風祭文庫・人魚の館






「潮騒の島」
【第2話:十畳島】

作・風祭玲

Vol.159





−1−

ヒュォォォォォォ〜っ

昨夜来十畳島を襲っていた大雨と強風がようやく収まり、

名残の風が吹き付ける島最大の集落・湊

その名の通り島で最大の港を抱える街を見下ろす高台にその屋敷はあった。

”みなと様…”

島に住む者達からそう呼ばれ敬われてきた屋敷は

築100年以上はゆうに経っているであろうか、

いまなお神々しい威厳を放つ社がその奥にあった。

そして、その中では大きな瓶を前にして

3人の年老いた巫女が座り口々に歌のような

はてまた呪文ともとれる文言を口ずさみながら

じっと瓶の中を見据えていた。

ヒュォォォォォォォ〜っ

一時より弱くなったものの未だ暴れる風が音を奏でる。

ギシっ

ギィ…

暴れる風に抵抗するように社のあちらこちらから悲鳴が上がる。

そのとき、

ゴン!!

一陣の強烈な突風が吹き抜けていった。

と同時に

フォン…

瓶に張られた水に同心円状の波が起こると薄く青白く光った。

「!!」

その様子を見た3人の老巫女が口ずさむのをやめるとハッと息をのむ。

「何事か?」

彼女たちの後ろより同じ巫女装束姿の一人の少女が

毅然とした声で老巫女達に尋ねた。

「はい…

 強力な力を持つ者がこの島の近くに現れました」
 
老巫女達は一斉に振り向くと少女に向かってひれ伏しそう答えた。

「そうか…

 して、その者は何者か?」
 
少女の問いに

「はぁ…残念ながらそこまでは…」

「ただ、かの者はこちらに向かっていますので」

「まもなく姫様のお目に掛かるものと思います」

老巫女達は次々と答えた。

「…………もしやと思うが、海彦様ではあるまいな」
 
思い出したように少女が訊ねると、

「いえ……それは…無いと思います」

「もしも、海彦様が帰られたのであるなら

 もっと強い力を感じるはずですので」

と言う老巫女達の答えに、

「そうか…」

少女はそう言うと肩を落として天井を見上げる。

「あぁ…姫様…落胆なさいますな、

 姫様の力が弱まれば我々下の者達の命に関わります」

「うん、そうだったな…」

少女は立ち上がると

チャプン…

瓶の中に手を入れ中から一つの玉をとりだした。

「これはもぅよいか?」

「ははっ…ありがとうございます」

老巫女達の一人が頭を下げると、

他の二人が瓶を大事そうに社から運び始める。

「龍泉池より湧き出るわき水・竜水が姫様の竜玉と交わることで出来る輝水…

 それが海彦様が不在のいまでは我らの大切な命の源…」

そう言う老巫女の言葉に

「本当にそうなのであろうか?

