風祭文庫・人魚変身の館






「人魚ドレス」
(恵子の場合)


作・風祭玲

Vol.312





−本日、貸し切りのため、部外者は立ち入らないでください。社交ダンス部−

入り口に上記の一文が張られた講堂内に

「じゃぁ行きます!!」

と言う声が響くと、

ズンっ

チャッチャッチャッ!!

リズムが鳴り響き始めた。

そして、

ペアになった数組の男女がそのリズムに合わせて華麗なダンスを踊り出す。

すると、

「東野君、テンポが遅れているわよ」

「香山さん、足が逆!!」

彼らのダンスを見ながらコーチから厳しい指摘が次々となされる。

「相変わらず、コーチって手厳しいわね」

「うん、でも、流石はチャンピオンになっただけのことはあるわ、

 あたしなんか東野先輩の何処に問題があるか判らないもの…」

外から上級生のダンスを眺めながら1年生達がそう言い合う。

そして、彼らの視線は自然と中央で華麗なステップを踏む

須藤恵子と柳川建雄のペアに注がれていった。

「ねぇねぇ…

 須藤先輩と柳川先輩のペアって息がぴったりと合っていると思わない?」

「うん、確かにそうねぇ」

その声が次第に上がり始めてくると、

ギリッ

そんな二人を苦々しい気持ちで見つめている女性がいた。

3年の勝沼圭子である。

旧華族の勝沼家の長女として生まれた圭子は、

幼いときから華道や日本舞踊に秀でた才能を発揮し、

数々の家元から免許皆伝を受けた才女であった。

しかし、その圭子が遊び半分とはいえ、

入部した社交ダンス部が参加する

全国大会の出場メンバーから外されてしまったのだった。

「勝沼っ

 お前の技術は確かに素晴らしい、

 だがな、

 社交ダンスというのは二人の息が揃わなくては意味がないんだ、

 だから俺は柳川の相手には須藤が一番と考えて、

 お前には外れて貰った」

屈辱とも言えるコーチの言葉がエンドレスとなって圭子の脳裏を駆け回る。

「あっあたしよりも須藤が一番ですって?

 ふざけるにも程があるわ、

 あたしよりも上の者が居るなんて…

 そんなこと…絶対に認めませんわ!!」

そう呟くきながら固く握りしめた圭子の手からポタリポタリと血が滴り落ち始める。

とその時、

「ねぇ…

 大会で着る衣装が届いたから、

 衣装合わせの方お願い!!」

と衣装担当が講堂に入ってくるなり声を上げた。

「ようし…じゃぁ一度に行くと混乱するから

 順番に衣装合わせをしに行って来い

 他の者はここで練習だ!!」

とコーチが声を上げると、

「はーぃ」

一斉に声を上げた。

すると、

「コーチ」

圭子が声を上げると、

「あたし、する事がないので、お手伝いしましょうか」

と自ら進んでそう発言をすると、

ザワッ

周囲は一斉に彼女の言動に驚いた。

「あの勝沼さんが自ら進んで裏方に手を上げるだなんて…」

「何か企んでいるんじゃないの?」

「きっとトゥシューズに画鋲を…」

などの声が漏れてくると

「ふっ

 あたしってそんな目で見られていたの?

 悲しいわ…」

そう言いながら圭子は暗い表情をすると、

「そうか、じゃぁよろしく頼む」

コーチは圭子の申し出を快諾した。

「ありがとうございます

 じゃぁ、行きましょうか」

コーチの許可が下りると同時に、

圭子は衣装担当に歩み寄っていくと、

そのまま講堂を後にした。

こうして、一人づつ、

衣装合わせに講堂を抜けると、社交ダンス部の部室へと向かっていった。



「次は須藤さんの番よ」

衣装合わせから戻ってきた部員から恵子は順番が来たことを言われると、

「はぁーぃ

 じゃぁ、建雄っ
 
 ちょっと行ってくるね」

タオルで汗を拭きながら恵子はペアを組んでいる建雄にそう言うと、

ポニーテールの髪を揺らせながら講堂から出ていったが、

しかし、彼女は二度とここには戻ってことはなかった。



コンコン!!

