風祭文庫・人魚の館






「潮騒の島」
【第6話:竜泉井】

作・風祭玲

Vol.201





−1−

キラリ☆

上空の衛星軌道上にある国際宇宙ステーションから日本付近を眺めたとき、

伊豆諸島と小笠原諸島とのほぼ中間に水滴のような形をした島影が認められる。

十畳島…

別名”太平洋の滴”ともいわれる周囲約150kmのこの島の中央部には

標高3775mの最高峰十畳ヶ岳がどっしりとそびえ立ち、

世界的にトップクラスの降水量と相まって、

実に多種多様な自然が織りなす、

まさに島もろとも世界遺産に登録するのにふさわしい島である。

さて、この島の屋根でもある十畳ヶ岳は

富士山よりたった1m低いかったがために日本の最高峰にはなれず、

「明日こそ日本一!!」

と言う意味合いを込めて”あすなろ山”と呼ばれ、

また、この島の植生は亜熱帯植物が生い茂る海岸線より

十畳ヶ岳山頂へと向かうにつれ、

徐々に気候区分が代わっていくことでも有名でもあり、

小学校の教科書にもしばしば取り上げられていた。

また中腹には世界的にも有名な十畳一本松と呼ばれる

樹齢10,000年と推定される巨大な松の木があり

これは特別天然記念物に指定されている。

さて、その一方で十畳島の南、約50kmの所に、

標高380mの山を頂いた小十畳島と呼ばれる島と、

その島を中心に数多くの岩礁が散らばる海域がある。

これはいまから約一万年前、

その場所には十畳島よりも大きな島があったが、

大規模な火山活動により島のほとんどが海面下へと没し、

かろうじて残った部分が小十畳島として残った。

と昭和に島を調査した地質学者はそう説明している。



−2−

さて、長かった夜が明け朝日が差込始めたその十畳島の海岸線より、

十畳ヶ岳の奥深くへと分け入っていく軌間762mmゲージの細い軌道を、

林野局の小型ディーゼル機関車を先頭とした一本の列車が走って行く。

ドドドドドドドド…

タタン…タタン…タタン…タタン

十畳ヶ岳に降った雨を集めた川を素堀のトンネルに木で出来た橋梁で渡りながら、

L字型をした若草色の小さなディーゼル機関車に牽引され列車は徐々に高度を上げていく、

ダダダダダダダダ…

タタン…タタン…タタン…タタン

「う〜ん

 いやぁ藤一郎君、透き通る青い空に、目にしみる緑…

 そしてこの雄大な大自然!!

 都会で汚れたココが洗われる気分だねぇ」

機関車の後部に連結された貨車をスッポリと包み込むシートの上で

海人が大きく背伸びをしながら言うと、

「まったく…良くそんな余裕があるな、お前は」

機関車のギャップから犬塚藤一郎が顔を出すと海人に苦々しく言った。

「まぁまぁ文句を言っても始まらないでしょう?

 要は日暮れまでに輝水を汲んで戻れば良いんだから…ね、

 鮎香さん…」

と海人は藤一郎の隣でじっと前を見据えている鮎香に声を掛けた。

「……」

彼女が何か言おうとしたのと同時に、

ゴワァァァァァ!!

ダダン…ダダン…ダダン…ダダン

列車はトンネル内に入り彼女の声は轟音にかき消されてしまった。



「…それにしても、こんな朝早くから山へだなんて

 みなと様も随分と無理な注文を出したもんだね」

林野局のヘルメットを被った作業服姿男性がノッチを握りながら訊ねると、

「はぁ…まぁ…ちょっと色々ありまして…」

鮎香に変わって藤一郎がそう答えた。

「ところで、この後ろの荷物はなんだい?

 鮎香ちゃんが山に行くときはコレといった荷物は持っていかないんだが」

後ろを振り返りながら男性が訊ねると、

「えぇ…まぁ、少しでも早く目的地に着けるようにと私が用意した物なんです」

「ふぅ〜ん…」

藤一郎の答えに男性はそう返事をすると再びノッチを入れた。

ズドドドドドドド…

機関車のエンジン音が上がると列車のスピードは幾分速くなった。



列車が出発して約1時間半…

ようやく十畳ヶ岳の中腹にある集積場に列車が到着すると、

藤一郎は素早く機関車から飛び降り、

機関車から切り離された貨車に走り寄ると

積み込まれていた荷物のシートをはがしはじめた。

バサッ!!

