風祭文庫・人魚変身の館






「逢魔ヶ時の人魚」


作・風祭玲

Vol.384





「お姉ちゃん、待ってよ」

「しっ静かに…」

…大潮の日の逢魔ヶ時、

高校の制服姿の美希は父親のカメラ片手に岬へと続く道を進んでいた。

そして、美希のすぐ後を小学生の妹・沙希が追いかけながら声を上げる。

「ちょっと、沙希っ

 何でついてくるのっ

 こっちにこないでよ」

後を付いて来る沙希を追い払うかのように美希が文句を言うと、

「だぁってぇ!!」

沙希は膨れっ面をした。

「あのね、沙希ちゃん、

 これは遊びではないのよ、

 お姉ちゃんの仕事なの、し・ご・と」

むくれる沙希を諭すかのように美希がそう言い聞かせていた時、

「ん?」

美希の視界に何かが入った。

そして、反射的に美希はしゃがみ込むとカメラを防波堤の方へ向ける。

「本当にいた!!」

ファインダーを覗きながら美希はそう小さく叫ぶと、

「え?、なに?」

美希の言葉に沙希も防波堤の方に視線を向け、美希が見つけたものを探し始めた。

「こらっ、沙希っ

 目立つでしょう!!」

美希はそんな沙希に怒鳴ると、

「もっとよく見えるところへ…」

そう言いながら立ち入り禁止の鎖を乗り越え、

そして、危険防止のために封鎖さている防波堤へと続く道を降りて行った。

「そんな…あの噂が本当だったなんて…」



…大潮の日の逢魔ヶ時、港の防波堤に人魚が現れる。

 そして、その人魚の姿を見た者には海神の罰が当たり、2度と帰ってくることはない…

この港町にはそんな話がまことしやかに伝えられ、

大潮の日は漁師は漁を休み、防波堤は事実上立ち入り禁止になっていた。

ところが、たまたま大潮を目前にしたある日。

美希のクラスの中でこの噂の真贋についての論争が巻き起こった。

「人魚なんていない」

転校してきたばかりの美希は噂を信じずにそう言い張ると、

「それを実証してあげる」

とクラスの者が止めるのも聞かずに美希は一人で防波堤に向かっていただった。



「本当に人魚が居ただなんて…」

いまさっきファインダー越に見た衝撃的な光景に美希の心臓は大きく高鳴り、

そして、美希を前へと進ませている脚はガクガクと震えていた。

「お姉ちゃん?」

そんな美希を沙希は心配そうに見つめていた。



「いーぃ、沙希はここで大人しくしているのよ」

防波堤の付け根のところにある岩陰に沙希を押し込み美希はそう言いつけると、

防波堤の上を身をかがめながら進み始めた。

「なぁに、

 見つからないようにそっと近づいて、

 気づかれないうちに写真を撮ってしまえば…」

そんな算段をしながら美希は断面が凸型になっている防波堤の外海に面した通路を進んでいった。

やがて、その先端が見えたとき、

『○○×△◇…』

囁くような人の話し声が彼女の耳に入ってきた。

「こっこの向こう側ね…」

声の強さから当たりをつけた美希はカメラを忍ばせつつそっと身を乗り出してみると、

まさに美希のすぐ眼下に鱗を淡く輝かせている人魚が数人寝そべりながら談笑をしていた。

「人魚!!(ゴクリ)」

緊張のあまり美希の喉はからからに渇き、

そして、震える手でシャッターを押そうとしたが、

しかし、手の震えは収まるどころかますますひどくなっていった。

「くっくそ…」

美希の心に中にあせりの色が広がっていく、

と、そのとき、

『誰?』

美希の気配に気づいた一人の人魚が振り返ると、

ハッ

身を乗り出してた美希とばったり目が会ってしまった。

「しまった!!」

反射的に美希は大慌てで逃げ出そうとするが、

『お待ち!!』

人魚はその姿とは裏腹に

ビシッ

と尾鰭を床に叩きつけ、その反動で高く飛び上がると、

逃げる美希にしがみつくように押し倒し、

そして、一気に引きずりおろした。

「いたたた…」

引きずりおろされた美希が尻餅をついた腰をさすっていると、

『人間よ』

『へぇ』

『禁忌を侵したね』

『どうしてやろうか』

そんな話をしながら美希を取り囲むように人魚達が迫ってくる。

まるで獲物を見つめるハンターのような視線で人魚は美希を見つめると、

「ひっひぃ」

美希は悲鳴を上げながら逃げ出そうとしたが、

しかし、

『逃がさないわよ』

人魚達はその声と共に一斉に美希に飛び掛るとその身体に絡みつく。

人魚達の身体の冷たさと共に生臭さと潮の匂いが美希を包み込むと、

「いやぁぁぁ!!

