風祭文庫・人魚変身の館






「翠色人魚」
(第14話:ふたりはマーメイドきゅあ!)
−MaxHeart−



作・風祭玲


Vol.594





ドォォォン!!!

ズゴゴゴゴゴゴ…

竜宮と海底とを結ぶ洞窟の前、

その洞窟へ向かって海水を揺るがす響きと共に黒い闇が迫ってくる。

『ぬぉぉぉぉぉっ!!』

雄叫びを上げながら迫る闇は

獲物に向かって手を伸ばす悪鬼の姿となり、

その漆黒の手を大きく振りかぶる。

そのとき、

フッ!!

洞窟の前に二人の人魚が立ちはだかると、

『来たよっ

 カナ!!』

人魚・マナが声を上げる。

そして、その声を受け、

『判ってる!!』

もぅ一人の人魚・カナが手にしている弓を大きく引く。

ズォォォォォッ!!

大きさを増し闇は洞窟の周囲を包み込み始めるが、

キリキリ…

キリキリキリ…

弓を引くカナの手からいまだ矢は放たれず、

『くっ!』

力を貯めているのか口より歯の白い色がこぼれる。



ヌォォォォ…

闇はさらに迫り、

周囲をすっかり覆い尽くしたとき、

ザワザワ…

迫る影がの中に小さく蠢く物体が姿を見せてきた。

海魔である。

そう、何万体という海魔の大群が

この洞窟に向かって押し寄せてきているのであった。

『くっ

 何でこんなに沢山の海魔が…

 マナ、

 どうなっているんだこれ!!』

海魔を睨みつけながらカナはマナに理由を尋ねるが、

『そんなこと、

 判らないよ』

あのシャトルの中や宇宙戦艦ヤマモトの艦内で心を通わせた海魔達と違い、

それ以前に人魚と敵対していたときと同じ海魔の姿にただ困惑していた。

『ちっ、

 恨みっこ無しだよ』

闇の中心でひときわ輝く赤い光点に射線を合わせ、

カナはそう呟きさらに弓を引くと、

キーン!!

カナの胸の竜玉が輝きを放ち、

引いている矢にパワーを送り込む。

そして、

『!!!』

次の瞬間、

カシュン!!!

カナが引いていた弓より矢が放たれると、

シャァァァァッ!!!

矢は金色の輝きを放ちながら、

海魔の群れに向かって突進して行った。

刹那、

ズバッ!!!

群れの奥で輝いていた光点に矢が突き刺さると、

グォォォォォォ!!!

張り裂けるような悲鳴に似た呻き声が上がり、

ジュオッ!!!

バシュンッ!!

闇は突然渦を巻き始めると、周囲飲み込み始める。

そして、

シュルンッ!!

