風祭文庫・人魚変身の館






「アルバイト」


作・風祭玲

Vol.306





ピコン…

ピコン…

定期的に聞こえる電子的な騒音に、

「うっ…」

手足の感覚を取り戻しながら田沢玲奈が目を覚した。

「…ここは……」

玲奈はいま自分が居る所を確かめるように首を回すと、

薄暗い部屋の中に置かれている寝台の上に寝かされてることに気づいた。

「え?」

状況を把握できないまま玲奈が両手足を動かそうとしてみると、

ガシッ

両手足に填められている枷が玲奈の動きを束縛し、

そのために手足を大きく動かすことが出来なくなっていた。

「うっくっ

 なんで…?」

玲奈は力の限り手足を動かしてみたが、

しかし、

寝台に直付けされているのか枷はびくともしなかった。

「どうして?」

玲奈は自分が置かれている状況を判断しようとすると、

ヒヤッ…

彼女は自分が全裸の上に手足を大きく広げた張り付けの状態で

寝台に横たえられていることに気が付いた。

「あっあたし…裸にされている…

 ねぇ…誰か…誰か居ないの?」

と声を張り上げたものの、

しかし、

誰一人、玲奈の声を聞きつけて駆け寄ってくる者は居なかった。

「一体何が…」

玲奈は記憶を一つ一つたぐり寄せながらここに至った経緯を思い出しはじめた。



「はぁ?、アルバイト?」

蝉の鳴き声が響くキャンパスに玲奈の彼氏である西崎隆二の声が響き渡った。

「そうよ」

そしてその横に玲奈が満面の笑みを浮かべながら立っていた。

「まぁ…アルバイトって言ってもね、

 ある意味職場訪問みたいなモノよ」

イスに腰掛けながらそう玲奈が説明をすると、

「ふぅぅん、

 そっか…もぅ就職活動をしないとならないか」

ポリポリ

そう言いながら隆二が頭を掻くと、

「え?、隆二…まさか何もしていないの?」

玲奈の素っ頓狂な声が響き渡る。

「なっなんだよ、

 いきなり大声を出すなよ」

両耳を塞ぎながら隆二がそう返事をすると、

「あっきれたぁぁ、

 あたし達3年生よ、

 もぅ早いヒトは2年生から始めているというのに」

「まぁ、何とかなるって、

 ホラ、俺んちの爺ちゃんって大会社の会長なんだぜ」

と隆二が指をさしながら言うと、

「はいはい、そうねぇ

 隆二はお坊ちゃんだもんねぇ」

玲奈は隆二のホラ話がまた始まったと取り合わない。

「ちぇっ、玲奈くらい信じてくれても良いのに…」

ふてくされ気味に隆二が文句を言うと、

「ところで、隆二?

 あんた、1年の女の子とつき合っているって聞いたけど…」

そう玲奈が尋ねると、

「そっそんなこと無いだろう?」

隆二は妙にそわそわしながら否定をすると、

「判っていると思うけど…

 もしも、フタマタかけていたら速攻で別れますからね」

と玲奈はきつく隆二に告げた。

「で、どっどこでバイトをするの?」

なるべく自分の方に話が向かないように注意しながら隆二が尋ねると、

「フリークショー・ジャパンって会社よ」

っと資料を見ながら玲奈は答えた。

「何をやっている会社なんだ?」

聞き慣れない名称に隆二が首を捻りながら尋ねると、

「まぁ手っ取り早く言えば外資系の製薬会社ね」

と玲奈は答える。

「ほーぉ、製薬会社ねぇ…

 そこ、俺も混ぜてくれるかな?」

自分を指さしながら隆二が玲奈に尋ねると、

「はいっ」

玲奈は資料を隆二に突きつけて、

「隆二が自分でアポを取りなさい、

 ただ、入れてくれるかどうかは判らないけどね」

と付け加えた。



そしてアルバイトの初日…

玲奈の他、数人の女子学生達は担当の社員に連れられながら、

社内を案内されていく。

そして、休憩後、

玲奈一人が呼ばれると社内の奥にある実験室へと連れてこられたのだった。

「えぇと…

 それで、白衣に着替えろって言われて…

 その後エアーシャワーを浴びて…

 あれ?

