風祭文庫・人魚の館






「感染」



作・風祭玲


Vol.210





「人魚を捕まえる?」

夏を目前に控えた部室に俺の声が響いた。

「うん、そうよ」

そう返事をしながら一人の少女が俺の目の前に立った。

セーラー服におかっぱ頭、

そしてやや大きめの眼鏡をかけたちょっと内気そうな少女…

そう、彼女こそが我が生物部の部長・石野雅美である。


満面の笑みをたたえながら、

「実はね、インターネットの掲示板で耳寄りな情報をつかんだのよ」

ズイッ

と言って彼女が迫ってくると、

「ふん、どうせ…何処ぞの怪しい掲示板の話だろう?

 ガセネタ満載の…」

嫌みたっぷりに俺が言う、

すると、

「心配御無用!!、今度の情報は信頼性120%よっ!!」

と部長は意味のないオーラと共に拳を振り上げて強調するが、

「でも、この間の雪女探しはものの見事に空振りだったし、

 その前の河童探しはただの亀だったじゃないですか」

俺は部で飼っている三毛猫のミケを抱き上げてそう言うと、

「…あっあれは、たまたま外れだったのよ、

 それに、矢上君っ

 男なら過去のことはいちいち持ち出さないのっ」

眼鏡を直しながら彼女が俺にそう言うと、

「大体、この猫も”化け猫”の末裔と言う話だったんじゃないですか?

 それにそんなこと言ってもいざとなれば、

 どうせ俺が一人が全部やらされる羽目になるんだろ!!」

と思わず語尾を荒げたしまった。

「ニィー」

ミケが鳴き声をあげる。

そう、この生物部には部長の他、

部員は俺・矢上敏哉と同じクラスの近藤真子、

以上3人しか居なかった。

「あの〜っ

 人魚って、絵本やアニメなどに出てくる半人半魚の人魚のコトですか?」

コレまで黙っていた真子が部長に聞き返すと、

「そーよ」

部長はケロっとして答えた。

「けっ、

 どーせ

 またガセだろうよ」

俺はふてくされながら横を向く。

「…………

 …面白そうですね」

少し間をおいて真子がそう言うと、

「でしょう?」

そう返事をする部長の目が輝いた。

「おっおいおい

 近藤っ

 お前もこの話に乗るのか?」

驚きながら俺が聞き返すと、

「だって、人魚って一度会ってみたいんだもん」

と彼女は俺に言うと、

「矢上クンはイヤなの?」

と聞き返してきた。

「(フッ)多数決の結果は出たわね…」

部長の眼鏡が妖しく光った。

「ぐっ………

 たくぅ、わぁかったよ

 俺も行けば良いんでしょう?」

と破れかぶれに俺は声を上げると、

「わぁぁぁぁぃ」

近藤と部長は手を合わせて飛び上がった。

「ったくぅ…疲れる連中だ…」

「ニィー」

再び膝の上のミケが声を上げた。



ザーン

それから2週間後、

待望の夏休みに入った俺達は電車で2時間ほどかけた

入り江に面した海岸通りに立っていた。

「うわぁぁぁ綺麗な海…」

青々とした海を眺めながら近藤がはしゃぐと、

「なにも電車で2時間もかけなくても、

 隣町に行けば海があるのに…

 で、何処をどう探すんですか?

 まさかこのまま日本の海岸線すべてを調べるんじゃぁないでしょうねぇ」

海を眺めながら俺が訊ねると、

「う〜ん…

 それも面白いわねぇ」

と言いつつ部長は開いたノートパソコンの液晶画面を眺めていた。

「面白いって…まさか…マジっすかぁ?」

驚きながら聞き返すと、

「あはは、冗談よ冗談」

と彼女は言うが、しかし俺にはあながち冗談のようには思えなかった。

「じゃぁ取りあえず、あの岩場あたりから探してみましょうか?」

部長は海岸からやや離れた沖合にある岩場を指さすと、

「…じゃぁ取りあえず…って(アバウトな…)」

額に冷や汗を浮かべながら、

俺は早速膨らませたゴムボートを海に浮かべた。

「がんばって探してきてねぇ」

白いワンピースに大きな縁のある帽子を被った部長は手を振ると、

「ったくぅ…」

俺は苦虫を噛みつぶしたような表情でボートを出した。

「ドンマイドンマイ…」

と近藤が俺を励ます。

そう、ボートには俺の他に近藤が同乗していた。

「近藤、部長と一緒に待っていればいいのに何でついてくるんだ?」

ボートを漕ぎながら俺が訊ねると。

「だって、せっかくここに来たんだもん…

 あたしだって楽しみたいわ…」

と彼女は答えた。

「楽しみたいって…

 ここは公園の池じゃぁないんだぞ」

そう忠告をするようにして言うと、

「あら、あたし泳ぎが得意なのは矢上クンも良く知っているでしょう?

