風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラマミ」


作・風祭玲

Vol.417





時は西暦20XX年、怪獣や宇宙人の襲撃が多発し地球では

それに対応する為に国連の外部組織【地球防衛軍】が組織され、

その任に当たっているのだが…



キラッ!!

漆黒の宇宙空間を切り裂くように一体の飛行物体が突き進んで行く。

シュンッ

飛行物体は土星の輪を潜り抜け、

木星の横をすり抜け、

アステロイドベルト、

そして火星を通過していくと、

やがてその行く手に青く輝く地球が姿を見せた。

PIPI!!

『配達目標…

 銀河系オガサワラ宙域・太陽系第3惑星・地球…
 
 北緯35度…分
 
 東経137度…分
 
 配送時刻…予定より-29秒…
 
 支障なし、オールグリーン!!」

飛行物体は報告を宇宙に向け送信すると、

程なくして

ボンッ!!

地球の大気圏に突入するのと同時に一条の筋を青空に棚引かせながら、

ゆっくりと消えていった。



「ちょっとあなた達、

 いつまでパソコンの前にしがみついているのよ
 
 掃除が出来ないじゃない」

放課後のパソコン教室にサカキ・マミの怒鳴り声が響き渡る。

「ちょっと待て、

 いま大事なところなんだから」

彼女の声に驚き、次々と腰を上げる面々のなかで一人だけ、

マミの幼馴染であるキムラ・サトシは彼女に待つように言うと

画面に映し出されるポリゴンで作られたヒーローを操作しながら

じっとディスプレイに見入っていた。

「ねぇどうしよう」

「お掃除できないよ」

動こうとしないサトシの様子にマミの後ろにいる女子生徒たちからそんな声が漏れてくると、

ジロッ

マミはサトシを睨み付けると、

ツカツカツカ

とサトシの傍によるなり、

ブツンッ!!

サトシが見入っているパソコンの電源コードを引っこ抜いてしまった。

「うわっ

 馬鹿!!」

いきなり消えてしまった画面にサトシが悲鳴を上げると、

「いくら言っても聞かないからよ」

恵美は腕組をしながら戒めるように告げた。

すると、

「だからといって、

 いきなりパソコンの電源を抜くやつがあるか、
 
 壊れたら先生に怒られるだろうが」

うろたえながらサトシはマミから電源コードを奪い取ると、

すばやくコンセントに差込みスイッチを入れる。

すると、画面に見慣れたはためく4色の旗が現れ、

程なくして何事もなかったかのようにパソコンは再起動した。

「ほっ」

その様子にサトシはホッと胸をなで下ろすと、

「あら、

 いけなかったの?」

ケロッとした表情でマミは話しかける。

「いけなかったじゃねぇよ

 どうしてくれるんだよ、
 
 折角ネットゲームが盛り上がったとこなのに」

マミのその言葉に涙を溜めながらサトシが訴えると、

ビッ

そのサトシの喉元にマミは手にしていた箒の先を突きつけ、

「あたし達はここのお掃除当番なの、

 遊んでいる人はさっさと出て行きなさい」

と命令をした。



「わっ判ったよ」

マミの気迫に押されるようにサトシがパソコン教室から立ち去ろうとしたとき、

『目標確認!!

 お届けモノでーす!!』

と言う声が大空に響き渡ると、

キラッ!!

窓向こうの空に光り輝く点が現れるとグングンと近づいてきた。

「おっおいっ」

「なんだ、近づいてくるぞ」

「まさか、キタのミサイルか?」

「こわーぃ!!」

その様子にパソコン教室に居た生徒達は一斉に青ざめていく。

そして、

キィーーーン!!

見る見る巨大化していく光点に

「逃げろ!!」

誰か叫び声を上げるのと同時に、

バリィィィン!!!

教室の窓が割れ、

ドン!!

光点がパソコン教室に飛び込んできた。

「うわぁぁぁ」

サトシやマミは反射的に身を伏せ、頭を庇う。

すると、

『こんにちわ、惑星宅配便でーす。
 
 キムラ・サトシさまにお届けものでーす』

と言う声が響き渡ると、

フヨフヨフヨ…

床に伏しているサトシの前に小さくなった光点がゆっくりと降り、

シュンッ

輝いていた光が消えると、

床の上に丁寧に梱包された箱が置かれていた。

「はぁ?」

予想外のことに教室内は一瞬静まり返ると、

「よいしょ」

その緊張感に似た空気を破るように、サトシは徐に箱を取り上げる。

「(ハッ)ちょっと、

 いいの?勝手に触って」

サトシの行動に気づいたマミが静止させようとすると、

「だって僕への届け物でしょう?」

キョトンとした顔でサトシは返事をする。

「とっ届け物って…

 あんた、状況がわかっているの?
 
