風祭文庫・人魚の館






「潮騒の島」
【第1話:嵐】

作・風祭玲

Vol.155





−登場人物−

葵海人    :この物語の主人公
葵水姫     海人は竜宮の長・海彦の人間界での姿であり乙姫の許嫁
        水姫は海人の双子の姉になっているが、
        実は海彦のボディーガード兼監視役。

        なお、2人が人魚であることは、
        下に記すメンバー全員にはバレている。

犬塚藤一郎  :日本を支える(支配する)5大財閥の1つ犬塚家の御曹司
        女性には優しいがちょっとキレやすい。

      注)5大財閥とは狸小路・狐川・猫柳・犬塚・猿島の5家
        なお、狸小路千代彦と藤一郎はライバル関係である。

榊原孝
井上敦
大野重信
工藤敬太   :海人の悪友…いつも連んでいる。

佐々木多恵
木之元友香
本多圭子
河田知美   :水姫の友達、結構仲がいい



−1−

ザザザザ…ザッバーン!!

5月の日差しを受けて一隻の大型クルーザーが大海原を突き進む。

「ふぅ…気持ちいいわねぇ…」

デッキで潮風を浴びながら

佐々木多恵・木之元友香・本多圭子・河田知美

の4人の少女達が景色を楽しんでいると

「はははは、如何ですか?

