風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部」
(最終話:まごころを、君に)



作・風祭玲


Vol.821





「ん?

 あれは?」

屋上に出た浩二が何気なく上空を見たとき、

雷光を明滅させる雲間より巨大な球状の物体があることに気がつくと、

「うわっ、

 なにあれぇ?

「何かがあるよ」

雨に顔を濡らしながら追いかけてきた希達が声を上げる。

「これは…

 そうか、

 シルルの繭だ…

 ククルめぇ

 シルルの繭を魔本から引き出し、

 空に打ち上げていたのか」

雲間に浮かぶ眉を見上げながら浩二は悔しそうに呟くと、

ギュッ!

拳を握り締める。

すると、

「みんなっ

 ちょっと来てぇ」

突然麗の声が響くと、

「向こうに本のようなものがあるよ」

そう言いながら戻ってきた。

「え?」

彼女の言葉に皆は顔を合わせ、

そして急いで給水塔の脇を抜けたとき、

「!!っ

 あった」

誰も居ない屋上の床に大きく見開かれた魔本が置かれ、

淡い紫色の光を放っていたのであった。

「あれが魔本?」

「あぁ、そうだ、

 ククルとシルルはあれに封印されていたんだ」

給水塔の影から光り輝く魔本を見ながら浩二はヒソヒソ話をすると、

「んじゃぁ、

 あれを何とかすればいいんだね」

と言いながら希が飛び出そうとするが、

「待て!」

すかさず浩二は希の腕を握り締めて引きとめる。

「なんでです?」

この行動の理由を小町が尋ねると、

「むやみに魔本に近づくな、

 僕達がいまやらなくてはならないのはククルをあの中に入れ封印することだ」

と浩二は指摘する。

「だけどさ、

 本の中に入れるって簡単に言うけど、

 一体、どうすればいいの?」

考える浩二に向かって凛が尋ねると、

「よしっ、

 僕が囮になってククルをこっちに連れてこよう、

 君達はその隙を突いて…」

そう浩二が言いかけたところで、

「いいえ、手助けは無用です。

 私たちの学校は私たちの手で守ります」

浩二に向かって希はそう言い切ると、

「みんなっ、行くわよっ!」

これまでとは別人のような顔を見せながら声を上げてみせる。

すると、

「Yes!」

他の4人は声をそろえてみせ、

「へぇ、

 これは頼もしいものだな」

と浩二は感心したような顔になるが、

すぐに険しい表情になると、

「しかし、

 二級とは言えども、

 生身の人間が…

 しかも女の子である君達が武器も無くククルを倒すは簡単ではないぞ」

と警告をする。

しかし、

「大丈夫です、

 さっき言いましたよね。

 ククルの弱みはあの魔本。

 あの魔本にククルを再度封印してしまえば良いんですよね」

臆することなく希は浩二に尋ねると、

「あっまぁ…

 その通りだが、

 しかし、君達には無理だ、

 封印は僕がやる」

「いいえ、大丈夫です、

 あたしたちを信じてください」

危険に遭わせないようにと案ずる浩二に向かって希は言い切ると、

「ふっ、

 負けたよ君達には、

 いいか、

 ククルを封印するには、

 まず、奴の手足となっているカエル共を遠ざけること、

 そして、何らかの方法でククルの身動きを封じることだ。

 それらが全て整ったとき、これから教える呪文を叫ぶ。

 そうすればククルは魔本に再封印される。

 出来るか?」

と希達に向かって浩二は覚悟を聞いたが、

その質問は彼女達には無意味であった。



『ふふふ…

 シルル様…

 間もなく、

 間もなくお目覚めになられますわ』

雲間から片鱗をのぞかせるシルルの繭を見上げながらククルは笑っていると、

ヒュッ!

スコーン!

何かが投げつけられ、

ククルの顔に痛みが走った。

『痛い…

 だれだぁ!!』

頬を押さえながらククルは怒鳴り声を上げると、

「あーはははは!!!

 そんなところで間抜け顔しているからよ」

と言う声と共に

ザンッ!

凛と麗が茂みから顔を出し、

「よぉ!

 カエルの女王、

 ぶっさいくな顔をのうのうと晒して恥ずかしくは無いかぁ?」

とククルを侮辱する言葉を投げかける。

その途端、ククルの顔は真っ赤に染まり、

ブチッ!