最後に残っていた黒い点が消えてしまうと、

洞窟を覆い尽くしていた闇はカナとマナの前より消滅してしまった。

『うわぁぁぁぁ…』

矢の威力にマナは目を見張って驚くと、

『ブラックホールだな…

 まるで…』

とカナは呟くが、

スグに気を取り直すと、

『けっ見たかっ、ハイパー・アクアランスの威力を!!!』

得意満面になってガッツポーズを決めてみせる。

しかし、

フッ…

カナの竜玉の光が弱くなってしまうと、

『あら…かっ身体が…』

その声を残してカナは崩れるようにしてその場に倒れてしまった。

『かっカナぁ』

突然、倒れてしまったカナにマナが慌てて近寄ると、

『か…身体が動かない』

『え?…あっ』

そう訴えるカナの胸元にある竜玉を見た途端、

マナは声を上げると、

『カナ…力の使い過ぎよ…

 竜玉の輝きがほとんどないわ』

と指摘した。

『え?』

その指摘にカナが慌てて自分の竜玉を見ると、

『もぅ

 ハイパー・アクアランスってスゴイ威力がある反面、

 猛烈に竜玉の力を使っちゃうみたいね、

 余り調子に乗っていると、

 この間みたいに男の子に戻れなくなるわよ』

とマナは力の使いすぎで男に戻れなくなった時のことを指摘する。

『そっそうなのか…』

『とにかく…海魔は退治したし、

 あたし達も竜宮に戻りましょう』

『うっうん…』

動けなくなったカナをマナは担ぎ上げると、

さっきまで影が覆い尽くしていた海底を一目見た後、

『なにかしら…

 海魔の襲撃だなんて…

 なにか…起きているのかな?』

と不安を感じつつ竜宮へと引き上げていった。



ヌォォォォッ…

地球の裏側にある大西洋、

その中央海嶺の麓に抱かれ存在する人魚の王国・アトランティス。

その中央部で一際聳え立つ王宮に王・ポセイドンの雄叫びが響き渡る。

『…リムルはおるか…』

何かを感じ取ったポセイドンはリムルの名を呼ぶと、

『はっここに控えております』

その玉座の元にあのリムルが人魚姿で跪く、

『お前の進言に従い、

 竜宮攻略に送った海魔が一瞬にして壊滅した。

 これはどういうことだ?』

黒い影で全身を隠し、裂け目のような赤い目を輝かせ

ポセイドンはリムルを叱責すると、

『ご安心を…

 これでよいのです。

 竜宮へ向かわせた海魔はあくまでも囮。

 囮となった海魔が竜宮の気を惹き付けている間に、

 作戦は遂行いたしております』

と海魔の襲撃の意味を述べた。

『…うむっ

 その言葉、信じて良いのだな』

その返事にポセイドンはそう尋ねると、

『ははっ』

リムルは頭を大きく下げた。



一方、カナとマナが去った後、

ハイパー・アクアランスが海魔の群れを射抜いたその現場に

フッ!

人魚・ミールが姿を見せると、

『あらら、一撃で壊滅とはねぇ…

 なっかなかやるじゃん、あの子達…

 でも、

 ちょっち、鍛えすぎたかなぁ』

頭を掻きながらそう呟き、

ピッ

ピッ

手にしていた完全防水仕様のハンディビデオを再生してみる。

『ふーん、

 よく撮れているじゃない。

 まっこれならリムルも納得するか?』

再生画像を見ながらアングルなどの具合を見た後、

手帳を広げると、

『アクアランスはチェックしたと(ハイパーなのね)、

 で、今度は…

 えーと、マメきゅあか…

 まったく、あの子達の芸は幅が広いんだから…

 あれ?、

 でも、この組み合わせは乙姫が出てくる必用があるみたいね、

 うーん、

 あっ種子島のアイツを引っ張り出せば出てくるかな…

 よし、じゃ、種子島までひとっ走りしますか』

と呟きながら手帳に書かれたチェックシートを付け、

そして、手帳をしまい込むと、

フッ!

また姿を消した。



『そうですか…』

ネオ・竜宮、

玉座に座る乙姫がそう言いながら心配そうな顔をすると、

『あっだっ大丈夫です』

マナに支えられてカナは返事をする。

『でも、フラフラになっているじゃないですか』

そんなカナの姿を乙姫は指摘すると、

『こんなの…少し休めば…』

とカナは返事をしてみせるものの、

しかし、マナの介添えがなければ、

そのまま潮に流されて行ってしまいそうであった。

『どうしましょう、乙姫様』

『そうですね、

 ハイパーアクアランス…

 カナにはまだ使いこなせなかったみたいですね』

不安そうに見上げるマナに乙姫はそう言うと、

『やれやれ、

 まだまだというわけか』

カツン!

