風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ストロングマン」


作・風祭玲

Vol.381





『がんばれー、ストロングマン!!』

休日の遊園地に子供の歓声が響き渡ると、

フホホホホ…!!

ディア!!

ジュワッ!!

子供達の前に誂えられた特設ステージの上では

子供達のヒーロー・ストロングマンが

悪役宇宙人達からの攻撃を軽業のように避けながら倒していた。

そして、最後に残った極悪宇宙人を決め技のストロングボンバーで倒したとき、

ワー!!!

手に汗を握り締めながら勝負の行方を見守っていた子供達の間から

沸き起こるような歓声が一斉に上がった。



「お疲れ様です」

『おうっ』

ショウの後、

ステージの後ろにある控え室にストロングマンによって倒された悪役宇宙人たちが戻ってくると、

「ぶはぁ、暑い暑い!」

そんな声をあげながら次々と被っていた悪役宇宙人の顔を外しはじめた。

そして、顔が外れた途端、

だらぁ!!!

中から汗でずぶ濡れになった顔が出てくる。

「うひゃぁぁ、すげー汗」

そんな悪役宇宙人たちの中で文字通り滴り落ちてくる汗に驚きながら

手に取ったタオルで顔をぐしゃぐしゃに拭き始く俺が居た。

「あはは…

 そんなに暑いか、

 まぁ仕方が無いわな」

そんな俺の様子を見ながら先輩達が笑っていると、

「ただいま戻りました」

という女性の声と共にストロングマンが控え室に入ってきた。

「ん?、五月か、

 大変だな人気者は」

その声に冷やかしに聞こえる返事をしながら俺が振り返ると、

ジュワッ!!

ストロングマンが俺に向かって決めポーズをしたのち、

その顔に手を当てて、

そして2・3回、左右に揺らすと、

スポッ

っと被っていたストロングマンの顔が外れ、

その中から髪をシニョンに纏め上げた女性の顔が出てきた。

井出五月。

R大の女子大生でもある。



「ふぅ…子供達が押し寄せてきちゃってね」

ストロングマンの顔を取った五月は2・3度大きく深呼吸をした後、

額にうっすらと浮かんだ汗をハンカチで拭いながらそう答えると、

「まさか、そのストロングマンの中に入っているのが

 この女だってことを子供達が知ったらなんて思うだろうなぁ」

五月の姿を見ながら俺はふとそう呟く。

確かに、五月の首から下は盛り上がった筋肉を誇張するデザインのスーツに覆われ、

さらにスーツに仕込まれた巧妙なギミックによって

まるでボディビルダーが薄い素材の衣装を身に着けているかのように見えていた。

「ダメよ、子供達の夢を壊すようなことを言っては…」

そんな俺の言葉に返事をするように五月は笑いながら、

グイッ

っと腕に力を込める振りをすると、

ググググ!!!

五月の腕に筋肉の瘤が盛り上がっていく。

「どぅ言う仕掛けなんだ?それ?」

逞しく盛り上がった腕を見ながら、俺はその仕掛けの正体を尋ねてみると、

「うん…

 なんでも、人工筋肉のようなのが入っているんだって」

と五月は答えた。

「へぇ人工筋肉ねぇ…

 なんかすげー勢いでSFになっているなぁ」

五月の答えに俺は感心しながらその腕に触ってみると、

「(あはは)人工筋肉って言ってもあくまで見せかけよ見せかけ」

俺の腕を晒せながら五月は軽く笑った。

すると、

「いやぁ…

 でも…いいよなぁ…

 ストロングマンには新しいのが色々使われて、

 第一、その全身の素材って通気の良い新素材なんだろう?

 蒸れない上に暑くないっていうんだから…

 はぁ…俺のこれもそれにして欲しいよ」

俺はそう言いながらいま自分が着ている悪役宇宙人のスーツを軽く叩いた。

「じゃぁストロングマンと代わってあげようか?」

そんな俺の愚痴に五月はそういってくると、

「あははは、

 ムリムリ!!

