風祭文庫・人魚変身の館






「海賊の秘宝」


作・風祭玲

Vol.1063






見渡す限りの大海原。

その大海原をマストに掲げた帆をはらませ、

俺が乗っている帆船(名前はややこしいので忘れた)は

白波を上げて進んでいく。

目指すは海賊たちが財宝を隠したとされる宝の島。

まぁこの手の噂話はいくらでも転がっているモノだけど、

ひょんなことから手に入れた地図は信憑性が高いらしく、

旧知の仲であるこの船の”頭”に相談したところ、

そこに向かうこととなったわけである。



さて、前置きはその辺にして、

港を出てから2ヵ月、

船は”とある島”にたどり着いていた。

島の中央にそびえ、

天に向かって突き出した槍のごとく鋭い頂を持つ山は、

この島が只の島ではないことを物語っている。

そして、地図が示す入り江で俺達は満月を待っていた。

 満月の光が島の入り江を満たすとき、

 歌声とともに閉ざされた道が開かれる。

地図の付録として付けられていた小冊子の冒頭ページには

その一文が添えられていた。

まもなく満月が顔を出す。

船は指定された入り江に碇を下ろし、

その時がくるのをじっと待っていると、

来た!

水平線から上ってきた満月の光が

静かに入り江を照らし始める。

ゴクリ

皆は息を殺し、

じっと耳を済ませると、

♪〜

何処からか女性の歌声が響いてきた。

「おぉ!」

思わず皆の口から感嘆の声が上がるが、

「しっ!」

スグに”頭”がそれを制すると、

次に起こるべく変化を待った。



ザザザザ…

入り江を満たしていた海水が音を立てて引き始めたのは、

それから小一時間後。

そして、潮が引いていくにつれて、

入り江の奥でポッカリと口をあける洞窟が姿を見せたのだ。

拍手したくなる気持ちを抑えて”頭”を見ると、

”頭”は俺を見ながら頷き、

静かに手を上げる。

バシャッ

上陸用の小船が船から下ろされると、

見張りを残し漕ぎ出していく。

もはや地図を疑うものは誰もいない。

小船は洞窟へと入っていくと、

歌はまるで俺達を招くように奥から響いてくる。

その歌に導かれながら、

俺達は船で行ける所まで向かい、

岩場に阻まれ船が進めなくなると、

歩いて洞窟内を進んでいく。



ただし、

そこからの先の行程は一筋縄ではないのはいつもの事。

シャァァァァァ!!!!

「うわぁぁ、

 何だこいつ!」

岩陰から姿をせた不気味な獣…

いや、獣ではない。

魚の頭を持ち二本足で歩く化け物の姿は

魚人と言う言葉がピタリと当てはまる姿だ。

ただし、それは1匹だけではなく、

何匹も姿を見せると俺達に向けて牙を剥き出しにして

威嚇を始めのである。

だが、

「怯むなっ

 やってしまえ」

「おぉ!」

”頭”の命令一つで、

屈強な海の男達は魚人たちと戦い始めると、

瞬く間にそれらを殲滅し道を作っていく。

まったく頼もしい限りである。

地図を頼りに奥へと奥へと進んでいく俺達は、

ある時は殺人トラップ、

ある時は人知の及ばない化け物と出会うごとに仲間の数が減っていくが

それにも負けずに洞窟内を進んでいく、

そして、ついに巨大な石造りの扉が姿を見せたのであった。



古代文字で終着を示すものであるらしい。

「決戦場」

と書かれている扉を見上げながら、

俺は力の限り扉を押して見せるがびくともしない。

間違いなくこの扉の先には

海賊たちの財宝が眠っているはずだ。

「頭ぁ」

「はっ早くあけましょう」

はやる気持ちを抑えながら男達は声を上げると、

「慌てるな!」

その一言で皆を黙らせた”頭”は一本の鍵を取り出して見せる。

どんな仕掛けも必ずあける事が出来る魔法の鍵、

”頭”の秘密兵器である。

なんでも、困っていた”白い着物を着た女性”を

通りすがりの”頭”が助けたところ、

船十艘分の金貨でその鍵を売ってくれたとのこと、



手元の灯りを頼りに、

”頭”はその鍵を扉の穴へと差し込んで見せる。

ガリガリガリ

ガリガリ

ガリガリガリ

”頭”の太い腕が右へ左へと動き、

程なくして、

ガツンッ!