 僕のクルーザー・ソルィードッグの船旅は」

などと言いながらボーイを従えた一人の男が現れた。

この船の持ち主である犬塚藤一郎である。

彼の年齢は少女達と同じだが、

髪をオールバックにまとめ、

いかにも”大金持ちの御曹司”と言った雰囲気の彼が

さわやかに歯を輝かせると、

「すっごく、気持ちいいです」

「ほんと、犬塚君って凄いのね」

「ホントホント」

少女達が次々と誉め言葉を言う。

「いやぁ、それほどでも…

 あははは…」

藤一郎は照れ笑いをしながら、

「…でも、この程度でこんなに驚いてももらっても

 これから向かう十畳島犬塚シーパラダイスに比べれば
 
 大したことはないですよ」

とさり気なく宣伝しながら彼女達から視線を移していくと、

少し離れたところで一人の少女が長い髪を風に靡かせながら、

ジッと海原を眺めているのに気づいた。

葵水姫である。

「…やぁ、水姫さん、

 如何ですか?、船旅は…」

藤一郎はそう言いながら彼女に近づいて行くと、

「あっ藤一郎…

 うん、楽しいよ…」

彼女は振り返えるとニコリと笑いながら答えた。

「あはは…

 水姫さんはもっぱら海の中がご専門だから、

 こういう海原はあんまり興味が無いかも知れませんね」

「そうでもないよ…

 ほら、あそこ…」

そう言って水姫は海原の一点を指さした。
 
「はぁ?」

藤一郎は彼女が指した方向を目を凝らして眺める。

「何か居るの?」

少女達も同じようにして眺めた。

「あそこにマグロの大群が居るわ…」

水姫の答えに

「そっ、そうですか…」

「見えないの?」

「えっえぇまぁ…」

「そうか…見えないのか…」

水姫はそう言いながら視線を戻すと、

「ねぇ、水姫…マグロがいるってホント?」

河田和美が水姫に声をかけた。

「うん…いっぱい居るよ」

「あたしトロ大好き…」

「ねぇねぇ知ってる、マグロのトロって体にいいんですって」

「そうなの?」

「この間テレビでやってたよね」

少女達の会話に、

「じゃぁ取ってこようか?、

 何匹いる?」
 
水姫が上着を脱ぎながら訊ねると、

「わっ、みっ水姫さん…

 いいです、いいです
 
 それは私がやりますから…」
 
慌てた藤一郎が水姫を制止すると、

携帯電話を取り出すなり相手に指示をだした。

しばらくして、一隻の船が水平線から姿を現すと

彼女が指した海域へと向かっていく、

「きゃぁ〜っ、今日の夕食はマグロ三昧ね」

そう言ってはしゃぐ少女達に、

「あははは、取れたてですから築地よりも新鮮ですよ…」

藤一郎が言うと、

「じゃぁ、あたしは下に行っているね」

と言うなり水姫はデッキから降りていった。

「あっ、ちょっと…」

藤一郎が水姫を呼び止めようとしたとき、

「お〜ぃ、犬塚っ、ヤキソバがないぞぉ〜っ」

彼らの後方で、船上バーベキューを楽しんでいた

葵海人・榊原孝・井上敦・大野重信・工藤敬太ら5人が声を挙げた。

ピクっ

見る見る藤一郎の表情が引きつる…

「まったく……

 僕は”水姫さん達のみを”このクルージングに招待したんだ!!

 それなのに…
 
 それなのに…
 
 あぁそれなのに…

 なんで、君らが僕の船に乗っているのかねっ」

顔を真っ赤にして犬塚藤一郎が海人達に迫ると、

「仕方がないだろう…

 もぅ乗ってしまっんだから…」

「大勢で乗っていると、良い知恵も浮かぶよ」

「食い物はうまいし…」

「空気はきれいだし…」

「こういう楽しいことは、

 独り占めにしないでみんなで分け合うことに意義があると思うのだが」

などと勝手に理由を決め付け始めた。

「ふっ…

 ”ここは僕の船だ!!”」

藤一郎が思わず大声を上げると、

海人が藤一郎の傍に来るなりドンと彼の肩に肘を乗せると、

「…まぁまぁ…

 藤一郎君……

 落ち着いて話し合おうじゃないか、
 
 俺と水姫はココで降りてもいっこうに構わないんだけど…」

と彼の耳元で囁いた。

「ぐっ…貴様……」

藤一郎は海人を睨み付ける。

「…どうする?」

ニヤリ…

海人は口元に笑みを作りながら訊ねると、

藤一郎は握り拳に思いっきり力を入れ、

ボーイにヤキソバを持ってくるように指示を出した。

「やったぁ、ヤキソバじゃヤキソバじゃ!!」

敬太達が大声を上げると、

「やかましぃっ!!」

耐えかねた藤一郎が叫び声をあげた。

そのとき

トントン

「なんだ…」

突然肩を叩かれたので藤一郎が振り向くと、

「素直な藤一郎クンってス・テ・キ…」

いつの間にか緑色のカツラを被った海人が藤一郎に迫っていた。

「ふっ…

 ………(ぷっつん)……

 えぇぃっ!!
 
 手打ちだ手打ちだ!!
 