「須藤でーす」

恵子の声が社交ダンス部の中に響くと、

「はーぃ」

圭子が大きな声で返事をした。

「あれ?、勝沼さんだけですか?」

圭子が一人でいる様子に恵子がそう尋ねると、

「あぁ、衣装の子ね、

 ちょっと出かけてくるって言って出ていったわよ」

と圭子が言うと、

「ふぅぅん…」

恵子はそう返事をしながら圭子を見た。

「じゃぁ、衣装合わせお願いできる?」

「あっはいっ」

圭子の言葉に恵子はそう返事をすると、

急ごしらえの更衣室へと入るとカーテンを閉めた。

すると、

「あっそうそう、

 衣装合わせをする時は、

 下着も全部脱いでいただけます?

 じゃないと本番の時に下着の線が出るとみっともないですから」

カーテン越しに圭子はそう言うと、

「あっはいっ」

ズボンの手を掛けていた恵子はそう返事をすると、

「そう言う物だっけかなぁ?」

とクビを傾げながら、

次々と脱いでいくとやがて全裸になった。

そして…

「あのぅ…」

っとすべてを脱いだことを圭子に知らせると、

「はいっ、

 じゃぁ、コレを着てね…」

と圭子の手がカーテンの中に入ってくると、

サァァァ…

一着の紺碧色のドレスが軽い音を立てながら恵子の目の前に差し出された。

「うわぁぁぁ…

 …不思議な感触…

 どういう素材なのかしら」

恵子はかつてしていたバイトのお陰で

大抵の布地は触っただけでその素材を当てることが出来るのだが、

しかし、このドレスの布地をいくら触ってみても、

その素材に関する情報と一致する素材名は出てこなかった。

「でも…あたしのドレスってこれだっけかな?」

以前、美術担当とドレスの色や形そして柄を決めたときに描いたスケッチと

微妙に違うドレスに恵子は首を傾げると、

「あのぅ…すみません、

 これ、本当にあたしのですか?」

と声を上げると、

「え?、ホントですか?

 でも…ちゃんと、須藤恵子って書いてありますわ」

圭子はそう答えると、

ガサッ

圭子の名前が書かれているビニールの大きな袋をカーテンの隙間から差し出した。

「あっ、本当だ…

 ごめんなさい、
 
 あたし違ったように見えたので」

そう恵子が圭子に謝ると、

「いいのよいいのよ、

 こういう事って良くある話ですから…

 あたしも頼んだ着物の柄が想像していたのと違った。

 なんて事は茶飯事ですしね」

そう圭子が言うと、

「はぁそう言う物ですか…」

恵子は大きくうなずきながら、

「でも、この素材って変わっていますね、

 まるで”なめした皮”みたいだけど…

 でも、一応、布なんだよねぇ…」

と恵子はドレスを目線の高さに持ち上げながら、

感心しながらその生地をシゲシゲと眺めた。

「ところで早くしてくださいます?

