風祭文庫・人魚変身の館






「人魚鉢」
−USB対応版−



作・風祭玲


Vol.645





ゴロゴロゴロ…

去っていく雷鳴と共に土砂降りの雨がようやく上がると、

空を覆っていた雲が徐々に取れていく、

「雷、行ったな…」

実質上閉じこめられていた図書館のドアから顔を出し、

俺は空を仰ぐと、

カッ!

雲間から真夏の太陽が顔を出し始めた。

「よしっ、

 いまだ」

このときを待ってましたかのように

僕は図書館から飛び出すと、

ガタン

ガタガタガタ!

一直線に伸びる雨上がりの小道を転車を走らせていく、

「はぁ…

 蒸し暑い…」

空を映し出す水たまりを踏みつぶしながら走っていくと、

『人魚鉢はいらんかえぇ』

どこからか透き通った声が聞こえてきた。

「金魚鉢?」

その声に思わず自転車を止めると周囲を見た。

ミーンミンミンミン…

日差しを受け鳴き始めた蝉の声と、

雨のしずくを滴らせるヒマワリ、

そして、陽炎が立ち始めた道意外に目に付くものはない。

「空耳?」

一瞬そう思いながらペダルを踏み出したとき、

キィ…

進行方向より先より1台のリアカーが僕に向かってくるのが見えた。

「あれ?

 いつの間に…」

ついさっきまで、そのようなリアカーは存在していなかったはずだ。

図書館からの一本道。

もしリアカーが向こう側から来たもものだとすれば、

もっと早く発見できたはずである。

キィ

キィ

車輪の音を鳴らしながらリアカーは僕に迫ってくると、

キィ…

僕の真横で静かに停車した。

「………」

リアカーを引く人、押す人の姿はなく、

ただ一台存在するだけの無人のリアカーが僕の真横に止まった。

かつて”世紀の大発明”と世間を騒がせた某国の珍発明品の如く、

左右に付いているたった二つだけの車輪だけで、

それ以外何処にも接することなく見事に停車したリアカーに僕は唖然とするが、

しかし

「気味が悪い!」

「お化けだ!」

「逃げよう!」

とそのような思考はなぜか生じず、

ただ、僕の真横に停車した無人のリアカーを見つめていたのであった。

ヒュゥゥゥゥ…

濡れた路面で冷やされた風が吹き抜ける。

その中、僕はリアカーをジッと見据えていると、

『あーっ

 あーっ
 
 テステステス!
 
 えーっ
 
 毎度ありがとうございますっ。
 
 人魚鉢の無人販売車でございますっ。
 
 お気に入りの人魚鉢はございましたでしょうか、
 
 大きいの
 
 中ぐらいの
 
 小さいの
 
 当販売店ではお客様のお好みに併せた人魚鉢を販売しております。
 
 そこのお兄さん。
 
 人魚鉢いかがですか?
 
 シブヤのギャルの間で密かに流行っている人魚鉢。

 一つ買えば、5年寿命が延び、

 二つ買えば、10年寿命が延びる。

 そして三つ買えば、不老不死!!!!

 さぁ、大金積んでアンドロメダまで行かなくても手に入る不老不死。

 買って損させませんっっ!!』

と僕に向かって言葉巧みにセールストークを始め出した。

「はぁ…?」

無人のリアカーと軽い言葉のセールストーク、

このあまりにも理不尽な組み合わせに

一体何処にスピーカーがあるのか、

一体何処でコントロールしているのか、

一体何処で僕を見ているのか、

そんなコトは考えが付かなかったし、

ひょっとしたら考えたくなかったのかも知れない。

そんな疑問を一切横に置いて僕はリヤカーの中を覗くと、

キラッ!

日の光を受けて綺麗に並べられているガラス製の鉢が輝いていた。

「綺麗な”金”魚鉢だなぁ…」

球形に膨らまされたガラス製の本体と、

その上で花びらのように見るものを誘うデザイン…

マンガやアニメで必ず書かれるであろうそのシンプルで古風なデザインに

僕は思わず見とれてしまうと、

『えーっ

 お気に召した鉢はありましたでしょうか?』

とあの声が響いた。

「え?」

その声に僕は顔を上げ、

「うん、この中くらいのがいいかな…」

と荷台に中で輝いている一つのガラス鉢を指さすと、

ピッ!

