風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部轟轟」
(第2話:ヱターナルの脅威)



作・風祭玲


Vol.951





『親愛なる県警の諸君。

 先日は我が配下の者への盛大なるお見送りを感謝する。

 さて、我々ヱターナルは次なる標的を決めるにあたり、

 県警に対し事前通告を行うことを決した。

 これは我々が行う没収作業の円滑なる遂行と、

 周辺へ各方面への諸事情を考慮した結果である。

 では、今回の没収目標だが…』

「ぐぬぅぅぅ…

 本部長!

 これは犯行予告文ではないですかっ!!」

県都U市の中心部に聳える県警本部。

その最上階の大会議室ににて県知事を招いての午前会議の席上、

ヱターナルより送られてきた手紙に目を通した途端、

県警捜査1課の銭潟警部は目を吊り上げながら怒鳴り声を上げると、

「うむ、誰が見ても犯行予告文だと思う」

と上座に座る県警本部長は涼しい顔で言う。

「なんという大胆不敵。

 県警を何だと思っているんだ!」

歯軋りをしながら銭潟は手元の予告文をくしゃくしゃに丸め、

思いっきり床にたたきつけて見せると、

「…そこでだ銭潟君」

不意に本部長が声を掛け、

「君はヱターナルが操る怪ロボット”ほしぃなぁ”への対策は考えておるのか?」

と県警がこれまでに幾度も辛酸を舐めさせらている”ほしぃなぁ”への対策について問い尋ねる。

「それでしたら大丈夫です、本部長。

 消防本部の協力をいただきまして、

 高所火災用梯子車を借りることができました。

 ”ほしぃなぁ”が着陸した途端、

 梯子車でもって足止めを行い、

 さらに伸ばした梯子から一斉に警官隊を飛びかからせ、

 必ずやヱターナルを逮捕してごらんいたします」

銭潟は用意していた計画書を広げそう力説する。

「なるほど」

銭潟の計画書に目を通しながら本部長は小さく頷くが、

チラリ

と隣に座る県知事に目線で合図を送ると、

「こほんっ!」

徐に咳払いをするなり、

「その”ほしぃなぁ”への対応だが、

 今回は県知事の方で準備してしてくださった県立防衛軍を出動させることになった。

 これは決定事項であるので、

 銭潟警部、異論はあると思うが従ってもらうぞ」

と本部長は防衛軍の出動を告げたのであった。

「なんですかぁ?

 防衛軍とは?

 そのようなものに頼らなくても、

 我々は十分にヱターナルを逮捕できます!」

本部長の方針を聞かされた銭潟は顔を真っ赤にして詰め寄ると、

「…無論、逮捕は逮捕権を持っていらっしゃる県警が行っていただきます」

と横に座る県知事は発言する。

「え?、

 それってどういうことですか?」

県知事の発言に銭潟は困惑しながら聞き返すと、

「防衛軍はあくまで”ほしぃなぁ”を活動停止状態にするのが任務です。

 そして防衛軍の手により”ほしぃなぁ”が倒されたら、

 銭潟警部。

 あなたが”ほしぁなぁ”に乗り込んでヱターナル一味を逮捕するのです。

 よろしいですね」

と銭潟を指差し県知事は言う。

「はぁ…

 しかし、そのようなことが出来るのですか?

 その防衛軍に…」

狐の摘まれたような顔をしながら銭潟は県知事に向かって尋ねると、

「これ以上のヱターナルの蛮行を許せば、

 私の支持率にも影響をするのでね。

 銭潟警部、大船に乗った気で居給え」

意味深な笑みを浮かべつつ県知事は両肘をテーブルに付けると、

口元で組んだ手で口を隠す仕草をして見せた。



所は変わって天界

カタっ

カタカタカタ

カチカチ…

『うーん、

 なかなか情報にはたどり着けませんね』

宇宙に存在する全ての情報が集積され、

そして処理されているイグドラシル・システム。

その端末を叩きながら鍵屋は困惑した顔をしていると、

『あれ?