 そこへ直れっ」

ビュォっ

藤一郎がどこから取り出したのか

一振りの日本刀を振りかざすと、

海人に斬りかかった。

「あははは…

 キレタキレタ…」

「むわてぇ〜っ」

逃げる海人に追う藤一郎。

「お〜ぉ、また始めたか…」

「相変わらず懲りないヤツ等じゃのぅ」

「ほんと仲がいいわねぇ…海人クンと藤一郎クンって」

孝や多恵達はヤキソバを食べながら

海人と藤一郎が演じるパフォーマンスをのんびりと眺めていた。

「あはははは…」

海人の笑い声が海の中にしみこんでいく…

そう海人たちは5月の連休を利用して

藤一郎所有の船、ソルティードッグで

十畳島にオープンしたばかりの犬塚シーパラダイスへと遊びに行く途中であった。

さて、甲板で二人のパフォーマンスが演じられている下では、

「………」

水姫は一人船室から何も言わずじっと水平線を眺めていた。

ムクムク…

彼女が見つめる水平線には一掴みの雲が徐々にわき上がっていた。



−2−

ザザーン…

夕暮れになり昼間の騒動もすっかり落ち着いた頃、

ソルティードッグは順調に航行していた。

「どうだ」

船長が舵を握る航海士に様子を尋ねた。

「はい、今のところ一切問題はありません

 ただ…」

「なんだ?」

「あの雲なんですが…」

航海士がそう言って指を指した先には

空を1/3ほどを覆い尽くした黒雲がそびえ立ち

所々で稲光によると思われる細かい明滅を盛んに繰り返した。

「ほぅ5月にあれほどの雷とは珍しい

 避けられそうにないか…」

と船長が訊ねると、

「えぇ、先ほどから迂回をしているのですが、

 まるで我々の先回りをするような奇妙な動きをするんです」

航海士は船長にそう告げた。

「う〜む」

船長は唸りながらコンソールを叩くと、

気象衛星からのデータを取り寄せ始めた。

「…規模は小さいか…」

行く手の雲塊が衛星写真で見ると、

きわめて小さな点にしか過ぎないのを確認すると、

「若に伺ってみよう…」

そう言うと船長は船内電話を手にした。



一方ここは大食堂…

「お前ら昼間あんだけ食ってよく食えるなぁ…」

感心している藤一郎の前で

大型テーブルの上に並べられた刺身に寿司・鉄火丼と言った大量のマグロ料理を

がっついて食べる海人たちの姿があった。

「海人ぉ〜っ、みっともないよ」

水姫が呆れかえりながら言うと、

「おうっ水姫もどうだ?、コレ脂がのっていてうまいぞ」

ホレっと海人が水姫にマグロの舟盛りを差し出すと

「もぅ…」

水姫はそれをチラリと見るなり瞬く間に平らげると

「海人っ、おかわり」

と空になった器を差し出す。

思わず引き下がる藤一郎…

「水姫っていいわねぇ…

 あぁいう食べ方をしても太らないんだもん」

「ホント、人魚って得よねぇ…」

「うん」

刺身を食べていた多恵や友香が口をそろえて言うと、

藤一郎の電話が鳴った。

「…あぁ僕だが

 …ん、雲?
 
 …それがどうした?…
 
 …ならぬ…進路の変更は断じて認めんぞ、
 
 …この最新装備を搭載した”ソルティードッグ”が
 
  たかが嵐の一つや二つで
 
  そう易々と遭難するわけが無かろう

 …かまわんっ、このまま直進をしろっ」
 
そう命令して藤一郎が電話を切ると、

「…嵐が来るの?」

圭子が藤一郎に尋ねた。

「え?

