風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部轟轟」
(第3話:狐からの使者)



作・風祭玲


Vol.960





『くっそう、忌々しい”ぷりきゅあ”めっ』

薄暗い地下室にアナコンデの悔しそうな声が響くと、

『まさか、あんなことになるなんて、

 思いもしませんでした』

と彼女の手下であるスコルブとタゴスは頭を下げて見せる。

『まったくっ』

そんな二人を見ながらアナコンデは腕を組んでみると、

『…ぷりきゅあ、かぁ…』

と威厳に満ちた声が部屋に響き渡り、

自走式クルマ椅子に乗った甲冑姿の人物が部屋の奥から姿を見せる。

『かっ館長!』

それを見たアナコンデは一瞬のうちに背筋を伸ばすと、

『我がヱターナルには”今度こそ”という言葉はない』

甲冑姿の館長はアナコンデに視線を向けずに話しはじめ、

『…その点は十分に知っていると思うが、

 どうかな?』

と話をアナコンデに向けてみせる。

『はっ』

館長の問いかけにアナコンデは身を硬くして返事をすると、

『まぁいい、

 神扇は別のものに当たらせる。

 君はこちらの没収にあたりたまえ』

それを聞いた館長はそう告げると

不服そうなアナコンデに一枚のリストを突きつけたのであった。



『はぁ…』

同じころ、

暮れなずむ街を見下ろす高台にため息がひとつ零れ落ちると、

『まずったなぁ…』

と悔やむような言葉を言いつつ頭を掻き揚げてみせる少女の姿があった。

『姫様からの大切な御託は伝えられず、

 偶然見つけた貴重度Aクラスのお宝は取り逃がし、

 さらには前々から狙っていた神扇はサカナ女に邪魔されて、

 あーん、徹底的に失敗しまくっているじゃない。

 こんな失態、姫様になんて報告すればいのよ』

下から吹き上がってくる風に履いている緋袴を大きく膨らませながら

巫女装束姿の少女は自ら手がけた仕事が失敗に終わったことを悔やむと、

クニッ

頭の両側に立っていた金色の狐耳が勢いを失い、

さらに白衣と緋袴の間から出ている筆を思わせる尻尾も垂れ下がっていく、

『うーん、

 大した法力を持ってない人間なんてチョロイと思っていたんだけどな、

 なんでこんな事になっちゃったんだろう』

目の前にある転落防止用の欄干に金色の毛が覆うように生えそろった手を置き、

狐耳少女は眼下の街に視線を送る。

そして、しばしの時間が流れた後、

『ぽんっ!

 そうよ!!』

突然、何かを思いついたのか狐耳少女は手を叩き、

語気を強く声を上げると、

『よく考えてみたら今日は仏滅じゃない。

 ”日”が悪いじゃないのよ。

 それに今月は天中殺だって朝のTVも言っていたし、

 うん、あたしの作戦が上手くいかないのは当然なわけね』

と失敗した責任を転嫁しはじめる。

そして、

『と言うわけで、

 今日はさっさと帰りましょ。

 うん、そうしようそうしよう。

 明日ならきっと上手くいくって』

と身勝手な論理で納得をしつつその場を離れようとしたとき、

『おやおや?

 業務報告もなしに直帰ですかぁ?

 よろしいのですかぁ?

 その様なことでぇ?』

と言う男性の声が背後から響く。

ビクッ!

その声が耳に入った途端、

狐耳少女はたちどころに直立不動の姿勢になると、

恐る恐る自分の背後へと視線を向け、

背後に立つ管理職風の男性を見つけるなり、

『こっ、こっ、コン・リーノさんっ!』

と上ずった声を上げたのであった。



『玉梓さぁん。

 こんなところにいらしたのですかぁ?

 あなたが意気揚々と出て行かれてから一向に連絡がないので、

 心配していたんですよぉ。

 で、御勤めは無事に果たされましたでしょうか?』

硬直する狐耳少女・玉梓を細い目で凝視しつつコン・リーノは成果について尋ねると、

『そっそれが…

 思わぬ邪魔が入りましてぇ…』

と玉梓は冷や汗を噴出しながら呟くように返事をしてみせる。

『邪魔…

 ですか?』

玉梓の口から出た言葉をコン・リーノは怪訝そうに復唱して見せると、

『そ、そうなんです。

 コン・リーノさんっ、

 聞いてください。

 あと一歩、

 あと一歩まで行ったのですが、

 そういう時に限って色々と邪魔するものが現れましてぇ、

 いやぁ、本当に残念です。

 無念です。

 邪魔さえ入らなければ、

 いまこの場でコン・リーノさんに見つけた神扇をお渡しすることができましたのに』

と言いながら玉梓は悔しがって見せ、

そして、

『それで作戦を練り直そうと

 日を改めて出直そうと思いまして…

 あははは…』

お尻から飛び出す尻尾を大きく左右に振りながら事情を話す。

すると、

ギンッ!