 鍵屋じゃないか』

不意に鍵屋に声が掛けられた。

ギクッ!

思いがけないその声に鍵屋は一瞬緊張するが、

コホン

直ぐに咳払いをすると、

『アーリィさまではありませんか』

と言う言葉と共にいつものすまし顔で振り返って見せる。

すると、

『さっきから何を検索しているのだ?』

天界で活動する天使達を束ねる立場に立つ天使・アーリィは

どこか疑った目で鍵屋を見ながら尋ねると、

『いやぁ、

 まぁ…

 ちょっと…

 調べ物を…』

鍵屋は目を泳がせ返答を濁しかけるが、

『!!っ』

あることを思いつくなり

『そうだ、アーリィ様ならご存知でしょうか』

と切り出したのであった。



『四神扇?』

『まぁ…ある方から頼まれまして』

天界のグルメスポット・上海亭

昼食時で賑わう店内にアーリィと鍵屋の声が交差すると、

『四神扇とは天・地・風・雷のあの四枚の神扇のことか?』

特製トンコツ・手打ちラーメンを啜りながらアーリィは尋ねる。

『えぇ、

 実はその四神扇を巡ってちょっと人間界で騒ぎがありまして』

人気メニューのジャンボ餃子定食を目の前に置いて、

鍵屋は醤油挿しにラー油を足しながら下界での出来事を話し始める。

『また、パラレルが何かしでかしたか…』

話を聞いたアーリィはため息混じりにこぼすと、

『いぇいまの所、天使の介入はありません。

 主に動いているのが嵯狐津の姫様一派と、

 正体はいまだ不明ですが、

 ヱターナルと呼ばれるグループです』

と鍵屋は言う。

『嵯狐津の姫様だとぉ、

 あのワガママ姫が神扇など手に入れて何を始める気だ?』

それを聞いたアーリィは呆れた表情をして見せると、

『さぁ?

 そこまでは…

 私もちょっと接触をしてみたのですが、

 何をしようとしているのかは判りませんでした』

と鍵屋は言う。

そのとき、

『あれ、

 鍵屋っ、

 鍵屋じゃない』

突然店内に女性の馴れ馴れしい声が響き渡ると、

鍵屋の前にビキニを纏ったナイスバディの女性が姿を見せ、

そんな姿に似合わない長い刃先の杖鎌を背中に回して

『お昼食べているの?』

と尋ねたのであった。

『やっやぁ、

 玉・屋…さん』

思いがけない女性・玉屋の登場に鍵屋は顔中から冷や汗を流しつつ返事をすると、

『あたしもちょうど食べに来た所なのよ、

 ここのジャンボ餃子定食って人気メニューですものね』

と玉屋は言うとチラリとアーリィを見るなり、

『何の密会?

 悪巧みならあたしも混ぜてよ。

 アーリィ様を引き込むなんて鍵屋も隅に置けないわね。

 で、何を始める気?

 この間みたいに盛大にやるの?

 あれは凄かったわぁ…、

 仲間内では未だに話題になっているし、

 あたしも現場で見ていて溜飲が一気に下がったわよ』

キラキラと目を輝かせ玉屋は擦り寄ってみせる。

『べっ別に…、

 なにもしませんし、

 第一、こんなところで密会もないでしょう』

憮然としながら鍵屋は答えると、

『あらそうなの?

 でもねぇ…』

二人に目を配らせながら玉屋はニヤリと笑って見せる。

とそのとき、

『玉屋さぁーん、

 席が取れたよぉ』

と店の奥から彼女の名前を呼ぶ声が響いたのであった。

『あっはーぃ、

 いまね、華代ちゃんと業屋さんとで来ているの。

 また後でゆっくりとお話をしましょ。

 ご馳走さまね、鍵屋』

呼ぶ声に玉屋は返事をした後、

ニンニクの匂いを漂わせながら去って行くと、

『まったく、

 なんで玉屋がこんなところに…

 それにご馳走さまって、

 玉屋に何か食べさせたわけ…』

玉屋の後姿を見送り、

鍵屋は文句を言いながらアーリィの方を見た途端、

『あぁ!