 俺は五月のように体が軽く無いし、

 それに体操の経験が無いよ」

と返事をした。

そう、五月がストロングマン役に抜擢されたのは

スーツの構造上の理由もあるが、

何よりも、体操の県大会で上位入賞をした。

という実績がモノを言ったらしい。



あっそうそう俺の名は新堂睦月、年は18、予備校生。

俺とこの五月の間柄は俗に言う幼馴染という奴で、

この春、五月とは違って見事浪人生が決定してしまった俺はふとしたケンカの勢いで親元を離れると、

大学合格とともにこっちに出てきた五月の部屋に転がり込んでいた。



「まぁ…

 確かに、

 睦月じゃぁストロングマンはムリよね」

しみじみと俺を見ながら五月はそう呟くと、

「うっ」

俺のハートに鋭く尖ったものが突き刺さったような感じがした。

しかし、五月そんな俺の心のうちを知らずに、

「このスーツに使われている素材だけど、

 人間の皮膚の構造を模して作られたモノって説明されたけど

 でも、なんだかこうして触ってみると、

 自分の肌みたいで気持ち悪いよ」

と言ってスーツの着心地の感想を言うとスーツに覆われている左腕をピシッと叩いた。



そんな五月を横目で見ながら一息ついた俺は

「じゃぁ俺はこれで上がるけど、

 五月はどうする?」

とこの後の予定を尋ねると、

「あっ

 実はさっきチーフに言われて

 この後のストロングマンをやる人が急用でこれなくなったので、

 あたし、連続で出ることになったの」

俺に手を合わせるようにして五月は予定が変更になったことを説明をすると、

「そうか、連続か…大変だな。

 とは言ってもその快適スーツじゃぁ苦にはならないか、

 じゃぁ、俺は予備校に行くから、

 がんばれよ」

五月に向かって俺は励ましの言葉をかけると、

「うんっ」

五月は笑顔で応えた。



とそのとき、

スンっ

「ん?」

控え室に漂ってきたある匂いに気づいた俺は鼻を盛んに動かすと、

「なぁ、なんかシンナーの匂いがしないか?」

と鼻に手を当てながら尋ねた。

「あぁ、これ?

 2階で改装工事の匂いじゃない?」

俺に続いて匂いに気づいた五月が上の方を指差しながらそう返事をすると、

「はぁ?

 改装工事ね…

 まったくそんな金があるのなら

 こっちのバイト代も弾んでもらいたいものだよ」

天井を見上げながら嫌味っぽく俺はそう言うと、

「あっ、そうだ、

 新しい店を見つけたんだ。
 
 今日はムリだけど、
 
 今度行ってみよう、なっ

 じゃお疲れ様」

腰を上げた俺はそう言いながら更衣室へと向かい、

その一方で、

「勉強、がんばるのよ」

俺の背中に向かって五月はそう言いながら、

ストロングマンの決めポーズを決めていた。

こうして、ストロングマン・ショウのバイトを引けた俺はその脚で予備校へと向かっていった。



ファンファンファン!!

ウーウーウー!!

それから約2時間後…

予備校の教室で講師の話を聞いていた俺の耳に

けたたましく鳴り響くサイレンの音が飛び込んでくると、

眼下の大通りをサイレンの音を響かせて消防車や救急車が走り抜けていった。

「なんだ?

 どこか火事か?」

消防車に気づいた俺は隣に座っている奴に話しかけると、

「さぁ?」

そいつは首を傾けながら返事をした。

そして、授業を終えて予備校の表に出たとき、

俺のポケットの中に入れてあった携帯電話が振動した。

「(電話?)あーぃ、睦月でーす」

その電話にのんびりとした口調で出ると、

「一大事だ、睦月!!」

という俺と五月双方の友人である三橋の声が響き渡った。

「あん?

 一大事って

 お前、財布でも落としたか?」

慌てる三橋に俺はそんな返事をすると、

間髪いれずに

『馬鹿野郎!!

 お前、井出とT遊園地でバイトしているだろう。

 いまし方、その遊園地で火事があって、

 井出が病院に搬送されたんだってよっ』

まるで爆音のような罵声と共に三橋は俺と五月がバイトをしていた遊園地で火事があり、

五月が病院に担ぎ込まれたことを伝えてきた。

「遊園地が火事?

 五月が搬送された?」

三橋からもたらされたその情報に

一瞬、俺の頭はハングアップするとしばらくの間その言葉を復唱し続けていた。

そして、

「五・月・が・火・事・に・遭・い・火・傷・で・入・院・し・た」

という情報に組み替えられた途端

「ぬわにぃ!!