 空を飛んできたのよ、
 
 こんな非常識なこと起こるわけないでしょう」

サトシの言葉にマミはそう反論をすると、

「でも、ロシアで郵便配達にミサイルを使ったことがあるし、

 あんまり細かいことは気にしないほうが…」

梱包を破りながらサトシはマミに言う。

「そっそれとこれとは」

あくまで能天気なサトシの返事にマミがなおも突っ込もうとしたとき、

「おっ」

梱包の中からキラリと灰色に輝くアタッシュケースのような箱が出てくると、

「こうか?」

パチン!!

サトシは箱の左右にあるボタンを押した。

すると、

パカッ!

口を開くようにアタッシュケースが開くと、

キラ☆

中から赤・青・緑・黄・桃の色をした玉が嵌められ流星をデザインした

5本のブレスレットが蛍光灯の光を反射しながら姿を見せた。

「ブレスレット?」

教室に居た者たちの視線が一斉に注がれると、

「へぇぇぇ」

感心しながらマミが手を伸ばすと、

その中から赤い玉が仕込まれているブレスレットを取り出してしまった。

「あっ、僕んだぞ、

 勝手に取るなよ」

「良いじゃないの、

 5つもあるんだからケチケチしない」

マミの行動を非難するサトシに対してマミはそう言うと、

「もぅ!!」

サトシは膨れっ面をしながら

緑色の玉がはめられているブレスレットを取りシゲシゲと眺めた。

とそのとき、

パチン!!

そんな音が響くと、

「あっあれぇぇ」

マミが腕に填まってしまったブレスレットを引っ張りながら声を上げた。

「どうしたの?」

「急に填まったら外れなくなっちゃった」

サトシの問いにそう返事をする。

「なにぃ?

 僕のブレスレットだぞ!!」

マミの声にサトシは慌てて

マミの右腕に填まってしまったブレスレットを外そうとするが、

しかし、ブレスレットはサトシの力ではビクともしなかった。

「どうしよう」

「もぅ、勝手に弄るから」

うろたえ始めたマミにサトシは涙を溜めながら文句を言うと、

「なぁ、先生に言ってペンチを借りるか?」

2人の様子を見ていた男子生徒が声を掛けてきた。

「えぇ!!

 壊すのかよ」

「仕方がないだろう、外れないんじゃぁ」

届いたばかりのブレスレットを壊す。

サトシにとってはどうしても避けたいことだった。

そして、

「そうよ、壊してよ!!」

サトシ達の話を聞いていたマミがそう声を上げた途端、

パァァァァ!!

突如ブレスレットについている赤い玉が光を放つと、

「いやぁぁぁ!!」

マミは思わず悲鳴を上げた。

「なっなんだ?」

「わかんねぇ!!!」

突然のことにサトシ達は驚くと、

「あんっ!!!」

ビクッ!!

驚いていたマミがいきなり悶えるような声を上げると、

メリメリメリ!!!

彼女の体から何かが盛り上がってくるような音が響き渡り、

ムクムクムク!!

とマミの体が膨れ始めだした。

「さっサカキ!!」

「かっ感じちゃう…

 あんっ
 
 体の中に中かが湧き出てくる感じ…
 
 あぁ…すごい、
 
 気持ちいい…」

滝のような汗を流しながらマミはそう呟くが、

すでにマミの体は一回り大きくなり、

さらに膨張していった。

「おっおいっ

 なんだよ、これ」

大きくなっていくマミを見上げながらサトシが声をあげると、

「あんっ

 だめっ!!」

ビリビリビリ!!

ついに彼女が着ていた制服が膨れていく体についていけず引き裂け始めだした。

「あぁ…

 制服が…

 いや!
 
 いや!

 見ないでぇ!!」

悶えながらもマミは抑えるが、

しかし、彼女の制服は無残に千切れ、

その中からマミの肌が姿を見せてきた。

ところが、

「なっ」

サトシ達はその肌に思わず凝視すると、

彼らのその視線の先にあるマミの肌は銀色に染まりキラキラと輝いていた。

「なっなんだ?」

「あっさぁ?」

銀色に輝くマミの肌にサトシ達は思わず顔を見合わせると、

続いてその肌にアクセントのように赤のストライプ模様が浮き出してきた。

「こっこれって…」

それを見たサトシの脳裏に先日まで

地球防衛軍と共に戦っていたある巨人のことが浮かび上がり、

「うっウルトラナイン…」

とマミを指差しながら声を上げた。

すると、

ビクン!