 そこから先の記憶が…」

とそこまで思い出したところで

チクッ

玲奈の腕に何かが突き刺さっているコトに気が付いた。

「え?、なにかしら」

そう思いつつよく目を凝らしてみると、

白い牛乳のような物質で満たされたパックがつり下げられ、

それから伸びた管が玲奈の腕に突き刺さっていた。

「なによ、これ…

 これじゃぁまるであたし…」

と玲奈があることに気が付いたのと同時に

シャッ!!

玲奈の正面にあるドアが開くと、

ボードを片手に持ち白衣に長沼と松任のネームプレートを付けた

二人の男性が部屋に入ってきた。

そして、玲奈がその二人の姿を見たとき、

何故か、玲奈には裸の自分を見られて恥ずかしいという気持ちより、

奇妙な安心感が心の中を覆っていった。




「あのぅ…」

礼奈が二人に声を掛けたが、

けど、二人は玲奈の掛けた声には答えず、

備え付けてある機器の点検を始めだした。

それからしばらくして

ようやく松任と書かれたプレートの男が玲奈の傍によると、

玲奈の腕に点滴を流し込むパックを点検し始める。

「あのぅ…

 すみませんっ

 あたしなんで…」

玲奈は松任に聞こえるように尋ねるが、

しかし、松任は玲奈の質問には答えず、

両腕にゴム手袋を填めると、

玲奈をまるで実験動物であるかのような態度で触診を始めた。

「………」

そんな男達の様子に玲奈は怯え始めた。

すると、

「どうだ、様子は…」

器具の点検をしていた長沼が玲奈を触診している松任に尋ねると、

「あぁ、こっちは大丈夫だ…

 ウィルスは全身に回っている」

と返事をした。

「え?、ウィルス?」

玲奈は松任が喋ったウィルスと言う言葉に思わず驚いた。

「あっあのぅ…

 ウィルスってなんですか?」

玲奈は触診をした松任にそう尋ねるが、

彼女が何度も尋ねても松任はその問いには答えなかった。

すると、計器を見ていた長沼が、

「おっけー、

 じゃぁ始めるか」

と言いながら男性の性器を模したゴム製の器具を手にしながら玲奈に近づいてきた。

そして、

トプン!!

っとその器具を玲奈の寝台の傍に置いてあった容器に浸けると

満遍なく器具の回りに溶液を染み渡らせる仕草をした後にそれを引き抜いた。

ネトォ…

器具から言いようもない糸が引いていく。

「ひぃぃ」

それを間近で見せられた玲奈は思わず身を引いた。

しかし、大の字の状態で手と脚に填められている枷が玲奈の動きを制限していた。

「やっやめて…」

怯えた声で玲奈は長沼にそういうが、

しかし、器具を手にして長沼がゆっくりと玲奈の傍に立つと

その器具を玲奈の秘所に近づけていった。

「いやぁぁぁぁぁ!!」

ズニュゥゥゥゥ…

未だに男を知らない玲奈の秘所に器具がねじ込まれると、

玲奈は激痛に身をよじった。

しかし、長沼は容赦なく器具を玲奈の体内奥深くに押し込んでいく。

「ぐわぁぁぁ!!」

体内を蠢くように侵入してくる器具に玲奈は声を上げるが、

長沼は玲奈に構わず、

「よぅし…スイッチを入れるか!!」

と言うなり、

パチン!!

と器具が繋がっている機器のスイッチを入れた。

その途端、

ぶぅぅぅん

玲奈の秘所に侵入した器具は軽い音をあげると、

ゆっくりと玲奈の身体に何かを注入し始めた。

「いやぁぁぁぁ!!