コン・リーノの細い目が大きく見開かれ、

『あなたの御勤めとは嵯狐津姫様からの御託をこの世界の巫女に伝えること、

 そうでしたよね?

 それだけのことになぜ邪魔が入るのですか?

 それとも、それらとは別に何か別件があったのですか?』

と問いたずねる。

『えっえっと…

 (しまった、余計なことを言わなければよかった)』

思いがけないコン・リーノの追求に玉梓は自分の軽はずみな発言を悔やみつつ、

『え、えっと…

 それがその…』

とシドロモドロになりながら別の2件について説明し始める。

そして、

『ふむ、なるほど…

 そう言う事はまず報告をこちらに上げてから取り掛かってほしかったですね』

事情を聞いたコン・リーノは軽く注意をし、

何か考える表情を見せる。

『はぁ、申し訳ありません…』

このまま沙汰止みななるのを祈りつつ玉梓は頭を下げると、

『まぁ、確かに重大な局面に限って思わぬ邪魔が入り、

 全てを台無しにされてしまうというのはよくあることです。

 が、しかしながら玉梓さぁん。

 あなたほどもあろうお方が邪魔が入った程度で目的が達成できないとは、

 とても驚きましたねぇ』

言葉の節々で眼力を強めつつコン・リーノは指摘しはじめた。

『ひぃぃぃっ!

 いえっ

 まだ諦めたわけではありません。

 明日出直せば必ずや…』

押しつぶしてくる眼力に支えているのか、

玉梓は全身の毛を逆立てながら弁明をすると、

スッ

見開かれたコン・リーノの目が元の細い眼に変わり、

『判りました』

と返事をしてみせる。

そして、

『もし…明日出直して万が一にも失敗なされた場合。

 嵯狐津姫さまに対して申し訳が立ちませんし、

 上司たる私の監督責任が問われます。

 ですので、こちらをお渡ししておきます』

そう言いながらコン・リーノは懐に手を入れると、

スッ

禍々しい妖気を放つ赤い封筒をわずかに見せる。

『ひぃぃぃ!!!

 そっそれはぁ!!!』

コンリーノの懐から出てきた封筒を見た途端、

玉梓は悲鳴を上げると、

『おや、これをご存知で?』

コン・リーノは済ました顔で聞き返し、

『ご存知であるなら、

 釈迦に説法となりますが、

 改めて説明させていただきますと、

 これをお使いになればパワー・運動能力が共に約3倍となりますので、

 邪魔をする者達などものの敵ではないでしょう。

 ただ…パワーに反比例して知能が1/3になってしまうところが問題と言えば問題ですが、、

 でも、その点は普段から賢い玉梓さんなら問題はないと思います』

そう言いながら封筒を渡そうとするが、

『いっいりませんっ

 そのような物がなくても私は…

 十分に成果を挙げられます。

 いっいまから神扇を回収に向かいますっ』

顔を引きつらせながら玉梓は拒否し、

シュタッ!

とコン・リーノの前から姿を消してみせる。

『ふむふむ、

 まぁ仕方がないでしょう。

 期待してますよ、

 玉梓さん』

姿を消した玉梓を見送りながらコン・リーノは目を細めると、

フッ!