こめかみから血が噴出しはじめると、

『くっ、

 この場の全ての人間どもをカエルにしたと考えていた私が油断をしたみたいね。

 だが私を侮辱したと言うことは、

 すなわちっ

 シルル様を侮辱したこと!

 人間のクセに、

 人間のクセにぃぃぃ…

 えぇぃ、カエルじゃ物足りない、

 お前ら纏めてヤモリ、いや、

 ミミズ、いぃや、

 蛆虫、いぃぃや、

 便所コオロギにしてくれる!!

 ものどもぉ、

 やっておしまい!!』

怒り心頭のククルはカエルたちに命じて見せる。

その途端、

『グェコォォォ』

ククルの魔術によってカエルにされた生徒達が一斉に襲い掛かってくると、

「うわぁぁぁ!!

 団体さんのご登場だぁ!!」

「怒らせすぎですよ、凛さん」

迫ってくるカエルの津波を見た凛と麗は我先にと逃げ出し、

『グェコ!』

『グェコ!』

『グェコ!』

カエルの軍勢は逃げる凛たちを追いかけ始めた。



『はーははははは、

 お馬鹿さんっ、

 どんなに逃げ回ってもこのわたしから逃れることは出来ないわよ』

ククルはカエルに追いかけられ逃げていく二人を見て笑うが、

「果たしてそうかなぁ?」

追われながらも余裕顔の凛は呟くと、

「麗っ

 逃げ切るわよぉ」

と叫びながら校舎へと逃げ込んで行った。

『はーははははは、

 お馬鹿さんっ、

 そんなところに逃げ込んでみてもスグに手詰まりになりますわよ』

ドドドドドド

二人を追って校舎に押し寄せていくカエルの群れを見送りながらククルは高笑いをするが、

一方で、校舎に駆け込んだ凛と麗は細長い廊下を駆け抜けていくと、

『グェコ!』

『グェコ!』

『グェコ!』

追いかけるカエルたちは一直線になって追いかけていく。

「うふふふ、

 キタキタキタ

 本当にお馬鹿さんなんだから」

一匹ずつ並んで追いかけてくるカエルの群れを確認しながら凛はニヤリと笑い、

「みんなぁ

 作戦通り追って来たよぉ!!!」

声を響き渡せる。

すると、

「どすこいっ!」

その掛け声と共に廊下の奥に気合たっぷりの小町が姿を見せると、

「桶狭間作戦発動!!!」

同時に姿は見えないが可憐の声が高らかに響きわたる。

「じゃぁ、小町さん!

 あとはよろしく!」

「あっ私は用意がありますので、移動しまぁす」

その声を響かせ凛と麗は小町の横を素早くすり抜けていくと、

「後は任せて!!」

後に残った小町は威勢良く返事をしてみせ、

「ぷりきゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

の掛け声と共に着ていたスゥエットジャンバーを剥ぎ取り、

「安らぎの、緑の大地っ

 きゅあ・みんと!

 さぁ、カエルさん達。

 かかってらっしゃい!!」

腰に締められた緑の廻しをポンと叩き、

ズザァァ!

高々と片足を上げ、

ズシンッ!

ズシンッ!

と四股を踏んでみせる。

そして、

キッ!

気合十分に正面を見据えたとき、

『ゲコォ!!!』

『ゲコゲコゲコ!!』

カエルの一団が毒々しい肌を覆う粘液を輝かせながら襲い掛かってきた。

だが、押し寄せるカエルにも怯みもせずみんとは腰を落とし大きく構えると、

「大地を揺るがす乙女の怒り、

 受けてみなさい!!!

 ぷりきゅあ・みんとぷろてくしょぉぉん!!!」

と声を張り上げるや否や、

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

きゅあ・みんとが繰り出す怒涛の張り手がカエルに襲い掛かったのであった。

パンパンパンパンパンパンパンパン!!!!

『ぐぇこぉぉぉぉぉぉ!!!!』

『ぐぇこぉ!』

みんとの鬼の一撃を食らわせられ

吹き飛ばされたカエルが累々と山を築きあげてくと、

後方から押し寄せるカエルの圧力が築きあげられた山を押しつぶし圧縮され

廊下はカエルたちによってたちまち動脈硬化を起こしてしまう。

「ほぉ!