 毎月竜王様の使いと申すあの者達がそのほとんどを持っていき
 
 我々が手に出来るのはほんのわずか
 
 何故じゃ…
 
 竜王様なら輝水はいくらでも作り出せるはず、
 
 それなのに何故あのもの達は輝水を持っていく
 
 わたしはいつまで輝水を作らねばならないのじゃ」

少女の問いかけに老巫女はただひれ伏すだけだった。

そしてただ一言、

「乙姫さま…

 希望を捨てずに辛抱すれば、いつかきっと巡り会える日が来ます」

彼女はそう言い残すと社から出ていった。

「乙姫と呼ばれてはや17年…いささか疲れてきたわ」

少女はそう言うと朝日が射し込み始めた社を後にした。



−2−

「どうやら嵐は過ぎたみたいね」

「あぁ…そのようだな…」

水姫と海人は朝日を浴びながら姿を見せてきた十畳島を眺めていた。

「ねぇ…あの島…」

水姫が島を指しながら言うと

「あん?」

「やっぱり違うわね…」

「そうだな…念のため力は封じているが

 何が起こるか…」

そう話をしている二人の脇を

忙しそうに藤一郎が走り抜けていく、

「おぅ、どうした?、藤一郎…

 船の底に穴でもあいたか?」

海人の呼びかけに、

「なんで…そう言う方向に話を持っていくんだ!!」

藤一郎が大声を張り上げた。

「もぅ…海人ったら…

 で、何かあったの?」

水姫が訊ねると、

「えぇ、先ほど無線並びにレーダーが仮復旧しましたので

 早速、随送の機動艦隊に連絡を取ってみたのですが
 
 なぜか応答はなく、またレーダーにも反応がないんです」

と困った顔をしながら藤一郎は答えた。

「あら、まぁ…」

「実は謎の怪獣の襲撃にあっていたりして」

海人がそう言うと、

ジロリ…

藤一郎は海人を睨み付けるなり、

「まさか…貴様の仕業じゃぁないだろうなぁ…」

と凄みをきかせて呟いた。

ツンツン

「いっいやだなぁ…藤一郎君っ

 一介の高校生がそんな大それたことが出来るはずがないでしょうにぃ」

っと海人は藤一郎の脇腹をつつきながら猫なで声で言う、

「ほほぅ…

 一介の高校生とはよく言った」
 
藤一郎がそう言った瞬間、

ドン!!

「うわぁぁぁぁ〜っ」

海人の身体は宙を舞いそのまま海の中へ落ちていった。

「海人っ!!」

水姫が声を上げたが、

「よっ!!」

パシャッ!!

海人は空中で一回転すると足で海面を蹴り、

ジャンプすると再びデッキに戻ってきた。

「くぉらっ、貴様っなんて事をするんだ!!

 普通の人間だったら死んでいるところだぞ」
 
海人は藤一郎にそう言いながら迫ると、

「そうだよなぁ…一介の高校生だったら死んでいるよなぁ〜っ」

っと何処吹く風、

「あっしまった」

ハッと海人は気づくと、

「おバカ…」

水姫が呆れた顔をしながら言う。



「ねぇ…もぅすぐ島に着くよ」

佐々木多恵が声を上げる。

「わかった…」

藤一郎はそう返事をするとブリッジに入っていった。

見る見る島は大きくなり、

やがて正面の岬にある灯台の模様がハッキリ見えてくるところで

クルーザー・ソルティードッグは左へ大きく梶を切る。

海鳥たちが船と平行して飛ぶ、

「うわぁぁぁ凄いねぇ…」

「うん…」

太平洋の荒波によって削り取られた島の断崖を見上げながら

木之元友香や本多圭子が声を上げた。

「さぁ…あの岬を過ぎれば、我が犬塚グループが誇る

 十畳島・犬塚シーパラダイスが見えますよ」

藤一郎が右から左に突き出た岬を指さして言うと、

「へぇ…どんなところなのかな…」

「わくわくするわね」

知美達がはしゃぎ出す。

「ははは…

 それはもぅ浦安にある某遊園地なんぞ近所のひなびた公園に見えてしまうような
 
 超弩級のウルトラ・スパー・リゾートですよ(キラリ☆)」

と歯を輝かせながら藤一郎は自慢するが、

「…なぁちょっとムリがあると思わないか?」

「この不景気にそんなバブリーな施設を維持できるわけが無かろうに」

「…金持ちの考えていることはわからんよ」

「ちゃんとあればいいがな…」

海人達が次々に口にすると、

「そうか、そうか…

 じゃぁ君たちはこの船にこのまま乗っていたまえっ

 別にムリに来て貰わなくてもけっこうだからな」
 
藤一郎は海人の後ろに立つと勝ち誇ったような視線でそう言った。

「え?、いやぁだなぁ…藤一郎君っ

 誰が遊ばないって言ったの?
 
 もぅ意地悪なんだから…」
 
海人は急に懐柔する素振りをしながら藤一郎に言い寄った。

「ふん…まったく貴様というヤツは…」

藤一郎が呆れ半分に海人を見ているとき

ザザザザザザ…

ソルティードッグは大きく突き出した岬をゆっくりと通過して行く。

やがて、岬の突端から向こう側の景色が見えてくると、

「……ほぅ、これがお前のシーパラダイスか…」

「いやぁ立派なもんだねぇ…」

「ホント…」

孝達が次々と感想を言うが

女性陣は誰一人として声を出さなかった。

「藤一郎君…

 白砂青松…

 実に美しい海岸線とその自然はよく判ったのだが、

 キミが言っていた宿泊施設や遊園地といったモノは何処にあるんだい?

