風祭文庫・人魚変身の館






「ラサランドス・天人魚編」
(第2話:ファーストコンタクト)



作・風祭玲


Vol.327





キーン!!

「これは…」

光り輝き始めたキリーリンクを目の前にしてサーラ姫様が驚きの声を上げると、

「サーラ姫様!!

 らっラサランドスが移動しはじめました」

血相を変えたチルダが神殿に飛び込んできた。

「なんですって…

 一体何が…」

チルダの声にサーラ姫様はそう言いながら表に出てくると、

「あっあれは…」

夜空の彼方に浮かび上がる光球の姿が彼女の目に入った。

その一方で、

「なんだなんだ?」

「地震か?」

「ラサランドスに地震なんてあるのか?」

「おいっ動いているぞ」

城下もラサランドスの異変を察した住民達が大騒ぎを起こしていた。

そして、そのうちの一人が

「なんだあれ?」

夜空に輝く光球を見つけると、

「え?」

「なんだ?」

人々は皆、その光の玉を見入っていたが、

徐々に大きくなってくる光球の様子に誰の足も動くことはなかった。



『殻翼の展開確認!!』

『船を安定させることに成功しました!!』

ゴォォォォォォォ…

その頃、落下していく人魚達の船・ウォルファは

エマンの咄嗟の判断で

船体の3カ所に船体を取り囲むように折り畳まれてる

”殻翼”

と呼ばれるマストを開いていた。

そして、その効果によってウォルファはブレーキを掛けるのと同時に

船体の挙動も次第に安定しはじめていた。

『よしっ、

 主砲発射用意!!

 地表に接地する1分前に発射!!

 その爆発エネルギーで一気に減速をするっ

 侵入角度に気を付けなさい』

間近に迫ってきているルルカの大地を睨みながらエマンはそう指示をだすと、

『あっあのぅ…』

『なんでしょうか?

 マーエ姫様』

恐る恐る口を挟んできたマーエ姫にエマンは聞き返した。

すると、

『エマン…

 ウォルファの進行方向にあるあれは一体…』

と言いながら、

スクリーンに表示されているウォルファの進路上に出現した浮城を指さした。

『なっ』

それを見たエマンの表情が見る見る強ばっていくと、

『さっきまではあのようなモノはなかったはず

 どういうことだ、これは!!』

と声を上げた。

『申し訳ありません、

 いきなりの大気圏突入でしたので、

 地上の把握に手間取りました

 あの浮城はウォルファの軸線上にあります』

そう浮城の位置が報告されると、

『えぇぃっ

 仕方がありません!!

 回避行動をとりなさい。

 すぐに!!』

その報告に対してエマンは即座に声を上げた。



ギュォォォォォォォン…

ゴゴゴゴゴゴ!!

間近に迫る光球から避けるようにしてラサランドスは移動していく、

「来たぁ!!」

スクリーンに映し出された迫ってくる光にサファンは思わず声を張り上げると、

「空が…落ちてくる…」

とシンシアが呟いた。

「くっそう!!」

カンダが叫び声を上げる間もなく、


ズォォォォォォォォォン

バリバリバリ!!