 離して!!」

美希は声を上げながら抵抗をするが、

しかし、

『禁忌を侵した者は帰さないよ』

人魚は冷たく美希に向かってそう言い放つと、

『この場で八つ裂きにするのはどぅ?』

と一人の人魚が提案した。

『そうねぇ』

その人魚の提案にほかの人魚達が考え込むと、

『お前達、そこでなにをしている?』

と言う声と共に格上の人魚が海中から姿を見せた。

『あっマーさまっ』

その人魚の登場に美希を拘束していた人魚達は一斉にそう呼ぶと、

『ん?、人間か?』

マーさまと呼ばれた人魚マーはそう呟きながら美希を見る。

『はい、マーさま。実はこの人間…禁忌を侵したのですよ』

と美希を指差しながら人魚達はそう説明をすると、

『なに?』

人魚マーのコメカミが微かに動いた。

そして、

『そうか、お前は禁忌を侵したのか…

 禁忌を侵した者には罰を与えねばな…』

美希を見下ろしながら人魚マーはそう告げると、

『おいっ、

 その者の股を広げさせろ』

と人魚達に命令をした。

その途端、

『はいっ』

人魚達は一斉に返事をすると

「やっやめてぇ!!」

悲鳴を上げる美希の下着をずり下ろすと総出で股を大きく開かせ、

『…マーさま、見てください

 ほらっきれいな色…

 この人間の女はまだオトコを知らないようですよ』

美希の秘所を大きく広げながら一人の人魚が声を上げると、

『ふふ…

 そうなの

 可愛そうに、

 オトコを知らないであたしに卵を産み付けられるのね、お前は』

美希を見下ろしながら人魚マーはそう告げると、

ゆっくりと手を下ろし、

そして、両脇にある腰鰭の間を強く押した。

その途端、

『うっ』

モリッ!!

人魚マーのうめき声と共にその部分が盛り上がると

ズニュゥゥゥ!!

まるで男性のペニスを思わせるような半透明の管が伸びていく。

「ひいっ」

その様子に美希が思わず悲鳴を上げると、

『どう?

 太いでしょう…』

人魚マーはその管を握り締めながら美希に告げた。

そして、

『そんなに怖がらなくてもいいのよ、

 これは人間の男で言うチンポというものではないわ

 卵を産む為の管よ、

 ふふ…

 罰として、あなたに卵を産み付けてあげる』

人魚マーは美希にそう説明すると、

輸卵管に手を添えてゆくっりと迫ってきた。

「やっやめて!!」

迫ってくる人魚マーの姿に美希はそう訴えるが、

『大人しくしなさい』

『すべてはあなたが悪いのですよ』

『そうです、これは罰なのですよ』

と美希の身体を抑えつける人魚達がそう言い聞かせる。

「そっそんなぁ」

その声に美希が悲鳴を上げると同時に、

ズイッ

人魚マーの濡れた身体が美希の股の間に入り込んでくるとその両肩を鷲掴みした。

ビクッ

「痛い………」

まるで美希の肩を握り潰すかのような握力に美希は思わず声を上げると、

『痛いのか?

 でも、もっと痛いことになるぞ』

人魚マーは美希にそう告げた途端、

グニッ

人魚達の手が美希の秘所をさらに大きく広げた。

そして、

『さぁ、マーさま』

と人魚マーに次の行動を催促をすると、

『うむ、では行くぞ』

人魚達の催促に人魚マーはそう返事をして、

ペニスのような輸卵管を美希の秘所に当てると、

グイッ!!

っとねじ込んできた。

「うぐわぁぁぁぁ」

股間を引き裂くような激痛に美希は悲鳴を上げるが、

しかし、人魚マーは容赦なく輸卵管を美希の体内に挿入する。

ズズズズズ…

「痛い!

 痛い!

 痛い!」

悲鳴をあげる美希の体内を食い荒らすかのように輸卵管はもぐりこみ、

そして、子宮口をこじ開けると、

さらにその中へと入り込んで来る。

「うごわぁ」

あまりものの激痛に美希は白目を剥き、

そして口を大きく開いてうめき声を上げていると、

チュッ

人魚マーの唇が美希の口を塞ぎ、

そして、

『痛みを取ることは出来ないけど

 幾分和らげることはできる』
 
と美希の頭の中に直接話しかけてきた。

すると、

「あぁぁぁぁぁ…」

その声のとおり、

美希を襲っている痛みはゆっくりと薄れて行き、

それと反比例するように美希の体が痺れはじめだした。

『どう?

