風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部轟轟」
(第1話:怪盗ヱターナル現る)



作・風祭玲


Vol.949





深夜

夜が更けても眠ることを知らない県都・U市。

『ほしーなぁぁぁ!!』

突如、夜空の一角より雄たけびの如く声が響き渡ると、

グォォン!!

天高く煌々と輝く月明かりを背に受けて飛行する怪物体が姿を現した。

ウォォォォン…

何者にも邪魔されることなく怪物体は翼代わりの腕を左右に伸ばし、

悠然と県都の上空を飛行していく。

『ほしーなぁぁぁ!!』

再び怪物体が雄たけびを上げたとき、

その行く手に総ガラス張りの建物が姿を見せる。

ピッ!

『アナコンデ様、

 目標を捕捉しました』

飛行する怪物体の胸部、

特殊な装甲で覆われたその胸部内に落ち着いた男の声が響き渡ると、

『ん?』

豪華なソファに腰掛け黒いボンテージ衣装を身に着ける女が、

目にしていた書類から顔を上げる。

そして、

『そうか、

 で、あとどれくらい掛かる?』

と到着までの時間を尋ねると、

『そうですねぇ…』

女に声を掛けた優男が正確な到着時間を割り出そうと機器を操作し始めたとき、

『アナコンデ様。

 メインカメラが目標を捕らえました。

 パネルに映像を回します』

優男の右隣に座る太身の男の声が響くや否や、

ブンッ!

正面に据えられたパネルスクリーンに灯が点り、

その明かりに照らし出されるようにして、

機器の明かりが点るだけだった操縦室が明るくなった。

『ほぉ、

 あそこか。

 スコルブっ、

 ここに我々が手に入れるべき”天竜扇”があるというのか?』

スクリーンを見ながらアナコンデと呼ばれる女性は尋ねると、

『はいっ、

 私の得た情報によるとここにそれらしきものが入荷したと』

その問いかけにスコルブと呼ばれた痩身の男は答え、

同時に

『着陸ポイントに到着。

 アナコンデ様っ

 ほしーな、着陸します』

と操縦桿を握る太身の男が怪物体の着陸を伝えた。



『ほしーなぁぁぁ』

夜空に怪物体の雄たけびが響き渡り、

グォォォン…

地上に落ちる影が見る見る大きくなっていくと、

ズシンッ!

大音響と共に巨大な怪物体は地上に降り立ち、

その衝撃で

ビリビリ…

建物のガラスは大きく振動してみせる。

しかし、その物音に駆けつける者の姿はなく、

シャコン!

着陸した怪物体は直ぐに脚を伸ばすと、

『ほっしぃなっ』

『ほっしぃなっ』

ズシンッ

ズシンッ

の掛け声と共に腕を振り二足歩行をしながら建物へと近づいていく、

そしてその正面に到着するなり、

グワシャンッ!

怪物体の左右より伸びた腕がガラス窓を突き破った。

ジリリリリリ!!

瞬く間に鳴り響く防犯ベルの音が響き渡るが、

怪物体は臆することなく、

パカッ!

頭部の口が開くと、

ウニィィィ〜っ

そこから無数の触手を這い出し、

ガラス窓が突き破られた建物の中へと侵入して行く。



『スコルブっ、

 タゴスっ、

 天竜扇は見つかったか?』

捜索開始から5分が過ぎ、

アナコンデは作業の進捗を尋ねると、

『申し訳ありません、アナコンデ様。

 残念ながら…』

と触手を操作し続けるスコルブは冷や汗を流しながら返事をする。

その途端、

『なに?』

アナコンデこめかみがピクリと動くと、

ざわざわざわ…

まるで生き物の如く髪の毛をうねらせながら、

『見つからない。と言うのかぁ…』

と真っ赤に燃え上がる鬼気を沸き立たせながら聞き返す。

『ひぃ!』

迫る鬼気に押されてスコルブは肝を潰していると、

『アナコンデ様。

 天竜扇は見つけられませんでしたが、

 ”どりぃむこれっと”を発見いたしました』

タコスが建物でお宝を発見したことを報告する。

『どりぃむこれっとだとぉ?』

それを聞いたアナコンデは即座に鬼気を打ち消し、

急ぎリストを開いて見せると、

『なるほど…天竜扇に比べれば格は落ちるが、

 まぁいいでしょう。

 それを没収次第、撤退する』

と指示を出す。

『ほっ』

間一髪で救われたスコルブが一息を付く間も無く、

カッ!

