風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部」
(第四話:女の戰い)



作・風祭玲


Vol.819





まだ2月だというのに暖かな陽気に覆われていた県立沼ノ端高校の上空が俄かにかき曇り、

カッ!

ゴロゴロゴロ!

とどろく雷鳴と共に

ドザァァァァァ!!!!

嵐が吹き荒れはじめる。

その嵐の中、

池の中で産卵を終えたカエルはモソモソと陸に這い上がると、

ヒュンッ!

カエルの前に魔女・ククルが姿を見せ、

『ご苦労様、

 でもね。

 産卵を終えたお前はもう用済みなのよ』

と冷たく放ち、

『後はあたしに任せて、

 お前は消えなさい』

そういうや否や、

パキン!

カエルの首に巻かれていた首輪が消え去ってしまうと、

ブンっ!

ククルは右腕を仰ぐように振る。

すると、

一陣の風がカエルを巻き取るように持ち上げてしまい、

『ゲコォォォォ!!!』

指田ゆかりが変身したカエルは風と共に空の彼方へと消えてしまった。

『ふふっ、

 これだけの卵があれば…

 シルル様を蘇らせることが出来る』

池に生みつけられた卵を愛しそうにククルは見つめた後、

ヒュンっ!

と姿を消して行った。



降り出した雨は一向に止むことは無く、

翌日も降り続いていた。

ゴロゴロゴロ

カカッ!

雲間からは雷光と雷鳴が代わる代わる響き渡り、

「気味悪いなぁ」

「まだ2月だぞ」

「なんかこの世の終わりみたいだ」

その雨の中を登校してきた男子生徒達は、

頭上で黒くとぐろを巻く雲の姿に肩をすぼめ、

「剣呑、剣呑」

と囁き合うが、

「ゲコっ」

「ゲコゲコ」

教室内の女子生徒たちは、

盛んに喉を鳴らし始める。

やがて、

『グェコ』

校舎の片隅で野太いカエルの声が響くと、

『グェコグェコ』

『グェコグェコ』

『グェコグェコ』

それに呼応するかのように一斉に不気味な鳴き声が響き渡り始めた。

「かっカエルか?」

「いっ今頃?」

突然鳴き始めたカエルの声に

まだなにも知らない沼ノ端高校内の男子生徒たちは慌てふためき一斉に外を見るが、

「グェコ…」

「グェコ…」

彼らの後ろに座っている女子生徒たちの口からも

同じ声が漏れていることに気づく者はなく

「おいっ、

 何をしているんだ

 授業中だぞ」

そんな男子生徒たちに注意をする教師もまた同じであった。



ガラガラガラガラ!

ドドォォォォン!!

雷光が光り輝き

天を揺るがす大音響が響き渡る。

そして、その中を

『あははは…

 いいぞ

 いいぞ、

 この雨は決して止むことが無い。

 さぁ、風をもっと吹け、

 闇は空を隠せ、

 我が僕どもよ、

 この場に居る人間全てをカエルにしてまうのだ

 そして、我が主・シルル様に捧げるのだぁ』

光り輝く魔本と共に雨が降りしきる屋上に姿を見せた魔女・ククルは

大きく手を広げながらそう叫ぶと、

ズズズズズ…

雲間から丸く球形をした物体の片鱗が姿を見せた。

ニヤッ!

その物体を嬉しそうに眺めると、

『いでよ!』

と掛け声をかけ、

その声に呼応するかのように

フッ!

ククルの右手に禍々しい杖が姿を見せる。

『さぁ、

 我が愛しのカエルどもよぉ、

 いま、その姿を解き放ち、

 人間を襲うのだ』

そう叫びながら杖を大きく振り回して見せた後、

ドンッ!

と屋上を叩いて見せると、

その途端、

ビクン!

ビクン!

