 轟天号の没収を優先します』

と答えるなりモニターをぷりきゅあから轟天号へと移動してみせる。

『ほしぃなぁ!』

ぷりきゅあから轟天号へと目標を変えた”ほしぃなぁ”が動き始めると、

『これはいけませんね』

それを見た鍵屋はぷりきゅあ達の隙を突いて轟天号に飛び乗ると、

『Rっ、

 この場から脱出します!』

と指示をするなり轟天号を走らせ始めた。

「あぁ!

 逃げるなっ!」

それを見たきゅあ・どりぃむの声が上がると、

「ぷりきゅあ・ぷりずむちぇぇぇぇん!!」

きゅあ・れもねーどの声が響き、

シャッ!

きゅあ・れもねーどの両手から二本の鎖鎌が延びていくが、

カァァン!

鎖鎌は轟天号の装甲鱗に弾かれてしまいむなしく宙を待っていく。

すると、

「今度は私が、

 ぷりきゅあ・えめらるど・そーさぁぁ!!

 ふんっ!」

きゅあ・みんとの叫び声が響き渡るや否や、

ギュォォォン!!!

緑色に染められた製材用の巨大丸ノコが唸り声を上げて宙を舞い、

轟天号に切りかかるものの、

またしても弾かれてしまうと、

パパパパァァァァン…

轟天号は校庭から姿を消し、

一方、丸ノコは”ほしぃなぁ”に襲い掛かかった。

すると、

ザンッ!!!

『ほっほしぃなぁ!』

胴体から伸ばしていた足を切り折られてしまった”ほしぃなぁ”は

バランスを崩してその場に横転してしまうと、

その場でジタバタし始める。

『あらっ

 まっまぁいいか…

 あくあ、メカの素!』

それを見たきゅあ・どりぃむはきゅあ・あくあに指示をすると、

『判ったわ、

 ろぉず!

 メカの素よ!』

それを受けてきゅあ・あくあは青バラの花束を手にすると、

を倒れているままの”みるきぃろぉず”に向かって放り投げた。



『スコルブっ

 何とかしませんかっ』

横転したままの”ほしぃなぁ”の操縦席にアナコンデの怒鳴り声が響くと、

『判ってますっ、

 右脚を切られたか。

 まったく、あんな危ない物を放り投げやがって、

 どう言う躾をされているんだか』

などと文句を言いつつバランスをとるため”ほしぃなぁ”左足の強制切断を試みる。

だが、

『ん?

 あれ?

 なんで?』

いくら操作をしても左足の強制切断は出来なく、

”ほしぃなぁ”は横転したまま動くことは出来なかった。

『さっさとしないかっ!』

アナコンデの怒鳴り声が響く中、

ポチ!

ポチ!

ポチ!

スコルブは幾度もボタンを押すが、

相変わらず”ほしぃなぁ”は沈黙したままであり、

微動だにしなかったのである。

『だぁぁ!

 何がどうなっているんだ!』

ついに癇癪を切らしたスコルブが操縦席のパネルを引っ剥がして見せると、

”バラッ”

”バラッ”

”バラッ”

と声を上げる青バラのチビメカがパネル内に蠢き、

バキバキバキ

バリンッ!

とその中を破壊尽くしていたのであった。

『んなぁぁぁぁ!!!』

衝撃の光景にスコルブは悲鳴を上げると、

『スコルブぅぅぅ!!』

アナコンデの悲鳴が響くや否や、

バキバキバキ

ガランガラン

既に操縦室の中を無数のバラメカが解体し始め、

パリパリ!

ミシミシ!

『ほっほっほっ

 ほしぃなぁぁぁぁ!!!』

の叫びと共に、

チュドォォォン!!!!

”ほしぃなぁ”は自爆してしまったのであった。



「あの男は逃げちゃったけど、

 とりあえずやったわねっ」

「Yes!」

”ほしぃなぁ”の自爆後、

ぷりきゅあ達は鍵屋を取り逃がしたことを無念に思いつつ、

一応の勝利をかみ締めていると、

パチパチパチ!

いきなり拍手が響き渡り、

「いやぁ水無月可憐さん、

 そして、ぷりきゅあの皆さん。

 あなたたちの活躍、

 しかとこの目で見させていただきましたよ。

 それにしても助かりました。

 あなた方が別のことに夢中になってくれて」

と優雅に笑ってみせる白詰襟姿の若者の姿があった。

「なに?」

「ちょっと格好良くない?」

「結構美形ですね」

「うーん」

若者を見ながらきゅあ・どりぃむ達は囁いていると、

「あなたは…

 円堂…」

一人、きゅあ・あくあは厳しい目で若者を睨みつける。

「そんなに怖い顔をしないで…

 そうだ、自己紹介をしておこう、

 僕の名前は円堂忠太郎だ。

 よろしく」

ピッ!

ぷりきゅあ達に向かってそう挨拶をしながら

忠太郎は徐に携帯電話を取り出すと、

「忠太郎だ。

 いま無事沼ノ端高校に到着した。

 皆の者、ご苦労であった」

と労ってみせた途端、

キュォォォォン!!!!

上空からエンジン音が響き渡ると、

ズゴワァァァァァ!!!!

猛烈な突風が一気に沼ノ端高校に襲い掛かる。

『わぁぁぁ〜』

そして瓦礫から這い出してきたばかりのアナコンデ達や、

”みるきぃろぉず”を瞬く間に吹き飛ばしてしまうと、

校庭は元の静けさを取り戻したのであった。



つづく