 餃子がぁぁ!』

ついさっきまで皿に盛られたいた筈のジャンボ餃子が大盛りのご飯共々消え失せていたのであった。

『お前と話をしながら盛大に食べていたぞ、

 瞬きをするほどのわずかの時間でな、

 しかもしっかりとお茶までも飲んで』

呆気にとられている鍵屋を眺めつつアーリィは苦笑して見せる。

そして、

『空間を支配する鍵屋の注意を会話でそらし、

 その間に餃子定食を一気に食べてしまうか。

 また腕を上げたようだな玉屋は…

 さすがは我々の運命管理システムからも独立している”命の行商人”のことだけはある。

 鍵屋も油断すると餃子どころか命まで持っていかれるぞ。

 そうそう、四神扇のことなら私ではなく、

 人間界に常駐しているパラレルに聞くと良い。

 扇の一つ、雷竜扇と関わっているし、

 他の神扇の存在場所も把握しているはずだ。

 …あと、昼飯の代金は私が払っておこう』

そう言いながらアーリィは腰を上げ、

『まぁ、元気を出せ』

肩を落とす鍵屋の背中を叩き店を出て行ったのであった。



ピチチチチチチ…

『ふわぁぁぁぁ…

 暇ねぇ…

 あんまり暇だからお池の周りに向日葵が咲き乱れているわ』

閑静な木立に囲まれた巫女神邸。

その巫女神邸内にある湧水池のなかで人魚のマイが大きく背伸びをしながら、

池を囲むように咲き誇る向日葵の群落を鬱陶しそうに見つめていた。

すると、

「おーぃ、

 マイっ!」

向日葵越しにマイを呼ぶ声が響くと、

『あっ、

 沙夜子ぉ!!』

池の中からマイは大きく手を振って見せた。

それから程なくして、

ガサッ

ガサガサガサ!

向日葵の一部が大きく揺れはじめると、

やがて向日葵を掻き分けるようにして巫女装束姿の二人の少女が姿を見せたのであった。

「ふぅ…また増えてないか向日葵?」

「そうねぇ、向日葵ってこんなに簡単に増えるものだっけ?」

額の汗を拭いつつ巫女神沙夜子と夜莉子の二人は向日葵の群落を振り返ってみせる。

『それはヒマだからよ』

そんな二人に向かってマイはそう指摘すると、

「ヒマだからって、

 それを理由に向日葵が咲くわけないでしょう」

と夜莉子は返す。

すると、

スッ!

何かを感じ取ったのか沙夜子が夜莉子を制すると、

懐より雷竜扇を取り出し、

そしてバッ!と開くなり大きく振りかぶった。

その直後、

「翠玉波っ!」

沙夜子の掛け声と共に扇より放たれた翠色の光点が

池の対岸で咲き誇る向日葵の群落をなぎ倒して行くと、

『きゃんっ!』

少女を思わせる悲鳴が上がり、

ザザッ!

頭から狐耳を

そしてお尻からは狐尻尾を生やした巫女装束姿の少女が宙を舞う。

「なにあれ?」

突然出てきた狐巫女少女に夜莉子は驚くと、

『クスっ、

 雷竜扇みぃーけっ』

と狐耳の少女は呟き、

『狐妖術!!』

の声と共に

ヒュッ!

っと沙夜子に向けて何かを吹きかける仕草をする。

「!!っ」

次の瞬間、沙夜子は夜莉子の腕を握り池の中に飛び込んで見せると、

バッバッ!

沙夜子がさっきまで居た空間を周囲の向日葵がまるで生き物の如く掴み合うが、

だが、向日葵の葉と茎は誰も居ない空間で絡んでいるだけだった。

「危なかった…」

池の中から沙夜子はその様子を眺め胸をなでおろすが、

『ちっ!!

 勘の良い奴!』

狐耳少女は直ぐに池の中の二人へと目標を定める。

だが、

『こらぁ!

 沙夜子と夜莉子に何をするのっ!』

それを見たマイが怒りながら自分の両手を胸で合わせて気合を込めると、

カッ!