 五月が火事で火傷をしたってぇ!!

 おいっ、それは本当なのか」

電話に噛り付くようにして俺は聞き返すと

「お前…反応鈍すぎだぞ…」

と呆れ気味の返事が返ってきた。



「え?

 ここに搬送されていない?」

電話を貰ってから約1時間後、

俺は三橋から教えてもらった病院にすっ飛んで行くと、

そこで思いがけない言葉を告げられていた。

「そんな…確かにここに搬送されたと…」

なおも窓口で食い下がると、

「あっひょっとして井出五月さんのご家族の方ですか?」

窓口の奥から別の事務員が出てくると俺に話しかけてきた。

「いやっ

 家族というか友人というか…」

その言葉に俺はやや複雑な返事をすると、

「えぇ、確かに井出さんはここに搬送されてきましたが、

 診察した先生の指示で専門の病院に搬送されましたが」

と俺に説明した。

「別のところ?」

「あっ、

 いま地図をお渡ししますね」

訝しがる俺に事務員はそう言うと手書きで地図と病院の名前を書き、

そして、俺に手渡してくれた。



「本当にここか?」

その地図を頼りに俺は五月が搬送されたという病院の場所へと向かっていくと、

市街地から離れた山中へと入り込んでいた。

そして、俺の目の前に現れたのは

夜の闇に浮かび上がるように聳え立つ妖しげな洋風の建物だった。

「月夜野整形クリニック…

 間違いは無いな…」

表札のような看板を幾度も見比べながら俺はそう呟くと、

「よっよしっ」

意を決して年代がかった扉を押した。



「井出さんのご家族の方でしょうか?」

受付の窓口に出てきたのは病院の雰囲気とは裏腹に美人で可愛い看護婦だった。

「いやっ、

 厳密に言うと、家族ではないのですが…

 まぁ友人と言いますか、

 その、五月と同居しているもんで…」

俺は頭を掻きながらそう説明をすると、

「あっ御友人の方ですね、

 畏まりました。

 では、先生のほうに案内します」

看護婦は俺にそう告げると事務室から出るなり、

「どうぞこちらです」

と俺を奥にある診察室へと案内した。



コツコツ

看護婦に案内されながら俺は薄暗い医院の廊下を歩いていく

この建物は建てられてから相当な時間が経っているのか、

窓枠一つ見ても年代を感じさせる装飾が施され、

俺はまるでタイムスリップをしたような感覚を味わっていた。

「…それにしても随分と古い建物ですね」

廊下を歩きながら俺は感心しながらそう言うと、

「えぇ…

 大正の末期に建てられたそうですよ」

俺の横を歩く看護婦はそう答えると微笑んだ。

「うわぁ…すっげー可愛い看護婦さんだな…

 しかも、胸は巨乳だし(くくくく)」

歩くたびにユッサユッサと揺れる看護婦の胸に俺は五月のことを忘れ、

すっかり目が釘付けになっていた、

そして、

「こんな胸でパイズリをしてもらうと気持ちいいだろうなぁ」

などどふざけた事を考えながら彼女の横顔に視線を移すと、

「頭から可愛く突き出した角もまた…

 え?

 つっ角?」

そのとき、俺は看護婦の頭に角が生えていることに気づいた。

しかも、それだけではなく、

白いナース服の下からはフリフリと尻尾のようなものが動き、

さらに、スカート下から覗く2本の足の先には黒い蹄が顔を出して、

歩くたびにカツンカツンと音を出していた。

「なっなんだ、この看護婦は?」

まるで、ウシ女とでも言えそうなその姿に俺の背筋に冷たいものが走ると、

「こちらです」

看護婦は「診察室」と書かれたドアの前に俺を案内し、

「先生、井出さんの友人の方をお連れしました」

と言いながら、

カチャ

っと診察室と書かれた部屋ドアを開けた。

サァ…

薄暗い廊下に診察室の明かりが差し込み俺の背後に影を作る。

ゴクリ…

俺は目の前に迫る四角い光の塊を見つめながら生唾を飲み込と、

「入ってもらいなさい」

と中から男性の声が響き渡った。



「さっどうぞ…」

「はっはい…」

俺は看護婦に促されるようにして診察室に足を踏み入れると、

キィ…

「井出さんの友人の方ですか?」

そう言いながら俺に背を向けていた白衣姿の医師が振り返る。

年齢は50前後だろうか

白髪交じりの髪に丸メガネをかけた医師はどこか温和な感じがしていた。

「はい、新堂睦月です」

医師の言葉に俺は思わず自分の名前を名乗ると、

「(あっそうだ)