と大きな音が響き渡ると、

ミシッ

ピタリと閉じられていた扉に切れ目が入った。

「おぉ!」

その途端、男達から感嘆の声が上がると

「よしっ、

 ここからは俺に任せろ」

の声と共に力自慢の男がその扉へと向かっていく。



「ふんっ」

ググググッ

男の肩や背中の筋肉が掛け声と共に盛り上げって行くと、

ミシミシミシ

扉は軋むような音を上げながら、

左右に別れ開いていく、

そして、

扉が開いていくにつれ、

光が向こう側から差し込んでくる。

ゴクリ

誰もが固唾を呑んで見守る中、

「…おぉ…」

俺達の前に光り輝く回廊が姿を見せたのであった。



「これは…」

青い月の光に照らされる回廊の周りはまさに海の中であり、

まるで見えない力で水をくりぬかれた様だった。

そして、はるかに高いところにある水面からの光が

回廊を照らしているのである。

「すごい…」

こんな仕掛けを見たこがない俺にとっては、

感心しながら回廊を皆と共に進んでいくと、

回廊は海の中に沈む神殿と思えしき建物へと続き、

これまでの魚人たちの襲撃とは打って変わって、

すんなりと神殿の大広間へと至ったのであった。

一跨ぎをするにはちょっと苦しい幅の水路が

幾何学的に張り巡らされ、

揺らめく光が天井から照らし出される大広間の様子に、

俺は目を見張るが、

それ以上に皆を驚かせたのは、

広間の中央で聳え立つ黄金に輝く財宝の山だった。



「やったぁ!」

「すげーっ」

「財宝だぁ!」

それを見た男達から一斉に声が上がると、

水路を飛び越えつつ我先にと財宝に向かって走り始める。

「おいっ、

 慌てるな」

そんな彼らを”頭”が止めようとしたとき、

「うがぁ!」

先陣を切っていた男が悲鳴を上げて倒れこんだ。

「やはり、

 まだ魚人がいたのかっ」

それを見た俺も短剣に手を添えて駆けつけようとすると、

『いやぁぁぁぁ!!』

意外にも女性の悲鳴が響き渡ったのである。

「え?

