風祭文庫・人魚変身の館






「月下の人魚」


作・風祭玲

Vol.957





『えぇ!

 正体を見られちゃったって

 それって本当なのぉ?』

優しい月明かりが差し込む夜の海底。

その海の底に突如驚いた声が響き渡ると、

『しーっ、

 声が大きい!』

大きく開かれた少女の口を水掻きが張った手が次々と塞ぎ、

左右を気にする別の少女が顔を寄せる。

『もが…』

最初に声をあげた少女がもがく横で、

『で、始末はしたの?』

と翠の髪を揺らせながら口を塞ぐ少女は尋ねると、

『始末?』

彼女の視線の奥でシュンとしながら漂っていた半人半魚の人魚少女は驚いてみせる。

すると、

『そうよ、

 あたし達の正体が人間が知られたとき、

 あたし達がとる行動は二つに一つ、

 一つ、見た者の姿形が残らないように始末してしまうこと。

 二つ、人魚の魂を生みつけ強制的に人魚にしてしまうこと。

 当然、このどちらかの一つは実行済みでしょうね』

と言いながら別の少女が口を挟んできた。

『そっそんなこと…』

告げられたその言葉に人魚少女は困惑した顔をして見せると、

『ぷはっ!

 まさか、何もしないで戻ってきたというの?』

ずっと口を塞がれていた少女が手を解くと人魚少女に食って掛かる。

『え?

 はっはい…』

皆から問い詰められた人魚少女は小さくうなづいて見せると、

『まったく…』

『やっぱり…』

『どうしましょ』

彼女の返事を聞いた3人の少女…

いや、半人半魚の人魚少女達は互いに顔を見合わせてみせる。



ユラッ

海面から差し込む月の明かりが微かに揺らめき、

4人の人魚達の髪が小さくゆれて見せる中

『どうする?』

一呼吸分の間をおいて、

人魚達のリーダー役であるサチが残る二人に話しかけると、

『どうする。って、

 このまま放って置くわけにはいかないでしょう』

『そうねぇ…』

と同じ人魚少女のナギとマヤは頷いてみせる。

すると、

『リカっ、

 これはあなたがしなければいけないのよ、

 さぁ、どぅするのか決めて』

サチは腕を組みながら俯く人魚少女・リカに決断を迫る。

『どうするって…

 そんなこと…』

決断を迫られたリカはなおも困惑して見せると、

『もぅ、

 じれったいわねっ、

 あなたが出来なければあたし達が手を下すわ。

 と言ってもあたし達が出来る選択は一つだけだけど…』

と語気荒くサチはリカに向かって怒鳴る。

『それって』

周囲の魚たちも逃げ出す怒鳴り声にリカは驚くと、

『決まっているでしょう。

 姿を見られたわけでもないあたし達が卵を産みつけることなんて出来ないんだから、

 選択肢の1番よ』

と言った途端、

『えぇ!』

話を聞いていたナギとマヤは驚き、

『それやるなら…

 サチが一人でやってよ』

『あれってさっ、

 結構キツイのよねぇ』

と囁きあう。

『うるさいっ

 うるさいっ

 うるさいっ!

 いいこと、これは連帯責任なのよっ、

 もし、このことが公になってしまえば

 あたし達全員が処罰されるのよっ

 リカが出来ない。というのなら、

 あたし達がするしかないじゃない。

 なぁに、3人で掛かれば直ぐに始末できるわ』

腕を組みリカを見据えつつサチは怒鳴ると

『やめて!

 それだけはやめて!』

サチに向かってリカは声をあげた。

『そこまで言うんだったらねぇ

 リカが手を下しなさいよぉ』

『そうよ、

 2番目の手段を使えるのは、

 リカしか居ないんだからぁ』

そんなリカに向かってナギとマヤは迫ってみせる。

『うっ…』

迫る3人に追い詰められながらリカはその背中を垂直に立ち上がる岩につける。

その途端、リカを追い詰めるように2本の腕が伸び、

ダンッ

リカの顔の左右にその腕が立つと、

『いいこと、

 これはリカがすることよ。

 逃げたりしたら…

 …判っているわね』

とサチはリカの瞳を見据え言い聞かせる。



ゴボッ!

