風祭文庫・人魚変身の館






「岬の変身」
…岬の場合(前編)…


作・風祭玲

Vol.742





「え?

 サヨナラってどういう事?」

夕日を背にして男が呟くと、

『ごめんなさい…

 あたし…

 もぅ岬と住む世界が違うのよ…』

波しぶきの中より顔を覗かせる女が返事をする。

「そんな…

 だって、僕たち…」

女に向かって男がそう言いかけたところで、

バシャッ!

波の中から勢いよく魚の尾びれが飛び出すと、

『見て、

 あたしの尾びれ…

 あたしは人魚。

 人魚なのよっ

 もぅ陸の上では生きていけない身体になってしまったの。

 海の中でしか生きることが出来ないのよ』

と女は涙ぐみながら言い返した。

「そっそんなの、

 関係ないよっ

 舞子が人魚だって?

 舞子は人間だよっ

 人魚になってしまったのは病気が原因じゃないか?

 病気が治れば元に戻るんだろう?」

なおも男が食い下がると、

フルフル

女は幾度も首を横に振り、

『だめよ、

 あたし知っているのよ、

 人魚病に罹った女は人魚になり、

 そして、永遠に元の姿に戻れないって…

 実はねっ

 この海の近くには人魚になった女性達のコロニーがあるそうなの…

 だから、あたし…

 そこに行くわ…

 もぅ、岬とは住む世界が違うのよ、

 あたしのことは…忘れて』

女はそう言い残すと大きく息を吸い込み。

バシャッ!

この世の別れの如く波間に姿を消していくと、

「待って、

 待って、
 
 そんな、舞子っ」

女が消えた海に向かって男の絶叫が何時までも響いていた。



科学の世紀といわれた21世紀、

だが、人類はなぞの奇病による危機の直面していた。

それは、全く健康な女性の脚力がある日突然衰え、

歩調をあわせるように二本の脚が萎縮退化、

ついには歩行が困難になってしまうのである。

そして、脚を失った代わりに、

鱗を纏った魚の尾びれが腰から成長をしてゆくと、

乾きに弱くなり、

手には水かきが幕を張る。

これらの変化が進んだ時点で彼女達は水の中でしか生きられなくなり、

その姿から人々は人魚病(マーメイドシンドローム)と呼び、

恐れるようになったのである。



だが、決して人類がこの奇病に負けたのではない。

多くの科学者や医者が果敢にも人魚病に挑んでいた。

そして、ここにも人魚病に人生を掛けて立ち向かう勇敢なる一人の科学者が居た。

水下真琴(29才・♀)…

帝大を首席で卒業し、

将来を渇望されたものの、

生命倫理を完璧に無視した研究を行ったために、

遺伝子工学の暴走族とあだ名され、

ついには学会から除名処分されてしまったのであった。

だが、その程度で挫ける彼女ではない。

かつて帝大の死神博士と呼ばれ、

数多くの人体実験を行った後、

姿を消した若き天才・月夜野に憔悴する彼女は、

人魚病の原因を突き止めることで

自分を追放した学会の権威を失墜させるため、

日夜研究にいそしみ、

そして、ついにウィルスの分離と培養に成功したのであった。



カッ!

ゴロゴロゴロ!

窓の外を稲光の明滅が瞬き、

窓から吹き込む風に白衣を羽ばたかせながら、

「うふふっ、

 出来た。

 ついに出来た。

 凄いッ

 凄いわ、

 あたしって天才!

 天才よぉぉぉ!!!

 おーほほほほっ」

濛々ととわき上がる怪しげな霧を従え真琴は笑い続ける。

そして、そんな彼女の手元には、

オレンジ色の怪しく輝く液体が入った試験管が握られ、

コポコポ

っと不気味な泡を吹き上げていたのであった。

「ふふっ、

 ついに…

 ついに…人魚病のウィルスを突き止め、

 それの分離・培養に成功したわ。

 あとは、これをどこかの誰かに感染させて、

 本当に人魚に変身してしまうか確認するのよ」

命の大切さ、尊さを全く鼻に掛けない彼女は、

背筋が寒くなるような台詞を呟き、

心当たりを考え始める。

と、その時、

真琴のケータイが軽やかな音色を立てながら鳴り始めた。

「あら、電話?