ザンガが放つシールドと激しく干渉し合いながら、

ラサランドスのすぐ上空を光に包まれた巨大な物体が横切っていった。

「ふっ船っ?!」

「なんだこりゃぁ?」

「魚?」

移動していくその物体の姿にサファン達は各々そう呟くと、

飛行物体はラサランドスからはじき飛ばされるかのようにして

ウルスラン山脈の方へと飛び去っていった。

そして、間髪を入れず強烈な発光現象と共に、

夜空の一角が目映い光に包まれていった。



「そうですか、

 それではいかしたがありませんね」

翌朝、

サファンは昨夜の出来事の報告と

ラサランドス移動についての報告をサーラ姫様に説明をすると、

サーラ姫様は優しく声を掛けてくれた。

「はぁ…ありがとうございます」

それを聞いたサファンの心の中に安堵の空気が広がるのを感じながら

そう返事をすると、

「姫様っ」

不満そうな表情でチルダがサーラ姫様に話しかけた。

しかし、

スッ

サーラ姫様は手を上げてチルダを制すると、

「昨夜の出来事は緊急でしたので、

 不問に処します。

 ただし、このようなことは2度と起こらないように、

 万全の体勢を整えて置いてください。」

とサファンに釘を差した。

「はいっ」

サファンは跪きながらそう返事をすると、

「で、サファン、一体あれは何でしたの?」

とサーラ姫様が尋ねた。

「はぁ…

 今朝方、調査隊がウルスラン山中の落下現場に向かって、

 出発いたしましたので

 詳しいことは判り次第、追ってお知らせいたします。

 それで、いまの時点で判明しているのは、

 飛来した物体が次元の断層から飛び出してきた異世界の船であると思われること、

 そして、それが我がラサランドスを掠めて、

 ウルスランの山中に落下したと言うことです。」

とサファンが説明をすると、

「異世界…ですか?」

サーラ姫様はサファンが言った異世界と言う言葉に首を傾げた。

それを見たサファンは、

「はぁ、

 私も詳しくは知らないのですが、

 スレイヴが言うことには

 ルルカと同じような世界が無数に存在し、

 そしてそれらを行き来する船があるとか…」

「そうですか…

 でも、ルルカと似て否なる世界とはどの様なところでしょうか

 見てみたいものですね」

サファンの大雑把な説明にサーラ姫様は目を輝かせると、

「(コホン)サーラ姫様」

横に立つチルダがそう言いながら咳払いをした。



キィィィィン…

程なくして調査隊の第2陣として、

サファンとカンダそしてシンシアを乗せた浮舟の他数隻がラサランドスを出航した。

「そうか、

 サーラ姫様は不問にしてくれたか」

サーラ姫様の判断を聞いたカンダはほっとした表情をすると、

「まぁ、2度とあんな事はないようにと、

 言われたけどね」

とサファンが続ける。

「で、一体、何が落ちてきたの?」

サファンとカンダとの会話の切れ目にそうシンシアが尋ねてくると、

「うん…

 色々な状況から判断して、
 
 恐らく、異世界の船が落ちてきたと思う」

とサファンはサーラ姫様にしたのと同じ説明をした。

「異世界?」

「なにそれ?」

サーラ姫様と同じ反応をして二人がサファンに迫ると、

「まぁ、行ってみればわかるよ」

サファンは詳しく説明をすることはしないでそう言うと、

徐々に迫ってくるウルスランの山を見つめていた。



「うひゃぁぁぁぁ!!!」

「これは凄い!!」

「あらら…」

ヒュォォォォォ…

落下現場の周辺は文字通り周辺の景色を一変していた。

「お前が悪魔の口笛を吹き飛ばしたときよりも凄くないか…」

そう囁くカンダにサファンは素直に頷くと、

すっかり様相が変わってしまった周囲を眺めた。

そう、つい昨日までは落下現場の周辺は鬱蒼とした樹海が広がり、

一度迷い込んだら2度と出てこれない魔の森として旅人から恐れられていたのだった。

しかし、その樹海が根こそぎ消えてしまった上に、

小さいながらもあった2つの山の頂が消し飛ぶと、

その中心に円形の巨大な湖がポッカリと口を開けていた。

「なんだよ…

 ここにはこんなに水があるじゃないか…」

新しくできた湖を眺めながらカンダが文句を言うと、

「一夜でこんなに水が出てくるなんて…

 この辺の地下水脈ってこんなに水を蓄えていたのか?」

とシンシアも不思議がった。



ムワッ

っとする熱気の中、慎重に浮舟を進めていくと、

やがて、湖の畔に設けられた先発隊の基地が見えてきた。

そして、

キュォォォォン!!

