風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラナイン」


作・風祭玲

Vol.057





ギャース!!!

時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

相次ぐ怪獣・宇宙人の襲撃に対応する為に組織された

国連の外部組織【地球防衛軍】の隊長として

俺は文字通り世界各地を飛び回り指揮を執っていた。

そして、いま、

突如地底から現れた”謎の怪獣”の攻撃によって

燃え上がる工業地帯に俺は立つと、

「怪獣め…」

と暴れ回る”謎の怪獣”を睨み付けた。



チャッ!

「わたしだ、

 全機攻撃開始!!」

俺のその一言で、

ギューン

上空で待機していた武装ヘリコプターが一斉に”謎の怪獣”へと群がり、

シュバババババ

地上からも戦車部隊による一斉射撃が始まった。

ズドドドドドン!

ゴゴゴゴゴン!!

怪獣の回りはたちまちもうもうとした煙に包まれ、

その姿を没していく。

「やったな」

モニターの画面を見ながら俺は勝利を確信するが、

しかし

グワォ

怪獣は大地も揺らす猛爆撃も屁とも思わず次々と武装ヘリを叩き落とし始めた。

「怯むなっ、撃てぇ」

謎の怪獣と間合いを取り始めたヘリに向かって俺は叫ぶが、

だが、味方の損害は次第に増す中、

ピーピーピー

携帯電話が鳴る。

「私だ…

 ん?
 
 そうか、例のものの準備は出来たのか…
 
 よし、すぐに発進させろ」

電話からの報告に俺は一縷の望みを掛けて指示をすると、

程なくして、

シュゴーン

響き渡る轟音と共にブーメランを思わせる巨大飛行機が大空に姿を見せ、

丁度俺の真上に飛来したとき、

ガシュン!

その飛行機から紫色をした物体が切り離される。

「勝った」

俺の周囲に巨大な影を作りながら接近してくる物体を見上げ、

俺は勝利を確信する。

ズドォォォン!!!!!

その直後、

大音響と共に砂埃を巻き上げてそれは着地すると、

コォォォォッ…

ガチョン!!

折り曲げた膝を伸ばし、

それはゆっくりと立ち上がった。

キラッ!

2万枚もの装甲板を日の光に輝かせるそれは、

巨大なロボットであった。

「ふっ、人類の英知を集めて完成させた

 ”汎用人型決戦兵器・初号機”

 いけぇ、クソ生意気な怪獣を叩きのめせ!!」

マイクに向かって俺は命令を下すと、

−ま゛−

初号機はそのように聞こえる起動音を上げ、

”謎の怪獣”に向かって突撃して行く。

そして、

ギャオ!

ガゴン!

怪獣とロボットとのし烈なバトルが始まった。

「いけぇ」

「そうだそうだ」

「そこでパンチだ!」

パワー対パワーのバトルに俺は興奮しながら声援を送る。

だが、

程なくして初号機は沈黙してしまった。

「おいっ、どうなってんだ」

初号機を管理している技術部に連絡をすると、

「申し訳ありません、。

 初期不良です、早急に回収してください」

と平謝りの返事が返ってきた。

「ばか野郎!!、

 慣らし運転ぐらいして出せ!!」

携帯電話に向かって俺は怒鳴ると

そのまま床に叩き付け、思いっきり踏み潰す。

グワッシャーン

”謎の怪獣”にとって

ただの邪魔物となってしまった初号機が呆気なくスクラップになると

もはや怪獣を抑止するものは存在しなかった。

「くっそう」

臍を噛みしめながら俺は移動発令所から飛び出すと、

留めてある武装ヘリを発進させた。

バババババ!!!

