風祭文庫・人魚の館






「人魚ドレス」



作・風祭玲


Vol.307





「ふぅぅん…このドレス…イメージに合うわね…」

須藤文子はそう呟きながら、

パソコン教室に設置してあるパソコンのディスプレイを眺めていると、

「ん?、なんだ?、

 またオークション?

 お前も懲りない奴だなぁ」

隣の席に座っている柳川建雄がそういながら覗き込んできた。

「あっなによっ

 あっち行ってなさいよ」

鬱陶しそうに文句を言いながら文子は慌ててディスプレイを手で隠すと、

「いいじゃないか、別に…」

建雄は文句を言いながら席を立ちながら、

「そう言えば、須藤、

 お前…文化祭の劇で着るドレスの手配はもぅ終わったのか?」

と尋ねた。

「うん…まぁ…ねっ」

文子はややごまかし気味の返事をしたが、

しかし、建雄はそれ以上追求することはなく、

「そうか、

 んじゃぁ、俺、この案内書で良いか、部長に聞いてくるから」

と言いながら建雄はプリントアウトをした紙を片手にパソコン教室から出て行った。

「ふぅ…」

建雄の姿が文子の視界より消えるのを見届けると、

文子は大きく息を付きながらディスプレイを眺めていた。



「はいっ、では休憩します」

”学祭まであと○日”

と書かれたポスターの下、その声が挙がると、

演劇部員の間に張りつめていた緊張感が一気に途切れると、

「ふぅ…」

「みずぅ…」

っと言う声があちらこちらから挙がった。

無論、その中に文子と建雄の姿がある。

そう、間もなく開催される大学の学祭の最終日、

文子と建雄が所属する演劇部は創作劇を披露するのが恒例となっていて、

今年の出し物はずばり”人魚姫”

最も、超有名な某物語とは全く無縁(と言うか有縁にはできない)のお話なのだが、

脚本と演出を担当する先輩達は大張り切りで相当”濃い”物語になっていた。

「で、須藤ちゃん、

 ドレスの件は任せて良いの?」

この舞台劇の脚本兼演出を担当する3年の赤沢知美が文子に尋ねると、

「あっはいっ

 めぼしいのを一応見つけましたので…」

と文子が答えると、

「そうっ

 じゃぁ手に入ったらあたしに見せてね」

クルリと知美は背を向けるとそう返事をした。

予算との兼ね合いと舞台劇と言う視点から

主役である人魚姫の役をする文子は

人魚姫をイメージするドレスをさがす役目を負っていたのであった。



ポーン!

大学から帰宅した文子は自分のパソコンを立ち上げると、

早速、あのオークションサイトに飛び、

そして、そこで見つけたドレスの詳細を確かめる。

「ふぅ〜ん…

 締め切りは明日の朝ね…

 現在の値段は十分に予算内で…

 で、いまのところ入札者はなし…と」

海を連想させる紺碧色のドレスに

これなら人魚姫のイメージに合うと思いながら文子は応札をした。

そして、その翌朝、

「おしっ、落札した!!」

文子はそのドレスを自分が落札していたことに思わずガッツポーズをした。

続いてメールボックスを開くと、

そこにはドレスの出品者より文子がこのドレスを落札したことと、

その代金の振込先を知らせるメールが届いていた。



それから、2日後…

ピーンポーン!!