 あっあのぅ…

 五月の容態は…」

医師を見た途端、俺は五月の事を思い出すとすぐに容態を尋ねた。

すると、

「あぁ…処置は終わったよ」

俺に質問に医師は言葉短めにそう返事をすると、

診察室が静まり返った。

「そっそんなに悪いんですか?」

医師の次の言葉が出てこないことに俺は悪い予感を感じながら聞き返すと、

「いやっ

 命には別状はないっ

 火災による有毒ガスを吸ったわけでもないし、

 大火傷をしているわけでもない。

 ただ…」

医師はそこまで言うと再び黙ってしまった。

「ただ…どうしたんです?」

医師が途中で言葉を止めたことに

俺は深刻な表情をしながら身を乗り出してしまうと、

「…うむ…」

そんな俺の姿に医師は大きく頷き、

キラッ

っと丸メガネを輝かせながら、

「これは私が説明するよりも直接会ったほうが良い、

 そのほうが彼女が今どのような状態に置かれているのか一目でわかる」

と言うと、腰を上げ、

「処置室」

と書かれたドアの方へと向って行くと、

カチャッ

っとドアを開けるなり、

「さぁ、どうぞ…」

と俺にこの部屋に入るように告げた。

「はっはいっ」

医師のその言葉に俺は導かれるように処置室と書かれたドアのところへと向かうと、

フッ!!

薄暗かった部屋の明かりが増光された。



「五月…」

緊張した面持ちで俺は覗き込むように処置室に入ると、

中に置かれている寝台の上に人影が寝かされている様子が目に入ってきた。

そして、それを見たとき、

「え?」

俺は思わずわが目を疑ってしまった。

そう、寝台に寝かされていたのは紛れも無いストロングマンだった。

「ストロングマン?

 え?」

寝台に寝かされているストロングマンの姿に俺に思考は一瞬止まると、

「さっ五月なのか?」

病院の寝台にストロングマンが寝かされていることが俺には理解できなかった。

「どうかしましたか?」

立ち止まった俺の背後から医師がそう尋ねてくると、

「いや?