 もぅいいところだったのに」

雰囲気を引き立てるために

窓の外で回っていた扇風機と

特殊効果用のドライアイスのスモークを止めて真琴が電話に出ると

電話を掛けてきたのは彼女の後輩である宮崎岬だった。

「あら、宮崎君じゃない。

 お久しぶりぃ、

 元気している?」

久々に聞く後輩の声に真琴は明るく振舞いながら話しかけると、

電話口の岬の声はどこか沈み、

そして、涙声にも聞こえていた。

「どうしたのぉ?

 なんか目茶暗いけど、

 彼女にでもフラれたの?」

岬が一歳年下の御庄舞子と言う娘と付き合っていることを人伝に聞いていたため、

茶化すつもりでそう話しかけると、

電話口の岬は突然押し黙ってしまった。

「(え?

  まさか、マジだったの?)」

岬の態度に真琴は困惑していると、

『せっ先輩っ

 先輩は人魚病について研究をなさっているんですよね』

と切り出してきた。

「えぇまぁ

 そうだけど」

岬のその質問に真琴は返事をすると、

『先輩に折り入ってお願いがあります、

 お時間を取っていただけますか?』

と岬は言い、

待ち合わせの場所と時間のアポイントを求めてきた。

「えぇ、いいけど…」

岬の口調からピンっとあるモノを感じ取ると、

チラリ

と壁に掛かる時計を見つめ、

「判ったわ、

 じゃぁ、今日の18時に会いましょう」

と真琴は会う約束をすると、

イソイソと研究室を出て行った。



「え?

 人魚病のワクチン?」

街の中心部、

繁華街にあるとある喫茶店に真琴の困惑する声が響いた。

「そうですっ

 人魚病のワクチンです。

 先輩はそのワクチンの開発に勤しんでいる。と聞きました。

 そして、そのワクチンの開発に成功したとも…」

縋るような目で真琴を見詰めながら、

岬はそう訴えると、

「ぶっ!」

真琴は口をつけていたアイスコーヒーを思わず吹き零した。

「だっ(ゲホ)

 誰に聞いたの、それ?」

岬の口から出た言葉、

特にワクチン開発については極秘にしていただけに、

岬がそれを知った情報の経路を問いただすと、

「郷矢先輩が言っていましたよ。

 水下先輩が人魚病の研究に没頭していて、

 間もなくワクチンが出来るって…」

と岬は答える。

「まったく、

 ごーちゃんったら、

 お喋りなんだから…」

それを聞いた真琴は不機嫌そうな顔をするが、

「水下先輩は学生時代から優秀でしたし、

 先輩ならワクチンを作ることが出来ると思います。

 ですから、

 出来上がったワクチンをぜひ譲ってください」

と訴えながら真琴の足元に土下座をした。

「ちょちょっと待って、

 宮崎君。

 全然話が見えないんだけど、

 なんであなたがワクチンを必要としているわけ?」

土下座をする岬に真琴は問いただすと、

「実は…」

真琴に向かって岬は事情を話し始めた。



「ふぅーん、

 そういうことだったの」

話を聞き終わった真琴はテーブルに両肘を突き、

手のひらの上に顎を乗せながら頷くと、

「はい、

 人魚病を発病してしまった舞子さんは

 すぐに歩けなくなり、

 そして、ひと月もしないうちに

 脚を失うと魚の尾を生やし、

 人魚になってしまったんです」

と岬は説明をする。

「随分と進行が早いみたいけど、

 抑える薬は使ったの?」

「はぁ、

 医者が言うにはウィルスとの適合率が高く、

 薬は役に立たなかったとか…」

真琴の質問に岬はそう答えると、

「ちっ!