その胸の前に翠色の光玉が現れ、

『このぉっ!』

その光玉を狐耳少女に目掛けて放った。

『ちぃっ、

 目障りなサカナ女ごときがぁ』

自分に目掛けて放たれた光玉を避けつつ狐耳少女は舌打ちすると、

『その雷竜扇は嵯狐津姫様がお持ちになるべきのもの、

 必ず頂きに参りますわ。

 それとそこのサカナ女っ、

 今度会ったら三枚に下ろし嵯狐津姫様に献上しますので、

 覚悟しておきなさい!』

声を残して姿を消したのであった。

ビュオッ!

狐耳少女が姿を消すのと同時に風が吹き、

咲き乱れる向日葵の花を散らし始める。

「これは…」

池から上がり、

散って行く向日葵を見上げながら夜莉子は尋ねると、

「向日葵は大方あの狐女が妖術で生やしたものでしょう」

と沙夜子は涼しい顔で言う。

「知っていたの?」

沙夜子の言葉に夜莉子は驚いてみせると、

「なんとなく…ね」

と夜莉子は片目を瞑って見せた。

と、そのとき、

ファンファンファン

遠方からサイレンの音が響き渡ると、

程なくして二人の視界にパトライトを輝かせるパトカーの一団が姿を見せたのであった。

「なっなにかな?」

「夜莉子…

 お前、何かしたのか?」

迫るパトカーを見ながら沙夜子は顔を引きつらせる。



「えぇ!!

 怪盗・ヱターナル…ですか」

巫女神家の玄関にて応対に出た巫女神摩耶は驚いてみせると、

「はいっ、

 ヱターナルはお宅にて保管管理されている秘法・雷竜扇を奪う。と、

 大胆にも我々に予告したのです」

と警官隊を率いる銭潟警部は事情を説明をする。

「まぁ、

 それは大変」

事情を聞かされた摩耶は困惑した表情をして見せると、

「で、

 その秘宝というのはどちらに?」

と銭潟は雷竜扇の在り処を尋ねる。

すると、

「雷竜扇は保管されているものではなくて、

 私がこうして常に持ち歩いています」

頭からバスタオルを被る沙夜子が出てくるなり、

スッ!

っと懐にしまってある雷竜扇を取り出し銭潟に向けて見せる。

「あなたは?」

沙夜子を見ながら銭潟は尋ねると、

「あっあぁ、私の妹です。

 雷竜扇の継承者ということで、

 扇は常に彼女が持ち歩いているのです」

と摩耶はあわてて事情を説明する。

「なるほど、

 管理方法はそこそこの事情がありますので、

 警察は細かい所までは口出しをしませんが、

 今夜は無闇に出歩かないで頂きたい。

 ヱターナルが示した犯行予告時刻は今夜の10:00ですので」

事情を聞いた銭潟はそう告げると、

「それまでの間、

 我々警察がお屋敷を警護させていただきます」

と言い残して銭潟は玄関から去って行く。

「沙夜ちゃんの雷竜扇って人気ものねぇ…

 一難去ってまた一難じゃない」

一部始終を聞いていた夜莉子が関心をしながら頷いてみせると、

「ぶっちゃけありえないわ…」

と沙夜子は去って行く銭潟を見送っていたのであった。



すっかり夜の帳が下り

間もなく深夜帯に差し掛かろうとする巫女神邸。

カチッ!

カチッ!

時計の針がヱターナルの犯行予告時刻に近づく中、

「警部っ、

 全て配備を終えました」

煌々と投光器が照らし出す庭先で仁王立ちになっている銭潟の元に、

部下が全警察官の配置を終えたことを報告にくると、

「うむっ」

報告を聞いた銭潟は大きく頷き、

「おいっ、

 防衛軍というのは到着したのか?」

と未だ姿を見せない防衛軍のことを尋ねる。

すると、

「はっ、

 本日夕刻、市営地下鉄で発生した変電所への落雷火災の影響により、

 現在、市営地下鉄が全線不通になっているため到着が遅れるそうです」

すぐに返答の声が上がるが、

「地下鉄が止まったので到着が遅れる?