 気分は…

 さぁ、あなたの体内に卵を産んで上げましょう、

 この卵はね

 人間の体内で精に触れずに孵ると、

 人間を人魚の身体に作り変えてしまう…

 そう、あなたは私達と同じ人魚になるの。

 禁忌を犯したあなたにはふさわしい罰ね』

美希に向かって人魚マーはそう話しかけると、

「そっそんなぁ」

美希の絶叫が響き渡った。

そして、なんとしても人魚マーが挿入した輸卵管を張り出そうとするが、

しかし、身体の自由を奪われている美希にはどうすることも出来なかった。

『ふふふ

 怖い?

 大丈夫よ、

 すぐに終わるわ、

 さぁ、あなたにはたくさん卵を産んであげるからね』

人魚マーの声が響くのと同時に、

ビビビビビ!!

人魚マーの尾鰭が小刻みに動き始め、

そして、それと同時に美希の体内に挿入された輸卵管の中を薄紫色の卵が1つまた1つと通っていく。

「あっあぁ

 あたしの身体の中に入っていくぅ

 いやぁ

 どんどん入ってくるぅ

 いや、止めて!!」

体内に次々と生みうけられていく卵を感じながら美希は悲鳴を上げるが、

しかし、人魚マーは容赦なく卵を産み続けた。

そして、それにあわせて美希の腹部が膨れていき、

『ふぅ…』

ヌプッ

産卵を終えた人魚マーが輸卵管を引き抜いたときには、

まるで臨月の妊婦のように腹を膨らませた美希が仰向けになって倒れていた。

『ふふ

 ちょっと、生みつけ過ぎたか』

大きく膨らんだ美希の腹を見ながら人魚マーはそう呟くと、

『ほんと、大きいお腹…』

『無理も無いわ、マーさまの卵をいっぱい抱えたんだもの』

『いいわぁ、あたしにも産み付けてください』

人魚達も美希の腹を見ながらそう囁き合う、

すると、

『でも、いいわ、

 さぁ、あたしが生んだ卵達よ孵りなさい

 そして、この者を人魚にしてしまいなさい』

人魚マーはまるで命令するかのようにそう告げると、

「うぐっ」

ビクン!!

白目を剥いている美希の身体が跳ねると、

ブチブチブチ!!