”UN”のマークを誇らしげに光らせながら武装ヘリは飛び上がると、

一路”謎の怪獣”へと突撃していく、

「お前の好き勝手にはさせん!!」

武装ヘリに搭載してある新開発の熱戦砲の照準を怪獣に合わせた時、


パ・パ・パァー


突然の閃光と共に銀色に朱色のストライプ模様が入った巨人が姿を現した。

「ウルトラ・ナイン」

マスコミが名づけた名前がいつのまにか奴の名前となっていた。

「やったぁ」

「がんばれウルトラナイン」

「怪獣をやっつけろっ」

隊員達の歓喜の声がスピーカーから響く



「チッ、出やがったなぁ」

俺は奴の出現に喜ぶ隊員達とは裏腹に奴を睨み付けると

「コラッ、持ち場を離れるなっ」

「奴のことは放っておいて仕事をしろ」

っと無線機を通じて怒鳴るが、

隊員達はすでに持ち場を離れてしまったらしく

誰一人俺の話を聞く奴はいなかった。

”へあっ”

奴は嫌味なほどのマッチョな肉体を俺に見せつけた後

怪獣に向かって飛び掛っていく。

どぉぉぉん

ずしぃぃぃん

ずごぉぉん

この国の生産拠点の一つである工業地帯は

たちまち奴と怪獣の格闘場・リングと化し、

肉弾戦の地響きが機体を揺らした。

どしぃんんんん

ついに攻撃を受けても屁とも感じなかった怪獣がしりもちを付いた。

見た目でも怪獣は弱ってきている。

しかし、

ピコン!

ピコン!

同時に奴の胸にあるカラータイマーも赤く点滅を始めていた。

「時間がないな」

俺を見た俺が呟いたそのとき、

ガブリ

怪獣が奴の左腕に噛みついた。

「野郎!!」

俺は思わず武装ヘリのトリガーを押した。

すると、

シュピー!