スーパーのレジなどで聞くあの音が響き、

『毎度ありがとうございます。

 商品ナンバー・いい国作ろう鎌倉幕府

 AD−1192

 Mサイズ人魚鉢、一個お買い上げ!』

と威勢よく声は僕に告げた。

「え?

 いやっ
 
 僕は何も買うとは!」

その声に思わず言い返すが、

『はいっ

 確かに、代金500円いただきました。

 では、お買い上げの人魚鉢はご自宅に転送いたします。

 いつもニコニコ現金払い。

 毎度ありがとうございました』

さっきとは違いやや事務的に取れる口調で声はそう告げると、

フッ!

眼下にあったガラス鉢の一つが忽然と姿を消した。

「うっそぉ!」

誰かに持ち上げられたり、

隠されたわけでもない。

文字通り目の前から”消えて”しまったガラス鉢に、

まるでマジックでも見ているのかのような出来事に僕は驚いていると、

キィ…

無人のリアカーは動きだし、

『人魚鉢はいらんかぇ』

と澄んだ声を上げながら動き出していった。



「………」

どれくらい時間がたったであろうか、

呆然としている僕の頬に一匹のヤブ蚊がたかり、

血を吸い始める。

すると、

クッ!

無意識に僕の手が動き、

ピチャッ!

お腹を膨らませる蚊を一撃で叩き落とすと、

「なっなんだあれぇ!」

大声を張り上げ、

僕は逃げ出すようにして自転車を漕いだ。



「ただいま!」

まるで飛び込むようにして僕が自宅に戻るが、

家の中は無人であった。

「そっか、

 母さん、
 
 出かけてくるって行っていたっけ」

僕が図書館に行く前、母は同窓会とか言って騒ぎながら、

着たことがない服装で自宅を飛び出していったことを思い出すと、

ふと、ズボンのポケットの中に入っている財布を開いた。

「え?

 なっ
 
 ないっ
 
 500円玉がないっ」

そう、家を出るときには確かに入っていたはずの500円玉が消えていることに気づくと

さっき遭遇したリヤカーとの会話を思い出した。

「まさか…

 確かにあの”金”魚鉢の代金と考えれば…

 え?

 でも、俺、財布開いてないぞ…」

狐につままれたような表情で僕は歩き、

そして、部屋のドアを開けた途端、

コトッ…

僕の机の上にあのガラス鉢が置かれていたのであった。

「うっそぉ!!」

キラリ☆

涼しげな光を輝かせるガラス鉢の姿に僕は思わず飛び上がると、

「まっマジ?

 マジっすか?」

と声を上げながら僕はシゲシゲとガラス鉢を見る。

確かに、間違いなくあの時、

リヤカーの中で見たあのガラス鉢がいま自分の目の前に置かれている。

誰かが水を入れたのか、

満々と水をたたえているガラス鉢を眺めていると、

ガラス鉢の底から伸びる一本のケーブルに気がついた。

「なんだこれは?」

不思議に思いながらそのケーブルを持ち上げてみると、

なんとそれはパソコンなどで使うUSBケーブルそのものだった。

「はぁ?

 USB扇風機に

 USBクリスマスツリー

 USB流し素麺に

 USB歯ブラシまでは知っているが…

 ついにUSB”金”魚鉢ときたか

 なんでもかんでも、

 USBを付ければいいってもんじゃないだろうに…」

指先でつまんだケーブルを振り回してみると、

「なにか、あるのかな?」

そう思いながら僕はパソコンを立ち上げ、

人魚鉢から伸びるUSBケーブルをパソコンのジャックに差し込む。

すると、

『新しいデバイスを検出しました』

と言うアラートがパソコンの画面に表示され、

程なくして利用可能のメッセージが表示される。

「いっ一体、

 何が利用可能なんだよ」

そのメッセージに僕は呆れながらデバイスマネージャを開いてみると、

”ヒューマンインターフェースデバイス”

の欄に”人魚鉢”と書かれたデバイスが存在していた。

「なんだ、

 これ…

(それに人魚鉢って何だ?

