風祭文庫・人魚変身の館






「人魚スーツ」


作・風祭玲

Vol.321





「えぇっ

 またぁ?!」

昼下がりの浜辺に夏美の声が響き渡る。

すると、

「そんな言い方をしなくても…

 いいじゃないかよっ

 なぁ新しいのを作ってみたんだ」

と言いながら翔は持ってきた紙袋からある物を取り出すと、

夏美の前に”それ”を広げた。

フワッ

翔の手によって広げられた”それ”は細長い二等辺三角形の形をしているが、

しかし、鋭角に尖った部分には先がなく、

変わりに括れるようにして扇状に広がり、

一見すると魚の尾鰭の様な姿をしていた。

「もぉ翔ったら、

 人魚人魚人魚って

 一体、何回あたしに人魚のコスプレをさせたら気が済むの?」

膨れながら夏美が翔に向かってそう言うと、

「俺、そんなにコスプレさせたっけ?」

夏美の抗議に翔は頬を掻きながら聞き返した。

そう、翔が自他共に無類の人魚好きで、

夏美に見せたものは、

布で作った人魚の下半身、鱗に覆われた尾鰭であり、

翔はそれを夏美に穿いて貰って、

浜辺をバックにして写真撮影を頻繁に行っていたのであった。

しかし、

「あのねっ、翔っ、

 あたしとつきあい始めたその日から、

 この人魚のコスプレをさせているのよ。

 そりゃぁ最初のうちはあたしもおもしろ半分にやっていたけどさ、

 でもね、モノには限度というのがあるのよっ

 まぁいいわ…

 今日はそれ着てあげるけど、

 もぅこれで最後にしてね」

と夏美は翔に釘を差すと人魚の尾鰭を手に取った。

サラリ…

鱗を思わせるデザインが施された尾鰭は夏美の手の中で自然に滑っていく、

「ホント…こう言う熱意と器用さをもっとあたしに向けて欲しいわ…」

綺麗に縫製された尾鰭を眺めながら、

夏美はその感触を確かめるようにして呟く。



それから暫くして、

ものの見事に人魚に変身した夏美を翔は盛んに激写していた。

「綺麗に撮ってよ」

胸を隠しながら恥ずかしそうに夏美が話しかけるが、

しかし、翔は

「そうそう…

 その表情いいよ」

夏美の言葉に返事をすることなく

盛んにシャッターを切っていた。

そして、そんな彼の様子を見ながら、

「…あの様子じゃぁ、あたしの声届いていないみたいね」

夏美はそう呟くと思わず

「はぁ…」

っとため息をついていた。



そして、その日以降、

夏美に厳重に釘を差されたためか、

翔は夏美に人魚のコスプレの強要はする事がなくなり、

夏美はホッと一安心をしていたが、

しかし、

カチカチ

カチ…

「ん?、こっこれは!!!」

ネットでサーフィンをしていた翔の目にあるものの情報が飛び込んできた。

「すごい…本当なのか?」

驚きながら翔は表示された情報を素早く目を通すと、

すぐに注文フォームへと進み、

そのまま何の躊躇いもなくそれを発注してしまった。



そして、それから数日後…

翔の元にそれが届けられた。

「すっげぇ…」

宅配屋からそれが入った箱を受け取った翔は、

早速箱の蓋を開けると、

ヌッ

中から出てきたものの完成度に目を見張った。

「はぁぁぁ…」

ツルンっ

感嘆の声を上げる翔が購入したのは特殊メイクで使うような人魚のスーツだった。

しかも、ただのスーツではない。

頭の先から生々しい鱗に覆われた尾鰭の先、

そして淡い緑色をした長い髪に

色白の両腕からツンと突き出した乳房まで、

まさに本物の人魚の皮を剥いだかのような人魚スーツの出来映えに翔は声が出なかった。

「へぇぇぇ…」

