風祭文庫・ヒーロー変身の館






「Yes!ぷりきゅあふぁい部」
(第弐話:魔女の造りしもの)



作・風祭玲


Vol.186





むかしむかしその昔、

とある地方にあるとある国でシルルと名乗る魔女が猛威を振るっていた。

シルルは人々を獣の姿に変えると自らの下僕にし、

そして破壊と略奪の限り尽くしていた。

空は闇に覆われ、

絶望が国を覆い尽くし、

夢を失いかけた民達は魔を払う救世主の登場を神に祈った。

すると民衆の祈りが届いたのか、

5人の勇者がシルルの前に立ちはだかり、

シルルに闘いを挑んだのであった。

大地は振るえ、

水は渦巻き、

炎が空を駆け抜けていく、

壮絶な戦いが繰り広げられ、

彼らの戦いに民衆は夢と希望を見出して行く。

そして暗黒の空を光が覆い尽くしたとき、

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』

シルルは絶叫をあげながら魔本の中へと封じ込められ、

その国を収める王の宮殿の奥深くに封印されたのであった。

だが、時は移ろい、

やがて王政を倒す革命がその国を襲うと、

封印された魔本は何者かによって持ち去られてしまう。

そして、魔本はその国から離れて人から人へと渡り歩き、

やがてある一人の少女の元に届けられたのである。



ゴォォォォォォ!!!

「えぇ、そうよ、あたしよ、

 この指田ゆかりがシルル、

 あなたをこの魔本より召還したのよっ
 
 召還された魔女は召還した者の下僕になるのが掟のはず、

 さぁ、シルルよあたしの下僕となって働いて頂戴っ!!」

魔術を極めんとする指田ゆかりの力によって

魔女・シルルは長い時の眠りから目覚めさせられたのだが、

しかし、

『……アハハハハハハ!!

 フッ、お馬鹿さん…
 
 あたしはシルル様じゃないわ…
 
 シルル様は未だ戦いの傷が癒えず魔本の中で眠りについているの、
 
 あたしはシルル様配下第1位のククル…
 
 第一、あなたのような者がシルル様を簡単に召還できると思ったら大違いよっ』

そうゆかりが召還したのは魔女・シルルではなく、

シルル配下第1位の下僕・ククルであった。

そして、

ムニムニムニ…

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『あはは…シルル様を下僕にしようとした罰だ、

 しかもただのカエルではないぞ、
 
 その毒々しい色から見て判るようにお前は猛毒を持った毒ガエルだ!!』

蘇ったククルによってゆかりは猛毒をもった”カエル”へと変身させられ、

シルルの下僕としての生活が始まったのであった。



「……で、あるからして…ここには…」

カッカッカッ

教室内に公式を説明する教師の声と黒板を叩く音がこだまする。

「はぁ…」

その教室の一角でゆかりは自分の手を眺めると大きくため息を付いた。

いまは白魚のような細く白い人間の手だが、

しかし、ひとたび変身が始まると、

その手は分厚く毒々しい肌に覆われた禍々しい3本指のカエルの手になってしまい、

それどころか彼女の姿は人ではなくまさにカエル女と化すのであった。

「はぁ……」

再びゆかりがため息を吐くと、

「指田…この公式を使ってこの例題を解いて見ろ」

突然教師から声を掛けられた。

「え?、

 あっハイ…」

ゆかりは慌てて立ち上がるが、

「クスクスクス…」

同時に教室内から笑い声がこぼれ始める。

「はっまさか…」

教室内の反応にゆかりは自分がカエルに変身してしまっているのでは、

っと咄嗟に自分の身体を見たが、

しかし、セーラー服に包まれた身体はいつもの人間の姿をしていた。

「何をして居るんだ、

 はやく前に出なさい」

トントン

そんなゆかりを急かすように教師は黒板を叩くと、

「は・はい…」

顔を赤くしながらゆかりは黒板の前に立つと、

教師が黒板に書いた例題を解きはじめた。

コツコツコツ…

ゆかりは例題を解いてゆく、

「ふん…頭だけは良いんですのね」

その様子を眺めていた細川小百合は憮然とした表情をしてゆかりを眺めていた。

そのときだった。

ムニッ!!

ゆかりの身体をある感触が走った。

「う゛っ…(ククルからの呼び出しだわ…)」

突然変身が始まったのを感じ取ったゆかりは答えを書くと、

「先生…すみません…

 あのぅ気分が悪いのですが」

と細い声で教師に言うと、

「ん?、

 仕方がないな…保健室に行きなさい」

教師はゆかりが書いた回答を眺めながらそう呟いた。

「はいっ」

ゆかりはそう返事をするとそそくさと教室の外へと出て行く。

「まただわ…」

その様子を見ていた小百合は最近頻繁にゆかりが、

抜け出していくのを不審に思っていたのだった。

「あっ先生、わたしが私が保健室まで付き添います」

小百合は立ち上がって教師に言うと、

目で克子に合図を送りすかさずゆかりの後を追った。

カシュン!!