 連中は地下鉄やバスで移動しているのか?」

と銭潟は皮肉たっぷりに言い、

「ふんっ、

 本部長はあぁは言ったが、

 これだけの警戒態勢なら県知事自慢の防衛軍が出る幕も無かろう」

と胸を張ってみせる。

確かに銭潟の自信どおり巫女神邸の警戒態勢はこれまで以上に磐石であり、

蟻の子一匹入り込むことは出来なかった。

「ふふふっ

 来るなら、来いっ

 ヱターナル!

 今夜こそ、お前達をお縄にしてくれる」

遠い祖先から代々受け継いできた十手を掲げ、

銭潟は気合を入れているその空の上、

『ほしーなぁぁぁ!!』

と叫ぶ怪物体が飛行していたのであった。



『アナコンデ様っ、

 目標上空に到着しました』

飛行する”ほしぃなぁ”の操縦室内にスコルブの声が響き渡る。

『そうか』

その声にいつものボンテージ衣装に身を固め、

仮面をつけているアナコンデは手にしている報告書から目を離すと、

『タゴスっ、

 地上の状態は?』

とスコルブの隣に座るタゴスに地上の状況について尋ねた。

『映像を回します』

アナコンデの問いかけに応えるようにして、

タゴスは正面のスクリーンに地上の状況を映し出すと、

『ほぉ…

 流石ですね。

 今夜は万全の構えをして私たちをお出迎えですか』

と落ち着いた口調で言う。

『はぁ、館長が差し出した手紙を受けてのことでしょう。

 ではアナコンデ様、

 予告時刻となりましたので、

 このまま降下いたします』

地上の厳重な警備体制をまるで意に介せずスコルブはそう告げると、

『ほしーなぁぁ!!』

怪物体…

いや、ヱターナルの強襲ロボット・ほしぃなぁは一気に降下をし始める。



『あぁん、もぅ、

 明るすぎてぜんぜん寝られないよぉ!』

その地上にある池の中でマイが愚図りながら声をあげると、

「おいっ、

 いま池の中から人の声が聞こえなかったか?」

「ヱターナルか?」

と警戒中の警察官が池の周囲に集まり始める。

『やばっ!』

集まってくる人影を見てマイは慌てて水の中に潜るり、

『もぅ、何でこんなことになるのよ』

と泣き始めた。

しかし、それも長続きはしなかった。

『ほしーなぁぁぁぁ!!』

突如、上空からその雄たけびが響き渡ると、

「ヱターナルだ!!」

「真上からだ!」

「投光器!!」

たちまち警官隊は蜂の巣を突っついたような騒ぎとなり、

用意されていた投光器が一斉に空に向かって光の帯が投げられる。

すると、

『ほしーなぁぁ』

一身に幾重もの光の帯を纏いながらも

ヱターナルの強襲ロボット・ほしぃなぁは降下し

ズシンッ!

地響きと共に降り立ってみせる。

『なに…あれ?』

夜空を背に聳え立つ”ほしぃなぁ”の姿にマイは呆気に取られると、

『県警の皆さん。

 盛大なる出迎えに感謝します』

と女性の声が”ほしぃなぁ”から響く。

すると、

「なにが、出迎えだ!

 ヱターナルっ!

 今夜こそ逮捕するっ!」

その声に返すようにして銭潟は怒鳴り声を上げ、

「各員っ、

 ほしぃなぁの動きを封じつつ、

 ヱターナルの逮捕に向かえ!」

巫女神邸に配備されている警官隊に向かって指示を出すと、

ズゴゴゴゴ…

どこに隠されていたのか深紅の梯子車が数台、

”ほしぃなぁ”の行く手を塞ぐように姿を見せ、

その操縦席目掛けて梯子を伸ばし始めた。

「はぁ…なんというか」

「何かの映画の撮影?」

その模様を沙夜子と夜莉子は自室から呆れ半分に見ていると、

「あら、

 懐かしい気配が近づいてくるわ…」

何かを感じ取った摩耶は嬉しそうに手を軽く叩いて見せる。



「ヱターナル!、

 御用だ!