サファンたちを乗せた浮舟はその一角に着地すると、

「あーぁ、こんなになっちゃって…」

「見て、マスコミの取材陣よ」

そう言いながらカンダを先頭に降り立ったサファンとシンシアは

調査隊の陣頭指揮を執るダッカスの所へと向かっていった。

「お疲れさまです」

「おうっ来たか」

調査隊のテントに入ったサファン達をテーブルに広げた地図を視線を落としながら

ダッカスが迎えてくれた。

「いやぁ、

 あのウルスランの森がこうも綺麗さっぱりに消えてしまうなんて

 相当な破壊力だったみたいですね」

感心しながらカンダがダッカスに話しかけると、

「うむっ

 そのことなんだが」

ダッカスは渋い顔をしまままそう答える。

「なにか?」

ダッカスの言葉にサファンは思わず聞き返すと、

「あっそうだ、その前に

 よくラサランドスを動かしてくれたな。

 まともに激突していたら幾らザンガでも持たなかったろうからな」

ギィ

ダッカスはサファン達に礼を言いながらイスに腰掛けた。

すると、

「いやまぁ…

 コイツの咄嗟の判断だったんですけどね」

カンダはそう言いながらサファンの肩をポンと叩いた。

「ほぅ…

 咄嗟であの判断をしてしまうだなんて、

 ふふ…君は面白い娘だ」

興味深そうにサファンを見ながらダッカスは笑うと、

「で、落ちてきた物体と言うのは?」

話を戻そうとシンシアがそう尋ねると、

「あぁ、

 この湖の真ん中に斜めに突き刺さるようにして沈んでいる…

 いま調査をしている所なんだが、

 どうも、我々の知恵には到底及ばないモノらしい」

とダッカスは答えた。

「知恵の及ばない?」

ダッカスの言葉にサファンは目を輝かせると、

「おや、ヤケに嬉しそうじゃないか」

ニヤリ

と笑いながらダッカスがサファンに言うと、

「あっいえ…」

その言葉にサファンは思わず萎縮した。

「はははは…

 冗談冗談」

ダッカスは笑い飛ばすと、

「今のところ推定だが、

 落下したのは間違いなく人為的な構造物で、

 用途は恐らく船の類だろうと思う。

 で、船の全長は約300m〜350m

 幅は一番広いところで約50m

 そして高さは30mほどあるそうだ、

 まぁ我々の浮舟の中で一番大きいブハン級でも、

 全長が100mだから

 軽くその3倍はあるな」

と説明をした。

「すげぇ…」

ダッカスのその説明にカンダは唸ると、

「ブハン級の3倍の船か…

とシンシアが呟いた、

「それで、

 沈んでる船の周囲から微かに波動の違う魔導エネルギーを確認したから、

 おそらく、あの船も魔導エネルギーで動いているようだけど、

 ただ、これだけの物を動かすとなると、

 相当大きな魔導炉を積んでいるんじゃないか?」

「あのぅ、ダッカス様」

ダッカスの言葉が終わるのを待ってサファンが声を上げると、

「ん?」

「中の人たちはどうなっているのでしょうか?」

と船の乗組員の事を尋ねた。

「あぁ、

 それだが、乗っている人たちの様子が分からないので、

 こっちも苦慮している。

 墜落の衝撃で全員が亡くなったのか、

 それとも、生きているのか、

 また我々に対して友好的なのか?

 何らかの悪意を持っているのか、

 その辺をシッカリと見極めないとな…

 明日にでも潜水部隊を潜らせる予定だ」

気を引き締めるような口調でダッカスはそう言うと、

ジッと地図を睨んだ。

すると、

「ダッカス様」

とカンダが声を上げると、

「私たちも浮舟の上からその落下した船を見てもよろしいでしょうか?」

と許可を求めた。

「あぁ、そうだな

 ここで幾ら説明しても判るまい、

 まぁ、百聞は一見にしかず、

 自分の目で見てくるといい」

そうダッカスは言うと、

湖の上に出ることを許可してくれた。



そのころ、

コポコポコポ…

湖底に沈むウォルファの船内では、

『負傷者はいないか!!』

エマンの声がブリッジに響くと、

『重傷者はおりません、

 約20名ほどが打撲などの手当を受けています!』

と言う返事が返ってきた。

『そうか…』

予想外の人的な被害の少なさにエマンはホッとすると、

『ウォルファの損害は?』

とすかさず聞き返した。

すると、

『装甲には大きな支障がありません、

 ただ…』
 
『なんだ?』

『はぁ…墜落の衝撃でエネルギー伝導管が破損、

 また破損した伝導管が魔導炉を傷つけてしまったために

 伝導管の交換と魔導炉の修理をしない限り、

 ウォルファの再航行は不可能です』

という報告がなされた。

『仕方があるまい、

 とにかく補助動力でウォルファを水面下に引き上げた後、

 エネルギー伝導管の交換と魔導炉の修理をするしかあるまい、

 マーエ姫様、よろしいですか?』

エマンはそう判断をした後に、

マーエ姫の同意を取り付けようとマーエ姫の名を呼んだが、

しかし、

『………』

マーエ姫からの返事は返ってこなかった。

『?