ヘリの両翼に取り付けられた熱線砲より発せられた光の帯が

怪獣の後頭部を直撃した。

ギャァァァ

頭から煙を悲鳴を上げ”謎の怪獣”悶え打ち始める。

「そうか奴の弱点は後頭部だったのか」

それを見た俺は怪獣に止めを刺すべく

機体を立て直そうとしたとき

怪獣から間合いを取った奴の体が光り輝いた。

「ナイン・スーパーフラッシュ」

俺がそのセリフを言った瞬間、

”謎の怪獣”を構成していた物質は分子へと還っていた。

しかし、

ドムッ

怪獣消滅と同時に衝撃波が発生すると

俺のヘリに向かって襲いかかってきた。

「うわっ」

急速に迫ってくる衝撃波から逃れようと、

機体を直撃しようとした瞬間

ふっと黒い影が機体を覆って衝撃波の盾になった。

「ちっ余計なことをしやがって」

俺はコックピットから奴の顔を見る。

一瞬目が合ったとき、なぜか奴は俺から顔を背けた。

「なんだぁ?」

やがて爆発の影響が無くなると、

しゅわっち

と言う掛け声とともに奴はいずこともなく飛び去っていった。



「隊長、お怪我はありませんでしたか」

無事着地したヘリから俺が降りてくると即座に隊員達が集まってくる。

「あぁ、俺は大丈夫だ」

「良かった」

「お疲れ様です」

「うむ」

隊員達からの喜びの声を受けながら、

俺は悠然と歩き、指揮車へと戻っていった。

そして、基地に帰投した後、

調査部より送られてきた報告書に目を通す。



「今日はご苦労だったな、

 幸い怪我人が数名出た程度ですんだそうだ」

「おぉ」

俺のその一言で隊員達からよめきが広がり、

「よしっ、この調子で次もがんばろう!」

と声が上がるが、

「これも、ウルトラ・ナインの活躍のおかげですね」

と言う声がした。

その発言に思わずムッとなった俺は

「ばか野郎っ、奴の活躍を喜ぶ奴があるか、

 いいか、奴が活躍すればするほど

 俺達は役立たずのレッテルを貼られ

 仕舞いにはリストラされるんだぞ」

 そうならないために次の怪獣は絶対に俺達の手で倒す。
 
 いいなっ」

と檄を飛ばすし、俺は隊長室へと向かっていった。

「お疲れ様です」

部屋に入ると部下の溝口が書類の束を持って俺を待っていた。

「それは?」

「各省庁、警察、消防etcからの書類です」

「そうか(はぁ)」

その返事に俺はため息を吐くと

「分かった机の上においてくれ」

とひとこと言い、

どっ、

と自分の椅子にもたれかかった。

「ったくぅ………」

俺は机の上に堆く積み上げられた書類を睨み付けた。



後始末をようやく終え本部の玄関から出たとき

パシャパシャパシャ

と数本のフラッシュが焚かれるのと同時に

待ちかまえていた報道陣が一斉に俺を取り囲むと、

「フジタ隊長、

 また今回もウルトラ・ナインに助けられましたが、

 何かご感想は?」

「とうとう98戦98敗となってしまいましたが、

 責任はどうお感じで」

「この件について総理にはなんと報告を?」

「今回の事態を受けて、

 緊急安全保障理事会が開かれているそうですが、

 これについて如何思われますか?」

と矢継ぎ早に質問攻勢をかけてきた。

「ノーコメント!」

向けられたマイクに向かって俺はそう怒鳴ると

自分のクルマへと乗り込み、

なおも群がるマスコミを蹴散らすようにして

非常体制が解除された街へと車を進めた。

「まったく、どいつもこいつも

 ”ウルトラナイン”
 
 ”ウルトラナイン”
 