マミの身体が大きく脈打ち、

ムリムリムリ

マミの変身が加速的に進み始める。

ところが、

「おいっ

 どう思う?」

「うーん、確かにウルトラナインだよなぁ」

「そう言えば最近見かけないなぁ…」

「あのブレスレットってウルトラナインに変身するアイテムだったのか?」

「でも、マジで変身するか?」

「思い出してみろよ、

 ここに飛んできたんだぞ」

「あっそうか」

変身していくマミをよそに男子生徒たちは談義を始めだした。

「ちょっと、

 いまそんなこと言っている場合では…」

そんなサトシや男子生徒たちに女子生徒が注意をすると、

「あっあぁぁ!!」

マミは身体を仰け反らせビクビクと体を震わせ始めた。

そして、それにあわせるように、

ムクッ

ムクッ

っと銀色の肌に覆われたマミの体から筋肉が蠢くように盛り上がり始め

再び彼女の体が膨張していく、

「なっなっなっ」

モリモリと筋肉を盛り上げていくマミの姿に

サトシ達は一歩、また一歩と後ろに下がっていくと、

「うぐぅぅぅぅ!!」

堪えるような声を上げながらマミは胸板を大きく膨らませていった。

そして、次第にマミの顔も銀色に染まっていくと、

メリッ

鼻筋が額より髪が次々と抜け落ちていく頭へと伸び、

そのまま後頭部へと回り込んでいった、

「まっマミが

 マジでウルトラナインになっていく」

変身していくマミを目の当たりにしてサトシは思わずそう呟くと、

『うっはぁはぁはぁ』

ようやく変身が終わったのかマミは肩で息をしながら、

『いっ一体、何なのよ』

と文句を言いながらサトシの方を振り向いた。

しかし、その瞳は金色に染まるり、

大きさも小判型に大きくなっていた。

「あっあっ」

変身をしたマミを指差しながらサトシは唖然とすると、

「あのぅ…

 あっあれ…」

マミの変身を見ていた女子生徒たちがパソコン教室の壁に掛かっている鏡を指差した。

『え?』

彼女達の仕草にマミは3m近い体を小さく縮こまらせながら鏡を覗き込むと、

その壁に掛かっているくすんだ鏡に自分の姿を映し出した。

その直後、

『あっ、あ、

 いやぁああああああああああ』

マミの悲鳴が周囲にとどろき渡った。




『ねぇ責任とってよ』

すっかり筋肉隆々の正義の宇宙戦士・ウルトラナインの姿になってしまったマミが

サトシの方に顔を向け声を上げると、

「え?

 責任って」

『あんたのブレスレットであたしこんな姿になってしまったのよ、

 だから、サトシ、あんたがあたしを元に戻す責任があるのよ、
 
 さぁ、あたしを元の女の子に戻してよ』

「そんな…

 僕だってこのブレスレットがそんな力があるだなんて知らなかったし」

そう言い訳をするサトシにウルトラナイン姿のマミがガックリと肩を落とすと、

『ねぇ…』

「なっなに?」

『あたし…

 明日から格好のままで制服を着るの?』

とポツリとマミはこれからの事を尋ねた。

「あっ」

マミの言葉にサトシは咄嗟にセーラー服を着たウルトラナインの姿を思い浮かべると、

思わず吹いてしまった。

その途端、

グィ

サトシの方にマミの手が乗せられると、

『笑い事で済むか!!』

という怒鳴り声と共にサトシの体が宙を舞う、

「すげー」

「さすがはウルトラナインだ」

「そりゃぁそうだろう」

中を舞い、ものの見事にパソコン教室の黒板にめり込んでしまったサトシの姿を見ながら、

男子生徒達は大きく頷くと、

『え?』

思いがけない自分の力にマミが驚いていた。

とそのとき、

『発見しました!!』

という声が響き渡ると、

フッ

マミとサトシ達の前に

昔のSF漫画などで出てくるような宇宙服を着た小人が2人姿を見せた。

『小人?』

「なに?」

突然出てきた小人に皆が驚くと、

『おめでとうございまーす』

と威勢のいい声が響かせ、小人は頭を下げ、

『はいっ

 我々はギャラクシーヒーロー社の者でして

 このたび、全銀河規模で行われる
 
 スーパーヒーロー大戦in銀河を催す事なり、
 
 太陽系代表としてキムラサトシさんが見事当選されました。
 
 つきましては一足先に変身用のブレスレット5個をそちらに送付したのですが…
 
 あっあれ?』
 
 
小人達は黒板にめり込んでいるサトシと、

ウルトラナインの姿になっているマミを見比べながら首を捻る。

そして程なくして

『えぇ!!