 マーエ姫様!!』

エマンはブリッジの中をマーエ姫の姿を探しながら幾度も名を呼ぶが

けど、いくら呼んでもマーエ姫からの返事は返ってこなかった。

そのとき、

『あっ、

 エマン様っ

 ブリッジに近い68番ハッチが開いています。』

と言う声が響き渡った。

『なんだと、

 まさか外に出て行かれたのか?』

エマンは驚きながらそう叫ぶが、

すぐに、

『エマン様…

 先ほど打ち上げたモニターから映像が届きました。

 どうやら、現地人の調査隊が来てるようです』

と言う声と共に、

ブンッ

っとスクリーンに湖岸線に設営された急ごしらえの基地と

水面上を移動する浮船の映像が映し出された。

『いかんっ

 相手の素性が判らない様態で接触をするわけには行かない、

 すぐにマーエ姫様を連れ戻すのだ、

 それとウォルファをいつでも始動できるように』

それを見たエマンはそう指示を出すと、

すぐに68番ハッチへと向かっていった。



『ふぅ…

 そんなに大きく壊れた様子はないですね』

湖底に沈むウォルファの上を泳ぎながらマーエ姫はそう呟いていると、

突然、

フワッ!!

っと大きな影が通り過ぎていった。

『え?

 何かしら?』

影に驚いたマーエ姫が水面を仰ぎ見ると、

水面上をエメラルドグリーンに光る帆を掲げて1隻の浮舟が駆け抜けていく。

『うわぁ…

 綺麗…』

通り過ぎていった浮舟に興味を持ったマーエ姫は

ウォルファから離れるとそのまま水面へと向て行く、



「これか…」

「あぁ…」

「やっぱり、魚みたいだな奴だな」

キィィィン…

調査隊の浮舟が行き交う湖の中心部を

サファン達を乗せた浮舟が滑るように移動していく、

その一方で、

マスコミがチャーターした浮舟は湖内に入ることを許可されてなかったので

サファン達は誰に邪魔されることなく湖底に沈む船を眺めながら

そんなことをそう言い合っていると、

サッ

浮船の下の湖面を何かが泳いでいった。

「え?」

それに気づいたサファンが思わず声を上げると、

「なんだ、何かがいたのか?」

とカンダが尋ねた。

「いやっ

 魚がいたような…」

そう言いながらサファンが注意深く湖面を観察すると、

「魚だぁ?

 おいおいっ

 この出来たばかりの湖に魚がいる分けないだろう?」

と笑いながらカンダは言うと、

「うん、そうだよなぁ…」

カンダの言葉にサファンは食ってかからずにそう返事をした。

ググググ…

浮舟は大きく旋回をし始める。

すると、

パシャッ!!

なんと水面上に緑色の髪をした女の子の頭が浮かび上がった。

「なにぃ!!」

いきなり現れた女の子の姿にサファンは思わず声を上げると、

「なんだ、どうした?」

すかさずカンダが聞き聞き返した。

「おっ女の子が…」

信じられない顔をしてサファンは湖面を指さすと、

「ほっ本当だ…」

シンシアも驚いた顔で女の子を見つけた。

「遭難者か?」

身を乗り出したカンダがそう言うと、

「さぁ…あっ

 手を振っている」

サファンは湖面上で女の子が手を振り始めた事を言うと、

「助けを呼んでいるみたいだな、

 とっとにかく下に降りよう」

キィィィン…

カンダがそう言うと浮舟は速度を落とし次第に高度を下げ始めた。



『へぇぇ…すごい…』

マーエ姫は自分の頭上で旋回を始めた浮舟を眺めると、

思わず手を振り始めた。

すると、それに答えたかのように浮舟は次第に速度を落とすと

徐々に高度を下げてきた。

『あはは…』

マーエ姫は笑みを浮かべながらさらに大きく手を振ろうとしたとき、

『マーエ姫様っ

 何をなさっているのですか!!』

と言う怒鳴り声と共にエマンが水中から顔を出した。

『あっ、

 エマン見て、

 凄いよ、
 
 ここの人たちってあぁ言う船を持っているんだね』

興奮した口調でマーエ姫はそう言いながら降下してくる浮舟を指さした。

その途端、

『マーエ姫様っ

 なんて事を…

 とっとにかく急いでウォルファに戻るのです』

間近に迫ってくる浮舟を見ながらエマンはマーエ姫にそう言うと、

『こちらエマンです。

 ウォルファ、

 早急に浮上してください』

と右腕に付けた腕輪に向かって叫んだ。

『なんでぇ…』

エマンの行為にマーエ姫は膨れっ面をすると、

『いいですか、マーエ姫様っ

 この世界はまだ我々との接触が行われていない世界です。

 そう言う世界では軽はずみに現地人との接触は避けるのが、

 常識ある者のたしなみです』

と怒鳴った。



「あれ?