宅配屋がならしたチャイムの音共に、

文子が落札をしたドレスが彼女の元に届けられた。

「へぇ…」

サァァァ…

箱から取りだされた青いドレスは軽い音を立てながら文子の膝の上で蜷局を巻く。

「…不思議な感触ねぇ…

 どういう素材なのかしら」

文子は高校時代のバイトの時に培った触覚で、

触っただけで大抵の素材を言い当てることが出来るのだが、

しかし、このドレスの布地をいくら触ってみても、

文子の頭の中にデータベースにその素材に関する情報と一致する素材名は出てこなかった。

「ふぅぅぅん…

 まるで”なめした皮”みたいだけど…

 でも、一応、布なんだよねぇ…」

文子はドレスを目線の高さに持ち上げながら、

その生地をシゲシゲと眺めた。

キラッ

鱗を連想させる編み目が何とも言えない雰囲気を醸し出す。

そして、ドレスを傍のベッドの上に広げると、

「どれっ、ちょっと試着を…」

舌なめずりをしながら文子はドレスを試着しようと、

イソイソと着ている服を脱ぎ始めた。

スルリ…

ブラとショーツに包まれたプロポーションの良い文子の裸体が部屋の中に浮かぶ。

「えぇっと、サイズは大丈夫よね」

文子はドレスの寸法を確かめたとき、

「あら?」

ドレスが入っていた箱に一枚の紙が折り畳まれて入ってるコトに気づいた。

「メッセージ?」

そう思いながら紙を広げると、

そこには

『このドレスを身につけるときは

 ぜひ、肌着をつけない状態で着られることをお勧めします。

 あなたが味わったことのないエクスタシーが得られると確信します』

と書かれてあった。

「ふぅぅぅん

 要するに裸で着ろってことか…」

紙に書いてあった文句に文子は頷くと、

ス…

ショーツに手を掛けた。



「よいしょっ」

すべてを脱いで全裸になった文子はベッドに腰掛けると、

ドレスに足を通すとゆっくりと引き上げていった。

シュルリ…

すると、ドレスは文子の身体に巻き付くように、

艶めかしい色を輝かせながら、

彼女の身体を覆っていく、

「うわぁぁぁ…

 なんか…

 変な気持ちになるね」

ピチッ

まるでレオタードのように身体に吸い付いてくるドレスの感触に

文子は感じ始めるとその耳は次第に赤くなっていった。

キャミソールの肩ひもを肩に掛け、

シュッ

背中のジッパーを締め上げると、

文子は部屋の隅にある姿見の方を向いた。

「うわぁぁぁぁぁ…

 凄い…」

鏡には胸回りから腰に掛けては色白のように薄く、

そして、腰から下は濃いマリンブルーに染め上げられたドレスが、

文子の身体のラインを魅惑的に表現し、

膝下から広がっている裾がまるで人魚の尾鰭のようにキラキラと輝いていた。

「へぇぇ…」

すっかりセクシーな自分の姿に感心しながら

「ふん…なるほど…

 ただちょっと舞台映えしないかな?

 でも、その辺は手を入れれば大丈夫そうね」

と吟味していると、

ムズッ

ムズムズ…

彼女の身体が急にムズ痒くなってきた。

「あっあれ?」

爪を立てるのを避け、

文子が肘などで痒みを感じるところを押さえたが、

しかし、

文子を襲い始めたムズ痒さは徐々に全身に広がっていった。

「やば…」

文子はドレスに付いていた薬品が原因で自分の肌がかぶれ始めている。と悟ると、

急いでドレスを脱ごうと背中のジッパーを探り始めたが、

「あっあれ?」

幾ら手を回してもさっき引き上げたはずのジッパーは何処にも存在していなかった。

「そんな…

 なんで?」

幾ら探しても見つからないジッパーに痺れを切らした文子が

姿見に背を向けようとした途端、

「え?」

グラリッ

ドタン!!

「きゃっ!」

文子はバランスを崩すとそのまま前のめりになって床の上に倒れてしまった。

「イタタ…なによぉ!!」

泣きべそをかきながら文子が起きあがろうとするが、

しかし、幾ら脚に力を入れても

脚に力は入らず文子は起きあがることすら出来なくなっていた。

「え?、なんで?」

両腕を使って這いずりながら、

なおも文子は必死になって立ち上がろうとすると、

ミシッ

ミシミシッ

着ていたドレスが彼女の身体を厳く締め付け始める。

「うぅ…くっ苦しい…」

締め付ける苦しさから逃れようと思わず文子がドレスを引き裂こうとして、

胸に手を掛けようとしたとき、

チリ…

まるで肌を引き裂くような痛みを文子は感じた。

その途端、

「イタッ!!

 どうなってんの!、これ?」

と叫びながら文子は手を離した。

その途端、

ミシミシミシ!!