 と騒ぎおってぇ」

「そんなに奴が頼りになるのなら、

 全部奴に任せておけばいいじゃないか」

ハンドルを握りながら思わず文句が口に出る。

やがて25年ローンで購入した

築2年木造モルタル3LDKの我が家が見えてくる。

このときが一番心が安まる。



「ただいまぁ」

「おかえりなさい」

「大変だったでしょう」

帰宅すると妻のユキコが出迎えてくれた。

「あぁ、疲れたわ…」

「お風呂が沸いていますから、先に入ってください」

「そうする」

ユキコの言葉に俺はそう返事をしたその時、

彼女の左手に包帯が巻かれているのに気づいた。

「ユキコ、どうしたんだ、

 その怪我は」

包帯を指さしながら俺が訊ねると

「えぇ、今日の怪獣騒ぎの時、

 ケンタといっしょに避難する際にちょっと」

「そうか、医者には行ったのか?」

「えぇ」

「悪かったな、俺が役に立たないで」

と俺はねぎらうと

「あなた、何を言っているんです。」

「あなたが頑張っているから

 あたし達がこうして暮らしていけるんですよ」

「あぁ、でもなぁ

 毎回毎回、

 ウルトラナインに助けられる俺達の存在意義って

 何なんだろうなぁ…

 ってことを考えることがあるんだ」

そんなユキコに向かって俺はふと本音を漏らした。

「そんなぁ

 ウルトラナインって邪魔ですか?」

「え?」

「ウルトラナインって、

 そんなに邪魔なんですか?」

「何を言っているんだ、お前?」

突然のユキコの言葉に俺がキョトンとした顔で言うと

「あっ、いえ、

 何でもありません」

とユキコは返事をし、

さっとキッチンに行ってしまった。

「なんだ?」



翌日、俺は市ヶ谷の国防省に呼び出された。

国家鎮守の森が見える執務室に行くと、

そこにはトーゴ防相とオオブチ首相が俺を待っていた。

先に口を開いたのはトーゴ防相だった。

「フジタ君、とうとう98敗目だそうだな」

「はっ、申し訳ありません」

「武装ヘリに戦車、そしてロボット、

 いったいいくらかければ勝てるのかね」

「次は絶対に勝ちます」

「そのセリフ、何度も聞いたよ」

「いえ、次ぎこそ絶対に勝ちます」

すると、俺とトーゴ防相の話を聞いていたオオブチ首相が口を開き、

「フジタ君、

 そう言えば、あの巨人…

 ウルトラナインって言ったっけ、

 其の物の正体は分かったのかね」

と口を挟んだ。

「いえ、HCIAに調べさせてますが未だに」

首相の質問にトーゴ防相がそう答えると

「そうか、

 実は、先ほどアメリカの大統領から電話があってな、

 もしも、また防衛軍が負けるようなことがあれば…

 そのウルトラナインをスカウトした方が安くつくんじゃないか、
 
 と提案してきたのだよ」

とオオブチ首相は俺とトーゴ防相にアメリカから

ウルトラナインについて提案があったことを話した。

「いえ、我々も精一杯努力していますので」

「まぁ、安全保障理事会も紛糾していると言うし、

 あとは世論がどう判断するかだがな」

首相はそう言いながら俺をジロリと見ると

「フジタ君と言ったね」

「はい」

「次に負けるようなことがあれば、

 防衛軍の組織変更……

 と言うことを肝に銘じて仕事に励んでくれたまえ」

と言うと

「じゃぁ、これから国連本部に行くので私はこれで失礼するよ」

そう言い残して部屋から出ていった。

「ふぅぅぅ」

首相が出ていった後、トーゴ防相は自分の椅子に座ると

「と言うことだ、フジタ君、

 次は絶対に勝ってくれ、
 
 我が国が多額の資金を拠出している地球防衛軍の名誉の為にもな」

とつけ加えた。



ビービービー

警報の音とともに

「臨海地区に”謎の宇宙人”が出現、

 第一種警戒警報が発令されました」

と言う放送が防衛省館内に響いた。

「では、失礼します。」

俺は執務室を辞するとすぐに防衛軍本部へと直行した。



「おいっ、現状はどうなっている」

「はっ、”謎の宇宙人”は現在、臨海地区にて佇んでいます」

「移動はしていないのか?」

「はい」

「ようし、今のうちなら叩けるな」

「はぁ」

「決戦兵器の2番目は使えるのか?」

「”弐号機”ですか?」

「そうだ」

「あと30分で発進できます」

「よし、準備が出来次第”謎の宇宙人”の相手をさせろ」

矢継ぎ早に俺は指示を出すと、

別の部下に

「直ぐに首相官邸に連絡をして、

 D3爆弾の使用許可を取れ」

と指示を出した。

「D3ですかぁ?」

「そうだ」

「いいか、

 今回の作戦は我々の存亡を賭けた作戦だ、
 
 どんな手を打っても勝つ、
 
 いいな」

俺はそういうと、

技術部に電話をかけ

「俺だ、決戦兵器の3番目を準備しといいてくれ」

と言うと電話を切った。

「どんな言をしても勝つ」

俺はモニターに映し出している”謎の宇宙人”を見てつぶやいた。



ユキコは”謎の宇宙人”が佇んでいる臨海部の一角にいた。

「あれは、春丹星人ね」

手にした銀河怪獣・宇宙人大百科のページをめくりながら

ユキコは宇宙人の正体とその対策を調べていた。

「えぇっと、

 倒し方は…
 
 ”1、すばしっこいので、まず目を回させて、行動を止めた後に……」

と対処方法をメモにかき出していた。

やがて

ババババ!!!