 御用だ!」

伸ばされた梯子の上で銭潟は気勢を上げるが、

『鬱陶しいですね、

 スコルブ、

 やっておしまい』

スクリーンいっぱいに表示されている銭潟を鬱陶しく見据えたアナコンデはそう指示をすると、

『我々を邪魔するものはこうするのみ』

とスコルブはそう言いながら、

ポチッ!

コンソール上のボタンを押してみせる。

すると、

『ほしーなぁぁぁ!!!』

”ほしぃなぁ”は雄叫びを上げ、

グリン

グリン

と身体を左右によじって見せると、

ガタンッ!

「うわぁぁぁ〜」

梯子を伝って”ほしぃなぁ”に取り付いていた警官隊は梯子を外された途端、

に次々と振るい落とされる。

そして、

『ほしぃなぁぁぁ!!!』

警官隊を振り払った”ほしぃなぁ”は行く手を阻む梯子車を蹴散らし、

ズシン

ズシン

足音を響かせ巫女神邸へと突撃を開始して見せる。

「おのれっ!」

地面に振り落とされてもなおも銭潟は立ち上がるが、

『抵抗をしても無駄です。

 あぁ、いや、抵抗しても構わないですよ。

 お宝は力づくで奪っちゃいますから』

とタゴスの声が響き、

ガコンッ!

ほしぃなーの左右のカバーが外れるのと同時に、

無数の触手が巫女神邸に向けて伸ばし始めたのであった。

とそのとき、

「そうはさせないっ!」

巫女神邸の前に5人の人影が立つや否や、

「ぷりきゅあ・めたもるふぉーぜ!」

の掛け声共に

バッ!

夜空に向かって一斉に制服が投げ捨てられる。

そして、

「希望の力と未来の光。

 華麗に羽ばたく五つの心。

 Yes、ぷりきゅあ・ふぁい部!」

アマレス部・料理研究部・光画部・相撲部・水泳部、

それぞれのユニフォーム兼バトルスーツに身を包んだぷりきゅあ・ふぁい部の面々が啖呵を切ってみせた。

「ふぅ…

 地下鉄が止まるとは思わなんだ。

 でも、なんとか間におうて良かったわ」

そんな5人を見ながら彼女達の引率者である巫女はほっと一息を入れていると、

「柵良っ、

 柵良じゃない」

と声が掛けられる。

「なんじゃぁ、

 巫女神…摩耶ではないか」

声の主を指差し、

巫女は驚いた声をあげると、

「久しぶりね」

と摩耶は嬉しそうに巫女の手を握ってみせる。

「道理で聞き覚えのある住所だと思っていたら、

 そうか、ここは摩耶の家であったか」

思いがけない旧友との再会に巫女は驚くと、

「なになに?

 彼女達って」

と摩耶は”ほしぃなぁ”と対峙するぷりきゅあ・ふぁい部の面々を興味深そうに見つめる。

「まぁ、何というか、

 成り行きでのっ」

鼻の頭を掻きながら巫女ははぐらかしながら事情を言うと、

『ん?

 ぷりきゅあ・ふぁい部?

 スコルブ、

 そのような者の存在は報告書に無いが…』

”ほしぃなぁ”の中にアナコンデの声が上がると、

『私もいま会ったばかりですので…』

とスコルブの困惑した声が返ってくる。

『まぁいいでしょう、

 タゴス、

 やってしまいなさい』

アナコンデはタゴスにそう命じると、

『ほしぃーなぁぁ!』

巫女神邸に向かっていた触手は一斉にぷりきゅあ・ふぁい部へと向かい始めた。

「くるよっ、

 みんなっ」

迫ってくる触手を見据え希は声を上げると、

「ぷりきゅあっ、

 るーじゅ・ふぁいやぁぁぁ!!!」

「ぷりきゅあっ、

 あくあ・すとりぃぃむ」

きゅあ・るーじゅときゅあ・あくあの手から火炎放射と放水が一斉に触手にめがけて放たれ、

さらに、

「ぷりきゅあ・れもねーどふらっしゅっ!」

の声とともにきゅあ・れもねーどの背中に背負われた高出力フラッシュが

”ほしぃなぁ”本体にめがけて放たれる。

『うわぁぁぁ!!