 いっいや…大したことはないですよ

 少々揺れるかも知れませんが、

 この船が遭難する事は絶対にありませんので安心してください」
 
藤一郎が説明すると、

「沈むなんて事はないでしょうねぇ」

「あはは…それは大丈夫ですっ

 いざというときに備えて、
 
 最新鋭の潜水艦がソルティードッグの直下100mの所を併走していますし
 
 また、犬塚家私設機動艦隊の空母2隻ががっちりとガードしていますので
 
 大船に乗ったつもりで居てください」

と力説をするが、

「絶対に沈まない。と言ったどこかの船はあっさりと沈んだよなぁ…」

海人が横から口を挟むと、

「貴様っ、僕の船にケチをつける気か…」

藤一郎は海人に迫った。

しかし…

「水姫〜っ

 イザと言うときは助けてね…」
 
そんな2人をよそに

多恵達は皆そう言いながら水姫のもとに集まっていた。

「どうやら機動艦隊よりも人魚の方が頼りのようだな、犬塚君」

あんぐりと口を開けている藤一郎の横で勝ち誇ったように海人が言う。



−3−

「ねぇ海人…」

夕食が終わり部屋に戻った水姫が髪を整えながら海人に尋ねた。

「なに?」

「感じる?」

彼女の髪が見る見る翠色に染まっていく…

「あぁ…ただの嵐じゃなさそうだな」

海人は窓のほうをチラリと見るとそう答えた。

キィィィィィィィン

水姫が竜玉を取り出すとそれは淡く輝いていた。

「くるか?」

海人が乗り出して聞く

「ちょっと待って…」

水姫は身に付けているものを脱ぐと裸になり

クッ

っと身体に力を入れた。

ヌゥ〜っ

たちまち腰から尻尾が伸び始めると足と同じ長さになり、

それが太く張り出すと、見る見る魚の尻尾へと変化していった。

「んっく…」

彼女の口から声が漏れる。

脚が退化して尾鰭を飾る鰭になると、

水姫は1人の人魚に変身した。

パチパチパチ

「お見事!!」

海人が拍手をしていると

コンコン

ドアがノックされた。

「開いてるよ…」

海人が返事と同時にドアが開くと、

「水姫さん、先ほどのことで………

 うわっ!!」

そう言いながら藤一郎が入ってくるなり、

人魚姿の水姫を見て大声を上げた。

「いっいっ一体どうしたんですか」

「うん、ちょっとね…

 占いをしてみようかと思って」

尾鰭を左右に動かしながら水姫が答える。

「占い?」

「おい、犬塚っ、拝観料として5000円」

海人が手を差し出すと、

「なんで…僕が払わにゃぁいかんのかねっ」

と食ってかかる。

そんな二人にお構いなしに

ポゥ…

うっすらと水姫の身体が光ると

彼女が手にした竜玉もつられるようにして淡く輝き出す。

キィィィィィン…

水姫は竜玉に手をかざすと歌を歌い始めた。

「♪〜〜♪〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪〜♪〜〜♪…」

すると竜玉もまるで歌うように彼女の歌声にあわせて輝きを変えはじめた。

「これは…」

藤一郎の質問に

「人魚の歌だ…

 人魚は力を使うときに歌を歌う…」

とまじめ顔の海人が答える。
 
「水姫っ、伴奏はいるか?」

海人が訊ねると

フルフル

水姫は歌いながら首を振った。

やがて歌が終わると

「…いま、飛び込もうとしている嵐…

 注意して…」

と呟いた。

「はぁ?」

「どういうことだ?」

海人が水姫に訊ねると、

「只の嵐じゃぁなわ…」

「なに?」

「なにやら意志のようなものを感じる…」

「意志?

 例のが絡んでいるのか?」

海人がまじめな顔で水姫に聞くと、

「ううん…違う…

 あれとは違う…」
 
「何がどうしたんですか?」

合点のいかぬ藤一郎が声を上げると、

「なにやら胸騒ぎしがます…

 犬塚くん…
 
 この船の傍にいる船達をそれぞれ離して、
 
 じゃないと危険よ…」
 
「え?」

「この船のコトはあたしが守れるけど他の船までは手が回らないわ、

 急いで…」

訴えかけるように水姫が藤一郎を見つめると、

「わっ判った…」

藤一郎が慌ててブリッジに戻ると、

併走している空母と潜水艦にクルーザーから離れるように指令を発した。

方向を変え見る見る小さくなっていく空母の明かりを見ながら、

「水姫…いいのか?」

海人が水姫に訊ねると、

「呼ばれているのはこの船…

 巻き込まれるのは少ない方がいいわ」
 
と水姫は答えた。

「呼ばれている?

 だれに?」

「わからない…」

そのとき大粒の雨が

ボッボッ…

と窓を叩き始めた。

「来たか…」

海人が空を見上げると、

カッ!!

稲光が空を一気に横断した。



−4−

ビュォォォォォォ〜っ

クルーザーは大時化の海の中をまるで木の葉のように弄ばれていた。

「水姫ぃ〜っ、大丈夫?」

揺れる船内で多恵・友香・圭子たちが水姫の周りの集まっていた。

「うん、大丈夫よ…

 あたしが居るから

 この船は絶対に沈まないから」
 
人間に姿に戻っていた水姫は彼女たちにそう言い聞かせていると、

「しかし、時化方がちょいと甘いなぁ…

 どれ、この間見た映画みたいに
 
 超でっかい大波を起こしてやろうか?」
 
と海人が腕まくりして言うと、

ドカン!!