 まさか秘密基地風にあそこの山が割れて出てくるのか?
 
 それともこの海の中か?」

海人が呆然としている藤一郎にそう言うと

「そんな…

 そんな………

 そんなっバカなぁ〜っ!!!!」

藤一郎は大声で叫ぶとブリッジに駆け上がり、

無線機を使って呼びかけ始めた。

「…あぁ、居るんだよなぁ…

 空想の世界にどっぷりと浸り込んで

 現実が見えなくなってしまったヤツって…」

工藤敬太が呆れ半分に言うと

「藤一郎さん可愛そう…」

川崎知美は逆に藤一郎を哀れんだ

「シーパラダイス管理棟、こちら藤一郎、応答せよっ」

「シーパラダイス管理棟、こちら藤一郎、応答せよっ」

海人は繰り返しながら叫ぶ藤一郎の肩をポンと叩くと、

「なぁ、犬塚…

 シーパラダイスはお前の心の中にある。
 
 それで十分じゃないか?
 
 なっ(キラリ☆)」

歯を輝かせながら海人が言ったとたん、

ズガンっ!!

海人の頭に特大のハンマーが振り下ろされた。

「そ・れ・は…”僕の専売特許だ!!”」

藤一郎が叫ぶ後ろで、

「これってどういうこと?」

多恵がクルー達に尋ねていた。

「う〜ん…」

クルー達も頭を捻っていたそのときっ

ゴゴン!!