 後の人が待っていますので」

そう催促をする圭子の声が響くと、

「あっすみません」

恵子は謝るとイソイソとドレスを身につけ始めた

「えぇっと、サイズは大丈夫よね」

寸法を確かめながら恵子はドレスに足を通すと

ゆっくりと引き上げていった。

シュルリ…

すると、ドレスは恵子の身体に巻き付くように、

艶めかしい色を輝かせながら彼女の身体を覆っていく、

「うわぁぁぁ…

 なんか…

 変な気持ちになる…」

ピチッ

まるでレオタードのように身体に吸い付いてくるドレスの感触に

恵子は思わず感じるとその耳は次第に赤くなっていった。

キャミソールの肩ひもを肩に掛け、

シュッ

背中のジッパーを締め上げると、

恵子は正面に据えられた鏡を眺めた。

「うわぁぁぁぁぁ…

 凄い…」

鏡には胸回りから腰に掛けては色白のように薄く、

そして、腰から下は濃いマリンブルーに染め上げられたドレスが、

恵子の身体のラインを魅惑的に表現し、

膝下から広がっている裾がまるで人魚の尾鰭のようにキラキラと輝いていた。

「へぇぇ…」

すっかりセクシーな自分の姿に感心していると、

「着終わりました?」

確認する圭子の声が響くと、

「あっはいっ」

と恵子が返事をした途端、

ムズッ

ムズムズ…

急に圭子の身体がムズ痒くなり始めた。

「あっあれ?」

生地が傷むのを避けるために

恵子は爪を立てるのを避けて肘などで痒みを感じるところを押さえたが、

しかし、

恵子を襲い始めたムズ痒さは徐々に全身に広がっていった。

「これって…」

恵子はドレスに付いていた薬品が原因で自分の肌がかぶれ始めている。

と咄嗟に悟ると、

急いでドレスを脱ごうと背中のジッパーを探り始めたが、

「あっあれ?」

幾ら手を回してもさっき引き上げたはずのジッパーは何処にも存在していなかった。

「どうかした?」

カーテンの向こうから圭子が声を掛けてくるが、

「そんな…

 なんで?」

恵子はその声に返事をすることなく

幾ら探しても見つからないジッパーに次第に痺れを切らしはじめた。

そして、姿見に背を向けようとした途端、

「え?」

グラリッ

ドタン!!

「きゃっ!」

恵子はバランスを崩すとそのまま前のめりになって床の上に倒れてしまった。

「イタタ…なによぉ!!」

泣きべそをかきながら恵子が起きあがろうとするが、

しかし、幾ら脚に力を入れても

脚に力は入らず恵子は起きあがることが出来なかった。

「え?、なんで?」

両腕を使って這いずりながらも恵子は必死になって立ち上がろうとすると、

ミシッ

ミシミシッ

着ているドレスが彼女の身体を厳く締め付け始めた。

「うぅ…くっ苦しい…」

あまりにものの締め付け感に恵子は苦しみながらのたうち回っていると、

スッ

肩に掛けていたドレスの肩ひもがいつの間にか消えていた。

すると、

ムリッ!!

恵子の胸の乳房が徐々に膨らみ始めた。

しかし、恵子は

「くぅぅぅぅ!!」

締め付ける苦しさから逃れる為にドレスを引き裂こうと、

グッ

っと胸に手を掛けると、

チリ…

まるで肌を引き裂くような痛みを感じた。

「イタッ!!

 どうなってんの?

 これ?」

感じるはずのない痛みに恵子は驚くと、

サワッ

サワサワ…

サワサワ…

ドレスが次第に自分の皮膚のような錯覚に恵子は陥っていった。

「いやっ、

 誰か助けてぇ!!」

這いずりながら恵子は悲鳴を上げる。

しかし、傍で控えているはずの圭子はカーテンを開けなかった。

「かっ勝沼さん…

 くっ苦しい!!」

必死になって恵子はそう訴えるが、

しかし、カーテンは開かなかった。

すると、

ミシッ

ミシミシミシ!!

彼女の下身体を締め付けるドレスは更に締め付けを強めていくと、

ググググ…グニュゥ…

恵子の両脚を押しつぶし始めた。

「ぐがぁぁぁぁぁ!!」

2本の足を1本にするかのようなその圧力に恵子が絶叫をあげるが、

恵子の脚は次第に一本の肉棒へとその姿を変え、

そして、開いているドレスの裾は恵子の足を徐々に巨大な魚の鰭へと変えていった。

こうして、恵子の下半身が大きく姿を変えると、

ジワジワ…

ドレスの表面に鱗が次々と湧くように姿を見せ、

艶めかしい光を放ちながらその全体を覆っていった。



「くはぁはぁはぁ

 あっあたし…どうなっているの?」

恵子を長く苦しめていた苦しさがようやく次第に薄れたとき、

着ていたはずのドレスは消え、

恵子は裸の上半身を曝しだしていた。

その一方で、

パタン!!