かおりによってカエルにされていた女子生徒たちは一斉に飛び上がり、

ムニムニムニ

見る間に毒々しいカエルの姿へと変わってしまうと、

『グェコ』

『グェコグェコ』

高らかに喉を鳴らしはじめた。

「うわっ!!」

「なんだっ!!」

「おっ女たちがカエルに…」

べチャッ…

粘液で濡れてしまった制服を脱ぎ捨て、

赤と黒の斑模様の肌を見せつける女子生徒たちは四つん這いになり

ベチョベチョ

ベチョベチョ

3本指の手足を粘液質の音を立てながら男子生徒や教師へと向かっていく

「ひぃっ!」

「くっくるなっ」

迫るカエルに男子生徒たちはみな縮み上がり、

掃除に使う箒や上着を脱ぎ捨てて必死に追い払ってみるものの、

『グェコ!』

カエルは怯まずに顔から突き出た目を動かして狙いを定めると、

シャッ!

舌を長く伸ばして拘束してしまうと

一斉にまだ人間で居た男子生徒や教師達を襲い始めだした。

「うわぁぁぁ!」

「助けてぇぇ!」

校内から夥しい男性達の叫び声が響き渡り、

『グェコ』

『グェコ』

カエルたちは飛び掛った男子達のシンボルを次々と己の肉体の中へと挿入させる、

そして、己の毒の体液を男子達に浴びせてしまうると、

ムニムニムニ!!!

男子生徒や教師達は皆カエルへと姿を変えていく、

こうして校内から徐々に彼らがあげる悲鳴が収まってしまうと、

フッ!

校舎の明かりは全て消え落ち、

『グェコグェコ』

『グェコグェコ』

悲鳴から代わって校舎を包む闇の中から

不気味な鳴き声が響き渡って行ったのであった。



ザァァァァァ…

人間に代わってカエルたちが主となった校舎を守るかのように雨は降り続き、

学園へと続く道を生い茂る草が来るものを阻むと、

竜の鱗の如く堅固な結界を張り巡らせて行く。

こうして県立沼ノ端高校に張られた結界は

この学園の存在を周囲に住む人々の心から消し去って行き、

学園は急速に深まっていく森の中へを没して行った。

『ふふふふ…

 あはははは!!!

 はーはははは!!!』

降りしきる雨の中、

草が生い茂る校庭に集うカエルたちの前で

ククルは歓喜の声を響かせると、

『グェコグェコ』

『グェコグェコ』

その声に呼応するようにカエルたちは一斉に喉を膨らませ、

高らかに鳴き声を上げはじめた。

しかし、

「ふぅ、

 やっとたどり着いたぞ…」

来るものを阻む草を掻き分け、

幾重にも張られた結界を潜り抜けた一人の男が

蔦が絡む裏門の前に立っていることにククルはまだ気づいていなかった。

「あと一歩遅かったら、

 完全に締め出しを食らっていたな」

傘も差さずに降りしきる雨の中を抜けてきたために

すっかりずぶ濡れになってしまっている男は喉元を伝ってくる水を拭うと、

学園内から漂ってくる生臭い臭いに思わず鼻を押さえる。

そして、

スッ

無言で右手を差出し、

その手の上に懐から取り出した栞をおくと、

ポゥ

栞の上に小さな光の球が姿を見せ、

シャッ!

直線状に変化した途端、

校舎のある方向に向けて光の矢を放った。

「なーるほど、

 やはり魔本はこの中にあるか、

 魔力の反応があるということは、

 既に二級限定魔…

 差し当たりククルあたりが解き放たれたらしいな、

 でも、一級魔のシルルはまだのようだ。

 まったく、何所の好き者かは知らないが、

 困ったことをしてくれたものだ」

男は困った表情をして見せた後、

ザッ!

背中に背負っていたサックを担ぎなおし、

徐に校内へと踏み込んで行く、

一方、

『グェコグェコ』

『グェコグェコ』

カエルたちが奏でる歌声は何時までも続き、

その声にククルはうっとりと耳を傾けているが、

「だって…」

「何か大変なことになってしまいましたね」

そんなククル達を物陰に潜みながら、

ヒソヒソ話をする二人の影があった。

そして、

「とにかく報告に行かなくては」

「えぇ」

影はそう声を交わすと、

サッ!