という音とともに防衛軍の武装ヘリが上空を飛来し始めた。

そして、ズシン、ズシンという音とともに、

赤色をした巨大決戦兵器が姿をあらわした。

対峙する宇宙人と決戦兵器


「トキオさんのヘリがいない」

ユキコは上空を舞っている武装ヘリに夫の機体が無いことを不審に思った。


ふぉふぉふぉふぉふぉ

不気味な声を上げながら宇宙人が動き始めた。

−ま゛−

また同時にロボットは昨日同様の起動音を上げると宇宙人と戦い始める。

しかし、銀河怪獣・宇宙人大百科に書かれている通り宇宙人の動きはすばやく、

決戦兵器はなかなか宇宙人を捕まえることは出来なかった。

やがて、発砲許可が下りたらしく

武装ヘリから熱戦砲が宇宙人めがけて発射された。

シュピー

どぉぉぉん

爆発と同時にあたりを衝撃波が襲う

ユキコは手にしたカプセルを高く挙げようとしたとき

ふと、昨日の夫のセリフが頭を過ぎった。

「ダメ、

 あたしがいま出ていったら、

 トキオさんはリストラされてしまう」

彼女が躊躇しているとき

ぱぁぁぁん

流れ弾がユキコの近くで炸裂した。

キャッ

衝撃で近くの茂みに飛ばされたユキコはそこで気を失ってしまった。



ズズン

どかぁぁぁん

「よぉし、奴はまだ現れていないな」

俺は決戦兵器・零号機のコックピットに座り戦況を見ていた。

ピ・ピ・ピ

通信機の呼び出し音が鳴る

画面を切り替えると、

「おう、俺だ、D3の準備は出来たか」

「はい、準備は出来ましたが、本当にこれでいいんですか?」

「あぁ、構わない」

「あいつの気を決戦兵器とファイター達に向かせている時に

 こいつで抱きつく」

「コイツから俺が脱出した後で、

 D3を炸裂させればあいつは一巻の終わりだ」

俺は自分の計画に自信を持って答えた。

「しかし、なにも隊長ご自身から行かなくても…」

「弐号機の様な自律システムや遠隔操作でも良いのでは」

「ダメだ、機械に任せるとロクなことならん、俺が直接やる」

心配する相手に俺はそう言うとコックピットの扉を閉じた。

「御武運をお祈りします」

「おう、出してくれ」

程なくしてガクンとGがかかり、

俺が搭乗した紅い色の決戦兵器・零号機は

背中にD3爆弾を背負って地上へと飛び出していった。

「弐号機よ、あいつの気を思いっきり引いてくれよ」

俺は宇宙人に気付かれないよう零号機を操縦して近づいていく、

そして、宇宙人の一瞬の隙を突くと

ガシン

思いっきり宇宙人に抱き着いた。

「やったぁ」

喜ぶのもつかの間

俺は急いでD3爆弾の起爆スイッチを押すと

コックピットから脱出を始めた。

そして外に出た時に重大な問題に気付いた。

そう、この20mの高さからどうやって降りるのか考えていなかった。

「しまった」

遙か下に見える地上を見ながら俺はしばし呆然としていた。



「ううん」

ユキコが目を覚ますとあたりの様子は一変していた。

あたり一帯には墜落したヘリの残骸やら何だかんだでごみの山を化し

そして、目の前には決戦兵器に抱きつかれ動けなくなっていた宇宙人がいた

ふぉぉぉぉぉぉぉぉ

宇宙人は必死になって藻掻くが決戦兵器はガンとして動かなかった。

「うわぁぁ、すごい

 今回は初めて防衛軍の勝ちかしら」

しかし、感心して眺めているユキコの目に

緑色をした決戦兵器の上にいるトキオの姿が映った。

「あっあなた、なんであんな所に」

そして決戦兵器の背中で稼動を始めているD3爆弾に気付いた。

「いけない」

ユキコは手にしたカプセルを高く挙げた

すると強烈な光とともに彼女が着ていた衣服は消滅し、

その身体はぐんぐんと大きくなり始める。

「くうううう」

ユキコは変身の苦しみに耐える

身体にトリコロールカラーの模様が浮き出す。

女性の身体は見る見る男性の身体へと変化し、

そして筋肉が盛り上がり始めた。

グググググ

頭からは髪の毛が消え、

顔は精悍なマスクへと変化した。

筋肉で盛り上がった胸にカラータイマーが現れると

じゅわ

そう、ユキコはウルトラナインへと変身したのであった。



「ウルトラナイン、出やがったな」

俺は光と共に間近に現れた奴を見ると

「残念だったな、こいつは俺が倒したぜ」

といった瞬間