杖を突きながら金色の頭巾にえび茶の着物、

そして小豆色のちゃんちゃんこ姿の老人が姿を見せる。

『げっ、水神さまっ』

老人の姿にカナが思わず声をあげると、

『これっ』

すかさず乙姫がたしなめる。

『まーよいよい、

 さて、色々経験をつんだとはいえども、

 竜の騎士がその有様では心もとないですな、乙姫殿』

皮肉をこめながら水神はそう指摘すると、

『ふんっ

 悪かったな』

その指摘にカナはそっぽを向く、

『ふむ、

 そこでじゃ、一つ提案があるのじゃが、

 ほれ、マナ殿と共にわしが貸し与えた神通力、

 それをこのものにも分け与えようと思っているのじゃが

 どうだろうか?』

と水神は乙姫とマナに提案をした。

『神通力?』

水神のその言葉にカナはマナを見ると、

『うんっ

 五十里との戦いのときにね、

 水神様が貸してくれたの』

とマナは小さい声で説明をする。

『でも、

 わたくしはあまり地上へは行きませんが』

水神の提案に乙姫は竜王探しが一段落し、

地上に出る機会がなくなったことを告げると、

『ふむっ

 それなら、乙姫殿、

 そなたに貸し与えた力をこのカナに渡したらどうじゃろうか?』

と水神は再提案する。

『え?

 メンバーチェンジをするのですか?』

その提案にマナが身を乗り出しながら聞き返すと、

『まーそういうことになるかな?』

顎鬚を撫でながら水神はそう返事をする。

すると、

『あっあのっ

 私の力をカナに渡して、

 乙姫様の力を私が受け取る。

 というのはダメですか?』

と今度はマナが尋ねた。

『なんで、そんな面倒くさいことを?』

話を聞いていたカナがその理由を尋ねると、

『え?

 まっまぁお互いの特性を考えてのことよ』

その質問にマナは目をそらしながら返事をする。

『ふむ、

 まぁ、乙姫殿にマナ殿、

 そしてカナ殿がそれでいいのなら構わんが…』

マナの申し出に水神はそう答えると、

乙姫とカナを見た。

そして、

『えぇ、二人がそれでいいのなら…』

『僕は別に構わないけど』

乙姫とカナは水神に受諾の返事をすると、

『判った…

 では、スケさんにカクさん。

 済まぬがよろしく頼む』

と水神が声をあげると、

『ははっ!!!』 

ポヒュンっ!!!

水神を警護する二人の供、

スケとカクがたちまちコミューンに姿を変えると、

カナの手には赤いコミューンが、

またマナの手には青いコミューンが握らされた。

『なっなに?

 これ?

 ケータイか?』

手に握らされたコミューンを見ながらカナは首をひねると、

『うふっ

 これがあれば無敵よ』

とマナは含み笑いをしながらそう呟く。

『なんだそれは?』

マナのその言葉の意味をカナは訝しがると、

『まっいーじゃないのっ

 二人力を合わせればいいのだから』

とカナに向かってマナはそう言うと、

『さっ行きましょう、

 では、乙姫様、

 失礼しまぁす』

カナの手を引きマナは退室していった。



ヒュォォォォッ…

種子島を眼下に望む空中に、

シュンッ!!

ミールが姿を見せる。

『えーと、

 この辺かな?』

ピッ

ピッ

スピードガンに似た測定器を掲げ、

ミールは何かを探っていると、

『ん?

 いたいた…

 うふふ…

 あの世とこの世の境目でフラフラしているヤツ…

 見ぃーつけた』

目的のものを見つけたミールは笑みを浮かべ、

すばやく測定器を片付けると、

ポウッ…

淡い青色に輝く光の玉を自分の前に浮かべた。

そして、

『闇のハザマに漂う魂よ、わが問いに答えよ』

と光の玉越しにミールは叫び、

その声が終わるのと同時に、

ヌォッ!

玉を挟んだ反対側に黒い影が浮かび上がる。

『ふふっ(ニヤ)

 このウールー結晶に引かれ、

 姿を見せた汝の名を申せ』

姿を見せた影に向かってミールは問い尋ねると、

『ぉぉぉ……

 俺の名前は…

 名前は…

 はっハバクク…

 ハバククだ…』

と影は答える。

『そうか…

(”ハバクク”ゲットぉ!