 眩しい!!』

3つの攻撃を同時に受け”ほしぃなぁ”が大きくひるんだとき、

「ぷりきゅあっ、

 みんと・ぷろてくしょん!!!」

きゅあ・みんとの声が響き、、

「どすこいっ!

 どすこいっ!!

 どすこいっ!!!」

みゅあ・みんとの強烈な張り手が”ほしぃなぁ”を突き押し始める。

『何をしているっ、

 さっさと蹴散らさないかっ』

翻弄される”ほしぃなぁ”の中にアナコンデの叱咤する声が響くと、

『このぉ!』

スコルブの手が別のボタンに伸び、

ポチッ!

とそれを押した。

すると、

ギンッ!

”ほしぃなぁ”目が爛々と輝くや否や、

『ほしーなぁぁぁぁ!!!』

の雄叫びとともに、

ブンッ!

体を支えていた腕が伸び、

「きゃぁぁぁぁ!!!」

ぷりきゅあ達を一斉になぎ払うが、

どすっ!

ただ一人、アマレス姿のきゅあ・どりーむが”ほしぃなぁ”の腕を受け止め、

「ぐぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅ!!」

歯を食いしばり踏ん張ってみせる。

『ほぉ、

 これを受け止めるとは骨がある奴、

 だが、所詮は生身の人間がロボットに勝つことはありえん』

それを見たスコルブが声を張り上げると、

「きゃぁぁ!」

きゅあ・どりーむの悲鳴が上がり、

彼女の体が大きく宙を待ったのであった。

そして。

『まったく…

 手間をかけさせやがって』

なぎ払われたぷりきゅあ達の前に体勢を立て直した”ほしぃなぁ”が立ちはだかると、

『二度と邪魔をさせないように徹底的に懲らしめておやりなさい』

と操縦室の中にアナコンデの声が響く。

「あたし達の力じゃぁだめなの?」

あまりにも力の差を見せ付けられたぷりきゅあ達が臍をかんでいると、

ゴォォォォ…

上空に何か飛行物体が飛来する音が響き、

『すかいろーず・とらんすれいとぉぉぉ!』

の声とともに、

ズシンッ!

ぷりきゅあ達の前に紫色の巨大物体が降り立ったのであった。

「なっなに?」

あまりにも突然な出来事にみなが呆気に取られる中、

「お嬢様ぁ!!」

聞き覚えのある声とともに

シュタッ!

執事服を身に着けた老紳士が着陸した物体より降り立って見せる。

「じい」

「じいやさんっ!」

彼女達にとって顔見知りである老紳士の登場に5人は急いで駆けつけると、

「間に合ってよかったです」

と老紳士は笑みを浮かべてみせる。

「じい、どうしてここに?」

老紳士に向かってきゅあ・あくあが尋ねると、

「水無月家の執事たるもの、

 お嬢様の危機とあらばどこにでも駆けつけるのが任務でございます」

と答えて見せる。

「ところで、じぃ…これは」

降りたった物体を見上げながらきゅあ・あくあが尋ねると、

「はい、お嬢様。

 これは水無月家が総力を挙げて開発をした

 人造人型決戦兵器・初号機”みるきぃろーず”でございます」

と老紳士は答え、

「さっこれをお使いください」

そう言いながら、きゅあ・あくあにバラの花を手渡した。

「?」

渡されたバラの意味が判らずにいると、

「これはバラにあらず、”メカの素”でございます。

 それを”みるきぃろーず”の胸元に挿しますと、

 ”みるきぃろーず”は無敵の魔神と化すのです。

 さぁ、皆さんの手でヱターナルを倒すのです」

と指示をする。

「判ったわ、じいやさん」

それを聞いたきゅあ・どりーむは笑顔で答えると、

「みんなっ」

と声をかけ、

そして、

「みるきぃろーず!