カッ

D3爆弾が炸裂した。

「くぅぅぅ、俺もこれまでか」

光に包まれところで俺の記憶は途切れた。


ずどぉぉぉぉん


D3爆弾の爆発と共に臨海地区に巨大な光の玉が出現すると

宇宙人や決戦兵器を飲み込んで行った。

「やったぁ」

それをモニター画面で見ていた防衛軍本部は歓喜の声で満ち溢れる。

「よくぞやってくれた、フジタ君」

トーゴ防相はあふれる涙をハンカチで盛んに拭っていた。

「あのぉ、そのフジタ隊長って誰が救出したんですか?」

「はぁ?」

この一人の隊員の発言に歓喜の声であふれた本部司令室はたちまち大混乱に陥った。



「……なた……あなた」

「ん?」

「誰だ俺を呼ぶのは」

「あなた、大丈夫?」

俺は盛んに呼びかける声にうっすらと目を開けた。

「ここはどこだ?」

あたりを見回すと、俺は巨大な手の中にいるようだった。

「あなた…」

「ん、ユキコか?」

呼びかける声に振り向くと目の前に巨大な顔が聳え立っていた。

「うわわわわわわ」

俺は思わず大声を上げると、その顔をしげしげと眺めた。

「ウルトラナイン?」

そう、俺は奴の手のひらの上にいた。

「良かった無事で」

再び聞こえるユキコの声に

「ユキコ?、

 どこにいるんだ?、
 
 出て来いよ」

と俺はユキコを探すと、

「あたしはここです、あなたの目の前にいます」

「はぁ?」

その声に俺は目の前のウルトラナインを眺めた。

???

しばし考えた後

「まさか、ウルトラナイン、

 お前、ユキ…」

「はい、ユキコです」

「………ん…なにぃ」

俺は大声を上げて驚いた。

「ユキコ………どうして」

「あっ、いま安全なところに移動していますので、

 ついたら降ろしますね」

と言ってしばらくすると

ズシン

と言う音がするの同時に

俺はゆっくりと地上に降ろされた。

唖然として聳え立つ奴の姿を眺めていると

しゅるるるるるるるる

と奴・ウルトラナインは縮みはじめ、

やがて一人の女性の姿へと変わっていった。

それは紛れも無く俺の女房であるユキコだった。

「あなた」

ユキコは走って俺のところに来た

「良かった、無事で」

「おっおう」

すると、ユキコはポロポロを涙を流し始めると

「ごめんなさい」

「あたしが余計なことをしたために、

 あなたをあんな危険な目に合わせてしまって、

 本当にごめんなさい」

と泣きながら謝り出した。

俺はオロオロしながら

「いっいやいいんだよ、ユキコ、

 俺も頭に血が上ってしまって無謀なことをしてしまった。

 お前に助けてもらえなかったら、
 
 俺は間違いなくあの世行きだった。

 だから、なっ、泣くな」

と懸命になだめはじめる。

クスンクスン

ユキコがようやく落ち着いた頃を見計らって

「なぁ、ユキコ…お前…

 なんでウルトラナインなんかになってたんだ?」

と尋ねた。

するとユキコは

「黙っててごめんなさい

 実は、とある宇宙人…
 
 いえ、宇宙から地球にやってきた惑星刑事に頼まれたのです」

「宇宙人?

 惑星刑事?」

「えぇ、T24星雲とか言うところからやってきたと言ってました」

「T24星雲ねぇ」

「ほら、2年ほど前にうちの近所に隕石が落ちたことがあったでしょう?」

「ん?……あぁあれか」

そう2年ほど前に近所の公園の池に隕石が落下した事故があった。

その一報を防衛軍司令部で聞いたとき俺は真っ先に駆けつけただっけ

「実はあたし、その時の爆発に巻き込まれてしまったんです」

「え?」

「でも、お前はあの時、隕石から離れていて大丈夫だったって」

「ううん」

「本当は隕石の直撃を受けてしまったの」

「なに」

「で、そのとき”あたし死ぬんだわ”と覚悟していたら、

 惑星刑事が現れて、

 ”すまないことをした、

  私は銀河の治安を守るギャラクシーポリスの惑星刑事。

  実は銀河宇宙の平和を乱す、宇宙マフィア・ジャッドンを追っているのだが、

  ついさきほど、この太陽系の近所で銃撃戦があり、

  その流れ弾が地球に、そう、キミがいたところに落ちてしまったのだ。

  爆発に巻き込まれてしまったキミには済まないと思う。

  一応、代わりの身体を作るからそれで許してくれ”