「おおっ!!」

驚きの声を上げる海人の前に

白をベースに赤のストライプが入った全長8m程のロボットが姿を現した。

「はははは!!!

 どうだ!!

 我が犬塚の技術陣の粋を集めて作った最新型ロボット

”Mz−8001Level3・じぇっとあろー21”だ!!」

と藤一郎は胸を張って自慢する。

「ほう…しかし、動かないんじゃぁ使い物にならないぞ」

”じぇっとあろー21”を眺めながら海人が言うと、

「はいっ」

と言って藤一郎は海人にバインダーに綴じられた一冊の冊子を手渡した。

”上手なじぇっとあろーの立ち上げ方”

と書かれた冊子を眺めながら、

「なんだこれは?」

と海人が聞き返すと、

「と言うわけで、葵、お前が”じぇっとあろー21”を立ち上げろ、

 僕は鮎香さんはこの先に行って待っているから」

藤一郎はそう海人に告げると、

「さっ…鮎香さん…こちらへ…」

と彼女の手を引いて集積場の彼方へと向かっていった。

「あっ、おいっ、こらっ!!」

海人は声を上げると、

「よろしくなぁ〜っ」

と小さくなった藤一郎が手を振った。

「ったくぅ…」

海人は振り返ると、

シゲシゲと”じぇっとあろー21”を眺めた。

「全く犬塚もこんなロボットを船に積んでいたなんて」

ため息を吐きながらバインダーに綴じられた起動マニュアルを開き、

「えっとなになに…

【”じぇっとあろー21”は新開発のRB26型2ターボ仕様の原子炉を搭載した

 人類の英知を集めて作られた最大出力10万馬力のスーパーロボットです。】
 
と1ページ目に書かれている文章を読む、

「ほー…」

感心しながら海人はページをめくると、

【…起動方法は、

 まず一次冷却水・二次冷却水の残量を確認した後に、

 赤い印がしてある制御棒を引き上げてください。】

「んー?」

”じぇっとあろー21”の背中によじ登った海人は、

「これのことか?」

と肩の部分から突き出ている数本の突起物を指さすと、

書いてあるとおり赤い印がしてある突起を手で引き上げた。

【…すると、炉心覗き窓の中に青白い光が点りますので、

 それを確認したら残りの制御棒を全て引き上げてください。】

「えーと青白い光青白い光っと

 あっこれだな…」

海人はのぞき窓の中に光が灯るのを確認して、

【…もしも、この状態で異常高温や振動等がなければ原子炉の起動は成功です。】

とそこまで読み上げると、

ブルルルルルィィィィ…ンンン

”じぇっとあろー”は軽い振動を起こすと待機モードへと切り替わった。

【…なお、気分が悪くなったときは掛かり付けの医者等にご相談してください…】

「うっ、そう言えばなんか気分が悪くなってきたぞ…吐き気もするし…」

【…起動時は十分な暖機運転を行った後に稼働してください。

 性急な稼働はメルトダウンの原因になりますので”絶対”に行わないでください。】

「ふぅーん、暖機運転ねぇ…」

【…一次冷却水は産業廃棄物ですので

 廃棄するときは備え付けのポリタンクに入れ、

 不燃ゴミとして出してください。

 なお、一次冷却水が手や目に付着した場合は速やかに洗浄してください。

 …二次冷却水は安全ですので、入浴や熱帯魚の飼育などに活用してください。】

「……なんか随分と注意書きが多いロボットだなぁ…」

海人が”じぇっとあろー21”の取扱説明書を読みながらそう呟くと、

「おぉーぃ、まだかぁ!!」

豆粒のように小さくなった藤一郎が声を上げた。

「ったくぅ…」

海人は横目で見ると、

”じぇっとあろー21”の起動ボタンを押した。

すると、

キキキキキキ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

”じぇっとあろー21”は軋み音をあげながら起きあがると、

ギチョン!!

ギチョン!!

っと貨車から降り立ち上がった。

「これでよしっ」

海人は満足そうに”じぇっとあろー21”を眺める。



−3−

ガチョン!

ガチョン!!

急峻な山道を”じぇっとあろー21”が足取り軽く歩いていく、

その両肩には海人と鮎香の2名が腰を掛け、

また頭の上にある操縦席には藤一郎が”じぇっとあろー21”を操縦をしていた。

ガチョン!

ガチョン!

「なぁ、藤一郎…」

ふと海人が声を掛けた。

「なんだ?」

藤一郎が返事をすると、

「もぅ少しスピードアップは出来ないのか?