 やっぱ、あたしって釣りの名人!!)

 では、ハバククに尋ねる。

 汝…

 この世に未練があるようだが、

 その未練を解消する気はあるのか?』

ハバククと名乗る影に向かってミールは尋ねると、

『…くっ

 あるに決まっているだろう、

 くっ憎い…

 俺をこのような所に押し込んだ人魚が憎い!』

影は悔しそうな声を放つ。

『そうか、

 ならば、お前に新しい身体を差し上げよう、

 そして、その恨みを晴らすがよい』

そんな影に向かってミールは力強く叫ぶと、

カッ!!!

青く輝く結晶…

ウールーの結晶が眩い光を放った。



「おーすっ」

「おはよーっ」

ずっと休校中だった水無月高校に久方ぶりの生徒達の声が響き渡る。

「で、あの集団バニー化事件は一体なんだったんだ?」

「さぁ?

 バニーガールにされた先生や生徒達もみんな元に戻ったんだろう?」

「あの怪光線の正体もわからず仕舞いだったし…」

「くわばらくわばら」

結局不明のまま原因究明作業は終了し、

真相は闇に葬られることになった集団バニー化事件。

その記憶も生々しいまま学校は再開され、

生徒達は再びこの校舎に集まってきたのであった。

「というわけで、あの事件は解決。

 こうして、授業再開することが出来たということだ」

席につく櫂達に向かって担任の教師はそう言うと、

「でも、せんせーっ

 原因は不明だったんでしょう?」

「そうですよっ」

と一部の生徒から原因究明打ち切りについて文句が出る。

すると、

「もぅ、終わったことだ、

 いいか、

 今後、このことは一切口にしないこと、

 それが、この世生き抜いてゆく知恵だ」

生徒達に背中を見せながら担任はそう言いきった。

「だって…」

「信じられなーぃ」

担任の言葉に女子生徒からそんな声が漏れるが、

しかし、

「出席を取るぞ」

そんな声を振り切るようにして、担任は出席を取り始めた。



「ねぇ、櫂はどう思う?」

「ん?

 なに?」

「事件のことよ」

昼休み。

真奈美と櫂が初夏の日差しの下、

木陰でお弁当を食べていると、

ふと真奈美は集団バニー化事件が有耶無耶になったことを尋ねる。

「ん?

 仕方が無かったんじゃないか?

 大体、あの事件が成行博士のバニー砲が原因だなんて、

 どうやって説明するんだよ」

弁当を頬張りながら櫂はそう指摘すると、

「うん、それもそうか…」

櫂の言葉に真奈美は俯く、

「まっ、

 一番、無難な線で落としたんじゃないか?」

そんな真奈美に櫂は付け加えると、

ゴロゴロゴロ…

晴れていた夏空が一転して曇り、

不気味に渦巻き始めた。

「えーっ

 雨降り予報って出ていたっけ?」

曇った空を見上げながら真奈美が声をあげると、

「!!っ

 違う…これ、

 ただの曇りではない」

何かを感じた櫂が腰をあげた。

その瞬間、

ズムッ!!

お腹の底から響く衝撃が走るのと同時に

ブワッ!!

沸き起こった突風が二人に襲い掛かると、

「きゃっ!!」

「うわっ!」

日よけにしていた木もろとも二人は吹き飛ばされてしまった。

「真奈美っ!」

「櫂っ!!」

空中に放り投げられながらも櫂は真奈美を抱き寄せると、

「ちっ!」

バシャッ!!

水術を使い、手時かな所に着地する。

「ここは…」

「屋上か…」

「こんなに飛ばされたの?」

「あぁ…」

周囲を警戒しながら櫂は真奈美の質問に答えてると、

『見つけたぞぉ…

 人魚っ』

悪鬼を思わせる声が響き渡った。

「誰だ!」

その声に櫂が怒鳴り返すと、

ズズズズッ!!