彼女の身体を締め付けるドレスは更に締め付けを強めていくと、

ググググ…グニュゥ…

文子の両脚を押しつぶし始めた。

「ぐがぁぁぁぁぁ!!」

2本の足を1本にするかのようなその圧力に文子が絶叫をあげるが、

締め付けるドレスの中で文子の脚は次第に一本の肉棒へとその姿を変え、

そして、ドレスの裾から覗く文子の足は徐々に巨大な魚の鰭へと変えていった。

こうして、文子の下半身が大きく姿を変えると、

ジワジワ…

ドレスの表面がゆっくりと蠢くと

その下で何かが次々と湧き出すような動きをした。



「くはぁはぁはぁ

 あっあたし…どうなっているの?」

文子を長く苦しめていた苦しさが次第に薄れてくると、

身につけていたドレスがスルリと身体から離れていった。

「あれ?」

あれだけきつく文子の身体を締め付けていたドレスが

呆気なく脱げてしまったことに文子は驚いたが、

しかし、

パタン!!

パタン!!

と言う音を伴いながら文子の下半身は

これまでに感じたことのない捻れを伴った動きを始めだした。

「え?」

それに驚いた文子は自分の下半身を見て見ると、

「うっそぉ!!」

眼下に現れた魚類を思わせる自分の下半身に目を見張った。

「そっそんな…

 こっこれって…」

蛍光灯の光を受け妖しく輝く鱗に驚きながら、

文子がベッドの上にはい上がっていくと、

ドレス姿の文子を映し出していた姿見に一人の人魚の姿が映し出されていた。

「そんな…あたし人魚になった…

 そんなことって…」

いつの間にか淡い緑色に染まった髪を弄りながら文子が呆然としていると、

コンコン!!

突然、部屋のドアがノックされると、

「おーぃ、須藤、居るのかぁ?」

とドアの外から建雄の声が響き渡った。

「やっ柳川君?」

建雄の声に文子はビクッとすると思わず時計を見た。

「あっ」

文子が人魚への変身をしている間に時間は進み、

時計の針は翌日のAM10:00を指していた。

「そんな…」

文子は呆然としていると、

「おいっまだ寝ているのか?

 お前が来ないとリハーサルが始まらないだろう?」

建雄の声に次第に苛立ちが感じられ始めた。

「ねぇ…ひょっとして帰ってないのかしら?」

建雄の他に後輩・佐伯恭子の声がすると、

「えぇ、佐伯ちゃんも来ているの?」

っと文子は後輩の佐伯も一緒に来ている事に驚いた。

「そうか?

 でも灯りが点いているぞ」

と部屋の灯りがついている事を指摘する建雄の声がするのと同時に、

カチャッ

閉じていたドアが開いた。

「やばい!!」

その時文子はドアの鍵を掛けていないことを後悔した。

「どうしよう…

 こんな身体見られたら…」

文子は鱗に覆われた下半身に視線を落とすと、

「そうだ、取りあえず、あそこに…」

ふと押入を見るとそこに隠れようと

ズリズリ

とベッドから降りると這いずり始めた。

「あれ?、

 鍵が開いている…

 よし、佐伯、お前ちょっと中に入って確認してこい」

「え?あたしが?」

「あほっ、男の俺が勝手に女の部屋に入ったら犯罪者だろうが」

「でっでっでも、

 もしも、この中で須藤先輩が首を吊っていたら…」

「ばかか、お前は、勝手に須藤を殺すんじゃない!!