 だっだめぇぇぇ

 取って!!

 お願いだから!!」

注入されてくる液体に玲奈は

まるで釣り上げられた魚のように身体を飛び跳ねながら叫んだ。

「いやぁぁぁぁ

 あぁ…
 
 染みこんでくる
 
 染みこんでくるよぉ!!
 
 いやぁぁ
 
 やめて!!」

玲奈は器具を通して体内に放出される液体を感じながら気を失ってしまった。



「うっ」

再び玲奈が気づいたとき、

彼女の秘所に押し込まれていた器具は取り除かれ、

また、両脚を拘束していた枷も外されていた。

「終わったの?」

秘所から滴り落ちてくる分泌液を感じながらそう呟いていると、

ミシッ!!

ミシッ!

玲奈の体の中から異様な音が響き始めた。

「なに?」

体の中から響く音に玲奈は左右を振り向くと、

「あっ…脚が…」

そう、次第に玲奈の脚の力が消え失せ、

それが、異様な”だるさ”となって玲奈を襲い始めた。

「なに…

 脚に力が…入らない…

 それに…」

言いようもない脱力感と共に玲奈の足はすべての動きを失った。

そして、それと同時に玲奈の骨盤がまるで溶けていくような感触がしてくると、

ジワジワ…

身体の芯から徐々に熱くなり始めた。

「あぁ…

 なっなんなの?

 体が…熱い!!」

身を焦がされるような熱さに玲奈は全身から吹き出すように汗を流し始める。

そして、それに合わせるように

ジュルジュルジュル…

これまで自分を支えてきた脚の骨が次第に無くなっていった。

「あぁ…脚の骨が…」

次第に骨を失っていく感触に困惑しながら

玲奈が顔を上げて自分の脚を見ると、

ジュクッ!!

玲奈の二本の脚は脚としての機能を失うと、

まるで溶けるように一つに癒着し始めていた。

「え?」

それを見た途端、

シャァァァァ…

脚の変化と同時に玲奈の内臓の形が変わったために

彼女の膀胱が圧迫され

それによって玲奈の秘所から尿が漏れ始めた。

「あっあっいやっ」

湯気が上がる股間から玲奈は目をそらす。

しかし、

ニュクッ!!

尿を放出した秘所とは独立をしていた存在だった肛門が

正面に移動してくるとその中へと入り込んでいく。

「いや!

 いや!!
 
 いや!!!」

玲奈は盛んに頭を振って自分の変化していく身体を拒絶した。

だが、玲奈の変身は彼女の気持ちとは裏腹にそのピッチをあげていく。

メリメリメリ!!

すでに骨盤から下の骨を失った玲奈の下半身を脊柱が伸びていくと、

一本の肉棒になった脚の新しい骨格となっていく。

すると、骨格を得た脚だった肉棒が左右に前後にと捻るように動きはじめた。

「いやぁぁぁぁ」

ピタン!

ピタン!!

弱々しい玲奈の声と共に、部屋の中に寝台に脚を打ち付ける音が響き渡る。

ムリムリ…

骨柱が脚の中を伸びていくとその横方向にも骨が伸びていく、

すると、次第に玲奈の下半身は流線型の姿へと変化していった。

ムリムリ…

まるで魚を連想させる姿へと玲奈の下半身が姿を整えていくと、

そのすぼまった先、

かつて足先があったところから幾本もの硬い筋が伸び始めていった。

そしてその筋と筋の間には半透明の膜が張っていく。

「これは…」

玲奈は足先を持ち上げて魚の尾鰭のような姿になった自分の足先に目を見張ると、

ジワジワ…

彼女の白い肌にまるで沸き出すように紅い鱗が生え始めた。

ジワジワ…

玲奈の下半身に生え始めた鱗はまるで花が開くように覆っていくと、

徐々に艶めかしい光沢を放ち始める。

「これじゃぁ…まるで人魚…」

魚の形に変化した自分の下半身を持ち上げながら

そう呟く玲奈は文字通り半人半魚の人魚へと姿になっていた。

「そんな…

 そんな…」

ピチッ

ピチッ!