カッ!

カカッ!

突如投光器の明かりがいくつも点り、

ファンファンファンファン!

『ヱターナルぅぅぅ!!

 今日こそ御用だぁぁぁ!!』

拡声器から響く男の声と共に赤灯とサイレンの音を鳴らしながら

十数台を越すパトカーが飛び込んで来た。

そして、

キキッ!

怪物体の真後ろに先頭を切って走ってきたパトカーが停車するなり、

ダンッ!

その車上に背広に茶色のコートを羽織る一人の男が立ち上がると、

『ヱターナルに告ぐ!

 お前達は完全に包囲されたぁ。

 今日という今日は逃がさんぞぉ!

 逮捕するぅぅぅ!』

と怪物体をすべく展開をする警官隊を背景にして、

十手を片手に県警捜査一課長・銭潟警部が赤灯が回すパトカーの真上で声を張り上げたのであった。

『現われましたね。

 県警の銭潟…』

突然の事態にアナコンデは驚くどころか不敵な笑みを浮かべると、

『スコルブっ

 タゴスっ

 やってしまいなさい』

と操縦席の二人に命じるや、

『いえっさぁぁっ!』

操縦室内に二人の返事が響き渡った。



シュルルル…

怪物体から伸びていた触手は奪った銀水晶と共に本体内へと納められ、

そして、怪物体はゆっくりと振り返ると、

『ほしぃなぁぁぁぁぁ!』

雄たけびと共に取り囲んでいるパトカーに向かって突撃して行く、

一方、

『怯むなぁ!

 今日こそ、ヱターナルを逮捕するのだ!』

迫る怪物体に血の気が引き後ずさりし始めた警官隊に向かってパトカー上の銭潟はハッパを掛けるが、

『なぎ払え!!』

操縦室内にアナコンデの声が響くと、

『ほしいなぁぁぁ!!!』

ブンッ!

「うわぁぁぁ!」

怪物体は伸ばした腕で文字通り警官隊をなぎ払ってしまうと、

進路を塞いでいるパトカーをまるでおもちゃを放り投げるようにして放り出し

見る見る進路を作って行く。

そして、

『このようなこともあとうかと…』

そう言いながらスコルブが操縦席のボタンに手を掛け、

『ポチとな』

の言葉とともにそのボタンを押すと、

ギュォォォォン…

怪物体が背中に背負っているエンジンに灯が点り、

ズドォォン!

『ほしいなぁぁぁぁ!!!』

警官隊を尻目に怪物体は夜空へと舞い上がっていったのであった。

「おっおのれぇぇぇ!!」

光点となって消えて行く怪物体を見送りながら銭潟は臍を噛むが、

だが、追いかける手段を持っていない彼はこれ以上どうすることもできなかったのであった。



コロロロロ…

ほぼ時を同じくして、

現場から程近くに建つ県庁の最上階、

その最上階に居を構える県知事室に電話のベルが鳴り響きわたると、

「私だ…

 なに?

 それは本当か?」

受話器を取った県知事の声色が見る見る緊張していく、

そして、受話器を置くや否や、

「県警がまたしてもヱターナルにしてやられた。

 これ以上の失態は私の政治生命にも関わる。

 早急に県議会を召集したまえ」

と秘書に向かって声を張り上げたのであった。



数日後。

『ここにいらしたのですか、

 柵良先生』

訪れる患者の姿がふと途切れた県立・沼ノ端高校保健室に男性の声が響くと、

「ん?