空を覆う雲より雫を垂らすかのように、

一筋の雲が下へと伸び、

櫂達の前にそれが落ちてくると、

ボフッ!!

破裂するように飛び散った。

そして、

「なっ、お前は!!!」

「あなたは!!」

その雲の中より出てきた者の姿に櫂と真奈美は驚きの声をあげた。



『ぐふふふふっ

 そうだよ、

 私だハバククよ、人魚…

 あの時は世話になったなぁ』

雲の中より姿を見せたのは、紛れも無い、

種子島の上空、

乙姫と真奈美を乗せたシャトルの上で勝ち誇っていたものの、

しかし、その直後に炸裂したN2超時空振動弾の爆発に巻き込まれ

消え去っていった海魔・ハバククであった。

「てめぇ、生きていたのかっ」

あのときのことを思い返しながら櫂は怒鳴ると、

「ねぇ、櫂っ

 なんか、前と様子が違うわ…」

目の前に立つハバククを見た真奈美は以前と雰囲気が違うことを指摘する。

「そうだな…

 まるで作り物のような…」

真奈美を庇いつつ間合いを取る櫂は、

ハバククの姿が自然の存在ではなく、

別の力によって作られたような感じを感じ取っていた。



『ふふふふふふ…

 そうだよ、

 あの時、私はお前達に勝っていたのだよ、

 それなのに…

 いきなりの奈落の底に突き落とされ、

 寒く、暗いところに押し込まれた。

 だが、今は違う…

 そうだ、帰ってきた。

 帰ってきたのだよ、

 お前達を殺すためにね…』

小声でハバククは呟くと、

ギンッ!!

恨みがこもるその目を輝かせた瞬間、

シュンッ!

いきなり姿を消した。

そして、その直後、

ズガッ!!

「うわぁぁぁ」

叫び声を上げながら櫂の身体が吹き飛ぶと、

ドンッ!!

「きゃぁぁっ」

今度は真奈美の身体が吹き飛んだ。

「真奈美っ」

「くっあたしは大丈夫」

人魚である二人は即座に水術を使い、

叩きつけられる衝撃を緩和すると立ち上がった。

そして、

『くふふふふ…

 そうだよ…

 その顔だ…

 その顔を引き裂くのが私の望み…』

さっきまで櫂達が立っていたところからハバククがゆっくりと立ち上がると、

ジッと櫂達を睨み付ける。

その時、

「櫂っ

 変身よっ」

あのコミューンを見せながら真奈美は声をあげた。

「え?

 変身って?」

真奈美のその声に櫂は戸惑うが、

シャキーン!!

すでにそのときには真奈美はカードを挟みこんだ

コミューンの蓋を回転させ手を翳していた。

「あっこうするのか」

それを見よう見まねで櫂も自分のコミューンで同じ操作をし、

そして、

ギュッ

二人は手を繋ぐと、

「ディアル・オーロラ・ウェーブ!!!」

と掛け声を上げた。



カッ!!!

その直後に現れた光の塊が櫂と真奈美を覆い尽くすと、

程無くして、

ズドォォォォン!!

と爆発を起こしながら散っていく。

『うぉぉぉぉっ

 なっなんだ!!』

目の前で起きた謎の現象にハバククは思わず自分を庇うと、

スタッ!!

黒のスパッツタイプのコスチュームに身をつつんだ少女戦士と、

白のスカートタイプのコスチュームに身をつつんだ少女戦士が

ハバククの前に立ちはだかり、

『水の使者・きゅあブラック』

『水の使者・きゅあホワイト』

と互いの名前を名乗り、

『ふたりはマーメイドきゅあ!!

『闇の力の僕たちよ!!』

『とっととおうちに帰りなさい!!』

ハバククを指差し声をあげた。

『なっなにぃ!!!

 おのれぇぇ!!!

 言わせておけばぁぁぁ!!!』

それを聞いたハバククは怒り心頭になり。

ズゴォォォォン!!!

体中から猛烈なオーラを吹き上げる。

「え?