 自分の役立たずさを患者に転化か?」

と真琴は呟いた。

そして、岬を見て、

「要するに、

 病気で人魚になっちゃった舞子ちゃんを人間に戻したい。

 って話ね」

と指摘すると、

「はいっ

 心ならずも人魚になってしまった舞子さんは、

 水がないと生きてはいけない身体になってしまったんです。

 不慣れな海の中で舞子さんがさびしい思いをしていると思うと、

 僕は胸が張り裂けそうで…」

岬は頷き力説するが、

「…逆にあんたの鬱陶しい顔を見られずに済んで、

 ルンルンしているんじゃないのぉ?」

と真琴は小さな声で呟く。

「え?」

その言葉が聞こえたのか、

岬が聞き返してくると、

「あぁ、こっちの話…」

真琴は慌てて発言を取り消し、

「(…とは言ってもねぇ

  まだ、こっちは人間を人魚にする段階よぉ、

  人魚を人間に戻すのはずっと先の話なのっ。

  はぁ、早くあたしが作った薬で誰かを人魚にして、

  そして、その変身過程から正確なメカニズムを調べ上げないと…)」

と思いながら岬を眺めていた。

そして、

「(!!っ

  あれ?

  そういえば岬って人魚になった舞子ちゃんから

  離れ離れになっているのがイヤだって言っているのよね。

  だったら、いっそ人魚になってしまえば良いんだよね。

  そっか、

  なぁんだ、実験材料はあたしの目の前に居たじゃない)」

とニンマリと笑いながら考えをまとめると、

コホン!

真琴は咳払いをし、

そして、

キッ!

キツイ表情で岬を見据えると、

「一つ、君は誤解をしているわ」

と告げた。

「ごっ誤解ですか?」

真琴の口から出た言葉に岬は驚くと、

コクリ

真琴は大きく頷き、

「あたしが作ったのは、

 人魚病を引き起こすウィルスを分離したまでで、

 まぁ、意図的に人間を人魚病に罹らせ、

 人魚にしてしまうところまでは出来た。

 という事なのよ」

と説明をした。

「そっそなんですか…」

その説明に岬はがっかりとすると、

「でもね…」

真琴は話を続け、

「ウィルス分離の際にあることを発見したの」

と告げた。

「あることって?」

すかさず岬が聞き返すと、

「人魚病って女性しか発病しないし、

 変身しないでしょう。

 でも、あたしが発見したのは、

 男性も人魚にしてしまう因子なのよ」

と真琴は言う。

「男性も…人魚に…」

それを聞かされた岬は目を丸くして驚くと、

「うんまぁ…

 同時に性転換もしちゃうので、

 女の子になってしまうんだけどね…

 で、一つ提案があるんだ。

 宮崎君、

 君っ人魚になってみない?」

と岬に提案した。

「にっ人魚にですか?

 僕が?」

「そうよっ、

 人魚になってしまった舞子ちゃんの傍に居たい。

 けど、人魚の舞子ちゃんを人間に戻す薬は無い。

 ところが、男の子の君を人魚にする手立てはある。

 どう?

 この厳しい条件の中、

 君が一番ハッピーになれるのはどうしたらいいか、

 無論、判るよねぇ…」

かつて死神の微笑と周囲を恐怖させた微笑を見せながら、

真琴は岬に迫ると、

「それは…」

岬は即答を避ける。

だが、

「舞子ちゃん、

 今日も水の中で寂しい思いをしているんじゃない?

 誰も暖めてくれない水の中で、

 一人、人魚になってしまった自分の体を呪っているんじゃない?