 金魚鉢じゃないのか?)」

あまりにも当たり前のようにして表示に僕は呆れていると、

コンッ!

部屋の窓が叩かれた。

「え?」

その音に振り返ると、

「よっ」

窓の外には隣に住む幼なじみの琴音が

僕に向かって挨拶をしていた。

「なんだ、琴音かよ」

タンクトップに短パン姿の琴音向かって

僕は文句を言いながら窓を開けると、

「なによっ

 その言い方は…

 レディに向かって失礼じゃない?

 まぁいいわ、

 あたしの部屋のエアコンが壊れてね、
 
 ちょっと涼ませて」

琴音はそう言いながら、

僕の許可も得ないで部屋に上がり込んで来るなり、

ピッ!

勝手にエアコンのリモコンを操作する。

「おいっ

 勝手に触るなよ」

そんな琴音に僕はクレームを付けると、

「ん?

 ねぇ、なにこれ?」

と琴音は僕の机の上に置いてあるガラス鉢に気づき、

中をのぞき込んだ。

「別に良いだろう?

 俺が何を買っても」

彼女の態度にカチンと来ていた僕は悪態を付くと、

「ふーん、

 ”金”魚鉢ねぇ…

 涼しげで良いじゃない、

 でも、金魚は飼っていないんだ」

と言いながら琴音が手を鉢の中に入れた途端、

キンッ!

何か金属を叩いたような音が響くと、

鉢の周囲が翠色に輝いた。

すると、

ヒュン!

「きゃっ!」

小さな悲鳴を上げ、

僕の目の前にいた琴音の姿がかき消えてしまった。

「え?」

その様子に僕は呆気にとられるが、

直ぐに、

「こっ琴音ぇぇ!」

彼女が消えた場所を探し始めると、

『ここっ

 ここよぉ!!

 勇治!
 
 あたしはここよ』

と鉢の中から琴音の声が響く。

「え?

 鉢の中?」

その声に僕は驚きながら鉢を見ると、

なんと身長5cm程に縮んでしまった琴音が、

鉢に溜められた水の中でもがいていた。

「琴音!」

一体何が起きたのか判らない、

ただ、目の前にいた琴音が突然消え、

ちっちゃくなって鉢の中で藻掻いている。

「どっどうすれば…」

鉢を見ながら僕は困惑していると、

『勇治!、

 そんなところで見てないで、

 助けてよぉ』

と琴音が僕に向かって文句を言う。

「…判ったよ、

 ったくぅ、可愛くないな」

命令調の琴音の言葉にさらに気を悪くした僕は、

文句を言いながら彼女を助けるべく、

手を鉢に入れた途端、

キンッ!

またしてもあの音が響くと、

ヒュン!

部屋の景色が一瞬流れ、

そして、その直後、

ドボーン!!!

僕は水の中に叩き落とされてしまったのであった。

「うわっ

 ぷっ
 
 なっなんだぁ!」

バシャバシャ

突然のことに僕は驚いていると、

「もぅ、勇治のバカ!

 あんたまで落ちてくることないじゃない」

と琴音の怒鳴り声が響いた。

「(うわっぷ)

 そんなこと言っても、
 
 一体何が何だか」

上に開く円形の口を見上げながら、

僕は怒鳴ると、

「やだ、

 身体が痺れてきた、
 
 いやっ
 
(ガボ!!)

 たっ助けて!!」

突然琴音が悲鳴を上げると、

僕に向かって手を伸ばしたまま沈み始めた。

「こっ琴音!」

見る見る沈んでいく琴音の追いかけ、

僕はすんでの所で彼女の手を掴むが、

しかし、琴音は身体の自由が利かなくなっているのか、

その身体は硬直し、

引き上げようとする僕まで沈んで行く。

「琴音っ

 しっかりしろ」

彼女を溺れさせないようにしようと僕が必死になっていると、

バッ!!

突然、琴音の髪の毛が大きく広がり、

そして、その色が翠色へと染まっていくと、

メリッ

メリメリメリ!!