 鍵屋ではないか…」

顔を上げた巫女の口から男の名前が出る。

『探しましたよ、

 てっきり社務所にいらっしゃると思っていたので』

トレードマークとなっているローブを纏う鍵屋はスマイル顔で挨拶をして見せながら、

『お約束の報告書です』

と抱えていた分厚い紙の束を巫女に提出する。

「あっんっ、うんっ

 ご苦労…

 なんじゃ徹夜でもしたのか?」

報告書に目を通しながら巫女は目の下に隈を作っている鍵屋に向かって尋ねると、

『ははっ、

 それはもぅ柵良先生のためなら…』

鍵屋は頭を掻きながら返事をするが、

「鍵屋…

 報告書には表紙と目次、

 そしてページ番号をちゃんと振る」

と巫女は報告書の体裁に注意をしはじめた。

『はぁ、申し訳ありません』

彼女の注意に鍵屋は頭を下げると、

「まぁ…

 良いか。

 正式に仕事を依頼したわけじゃないしな、

 これだけの情報を得られればこちらも動き易い。

 礼を言うぞ」

と巫女は礼を言う。

『あははは…』

その展開に鍵屋は軽く笑って見せるが、

直ぐにまじめな顔になり、

『それよりも気をつけてください。

 柵良先生の周りを嗅ぎまわっている異界の者達がいます。

 狙いは…』

と囁くと、

「判っておる。

 周囲が妙にざわついて来たからな」

巫女は落ち着いた口調で自分の周囲で異変が生じていることを言い

そして、

「大方、狐の手の者であろう。

 先だっても子狐が一人、

 わしのところにやってきたわ。

 なにか女狐からの言伝があったみたいだが、

 何も言わずに帰ってしまったがな」

と先日、巫女の下を訪れた玉梓のことを言う。

『また、からかったんですかぁ?

 彼女達はあのように見えてもプライドが高いですから、

 扱いを間違えると大変なことになりますよ』

それを聞いた鍵屋は眉をひそめて見せると、

「なぁに、

 どうせ狙いはわしが持っている四神扇のひとつ風竜扇」

そう巫女は指摘しながら、

トン

と鍵屋から渡された報告書を中指で叩いてみせる。

『大変でしたよぉ、

 四神扇の情報は天界でもトップシークレットですから、

 まぁでもこの鍵屋に集められない情報はありませんので、

 精度には自信があります』

鍵屋は報告書の出来について胸を張ってみせる。

「天・地・風・雷…四枚の神扇が一つに集うたとき、

 いかなる願いも叶える女神が居るという園への道が開く…か…」

提出された報告書に目を通しつつ巫女は呟くと、

「ここでは女神とは言うが、

 実質上は竜神・神の竜が住む所に導いてくれるというわけじゃな、

 まったく物騒なものじゃ

 で、鍵屋、

 他の3枚の神扇の場所は特定できているのか?」

と尋ねると、

『はぁ、

 お渡しした報告書にも書いておきましたが、

 現時点で確実に場所を特定できているのは柵良さんの風竜扇のみです。

 それと風竜扇と対の関係である雷竜扇は竜宮縁者の手にあるみたいですね。

 一方、天竜扇、地竜扇に至っては残念ながら…』

すまなそうな顔をして鍵屋は返事をした。

「雷竜扇は竜宮縁者の手に…

 天竜扇、地竜扇に至っては所在不明。

 つまり、狐の手には1枚も渡っては居ないわけか、

 なるほど、

 鍵屋、すまぬがその竜宮縁者を探し出してくれぬか。

 狐が動いて居るとなると、

 その竜宮縁者に何かの災いが及ぶ可能性がある。

 頼むぞ」

と巫女が鍵屋に申しつけたとき、

『柵良先生。

 大至急、会議室まで来てください。

 繰り返します…』

巫女を呼び出す校内放送が入る。

「ん?

 わしを呼び出しじゃと?」

それを聞いた巫女は腰を上げると、

『畏まりました。

 ご依頼の件は承ります。

 神扇の取り扱いにはくれぐれもご注意ください』

その警告を残して鍵屋は姿を消したのであった。



「なんじゃ?

 お主らも呼び出されたのか?」

会議室の前で巫女はぷりきゅあ・ふぁい部の面々と出会うなり驚いてみせると、

「えぇ…

 なんかあたし達も来るようにって…

 知らせが来たので」

水無月可憐は戸惑いながら返事をする。

「ねぇ、なにかな?

 美味しいお菓子が食べられるといいね」

戸惑う可憐とは対照的にリーダーの夢原希は隣に立つ夏木凛に向かって話しかけると、

「まったく、

 お主らときたら…」

巫女は呆れつつ会議室のドアをノックする。

「どうぞ…」

中より響いた促される声に従い巫女がドアを開けた途端、

ズゥゥン…

重い空気が津波の如くあふれ出し、

巫女達へと襲い掛かったのであった。

「なっなんじゃっ!