 もしものコトがあればスグに助けに言ってあげるからね」

と彼女が片目を瞑りながら切り返す、

確かに、近藤の泳ぎは学年でもトップクラスで、

水泳部からも散々誘いは来るのだが、

しかし、なぜか彼女はその誘いを全て断っていた。

そして、それが学園の七不思議の一つに数えられていた。



「ねぇ…

 矢上クンって人魚は信じる?」

しばらくして近藤がポツリと聞いてきた。

「あん?

 さぁな…

 本当にいたら一度はお目にかかりたいものだ」

俺がそう返事をすると、

「そう…」

彼女はそう返事をすると再び海を見つめた。

前々から思っていたのだが、

近藤ってたまにこう…

何かを思い詰めて居るような表情をすることがある。



ドン!!

ボートが軽く岩場に当たると、

「この辺かな…」

部長に指示された岩場に到着すると俺はシャツを脱ぐと競パン姿になり、

そして、

「じゃぁ、ちょっと行って来るわ」

と足ヒレと水中眼鏡・シュノーケルを装着して近藤に声をかけると、

ザブン!!

海の中に飛び込んだ。

「気をつけてねぇ…」

俺のシャツを手にして彼女は手を振る。

――まったく…こういうことをするのなら

  スキューバーの一つぐらい用意しろってぇんだ

と俺は思いながら潜っていく、

元々この生物部は最初はごくふつうのクラブだったのだが、

何処ぞの大学の教授兼探検家を父親に持つ石野が部長になったころから、

本来の目的を外れ、こうしてあっちこっち出向くようになった。

むろん最初は部員達も面白がっていたが、

しかし、部長の方針についていけなくなった者が一人、二人と辞めていき、

結局最後には俺と近藤の二人だけが残ってしまった。

俺は息継ぎとポイントの確認のために何回か浮き沈みした後、

――なんだ、結局、人魚なんて何処にも居ないじゃないか

そう判断して浮き上がろうとしたとき、

シュルン…

一瞬、影が俺の目の前を横切ったと思った途端、

ビシッ

痛みを伴う猛烈なしびれが俺を襲った。

――カツオノエボシ?

  しかもでかい!!

俺のスグ脇には猛毒で有名な毒クラゲがゆっくりと漂い、

そしてクラゲから伸びる口腕が俺の身体に巻き付いていた。

俺は必死になってクラゲを引き離したものの、

しかし、身体がしびれて思うように動かなくなっていた。

――うわぁぁぁ…マジかよぉ

そう思いながら俺は藻掻くように必死になって目の前に迫った海面を目指したが

しかし、徐々に意識が遠くなっていった。

――ダメだぁ…

観念しようとしたとき、

ヒタ

突然誰かの手が触れると俺を抱えるように抱きしめた。

――誰?

――じっとしてて…

近藤の声が俺の脳裏に響いた。

――そっか近藤か…なんだ…あいつに助けられたのか…

と思ったところで俺の意識はなくなった。



「うっ…あぁ?」

ハッ

と目を覚ますと岩場の上で横になっていた。

「つつつつ…」

顔を上げて自分の体を見ると腹から股にかけて

ミミズ腫れがくっきりと浮かび上がっていた。

――やられたなぁ…

それを見ながらそう思ってると、

「大丈夫?」

心配そうな顔をして近藤がのぞき込んできた。

「あぁ…

 お前が助けてくれたのか」

俺は彼女にそう言うと、

「言ったでしょう…矢上クンに何かあったら助けてあげるって」

と彼女が言う。

「かっこわるぅ…」

俺はそう返事をしながら起きあがろうとすると

「あっダメよ、もぅ少し寝てれば」

俺の様子に近藤は慌てたようにして言うが、

「大丈夫大丈夫…」

俺がそう言って起きあがった途端、

ズキッ!!

クラゲに刺されたところが痛んだ途端バランスを崩した。

「あっ」

慌てて近藤が俺を支えようとしたが、

「うわぁぁぁ」

ドボン!!

二人とも抱き合うようにして岩場から海へと落ちてしまった。

プハァ…

俺は近藤を抱きかかえるようにして浮かび上がると、

「おいっしっかりしろ」

ぐったりとしている彼女の頬を数回叩いた、

――やべぇ頭打ったかな?