琴音の腰の形が変わり始めた。

「なっなに?」

次第に腰が細くなり、

穿いた短パンがズリ落ちていくと

なんと彼女の脚が腿からくっつき始め、

見る見る一つになってしまうと、

グググ…

左右に突き出た形になった足先が扁平に、

そして鰭状に変化していく。

「うそっ」

その様子に僕は昔絵本で見た人魚の姿を思い出すと、

ジワ…

脚に花が咲くかのように鱗が生え始める。

「まじ?」

腕の中で人魚へと変身していく琴音の姿に、

僕は思わず抱えていた手を離してしまうと、

ユラッ

魚の鰭を見せる琴音はゆっくりと沈んでいき、

そして、鉢の一番底でとまった。

「琴音…

 まさか…」

動かない琴音を水面から見下ろしながら僕は最悪の事態を想像すると、

フッ

閉じていた彼女の目が開いて起きあがると、

魚の尾びれになってしまった脚に気づくなり、

驚いた表情をする。

「よかった…」

琴音の無事な姿に僕は胸をなで下ろすが、

その直後、

ザザザ…

尾びれとなった足を巧みに使いながら、

琴音が水面に出でてくると、

『ちょっとぉ、勇治っ

 コレってどういうこと?』

と僕に怒鳴った。

「え?

 あっいやっ
 
 どういう事って言われても」

人魚になってしまった琴音の迫力に僕は困惑していると、

ピラッ…

1枚の紙が水面を漂い、

僕の目の前に流れてきた。

「なんだこれ?」

その紙を拾い上げて目を通すと、

『この度は人魚鉢をお買い上げ下さりありがとうございました。

 この人魚鉢はどなたでも海の妖精・人魚をお楽しみいただけますよう作られた鉢でして、

 鉢の中に適量の水を入れ手をかざしますと鉢の中に引き込まれ、

 その中で約1時間の間、人魚に変身することが出来ます。

 なお、初めての時は変身時に少し痺れを感じることもありますが、

 それも、回数を重ねることで弱くなっていきます。

 では、人魚姫の気分をご存分にお楽しみください』

と書いてあった。

「ねぇ?

 人魚鉢?
 
 金魚鉢じゃないの?」

このときになって初めてこのガラス鉢が人魚鉢と呼ばれていることに気づくと、

『勇治、

 そんなことも確認しないでコレを買ったの?』

と琴音は呆れた顔で僕を見た。

「そんなこと言っても、

 確認なんて」

事の顛末を思い出しながら僕は口をとがらせると、

『でも、

 1時間の間、
 
 人魚で居られるのか、
 
 へぇぇぇ』

元に戻れることを知った琴音は

人魚になってしまった自分の身体を興味深そうに見た後、

『クス』

僕を見ながら小さく笑うと、

『えいっ』

の声と共に僕を水の中に引き込んだ。

「うわぷっ」

突然の事に息を継ぐまもなく、

僕は水の中に引き込まれ、

「うぐぐぐぐぐぐ」

鰭を翻して鉢の中を泳ぎまくる琴音とは対象的に、

窒息寸前、顔を真っ青にして引っ張られた。

そして、

「もぅもぅ、

 あかん…」

一瞬、走馬燈の明かりが薄ぼんやりと見えたとき、

バシャッ!

僕は水面に押し出され、

「ぷはぁ

 はぁはぁはぁはぁ」

金魚の如く口を開き深呼吸をした。

『あははは…

 なに、夢中になって呼吸をしているのよ』

そんな僕に向かって僕の身体を押し出している琴音は笑うと、

「おっお前なぁ!!」

僕は振り向きながら怒鳴る。

すると、

『あらっ

 折角、息継ぎの時間を設けてあげているのに、
 
 そんなこと言って良いの?』

と悪戯っぽく琴音は囁き、

その直後、

『えいっ!』

「うわぁ!」

バシャッ!