 この重々しい空気は」

押し寄せる空気から逃れるようにして巫女は声を上げると、

「あぁ…柵良先生っ、

 お待ちしてましたよ」

そんな巫女に向かって救いの手をさしのべるかのような声が会議室より響いた。

「この声は校長」

地獄の底に向かって天より伸びてきた一本のクモの糸を手繰り寄せるようにして

巫女は会議室へと入って行くと、

「失礼します…」

彼女の後に続いて希たちも入って行く。

「コホンっ

 校長、

 われらを呼び出ししたのはどの様な要件で?」

会議室の上座に陣取るのスーツ姿の男性達には目をくれず

巫女は呼び出された理由を直接校長に尋ねると、

「そのことなら、

 私からご説明しましょう」

と言う声が上座から声が響く。

すると、

「あれ?

 あの人、

 テレビで見たことがある」

スーツ姿の男性達の一人を指差し希が声をあげると、

「え?」

希の指摘に皆が一斉に男性を見た。

その直後、

「あぁ、あなたは!」

男性を見て秋元小町は思わず口を手で塞ぎ、

「あなたは…ねこまんま南知事!!」

と可憐は男性がこの県の県知事であることを指摘した。

「へぇぇ…でも県知事さんがなんで?」

県知事を見つめながら春日野麗はこの会議室に県知事が居ることに小首を捻ると、

「まぁまぁ、

 立ってないで座ってください、

 セレブ堂のシュークリームを用意してありますし」

と県知事は希達を促した。

「わーぃ、

 シュークリーム

 シュークリーム」

それを聞いた希は喜びながら空いている席に座るが、

「全く、

 バカみたいに食べていると、

 試合前の減量で泣く羽目になるわよ」

と凛はすかさず注意をしつつ他の面々と共に席に付く。

すると、

ズーン!

僅かの間、軽くなっていた場の空気が再び重くなり、

右手と左手を机の上で組みながら県知事は何かを背負うかのごとく、

「実は…」

と巫女達に話しかける。

「はいっ」

その気配を察して無邪気にシュークリームを食べる希以外の面々が緊張した面持ちになった時、

「うわぁっ、

 おいしい!!!

 凛ちゃんっ、

 このシュークリームになにか入っているよ!」

突然、希が声を張り上げ、

「ねっねっ、

 みんなも食べたら?

 とっても美味しいよぉ」

と薦め始めたのであった。

「希ぃ〜っ!」

その途端、凛の怒鳴り声が響き渡るものの、

「あはははははは」

県知事は笑い声をあげ、

「そのシュークリームにはわが県特産・完熟マンゴーの果肉が入っているんですよ」

と種明かしをする。

「へぇぇ…

 だって凛ちゃんっ、

 どうりで美味しいと思った

 ねぇ、もぅ一つ食べていい?」

「希ぃ〜っ、

 いい加減にしなさい!!」

希と凛の声が響く中、

「で、南知事。

 お話というのは…」

可憐が冷や汗を流しながら県知事に話を振ると、

「南知事と言うのはやめてください。

 この場では”南ちゃん”

 と呼んでください」

と県知事は真顔で言う。

「はぁ?」

思わず発言に周りが固まると、

「ならば、わしも”チェリー”と呼んで…」

口いっぱいにシュークリームの頬張る巫女の叔父である僧が湧き出るようにして姿を見せると、

その途端っ

ズガンッ!

僧は一気にテーブルに叩きつけられ、

「叔父上っ、

 呼ばれもしないのにここで何をしているんですかぁ?」

肩をワナワナと震わせる巫女がその背後で声をあげるが、

ザワザワ…

なかなか進まない会議に県の役人や学校の関係者達がざわめき出した。

すると、

「こほんっ」

県知事は咳払いを一つし、

「時間が無いので単刀直入に説明いたしましょう、

 いま、わが県に危機が迫っております」

と話し始めたのであった。

「え?」

「なんですって?」

「危機ですとぉ!」

県知事のその発言を聞いた途端、皆の表情に緊張感が走り、

「危機って

 まっまさかっ」

表情を硬くしながら可憐が聞き返す。

「そのまさかです」

彼女の質問に県知事はテーブルに両肘を置き、

手を組みながら答えると、

ダンッ!