 あっ
 
 あのぅ…これって一体?」

俺はストロングマンを指差しながら聞き返した。

すると、

「井出五月さんですよ、

 一応、麻酔で寝ていますが、
 
 命には別状ありません」

医師が俺にそう説明をすると、

「いや、それは分かりますが

 でも、なんで五月はストロングマンのスーツを着たまま寝かされているんですか?」

と医師にもっとも基本的な質問をすると、

キラッ

医師のメガネが再び光り、

「では素手で彼女の体を触ってみてもらえませんか?」

と俺に告げた。

「え?」

医師のその言葉に俺は驚くと、

「あっはいっ…」

ちょっと躊躇した後、

その言葉に従うようにそっとストロングマンの胸の上に手を置いた。

すると、

「!!!」

何かを感じ取った俺は驚くのと同時に

まるで触ってはいけないものに触れてしまったかのように慌てて手を引っ込めると、

「せっ先生っ

 こっこれは!!」

と目を丸く剥いて医師に尋ねた。

すると、

「お解かりになりましたか」

医師はそう俺に告げると、

コクリ

俺は無言で頷き、

「一体…何があったんです?」

医師に問いただした。

クイッ

俺の質問に医師はメガネを直し、

「簡単に言ってしまえば、

 五月さんの体は取り込まれたのです」

と答えた。

「取り込まれたて…いったい、どういう」

医師の発した”取り込まれた”と言う言葉の意味を俺は尋ねると、

「そうですね、

 五月さんが着ていたスーツといいますか着ぐるみに使われていた素材は

 人間の皮膚構造と極めてよく似せられた素材が使われていたした。

 それが、火事のときの熱と有毒ガスの影響で変質し、

 素材と五月さんの皮膚と融合してしまった…

 というより、素材が五月さんの体を取り込んでしまった。

 そのために素材は五月さんの新しい皮膚となり、
 
 または筋肉となって五月さんを炎の熱と有毒ガスから守ったのです」

と俺に火事の際に五月に何が起きたのかを説明した。

「融合ってそんな…

 せっ先生…
 
 五月を元の姿に戻すことは出来ないのですか」

昼間見たときよりも若干スマートな姿になったストロングマンを眺めながら

俺は五月の治療法を尋ねると、

医師は大きく首を横に振り、

「残念ながらがっちりと融合してしまった組織を元通りに分離することはとても出来ません」

と五月を元の姿に戻ることは絶望的であることを俺に告げる。

「じゃぁ…

 五月はずっとストロングマンとして生きていかなければならないのですか?」

医師の言葉に俺は食って掛かると、

「私が出来た処置は五月さんの生活に支障が無いように、

 目と鼻と口、

 そして、生殖や排泄周りを確保してあげることだけです。

 それ以上はムリです。」
 
と言いながら迫る俺を押しとどめた。

「そんなぁ

 五月が…」

医師の言葉に俺はガックリと項垂れた時、

「うっうん…」

寝台の上の五月がうめき声を上げた。

「!っ

 五月?」

五月の声に俺はハッとして顔を上げると、

「どうやら、目覚めたようですね」

五月を覗き込みながら医師はそう言う。

その途端。

『あっあれ?

 あたし…
 
 え?
 
 ここどこ?』

目を覚ました五月は周囲の様子をキョロキョロと伺いながらそんな声を上げた。

そして、

『そうだ、火事!!』

五月は火事のことを思い出したのか、そんな声をを上げるとガバッと起き上がった。

その様子に

「五月っ

 大丈夫だ。
 
 火事はもう鎮火したし、

 ここは病院だ」

俺は五月にそうそう説明をすると彼女を落ち着かせようとした。

その途端、

「あれ?

 睦月じゃない」
 
俺の姿た五月は自分の体のことに気づかないのかそんな声を上げると、

『あっじゃぁ助かったのね…

 あたし…』

と言いながら胸をなでおろした。



しかし…

『え?』

五月は胸に当てた自分の手が肌色でないことに気づくと、

小さく驚きの声を上げた。

そして、

『なにこれ?
 
 あたし…ストロングマンのスーツを着たままなの?』

と自分が未だにストロングマンのスーツを着たままだと判断しながらそんな声を上げると、

慌てて顔を隠す仕草をした。

ところが、

『なっなにこれぇぇぇ!!』

五月はいつもと感覚が違うことに驚くと、

『なんで、

 そんな…
 
 どうして、

 え?
 
 なんで触ったような感覚があるの?
 
 いやぁ…
 
 あたし裸なの?
 
 でも、
 
 え?
 
 ストロングマンのスーツを着ているよね。
 
 一体どうなっているの?』

と体が変身してしまったことに気づいていない五月はただ混乱するだけだった。

そして、そんな五月の様子を見ていた俺は覚悟を決めると、

「五月…実は…」

と五月が置かれている現状をこと細かく説明し、

『そんなぁぁぁ…』

五月の悲鳴が上がったのはそれからしばらくたってからのことだった。



あれから1週間が過ぎた。

五月は翌日には退院することが出来たが、

しかし、部屋に戻ってからずっと篭もったままだった。

無理も無い、

五月はストロングマンのスーツと自分の体が融合してしまい、

ストロングマンの姿で生きていかなければならないのだから…

しかも、首から下だけなら

まだ、若干の救いがあるのが、

五月の場合は顔のマスクまでも融合してしまったので、

かつての五月を面影はべて失い。

あるのは頭から足の先までストロングマンと化した身体だった。

「おいっ、

 五月っ
 
 何か食べないと身体に悪いぞ」

食事を持ってきた俺はそう五月に話しかけると、

『お願い、ほっといて!!』

俺の言葉に五月はそう返事をすると、

プィ

っと横を向いてしまった。

「(ヤレヤレ)}

そんな五月の姿に俺は頭を掻きながらため息をつくと、

「俺は、五月がどんな姿をしていても、

 五月は五月だと思うよ」

と話しかけると、

クルッ

五月は俺の方を見るなり、

『ウソ!』

と一言言う。

「ウソなんかじゃないよ」

『ウソよ

 そうやって、あたしのこの姿を見て楽しんでいるんでしょう?