 そして、人魚になった途端、

 自分を見捨てた岬君を恨んでいるんじゃないのぉ?」

と指で岬の胸先を幾度も突付きながら真琴は囁く。

「違うっ

 僕は舞子さんを見捨てたわけじゃないっ」

真琴の指摘に岬は声を荒げて否定すると、

「じゃぁ、

 迎えに行ってあげなさいよぉ、

 君も人魚になって…

 二人とも人魚になってしまえばバラ色の未来が待っているわぁ」

と言うと真琴は岬の肩を叩いた。



「僕が人魚に…」

岬はそう呟くと、

スゥ…

気持ちを落ち着けようとしたのか岬は深呼吸をし、

「あの、男性のまま人魚には…

 なれないのですか?」

と尋ねた。

「うーん、残念ながら、

 それは無理ね。

 一度女の子になってから人魚に変身するプロセスを経るから」

その質問に真琴はそう説明すると、

「そうですか、

 で、僕が人魚に変身するのにどれくらいの時間がかかるのですか?」

真琴の答えにやや落胆しながらも

岬は変身に掛かる時間を尋ねると、

「うーん、

 まだデータが揃わないからなんともいえないけど、

 2ヶ月ってとこかしら」

と真琴は答え、

「2ヶ月も…」

その答えに岬は言葉を詰まらせる。

すると、

「あら、女性が人魚化する場合と大して変わらないと思うし、

 それに君の場合、

 性転換のプロセスも掛かるから、

 これでも早いほうだと思うわよ」

と真琴は数字の正当性を強調した。

そして、

「さて、

 以上でいいかなぁ、

 どうする?

 と言っても、

 舞子ちゃんを見捨てることが出来ない君には

 選択肢は無いと思うの…」

と付け加えると、

「人魚になりなさい。

 宮崎岬」

岬の目を見詰めながら命令をした。



ガチャッ!

「さっ

 ここが私のラボよ

 遠慮しないで入って」

真琴に導かれて岬が彼女の研究室に踏み入れたのは、

それから1時間後のことであった。

忙しくLEDの明かりを明滅させながら

所狭しと並んでいる怪しげな機械に、

不気味な泡を吹き上げるフラスコ瓶、

そして部屋の各所に据え付けられているカメラの類に

岬は呆気に取られていると、

「あぁ、

 初めてだよね、ここ

 まぁ開いているところに適当に座って」

真琴は岬に向かってそう言いながら、

「ハルカちゃぁん。

 ちょっと来てぇ!」

と床から伸びる伝声管に向かって声を張り上げた。

やがて、

『いらっしゃい・ませ』

と機械的な声を上げながら、

ナース服姿の一人の少女がぎこちない動きで入ってくると、

「あぁ、

 紹介するわ、

 わたしの助手のハルカちゃんよ、

 あなたの面倒は彼女に見てもらうからね」

と真琴は彼女を紹介した。

『ハルカと・申します。

 よ・ろ・し・く

 ミサキ・さま』

少女・ハルカはそう挨拶をすると、

キキキ…

身体をかすかに軋ませながら頭を下げる。

「はっはぁ…

 こちらこそ」

頭を下げるハルカにミサキは困惑しつつもペコリと挨拶をすると、

「なっなんか作り物みたいですね

 それに、以前何処かで会ったような…」

とハルカを見た感想を言う。

すると、

「あぁ…

 彼女はちょっと前まで普通の人間だったのよ。

 岬君ってハルカに会ったことあったっけ?

 まぁ色々あってね。

 100%機械の身体になって、

 で、あたしが面倒を見ているの。

 あれ?

 生身の部分ってあったっけ?

 ハルカ?」

真琴はハルカについて説明をすると、

意地悪っぽくハルカに聞き返した。

すると、

キキキ…

『はい・

 いまの・わたくしに・残っている・

 草野遙の・部分は…

 脳と・脊髄の・一部。

 それと、筋肉組織が・若干』

真琴の質問にハルカは返事をした。

「ちっ!