 この調子では竜泉井につく前に日が暮れてしまうんじゃないか?」

と海人が言うと、

「だったらあんな約束をしなければ良かっただろうが」

藤一郎はにらみ付けるようにして返事をすると、

「……ねぇ、あなた方は…

 一体、何者なんですか?」
 
とコレまで黙っていた鮎香が口を開いた。

「は?」

藤一郎が聞き返すと、

「聞けば、あなた方が乗っていた船は登録が無いと聞きますし、

 それに海人さん、あなたのお連れさんは…」

「まぁいいじゃないですか」

海人は鮎香が言おうとしていることを制するようにして言うと、

「今はその輝水とやらを汲んで戻ることに専念しましょう…」
 
と彼女に告げ、

「で、鮎香さん、その竜泉井はまだ先ですか?」

とそこから話を逸らすようにして海人が訊ねると、

「あっ、えぇ…もぅ少し先です」

鮎香はそう返事をしながら道の先を指さした。

「…おいっ、海人…ちょっと…」

操縦をしていた藤一郎が海人に声をかけた。

「なに?」

海人が操縦席をのぞき込むと、

ピコン

ピコン

操縦席の横に置いてあるレーダー画面と思わしきモノにいくつもの点が灯っていた。

「これは?」

「生体レーダーだ」

海人の問いに藤一郎がそう答えると、

「この”じぇっとあろー21”の周囲を取り囲むようにしてつけている奴がいるぞ」
 
と続けた。

「動物じゃぁないのか?」

「集積場を発ってからつかず離れずにか?」

「………」

海人は画面を見ながらちょっと考え込むと、

「…なるほどねぇ…」

と呟いた。

「何が”なるほど”なんだ?」

怪訝そうに藤一郎が訊ねると。

――ニヤ

海人は笑みを浮かべるだけでそれには答えなかった。



ガチョン!

ガチョン!!

さらに険しくなった山道を”じぇっとあろー21”が快調に歩いていく、

やがて、細かった道が急に広がると小さな祠がある広場へと出た。

「ここは…」

周囲を見渡しながら藤一郎が呟くと、

――ハッ

何かに気づいた鮎香が、

「これを止めて早く!!」

と叫び声をあげた。

ガッキン!!

鮎香の声に慌てた藤一郎が”じぇっとあろー21”を急停止させると、

「うわぁぁぁぁぁ!!」

バランスを崩した海人が危うく転落しそうになり、

ヒシッ

っと”じぇっとあろー21”の鋼体にしがみついた。

「どっどうしたんです?」

藤一郎が訊ねると、

「ごっごめんなさい」

鮎香は一言謝り、

「ここから先は禁忌の場所、私しか入る事は出来ません、

 ですのであなた方はココで待ってて下さいませんか?」

と告げた。

「……なるほど、結界が張ってあるみたいですね」

よじ登ってきた海人がただすと、

――コクリ

鮎香はうなずいた。

「……では、その前に…」

それを見た海人は藤一郎の操縦席に割り込むと、

「こっこらっ!!何をする」

と声を上げる藤一郎を横目に、

PiPiPi

っとコンソールを叩き、

「行けっ!!」

そう声を上げると、

――ポチッ

っと手元の赤いボタンを押した。

「あっ、そのボタンは!!」

藤一郎が叫ぶと同時に、

バコン!!

”じぇっとあろー21”の背中の両側が押し出されるように開くと、

シュボン!!

円筒形の物体が白い円弧を描きつつ上空へと打ち上げられた。

シュルルルルルルル…

ボン!!

円筒形の物体が上昇から下降に移った途端。

弾けるような音を上げると、

包んでいたカバーが外れ、

すると、

シュパパパパパパパパ!!

まるでホウセンカが種を飛ばすがごとく、

小さな物体を次々と弾き飛ばしはじめた。

シュォォォン!!

はじき飛ばされた物体はまるで何かを追跡するようにして、

右へ左へ上へ下へと小気味よく方向を変えると森の中に吸い込まれていった。

程なくして、

ドドドドドドドドドォォォン!!

太鼓花火のような音が森の中から連続して鳴り響くと、

ギャオギャオギャオ!!

バサバサバサ!!

それに驚いた鳥たちが一斉に森から飛び立って行く、

「なっなにを…」

呆気にとられながら鮎香が訊ねると、

「先手必勝!!

 オジャマ虫共はさっさと足止めにしないとね…(キラ☆)」

海人は歯を輝かせながら片目を瞑って答えた。

刹那

ドガン!!