 二人になったぞ」

降下していく浮舟から湖面を見ていたシンシアがそう指摘すると、

確かに、女の子の傍にもぅ一人の女性が姿を見せていた。

「どうなってんだ?」

「う〜ん…」

カンダの問いにサファンは唸った途端

突如、

ズズズズズズズン…

鈍い音が響き渡ると、

ザザザザザザ…

静かだった湖面に大波がたち始めた。

すると、

一斉に調査に当たっていた他の浮舟が急上昇をすると湖から遠ざかり始めた。

「なんだ、何が起きた!!」

カンダの叫び声と同時にサファン達を乗せた浮船も

急上昇をすると湖面から離れていく、

「おっおいっ

 ちょっと待て、

 女の子はどうするの?」

身を乗り出して湖面上の女の子を見ながらサファンが声を上げると、

ドバァァァァァ!!

浮舟から少し離れたところで今度は巨大な水柱が立ち上がった。

「ちぃぃっ!!

 回避しろ!!」

カンダはそう怒鳴るが、

しかし、

ザバァァァァ!!

水柱はその幅が大きくなってくると、

ドカッ!!

その一部が浮舟に触れた。

「うわぁぁぁぁっ」

「きゃぁぁっ」

浮舟の甲板が激しく揺さぶられると、

「わっ!!…え?」

身を乗り出していたサファンの身体が宙を舞った。

「カイン!!」

それを見たシンシアの叫び声が響く、

「そんな…」

見る見る離れていく浮舟の姿にサファンはそう呟いていると、

ドォォォォン!!

真下から突き上げてきた水柱にサファンの身体は包み込まれた。

ガボガボガボ!!

「うわぁぁぁ…」

たちまちサファンは水柱の中に飲み込まれると、

そのまま奥深くへと引きずり込まれていく。

「そんな…

 なんで…

 これって水のたたりなの?!」

サファンの意識はそこで途切れてしまった。



「カイン!!

 くそう!!」

「まって、あたしが行く」

そう言って飛び込もうとするカンダをシンシアが止めると、

ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…

大音響を立てながら湖の中から、

沈んでいた船がゆっくりと浮上をし始めた。

そして、

「なっなんだこりゃぁ…」

驚くカンダ達の目前に船は一旦その巨大な姿を見せながら迫ると

再び湖面の下へと水没していった。

「一体何が起きたんだ…」

岸に展開していたラサランドスの調査隊も

みな呆然としながら再び沈み始めた物体を眺めていた。





「…………」

「…………ん?」

「明るい…」

「そうか、サファン…確か溺れたんだよな…

 ってことはここはあの世か…」

「そうか、やっぱりあの世というのは明るかったんだな?」

「でも…

 お花畑は何処だ?

 ただ、明るいだけじゃないか…」

などと考えていると、

『あのぅ……』

という少女の声がかけられた。

「ん?

 この声は天使?」

と思った途端、

ハッ

とサファンは目を開けると、

彼女の目の前に翠色の髪を靡かせた少女の顔が迫っていた。

『うわぁぁぁぁ!!』

予想外の展開にサファンは思わず悲鳴を上げると、

『あっごっごめんなさい!!』

と少女は謝りながら、

ピュッ

っと後ろにずり下がると、物影に隠れてしまった。

『え?、いやっあの…』

彼女のオーバーアクションにサファンは思わず目が点になると、

『ん?』

自分の周囲の様子に驚くのと同時にある種の違和感を感じた。

『あれ?

 なんだこれは?』

ほんのりと明かりが灯る部屋は円形をしていて、

周囲の壁は大きく湾曲をしている上に等間隔に斜めに筋が入り、

どこか巻き貝を内側から見ているような感じだった。

そして、サファンはその中央部に設けられたベッドの上に寝かされていた。

『はぁ…

 どーなってんだ?』

部屋の佇まいにを見渡しながらサファンはそう呟くが、

しかし、何よりもいま一番強く違和感を感じているのは

サファンの周囲の空気が異様に重く、

その反面、自分の体重があまり感じられない状態になっていることに、

『これって…まさか水?』

とサファンは自分の身体が水の中に浮いていることに気がついた。

そして、

ガボッ

慌てて呼吸をしようとすると、

『あぁダメです。

 そんなことをしては』

とさっきの少女が飛び出してくるとサファンに飛びついた。

『だって、そんなこと言ったって

 え?