 この人がレッドをつけてしまったのですか?!』

という小人の悲鳴が教室に響き渡った。

「何か問題があるのですか?」

驚く小人にサトシが訳を尋ねると
 
『困りましたねぇ…

 わが社の変身ブレスレットはどこの星の客様も不自由なくプレイできるように
 
 リーダーとなる方の変身工程を遺伝子レベルで登録をしてあって

 別の人が勝手に使うと…ちょっと問題が…』

と歯切れの悪い返事をする。

『ちょっと、

 その場合どうなるの?』
 
小人の返事にサトシを押しのけマミが顔を突っ込んでくると、

『あっちょっと失礼』

小人は腕を差し出してマミを止めると、

携帯電話を取りだし何かを話し始めた。

そして、話終えると、

『…いま技術部と話したのですが、

 細かいところは技術的な問題ですので、

 なんとかなるそうです、

 ただ、既に変身してしまったためにゲームは始まってしまったので
 
 すみませんが、
 
 あなたがプレーヤーとしてプレーをお願いします…』

と小人はマミに告げた。

『ゲームってなに?』

『あっ我々が用意する宇宙怪獣がこの太陽系を襲いますので、
 
 それをプレーヤーである貴方がリーダーとなってチームを作り
 
 宇宙怪獣を退治していくのです。
 
 またプレーヤーのレベルが上がりますと、
 
 よその恒星系のプレーヤーと共同作戦なども出来るようになります』

『へぇぇ…』

小人の説明にマミは感心したような素振りをした後、

『でも、戦うだなんてあたしには出来ないわ』

と返事をした。

『えぇ!!

 そっそれは!!』
 
マミの返事に小人宇宙人がひっくり返り、

『プレーヤーがプレイをしないとゲームは成り立ちません!!

 ですから!!』

と力説するが、

『いやっ』

マミはあっさりと拒否をする。

すると、

『仕方がないですな…

 ではキムラさん、
 
 貴方はゲームをプレーする気はありますか』

小人宇宙人はため息をつきサトシに話を振ると、

「それはもちろん!」

とサトシは目を輝かせそう返事をする。

すると

『判りました、

 それではプレーヤーは当初どおりキムラさん貴方にします』

小人宇宙人はサトシに告げると、

『ちょっと、あたしはどうなるの?』

と今度はマミが小人宇宙人に迫った。

『あなたは…』

マミに向かって小人宇宙人はそう言いながら

なにやら意味ありげの通信機を操作すると、

ビクッ!!

「シュワッ!!」

突然、マミはそう叫ぶと

窓を突き破って校庭に飛び降り、

フッ

っと夕焼けの空を見つめた。

「おっおいっマミ」

マミのその姿にサトシは驚くと、

『はい、これを』

小人宇宙人はそう言いながら小さな端末を手渡した。

「これは?」

『コントローラーです。

 あなたはこの星のプレーヤーですので、
 
 このコントローラーでヒーローを操作して襲ってくる宇宙怪獣を退治してください、
 
 あぁ丁度、宇宙怪獣ビンギルが来たようですね。
 
 では、レクチャーをしますので出撃してください』

小人宇宙人はサトシにそう言うと、

「よしっ

 出撃だぁ
 
 ウルトラマミ!!」

コントローラーを手にしたサトシは威勢良く叫ぶと、

ピッ

っとコントローラーのボタンを押した。

すると、

『(ちょちょっと

  体が勝手にぃ
 
  どっどうすれば、元に戻れるのよっ)』

体の自由を奪われたマミは心のなかでそう叫びながら、

『ゲームをクリアすれば戻れます。
 
 では頑張って行ってください』

という小人宇宙人の声援に送られ、

『ジュワッ』

と言う声を残してマミは明けの明星へ向かって夜空へと飛んでいってしまった。



ウルトラマミ…地球を守る彼女の戦いは始まったばかりである。



おわり