 とにかく行ってみてこい」

外での建雄と恭子のそんなやり取りを聞きながら、

「あたしって…そう言う目で見られていたのね」

っと文子は複雑な気持ちになった。

「とっとにかく、

 隠れなくっちゃ」

そう思いながら文子は

魚の尾鰭となってしまった下半身をくねらせて押入へと進んでいった。

しかし、その時、

パタン

パタン

っと尾鰭が床を叩く音がこだました。

「やばっ」

その音に文子が気づくのと同時に、

「せっ先輩…部屋の中から変な音が…」

と言う恭子の声がすると、

「いいから行って来い!!」

と建雄の声が響き渡ると、

「きゃぁぁぁぁぁ」

悲鳴を上げながら恭子が文子の部屋に飛び込んできた。

「うわぁぁぁぁ」

突然の出来事に文子は慌ててふすまを開けるが、

しかし、

「なっ」

押入の中は既にぎっしりと物が詰まり、

文子が入れる隙間はなかった。

「そんな…」

呆然とする文子に、

「せっ先輩居ますかぁ?」

と恐る恐る入ってきた恭子がやってくると、

「え?」

振り返った文子とばったり目が合ってしまった。

「へ?」

静寂の時間が流れる…

「なに…これ…」

恭子の目に映ったのは目の前の床を這う奇妙な生き物だった。

そして、灯りを受けて輝く鱗を見た途端。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

思いっきり悲鳴を上げると、

バタバタと逃げ出していった。

「どっどうした!!」

「いや!いや!いや!

 お化けが!!

 部屋の中にお化けが居ます!!」

半狂乱の恭子が建雄にそう訴えると、

そのままバタバタと駆け出していく音が響き渡った。

「なっなによっ

 人魚を捕まえてお化けとは失敬ね」

恭子の声に文子はムカムカとしていたが、

しかし、

カチャッ!!

「おいっ須藤…居るのか?」

今度は建雄が慎重に文子の部屋に入ってきた。

そして、床の上に這っている文子を見つけるなり、

「いっ…」

建雄は思わず2・3歩後に引いた。

「ったくぅ

 これ以上あたしのことお化けと言わないで欲しいわね」

覚悟を決めた文子が建雄にそう言って起きあがると振り返った。

「すっ須藤なのか?

 お前は?」

「そうよ」

恐る恐る尋ねてきた建雄に文子はそう言うと、

「いや…何をして居るんだ?、お前は」

と建雄は震える手で文子を指さした。

「見て判らない?

 あたし人魚になっちゃったのよ」

傍に落ちていたバスタオルを身体に巻き付けて文子はそう答えると、

「……いや

 人魚になっちゃったって…

 それ、本物なのか?」

建雄はそう言いながら鱗に覆われた文子の下半身を指さしてそう呟くと、

「なんなら触って確かめてみる?」

文子はそう言うと、

ピッ

っと尾鰭を建雄に向けて突き出した。

「うっ…」

突きつけられた尾鰭に建雄は身を引くが、

しかし、

恐る恐る触ってみると徐々に鰭から尾の方に手を滑らせていった。

「う〜ん

 確かに作り物なんかじゃないな…」

鱗の感触や鰭の付け根を触りながら建雄はそう呟く、

「判ったでしょう?」

困惑した口調で文子はそう言うと、

「で、なんで須藤は人魚になったんだ?

 まさか、
 
 あたし本当は人魚だったです。
 
 なんて言うのか?」

と建雄は尋ねると、

「はぁ…

 その方が遙かにいいわ…」

ため息を付きながら文子はそう答えた。

そして、

「どうもこれのせいみたい」

と言いながらドレスとその説明書を建雄に見せると事の詳細を説明した。



「マジでか?」

コクリ

「しかし、そんな事って…」

文子の説明を聞いた建雄は信じられない表情をするとシゲシゲと説明書を見ると、

「ちょっと聞いてみる…」

と言いながら、携帯電話を取り出すと

そこに記してある電話番号に電話をかけ始めた。

そして、

「はぁはぁはぁ…

 ありがとうございました」

まるで狐に抓まれたような表情で建雄が電話を切ると、

「なんだって?」

すり寄りながら文子が尋ねた。

「ふむっ」

建雄は大きく頷くと文子の人魚姿をじっくりと見る。

「なっなによっ」

彼の視線に恥ずかしそうにしながら文子がそう言うと、

「お前が買ったそのドレスな…

 なんて言うか、

 着た人間を人魚にしてしまう物なんだそうだ」

とあっさりと説明した。

「………で?」

妙な間の空いたあと、文子が聞き返すと、

「でって?」

建雄が文子の言葉の意味がくみ取れないでいると、

「あたしのこの身体、元に戻れるの?」

と改めて重要なことを再度聞き返した。

すると、

「あぁ…今日の夕方には元に戻るそうだ」

とこれもあっさりと建雄は答えた。

「はぁぁぁぁぁ…」

建雄のその言葉を聞くや否や文子は大きく息を吐き、

「なんだ、そう言うことか、

 あたしはてっきり一生この姿のままかと思ったわ」

とほっとした表情で文子はそう言うと、

「これは実に面白い!!」

と言う声が部屋に響き渡った。

「へ?」

思わず二人が声のした方を見ると、

そこには

どぉぉぉぉぉぉん!!