彼もまた姿を消したのであった。


 
一方、天界では…

『ではな、

 気を落とすな』

時差の関係で午後に入ったばかりの天界・上海亭より出てきた天使・アーリィは

うな垂れながら後より出てきた鍵屋に向かって励ますように声をかけ、

『先ほどのことはパラレルに連絡を入れておくので、

 人間界の早川神社へ向かうと良い』

と伝え雑踏の中へと消えていく。

『………』

去っていくアーリィの後ろ姿を鍵屋は空ろな視線で見送るが、

直ぐに自分の頬を叩くと、

『玉屋にしてやられるとは、

 まだまだ修行不足ですね』

と気を取り直し自戒の念を口にする。

そして、

『そういえばアーリィさんって、

 誰かに似ていると思っていましたが、

 そうか、柵良さんに似ていましたか、

 天使と人間はいわば光と影…

 人間界に常に似た人が居ると聞いていますが、

 なるほど…』

とアーリィが自分が良く知っている巫女と似ていることに大きく頷くと、

グゥゥ…

鍵屋のお腹から盛大に音が響いたのあった。

『とはいっても、

 お昼を食べ損なったまま午後の仕事をするわけにはいきませんし…

 仮に下に降りても時差の関係で向こうは夕方でしょうから、

 どこかで…』

と適当な店を探しつつ道を歩いていく、

すると鍵屋の視界に一軒の店が目に入る。

『立ち食いソバ・マッハ軒。

 そうですね。

 今日は立ち食い蕎麦で済ませますか』

と鍵屋はマッハ軒・北2条西3条交差点前店へと入っていく。

無論昼時なので店内は慌しく食事を摂る天使達で混雑し、

その中を鍵屋は掻き分けながらカウンターへと進んでいくと、

『おばちゃんっ!、

 納豆ソバ1つ』

と声を張り上げる。

『あいよぉ!』

注文の声に威勢の良い返事が返ってくると、

『あっ、それと、

 稲荷を二個もらえる?』

メニューを見上げた鍵屋が追加注文を出したとき、

鍵屋の真横で日曜日夕方に必ずTVからかかる音楽が鳴り響き、

『はいはいーぃ

 パラレルですぅ』

と応対に出る天使の声が響いたのであった。

『え?

 パラレル?』

その声に鍵屋はギョッとすると、

『あらぁ、アーリィ様ぁ、

 久しぶりですぅ、

 お変わりはありませんか?

 え?

 そんなことよりも大事な話?

 はぁ

 四神扇?…あ…、

 巫女神の沙夜ちゃんが持っているアレですわねぇ、

 えぇ…

 他の神扇ですかぁ…

 風竜扇は比較近所にありますし、

 地竜扇は遠い所に移動したみたいです。

 天竜扇は…』

そう言い掛けた所でパラレルは不意に鍵屋を見ると、

『ここから先は鍵屋さんに直接お話したほうがよろしいですわね』

とケータイに向かって言ったのであった。



『どうして、

 僕だとわかったのですか?』

カウンターで蕎麦を啜りながら鍵屋は尋ねると、

『それは…

 顔に書いてありますわぁ』

とパラレルはいつもの調子ではぐらかしてみせる。

だが、

『え?』

パラレルの言葉を信じた鍵屋は慌てて鏡を取り出し自分の顔を見ると、

『まぁ、なんていいますか、

 天使にはそういう力がありましてぇ』

チュルル…

と注文をした天ざるを食べ始める。

『あっ、

 そういうことですか』

言葉の意味を理解した鍵屋は頬を赤らめると、

『四神扇の事を調べていられるのでしょう。

 鍵屋さんなら既に情報を持っていらっしゃるかと思いましたわぁ』

海老天を頬張りつつ言う。

『まぁ、それはその…

 情報はあることがあるのですが』

痛いところを突かれた鍵屋は照れ笑いをして見せると、

『四神扇についての更新情報は新竜宮城のサーバーに置いてありますので、

 そちらにアクセスしてくださいな。

 アクセスの際に必要になるIDとパスワードはあとでお知らせいますわ』

鍵屋に向かってパラレルは言う。

『あっありがとうございます』

それを聞いた鍵屋は頭を下げた途端、

鍵屋のケータイにサーバー管理者からのメールが着信し、

発給されたIDとパスワードが届いたのであった。

『早…』

あまりにもの手際のよさに鍵屋は感心すると、

鍵屋は速攻でソバを稲荷を食べ、

『では、失礼します』

の声を残して店から出て行ったのであった。



『竜宮城ですかぁ

 これはちょっと遠いですね』

天使パラレルと別れた鍵屋は頭を掻きながらマッハ軒から出ると、

腕につけている腕時計形の通信機を開き、

『こちら鍵屋。

 轟天号応答せよ。

 轟天号応答せよ』

と声を張り上げる。

すると、

パンパンパン!!

高らかに響くエンジン音と共に

左右の丸いヘッドライトを光らせる一台のオート三輪が道の彼方から見せるなり、

一直線に鍵屋に向かって突進してくる。

そして、

キキキッ!