パタン!!

と言う音を伴いながら

これまでに感じたことのない捻れを伴った動きを恵子の下半身がする。

「え?」

それに驚きながら恵子は自分の下半身を見ると、

「うっそぉ!!」

眼下に現れた魚類を思わせる自分の下半身に目を見張った。

「そんな…あたし…人魚になった…?

 そんなことって…」

いつの間にか淡い緑色になった髪を弄りながら恵子が呆然としていると、

「どうかしましたか?」

圭子の声がしたのと同時に、

シャッ!!

カーテンが開けられると圭子が覗き込んできた。

「かっ勝沼さんっ」

恵子は縋るような視線で圭子を見ると、

「すっすっ須藤さんっ…あっあなたって…人間ではなかったのですか!?」

圭子は驚くと恵子を指差しながら叫んだ。

「ちっ違いますっ

 あたしは人間です。

 どっドレスを着たらこんな身体になってしまったんです」

恵子はそう訴えるが、

「ドレスを着たらって…

 また、ヘンな事を言いますのね、

 でも、知りませんでしたわ、あなたが人間ではなかっただなんて…」

かがみ込んだ圭子は恵子の下半身を覆い尽くしている鱗を撫でながらそう言うと、

「ちがうっ、

 あたしは人間ですっ
 
 人魚なんかでは…あっ」

そう恵子が訴えた途端、彼女は顔を逸らせた。

クチョッ!!

「ふぅぅん…人魚のオマンコってこうなっているのですわねぇ」

圭子の手は股間から正面に突き出している恵子の局所を弄んでいた。

「あっ、

 いやっ

 そんなこと…やめて…」

パタンパタン

恵子は尾鰭を激しく床に叩きながら悶えると、

「ねぇ…あなたって本当は人魚なんでしょう?」

と圭子が囁いた。

「ちっ違う…あたしは人…」

喘ぎながら恵子がそう言おうとすると、

ブズッ!!

圭子の指が恵子の体内に入り込んだ。

「うぎゃっ…」

悲鳴を上げる恵子に

「あなたって本当は人魚なんでしょう?

と再度尋ねた。

「違うっ!!

 あたしは…

 あたしは…」

口をパクパクさせながら恵子がそう訴えると、

ズッチャ

ズッチャッ

圭子は指を重ねると、

グイグイと恵子の秘所を攻め始めた。

「いやいやいや、

 やめてぇぇぇ」

恵子は激しく首を振りながら圭子の手を握りしめると、

それを自分の身体から引き離し始めた。

しかし、圭子の必要な攻めはいつまでも続き、

そして、ついに恵子は

「だめぇぇぇ…

 でっ出ちゃう、

 出ちゃう

 出ちゃうよぉ!!」

と鱗に半分覆われた腹部を押さえながらそう訴えた途端。

ニュクッ

淡いピンク色をした管が伸びていくと、

プリュプリュプリュ!!

激しい音を立てながら細長い粘液に繋がった卵を吹き上げてしまったのだった。

「まぁ見て見て、

 ほらっ卵よ…」

まるで蛙の卵のような卵を掬いながら圭子が恵子に見せると、

「いやぁぁぁぁぁ!!」

恵子は悲鳴を上げながら首を振った。

「何を嫌がっているの?

 これはあなたがいま生んだばかりの卵よ、

 そう、あなたは卵を産む生き物…

 それが人間って言えて?」

と圭子は恵子に迫ると、

「うっ…」

恵子は圭子に気迫に押されていった。

「さぁ…あなたは何なの?

 言ってごらんなさいっ

 あたしは人ではありません人魚ですって」

圭子はそう言いながら、

ガリガリガリ!!

っと恵子の鱗に爪を立てた。

「痛いっ」

赤い血が滲みだした鱗を恵子が庇うと、

「まるで、魚の化け物ね…」

と立ち上がった圭子は恵子を見下ろしながらそう言うと、

グイッ

っと恵子の尾びれを脚で踏みしめた。

「痛い!!