 そうか、

 まだそんなに残っていたか」

それを聞いた真琴は悔しそうな顔をすると、

「あのぅ…」

二人のやり取りを聞いていた岬が不安そうな顔をする。

「あはは…

 大丈夫大丈夫、

 あくまでもこっちの話だから、

 岬君は別口よ」

と真琴は慌ててウィンクをして見せ、

そして、

「ハルカちゃん、

 例の薬と注射器の準備を」

とハルカに指示をした。



「さてと、

 岬君っ

 これからウィルスを注射するけど、

 それ以降について、

 全て君の様子をビデオ撮りをさせて貰うけど、

 良いよね?」

注射器を前にして真琴は岬に尋ねると、

「ビデオですか?」

と岬は聞き返す。

「そうよっ、

 君が人間から人魚になっていく様子を

 ビデオという形で残させて貰って、

 研究に使うわ」

岬の質問に真琴はそう答える。

「はぁ

 まぁいいですけど…」

その返事に岬はビデオ撮りについて許可すると、

「ありがとう

 感謝するわねぇ」

真琴はそう言いながら何かのスイッチを入れると、

注射器を手にし、

「さぁ、準備はおっけー

 腕を出して」

と注射器の先から

ピュッ!

っと溶液を迸らせさせながら言うと、

「うっ」

それを見た岬は一瞬躊躇ってしまった。

「もぅ、

 どうしたの?

 愛する舞子ちゃんの為に人魚になるんじゃなかったの?」

そんな岬の姿に真琴は困惑した表情をすると、

「ハルカちゃん!」

とハルカに命令をした。

すると、

『失礼・します』

の声と共に

ガシッ!

ハルカは真琴の背後より両肩を抱え上げて拘束をすると、

『さぁ・どうぞ』

と岬の腕を伸ばさせる。

「やっやめろ!」

脚をばたつかせながら岬は抵抗をするが、

遙の力は非常に強力で、

岬の力では容易に振りほどくことは出来ず。

ゆっくりと腕に注射器が迫ってきた。

そして、

「いってらっしゃーぃ」

の声と共に

プッ!

岬の腕に真琴が注射器を突き立てると、

ジュッ…

岬の体内に人魚ウィルスを注入を開始し、

と同時に岬の悲鳴が研究室に木霊した。



岬の体内に送り込まれた人魚ウィルスは次々と岬を構成する細胞に取り憑き、

彼のDNAを書き換えながら増殖を開始する。

その結果、痛みや熱を伴うこともなく

岬の身体のDNAは短時間のウチに全て書き換えられ、

それは肉体の変化として表に現れ始める。

キュッ!

青年男性として標準的だった岬のウェストが徐々に細くなると、

ヒップはそれに反して広く張り出し、

同時に喉で盛り上がっていた喉仏による膨らみが消えると、

岬の声は澄んだトーンの高い声へと変わり、

鈴の音のような歌声が響くようになっていった。

「うそ…

 身体が…

 身体が変化してる…」

真琴の研究所の一角に部屋を割り当てられた岬は、

日に日に細くなっていく自分の手を見ながら驚愕していると、

『ミサキさまは・

 まず女性に・なり。

 それから・人魚へと・変身します』

とハルカは変化の順序を説明する。

「わっ判っているよっ」

ハルカの説明に困惑している岬はヒステリックに叫ぶが、

そうしている間にも岬の肌は透き通るように白くなり、

柔らかさと弾力が増してくると、

余計な体毛が消え、滑らかになっていく。

そして、

プクッ!

胸の乳首が膨らみ、

その乳首を頂点にして左右一対の膨らみが姿を見る。

「あんっ

 オッパイが…

 オッパイが膨らんで来ちゃったよ。

 それに乳首が…

 乳首がとっても感じちゃうの!」

膨らみかけのバストを下から持ち上げ、

ピンク色に染まった乳首を指先で弄びながら、

岬は頬を赤らめていると、

『あまり・弄らないで・ください。

 女の子にとって・大事なところですから』

と見かねたハルカは注意をする。

だが、岬のバストはそんな警告をモノともせずに膨らんでいくと、

翌週には女性の平均的な大きさよりも遙に大きく育ち、

タップンと揺れる有様は岬の行動を大きく制限するようになってしまった。

「あはは…

 随分と大きく育ったわねぇ…

 巨乳系アイドルとして売れるんじゃない?」

そんな岬のバストを見て真琴は笑ってみせると、

「あのっ

 これ、何とかならないのですか?