突然の轟音と共にクルーザーが大きく揺れた。

うわぁぁぁぁ〜っ

きゃぁぁぁぁぁ〜

圭子や重信達がデッキに投げ飛ばされる。

「大丈夫かっ」

藤一郎と海人がデッキに駆け出すと、

「なっ」

海の中を大きな蛇のような生き物が

ゆっくりとソルティードッグの下から現れ

移動していく様子が海人の視界に飛び込んできた。

「海魔っ?」

水姫が叫ぶと、

「あぁ…」

海人はとっさに右手に光の玉を作ったが、

しかし、すぐにそれを消した。

「どうしたの?」

「今はそれどころじゃない

 水姫っ
 
 すぐに下に降りろ
 
 いまので底に穴があいたはずだ」
 
海人が水姫に指示すると、

「うん、判った…」

水姫は海人の指示を聞くのと同時に下に降りていった。

「痛った〜ぃ」

「なんなんだ?」

頭を押さえながら多恵や敦達が起きあがってくると、

「藤一郎、すぐにこの船を適当な港につけろ」

「なんでだ?」

「恐らく船底に穴があいているはずだ」

海人が言うと、

「そんな馬鹿な…」

「いま水姫が下に降りていった、いいから早くしろ」

「あっあぁ…」

海人の迫力に負けて藤一郎はブリッジに戻る。

やがて水姫があがってくると、

「やっぱり、海人の言ったとおり穴があいていたよ」

「ぬわにぃ!!」

それを聞いた敬太が声を上げた。

「あっ大丈夫っ、

 いまあたしが術で水が入ってくるのを止めたから」

と言う水姫の説明に

「ふぅ〜っ」

一同から安堵のため息が漏れた。

「仕方がない…近くの港に入れるぞ」

藤一郎は一番近い港に向けて船の進路を変えさせた。



−3−

「あぁ…ひどい目にあった」

「これだから船旅はイヤなんだよなぁ」

「水姫っ、穴はどうした」

「うん、大丈夫、ちゃんと塞いどいたわ」

「そうか」

などと言いながら海人達が下船してくると、

数台のパトカーが彼らの目の前に止まるなり数人の警官と刑事が降りてきた。

「あぁ君たち…その船の者達かね?」

警官の一人が近くに居た海人に訊ねると

「はぁ…そうですが」

と返事をすると、

「そうか…で、この船の責任者は中かね」

「え?」

「はぁ…まだ乗っていますが」

海人の答えに

「よし」

と言う言葉と同時に警官達がクルーザーへ乗り込み始めた。

「おっおい…」

「どうなってんだ?」

敦達が顔を見合わせていると、

「あぁ、すまぬが君たちもちょっと署まで来てもらおうか」

と言う言葉と共にたちまち海人達は警官に取り囲まれてしまった。

「……えぇ?」

水姫の声が港に上がった。



「だから…ちゃんと運行計画書は提出したと言っとろうが!!」

取調室に藤一郎の声が響き渡る。

しかし、彼と反対側に座っている刑事は難しい顔をしながら

「しかしねぇ…さっき内地の海保に問い合わせたら、

 このような船の船籍は無いと言う返事が返ってきたぞ」

本土から送られてきたFAXを見せながらそう言うと

「そんな馬鹿な…」

藤一郎はFAXを刑事から奪うなり隅から隅へと視線を走らせた。

「何かの間違いでは?」

船長が訊ねると、

「密輸船じゃないのか?」

別の若い刑事が言う

「おいっ貴様っ、

 この犬塚藤一郎にそのようなことを言ってただで済むと思うのか?」

藤一郎が言葉を荒げながら懐から印籠を取り出すと刑事に見せつけた

「犬塚?、なんだそりゃぁ?」

刑事達は藤一郎が出した”犬の御紋”を不思議そうに眺めると、

「おいおい、君っTVの見過ぎじゃないのか」

とどっと笑い始めた。

「どうなってんだ?」

「う〜む…」

海人を含め孝達や多恵達そしてソルティードッグのクルー達も

刑事達の態度が信じられなかった。


その後、船の実況検分から密輸の疑いが晴れ

とりあえず海人たちは釈放されたものの、

クルー達は船内で待機になる一方、

海人達は船から閉め出され、帰る所を無くしていた。


「おい…」

「まさかこのまま野宿…って訳じゃないだろうなぁ」

タラップに張られたロープを前にして敬太が藤一郎に訊ねると、
 
「これは夢だ…コレは夢だ…」

藤一郎は刑事達に印籠の効き目がなかったことに

ショックを受け立ち直れない様子だった。

「駄目だなこれは…」

海人が藤一郎の容態を診て言うと、

「はぁぁぁぁぁ…

 洒落にはならないぜ…
 
 これだったら家でポテトチップスを食べていた方がまだマシだったぜ」
 
重信が肩をすぼめながら言う、
 
「どうする?」

「もぅすぐ日が暮れるよ」

多恵と友香が座り込んで途方に暮れていると

「おぉ〜ぃ…」

姿が見えなかった孝と敦が走ってきた。

「あん?、何処に行ってたんだ?

 お前等…」

海人がただすと、

「今夜の宿捜してきたぞ」

「え?」

「あぁ、この先民宿だけどOKだってさ」

息を弾ませながら二人が報告すると、

「どうする?」

「このままここに居ても仕方がないだろう」

「じゃぁそこに行くか…」

たちまち、圭子達が腰を上げ孝達に宿の場所を訊ねると

そこへと向かい始めた。

「で、コイツどうする?」

海人が廃人同然となっている藤一郎を指さして訪ねると、

「…そのまま放って置くと島の人たちの迷惑だしなっ

 不本意ながら連れて行くか…おいっ」

「へぇ〜ぃ」

敬太の声に孝・敦・重信がどこからか戸板を持ってくると、

藤一郎をその上に乗せ運び出した。

「まったく世話の焼けるヤツだ」

その様子を眺めながら敬太が呟く、



−4−

孝達が見つけた民宿はそこから5分ほど歩いたところにあり、

”漣屋”と言う看板が掛かっているもの、

建物は建築当初から相当な時間が経っているらしく、

古い日本式家屋の趣を呈していた。

「ほぅ、ここか…」

「古そうねぇ…」

「あぁ…コレでシワクチャの婆さんが出てきたら完璧だな」

などと勝手なことを言っていると、

「いらっしゃいませぇ…」

中から出てきたのは年の頃は20歳前後

きらきらと光る黒い髪をたなびかせた細身の女性だった。

「っ!!!!」

敦達は突然出てきた彼女の姿に思わず息をのむ。

「やぁ…初めまし…」

海人が自己紹介すると同時に、

ドカッ!!