「いらん事をするなっ!!」

知美がテーブルを持ち上げるなり海人の頭上にそのまま落とした。

「…おっお前等…よくそんな元気があるなぁ〜っ」

騒ぎを聞いて孝等が駆けつけてきたが、

どれも顔面は蒼白、足もガクガクと震えていた。

「どうしたんだ?お前等?」

机の下から這い出してきた海人が訊ねると、

「…バ〜カ…船酔いだ船酔い…」

うつろな目でそう訴えると、

すぐに

おぇ〜〜っと

持参していたバケツに顔をつっこんだ。

「まったく、調子に乗ってバカ食いするからだ」

呆れた顔で海人が言っているとき

ハッ

っと水姫が上を見上げた。

「どうした!!」

と海人が叫ぶと同時に


パッ


強烈な光がクルーザーを襲った。

「なに?」

「え?」

「どうしたの?」

居合わせた者の視界がすべて白一色になると

ゴォォォォォォォォォォォ…

まるで、窓を全開にした地下鉄の轟音の様な音が聴覚を支配すると、

次にはエレベータが急降下する感触が海人たちを襲った。

「きゃぁぁぁぁぁぁ…」

「うわぁぁぁぁぁぁ…」



「……………」

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

襲っていた強烈な耳鳴りが徐々に弱まって来たので

海人たちは瞑っていた目をあけると、

船は相変わらず嵐の中にいた。

雨粒が窓を叩く音がこだまする。

「ん?」

「あれ?」

「どうしてたのかしら…あたし達」

「さぁ?」

孝や知美がキョロキョロしながらそう言う、

「みんな大丈夫かっ」

藤一郎がそう言いながらブリッジから降りてくると、

「犬塚っ、何があったんだ?」

敦が藤一郎に尋ねた。

「恐らく、雷がこの船を直撃したと思う、

 その影響でエンジンと航行用の電子機器に障害が発生した」
 
と藤一郎が現状を説明した。

「ぬわにぃ?…エンジンが故障しただとぉ…」

敬太がバケツを抱えながら藤一郎に迫ると。

「終わったぁ…俺の人生が…いま終わりを告げた…」

と大泣きを始めた。

「誰がエンジンが壊れたと言ったかっ」

敬太の取り乱しように藤一郎が怒鳴ると、

「壊れたんじゃないの?」

知美が藤一郎に尋ねた。

「えぇ故障ではなくトラブルです…

 現在、推力を50%に落として航行しているので
 
 十畳島到着が少し遅れると申し上げたかったのですが、
 
 全く、よけいな早トチリをしおって…」

「えっ、違ったの…アハハハ…

 藤一郎君
 
 そう言うことは先に言ってくれなきゃぁねっ
 
 アハハハ…」

と誤魔化しながら敬太は船室へと戻っていった。

「全く…」

呆れながら敬太の後ろ姿を眺めている藤一郎に

「で、電子機器の方のトラブルはなんだ?」

海人が尋ねた。

「ん?

 あぁ…

 位置測定用のGPSがイカれたのと、
 
 無線・並びにレーダーが少しな…」
 
「大丈夫?」

藤一郎の答えに水姫が訊ねると、

「まぁ、交換できるパーツですので

 島に着き次第交換します

 では私はブリッジの方に行ってきますので」

藤一郎はそう答えるとブリッジへと上っていった。


彼が居なくなると

「それにしても、落雷ってあんな感じだったのね」

「うん…あたしも初めての経験だったけど凄かったね」

と多恵達が囁きあう。


「水姫っ、いまのは…」

海人が訊ねると、

「たぶん、恐らくいまのが…」

と答えると、

「そうか…」

海人はそう言うと窓を眺めていた。


やがて朝日が昇ると、

水平線の先に小さな島影か見えてきた。

海人達の目的地である十畳島である。



つづく


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