美希の体内に産み付けられた卵が一斉に孵り始めた。

そして、孵った卵は美希の身体を体内から作り変えていく。

「うぎゃぁぁぁ」

身体を作り変えられていく苦しみに美希はのた打ち回り

そして掻き毟った。

『うひゃぁぁ、苦しそう』

『うわぁぁぁ』

苦しむ美希の姿に人魚達が驚いていると、

『始まったわ』

人魚マーは冷静に美希を指を差す。

すると、

ジワッ

人魚マーが指差した美希の太ももにまるで緑の花が咲くように青緑色の鱗が姿を現すと、

見る見る脚を覆いつくし、

また、膨らんでいた腹が引っ込んでいくと、

それに合わせて美希の脚は一本に癒着し流線型の美しい形へと変化していった。

『うわぁぁ』

その様子に人魚ルルたちは感嘆の声を上げる。

しかし、美希の変身はこれで終わるはずはなく、

歩く機能を失った美希の足先がつぶれるように平たくなると、

扇のような尾鰭へと姿を変え、

さらに、両脇から腰鰭が1対伸び始めると、

パタパタと動き始めた。

『くはぁはぁはぁ』

その一方で変化の少ない上半身も顎の後ろに鰭が伸びていくと、

美希は外見もそして内部も完全な人魚に変身してしまった。

『ねぇどうする?』

人魚と化した美希を指差しながら人魚ルルが今後を尋ねると、

『そうねぇ…

 あたし達も身体が乾いてきたことだし、

 このままにして海に戻りましょう』

と人魚マーは人魚達に告げた。

『えー

 ほっといていくのですか?』

人魚マーの言葉に人魚達が驚くと、

『大丈夫よ、

 この者はもぅ陸では生きていけないのだから、

 あたし達の後を追ってくるわ

 さっ身体が乾ききらないうちに戻るのよ』

人魚マーは人魚達にそう告げると先に海に向かって飛び込んだ。

すると、

『あっ待って下さい』

人魚マーを追いかけるように人魚達も次々と海に飛び込んで行った。



ザザーン

潮騒の音が一人取り残された美希の耳に響き渡る。

『あっあたし…

 人魚にされてしまったの』

倒れたまま人魚マーたちの話を聞いていた美希はそう呟きながら、

何とか自分の意思で動くようになった手を腰に這わせていくと、

スルスルスル

手の先にかつての脚を覆う鱗の感触が伝わってくる。

『ほっ本当にあたし…

 人魚になっちゃったんだ』

腰鰭や尾鰭を確認するようにピクピクと動かしながら美希はそう呟くと、

閉じた目に薄っすらと涙が浮かんだ。

『まさか、人魚にされてしまうだなんて…』

そう思いながら美希はその場で泣き出そうとしたとき、

「おっお姉ちゃんぁん!!」

岩場の陰に隠れていた沙希が防波堤の上を走って美希の元に駆け寄ってきた。

『(ハッ)だっダメ!!

 沙希ちゃん!!

 ここに来てはダメ!!』

沙希の声に美希は思わず声を上げると、

「おっお姉ちゃんっ」

美希のその言葉が響くのと同時に沙希の足がそこで止まった。

『だめよ、

 来ては…

 沙希ちゃん、そのままここから離れて家に帰るのよ、

 いい?

 沙希ちゃんは今日は防波堤には来なかった…いいわね』

ムクリと起き上がりながら美希は沙希に向かってそう告げ、

そして沙希の顔を見ないようにうつむいた。

人魚になった自分の顔を見られたくない。

そんな思いが彼女をそういう行動にさせていた。

そして、

ズルッ

体をわずかにずらすと、

美希の腰から下には身体を支えてきた足はなく、

代わりに青緑色の鱗に覆われた流線型の魚の尾鰭と、

その両側から伸びる腰鰭がすでに美希が人でなくなっていることを物語っていた。

「でも、お姉ちゃん!!」

美希の言葉に先が従わずになおも話しかけてくると、

『行くのよっ、沙希っ

 いっ行かないと、

 あっあたし…(くはぁ)』

美希は肩で息をしながら、

かつて股間があったところに手を伸ばした。

すると、

モリッ

その部分が盛り上がると、

ニュニュニュ…

っと白い半透明の管が伸びていく。

「お姉ちゃん…それ」

その管を指差しながら沙希が声を上げると、

『ふふ…

 そうよ、

 あたしを人魚にした卵の管よ、

 いま、沙希ちゃんの顔を見ると

 あっあたし…これで、沙希ちゃんを犯してあたしと同じ人魚にしてしまうわ』

輸卵管を扱くように握り締めながら美希はそう告げると、

『きっとこれは罰よね、

 禁忌を破ったあたしへの…

 さぁ、行って、沙希ちゃん。

 お願いだから、あたしの前から去って!!』

美希はそう声を上げると、

プリュプリュプリュ!!

管の先から薄紫色の卵を産卵し始めた。

「お姉ちゃん…」

美希のその姿を見た沙希は一歩また一歩と下がっていくと、

ダッ

沙希に背中を見せて走り去って行った。

『(はぁはぁ)

 そう、それでいいのよ…』

沙希の走り去っていく音を聞きながら美希は顔をあげるとそう呟く、

そして、

外海の海面を見つめると、

ズルッ

ズルッ

っと港を背に体をずらし、

そして大きく乗り出すと、

『そうよ、沙希を人魚にしてはいけない…』

と呟きながら

バッ

美希は渾身の力を込めてジャンプした。

ヒュルリ

人の姿をした魚のシルエットが海の上に大きく舞うと、

ジュボ!!

っと潮騒の音にかき消されるような小さな音を立て海面下に消えていった。



それからしばらくして一人の少女の失踪に港町は大きく揺れ、

目撃情報や浜に打ち上げられた制服などから、

美希は誤って防波堤から落ちたものとされて大掛かりな捜索が行われたが、

しかし、それ以上の手がかりは見つかることは無かった。



ザザー

夕日が傾き、間もなく没しようとした頃、

立ち入り規制が解かれた防波堤の突端で沙希は一人で海を見ていた。

そして、ある歌を口ずさんでいると、

♪〜

海の中からその歌にあわせるようにして歌声が響く、

「♪…お姉ちゃん」

その歌声が聞こえてくると先は歌を歌うのをやめそっとそう呟いた。

すると、

『沙希っ』

と言う声と伴に波間に美希の顔が浮かび上がる。

「お姉ちゃん!!」

それを見た沙希はそう叫びながらジャンプをすると海の中へと飛び込んでいった。

沙希が人魚になる3年前のことである。



おわり