マッハ軒の前に立つ鍵屋の目の前に停車すると、

バンッ!

と運転席のドアを開けて見せ、

『やぁマイケル。

 調べ物は終わったかい?』

と車内から男の声が響く。

『誰がマイケルですかっ!』

オート三輪に向かって鍵屋は怒鳴ると運転席にドッカと座り、

『いいですか、R。

 よく聞いてくださいね。

 いまから行く目的地ですけども…』

と早速オート三輪を維持管理している人工知能に向かって目的地を告げ始めた。



説明しよう。

鍵屋の愛車・轟天号は一見クラシカルなオート三輪ではあるが、

だが、いくつもの”松本メータ”が輝くハンドル奥のパネルが示すとおり、

バニーガール好きが仇となって流離う羽目になった天才科学者が

滅び去った数々の惑星文明が残した技術を骨格にして”建造”したウルトラ・カーであり。

さらにドライバーをサポートするため女神によって生み出された人工知能・R28号により、

どのような危機的な状況に追い詰められても、

常に快適なドライブを約束されているのである。

そのために、轟天号建造に投じられた資金は石高に直すと約600万石。

そう轟天号はまさに”600万石のクルマ”なのである。



『以上、判りましたね。

 では、玉屋さんも裏で動いているようですし、

 急いでいくとしましょう』

サングラスを掛けながら鍵屋はそう呟くと、

キュルルルル

パっパンパンパンパン

セルモーターを回してエンジンを掛け、

『行くぞ、R!』

の声ともにアクセルを踏み込むが、

だが、轟天号は微動だにもしなかった。

『どうしたのです?

 なぜクルマを出さないんですかっ』

一向に走り出さない轟天号に向かって鍵屋は怒鳴ると、

『あのぉ…

 まだご飯を食べてませんが…』

と人工知能は鍵屋に昼食をとってないことを言う。

『ほほぉ…

 わたしの指示よりも、

 飯を食べたいと?』

それを聞かされた鍵屋はサングラスを光らせつつハリセン片手に返事をしてみせると、

『あぁ…

 判りました。

 行きますよぉ、

 トホトホトホ…』

しぶしぶ人工知能は返事をしてみせた後、

パパパパパンパンパンパン…

やや重いエンジン音を響かせ走り出したのであった。



しつこいようだが説明しよう。

先刻、轟天号はウルトラ・カーであることは説明をしたが、

さらにウルトラ・カーである所以として、

その驚異的な内部構造に注目しなければならない。

鍵屋が座る運転席は誰が見ても普通のクルマの運転席にしか見えないが、

だが、安物の革張りシートの下には血液が通う生体組織があり、

さらに薄い鋼板をプレスしたようにしか見えない車体には

耐熱・対放射線に優れた極薄の装甲鱗が覆っているのである。

そう、まさに轟天号は機械と生物が融合した究極の存在であり、

神をも恐れぬ天才科学者の最高傑作品なのであった。



パァァァァァン…

天界を発った轟天号は竜宮へと続くハイウェイを走るが、

だが、その轟天号を邪魔だといわんばかりに、

後続の乗用車や装飾の派手な大型トレーラーなどは

次々とパッシングを浴びせつつ、

どけと言わんばかりに追い越していく。

『むっ、オート三輪だからといって馬鹿にしてますね』

それを見た鍵屋は不機嫌そうな顔をして見せると、

『いいでしょう、

 轟天号の底力をあなた方にとくと見せてあげましょう』

それらを見ながら鍵屋はそう呟くと、

巧みにクラッチを操作しつつアクセルを思いっきり踏み込んで見せる。

すると、

ドクンッ!

ボンネット内に収められた轟天号の心臓が大きく高鳴り、

ごわぁぁぁぁ!!!

見る見るスピードが上がり始める。

だが、トレーラー達は加速する轟天号をあざ笑うかのごとく、

パッシングを浴びせてくると、

『ふっふっふっ』

それを見た鍵屋の口から笑いが零れ、

『R!、

 超光速波動エンジン起動!』

いまだ眠りについている轟天号の主動力機関の稼動を告げる。

ところが、

『えぇ!

 波動エンジンを…ですかぁ?