魚の尾鰭に姿を変えた脚を寝台に叩きつけながら、

玲奈は呆然としていた。

すると、

グッ!!

玲奈の変身を見届けた長沼の手が玲奈の尾鰭をきつく握りしめると、

松任の手が玲奈のウェストの下の方をまさぐり始めた。

そして、鱗に覆われているスリットを見つけると、

その中へと手を滑る込ませる。

「あっ、

 いやっ、
 
 やめて!!」

松任の手が玲奈の敏感な部分に触れると、

玲奈は顔を真っ赤にして身をよじった。

チュク…

そこには玲奈の腟と肛門が仲良く並び秘所を構成していた。

男性たちは乱暴気味に彼女の腟を探ると、

そこから血液サンプルと写真を取ると、

玲奈を束縛していた手かせを外した。

「そんな…あたしの脚が…」

ようやく自由になった玲奈が、

魚の尾鰭に変化した脚を触りながら驚いていると、

男は玲奈には構わずにサンプルと分析器かけた。

やがて、出てきた結果に松任は満足そうに頷くと、

「玲奈さん…

 あなたの変換はいま終わりました。」

と寝台の上に居る玲奈に告げた。

「変換?

 なんですか?それは?」

ようやく口を開いた松任の口から出てきたその言葉に玲奈が怪訝そうに聞き返すと、

「はいっ、

 あなたは人魚に変身したのです。」

と松任は玲奈に告げる。

「それは、判ってます。

 なんで、あたしが人魚にされたのですか?

 そもそも、ここはなんなんのです?

 あたしを元の女の子に戻してください」

そう玲奈が訴えると、

「はははは…

 それは無理だよ。」

長沼が答えた。

「そんな…

 酷い…
 
 あたしの身体を勝手に弄って…」

体を震えさせながら玲奈がそう言うと、

「あっそうだ、面白い物を見せてあげるよ」

長沼は玲奈にそう言うと、

ピッ

っとモニターのスイッチを入れた。

すると、

『…町の交差点で、田沢玲奈さんが走ってきた乗用車に跳ねられ、

 近くの病院に運ばれましたが間もなく死亡しました。

 玲奈さんを跳ねたのは…』

と淡々とニュース原稿を読むアナウンサーが映し出された。

「え?

 これって…」

自分の死亡ニュースに玲奈が驚くと、

「いやぁ…可哀想ですねぇ…

 玲奈さん、あなたは交通事故で死んでしまったんですね」

と長沼は笑みを浮かべながら玲奈に告げた。

「そんな…そんなことって…」

「はははは…

 玲奈さん、あなたは人間の社会では死んでしまったんですよ、

 そして、我々の目の前には玲奈さんによく似た人魚がいる。

 この意味判りますか?」

長沼はそう玲奈に迫りながら尋ねると、

「うっ」

玲奈は身を引いた。

「そう、あなたを探す人はもぅ何処にも居ません。

 それどころか、あなたが仮に逃げ出して誰かに助けを呼んだとしても、

 その人は化け物の姿をしているあなたを見てなんと思いますか?」

そう言いながら玲奈を攻め立てる長沼に、

「やめて!!」

玲奈は両耳を思わず塞いだ。

ところが

「え?」

ザラッ!!

玲奈の耳は姿を消し、

代わりに鋭く立った鰭がそこにあった。

「おや、気づきましたか?