ゆかりの首に朱色の首輪が現れると、

ムニ…ムニ…

ゆかりの身体は時間稼ぎをするように最初はゆっくりと

しかし、時間が経てば経つほど変身のスピードを上げてゆく、

「あぁ…時間がないわ…」

既に”カエルの手”になってしまった両手を見ながら、

ゆかりは廊下を急いだ、

すると彼女の後ろから

「あら指田さん…

 何処に行くのですか?

 保健室ならあちらですわよ」

と小百合と克子が廊下の反対側を指さしながら声をかけてきた。

「しまった、一番イヤな奴に…」

ゆかりは露骨にイヤそうな顔をすると、

「さぁ…私達がご案内しますわ…」

そう言って小百合と克子が取り押さえるようにゆかりの腕を掴んだ、

「止めて!!」

ゆかりは反射的に小百合と克子の手を振りほどくと、

「あら…まぁ…素直じゃないんですのね」

「おいっお前、いつも何処にバッくれているんだ?」

ゆかりを見下げる目で小百合と克子は彼女を見据える。

ムニムニ…ムニムニ…

そうしている間にもゆかりの変身は進み、

既に上履きの中は大きく膨れあがった足でパンパンになっていた。

「あぁ…じっ時間がない…」

焦ったゆかりはドンッと小百合達を突き飛ばして走り去ろうとすると、

「待てよ(ギュッ!!)」

克子はゆかりのカエル化した手を思いっきり掴む。

「ふん、あたし達にそんな態度を取って良いと思っている…」

と小百合が言ったところで、

「…うわっ?、

 何だこれぇ!!」

ゆかりの手を見た克子が思わず声を上げた。

「あっダメェェェェッ!!」

ムニムニムニムニ…っ!!!

ゆかりが悲鳴を上げたとたん、

彼女の身体は一気に”カエル”へと変身してしまった。

「あっあっあっ!!…」

小百合達はカエルと化したゆかりを指しながら唖然とする。

「いやぁぁぁぁぁ(ゲコ)…

 見ないでぇ(ゲコ)…」

そんな彼女達の様子を見たゆかりは両手で顔を隠すと

ペタンと座り込んでしまった。

「あはははは…すげぇ…」

「うふふふ…

 カエルですって?
 
 あなたにはお似合いの姿ですね…」

ゆかりは彼女達からそう言う言葉が投げかける時を覚悟していると、

「いやぁぁぁぁぁ!!」

予想に反して克子の叫び声が上がった。

「え?」

恐る恐る顔を上げたゆかりは信じられない光景を目撃した。

ムニムニムニ…

叫び声を上げた克子の両手が見る見るゆかりと同じ”カエルの手”と化し、

さらには彼女の体中がオレンジ色に黒斑のカエルの肌に覆われていった。

「やめて!

 やめて!!…」

半狂乱になって取り乱す克子はあっと言う間に

彼女とおなじ”カエル”へと変身してしまったのであった。

「そっそんなぁ…」

カエルになった克子を青い顔をして小百合が見ると、

「小百合ぃ助けてぇ(ゲコ)…」

克子は呆然と見ている小百合に飛びかかった。

「いっいやぁぁ!!、

 近寄らないで〜」

小百合の悲鳴があがり、

克子が小百合の身体に触れた途端。

「いっいやぁぁぁぁ!!」

ムニムニムニ…

小百合の手がゆかりや克子と同じカエルの手に変化し、

程なくして小百合も毒々しい肌に覆われたカエル女になってしまったのであった。

「あぁぁぁぁぁぁ(ゲコゲコ)」

声にならない声を上げながら

ペタンと座り込んでしまった小百合をゆかりは呆然と眺めていると、

『あははははは…』

と言う笑い声と共に3人の前に魔本が姿を見せると、

その魔本に腰掛けるようにしてククルがゆかりの前に姿を現した。

そしてカエルになってしまった克子と小百合を一目見ると、

「ほぅ、来るのが遅いと思ったら、

 もぅ、仲間を増やしたのか…」

と満足そうに呟いた。

「コレは一体…(ゲコ)」

ゆかりがククルに訊ねると、

『なぁに…

 お前の身体から出る粘液に触れた人間はみなお前と同じカエルになってしまうのよ。

 さぁその調子でどんどんと仲間を増やすがよい。
 
 その方がシルル様もお喜びになるからな』

と言い残してククルは魔本と共に姿を消えてしまう。

「そんなあたしに触るとみんなあたしと同じ…(ゲコ)」

自分のかえるの手を見ながらゆかりはそっと呟いていた…



その日からある時は使われていない教室で、

またあるときは人気のない司書室で…

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ムニムニムニ…

少女の悲鳴が上がると、

ビチャッ(ゲコ)!!

一人また一人と毒々しいカエルが誕生していく。



県立沼ノ端高校…

生徒数500を越すこの学校の半数を占める女子生徒が、

みなカエルになってしまうまで

さほど時間がかからなかったのである。



つづく