 メカの素でーーす」

の声とともにバラの花がしゃがんだ格好になっている”みるきぃろーずに向かって放り投げられると、

サクッ!

カチン!

見事”みるきぃろーず”の胸元に差し込まれ、

『効いてきたみるぅぅぅぅ!!!』

の声と共に”みるきぃろーず”は立ち上がり、

『邪悪な心を包み込む、

 バラの花を咲かせましょう!!』

と声を上げる。

その途端。

ンバッ!!

”みるきぃろーず”の正面に巨大なバラの花が咲くと、

たちまち細かい花びらとなって”ほしぃなぁ”に襲い掛かったのであった。



『何かと思ったら、

 ただの花びらじゃないですか』

襲い掛かってきた花びらに”ほしぃなぁ”の操縦室内は一瞬緊張するものの、

しかし、降り注いでいるのが花びらと判断した途端、

安堵と脅された悔しさが皆にこみ上げてきた。

『なにをしているのです。

 スコルブ。

 タゴス。

 やってしまいなさい!』

不機嫌そうな顔をしながらアナコンデが命じると、

『ほしぃなぁ…

 発進!!!』

の声と共に操縦かんを握るタゴスは”ほしいなぁ”を前進させようとするが、

だが、”ほしぃなぁ”は微動だにしなかったのである。

『どうした。

 なぜ動かない』

苛立ちを見せながらアナコンデが理由を尋ねると、

『おかしいですね…』

小首をひねりながらスコルブが操縦卓の点検蓋を開けたとき、

『バラッ

 バラッ

 バラッ』

の掛け声勇ましく無数のバラの花びらが操縦卓の配線を噛み千切っていたのであった。

『んなぁぁぁぁぁ!!!』

それを見たスコルブが悲鳴を上げると、

ヒラリヒラリ

と操縦室内にバラの花びらが舞い始め、

ガシャン

バキッ

ベキッ!

次々と操縦室内の機材が音を立てて崩れ始める。

『スコルブぅぅぅ!!!』

アナコンデの怒鳴り声が響くのと同時に、

パリパリパリ…

ほしぃなぁの各所から放電が始まり、

次第に膨れていくと、

ちゅどぉぉぉぉぉぉぉんんん!!!!!!

バラの花びらに食い散らかされた”ほしぃなぁ”は呆気なく自爆してしまったのであった。



「なにが…

 どうなっているんだ?」

湧き上がる涙目のきのこ雲を見上げながら銭潟はそう呟いていると、

ポンッ

彼の肩が叩かれ、

「警部さん、

 あたし達の仕事はここまで、

 後はお任せします」

と、きゅあ・どりーむは銭潟に言い、

その言葉に銭潟はハッとすると、

「警部っ、

 ヱターナルが逃げていきます!」

自爆した”ほしぃなぁ”が巻き上げる埃の中より

自転車に乗ったスコルブ・タゴス・アナコンデの3人が脱出していくのを見つけた警官が声を上げる。

「何をしている!

 逮捕だ逮捕!」

それを聞いた銭潟は十手を掲げて声を張り上げると、

ファンファンファン!

たちどころにパトライトを点滅させるパトカーが一斉に飛び出し、

逃げていくヱターナルを追いかけて行く。

「これでいいのかなぁ…」

危機が去った巫女神邸内よりきゅあ・どりーむはそう呟くと、

「いいんじゃないの?

 ヱターナルを追っ払ったんだしさ」

きゅあ・どりーむの肩を叩きながら、

きゅあ・るーじゅはそう結論付けたのであった。



『ほほぉ、

 ぷりきゅあねぇ…』

県内有数・400年の歴史を誇る廻船問屋・越後屋、

その越後屋の地下に設けられた司令室にて

ガチャンッ!

甲冑の音を響かせながら館長の声が響くと、

『面白い。

 実に面白い』

と盛大に笑い声が響いたのであった。



つづく