 これはすごい」

「みんとの手の皮、

 相当な厚いらしいから、

 カエルの毒も侵し切れないか」

「さすがは学生横綱ねぇ」

体中から湯気を吹き上げ張り手を食らわせ続けるみんとの姿に皆は一応に驚き感心していると、

「うりゃぁぁぁ!!」

張り上げたその声とともに、

ズドォ!

目詰まっているカエルめがけて強烈な張り手が放たれると、

ブモッ!

カエルは一気に廊下を逆流し、

校舎から噴出してしまった。

『なっなに?』

噴出すカエルの姿にククルは驚き、

そして、

『一体、何が起きたんだ?

 どけぇ!』

声を震わせながらカエルを払いのけて校舎内へと入って行く。

「さて、次はあたしの番ね、

 ぷりゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

ククルの姿を見据えつつ可憐はジャージを剥ぎ取ると、

「知性の蒼き泉っ、きゅあ・あくあ!」

の声と共に目の覚めるような青いアシックスの競泳水着姿となり、

ガチャッ!

消火栓から火災消火用のホースを取り出してみせる。



『えぇいっ

 なにをしている、

 さっさとやってしまわないかっ』

現場に駆けつけたククルがカエルたちの後方で声を張り上げ、

『役立たずは失せろ!』

とひっくり返ったままのカエルに向かって言い放つと、

シュワァァァァ!!!

廊下に詰まっていたカエルの山は見る間に姿を消し空間が確保される。

そして、

『行けっ!』

ククルはカエル達に向かって命じると、

『ゲコォ!!!』

無傷のカエルたちは果敢に飛び掛って行く。

だが、

「ご苦労様、学生横綱っ

 次はあたしに任せなさい」

とみんとの背後であくあの声が響くと、

「岩をも砕く乙女の激流受けてみなさい!!

 ぷりきゅあ・あくあ・すとりぃーむ!!」

とみんとと代わったあくあが声を張り上げると、

バキッ!

火災報知器のボタンを押し割り、

ジリリリリリリリリリ!!!!

校舎内に非常ベルの音が鳴り渡ると、

ボンッ!

あくあが握るホースが一瞬大きく膨らんだと思った瞬間。

ブシュワァァァァァァァ!!!!!

一呼吸を置いて廊下を高圧の放水が一気に駆け抜け、

『ゲコォォォ!!!!』

廊下を埋め尽くすカエルの一群を一気に押し流した。

「ほほほほほ、

 水の扱いなら水泳部キャプテンのこのわたくしに叶わなくてよ」

通常より3倍に増圧した高圧水を噴出すホースを握り締め、

水泳で鍛えた肉体美を晒しながらあくあは優雅に笑うと、

『何をしているんだ、

 お前達は!!』

惨憺たる状況にククルは怒鳴り声を上げる。

そして、

『どけぇ!!!』

押し流されるカエルを蹴飛ばして、

ククル自身があくあに飛び掛ろうとしたとき、

「ぷりきゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

とククルの背後で凛の声が響き、

「情熱の赤い炎っ、きゅあ・るーじゅっ!

 ねぇ、魔女がなんだか知らないけど、

 後ろがお留守よぉ。

 さぁ純情乙女の炎の怒り、

 受けてみなさい!!!

 ぷりきゅあ・るーじゅっふぁいやぁぁ!!」

の声と共に

ブォォォォォォォ!!!

紅蓮の火炎が廊下を駆け抜け、

ククルの背中を一気に焦がしていく、

『あちぃ!!

 危ないだろうがっ』

背中を焼かれたククルは思いっきり怒鳴ると、

「あーははははは、

 火気の扱いならこの料理部長にお任せあれ、

 焼き加減はレアでしょうか、

 それともミディアムでしょうかぁ?」

高らかに笑いながらるーじゅはガスコンロ改造の火炎放射器を構えなおすと、

オレンジ色のエプロンをはためかせながら

「そーらっ、もう一発行くわよぉ

 ぷりきゅあ・るーじゅっ・ふぁいやぁぁぁ!!!」

と掛け声をあげる。

「もぅ、るーじゅったら、

 こっちだって負けないわよぉ、

 ぷりゅあ・あくあ・すとりーむっ!」

ブワシャァァァァ!!!

ブォォォォォォォ!!