忽然と消え、

人目につかないように素早く校舎裏へと走っていく、

やがて沼ノ端高校の体育館が姿を見せると、

影は体育館の脇を走り抜け、

その先に要塞の如く聳え立つ運動部部室棟が姿を見せる。



さて、この県立沼ノ端高校には地震・火山の噴火・隕石の落下などの自然災害から、

暴動・革命・他校からによる核攻撃といった人為的な災害といった、

健全な学園運営を妨げる様々な要因より学園を守るために、

生徒会直下にA〜Cまでの災害即応委員会が設けられている。

しかし、それらの委員会とは別に

学校の七不思議を代表される超常的災害に対応するため、

校長直下に特殊災害等特別防衛救助隊が結成され、

運動系・文化系の各部活動より選りすぐられた5人の乙女達が日夜、目を光らせ

校舎の西側で幽霊目撃情報あれば直ちに現場に急行し幽霊の駆除と目撃者の記憶を消し、

校舎の東側でミステリーサークルが出現すれば芝を根こそぎ剥ぎとり無かった事にするなど、

八面六臂の大活躍をしているのであった。

しかし、活動の性格上、

彼女たちの存在を公に公表するわけにはいかず、

ごく限られた関係者のみがその存在を知っているに過ぎなかった。

しかし、そんな彼女たちをいつしか”ぷりきゅあ・ふぁい部”と呼ぶようになっていたのであった。

スタタタタタタ…

カエルたちが歓喜の声を上げている校庭から抜け出した影は素早く動き

一気に部室棟へと向かっていく、

そして、

コンコン!

”NattuHouse”

と言う札のかかる一室のドアを叩くと、

「山!」

部屋の中より問い合わせる響いた。

「川!」

その声に向かって影は言い返すと、

「声紋照合確認っ、

 入室を許可します」

と返事が響いた途端、

バタンッ!

ドアが一気に開かれると、

「きゃっ」

小さな悲鳴を残して影は部屋の中へと消えたのであった。



「夏木凛と春日野麗、

 ただいま戻りましたぁ」

料理部部長の夏木凛と光画部部長の春日野麗の声がそろって

NattuHouseの2階で響き渡ると、

「ご苦労様です」

落ち着いた声の返事が返って来る。

学園内の各所の様子が映し出されているマルチモニターパネルを背景にして、

50代を思わせる婦人が重厚なテーブルに肘を付き、

両手を組みながら二人を見ると、

「で、いかがでしたか?