 って謝ってきたんです」

「はぁ…」

「そして、あたしに新しい体を作るついでに

 手薄になってしまう地球近辺の防衛も頼むって依頼してきたの

 それで彼が用意してきたのが、

 あのウルトラナインの身体なんです。

 あたしは普通の地球人の身体でなくてはイヤと言って断ったんだけど、

 でも、その惑星刑事の力では地球人の体は出来なくって…

 ウルトラナインの能力を使って地球人に変身する。
 
 と言うことで了承してくれないか、と頼んだ来たんです。

 あたしも、頭を下げている惑星刑事を見ているうちに不憫に思ってしまって…

 結局、それで手を打ってしまって」

「ウルトラナインになったのか」

「はい」

「でも、そのときに怪獣退治用の銀河怪獣大百科事典を

 おまけにもらったので、怪獣退治は楽でした」

と言うとユキコは俺に一冊の本を見せた。

パラパラとその本を捲っていくと、

銀河周辺で活動している怪獣や宇宙人のすべてが網羅しているらしく、

また、それぞれの対処法も丁寧に書いてある本だった。

「えぇっとさっきのヤツは”春丹星人”で、弱点は………

 はぁ?

 こんなんでいいのか?」

本を捲りながら俺はあきれ顔でユキコに尋ねると、

コクンとユキコは頷く。

「なんだ、

 これならD3を使わなくても楽勝で倒せたじゃないか、

 こんないい物があるなら
 
 もっと早く見せて欲しかったなぁ」

俺がぶつぶつ文句を言っていると

「あたしも最初はウルトラナインに変身するのはイヤだったのよ」

とユキコは呟いた。

「え?」

「だってみんなに裸を見せるんでしょう?」

「まっまぁそうだなぁ」

「それが恥ずかしくって恥ずかしくって

 でも、あなたの役に立つと思って頑張ってきたんだけど、

 それが、あなたの立場を危うくしていたなんて」

しゅんとしているユキコを見ていると、

俺は自分の悩みがばかばかしくなってきた。

「それならそうと、

 なんで早く言ってくれなかったんだ」

「え?」

「ウルトラナインの正体がお前なら、

 俺は怪獣退治の協力するよ」

「でも」

「いいさ、防衛軍はどうなるかは判らないけど、

 でも、ウルトラナインと組めば全て上手くいくはずさ」

「本当にいいの?」

「あぁ、俺のことなら大丈夫さ、

 リストラなんかにはならないぞ」

俺はそう言うとユキコの肩をポンと叩いた。

「よろしくな、ウルトラナイン」



………ニュータウンに”謎の怪獣”が出現、

地球防衛軍は直ちに出動してください。

その放送が流れるのと同時に

俺は武装ヘリのコックピットに座り部下に次々と指示を下していた。

そして最後に

「全機発進後、上空でウルトラナインと合流、

 その後、ニュータウンに向かう」

と指示を出す。

「あれ?

 隊長って、あれほどウルトラナインを目の敵にしていたのに、

 どうしたんだろう」

「さぁな」

「何か考えが合ってのことだろう」

隊員達は俺の心変わりにとまどいを見せていた。

やがて、

シューン

っと空の彼方よりウルトラナインが姿を現すと

「よし、来たか行くぞユキコ」

「えぇ、あなた」

俺達は”謎の怪獣”が待つニュータウンへ向かっていった。



おわり