「そんなぁ…

 いっいつからあたしたちの県は財政再建団体になってしまったのですか?」

飛び出してきた秋元小町が県知事に詰め寄ったのであった。

「いっいや、

 財政が苦しいのは事実ですが、

 そんな大変なことにはなってはいません」

思いがけない小町の言葉に県知事は顔を引きらせながら否定をすると、

「え?

 そうなんですか?」

「小町、実際にそんなことに実際になったら、

 こんな悠長なことをしている暇はないわ」

返事を聞いてキョトンとして見せる小町に可憐が話しかけると、

「こほんっ

 えーと、どこまで話しましたっけ、

 あっそうそう、

 ヱターナルだ。

 ヱターナル!!」

と県知事は自分の口からヱターナルのことを言いつつ幾度も頷いてみせる。

「ヱターナルって、

 最近騒いでいる泥棒さんのことですか?」

麗が質問をすると、

「そう。

 ヱターナルと名乗る者達が最近、我が県都を騒がしているんです」

と県知事は頷いてみせる。

「はぁ、

 ヱターナルのことは新聞やTVで聞いてはいますが、

 でも、捕まえるのは警察の仕事では?」

それを聞いた凜が問いただすと、

「確かに…

 ヱターナルを逮捕するのは県警の仕事です。

 しかし、ヱターナルは”ほしぃなぁ”と呼ばれる怪物体…

 いやロボットか…に乗って襲撃をするのです。

 これには県警も手を焼いておりまして」

と知事はハンカチで額を拭きながら事情を説明する。

「ほほぅ…

 つまり、我らにそのヱターナルを倒せ。と」

シュークリームをすでに一ケース平らげた巫女は眼光鋭く尋ねると、

「はぁ…」

知事は申し訳なさそうにうなづいてみせる。

「しかし、何ゆえ我らなのですか?

 見てのとおり我らはこの学校に通うごく普通の高校生。

 そのような県警の手にも負えない凶悪犯の逮捕なら国に要請をすればよろしいのに」

机の上で腕を組みながら巫女は言うと、

ダンッ!