 学園内の様子は?」

と問い尋ねる。

「はいっ校長。

 まさに最悪の事態になりつつある判断してよいかと思われます」

敷き詰められた赤絨毯の上で凛と麗は返事をすると、

「そうですか」

校長と呼ばれた婦人は小さくため息をつき、

「教頭」

と声を掛ける。

すると、

「はいっ」

その声に応じて背広姿の教頭が進み出ると、

「校長、もはや私達にはこれ以上の猶予はないかと思います。

 ここは速やかに行動を起こすべきかと思います」

と進言する。

「わかりました」

3人の意見を聞いた婦人は再びため息をつくと徐に立ち上がり、

「現在の学園が置かれている状況は危機的と言って良いでしょう。

 この絶望的な状況から我々を救える唯一の希望はあなた達しかおりません。

 生徒会長、期待してますよ」

見返りながら婦人は話しかけると、

「お任せください」

制服姿の生徒会長兼水泳部キャプテンの水無月可憐が一歩進み出るなり、

そう返事をしてみせると、

「いくわよっ

 ぷりきゅあふぁい部、出撃っ!」

と凛と麗に向かって指示をし階段を駆け下りていく。

「やれやれ、可憐さんは校長の前だと張り切っちゃうんだから」

「まぁまぁ」

そんな可憐の後姿を見ながら凛はいやみの言葉を吐き、

一方で麗は宥めてみせながら、

ペコリ

二人は校長と教頭に向かって頭を下げると可憐が降りていった階段に向かっていく。


 
「しっかし、上と下とでは天と地ほどの格差があるわね」

非常事態用発令室として空調が効き赤絨毯がしかれている階上に対して、

剣道部の用具倉庫として使われている階下に降りた凛は

鼻を摘みながら剣道防具が所狭しと置かれている部屋の中を進んでいくと、

「このカムフラージュがあってこそ、

 校長先生や教頭先生が無事でいられるんですよ」

と麗は話しかける。

すると、

「凛ちゃんっご苦労様。

 可憐さんからいま聞いたわ、

 出撃命令が出たんですってね。

 で、外の状況はどうなっているの?」

と彼女達のリーダーであり女子レスリング部キャプテンを務める夢原希が

二人に向かって改めて表の状況を尋ねてきた。

「あぁ、希ぃ、

 もぅ最悪。

 先生も生徒達もみんなカエルにされてしまったわ。

 人間の姿でいるのはこのNattuHouseに居る校長先生たちとあたし達だけよ」

そう答えながら凛はデジカメで撮影した画像を用意してあったパソコンに映し出す。

「それにしても、いきなり生徒や先生達がカエルに変身だなんて…

 こんなことって、とても信じられないわ」

平和な学園に突然沸き起こったこの怪現象に可憐は小首を捻ると、

「あのぅ…

 あたしが2・3発、張り倒しましょうか?

 ほら、よくあるでしょう。

 殴ったら変身が解けたって言うお話が」

と話を聞いていた女子相撲部キャプテンを務める秋元小町が手を揚げる。

しかし、

「小町さん、力任せでは駄目ですよぉ。

 第一、全校生徒に張り手を喰らわせるなんて無謀です」

すかさず麗がたしなめると、

「うーん、

 稽古になると思ったんだけど」

そう呟きながら小町は残念そうな表情をしてみせる。

「こんなときでも稽古ですかぁ

 小町さんわぁ」

小町を見ながら凛が呆れた表情を見せると、

「ねぇねぇ、凛ちゃんっ、

 あたしが投げ飛ばして小町さんが張り手を喰らわせるって言うのは駄目?」

と希が小声で話しかけてきた。

「希ぃ!」

それを聞いた凛は声を荒げると、

「うーん、いい考えだと思ったんだけど…」

と希は残念そうに言うと、

バンッ!

いきなりパソコンが置かれている机が叩かれ、

「例え相手が幽霊でも妖怪でも悪魔でも、

 きっかけとなるものが必ずあるはずですっ。

 まずはそれを突き止めることが先決です」

と業を煮やした可憐が怒鳴り声を上げると、

「そうよねぇ、可憐さん」

「原因は突き止めなければいけないわよねぇ、可憐」

希と小町は誤魔化すように笑って見せ、

「そうですよっ、

 私達には時間が無いんですから

 みんなで考えましょう」

と麗は言う。

「といわれても原因ってねぇ…」

麗の言葉に凛をはじめ皆は一斉に考え込むと、

「教えてやろうか?」

と表から男の声が響き渡った。

「だれ?」

皆は一斉に立ち上がって警戒すると、

ガラッ!