 って、僕…何言っているんだ?」

そんなハバククの姿を見ながら黒コスの少女戦士は我に返ると、

「うわっ

 なんだ、これ!!!

 なんで、こんなカッコしているんだ!!

 それに…

 うそっ

 おっ女の子に…なってる…」

股に手を挟み込みながら少女戦士は顔を青くする。

その途端、

『うぉぉぉぉっ!!!』

ドオッ!!

気合を十二分に貯め込んだハバククが飛び掛ってくるなり、

ブン

ブン

ブン

猛烈な勢いで黒コス少女戦士に殴りかかってきた。

「うわぁぁ
 
 てっ

 てっ

 てっ」

高速で迫ってくる拳を彼女は紙一重で次々とかわすが、

しかし、その間にもハバククに押され、

カシャッ

瞬く間にフェンスに押し当てられてしまう。

「しまった!」

背中でフェンスを感じると、

『もらったぁ!!!』

真正面からハバククの拳が迫ってきた。

「うわぁぁ!!!」

逃げ場が無い状況で少女戦士が悲鳴を上げると、

「ブラック!!!」

その叫び声と共に、

ゲシッ!

白コスの少女戦士が放った蹴りがハバククの横顔を直撃し、

『うごわぉぉぉぉ』

直撃を受けたハバククは頬を押さえながらその場でのた打ち回ると、

「ふんっ

 あの時、散々お世話になったそのお返しよ」

白コスの少女戦士はそんなハバククを見下す。

「すげーっ」

そんな彼女の姿を見ながら黒コスの少女戦士は唖然としていると、

「もぅ、何をやっているのよ、

 って、あれ?

 オヘソ隠れたんだ…

 ふーん、微妙に修正されているのね」

と白コスの少女戦士は黒コスの少女戦士が着ているコスチュームのデザインが

変わったことに気づき、シゲシゲと眺める。

「ちょぉっと、

 これは一体どうなっているんだよ」

そんな白コスの少女戦士に黒コスの少女戦士は自分を指差しながら迫ると、

「え?

 あぁ、これが、

 水神様の神通力のパワーよ、

 そう、あたし達は(ガサ)、

 あーゆうヤツから乙姫様やみんなを守る正義の味方(えーと)、

 マーメイドきゅあになったのよ…(ふーん)」

ポケットから取り出した紙を読みながら白コスの少女戦士はそう言いきった。

「うへぇぇ

 そんなのありなーぃ…」

それを聞かされた黒コスの少女戦士はガックリとうな垂れると、

『うがぁぁぁぁぁぁ!!!』

復活したハバククがさらにオーラを高めながら起き上がり、

『よくも…

 よくもよくもよくも!!!

 この私の顔に傷をつけたなぁ!!!』

と目に炎を浮かべ襲い掛かってきた。

「来たわ!!!」

「え?」

『うら

 うらうらうらうら!!!』

さっきよりも更にヒートアップしてハバククは殴りかかるが、

「はっ」

「ほっ」

「よっ」

攻撃を受ける二人はそのスピードに対応し、

コクリ

互いに頷くと、

「でや

 でや

 でや」

「はいっ

 はいっ

 はいっ」

逆に打って出ると、今度はハバククを押し返し始めた。

『なんだっ

 こいつら…

 私を押し返しているだとぉ!!!』

追い詰められていくハバククは次第にあせりを感じると、

『うがぁぁぁぁ!!!』

ブンッ!!!

腕に力を貯め、

黒コスの少女戦士に向かって思いっきり殴りかかった。

しかし、

「でやぁぁぁ!!!」

バシッ!!

自分に向かって来たその腕を黒コスの少女戦士はしっかりと受け止めると、

その力を利用して、

「くのぉっ!!!」

ハバククを投げ飛ばした。

『うわぁぁぁ!!』

ズシーン!!