 重くて、

 肩が凝って仕方がないんです」

と岬は訴えた。

すると、

「大丈夫、大丈夫、

 水の中では浮くし、

 浮き袋だと思えばいいのよ。

 じゃぁ、どれだけ浮力があるか調べるので

 ちょっと計ってみようか」

真琴は話をそらせるようにそう言うと、

ハルカにメジャーを持ってくるように指示を出した。



程なくして採寸が終わると、

「ふーん、

 Iカップか…

 こりゃぁ巨乳好きにはたまらないサイズねぇ。

 AVに出演すればアイドルになれるわよぉ、

 岬君っ」

と真琴は茶化す。

「真琴さんっ!」

そんな真琴の名を岬は叫ぶと、

「あははっ

 冗談よ、

 冗談。

 大丈夫よ、

 これだけ大きければ十分浮力がつくわ」

そんな岬をなだめるようにして真琴は言うと、

「とにかく、

 いまの状態では確かに邪魔ね、

 ハルカちゃんっ

 例の物を持ってきて」

とハルカに指示を出した。

そして、

程なくして岬の前に出されたのは、

紛れもない、ブラジャーだった。

「ぶっブラ…ですか?」

ブラジャーを見ながら岬は目を点にしていると、

「特別製のブラよっ、

 さっつけてみて」

と真琴は笑顔で薦め、

「はぁ」

薦められるままに岬は差し出されたブラを手に取り、

胸に当てると、

ぎこちない手つきでホックをかける。

グンッ!

その途端、

岬のIカップは形良く突き出し、

その存在をさらに誇示した。

「うわっ」

眼下に突き出た二つの膨らみに、

岬はたちまち顔を真っ赤にすると、

「ふむっ、

 さすがはフランス製の最高級ブラね、

 全く型くずれしてないわ」

と真琴は幾度も頷き納得をする。

こうしてブラジャーを着けた岬は見た目では女性の姿へと変身したが、

だが、股間ではまだ男性のシンボルがその姿を晒していた。

しかし、そのシンボルも時間の経過と共に萎縮していくと、

次第に岬の体内へと埋没し

やがて、股間に一筋の筋が刻まれると、

その頂点に小さな突起となって収まってしまった。

こうして岬の股間が男性から女性へと変身していったある日、

岬は部屋に置かれていた姿見に映る自分の姿をジッと見詰めていると、

『どうか・なさいましたか?』

とハルカが理由を尋ねた。

「え?

 あぁ…

 鏡を見ているの」

岬は鈴のような声色で返事をする。

『鏡を・ですか』

「えぇ…

 すっかり女の子になっちゃったなぁ…

 てね」

ハルカの返事に岬は小さく笑ってみせると、

「…ふぅ…

 人魚になっちゃったら、

 こうして立って自分の姿を見られないんだよね

 なんかもったいないなぁ」

と寂しそうに呟いた。

すると、

『じゃぁ・メイクを・してみますか?』

それを聞いたハルカは聞き返すと、

『少々・お待ち下さい』

と言い残して部屋を出て行き、

程なくして、

メイキャップ用品と数点の女性用下着を持ってきた。

「ちょちょっと、

 何を始める気?」

仰々しく支度を始めたハルカに岬は思わず聞き返すと、

『ここに・お座り下さい』

とハルカは姿見の前に椅子を持ってくると、

岬に座るように指示をした。

「え?