海の底から1人の人魚少女が海面に向かって泳いで行くと、

その後を付けるように3人の人魚少女が追って行く。

『はぁ…

 だから反対だったのよ』

ため息を付きながらマヤは愚痴をこぼすと、

『仕方がないでしょう。

 こうなってしまっては』

とナギは注意をして見せる。

『まったく…

 人魚であることを隠して人間の男と付き合っている。

 って聞いたとき、

 きっとこうなると思っていたのよ。

 はぁ、みんなを思いっきり巻き込んじゃってもぅ』

そんな小言を背後で聞きながらサチは前を泳ぐリカを不機嫌そうに見つめると、

やがて、前を行くリカは海面へとたどり着き、

そして岸に向かって移動し始めた。

『リカっ!』

岸に向かって泳いで行くリカに向かってサチは声を張り上げると、

『判っているわね、

 あなたがやることを!』

と念を押してみせる。

その言葉への返事だろうか、

リカの顔が元気なく頷いてみせると、

彼女は後姿は波の影の中へと消えていった。

『…あたしだって、

 1番目のことはしたくないわよ』

リカを見送りながらサチはそう呟くと、

『リカったら、

 ちゃんと卵を産み付けられるかしら』

とサチの後ろでマヤはそう呟いてみせる。



ザザーン…

潮騒の音が響く岩場で今野健次郎は岩の一つに腰掛け、

口を真一文字に結び夜空で輝く月を見ていた。

岩場には彼一人しか居ない中、

「まさか…

 里佳子君が人魚だっただなんて」

と呟きながら、

健次郎は里佳子と出会ってからのことを思い出す。

健次郎と里佳子が出会ったのは2年前…

ちょうどこの岩場だった。

その頃、健次郎は経営に参加していた会社が行き詰まり、

毎日にように融資先を探して奔走していた日々をすごしていた。

そして、その疲れから逃れるようにこの岩場にて夜空を眺めていたのである。

そんなある日、

いつものように健次郎は岩場に行くと、

波打ち際に浮かぶ見慣れない白く輝く物体を見つけた。

不審に思いながら健次郎が近づいてみると、

その物体はなんと全裸の女性であり、

何かの犯罪に巻き込まれたのであろうか、

体半分を沈めて並に漂っていたのであった。

驚きながらも直ぐに女性を助けあげたのであった。

何かのショックだろうか、

女性はリカコと言う下の名前しか記憶になく、

それ以外の住んでいた所や、

家族についての記憶は無かった。

そのこともあって、

健次郎はリカコ…いや、里佳子と一緒に住むようになったのだが、

その頃を境にして彼の会社も経営が上向き、

やがて、奇跡のV字回復と周囲からもてはやされるようになると、

健次郎は里佳子との結婚を考えるようになったのであった。

そして、その事を伝えようとした昨夜、

この岩場に里佳子を呼び出したのだが、

そこで思いがけないものを見てしまったのであった。

「まさか、

 そんなことって」

下半身から伸びる金色に輝く鱗に覆われた尾びれ、

月の光を受けて輝く翠の髪…

里佳子は人間とは明らかに違う生き物であった。

幼い頃に母親から読んで聞かせてもらった人魚姫の物語…

その物語に登場する人魚姫の姿に健次郎はいつしか憧れを持っていた。

「まさか…

 里佳子は泡になってしまったのか」

股間を硬くしながら健次郎は顔を上げたとき、

その視界に一人の女性の姿があった。

「里佳子…」

紛れもない里佳子の姿を見て健次郎は腰を上げると、

健次郎は駆け寄り里佳子をしっかりと抱きしめてみせる。

「健次郎さん…」

想像していたのとは違う反応を見せた健次郎の姿に里佳子は困惑するが、

「どこに行っていた」

と健次郎はその耳元でささやいてみせる。

すると

「健次郎さん、

 離してください。

 あたし、あなたに抱かれるような…」

顔を伏せそう里佳子は呟くと、

「なんで人魚であることを黙っていたんだ。

 僕は君が人魚であったことに感謝しているんだよ」

と言う。

「え?」

思いがけないその言葉に里佳子は健次郎を見ると、

「僕はね…

 人魚というものに憧れて居たんだよ。

 もし、人魚が僕の前に現れたら、

 あの御伽噺の王子とは違い。

 永遠の愛を誓うって決めていたんだよ」

とまじめな表情で告げたのであった。

「そんな…」

健次郎のその言葉に里佳子は頬を赤らめると、

「さぁ、

 その偽りの身体を解いて、

 僕に本当の姿を見せてくれ」

その耳元で健次郎はそうささやいたのであった。