知美がメガネを光らせながら仁王立ちで立ちはだかっていた。

「あっ赤沢先輩?」

呆気にとられながら二人は知美を見ると、

「佐伯ちゃんがあたしの所に押し掛けてきて、

 意味不明のことを言うもんだからこうして来てみたら、

 なに?

 人魚に変身するドレスですって?

 なんで、そんなに面白い素材をあたしに隠していたのよっ!!」

と迫ってきた。

「いやっ

 あのぅ…驚かないんですか?」

知美の迫力に建雄が恐る恐る尋ねると、

「ふんっ」

知美は鼻で笑い、

「まぁ…あたしの後輩には男から女になったのもいるしね、

 人間が人魚になったからって驚くことではないわ」

と言うと、

シゲシゲと文子を検分し始めた。

「ちょっと、尾鰭動かしてみて…」

「ふむ」

「じゃぁ…コレできる?」

「あそう」

「これは?」

知美は文子にアレコレ聞きながら色々と注文を付ける、

そして、再び立ち上がると、

「ぐーよっ、須藤さん!!

 これであたしの舞台は完璧になるわ!!

 目指せ、金熊賞!!」

と燃えさかる炎をバックに従えると、

「んじゃ、午後からリハーサルするからすぐに来てね」

と言い残すと部屋から出ていった。

「なんなんだ?」

文子と建雄は呆然と見送っていた。



こうして、学際の当日、

演劇部の催し物である「人魚姫」は成功裏に終わり、

観客達は文子の人魚姿に皆目を見張っていた。

そして、それ以降、

文子が着たこの人魚ドレスは演劇部の備品となり、

後輩達を次々と美しい人魚姫に化けさせていったのだった。



ザザーン…

「おーぃ、建雄!!」

波打ち際で文子が手を振ると、

「何処に行っていたんだ!!

 探したぞ」

ふてくされ気味の建雄が砂浜を走ってくると声を上げた。

「まぁまぁ…」

文子は笑みを浮かべながら

ピン!!

っと尾鰭を跳ね上げた。

「それにしても文子…

 お前、よく2つ目のドレスなんて買ったな、

 去年のあのドレスをあっさり手放したから、

 もぅ人魚には興味がないと思っていたけど」

人魚姿の文子を見ながら建雄がそう言うと、

「あぁあのドレス、実は気に入っていたんだけど、

 赤沢先輩が部の備品にするって取り上げられちゃったし

 それにまたオークションに出ていたから買ったのよ」

と文子は説明をした。

「まぁいいけど、

 で、どうだった?

 海の中は…」

建雄はそういいながら、

人魚になって海中散歩をしてきた文子にその感想を求めると、

「うん面白かったわ、

 はいこれお土産」

と言いながら文子は流線型をした金属の物体を見せた。

「しかし、

 お前一人だけ楽しんじゃ面白くないな…」

金属の物体を眺めながら建雄が言うと、

「じゃぁ、建雄も人魚ドレス着たら?

 海の中って綺麗よ」

と文子が言うと、

「あほっ男が人魚ドレス着れる分けないだろうがっ」

と建雄は文子のその提案を蹴ってしまった。

「そうねぇ…

 男性用もあればいいのにね…人魚ドレス…」

と文子は海底で見つけた旧日本軍が投棄した砲弾を抱えがながら呟いた。



その頃…

都内某所

「部長、人魚ドレスの売り上げが大分伸びてきましたね」

「あぁ…

 どうやら口コミで広がってきたみたいだな」

「えぇマスコミでもチラホラと取り上げてきて居るみたいですが」

「まぁ…

 地上の人間に海の現状を少しでも知ってくれればと思って

 あのドレスを作ってみたのだが、

 さて、それだけの者が気づいてくれるか」

そう言いながら二人のマーマンは大きく広がる大都市を眺めていた。



おわり