 そうよ、そうに決まっているわ!』

五月は涙声になりながらそう言うと、

『あたし…

 もぅ、そんな姿じゃ生きていけない。
 
 死んでやる』

突然、そう叫ぶと立ち上がるなり、

ベランダへと向かっていった。

「馬鹿やめろ!!」

五月のその姿に驚いた俺が引き止めると、

『いやぁぁぁ!!

 死なせてぇ!!』

五月は取り乱しながら泣き叫んだ。

「ダメだダメだ!!」

俺は何度も叫んで、振り回すように五月を引き倒すと、

その途端、

『うわぁぁぁぁーー』

五月は突っ伏せながら泣き始めた。

「(ったくぅ)」

五月が人前で泣くなんて事はありえなかったのだが、

どうやら変身が五月の心をすこしづづ変えているようだった。

そして、延々と泣き続ける五月の姿に俺は次第に苛立ちを覚えて来ると、

「いい加減にしろ、五月!!」

っと怒鳴ると、

グィッ

っと五月の右腕を捻るようにして部屋の外へと連れ出し始めた。

『ちょちょっと…何をするのよっ』

俺に腕を引っ張られた五月は慌てた声を上げるが、

しかし、俺は有無も言わさず部屋からでると、

『やめて!!

 あたし、裸なのよ!!』

「いいから来いっ」

嫌がる五月をそのまま買い物客で賑わう通りにひきづり出していった。



「ん?なんだ?」」

通り過ぎる人や、買い物客達が一斉に五月の方を見る。

『いやぁぁぁ』

その様子に五月は悲鳴を上げたが、

けど、

「なんだ?

 何かのイベントか?」

「ママ見て…ストロングマンだよ」

「スーパーの客寄せか?」

道行く人たちは立ち尽くす五月に大して感心を持たずにそのまま通り過ぎて行く、

『………』

周囲の無反応ぶりに五月は呆然としていると、

ポン

俺はそんな五月の肩をたたき、

「なぁ、五月、

 いま素っ裸でここに立っているんだろう?

 でも、見てみろよ、
 
 誰もお前には関心を持たないんだよ」
 
と俺は道行く人たちを指差しながら囁いた。

「そんな…」

その光景に五月はそう呟くと、

俺は五月の肩を押しゆっくりと歩き始めた。



日常とまったく変わらない周囲の様子、

いつもと同じ流れで歩く人々、

その中をストロングマンの姿をした五月は歩いて行った。

そして、20分ほど歩いたところで、

『はぁはぁはぁ…』

五月の呼吸が次第に乱れ始めた。

「ん?どうした?」

五月の異変息づいた俺はそっと声を開けると、

『あぁ…

 あたし…
 
 感じてきちゃったの…』

五月は上気した声でそう訴えてきた。

「…感じて?そうか?」

五月の言葉に俺は聞き返すと、

『あっあたし…

 …裸で歩いているんだよね。

 素っ裸で歩いているんだよね。

 でも…
 
 でっでも』

五月はそこまで言うと押し黙ってしまった。

そして、五月の股間の方を見ると

そこにはあの医者によって切り開かれた

五月の局部が文字通り洪水になっていた。

「そうか、見られることに感じて気ちゃたんだね」

その様子を見た俺はそっと五月のそう告げると、

『ちっ違う!!』

と五月は力強く否定したが、

「五月…そこにいこう」

俺はそう言って公園にある公衆トイレを指差すと、

コクリ

五月は静かにうなづいた。



それから一ヵ月後…

「おらおらおら、どうした!

 ストロングマン!」

すっかり極悪宇宙人のノリの俺がそう叫びながら腰を振ると、
 
『いやっ

 あぁダメ、

 あぁん、感じちゃう!!』

俺のペニスを飲み込んだストロングマンこと五月は俺の眼下で喘ぎ声を上げていた。

このひと月で五月はストロングマンの姿になってしまったことを受け入れるようになったが、

しかし、その反動だろうか、俺無しには居られなくなり、

こうして毎晩、俺にペニスを挿入しないと居られなくなってしまったため、

俺にとってはこうして五月を犯すのがすっかり日課になっていた。

「しかし…

 まさか、俺がストロングマンを犯す羽目になるとはなぁ」

俺そう思いながら腰を振っていた。



おわり