 ご飯を食べてないのでそれは…ちょっとキツイんですけど』

それを聞いた人工知能は悲鳴を上げると、

『私に同じことを二度も言わせるのですかぁ〜?』

と鍵屋は問いたずねる。



くどいようだが説明しよう。

普段温和な術者である鍵屋ではあるが、

だが、一度サングラスを掛けハンドルを握ると若きころの血が騒ぎ出し、

かつて天界にその名を轟かせたダークな存在となるのであった。



『わっ判りましたぁ〜』

鬼気漂う鍵屋の指示に人工知能が震え上がりながら応えると、

ズゴゴゴゴゴゴ…

ボンネットの下で休止していた超光速波動エンジンにタキオン粒子が注入されたのか、

眠っていたエンジンが目を覚ましていく。

『タキオン粒子、炉内収束確認』

『第一次臨界点突破、S2機関予備接続』

『第二次臨界点まであと30秒』

と人工知能は轟天号の要である超光速波動エンジンの起動を伝え、

それにあわせてハンドルに備えられたランプ・A〜Fが次々と点灯し、

そして、

『臨界到達、

 エネルギー反転確認、

 S2機関起動』

の声と共にハンドル中央のGランプが点灯すると、

『フライホィール接続!!』

『波動エンジン起動!』

人工知能は高らかに叫びながら、

ガチン!

エンジンルーム内のスイッチが切り替わった途端、

ウォォォォン!!!!

轟天号は大きくウィリーをした後、

激しいドップラー効果を巻き起こしながら猛然と加速を開始する。

すると、先ほどまで追い抜いていった車などは一斉に静止して見せた後、

猛スピードで後方へと流れ始めるが、

しかし鍵屋はそんなことを気にせずに、

『ワープ規制区間は過ぎました。

 轟天号、

 ワープイン!!』

の声と共にクラッチをワープに入れると、

正面の一点に集中した光の中へと飛び込んで行くが。

それと同時に、

カカッ!

チュドォォォォォォン!!!!!

轟天号のワープインと同時にその場を爆心地にして衝撃波が広がり、

道路上を走行している車両を次々と飲み込んでいったのであった。



「そういえばさ」

夕刻の社務所に夢原希の声が響き渡ると、

「ん?」

「なんですか?

 希さん」

彼女の両隣にいる夏木凛と春日野麗が希の方を向きながら聞き返す。

「あぁ、いや、

 そんな大げさじゃないんだけどさ、

 ほら、この間やってきた、

 エ、エ、エ…

 そう、ヱターナルって人たち、

 あの人たち、結局どうなったのかなぁ…」

と希は先日、巫女神家にて対峙した盗賊・ヱターナルのその後について尋ねると、

「あぁ、ヱターナルの事なら、

 残念ながら取り逃がしてしまったみたいよ。

 あの人たち、結構逃げ足が速かったようよ」

希の話を聞いていた水無月可憐がその後の顛末について説明をする。

「なによぉ〜っ、

 結局取り逃がしたわけ?

 まったく、警察も困ったものね。

 鼻息が荒いのは最初だけだったの?」

可憐の話に凛がすかさず突っ込みを入れると、

「警察さんにも限界があるから…

 仕方がない面もあるだろうけど、

 でも、あれだけ大掛かりな捕り物をしたのだから、

 逮捕できなかったのは痛いわね」

秋元小町が警察を庇いつつも

それができなかった不甲斐なさを嘆いてみせる。

「ところで、

 その巫女神さんのところのお姉さんと、

 柵良先生って何か知り合いだったみたいだけど」

話が一段落するのを見計らって麗が巫女と巫女神摩耶のことを指摘すると、

「巫女神摩耶さんのこと?」

と希は聞き返す。

「えぇ…なんていうか、

 古くからの知り合いのような…」

親しそうに会話をしていた巫女と摩耶の姿を思い出しつつ、

麗がそう呟いたとき、



ドォォォォンンン…

ユサユサユサ!!



遠雷を思わせる爆音と共に社務所が揺れ始めた。

「うわっ、

 じっ地震?」

その音と揺れに希が驚くと、

「みんなっ、机の下に隠れるのよ」

「ちょっと大きいわね」

「麗、TV灯けて!」

追って麗、小町、凛の緊迫した声が響き渡るが、

「ちょっと待って、

 これ地震じゃないわ」

と可憐が声を上げると、

「え?」

皆の視線が一斉に可憐へと注がれる。

「地震じゃないって、

 じゃぁなに?」

頭に座布団を載せながら希は可憐に尋ねると、

「普通の地震なら先に縦揺れが来るはずなのに、

 揺れ方が違うわ、

 そう空気…いいえ、この空間そのものが揺れているような感じ…」

体全体でいまだ続く揺れを感じながら可憐は呟くと、

「時空震と言うやつか」

の声と共に巫女装束姿の巫女が部屋に入ってきたのであった。

「柵良先生!!」

彼女を見た途端、

皆の口からその声が出ると、

「ん?