閉じられていた部屋の裏窓が開き、

日に焼けた一人の男の顔が覗き込む。

「だっ誰ですの?」

男に向かって可憐は声を上げると、

「ふーん、

 ひぃふぅみぃ、

 5人だけか、

 この学校でいままともな人間なのは…」

彼女達を見ながら男は呟き、

「表のカエルたちはククルって言う二級悪魔のせいだよ」

と続けた。

「二級悪魔…

 ですか?」

男の説明に麗が聞き返すと、

「あぁ、

 そうだ。

 この学校で現在発生している怪現象はその悪魔が犯人さ」

と言いながら男は肩をすぼめて見せる。

「そっかぁ

 悪魔がねぇ」

「これは手ごわそうですわね」

それを聞いた5人は考え込んでしまうと、

「まぁ、そんなに難しく考えることはない、

 この悪魔は本来あるものに封印されていたものだ。

 その封印を解かれこの世に出てこんなことをしでかしている。

 だから、再度封印すればいい」

と男が説明すると、

「随分とお詳しいですのね」

すかさず可憐が言い返した。

「あぁ、

 俺は奴らが封印されていた本を追っている。

 本来、その本は表に出ることが無いのだが、

 何かの間違いである女の手に渡ってしまった。

 女の名前は指田ゆかりって奴だ、

 たしか、この学校に居るはずなのだが」

と男は尋ねると、

「指田ゆかり?」

男の言葉に希はノートパソコンで検索を始めだした。

そして、

「あっあったわ、

 指田ゆかり、

 2年C組、出席番号は21番、

 趣味はこの世の魔道を極めること…ってなっているわ」

早速出てきた結果を興奮した口調で読み上げてみせる。

「この世の魔道を極めるって、

 人の迷惑も考えて欲しいものね」

それを聞いた凛が呆れながら言うと、

「ビンゴってわけか、

 なぁ、俺をそいつが居た教室に連れて行ってくれないか」

身を乗り出した男は希に懇願した。

すると、

「それはいいですけど…

 その前にあなたの名前を聞かせてください」

と希は男に名前を尋ねる

「あっ、

 そうか、まだ自己紹介をしてなかったか、

 僕の名前は小牛田浩二、仙台から来た。

 仙ココと呼んでくれ」

名前を聞かれた男はそう自己紹介をして見せる。

その途端、

「なんか、呼びにくい名前ですね」

「何かの記号に聞こえるわ」

「ニックネームとしては問題があると思います」

「仙台ってお生まれも東北なのですか?」

「面倒だからココでいいんじゃない?

 けってーぃ!!」

彼女達は男の呼び名を勝手に決めると、

「おいおいっ」

浩二はジト目で5人を見つめてみせる。


 
「しっかし、

 よくあんな臭い部屋に篭ってられたね」

懐中電灯を持った麗の案内で

校舎に踏み込んだ浩二は用具室に篭っていた5人の我慢強さをしきりに感心をすると、

「あははは…」

と彼の後ろを歩く希は笑って見せ、

「そんなの簡単ですわ、

 あたしたち全員花粉症ですので、

 少々の臭いには鈍感になってますの」

そう可憐は事情を話し、

「ほんと、いまの季節は辛いのよねぇ」

それに相槌を打つように小町は軽く鼻をかんで見せるが、

「あっ、あたしは普通だけど…

 ほんと臭いんですよあの部屋」

と凛は否定して見せた。

「夏木さんっ」

それを聞いた可憐が声を上げると、

「おいっ、

 あんまり物音を立てない方がいい、

 何所にカエルが潜んでいるか判らないぞ」

浩二は小声で注意をした。

と、そのとき、

シャッ!

物陰から何かが伸びると麗の身体に撒きつき

「キャッ!」

悲鳴を上げる麗の身体を引き釣り始めた。

「麗っ!」

突然の出来事に希をはじめしたメンバーは驚くが、

「あたしに任せて」

いち早く小町が前に出るなり、

ムンズッ!

麗を引っ張るそれを鷲づかみにして見せると、

「どすこいっ!」

の掛け声と共に一気に引っ張り込んだ。

すると、

『グェコぉ!!!』

物陰から毒々しい色をしたカエルが舌を引かれた形で飛び出し、

ベショッ!

潰れる音を上げながら廊下の壁に激突してしまうと、

ジュワァァァァァ…

湯気を吹き上げながら体が溶け出していく、

そしてカエルが溶け落ちたあとには、

一人の男子生徒が目を回した姿で床の上に倒れていたのであった。

「こっこれは…」

「副会長!!!」

カエルが溶けて出てきた男子が生徒会副会長の向坂武であることに皆が気が付くと、

「やっぱりカエルになっていたんですね」

と言いながら駆け寄るが、

しかし、彼が全裸であることに気づくと、

「いやぁぁぁ!!!

 不潔ぅ!!!」

の小町の叫び声と共に、

ドォォン!!