まさに脳天から屋上の床に激突し、

その衝撃で口の中の歯を全て吹き飛ばし、

また鼻血を噴出しながら

『うぐぐぐ…』

ハバククが起き上がってくると、

ギュッ!!!

黒コスの少女戦士と白コスの少女戦士は互いに手を握り合い、

バッ!!!

バッ!!!

「ブラックサンダー」

「ホワイトサンダー」

と片手を掲げ声をあげた。

その途端、

バリバリバリ!!!

白と黒の稲妻が互いの掲げた手に落ち、

それと同時に二人の身体が輝くと、

「マーメイドきゅあの美しき魂が!」

「邪悪な心を打ち砕く!!」

「…マーブルスクリュウ…マックスッッ!!!」

と掛け声と共に、

力を貯めた拳をハバククに向けて思いっきり付き放った。

すると、

カッ!!!

ドォォォォ!!!!

その二人の拳の先から噴出した螺旋のイナヅマがハバククに向け突進し、

『うぎゃぁぁぁぁ!!!!』

瞬く間に悲鳴をあげるハバククを飲み込み、かき消してしまった。



サーッ…

空を覆い尽くしていた雲が取れ、

再び夏の日差しが戻ってくると、

「はぁ…

 はぁ…

 やっつけちゃったの?」

「そうみたい…」

「そっか…

 あいつを…

 ハバククを…

 この手で倒したんだよね」

「うっうん」

「そっかぁ…

 あはっあはははは…」

黒コスの少女戦士は

散々辛酸を舐めさせられたハバククを自力で倒したことを実感しながら

笑い声を上げていると、

「でも…

 何かな…

 嫌な予感がする…」

白コスの少女戦士は心の奥に広がってくる不安を感じていた。



「ちょっとぉ、ミールっ

 これはどういうこと?」

放課後の職員室に帰ってきたリムルの怒鳴り声が響き渡る。

「どういうことって?」

その声にサキイカを齧りながらミールが顔を上げると、

「この報告書よ、

 あの子達、またパワーアップしているじゃないのっ

 しかも、”マーメイドきゅあ”って何よっ

 そんな報告受けていないわよっ

 こんなことポセイドン様に知られたら、

 あたしの管理能力が疑われるでしょう!!」

そんなミールの向かって白衣姿のリムルが仁王立ちになりながら怒鳴る。

「えぇっ?!

 ”マメきゅあ”のことなら報告したわよ、

 ちゃぁんと報告書、読んでくれたの?」

「報告って

 何処にも書いて居ないじゃない!!!」

ミールの返事にリムルが報告書をめくりながら声を荒げると、

「あれ?

 そうだっけ?

 じゃぁいま報告した事にしておいてよ」

とミールはシレっと返事をする。

その途端、

「そんなこと認められる分けないでしょう!!

 いい事?

 私達の使命はこれまでの調査の段階から、

 作戦の遂行への段階に入っているのっ

 もぅ、ちゃんとしてよね」

ついにキレたのか、

職員室の窓ガラスを割らんばかりの勢いでリムルが怒鳴ると、

「判っているわよ、

 そんなに声を張り上げなくてもいいじゃない。

 そう言えばさ、

 あんたがスカウトしたあの五十里ってオッサン。

 こっちのツケで土地なんか買い込んじゃったみたいだけど

 シシル達に任せて大丈夫なの?」

と指を耳穴に押し込みながらミールは話をすり替えると、

「え?、

 あぁ…

 ちょうどいい物件があったし、

 ここも手狭になったからね…

 彼の提案に一口乗ってあげたのよ。

 それにあの子達はあなたよりもしっかりしているわ」

そうリムルはあの五十里の提案を認めたことを告げる。

「ちょっと、

 なに、その言い方。

 ムカつくわね
 
 しっかし、どこからそんな資金が…
 
 はっ、少しはこっちにも回してほしいわ」

リムルの説明にミールは呆れたポーズをするが、

「ふふっ

 全ては予定通り…」

そんなミールをよそにリムルは満足そうに頷いていた。



おわり