『あんっ』

『んくっ』

磯に里佳子のあえぎ声が響くと、

「すごいっ、

 これが人魚なのか」

と健次郎の驚く声が追って響いた。

そう、身体を半分海水の中に浸らせる里佳子の腰から下は金色の鱗が輝く尾びれが伸び、

髪は翠色に染まる人魚の姿になっていた。

そして、その里佳子…いや、人魚・リカを抱きしめている健次郎も裸になり、

いきり立つイチモツをリカの体内へと挿入していたのである。

『あふんっ

 いぃ…』

ギュッと眉間に皺を寄せ、

リカは引いては押し寄せてくる快感に身をゆだねる。

その一方で、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

リカを突く健次郎は一心不乱に腰を振っているが、

クニュッ

挿入しているリカの秘所の隙間から

透明な管が伸び始めていることには気がついては居なかった。

『あふんっ、

 はぁん

 あん

 あん

 あん』

あえぎ声を上げるリカから伸びる管はゆっくりと健次郎の背後へと周り、

そして、健次郎の菊門へと迫っていった。

『ごめんなさい…

 あたし、掟を破る訳にはいかないの…

 だから許して…』

夜空に掛かる月をうつろな目で見上げながらリカはそう呟くと、

「え?

 いま何か言った?」

とその言葉を聞き取れなかった健次郎は聞き返す。

すると、

ギュッ!

いきなりリカは健次郎の首に手を回し、

そしてきつく抱きしめると、

『健次郎さん。

 愛しています』

と告げるや。

ブスッ!

伸ばしていた管を健次郎の菊門に突きたてたのであった。

「あぁーっ!」

突然、自分の肛門を押し割って挿入されてきた物体に健次郎は驚き

急いで腕を伸ばしてそれを引き抜こうとするが、

『だめっ』

リカはさらにきつく健次郎に抱きつき、

そして、

『神様…

 お願い!』

と何かを願掛けながら、

ブルッ!

大きく力んでみせる。

すると、

プリッ!

リカの体内から紫色の物体が産み落とされ、

ゆっくりと管の中を進み始めた。

「ひぃぃ!!

 ひぃぃ!!」

迫り来る危機を察知してか、

そのときになってようやく健次郎はリカを振り払おうとするが、

しかし、時は遅く、

管の中を進む物体は健次郎の菊門を強引にこじ開け体内へと潜って行く。

その直後、

「あっ

 あっ

 あぁぁぁぁぁっっっ!!」

断末魔にも似た健次郎の絶叫が当たりに響き渡るが、

だが、その声は直ぐに潮騒にかき消され、

声を聞きつけ駆け寄ってくる者の姿はどこにも無かったのであった。



『もぅ、遅いわねぇ…』

『夜が明けちゃいますよ』

岩場から程近い海の中で、

サチ、ナギ、マヤの3人の少女人魚は時間を気にしながら、

リカの帰りを待っていた。

『もぅ待てない!

 今から行って、

 リカの正体を見た奴を始末してこよう』

痺れを切らしたサチが声をあげると、

『待って!』

何かに気付いたマヤがサチを止めて見せた。

『なに?』

『しっ!』

訝しがるサチに向かってマヤは自分の口に人差し指を立てて見せると、

岩場の方向よりふたつの影が迫ってくる。

やがて、

『お待たせしました』

の声と共に鱗を輝かせるリカと、

そのリカの腕にしっかりと抱かれ気を失っている健次郎が3人の前に姿を見せる。

『へぇぇ…

 こいつがリカの正体を知った人間か』

はじめて見る健次郎をサチは興味深そうに呟くと、

『うふっ、

 ちゃんと卵を産みつけたのね…』

と言いながらナギは鱗を浮き立たせ、

尾びれが伸びて行く健次郎の下半身を見る。

『あら、

 オチンチンが残っているわ!』

そんな健次郎の下半身の異変にマヤが気がつくと、

『へぇぇ…

 人間のチンコつき人魚とはやるじゃない。

 見直したわ』

とサチは盛んに感心しながらリカの肩を叩き、

『よーしっ、

 こいつはあたし達の共有財産ね』

そう宣言してみせた。

『えぇ!』

それを聞いたリカは困惑した声をあげると、

『何を言うのよっ、

 あたし達は運命共同体よ、

 無論、お楽しみもみんなのもの』

と言うなり、

『さっ行こう

 行こう』

リカの腕を引いて行く。

『そんなぁ…

 それじゃぁ折角オチンチンを残してもらった意味がないじゃない』

話を聞かされたリカは嘆いて見せるが、

皆はそんなリカを押して海の底へと向かっていったのであった。



おわり