と判断すると

すぐさま岩場に引き上げそして彼女をボートに運んだ。

ポト…

彼女の左手から血が滴り落ちてくる。

「やべ…落ちたときに怪我をしたのか」

とっさに俺は彼女の傷口に口を付けた。

何時だっけか止血には唾液が一番有効だと聞いたからだ。

口の中に金属的な味が広がっていく、

「とにかく、一端陸に戻ろう…」

タオルで傷口を縛った後、俺はボートをこぎ出した。



「ううん…あれ?」

程なくすると近藤が目を覚ますと、

「おぅ目が覚めたか…」

オールを漕ぎながら俺は声をかけた。

「…矢上クン…あれ?あたし…」

キョトンとして近藤が俺を見ると、

「大丈夫か?」

「えぇ…」

「全く、陸に戻ったら部長をどついてやらないとな」

俺がそう言うと、

「痛っ、あたし怪我をしたんだ…」

近藤は左腕の怪我に気づくと声を上げた。

「あぁ、落ちたはずみでな…ごめんな」

「矢上クンが手当てしてくれたの?」

「まぁな…」

俺の返事をしてしばらくして、

ハッ

と彼女が何かに気づくと、

「あのぅ…あたしの血…身体に付かなかった?」

と困ったような表情で聞いてきた。

「血?…それがどうかした?」

さすがに飲んだとは言えずにそう聞き返すと、

「ううん…何でもない…」

近藤は首を横に振るとそのまま黙ってしまった。



「だからぁ…悪かったって謝っているでしょう?」

宿泊先の民宿で部長は俺と近藤に向かってひたすら頭を下げていた。

「部長…一つ誤ると命を落とす所だったんですから、

 もぅこういうのは止めましょうよ」

と俺が言うと、

「むーん…」

たちまち部長は難しい顔になった。

「とにかく、明日になったら帰りましょう」

俺がそう言って詰め寄ると、

「…あたしは…別に良いと思うけど…」

と近藤が声を上げた。

「近藤…お前だって…怪我をしたんだろう?」

そう俺が言ったとき、

トクン…

心臓が大きく鼓動した。

――え?

それに驚く間もなく、

ボッ…

体が妙に火照りだした。

「矢上…どうした?

 顔が赤いぞ…」

それを見ていた部長が俺に声をかけると、

「なっ何でもな゛い゛…」

と返事をするものの声の出方がおかしくなった。

のどがカラカラに渇く…

ドクン…

ドクン…

心臓がさらに高鳴ってきたとき…

フッ…

突然目の前が真っ暗になった。

「矢上っ」

「矢上クン!!」

部長と近藤の叫び声が聞こえたが、

俺の意識はそこで消えてしまった。



パチッ

目を開けると、俺は薄暗い部屋の中に寝かされていた。

モソっ…

体を動かして見るとなんか様子がヘンだ。

――?…脚が…

と思っていると、

「気が付いた?」

近藤さんの声が部屋に響いた。

「近藤さん?」

声のした方を見ると部屋に差し込む月明かりに

うっすらと人の姿が浮かんだ。

「……いま何時?」

僕の口から出た言葉はそれだった。

「…2時半を回った所よ…」

と返事が返ってくる。

「そうか、ずっと傍にいてくれたんだ…

 あっ…部長は?」

そう訊ねると、

「部長は…隣の部屋で寝ているわ…」

と言う返事が返ってきた。

「僕はもぅ大丈夫だから近藤さんも早く寝なよ…」

そう言って起きあがろうとすると、

「ダメッ起きあがっては…」

強い調子で彼女は僕の行動を制止した。

と同時に僕は彼女の姿を見て驚いた。

「近藤さん!…そっそれは…!!」

驚く僕の目の前にいる彼女は一糸まとわぬ裸体だった。

白い肌が月明かりに淡く輝いている。

「なっなっなっ…

 何を…」

慌てて布団を被ったとき奇妙なコトに気が付いた。

本来ならスグに硬くなるはずのアレの反応が全くない…

それ所か、

ビクン!!

大きく自分の脚が動いたとき、

脚が一本の大きな尻尾のような感じがした。

――なんだ、さっきからのこれは…

そのとき

「矢上クン…あたしの血に触れてしまったんですね」

と近藤さんが声をかけた。

――血?