 お願い、脚をどけて!!」

恵子は泣きながら懇願すると、

「あらっ、これって痛みを感じるのですか?」

と言いながら圭子は思いっきり踏みしめた後に脚を上げた。

「しくしく…」

泣きながら恵子が尾びれをさすっていると、

「魚ならあんまり長く陸にはいられないでしょう?

 ねぇ水が欲しくない?」

圭子はそう言うと、

ガタン!!

恵子の前に水が入ったバケツを用意した。

「さぁ、その中に頭を浸けるといいわ

 なんならあたしが浸けてあげましょうか」

そう言いいながら恵子の頭を鷲掴みにすると、

そのままバケツに近づけていく、

「いやっやめて!!」

恵子は悲鳴を上げるが、

しかし、圭子は思いっきり力を込めると、

恵子の頭をバケツの中に押し込んだ。

ガボガボガボ!!

頭を水の中に浸けられて恵子は暴れるが、

しかし、圭子は容赦しなかった。

「そうよ、肺の空気を全部吐き出しなさい、

 そうすると、あなたは水の中でしか生きられなくなるから」

笑みを浮かべ圭子はそう言いながら

何度も恵子の頭を水の中に押し込んだ。

やがて、恵子が頭を突っ込んだままグッタリとした頃、



コンコン!!

突然、部室のドアがノックされると、

ガチャッ!!

とドアが開けられた。

「あらっ」

中に入ってきたスーツ姿の男達の姿を見ながら圭子はすっと腰を上げると、

「お待たせしました、お嬢様」

と男達は圭子に頭を下げる。

すると、

「ご苦労様…

 後はお願いね」

圭子はそう男達に言うとそのまま部室から出ていった。

「変態完了を確認」

バケツから恵子の顔を引き上げた男達は、

簡単に恵子の身体検査をした後

持参してきたデジカメで恵子の身体を数枚撮影をすると、

バッ!!

っと頭から濡れた毛布を被せると、

そのまま恵子を連れだしていった。

「さようなら、須藤さん…
 
 柳川君のパートナーはあたしがシッカリと努めるから、
 
 あなたは水槽の中でお魚たちと泳いでいなさい」

そう言うと、講堂へと戻っていった。



コポコポ…

それからひと月後…

薄暗い水槽の中に恵子は漂っていた。

これまでの間に恵子の身体は水中での生活に順応し、

その肉体も少しづつ変化していった。

左右の耳は団扇のような鰭へと姿を変え、

両腕には水の通りの良いように鱗と鰭が生えそろい、

また手の指の間には小回りが利くように水掻きが姿を現していた。

そして、白く並んでいた歯は魚をかみ砕けるように、

小さく尖った歯に姿を変えていた。

ポチャン

ポチャン

小さい音を立てながら数匹の魚が水槽に放される。

すると、

シャァァァァァァ!!

水槽の暗闇から同じような姿をした人魚が次々と姿を見せると、

我先にと魚の奪い合いを始めだした。

そう、

人魚に変身したのは恵子だけではなかった。

圭子にとって差し障りのある女性たちは様々な方法でその姿を人魚に変えられ、

そして、この水槽の中で飼われていたのだった。



「おぉ、圭子や…

 大会はどうだったか?」

社交ダンスの大会から戻ってきた圭子に祖父の権蔵はそう声をかかると、

「ふふ…

 あんなもの、あたしの手に掛かれば簡単よ」

と圭子は優勝のふた文字が書かれた賞状を権蔵にみせる。

「おぉ、流石は私の孫だ!!」

権蔵はそう言って圭子を褒め称えると、

「で、恵子はどうしているのかな?」

そう言いながら圭子が水槽を覗き込むと、

「はは…すっかり身も心も人魚になってしまっているよ、

 もはや人間の時の記憶も失ったようだ」

と権蔵が恵子の状態を説明をした。

「ふふ…そうみたいね、

 まったく、

 あたしの上に立とうとするからこういう事になるのよ」

と圭子は呟くと、

コンコン

っと水槽を叩いた。



おわり