 はっはぁ…」

その指示に岬は素直に従って座ると、

『メイクの・基本は・

 まず・下地作り・からです』

とハルカは説明をしながら、

乳液を岬の顔につけ始めた。

「はぁ…

 (まるで、人間の手みたいだなぁ…

  とても作り物とは思えない…)」

女性化して肌が敏感になったせいもあるが、

実際の人の手と比べると若干人工的さを感じる肌触りながらも、

その動きのきめ細かさと感触に岬は驚いていると、

「どうかしら、

 私の作品の感想は…」

と真琴の声が響いた。

「水下先輩っ

 いつからそこに」

真琴のその声に岬は驚くと、

「あーっ

 動かない動かない。

 そっか、

 おめかししているのか。

 女の子だもんねぇ…

 岬ちゃんは。

 おめかしの基本はまずお化粧からって

 大丈夫よ、

 ハルカちゃんはねぇ…

 生前、スタイリストを目指していたから、

 メイク関係は全て任せると良いわ。

 じゃぁ、ハルカちゃん。

 その子を立派なレディにしてあげてねぇ、

 人魚になってしまったらメイクなんて出来なくなるから」

そう言うと、

真琴は部屋から出て行ってしまった。

「生前って、

 ハルカちゃんさんって、

 亡くなった人?」

真琴が言ったそのセリフに岬はふと呟くと、

『わたしは・死んではいません』

と手を動かしながらハルカは返事をした。

「え?

 あぁ、そっそうだね」

思いがけない返事に岬は驚くと、

『わたしは・水下真琴によって

 こんな・身体に・されました。

 わたしは・生きています。

 でも・水下真琴には・

 逆らうことが・出来ない・のです。

 でも・いつかは…』

とハルカは悔しそうな表情をしながら呟いた時、

ビクン!

突然、ハルカの身体が硬直し、

ピポ!

っと身体の中より音が響いた。

そして、

『ごめーん、岬君っ、

 ハルカちゃんの調子がちょっと悪くなったみたい。

 いまリセットを掛けたから、

 暫く待ってて…』

と伝声管から真琴の声が響くと、

『お待たせ・しました。

 さっ・メイクの・続きを・しましょう』

にこやかにハルカは話しかけながら、

テキパキと作業を始めだした。

「一体…

 何があったんだ…」

この二人のやり取りに岬は背筋が寒くなると、

『岬く〜ん、

 ここはわたしの研究所よぉ〜っ

 中で何か起きているのか、

 全てお見通しのなおよぉ〜っ

 まったく、ハルカったらぁ

 消しても消しても変なデータが増えるんだからぁ』

と真琴の囁くような小さな声が伝声管から響いてきた。

「!!!っ」

その声に岬は思わず身を固くすると、

その間にメイクが整えられ、

『終わりました・では着替え・ましょうか』

メイクの終了と共にハルカが持ってきたレースの下着を身につけると、

伸びた髪も相まって、

鏡には一人のモデルを思わせる女性の姿が映し出されていた。

「うわぁぁぁ…

 これが僕?」

鏡に映る自分の姿に岬は驚いていると、

『さぁ・これを・お召しになって下さい』

と言いながら数着のドレスを岬の前に広げて見せた。

「え?

 これを着るの?」

男の身にはまさに無縁だったドレスに岬は戸惑うと、

『はい・どれでも・お似合いだ・と思います』

ハルカはそう言い、

その中から青いドレスを手に取ると、

『これなんかは・いかがですか?』

と薦めてきた。



クルッ!

フワァァァ…

青いドレスを身に纏った淑女が鏡の中で華麗に一回転してみせる。

「うっ…

 (かわいい…)」

おとぎ話に出てくるお姫様…

と言うにはオーバーかも知れないが、

でも、子供の頃ページを捲っていた絵本に描かれていた

お姫様を彷彿させる自分の姿に岬は見とれていると、

「へぇ…

 すっかりお姫様じゃない」

と真琴の声が響いた。

「あっ

 みっ水下さん…」

その声に岬は驚き、

両腕で胸を思わず隠すと、

「うふっ

 女の子の癖もしっかりついてぇ

 これからお城で舞踏会?

 うふっ、

 じゃぁ、あたしはさながら、

 舞踏会に行こうとするお姫様を捕まえて

 無理矢理人魚にしてしまう悪い魔法使いかしらね」

と真琴は言う。

「そんなことありませんよ」

真琴のその言葉に岬は言い返すと、

「あはっ冗談よっ、

 でもね、

 そろそろ人魚になり始める思うから、

 いまのうちに思う存分歩いておきなさいよぉ」

と言い残すと真琴は去って行った。



つづく