「ほぉぉぉ…」

幾度も幾度も持ち替えて角度を変えて見ていくと、

カサッ

「ん?」

翔は箱の中に落ちている紙の存在に気がついた。

「これは…」

そう思いながら拾い上げた紙は人魚スーツの取扱説明書で、

「背中にあるチャックを開いて、

 人に被せると人魚に変身することが出来ます」

と書いてあり、

また、被せ方が丁寧に図解入りで書かれてあった。

「動く人魚が自分の目の前に…」

その文句を読んだ翔の頭の中に

浜辺で一人の人魚が自分を招く姿が思い浮かぶ…

そして、ある考えが浮かび上がると、

「よし…」

翔は早速電話をかけ始めた。

無論、かけた先は夏美である。

やがて、

「なによ、いきなり電話をかけてきて、

 しかも、何も理由を言わずに来いだなんて…」

そう文句をいいながら夏美が現れると、

「夏美、夏美…

 ちょっとさ、コレを着てみてくれないか?」

と言いながら翔は夏美に人魚のスーツを見せた。

すると、見る見る夏美の表情が変わっていくと、

「翔ぉ…あんたねぇ…」

肩を振るわせながら夏美がそう口走った。

そうついに夏美の堪忍袋の緒が切れ、

怒濤の怒りがこみ上げてきたのだった。

そして、

「そんなに…

 そんなに人魚が好きなら、

 いっそあなたが人魚になってしまいなさいよ!!」

と怒鳴り声を上げると、

「おっおいっ

 なに…
 
 なにを、そんなに怒っているんだよ」

夏美の豹変ぶりに驚く翔に向かって、

「五月蠅いっ!!」

と怒鳴ると、

夏美は翔から人魚スーツをひったくるなり、

その背中のチャックを大きく広げると翔の頭から被せてしまった。

「やっ止めろ!!」

人魚スーツを被せられた翔はそう叫びながら藻掻くが、

しかし、

「おらおらっ」

夏美はグイグイと人魚スーツに顔の部分に翔の頭を押し込むと、

続いて両腕の部分に翔の手を入れる。

一見、翔には着られそうもなかった人魚スーツは

まるでゴムのように伸びると、

翔の身体にぴったりとフィットしていく、

こうして翔の上半身が人魚スーツの中に入ってしまうと、

そのまま床の上に倒し、

今度は両脚を人魚の尾鰭の中に入れてしまった。

そして、一気に背中のチャックを引き上げてしまうと、

バタバタ

夏美の眼下には髪を振り乱して暴れる一人の人魚が居た。

そして、そんな人魚の姿になった翔を見下ろしながら、

「ふんっ、その姿で一生居なさい。じゃぁね」

と夏美は言い残すとそのまま部屋から出ていってしまった。

「あっ待って…

 夏美…

 こっこれ脱がしてくれよ」

翔はそう叫びながら背中のチャックをまさぐるが、

けど、なかなかチャックの位置を掴むことは出来なかった。

「あっ…

 くそっ

 脱げない…」

バタンバタン

尾鰭を床に打ち付けながら翔は転げ回るが、

しかし、さっきまで確かに存在していたチャックの筋が

少しずつ埋まるように潜り込んでいくと、

ついには手に引っかからなくなってしまった。

「…そんな…

 どうして…」

その事実に翔は幾度も幾度も背筋をなで回したが、

けど、幾ら探してもチャックは見つからない。

文字通り翔は人魚スーツの中に飲み込まれてしまっていたのだった。

その途端、

ミシッ!

ギュッ!

翔を飲み込んだ人魚スーツが次第に小さくなり始め、

ゆっくりと翔を締め上げ始める。

「くっ苦しい…」

次第に増してくる息苦しさに翔は喉を掻きむしり始めるが、

しかし、

人魚スーツはそんな翔をお構いなく更に締め付けていった。

「ぐわぁぁぁ」

メリメリメリ!!