 女の声?」

思いがけないその声に俺は驚いていると、

「おいっ、

 人魚だ!」

「人魚が居たぞ」

と男達の声。

「人魚?」

その声に俺は半信半疑ながら財宝の前に向かっていくと、

『こっ来ないで!』

と声を上げる半女半魚の人魚が、

無理やり水路から引き上げられると、

護身用の武器だろうか、

長い髪を振り乱しながら棒の様なものを俺達に振り向ける。



「人魚ってやはり居たんだ」

御伽噺の世界だけの存在と思っていた人魚を

目の当たりにして俺はそう思っていると、

人魚はその顔をわずかに嬉しそうな表情をしてみせる。

「?」

その意味がわからずに俺は人魚を見ると、

俺達を誘った歌声はこの人魚が歌っていたのではと思うと、

「あの歌は君が歌ったのか?」

と問い尋ねる。

しかし、

『……』

人魚はその問いには答えずに、

俺を睨み付けると、

「あははっ

 それで威嚇しているつもりか」

男達の一人が笑い声を上げながら人魚に近づいていく。

そして、彼女が構えている棒の先端を握り締めると、

「おらっ」

の掛け声と共にそれを捻り上げて取り上げ、

放り投げてしまったのだ。

『あぁ…』

武器をなくしてしまった人魚は怯えるようにして、

その身を後ろに下げると、

「へへっ、

 なかなかの美人さんだね」

と棒を取り上げた男は人魚の顔を掴み上げ、

口付けをしてみせる。

「おぉ!」

それを見た男達から声が上がると、

「おらっ」

口付けをした男は人魚を担ぎ上げ、

鱗が覆い魚の姿をしている人魚の下半身に手をすべられていく、

そして、

「なんだお前、

 人様と同じ穴がちゃんとあるじゃないか」

そう囁きながら、

指をあるところに押し込み、

グチュッ

と鳴らし見せる。

『痛いっ』

指を入れられた痛みだろうか、

人魚は顔をしかめると、

「なにっ」

それを聞いた男達の顔が途端に変わり、

担ぎ上げられた人魚は女性に飢えていた男たちによって

次々と嬲られ陵辱されてしまうと、

精液まみれの無残な姿にされてしまったのであった。



「あーぁ、

 船乗りは荒いからなぁ、

 人魚といっても容赦はないか」

穴と言う穴から精液を吹き上げて白目を剥く人魚に哀れみを感じていると、

溜まっていたモノを出し終えた男達はスッキリした表情で既に財宝に群がり、

アレコレを頂いていくものを品定めしていた。

そして、俺も彼らに混じって財宝を見ていくと、

「ん?」

淡い紫色に輝く玉が目に入った。

「へぇ?」

その玉が気になった俺は

それを手に取ろうと手を伸ばしたとき、

『だめっ、

 それに触らないで』

気を失っていたはずの人魚が這いずりながら俺の足元にくると、

俺の脚を掴みながら声を上げる。

「何だ?」

不愉快そうに俺は人魚を見下ろすと、

『手を離せっ

 それはお前が触れるものではない』

の声を上げて人魚は尾びれを叩くと、

俺に飛び掛り、

突き飛ばして玉を奪うと、

取られまいと両手で抱きしめて体中でかばってみせたのであった。

「なにそれ?」

他の者達が財宝を奪っていくことには何も言わず、

俺が財宝に手を伸ばした途端、

突き飛ばして来たことを不愉快に感じた俺は、

人魚に馬鹿にされたと感じると、

無性に腹が立ってきた。

そして、

カラン…

財宝の中から

【756号記念】

と書かれた黄金に輝くのホームランバットを取り出すと、

無言で人魚に迫っていく、

「…それをよこせ…」

『…取れるものなら取ってみろ…』

まさに売り言葉に買い言葉である。

「そうか」

その言葉を俺は呟くと、

俺は人魚の顔めがけてバットを振り下ろした。



はぁ

はぁ

はぁ

「おいっ、もぅやめろ」

その声と共に俺は羽交い絞めにされると、

カラン

血糊がつき無残に歪んだ黄金のホームランバットは俺の足元に落ちていく。

「頭ぁ、

 人魚、死んじまっていますよ」

「あーぁ、

 可愛い娘だったのに」

「ここまでしなくても」

「もぅちょっと楽しみたかったな」

血まみれになって絶命している人魚をこわごわ覗き込みなが

男達はそう言い合うと、

ポンッ

”頭”は俺の肩を叩き、

「お前ら、

 人魚の血肉は不老不死の妙薬だと聞くぞ」

と声を上げた。

すると、

「本当ですか?」

それを聞いた皆の目が一斉に俺と頭の方を向く。

その視線に頭は静かに頷いて見せると、

「うおぉぉぉぉぉ」

「それは俺のものだぁ」

財宝を身につけた男達は俺が殺した人魚に一斉に群がり、

短剣を翳して人魚の肉を切り取り始める。

「お前はいいのか?」

まるで死体にたかるハイエナのような男達を

覚めた目で見ている俺に頭は尋ねると、

「不老不死か、

 興味ないね」

俺は自分の顔に付いた人魚の返り血をふき取ると、

人魚の躯から転がってきた玉を拾い上げた。

「それは?」

「あぁ、

 ちょっと気になったんだ。

 まったく、

 こんなものを庇い続けて死ぬこともないだろうに」

差し込む明かりを受けて紫色に輝く玉を俺は自分の目線まで掲げると、

「俺はこれを貰う」

そう呟くと、

それを同時に口の中に血の味が静かに広がってきた。

口の周りについていた人魚の返り血が入ってきたみたいだ。



「おまえら、

 取りたいものは頂いたか?」

人魚の肉を喰らい、