あくあとるーじゅが放つ水と炎が代わる代わる降下を駆け抜け、

『ゲコォォォ!!!』

水攻め、火攻めをまともに喰らったカエルたちは次々と白い腹を見せながら倒れていくと、

シュワァァァァァ!!!

ついに身体が溶け出し、

皆元の人間の姿へと戻りはじめる。

そして、ククルとわずかなカエルだけが残ってしまうと、

「さぁ、

 残るはあなただけですわ今川義元!!

 じゃなかったククル」

勝ち誇ったようにあくあがククルを指差してみせた。

『ちぃぃぃ!!!

 人間共めっ、

 いい気になりおってぇ!!!』

追い詰められたククルは歯軋りをしながら悔しがるが、

『あっ!』

あることを思いつくと、

たちまち自信満々の顔になり、

『ふははははははは!!!!

 これで勝ったと思うなよ、

 わたしにはまだまだ手があるのだ!』

と高らかに謳いあげながら、

ガシャーン!

廊下の窓ガラスを割り、

カエルたちと共に表へと飛び出して行ったしまったのであった。

「しまったぁ」

いきなり逃げ出したククルの姿に皆は慌て、

みんと、あくあ、るーじゅの3人が、

「表に行ったわ」

「追うのよ」

声を出し合い後を追いかけていくが、

『くふふふふ…

 私にはあの女が生んだ卵があるではないか、

 卵を孵化させ、

 大量のカエルを作り出せばあんな人間共など…

 あははははは…

 まだまだ、負けないぞぉ』

そんな3人をあざ笑うかのようにククルは満面の笑みを湛え、

校庭を一気に駆け抜けていくと、

昨日ゆかりが卵を生みつけた池へと向かっていくが、

『んなにぃ!!!!』

ククルが池の傍に来た途端、

そこでは信じられない光景が広がっていたのであった。

シュワァァァァァ〜っ

ククルが頼りにしていた池には切断され垂れ下がった高圧送電線が水没していて、

バリバリバリ

と響く放電音と共に、

池は蒸気を吹き上げ煮えたぎり、

産み付けられた卵は全て茹で上がっていた。

『そっそんなぁ…

 あっあたしの卵がぁ…

 あたしのカエルたちがぁ…』

煮えたぎる池を目の前にしてククルは座り込んでしまうと、

「これって…

 まさか」

「先輩達の仕業?」

後から追ってきた3人が送電線に貼られた、

”ぶらっくさんだー”

”ほわいとさんだー”

と走り書きされた紙を見るなり、

2年前に卒業していった先輩のことを指摘する。

「さすが、先輩。

 やることが派手だな」

「この送電線って100万ボルトはあるって聞いているわ」

「山向こうの原発から送られてきた産地直送の電気だから生きが良いのよね」

放心状態のククルの背後で3人は話していると、

『くっくっくっ、

 お前らぁぁぁぁ…』

肩を震わせながらククルは振り返り、

『許さんぞぉ〜っ

 ずぇっったい許さないからなぁ、

 泣いて詫びても許さないからなぁ〜』

涙と鼻水でグチャグチャになりながらククルは震える声でを上げ、

そして、ゆっくりと立ち上がると、

『うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』

声を思いっきり張り上げながら全身に力を込める。

すると、

ゴワァァ!!

ククルの身体に闘気が巻きつき、

ボコッ!

ボコボコボコォォォ!!!

見る間にククルの肉体はマッチョな姿へと変わっていくと、

『うらぁぁぁ!!!』

闘気を巻き上げながら凛たちに襲い掛かる。

だが、

ビュォォォォッ!

ククルが纏った闘気が風を呼び、

その風に煽られた蔦が垂れ下がってしまうと、

『なにっ!

 うわぁぁ!』

ドボン!

ククルはその蔦に絡まり煮え立つ池へとダイブしてしまったのであった。

直後、

バリバリバリ!!!

『うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

放電と感電するククルの悲鳴が響き渡り、

ボロボロになったククルが池から這い上がってくると、

「うわぁぁぁ

 こりゃぁひどい」

「盛大な自爆劇ですわね…」

「もっもぅ闘いはやめませんか?」

ククルの身を案じてるーじゅ達が話しかけてきた。

だが、

『まっまだだ、

 おっお前らごときには絶対に負けんぞぉ…』

今にも飛んでいきそうな意識を必死で支えながらククルは立ち上がるが、

その脚力は今にも折れてしまいそうな弱弱しいものであった。

『くっ、

 だめだ、

 いっ意識が…』

なんとか立ち上がったものの薄れていく意識を感じながら、

ククルの頭の中である考えが纏まっていく、

そして、

『ちぃぃ!!!』

そう叫びながらククルは飛び上がり、

残りわずかの力を振り絞って校舎の屋上へと向かって行く。

そう、そこにはあの魔本があり、

さらに空の上には主・シルルの繭が鎮座しているのである。

『くくくっ、

 これは退散ではないっ、

 戦略的方向転換だ、

 わたしがシルル様に送ったエナジーがあれば十分に闘える』

わずかな希望を胸に抱いてククルは一気に屋上へと駆け上がっていく、

そして、屋上に降り立ち、

光り輝く魔本の傍に駆け寄ろうとしたとき、

「ぷりきゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

凛たちとは行動を別にしていた麗の呼びかける声が響き渡った。

『なに?』

その声にククルが振り返ると、

「弾けるレモンの香りっ、きゅあ・れもねーどっ

 輝く乙女のはじける力、受けて見なさい!

 ぷりきゅあ・れもねーど・ふらっしゅっ!」

背後に立つきゅあ・れもねーどが叫んだ途端、

シュバァ!

パパパパパ!!

強烈な閃光が幾重にも光り輝く。

『ぐわぁぁぁぁ!!!

 目がぁぁぁぁ!!!!

 目がぁぁぁぁ!!!!』

この世のものとは思えない強烈な閃光の直撃を受けたククルは瞬時に視力が奪われ、

悲鳴を上げながら手で両目を押さえると、

「あーはははははは!!!

 光画部特製、れもねーど・ふらっしゅの味はいかがかしら?

 こんなの1000年前には無かったですものね、

 ほらほらほーら

 コンデンサの電気はたっぷりありますわよぉ!!!

 弾けろぉぉ、ほぃっ!

 弾けろぉぉ、ほいっ!

 弾けろぉぉ、ほぃっ!」

サングラスを掛け大型フラッシュを背負った麗は執拗にククルにめがけて光を浴びせかける。

『貴様らぁ、

 またしてもぉ!!!

 だが、目が見えなくても魔本の位置ぐらい判るわっ』

体力も視力を奪われたククルが気配で魔本に向かおうとするが、

そのとき、

「ぷりきゅあっ!

 めたもるふぉーぜ!」

高らかに希の声が響り、

バッ!

剥ぎ取られたジャージが空を舞いあがると、

「大いなる希望の力っ、

 きゅあ・どりぃーむっ!

 あたしっ、

 参上ぉぉっ!」

の声と共にピンク色のレスリングウェアに身を包んだきゅあ・どりーむが

啖呵を切りつつ立ちはだかったのであった。

そして、

「ククルぅ!!

 夢見る乙女の底力っ

 受けてみなさいっ」

の声と共にきゅあ・どりーむはククルの懐に飛び込み素早く背後に回ると、

ガシッ!

背後からククルの身体がロックされ、

「ぷりゅあ・どりーむ・あたーっく!」

の声と共に、

グルン!

ククルは宙を舞うと、

ズガン!!!!

屋上の床上に広げられた魔本のページをククルの後頭部が直撃したのであった。



ゴフッ!

直撃と同時にククルの鼻と口から血が噴出し、

視力が利かなくなった目は白目を剥く。

「フォールッ!」

駆けつけたるーじゅの声が高らかに響き渡たると、

「うわぁぁ、

 ひでーっ」

まさに惨劇といっていいククルの状態に浩二は思わず口を覆ってしまう。

「ひょっとしてコンクリート面に後頭部が当たっていませんかぁ…」

「頭、割れているんじゃなくて?」

ピクピクと身体を痙攣させるククルを見ながら、

みんととあくあは哀れむが、

「女子レスリング部を馬鹿にしないでね」

そんな二人とは打って変わって希は勝ち誇ったように声を上げてみせる。

そして、

「さっ、

 ココっ、

 さっさとコイツを封印して」

浩二に向かってどりーむは指示をすると、

「あっあぁ」

その声に浩二は慌ててククルの元に駆け寄り、

本に向かって呪文を叫んだ途端、

ガシッ!