海人の上に特大のハンマーが振り下ろされると、

「それは、僕の専売特許だ!!」

藤一郎が怒鳴り声をあげた。

一方、ミサイルの着弾地点では、

ベットリ…

強力なトリモチに絡め取られたタイツ姿の男達が累々と転がっていた。



−4−

「さて、竜泉井を前にして先に進めないとは…」

祠を前にして藤一郎が腕を組みながら呟くと、

「私が一人で参ります…」

輝水を入れるであろう空の瓶を背中に担いで鮎香がそう言うと、

「まぁまぁ…

 鮎香さんのような美しい方にこんな重労働をさせるわけには行きませんから…」
 
海人がそう言いながら祠に近づいていくと、

チャッ!!

祠の戸を開けた。

「え?」

それを見た鮎香が軽く声を上げる。

――よっ

海人は祠の中に置いてあった竜の像の向きを横に向かせると、

――これでよし…

「藤一郎っ、
 
 ロボットをこの祠の先に移動して見ろ」
 
と声を上げた。

――?

言われるまま藤一郎は遠隔操作で”じぇっとあろー21”を動かしてみると、

ガチョン

ガチョン

何事もないようにして”じぇっとあろー21”は結界を越えてしまった。

「なんで…

 その像…いえ、その祠は何人も開けることは出来ないはずです」

と口を両手で塞ぎながら言うと、

「まっ、良いじゃないですか

 ささ行きましょう!!」
 
海人は鮎香の手を引く、



祠を発って程なく行くと、

ボゥ…

行く先に水面が青白く光る池が見えてきた。

「…あれが竜泉井ですね」

海人の言葉に鮎香が頷く、

「よしっ、藤一郎、ここで止めろ

 コレ以上先進むと今度はお前の体が持たない…

 そうだ、確かコイツに組み立て式タンクが搭載してあったな…」

海人思い出したように藤一郎にそう訊ねると、

「あぁ…

(まったく、あいつにマニュアルを見せるんじゃなかったな)

 ただそんなもんどうするんだ?」

藤一郎の質問に、

「なぁに、ここの水をたっぷりともって行くのさ

 なんでも物事はサービスが肝心だよ」

そう言いながら海人は池を指さした。



「遅い!!」

一方、湊神社の社務所では

水我神が自ら放った刺客よりの知らせが

未だ無いことに苛立ちを募らせていた。

「まさか…失敗したのでは?」

彼の様子を見ていた神職姿の男がそう訊ねると、

「えぇいっ、

 連絡は密にするように、

 と言って置いたのに…

 これではどうなっているのか判らないではないか」
 
ドスドス!!

と音を立てながら水我神が歩き回った末、

「これ以上は待てん!!

 連中のことは放っておいて、

 我々は十畳小島に行くぞ!!

 乙姫もろともあの娘共を連れて行け!!」
 
と命令した。



ゴボゴボゴボ…

竜泉井よりポンプで汲み上げられた水がタンクの中へと注ぎ込まれる。

「ふぅ…

 何とか間に合いそうだな…」
 
時計を見ながら藤一郎が言うと、

「さぁ、それはどうだか…」

”じぇっとあろー21”に寄りかかりながら海人が告げた。

「なにを!!…

 この”じぇっとあろー21”が間に合わないとでも言うのか!!」

藤一郎がくってかかると、

「まぁ、それもあるけど、

 この水は輝水では無いですね、
 
 鮎香さん」
 
と海人は汲み上げている水の正体を鮎香に尋ねた。

「なに?」

海人の意外な言葉に藤一郎は驚くと、

「…判っていましたか…

 はい、確かにその水は輝水ではありません」
 
鮎香はやや残念そうな表情で告げた。

「そんな…輝水で無いとするなら、

 じゃぁ僕たちはここ何をしているのですか?」
 
藤一郎が訊ねると、

「いえ、この作業は無駄な作業ではありません、

 この水は輝水の原料になる竜水と言う物でして、

 輝水はこの竜水に乙姫様が持つ竜玉を浸すことで出来る物です」
 
と答えた。

「ほぅ…

 それでは、昨夜、気丈そうに振る舞っていた”みなと様”と呼ばれていた娘が、

 乙姫様と言うわけですか…」

海人が鮎香に訊ねると、

「あっ!!」

鮎香は思わず驚くと口を手で隠した。

Piーーーーっ

と同時にアラームが鳴るとポンプが停止した。

「おっし、竜水5トン。

 囚われの乙姫様の所へお届けに参りますか」

ギッ!!
 