翔の身体はスーツの強力な力によってまるで別の姿へとプレスされて行った。

足は1本に押しつぶされ、

肩から胸回りは小さく、

その一方でヒップは大きく張り出していく、

こうして翔の変化が進むに連れ、

かぶり物のはずのスーツに次第に感覚が通い始めていった。

そして、

「あぁっ

 うぉぉぉっ」

うめき声を上げる翔の野太い男の声も

徐々にキーの高い女の声へと変化していった。

どれくらい時間が過ぎていったのだろうか、

一連の苦しみが通り過ぎて翔がやっと一息をついた頃には、

日は暮れ、夜の闇が部屋を覆っていた。

「うぅ…」

肩で息をしながら翔がムクリと起きあがると

バサッ

薄い黄緑色をした髪が落ちてくると床の上に蜷局をまく、

「おっ俺は…」

女性の声でそう呟きながら翔が自分の身体を見ると、

パタン…

自分の腰から下には、

青緑色の鱗に覆われた下半身に、

その先に続くV字型をした尾鰭、

そして、同じく腰の両側から鋭く生える鰭が見えた。

「なっなんだこれ…」

その様子を見た翔はそっと手を差し出すと、

まずは腰の両側から生えている鰭に手を触れてみた。

すると、

クニッ

に鰭の付け根より鰭が動く感覚が翔の体の中を走っていった。

「あっ…」

その感覚を感じた翔は慌てて鰭から手を離すと、

「そんな…おっ俺…

 人魚に変身してしまったのか?」

白く細い姿になった自分の手を見た。

と、その時、

「!!」

あることに気づいた翔は這い蹲るようにして移動していくと、

人魚に変身した夏美に見せるために置いていた手鏡を探し始めた。

「どっ何処だっけかなぁ」

立ち上がることが出来ないために部屋の灯りをつけることができず、

差込始めた月明かりを頼りに翔は手鏡を探し回って小一時間…

「あった」

机の隙間に落ちている鏡を見つけると、

それを拾い上げることに成功した。

そして、急いで自分の顔を見ていると、

「あっあの人魚の顔になっている…」

手鏡に映し出された自分の顔はかつての面影はすっかり消え、

Webページで見た人魚の顔に変化していた。

「そんな…

 どうしよう…

 俺…どうしたら…」

ゴロン…

翔は空で煌々と輝く銀色の月を見上げながら呆然としていた。

ザァッ

ザァッ

尾鰭を動かすたびに尾鰭の先端が床をこすりつける。

ムギュッ

翔は自分の肌を思いっきり抓りあげてみると、

肌は持ち上がることなく、

代わりに

ズキッ!!

と言う痛みを翔に伝えた。

「はははは…

 俺…人魚になってしまった…よ…」

呆然とした口調で翔はそう呟いていると、

コンコン

「翔…居る?

 昼間はごめんね」

と夏美の声が響き渡ると、

チャッ!!

ドアが開き、夏美が部屋に入ってきた。

「なっ夏美?」

「え?、あなた…」

床に這い蹲る翔と夏美の視線がピタリと合う。



「えぇ!!

 人魚になっちゃったの?」

ようやく灯された明かりの下、

部屋の中に夏美の声が響き渡ると、

人魚の姿の翔がしゅんとしていた。

「本当にそれ脱げないの?」

興味津々に夏美が尋ねると、

「なんども、脱ごうとしたんだけど、

 でも、皮膚と一体化していて脱げないんだよ」

と鈴の音色のような声で翔は訴えた。

「はぁぁぁぁぁ…

 まぁ、これまでの罰かもね、

 でも、傑作ね。

 人魚フェチの翔が人魚になって仕舞うだなんて」

舐めるような目で夏美は翔にそう言うと、

「そんな…

 確かに俺は人魚は好きだけど、

 でも、人魚になりたいだなんてこれっぽっちも思ってないよ」

翔はそう言うと夏美ににじり寄った。

しかし、

「それにしても…

 よくもまぁここまで変身したものよねぇ」

にじり寄った翔をマジマジと見ながら夏美はそう言うと、

何かを悟った翔は夏美から少し間を空けた。

「なによ、その態度は」

翔が開けた間に夏美が文句を言うと、

ムギュッ

翔の細い腕を握りしめるなり一気に引き寄せた。

「あっ」

「へぇぇ…可愛い顔になったじゃないのよ」

そう言いながら目前に迫った夏美の顔に翔はいつの間にか怯えていた。

「はっ離して…」

「いやよ」

「お願い…」

「観念しなさい…ふふ」

怯える翔を見ているうちに夏美の心の中に次第にある欲望が芽生え始めだしていた。

「ふふ…可愛い…」

そう呟きながら夏美は翔を抱き寄せるとそっとその唇を塞ぐ、

「んん!!」

翔は目を丸くして夏美の身体を叩くが、

しかし、夏美の手は翔の下半身へと伸びると

そっとまさぐりだした。

「んんっ

 んん!!」

翔は顔を真っ赤にして首を振る。

すると、

クニッ!!