そして、財宝を奪った男達に向かって”頭”は声を上げると、

「おーっ」

男達の勇ましい返事が返ってくる。

「よしっ、

 じゃぁ、行くぞ」

その声とともに皆が一斉に引き上げ始めると、

「じゃぁな」

人魚の躯にむかって俺は別れの挨拶をするが、

『(くすっ

  残念。

  お前はもぅ帰れないよ)』

俺の耳元で女の笑い声が響いた。

「え?」

その声に俺は振り返るが、

『…………』

人魚の躯はピクリとも動かない。

「気のせい?」

そう思っていると、

「うわぁぁぁぁ!!」

引き上げていく男達の一人が悲鳴を上げる。

「どうした!」

その声を聞いた”頭”たちが慌てて駆けつけると、

「うわぁぁぁ!」

”頭”たちも悲鳴を上げる。

「なにがあった!」

俺も声を上げて彼らのところに向かおうとするが、

ガクッ

「あっあれ?」

突然、足の力が抜け落ちてしまうと、

その場に座り込んでしまい立てなくなってしまった。

「くそっ、

 どうなっているんだ」

力の入らない膝を何度も叩いて俺は立ち上がろうとしていると、

『(お前はここで人魚になるんだよ)』

とまた声が響く。

「なんだと?」

その声に向かって俺は聞き返すと、

『(くすっ、

  ねぇ胸が苦しくない?)』

間違いなくあの人魚の声が響いたのだ。

「うっ」

その指摘どおりに急に胸が苦しくなっていることに気づくと、

グッグッググググ

確かに俺の胸が膨らみ始めていた。

「なっなんだこれは!」

見下ろした視界に突き出してくる二つの膨らみを見て、

俺は驚きの声を上げると、

髪が伸び始め、

視界に入っている手が細くなり、

指と指の間に水掻きが張ってきた。

「ひっひぃ」

『(いかが?

  人魚になっていく感想は?

  さぁ、

  その足も捨てようか)』

悲鳴を上げる俺に人魚はそう話しかけると、

ミシッ

ミシッ

「痛いっ」

俺の両足から激痛が走り、

足の形が変わり始めた。

「やっ止めろぉ」

形を変えていく足を押さえながら俺は声を上げるが、

ゴリッ

喉の形が変わり、

その声も甲高いモノへと変って行く。

『くぅぅぅ…』

ズボンが脱げ落ち、

鱗を光らせる俺の下半身が姿を見せると、

ミシッ

ミシッ

ミシッ

足先は巨大な鰭へと姿を変えてしまった。

『そんな…』

耳の辺りから鰭を突き立ててながら、

俺は水掻きが張る手で下半身を覆う鱗を撫でていると、

『はっ』

さっき人魚の躯を喰らっていた男達のことを思い出し、

”頭”たちが集まっていた方を見る。

すると、

シャァァァ…

そこには人間と呼べるものの存在は既に無く、

大きく切り開いた口を開け、

まん丸に見開いた目でうつろに周りを見ている魚人たちが、

見につたた財宝を光らせながらさ迷っていたのであった。

『(人魚の肉を喰らったあいつらは見ての通り魚人になったよ。

  もぅこの神殿を守るための存在であり、

  知能もほとんどない。

  財宝の価値も判らないだろうな))

と人魚の声。

『そんなぁ…』

一緒に航海してきた彼らの成れの果ての姿に俺はショックを受けていると、

スクッ

俺の後ろで何かが立ち上がる。

『まさか…』

俺の後ろはあの人魚の躯だ。

恐々と振り返ってみると、

「よっ、

 ふぅ…」

裸体の男が立ち上がり、

大きく背伸びをしていたのである。

『お前は…』

見覚えのある顔。

男の顔は間違いなく俺の顔だ。

そして、背伸びを終えた”そいつ”は俺を見下ろすと、

「よぉ、人魚さん。

 どうかな、その体は、

 なかなかセクシーだよ」

と馴れ馴れしく話しかける。

『お前…

 どっどういうことだ』

”そいつ”を指差して俺は問い尋ねると、

「どういうことって、

 見て判らないか?

 君が人魚になって、

 人魚だった俺が人間に戻った。

 と言うことだ」

俺を見下ろしながら返事をすると

さっきまで俺が穿いていたズボンを履き始める。

『おいっ、

 それは俺のだ!』

それを見た俺は声を上げるが、

「俺のって…

 あはは、

 その体でズボンを履く気か?

 無理をするなよ人魚さん。

 これは君にとっては何の価値も無いモノだ。

 そうそう、

 その上着も貰っていこうか。

 人魚に服なんて要らないからな」

『やっやめろ』

人魚だった”そいつ”の手は俺が着ているものを奪い取っていくと、

俺は素っ裸にされてしまった。

「うん、

 その方が人魚らしいよ」

膨れた胸を両手で隠しながら睨み付ける俺の頬に手を添えて

”そいつ”は言うと、

『うがぁぁっ!』

俺は”そいつ”手に噛み付こうとする。

しかし、

「おっと」

”そいつ”はすばやく手を引っ込めると立ち上がり、

財宝の山からあるものを取り出した。

【ホールインワン賞】

と書かれた黄金のゴルフクラブ。

それを手にして”そいつ”は戻ってくると、

俺に向かって振りかぶって見せた。



ガッ!

『ぎゃぁぁぁぁ!』

神殿に俺の悲鳴が響き渡ると、

『痛い!

 痛い!

 痛い!』

俺は殴打された頭を押さえながら転げまわり、

魚の尾びれとなった足で盛んに床を叩きながら、

痛みに耐えていると、

「痛いか?」

と”そいつ”は尋ねる。

そして、

「君、

 さっき、僕に向かってそれをしたんだよね。

 なぁ、撲殺ってちょっと酷くないか?