僕は水の中に引き込まれた。

「琴音っ

(ガボッ)

 悪戯はよせ、
 
(ゴボッ)

 死ぬぅぅぅ!」

水中デートのつもりなのだろうか、

人魚姫の気分を味わいながら琴音は泳ぐが、

しかし、それに付き合わされている僕はまさに窒息寸前であった。

「くっ苦しい…」

自分の首を絞めながら目を白黒させる僕には構わず琴音は泳いでいく、



「はぁはぁはぁ」

『もぅ怒らないでよ』

何回か目の息継ぎの時、

僕は琴音を腕でブロックさせながら必死で息継ぎをしていると、

キンキン…

と鉢の上が光り始めた。

「あれは…」

『えーっ

 もぅ終わりなの?』

あわてて、説明書を読むと、

どうやら制限時間が近づいてきている知らせらしい。

『ちぇっ、

 もちょっと人魚で居たかったなぁ』

知らせに琴音は残念そうな顔をすると、

「あのなぁ…

 こっちの身にもなってくれよ」

と僕は怒鳴る。

『あはっ

 まぁいいじゃないっ

 またやろうね』

怒鳴る僕の頭を撫でながら琴美は笑みを浮かべると、

キィィィン!!!

またあの音が響き渡り、

僕と琴音は翠色の光に包まれると、

シュンッ!

鉢の中から飛び出していった。



『はぁ、

 あぁ酷い目にあった。
 
 それにしても、
 
 人魚になれるのは女の子だけなのか、
 
 あっ男が人魚になっても意味ないよな』

ゴロン…

天井を見上げながら僕は琴美だけが人魚になった事への不満と、

仮に人魚になってもその似合わない姿を想像しながら起きあがろうとするが、

しかし、

『あれ?

 なんで…
 
 起きあがれない…』

幾ら身体に力を入れても腰が踏ん張れず、

僕はもがき続ける。

すると、

「ゆっ

 勇治、ちょっと」

僕を見た琴音が目をまん丸にして指さすと、

『どうした?』

その声に僕は首を上げ、

自分の体を見る。

すると、

『へ?』

眼下に見える自分の身体は、

二つの膨らみを持つ胸に、

ヘソから下を覆う、朱色の鱗、

そして、その先で大きく開く尾びれ…

そう、僕は人魚になってしまっていたのであった。

『なっなにこれぇ!!』

長く伸びる翠色の髪を振り回しながら僕は悲鳴を上げると、

「うっそぉ…

 勇治が人魚になったぁ!!」

驚きの声を上げながら琴美は僕を見つめていた。



で、結局、

人魚鉢から出た途端、なぜか人魚になってしまった僕だったが、

僕たちと一緒にあの説明書も表に出ていることに琴美が気づいて、

「勇治、

 これ」

と言いながら僕に手渡してくれた。

そして、改めて読み直してみると、

説明書の終わりになんと問い合わせのメールアドレスが記載されていた。

『メールアドレスが載っている…』

「へぇ…ちゃんと連絡先があるんだ」

説明書を見ながら僕と琴音は関心しながら、琴美の手を借り、

…人魚なので椅子に座れず、作業が思うように出来ない(汗)

早速、僕の現状を説明するメールを送ってみると、

なんと、30分ほどで返答のメールが届き、

それによると、

”この現象は、男性と女性が人魚鉢に入った時に起こるバグで、

 HPよりBIOSの更新とドライバのアップデートをして欲しい。”

と言うものだった。

『まじかよ…』

メールを読みながら僕は冷や汗を流すが、

指定されたHPより最新のBIOSとドライバをダウンロードし、

そして、更新作業を始め出す。

『はぁ…

 こんな周辺機器、聞いたことがないよ』

尾びれを左右に振りながら僕は呆れていると、

ツツー…

僕の背中をゆっくりと撫でられる感覚が移動していった。

『うわっ!』

その感覚に僕は飛び上がると、

「へぇ、

 敏感なのね」

と琴音は感心したような台詞を言う。

『誰だって、驚くわっ』

そんな琴音に僕が反論すると、

「うふっ、

 ねぇ、勇治…
 
 ちょっと触らせてぇ、
 
 あたしが人魚になったときは泳ぐことに夢中だったから」

と琴音は僕に言う。

『えっ

 ちょちょっと』

「いいじゃない、

 別に減るわけ無いんだし」

『ちょっと待て』

「へぇ、

 鱗ってこんな感じなの」

『触るな』

「うわっ、

 ここ柔らかい…」

『いっいやぁぁぁぁ!!

 かんにんしてぇ』

真夏の空に僕の悲鳴が響き渡っていった。



おわり