いきなり知事は机をたたき、

「国の力を借りたら何もならんのですよ。

 わが県内で発生した犯罪行為はわが県の力で解決しなくてはならんのです。

 確かに国に要請をすればTSFなどそれ専門の機関が駆けつけてくるでしょうが、

 しかし、それでは私の再選にはつながらないのです」

と熱弁をふるう。

「ほほぉ、

 再選ですと」

冷やかし半分に巫女が聞き返すと

「あぁ、いや」

それを指摘された知事は顔を赤くしながらハンカチで額をぬぐい、

しかしすぐに表情を変えると、

「この学校には校長直下に文化系・運動系の各部活動から選りすぐられた5人の乙女達によって結成された

 特殊災害等特別防衛救助隊・通称ぷりきゅあ・ふぁい部と言う自警集団があり、

 目覚しい活躍をしていると聞いています。

 そこでです。

 その”ぷりゅあ・ふぁい部”にわが県にとって未曾有な災いであるヱターナルを退治してほしいのです。

 無論、最終的なヱターナルの逮捕は県警が行いますが」

と県知事は言う。

「いやぁ、それほどでも…」

県知事の申し出に希は恥ずかしいのか頭を掻いてみせると、

「先ほども申しましたが、

 彼女達はぷりきゅあ・ふぁい部であると同時にあくまでも高校生ですから

 そのような大役を引き受けられますでしょうか」

巫女は丁寧な言葉遣いで知事の申し出を断ろうとした途端、

「県立高校の生徒が県民の安全保障をするのは義務ではないのでしょうか?」

と県知事は巫女を指さし鋭い指摘をする。

「うっ、

 それを言われると…」

その指摘に巫女が思わずたじろいでしまうと、

「ご安心ください。

 県議会の承認はすでに取り付けています。

 本日付でぷりきゅあ・ふぁい部の皆さんは県立防衛軍・第13独立部隊・ぷりきゅあ警備隊として

 対ヱターナル任務についてもらうことが決定しております」

と満面の笑みを浮かべつつ南知事は希たちを指差してみせたのであった。



「まったく、

 すべては知事の掌の上ですか」

それを聞いた巫女はあきれた表情をしてみせると、

「いえいえ、

 わたしにはそのような力はございません。

 すべては県民の民意です」

と知事はシレっ言ってのける。

「ねぇねぇ、

 あたし達って結局何がどうなったの?」

そう尋ねながら希は凛の袖を引きながら尋ねると、

「希ぃっ、

 あんた、何もわかってないの?」

と凛は繭を寄せる。

すると、

「県知事さんがあたし達の活動が認めてくださったのよ」

小町は希に向かって誇らしげに言うが、

「でも、南知事。

 怪盗・ヱターナルを倒せって言いますが、

 県からは何か支援が受けられるのですか?」

可憐はすかさず県のバックアップ体制について尋ねた。

「その件ですが…」

その途端、知事は顔を曇らせると、

「残念ながら、

 年度予算の途中ですので大規模な支援をすることはできません」

と県からの支援がないことを口にするが、

「あぁ、だからと言って何もしないわけではなりません。

 これをお使いください」

そう言いながら5つのバッジを差し出したのであった。

「これは?」

「はい、

 見ての通りの”南ちゃんバッジ”です」

「それは見て判ります」

バッジに視線を送りながら巫女は冷めた表情をしてみせると、

ニヤリ

県知事は笑みを浮かべ、

「このバッジの威力を疑っていますね。

 よろしいですか、

 このバッジはただのバッジではありません。

 このバッジを付けた者は県内で営業しております、

 市営地下鉄・市バス・市電が無期限で乗り放題の上に、

 県立博物館、県立図書館、県営プールなど公共機関への入場料も頂きません。

 無論、県内の県立高校であればどこにでも浮きな時間に自由に立ち入ることも出来ます。

 いかがですか?

 とってもおトクだと思いますが」

とバッジの効能について話した。

「へぇぇ…

 地味だけど意外と大盤振る舞いなんですね」

バッジの効能を聞いて凜は感心してみせると、

「あのぅ…

 本当にこのバッジを付けると県の者なら何処にも入れるのですね」

と小町は念を押す。

「どうしたの?

 小町…」

それを聞いた可憐が理由をただすと、

「だって、可憐。

 県立博物館にも立ち入れるのよ。

 あそこにはアフリカから持ちこまれた不思議な鏡があるって聞くし、

 それに某県立高校には”忘れられた部屋”という部屋があるそうよ。

 あぁ、なんてすばらしいバッジなんでしょう…」

うっとりとした表情を見せる小町を横目に、

「たまに小町のことが判らなくなるわ…」

と可憐はあきれ顔で呟く。



「して、

 ヱターナルについて何か情報はあるのですか?」

と巫女は県知事に尋ねると、

県知事は目線で同行の物達に合図を送る。

すると、

シャッ!

一斉に会議室に暗幕が張られ、

カシャッ!

「これは我が県庁職員が身の危険を冒しながらも撮影を決行した

 ”ヱターナル”の本部です」

と県知事はスクリーンに映し出された画像の説明をする。

「これは!」

それを見て巫女は驚きの声を上げると、

「はいっ、

 創業400年。

 県内でも有数の歴史を誇る廻船問屋です」

と県知事は言う。

「廻船問屋・越後屋!

 しかしなぜがそのようなところが…

 怪盗などを…」

画面を凝視しつつ巫女は呟くと、

「隣の県を手中納めようとした材木商とはちがい、

 我が県の廻船問屋の力を侮ってはいけません。

 ご存じですか?

 世界を支配するにはまず物流を押さえる必要があるのです。

 これは織田信長以来からの戦略の基本であり、

 破竹の勢いだった大日本帝国がアメリカに屈したのも、

 物流を軽視したからなのです」

と県知事は力説してみせ、

そして、

「で、これは当代22代目となる越後屋の主人です。

 皆からは”館長”と呼ばれているそうですが…」

その言葉と共に西洋甲冑に身を包んだ者の姿が映し出される。

「これでは…誰なのかはさっぱり判りませんな…

 しかし、ココまで判っていながら何故強制捜査をしないのですか?」

と巫女は尋ねると、

「それは…大人の事情というものがありまして…」

一番辛いところを指摘されたのか、

県知事は苦しい言い訳をする。

すると、

「もぅ、良いじゃないですか、

 柵良先生」

いつの間に着ていたのか小牛田が口を挟み、

「みんなもヱターナル退治に力を貸してくれるだろう」

小牛田は希達の意見を尋ねると、

「みんなっ、

 県知事のためにがんばるよね」

と言う希の声の後、

「Yes!」

元気の良い返事が返ったのであった。



つづく