小町の張り手を喰らった武は宙を舞い壁にたたきつけられる。

「あちゃぁ…

 死んじゃったかな?」

ピクリともしない武の姿を見て希は心配そうに呟くと

「大丈夫よ、

 会長、剣道で鍛えているから、

 少し寝ていれば回復するわ」

と可憐は突き放したように言う。

「でも、なんで変身が解けたんだろう?」

武の変身が解けたことに凛は小首を捻ると、

「何も驚くことは無い、

 壁にぶつかった衝撃でククルの術が解けたんだ」

と涼しい口調で浩二は説明をする。

「衝撃で人間に戻れるのですか?」

それを聞いた麗が聞き返すと、

「あぁ…

 なんだかんだ言ってもククルは1000年以上も前の魔女だ、

 1000年前では想定できない何かには対応できないんだよ」

と浩二は言う。

すると、

「だからぁ、やっぱりあたしが考えた作戦が一番じゃない。

 ねっ、小町さん」

と胸を張って希が言うと、

「はいはい、

 確かに希の作戦が一番ですよ。

 でぇ?

 あんた、あの気持ち悪いカエル一匹一匹に抱きついて投げ飛ばすわけぇ?

 レスリング部の夢原希さぁん?」

ニヤケながら凛はそのことを指摘する。

「うっ」

そのことに気づいた希は思わず怖気づいてしまうと、

「まぁ、方法は別に考えるとして、

 要するに1000年前には想像も出来ないことをあたし達がすれば、

 一気に解決できるんですね」

メンバーの中で素早く可憐が聞き返し、

「まぁ、そういうことになるかな」

それを聞いた浩二は肩をすくめて返事をするが、

しかし、その一方で、

「あたし…ただ、引っ張っただけなのに…」

カエル退治した小町はどこか複雑な表情で自分の手を見ているのであった。

 

「ここよ、

 2年C組は…」

希達と共に浩二は指田ゆかりが在籍する2年C組の教室へと入って行くと、

「うひゃぁ

 これは酷い」

教室の中はすっかり荒廃し、

とても授業が出来る状態には見えなかった。

「えーと、

 指田さん、

 指田さんと…」

荒れた教室の壁に貼られている座席表に目を通しながら

希はゆかりの座席の位置を確認していると、

「あったよぉ!」

彼女が見つけるよりも先に凛の声が響き渡った。

「え?

 もぅ見つけたの?」

その声に希は驚きながら振り返ると、

「一目瞭然…」

と言う凛の声と共に、

凛の元には押し寄せている荒廃を物ともせずに勇姿を湛えている机が一つあるが、

しかし、その机には

”学校にくるなっ”

”ゆかり氏ね”

”あぼーん”

などと落書きされた姿を晒していたのであった。

「虐められていたんですね」

「こう言うのって大嫌いなんだよな」

「いじめって根が深いから…」

腰に手を当てて一同は机を見下ろしていると、

スッ

浩二は右手を差し出し、

その上に先ほどの栞を乗せる。

すると、

ポゥ…

栞の上に小さな光球浮き上がり、

シャコッ!

光球は直線状に姿を変えゆかりの机に向かって光の矢を打ち込んでみせると、

「うん、

 やはり彼女が魔本を開けた張本人か」

机に突き刺さる矢を見ながら浩二は頷き、

そして、

「・・・・・・」

何か呪文を唱えると、

机に突き刺さった矢は机から抜け、

ヒュンッ!

カッ!

今度は天井に突き刺さった。

「なぁ、

 この方向には何がある?」

天井に突き刺さった矢を見上げながら浩二は尋ねると、

「その方向は…うーん」

小首を捻り希は考え込むが、

「ここは3階ですので当然屋上ですわ」

とあっさりと可憐は答えた。

「そっかぁ、

 魔本は屋上にあるのか、

 よし行って見よう」

可憐の返事を聞いた浩二はスグに教室から飛び出し、

その脚で屋上へと続く階段を駆け上っていくと、

雨が降りしきる屋上へと躍り出た。

そして、

「ん?

 あれは?」

屋上に出た浩二が何気なく上空を見たとき、

雷光を明滅させる雲間より巨大な球状の物体があることに気がつくと、

「うわっ、

 なにあれぇ?

「何かがあるわ」

雨に顔を濡らしながら追いかけてきた希達が声を上げたのであった。



つづく