夏美の指先が何かを見つけるとそこを攻め始めた。

「(ぷはぁ!!)いやっやめて!!」

翔は無理矢理唇を引き離すと、

そう叫び声を上げたが、

しかし、翔のその声が夏美の心に火を付けた。

クチュクチュ

「ふふ…翔…すっかり濡れてきているわよ、

 翔って女の子になっちゃったのね、

 オッパイもほらっ
 
 こんなに硬くして…」

夏美はそう言うと、

コリッ

硬くなっている翔の乳首をつまみ上げた。

「いっ痛い!!」

「痛いじゃなくて、感じて居るんでしょう?」

ギリギリ!!

夏美は爪を立てて翔のピンク色の乳首を思いっきり引き延ばすと、

別の手は翔の秘所を激しく攻める。

「あっあぁん…

 出ちゃう出ちゃう!!」

バタンバタン!!

翔はそう叫びながら幾度も床に激しく尾鰭を叩きつける。

「ふふ…本当に陸に上げられた魚ね」

その様子を見ながら夏美はそう呟いていると、

ウニュッ!!

突然、翔の秘所から薄いピンク色をした管が顔を出すと、

秘所を攻めていた夏美の手を押し退けはじめた。

「なっなにこれ?

 オチンチン?」

ニュニュニュ…

見る見る伸びていく管を驚きの表情で夏美が見ていると、

「あぁん、

 出ちゃう…」

翔はそううめき声を上げながら

シュッシュッ

と管を扱きはじめた。

「へぇ…面白そう」

その様子を見た夏美は一緒になって管を扱く、

すると、

「あっあぁぁぁ!」

翔の声が挙がると、

管の中を一粒の黒い粒が通ると、

プッ!!

と言う音共に粘液に包まれた粒が管から飛び出した。

「いやっ、汚い!!」

粒が飛び出した瞬間、

夏美はそう言いながら身を伏せると、

ピチャッ!!

床の吹きこぼれた粒をシゲシゲと眺めた。

「こっこれ…

 卵だわ」

夏美は翔の管から飛び出した粒の正体を言い当てた。

「たっ卵?」

虚ろな目で翔が夏美に尋ねると、

「そうよ、

 ほら翔っ
 
 あなたが生んだ卵よ」

夏美はそう言いながら翔に粘液に包まれた卵を見せた。

「いやぁ…

 そんな物見せないで!!」

顔を背けながら翔は悲鳴を上げると、

ムギュッ!!

夏美の手が乱暴に翔の管を握りしめ、

ギュッギュッ

っと激しく攻め始めた。

すると、

「いやっ、止めて!!

 出ちゃう…
 
 もっといっぱい出ちゃう」

クビを激しく横に振りながら翔はそう訴えると、

「さぁ、

 生んじゃいなよっ

 思いっきり卵を産んで化け物になってしまいな」

夏美は言葉で翔を攻める。

「あっいやぁぁぁぁ!!!!」

その直後、

翔は身体を激しく痙攣させると、

プリュプリュプリュ!!

翔は体の中から絞り出すかのように、

大量の卵を吹き上げてしまった。



「見てぇ、翔!!!

 ほらっ、あなたが産んだ卵の山よ、

 こんなに……」

強制産卵をさせられて意識が朦朧としている翔に向かって、

夏美の声が響き渡った。

「へぇぇぇ…

 卵を産むなんて本当に魚女ね」

そういいながら夏美は翔を蔑視するような視線で見ると、

「さて、どうしようかなぁ」

と考える振りをする。

すると、

「あら?」

人魚スーツが入っていた箱を見つけると、

さっき翔が読んでいた説明書が目に入った。

「へぇぇ…

 このスーツって雄のもあるのね」

説明書の後ろに書かれてあるカタログを見た夏子はそう呟くと、

「そーいや、春奈の奴…

 以前、翔に気がある様なことを言っていたわね…

 まぁ、春奈はあんまり気が合わなかったし、

 そうだ、春奈を雄の人魚にしてしまえば…」

夏美の心にある悪巧みが考え浮かぶと、

「翔…あなたのパソコン…

 ちょっと借りるわね、
 
 どうせその身体じゃぁ、
 
 パソコンの操作も出来ないと思うけどね」

と翔に告げると操作を始めだした。

そして、画面を見ながら、

「翔っ、あなたにお婿さんを作ってあげるわ

 感謝しなさい」

と言うと注文をクリックした。



おわり