 普通、殺害をするなら

 斬り殺す。か、

 絞め殺す。だろう?

 それを撲殺だよ。

 やられた側は堪ったものじゃないよ。

 本来ならお返しに君を撲殺したいところだけど、

 君を殺してしまっては僕が人魚に逆戻りだから、

 これで許してあげるよ」

俺に向かって”そいつ”はそういうと、

再び振りかぶると、

ゴフッ!

俺を殴り、

手にしていたゴルフクラブを放り投げる。



『ぎゃぁぁぁ!』

2発目を喰らった俺は痛む頭を押さえて蹲ると、

「人間だったら命に関わるけど、

 その程度では死なないことは

 僕を撲殺した君が良く判っているはずだ。

 さてと、

 そろそろ戻らないと、

 上の船で待っている留守番が怪しむ頃だろう」

と言いながら”そいつ”は身なりを整え始め、

「じゃぁな、

 人魚さん。

 君はこれから人魚としてこの財宝を守るんだ。

 僕がそうだったようにね」

と俺に向かって言う。

『おっお前も…

 人魚にされたのか』

頭を押さえながら俺は聞き返すと、

「あぁ、そうだ、

 ずっと前にここで人魚にされた。

 そして、君達がここに来るまで財宝の番人をしていたけど、

 でも、それも終わった。

 君が僕を解放してくれたんだから、

 一応、礼は言う。

 お陰で陸に帰れるんだからな」

”そいつ”は俺に背を向けると

シャァァァ

男達が変身した魚人たちは一足先に

一匹、また一匹と神殿の外へと出て行く。

そして、

『そうそう、

 念のために言っていくけど、

 君が人魚の呪縛から解き放たれるためには、

 君が誰かの手で殺されないとダメ。

 自殺はノーカウントだから、

 痛い思いをするだけ損だよ。

 それと、

 人魚の歌は表にも聞こえるから、

 満月の夜に歌を歌うようにするといいし、

 もし、歌が下手なら、

 後ろの財宝の中にカラオケと言う魔法の箱があるから、

 それを使って鍛えるといい、

 上手くいけば君の歌に惹かれて次の奴がやってくるだろう。

 まっ殺されるときはサクっと殺されな、

 くれぐれも撲殺はされないように、

 じゃあ、後はよろしく」

”そいつ”はその声を残して神殿から出て行くと、

ガリガリガリガリ

開いていた石の扉が閉まり始め、

ズシンッ

俺は神殿の中に閉じ込められてしまったのであった。



もぅあれからどれくらいの月日が経ったのだろうか、

ジャーン!

チャンチャカチャンチャカ♪

神殿にカラオケの音が響き渡る。

俺はきれいに膨らんだ乳房を晒して、

歌詞カードと言う本を開いた。

さすがは海賊の財宝である。

こんな魔法の箱は一体何処の国で作られたのか

皆目見当が付かない。

それ以外にも液晶テレビにノートパソコン、

電子レンジにセグウェイ…

金色に輝くそれらの品は、

どういう目的のものなのか理解が出来ない不思議な財宝である。

やがて遥か上にの水面を満月が照らし出すと、

『すーっ』

俺は大きく息を吸い込み、

♪〜♪

マイクに向かって静かに歌を歌い始めた。

この歌を聴いて誰かがここに来ることを望みながら…




『毎度ありがとうございます』

ここは”とある国”の”とある港”を見下ろす”とある街”。

『白蛇堂』

と東洋の文字で書かれた暖簾が下がる店先に主の声が響くと、

一人の男性が大切そうに手に入れたばかりの地図を持って出て行く。

『さすがは白蛇堂さま、

 21世紀の粗大ゴミを金色に塗って

 この時代の海賊の財宝にしてしまうだなんて、

 業屋九兵衛、感服いたしました』

『ちょっとしたアトラクションよ。

 この時代の連中はこういうのが好きだって聞くからね、

 参加者は痛い目に遭うけど、

 でも、人気あるみたいじゃない。

 ところで島の映像はちゃんと23世紀に送っている?

 向こうの連中、

 この映像を高く買ってくれるから丁寧に撮るのよ』

『はい、判っておりますとも、

 送信先、

 西暦2201年、スペースポリス中央TV宛っと。

 風雲!海賊島。

 さて、次の参加者は…』

時は16世紀、

大航海時代、真っ只中のお話である。



おわり