さっきまで戸板の上で放心状態だった藤一郎が海人を突き飛ばすなり

「初めまして、僕は犬塚藤一郎と申します。

 実は先ほどまで無実の罪を着せられ絶望の淵を歩いていたのですが
 
 いま、こうしてあなたに巡り会えたおかげで
 
 生きる希望を持つことが出来ました(キラ☆)」

と歯を輝かせながら彼女に迫った。

と同時に

「ようっ、藤一郎っ

 気鬱の病は治ったかっ?(さっきのお返しっ)」

ズガン!!

海人が藤一郎の頭上へハンマーを振り下ろした。

「ふっ、まぁな…」

頭の上にハンマーを乗せたまま藤一郎はスラリと刀を抜くと、

「数々の私への無礼…手打ちにしてくれるっ」

ウリャァ〜っ!!

海人に向かって斬りかかった。

「ほぅ…どうやら完全に復活したようだな」

「良かった…」

多恵達がほっとしている様子を見て

「あっあのぅ…いいんですか?

 二人を止めなくて…」

彼女が尋ねた。

「あぁ…いいんですよ、

 あれはただの息抜きですから」

と言う説明に
 
「はっはぁ…」

彼女は海人と藤一郎が演じるパフォーマンスを冷や汗を流しながら眺めていた。



「うわぁぁぁ〜っ、見て見て…」

「へぇぇぇ…」

通された部屋の窓から港越しに漁り火が光る海が見え、

潮騒の音も耳を澄ませば聞こえてくる。

「やっぱ日本人ならこういう方が落ち着くわね」

「うん」

友香と圭子が窓から見える景色にはしゃいでいた。

「漁り火かぁ…」

水姫がぼそっと囁く、

「どうしたの?」

知美が尋ねた。

「うん…あぁ…

 昔ね…よくあの下で遊んだことを思い出してね」
 
「へぇぇ…」

「ねぇどんな遊びをしてたの?」

友香と圭子も水姫の周りに集まってくる。

「うん、そうねぇ…」

水姫が思い出しながら話し始めたとき、

「おっおいっ、お前等、ちょっと下に来て見ろ」

一足先に階下の食堂に降りていた敬太が上がってくるなりそう叫んだ、

「どうしたんだ?」

海人が訊ねると、

「いいから、いいからちょっと来いっ」

「あん?」

敬太に言われるまま海人や藤一郎が食堂に行くと彼が指さしているTVを見た。
 
「なっ…これは…」

それは国会中継で野党からの質問に首相が答えている場面が映し出されていた。

「”うっちゃん”じゃない…」

「なんで?」

「だって…大内首相はたしか…」

「あぁ…先日、内閣不信任を突きつけられて総辞職したはずだ」

「しかも、その後病気で倒れて…」

「うん…」

「その”うっちゃん”がなんで総理としてTVに出ているんだ?」

「さぁな?」

「病気が治ったのかな…」

「んなわきゃないだろう」

敬太達が口々に言っていると、
 
「どうやら別次元に迷い込んだな…」

離れたところで腕組みをしてTVを見ていた海人がつぶやいた。

「別次元?」

「別次元ってまさかパラレルワールド…か?」

敬太が海人に質すと、

「おう、鋭いなっ

 そう…

 犬塚のシーパラダイスがこの島になかったこと、
 
 あのクルーザーの船籍が海保の台帳になかったこと
 
 そして、辞めたはずの首相が未だ健在と言う事実
 
 最後に、昨夜の嵐の中に発生した不可思議な現象…

 どうやら俺達は俺達が住んでいる世界と
 
 きわめてよく似た異世界に迷い込んだのかもしれないな」

テーブルの上に置いてあったミカンを食べながら海人がそう言うと、

「じゃぁ、俺達は…どうなるんだ?」
 
敬太が海人に言い寄った。

「そいつは分からない…

 ただ水姫が言うには
 
 どうやら俺達は誰かに呼ばれてここに来たみたいだぞ」
 
「え?」

みんなの視線が一斉に水姫に注がれた。

「水姫…それってホント?」

多恵が訊ねると、

コクン

水姫は静かに頷いた。



つづく


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