いきなりククルの手が動き浩二の腕が握り締められる。

「んなにぃ!」

握り締められた手を見て浩二は驚くと、

「そんな、生きてたなんて」

「なんて生命力!」

「ゴキブリ並ね」

とるーじゅ達は身を寄せ合いヒソヒソ話を始めだした。

そして

『まだ…

 まだまだ…』

ドクドクと血を流しながらククルは起き上がり、

『きっ貴様らを…

 シルルさまの生贄にしてやるぅ…』

うわ言のように呟きながら一歩一歩本へと近づいて行く。

「あっあんな状態で…」

「凄まじい執念です」

満身創痍の姿でありながらも闘志を燃やすククルの姿に、

どりーむとれもねーどは畏怖しながら足を引くが、

ボッ!

ククルの向かう先で魔本が光り輝くと、

キシッ!

メリメリメリメリ!!!

空に浮かんでいた球状の物体・シルルの繭がゆがみ始め、

まるで殻を割った卵が零れ落ちるように落ち始めたのであった。

「見て、

 シルルの繭が」

それに気がついたみんとが声を張り上げると、

「なっ、

 みんな逃げろぉ!」

素早くククルの手を振り解いて突き飛ばした浩二の声が響き、

「うわぁぁぁ」

蜘蛛の子を散らすかのように皆は慌てて校舎の中へと駆け込んでいく、

『はははははは…

 さぁ、お目覚め下さいシルル様っ

 シルル様の恐怖の力であの者共を消し飛ばし下さい』

自分に向かって迫り落ちてくる繭に向かってククルは笑い声を上げるが、

『ガフッ!』

落ちてきた繭はククルを押しつぶしてしまうと、

バキバキバキ!!!

ベキッ!

ジュルルルルルル!!!

押しつぶしたククルをすり潰しながら魔本の中へと吸い込まれて行く。

そして、その全てが消えたとき、

パラララララ…

開かれていたページが自然と捲られていくと、

パタン!

ついに表紙が閉じられ、

カシャッ!

鍵が静かに掛かけられたのであった。

こうして沼ノ端高校を襲っていた超常的な怪現象は

特殊災害等特別防衛救助隊、

通称、ぷりきゅあ・ふぁい部の5人の乙女達の活躍で安寧のうちに収まり、

雲の切れ目から日差しが戻り、

生い茂っていた草は消え失せると

人々の心に学校のことが蘇って来たのであった。



放課後、

「じゃぁ、

 僕はこれで、

 君達とは会うことは無いだろう」

そういい残して回収した魔本を携えた浩二が校門から去って行こうとすると、

「行ってしまうの?

 ココ?」

と名残惜しそうに希が話しかける。

「僕にはしなくてはいけない仕事があるから」

そんな希に向かって浩二は話すと、

「そうよ、希っ、

 ココにはしなくてはならないことがあるんだから、

 ここは笑顔で見送るべきよ」

と可憐が諭す。

「わかっているけど…」

諭されながらも希は気持ちに整理が付かないそぶりを見せると、

「みんなっー

 お疲れ様です。

 シュークリームを買ってきましたぁ」

の声と共に麗と凛が駆けつけてきたのであった。

「うわっ、

 シュークリーム!」

それを聞いた希が目を輝かせると、

「あの、僕ももらって良いですか?」

と浩二が麗に話しかける。

「ちょっとぉ!

 ココはいまから旅立つんじゃないの?」

それを見た希は文句を言うと、

「いや、旅立つにはシュークリーム分がないといけないんだ。

 だから、なっ」

と浩二は胸を張ってみせる。

「はいはい、希っ

 みんなでシュークリームを食べれば良いじゃない」

見かねた凛が場をまとめると、

「わーぃ、シュークリームだぁ」

嬉しそうに声を上げる希と共に皆は学校へと戻っていったのであった。



一方、その頃。

「うーん、

 なんかあった様な気がするんだけどね…」

明かりが点るパソコン教室の中でゆかりは小首を捻りながらパソコンを操作すると、

怪しげな品々を扱っているオークションサイトへとアクセスする。

そして、

「えっ、

 2000年前の魔女が封印されているですって?」

掘り出し物の品物をすかさず見つけると、

「とりあえず入札しましょ」

カチッ!

マウスをクリックしたのであった。



おわり