 何をしておるのじゃ、

 そんなに大きな揺れではなかったぞ」

と座布団を頭の上に乗せている皆を見ながら巫女はケロリと言ってのける。

「それはそうですが、

 でも、一応ねぇ」

「何か物が落ちてきたら危険ですし」

巫女の言葉に凛と麗が返すと、

「それにしても、

 時空震なんて言葉、

 よくご存知で?」

と可憐はたずねる。

「まっまぁ、

 色々と知る機会があってな」

その質問に巫女ははぐらかすように返事をしてみせると、

「凛ちゃん、

 そんな言葉知ってた?」

「いやぁ、

 あたしも初めて聞くよ」

希と凛はヒソヒソ話をし始める。

と、そのとき、

「ん?」

巫女の表情が変わると、

「境内に何か出おったな」

そう呟く否や、

バンッ!

払い串片手に社務所から飛び出してみせる。

すると、

『まったく…

 なんであたしだけが一人クライマックスなのよっ』

ブツブツ文句を言いながら境内の真ん中で宙に浮く狐耳少女・玉梓の姿があり、

巫女装束の袖口から出ている握られた手がプルプルと震えていた。

「ん?

 狐の使いがぁ

 またでおったかっ

 今度は何用じゃっ!」

そんな玉梓を睨みつつ巫女は払い串を構えてみせると、

『あぁっ

 もぅっ

 こうなったら手段なんて選ばないんだからぁ!!』

玉梓は声を張り上げながら巫女を睨みつけるなり、

白衣の中から狐のお面を取り出すと、

『コン・ワイナー!!

 もぅ誰のでもかまわないから神扇を奪ってきなさい!』

と命じながら社の前で鎮座する狛犬に向かって投げつけて見せる。

すると、

『コン・ワイナァァァァァ!!!』

狐面が被された狛犬は見る見る巨大化し、

コン・ワイナーとなって巫女の前に立ちはだかったのであった。



「これは…」

見上げるほどの姿になったコン・ワイナーを見上げながら巫女は怯むと、

『コンコンコン!!

 聞いて驚け、

 見て驚け、

 これぞコン・ワイナーの真骨頂!

 さぁ、痛い目にあいたくなければ大人しく神扇を渡すのよ!!』

お狐・コンワイナーの上によじ登った玉梓は得意げになりながら声を張り上げて見せる。

「はぁ、何を言っておるのじゃ?

 そもそもお主はわしに女狐の言伝を伝えに来たのじゃぁ?」

そんな玉梓を見上げながら巫女はあきれた表情を見せつつ、

彼女が巫女の前に現れた事情を説明しようとするが、

『うるさい、

 うるさいっ

 うるさぁぁぃっ!』

玉梓は巫女の言葉に聞く耳を持ってないことを怒鳴ると、

「まったくっ

 こういう場合は…致し方があるまい。

 ぷりきゅあ・ふぁい部!

 お主らの出番の様じゃ」

と巫女は説得を断念し、

社務所の中に向かって声を上げる。

すると、

「ぷりきゅあ・めたもるふぉーぜ!」

の声が直ぐに響き渡り、

バンッ!

社務所の引き戸が大きく開かれると、

「大いなる希望の光、きゅあどりぃむ!」

「情熱の赤い炎、きゅあるーじゅ!」

「はじけるレモンの香り、きゅあれもねーど!」

「安らぎの緑の大地、きゅあみんと!」

「知性の青き泉、きゅああくあ!」

の声と共にレスリングユニフォームに身を包んだ希、

料理部のエプロン姿の凛、

さらに光画部特製超高輝度フラッシュを背負った麗に、

鮮やかな緑色の廻しを締める相撲部の小町、

そして、いま流行のレーザーレーサーを着た水泳部の可憐が飛び出し

「希望の力と未来の光、

 華麗に羽ばたく5つの心っ

 Yes!