 あなたの身体で代わった部分は脚だけではありませんよ、

 お客様の注文で、

 あなたの至る所が代わっていますよ、

 ほらっ

 息苦しくありませんか?」

「え?(はぁはぁ)」

松任に指摘されて始めて玲奈は呼吸が徐々に辛くなってきていることに気づいた。

「そう…

 あなたはもぅすぐ陸の乾いた世界では生きていくことが辛くなりますよ」

そう松任は玲奈に告げる。

「(はぁ)あのぅ(はぁ)

 さっき言っていた(はぁ)

 注文って?」

息苦しさを感じながら玲奈が最後の質問をすると、

「あぁ、それですか…

 我が社のもう一つの事業の柱はあなたのような怪物を作ることです。

 そう、顧客からの注文に応じて我々は素材を吟味し、

 そして、素材を加工して顧客に納品をする。

 いやぁ人魚はことのほか人気が高くって…

 先週も2つを作りまして、納品させて貰いました。」

そう松任が玲奈に告げると、

「こっ(はぁ)この…(はぁ)

 人でなしっ!!」

玲奈は息苦しさに耐えながら怒鳴った。

「おやおや、

 もぅ限界ですね…

 ほらっ、肌もすっかり乾いてますよ、

 さぁ、そろそろ水の中に入りましょうか」

松任はそう玲奈に告げると、

ガラガラ…

水の入ったバスタブを二回り大きくした水槽を玲奈の前に移動してきた。

「さぁ、入っていいんですよ、

 その苦しさからすぐに開放されますよ」

松任はそう玲奈に催促をする。

「だっ(はぁ)、誰が…(はぁ)」

歯を食いしばりながら玲奈は抵抗をするが、

しかし、彼女の心の底では

今すぐにでもその水の中に身を委ねたい気持ちが持ち上がっていた。

「はぁはぁ、ぐぅぅ…

 ダメよ、入ったらあたしはもぅ…出ることが出来なくなる」

玲奈は本能的に水の中に入ったら最後、

二度と陸では生活が出来なくなってしまうことを悟っていた。

しかし、

「やれやれ、世話の焼ける人魚だ。」

松任はあきれ返りながらそう言うと、

ガッ

玲奈の頭を掴むと強引に水へと近づけていった。

「(はぁ)いやっ、いやよ」

玲奈は抵抗をするが、

「お前がこのまま死なれたらうちは大損害なんだ、

 さっさと水の中で大人しくしていろ!!」

と怒鳴ると、

グィグィ

と玲奈に顔を水面に近づけていく、

「いやぁぁぁぁぁ!!」

その叫び声を残して、

ザボン!!

玲奈は頭から水の中に落ちていった。

シュワァァァァ…

水が玲奈の身体を包み込むと、

次第に玲奈の息苦しさは解消され、

また、乾ききっていた肌や鱗も瑞々しさを取り戻していった。

しかし…

これによって玲奈は陸では生活が出来ない身体になってしまった。



しゅるるる…ポチャン!!

ゆっくりと尾鰭を棚引かせながら玲奈が水の中に入っていくの確認して、

「さて…」

パンパン!!

松任が埃を叩くように手を叩いていると、

「やっと終わったか

 お前は優しすぎるんだよ、

 コイツはもぅ人間じゃなくて只の商品だろうが、

 商品にそんなに詳しく説明をしなくてもいいんだよ」

とその様子をジッと見ていた長沼が松任にイヤミ半分にそう言うと、

「あぁ、判っているよ、

 こうして絶望を叩き込まないと、

 大人しくならないからな」

松任はそう答えると玲奈の入った水槽の蓋を閉めた。



ぐぉぉぉぉぉん…

玲奈の入った水槽を乗せたトラックは高速道路を走っていく、

ゴボ…

その水槽の中で玲奈はじっと自分の手を見つめていた。

ミシッ!!

彼女の手は既に姿を変え、

細長く伸びた指に大きな水掻きが張り、

そして、それに続く腕にも鱗が姿を見せていた。

「隆二…あたし…人魚にされちゃった…」

玲奈はそう呟くと鰭のような姿になってしまった両手で顔を覆った。

すると、

コンコン!!