 呼吸をしなくても苦しくない…

 どっどうなってんだ、これは…』

これまでの常識が通用しない事態にサファンは混乱し始めた。

すると、

『あのぅ…落ち着いて聞いてくださいね』

と少女はそうサファンにそういうと、

『この船・ウォルファと言いますが

 それが浮上させるに際に、

 あの浮いている船から落ちてきたあなたを誤って吸い込んでしまったんです。』

と説明をする。

『はぁ…

 そうですか、

 それはどうもすみま…

 え?』

と少女がそこまで話したとき、

サファンは彼女がなにも衣装を纏っていないことに気がついた。

『え?、

 あの…
 
 その…』

文字通り乳房が丸出しの彼女の姿にサファンは思わず焦るが、

しかし、

『なっ』

更に驚くべき事に、

彼女の腰から下には足が無く、

代わりに金色の鱗に覆われた魚の尾鰭がユラユラと動いていた。

『うそ…人魚…』

そう、まさに子供の頃、

お伽噺として聞かされてきた人魚がサファンの目の前にいる…

それだけでサファンの心は動揺した。

そして、

『なんで…人魚が…』

そう呟くサファンに、

『あのぅ…

 それでですね…

 溺れてしまったあなたを蘇生するために、

 大急ぎでちょっと身体を弄らせて貰ったのです』

と人魚の少女はサファンに告げた。

『身体を弄った?

 へ?』

人魚の言葉にサファンは恐る恐る下に視線を向けると、

『いっ…』

そのままサファンは固まってしまった。

『冗談でしょう?』

ヒラヒラ…

自分の腰から下は文字通り魚の尾鰭と化し、

そして、その先端には鋭角に突き出た鰭が揺らめいていた。

『あはははははは…

 一度目は女に…

 んで二度目は人魚かよ…

 …そんなに罰当たりな人生を送っていたっけか?』

嘆くに嘆けない状況にサファンは呆然とすると、

『あっあのぅ…

 そんなに落胆しないでください。

 あなたを人魚の身体にしているのは、

 その右腕に付けたリングの力でして、

 身体を乾かせば元の姿に戻れますし、

 また、そのリングを外せば人魚に変身する事は出来なくなります』

慌てながら少女はそう言うと、

『え?(パッ)

 そうなの?』

人間に戻れる。

その事実にサファンは一気に安堵の気持ちに覆われながら彼女に迫った。

『はっはいそうです。』

彼女はそう力強く返事をすると、

『はぁ…

 そっか…

 人間に戻れるのならいいや…

 あぁ、心配して損をした』

ホッとした表情でサファンはそう呟くと、

『そう言えば、あなたの名前…

 まだ聞いていないわね』

と少女の名前を尋ねた。

すると、

『こらっ、

 そこの者っ

 マーエ姫様に無礼ですぞ』

と叫びながら

あのとき少女の隣に浮かんでいた女性が部屋に入ってきた。

『あっ、あのときの…』

女性の姿を見たサファンは思わずそう言うと、

『よいか、そこの異世界の者よ、

 この方は、こことは世界が違うが、

 我が、マームヘイム王国のマーエ姫にあらされるぞ』

と仰々しく告げた。

『マームヘイム王国?』

その言葉にサファンは聞き返すと、

『はいそうです。

 サファンはマームヘイムの王女・マーエと申しまして、

 この人はサファンの教育係のエマンと言います』

とマーエと言う人魚の少女は自分の自己紹介とその女性の紹介をした。

『そうか、

 要するに、

 サーラ姫様と同じ立場の方か…』

二人の話にサファンは一人で納得をすると、

『判っていただけましたか?』

とマーエ姫がサファンに尋ねた。

『それで、

 なんで、そのマームヘイムの姫様の一行が、

 このルルカに来たのです?』

とサファンが尋ねると、

『コホン…

 それははだなぁ…』

エマンはそう言うと、

『あのぅ…サファン達はあるところに向かって、

 亜空間内をワープ航行していたのです。

 ところがワープ中に魔導炉のトラブルが起きてしまって、

 それで、遭難を防ぐために大急ぎにワープアウトをしたのですが、

 ただ、出たところが悪かったみたいで

 ここに落ちてしまったんです。』

とマーエ姫が事情を話した。

『ワープ…

 魔導炉?』

マーエ姫の説明の中に出てきた単語をサファンが聞き返すと、

『あっ、

 そうだ…

 説明するよりも現物を見て貰いましょう』

マーエ姫はそうサファンに言うと、

『え?

 いや、あのぅ…』

困惑するサファンの手を引き部屋を飛び出していった。



つづく