 ぷりきゅあ・ふぁい部!」

と声を合わせて勢ぞろいしてみせる。

『現れたなぁ、

 ぷりきゅあ・ふぁい部!

 今日の私はマジだからね、

 コン・ワイナー!』

足元に勢ぞろいするぷりきゅあ・ふぁい部を見下ろしながら玉梓は声を上げると、

『コン・ワイナァ!!』

それに応えてか仮面の目に光を輝かせ、

ズゴゴゴゴ!!

コン・ワイナーな大きく前足を上げるが、

「あらアクア、その水着…」

「えぇ、レーザー・レーサーよ、

 じぃが用意してくれたの」

「みんとの廻し、新調したのですか?」

「えぇ、近々試合があるので、思い切って」

「どりーむのレスリングユニフォームも新しいのに換えたのですか?」

「うん、そうなのよ」

とコン・ワイナーそっちのけでおしゃべりを始める。

『おのれっ、

 馬鹿にしてぇ!

 コン・ワイナー

 さっさと潰しておやり!』

自分を無視して話をする5人の姿に玉梓は怒り心頭で命令をすると、

一気に踏み潰しにかかる。

だが、

「ふんっ!」

ビシッ!

ビシッ!

迫る前足に臆することなく”きゅあ・みんと”は大きく四股を踏んで見せると、

「大地を揺るがす乙女の怒り、

 受けてみなさい!!!

 ぷりきゅあ・みんとぷろてくしょぉぉん!!!」

の声と共に、

ズンッ!

「どすこいっ!!!」

見事コン・ワイナーの前足を受け止めてしまうと、

「はっ!」

ムギュっ!

その前足をつかみ上げ、

「どりゃぁぁぁぁ!!!」

の声高くうっちゃってみせる。

すると、

『コン・ワイナァ』

”きゅあ・みんと”に足をとられたコン・ワイナーはあっけなく投げ飛ばされてしまい、

ズィィィン!

境内に腹を見せてしまったのであった。

『うわぁぁぁ!!

 なっ何をしている、

 コン・ワイナー!

 さっさとぷりきゅあ共を倒さないか』

コン・ワイナーから振り落とされた玉梓は焦りながらも声を上げると、

『こっコン・ワイナー!!』

直ぐにコン・ワイナーは起き上がろうとするが、

「輝く乙女のはじける力、受けて見なさい!

 ぷりきゅあ・れもねーど・ふらっしゅっ!」

の声が響くと、

シュバババババ!!!

猛烈なフラッシュが光り輝き、

『ぐわぁぁ!!

 眩しい!!!』

『コ・コ・コーン!!!』

コン・ワイナー共々玉梓の視力が奪われてしまった。

だが、攻撃の手は緩められることはなく、

「純情乙女の炎の怒り、受けてみなさい。

 ぷりきゅあっ、

 るーじゅ・ふぁいやぁぁぁ!!!」

「岩をも砕く乙女の激流、受けてみなさい。

 ぷりきゅあっ、

 あくあ・すとりぃぃむ」

と”きゅあ・るーじゅ”と”きゅあ・あくあ”から放たれた

火炎と激流が容赦なくコン・ワイナーに襲い掛かり、

『ぎゃぁぁ!

 熱ち冷たい!!!』

玉梓の悲鳴が上がる。

そして、

『こっコン・ワイナァァ』

よろめきながらコン・ワイナーが立ち上がろうとしたとき、

「夢見る乙女の底力っ

 受けてみなさい!!!」

の声逞しく”きゅあ・どりーむ”がコン・ワイナーの下にもぐりこみ、

「どりゃぁぁぁ!」

掛け声と共にコン・ワイナーを地面にたたきつけてしまうと、

カラン!

顔につけられていた仮面が剥がれ落ち、

パキン!

仮面は呆気なく砕け散った。

「フォール!」

”きゅあ・るーじゅ”の声が上がる中、

コン・ワイナーの体は萎むようにして元の狛犬に戻っていく。

そして、

『あっあっあっ

 ちっ畜生!!

 覚えていろよぉぉぉ!!!』

呆気ない幕切れに玉梓は泣きながらその姿を消してしまうと、

ポトッ

空よりビー玉ほどの多きさの玉が一粒、巫女の掌へと落ちてくる。

「なんじゃぁ?」

落ちてきた玉を見上げながら巫女は小首を傾げるが、

その玉に秘められたメッセージに彼女が気がつくのはまだ先の話であった。



つづく