「こんにちわ…」

何者かが玲奈の水槽を叩くと挨拶をした。

「え?」

掛けられた声に玲奈が驚くと、

ヌゥ…

玲奈の水槽の前に一頭のウシ…が姿を見せた。

「だっだれ?」

「へぇ、人魚か…いいなぁ」

ウシはそう言いながら玲奈を見つめる。

「ウシがしゃべった…ってあなた…人間だったのですか?」

驚きながら玲奈がウシに尋ねると、

「そうねぇ…

 今朝まではあたし人間だったんだけどね…」

とウシは玲奈に話す。

「じゃぁ、あなたも彼奴らに?」

「そう、人間の女をウシにした牧場を開くとか言うとんでもない奴の可愛い犠牲者よ」

ウシは玲奈にそう言うと、

ブルン!!

と大きく張った乳房を見せた。

「はぁ…

 バストアップをしてくれるという話だったんだけどねぇ…

 それがこの有様、

 これじゃ男も振り向いてくれないわ

 その点あなたは良いわよ、
 
 人魚だなんて」

とウシは羨ましそうに玲奈に言うと、

「そうですか?

 あたし…もぅ水の中でしか生きられないのですよ、

 もしも、水から引き上げられたら、

 恐らく数時間で死んでしまいます。

 歩くことも、逃げることも出来ない…」

寂しそうに玲奈が答えた。

「そうか…

 陸に居られるだけあたしの方がましか…

 まっ、元気を出して…ね」

「うん、あなたも…」

そう言いながら2人の女性たちはお互いを慰め合った。



その数日後、

玲奈は中央に珊瑚の塊を置いた巨大な水槽の中を漂っていた。

トラックの中で励まし合った雌牛女性は牧場へと連れて行かれ、

一方、玲奈は注文をしたとある大企業の会長の別宅へと連て来られて、

そこの一室に用意してあったこの水槽に放されたのであった。

ツンツン…

色とりどりの魚が玲奈の身体を突っつく、

「………」

そして、玲奈はそんな魚たちを戯れる日々を過ごしていた。

そんなある日、

コン!!

っと玲奈が入っている水槽が叩かれると、

「え?」

玲奈は思わず目を見張った。

「へへ…」

無理もあるまい、玲奈の前にあの隆二が立っていたからだ。

「隆二…なんで…」

驚きながら玲奈が隆二を見つめると、

「よっ、玲奈…

 久しぶり、

 その人魚姿も板に付いたじゃないか」

と隆二は玲奈に言う、

「なんで…どうして…」

予想もしない隆二の登場に玲奈の頭が混乱すると、

「はははは、言ったろう?

 俺の爺ちゃんは大会社の会長だって」

そう隆二が言うと、

「ねぇ…人魚がいるって本当?」

と言う声と共に一人の女性が部屋に入ってくると隆二のそばに寄ってきた。

「あっ、彼女…」

女性を一目見た途端、

玲奈はその女性が隆二が玲奈と共にフタマタを掛けている相手だと思い出した。

「うわぁぁぁ…

 人魚って本当にいたんだ」

玲奈の姿を見てその女性は驚きながら玲奈の姿を食い入るように眺めた。

「凄いだろう、里沙…」

「うん…」

隆二は笑いながら里沙の肩に手を乗せて玲奈を見ると、

「ねぇ、あたしもあんな人魚になりたい!!」

と里沙は隆二に言うと、

「さぁて…どうかなぁ…

 取りあえず爺ちゃんに相談だな…」

そう言いながら隆二と里沙は連れ立って部屋を後にした。

「そう…そうだったのね…

 全部…隆二が仕組んだことだったの…」

玲奈は自分を人魚に改造するように依頼したのが隆二だったコトをそのとき悟った。



おわり