タンクの蓋を閉めると海人は鮎香に告げた。

「…あなた方は一体…」

自分たちの秘密事が難なく受け入れる海人の正体を鮎香が伺っていると、

「なぁに、お節介が少々過ぎる旅の隠居ですよ」

とどこかで聞いたようなセリフを海人が言うと、

”じぇっとあろー21”に鮎香を乗せた。



−5−

ズシーン

ズシーン

巨大タンクを担ぎ上げて”じぇっとあろー21”が祠の前までに来ると、

ズザザザザザ!!

今度は黒のタイツに身を包んだ男達が姿を現した。

「なっなんだぁ?」

藤一郎が身を乗り出しながら声を上げると、

「ほぅ、トリモチ攻撃から復活したか、

 それにしても…
 
 そのまんま戦闘員とはショッカーだな、まるで…」

海人は呆れながら肩を窄めた。

ジリ…ジリ…

戦闘員達は”じぇっとあろー21”との間合いを徐々に詰めていく、

「…藤一郎、ここから一気に飛ぶぞ…」

海人はそう呟くと、

「飛ぶって…どうやって!!

 いくら”じぇっとあろー21”のオプションに飛行システムがあるからといっても
 
 5トンの水を抱えた状態では無理だぞ!!」

藤一郎が叫ぶ。

「なぁに、アイツを使うのさ」

海人はそう言いながら祠を指さした。

「?」

海人の言っている意味が判らないで居ると、

ポチ!!

海人は操縦席にある青いボタンを押すなり

”じぇっとあろー21”から飛び降りると

「鮎香さんは操縦席の中に入ってください!!」

と叫びながら祠へと向かっていった。

バッ!!

「イーっ」

すると頃合いを見計らっていた戦闘員達が一斉に海人めがけて飛びかかってきた。

しかし海人はお構いなく祠へと駆け込むと、中の竜の位置を元に戻した。

ギシーーーン!!

たちまち結界が復活し空間がゆがみ出す。

と同時に、

ビシッ!!

戦闘員達の身体が宙に浮くと、呆気なく結界の外へと弾き飛ばされた。

「アホが!!」

それを見た海人が呟くと、

ジィィィィ…

ガシャガシャガシャ!!

ジャキーン!!

”じぇっとあろー21”の後部から金属のこすれる音をあげながら翼が展開されると、

ガチャッ!!

っと巨大なノズルが姿を現した。

ズズズズズズズ…!!

ゴォォォォォォ!!

そして飛行用エンジンが点火されると、

「おぉーぃ、早く戻って来いっ」

藤一郎が叫び声をあげる。

と同時に

ギギギギギ!!

”じぇっとあろー21”の鋼体が浮かび上がった。

結界が”じぇっとあろー21”をはじき出そうとしている。

「おぉっとヤバ!!」

それを見た海人は大急ぎで戻るが、

ドォォォォォォン!!!

ついに結界に弾き飛ばされた”じぇっとあろー21”は

大音響をあげて飛び立っていった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

見る見る小さくなっていく広場を眺めながら、藤一郎が

「……葵…

 いいヤツだった…
 
 鮎香さんと水姫さんはこの僕がしっかり責任を持つので
 
 成仏してくれよぉ〜」
 
そう叫ぶと、

ゲシッ!!

「誰が成仏だ、だれが…」

いつの間にか藤一郎の後ろにいた海人が彼の頭を足蹴にした。

「ふっ…無礼者!!」

藤一郎がすぐに刀を抜くと、

「バカッ、こんな狭いところで刀を抜くな!!」

「問答無用!!」

「ちょちょっと…」

狭い操縦席の中で藤一郎と海人のど突き合いが始まった。

ゴォォォォォ…

空中に躍り出た”じぇっとあろー21”は翼を輝かせながら、

一路、湊神社に向けて飛行していく。



一方、水姫達は…

ザザーン

港に停泊している小さな連絡船の薄暗い船室に居た。

「なぁ…船に乗せられて俺達はどこに連れて行かれるんだ?」

敦が縛られた両手を見ながら呟くと、

「さぁな…どこかに売り飛ばされるか、

 下手をすると魚の餌かもよ」

敬太がそう答えた。

「うわーーん」

それを聞いた多恵達は泣き始めると、

「絶対大丈夫だよ!!」

水姫はそう言うとニコッと笑った。



つづく


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