恐る恐る顔を出すと彼女の顔が大きく迫っていた。

「(うっ)血って?」

ちょっと驚きながら聞き返すと、

「…………」

近藤さんは何も言わず、月を眺めた。

すると、

ジワジワジワ…

近藤さんの腕に小さな花が咲くようにして鱗が現れ始めた。

「え?」

俺はそれを驚きながら眺める。

彼女の変化はそれだけではなく、

黒い髪が一瞬なびくと頭の方からうっすらと輝く翠色へ変わり、

さらに、白い肌の両足にも鱗が現れると、

見る見る脚は一本に纏まると、

足先が大きなヒレに変わってしまった。

「そんな…

 近藤さん…

 君は本物の人魚だったのか!!」

俺は驚きながら叫んだ。

「しぃ〜っ」

人魚になった彼女は口先に人差し指をたてる。

「あっ」

俺は隣の部屋で寝て居るであろう部長のことに気づくと、

両手で口をふさいだ。

そして近藤さんを見ると、

彼女は軽く首を振り、

「…あたしは元々は人間でした。

 でも、ある事故の際に人魚の血を受け付いてしまったんです」

と告げた。

「事故?」

俺が聞き返すと、

コクリ…

彼女は頷き、

「あれは、中学2年生の臨海学校の時でした。

 遠泳大会に参加していたあたしが鮫に襲われたんです」

と言った。

「鮫?…鮫ってあのジョーズの…」

俺は思わず聞き返すと、

コクリ…

彼女は素直に頷いた。

「小さかった頃から泳ぎが得意だったあたしは、

 女子の中でもトップで泳いでいたんです。

 そしてそのときあたしは襲われたんです。

 いきなり海の中に引き吊り込まれて…

 必死の思いで見てみると巨大な鮫があたしの脚に噛みついていたんです。

 もぅダメかと思ったとき…

 ”諦めないで…”

 と言う声が聞こえると、一人の人魚が向かってきて…

 そこから先は良くおぼえていません。

 でも、気が付いたときには怪我を負っていた人魚に

 あたしは助けられていました」

「そっそれで?」

俺はその続きを催促すると、

「人魚は少し離れた岩場にあたしを揚げると

 一言、ごめんなさい…
 
 って謝ったんです」

「謝った?」

「えぇ、なんでもその人魚が言うには

 自分の血があたしに触れてしまった

 と言うことでした」

「血が?…」

「あたしもそのときはその意味が分からなかったのですが…

 それからしばらくしてあたしの身体に異変が起きたのです」

「要するに人魚になった…」

俺が結論を言うと、

コクリ

近藤さんは頷いた。

「どうも、人魚の血に触れた人間は人魚化してしまうものらしいんです」

彼女がそう言うと、

「ちょっと待て…それってひょっとして…」

俺は慌てて起きあがると、

バッ!!

っと布団をめくり上げた。

キラッ!!

「ははははははは……」

軽く笑う俺が見たのは、

月明かりに輝く鱗に覆われた一本の脚と

その先に開くようにしてヒレだった。

プルン

胸元で乳房がかすかに揺れ、

サワッ

っと翠色に輝く髪が肩から背中を撫でる。

「……なんてこったい…

 俺も人魚になっていたのか…」

バフッ

そのまま俺は仰向けに倒れると、

脚と同じように鱗に覆われている腕を眺めた。

「…あっ矢上クン?」

それを見ていた近藤さんが心配そうに声をかけた。

俺は彼女の方を見ると、

「あのさ…、

 昼、俺がクラゲに刺されたとき助けてくれたよね、

 そのときって、近藤さんは人魚になってたの?」

と訊ねると、

「え?、えぇ…まぁ」

僕の問いが予想外だったのか彼女は一瞬驚くとそのように答えた。

「そうか…ってことは…

 近藤さんはさっき人間からその人魚に変身したけど、

 当然その逆も出来るよね…」

と訊ねる。

「えぇ…まぁ…」

「簡単なの?」

「はぁ?」

近藤さんが答えに困すると、

「本来ならパニックにならないとまずいと思うんだけど、

 近藤さんが人魚って事も驚きなら、

 当然、俺自身が人魚になったことも驚きだし、

 なんかこう、驚きが連発すると妙に冷静になっちゃうんだよなぁ…

 それに…」

俺はそう言うと、

隣の部屋を指さして、

「朝までに何とかしないと、

 俺、部長のオモチャになっちゃうから」

と彼女に言った。

「プッ」

それを聞いた近藤さんは軽く笑った。



翌日、無事人間の男の姿に戻った俺は、

部長と直談判の結果、

人魚探しは昨日でうち切ることにして近藤さんと共に帰ることにした。

こうして、今回の事件は一件落着したのだが、

「なぁ…

 なんでこんな防波堤の上を歩かねばならないんだ?

 デートでもあるまいし…」

あれから数週間後…

近藤さんに連れられて隣町の海岸にある防波堤の上を歩いていた。

「判っていると思うけど、俺の体は海水に触れるとだな…」

と言いかけたところで、

「矢上クンっ!!」

と彼女が声をかけてきた。

「…なん?」

そう返事をした途端、

「えいっ」

ドッ!!

近藤さんの手は俺の体を思いっきり突き飛ばした。

ウワァァァァァァ!!

叫び声を残して俺は海中へと転落する。

ザボッ!!

ゴボゴボ!!

海水に触れた途端俺の体は変化しはじめる。

見る見る両手が華奢になっていくと胸が膨らみ、

そして、腰のあたりから青緑色の鱗が沸き出すように生え出すと

脚を覆い尽くしていく、

シャッ

翠色の髪を靡かせる人魚となった俺はそのまま毎面へと向かうと、

「だから、言っているそばから何をするっ!!」

海面に顔を出した俺が思いっきり怒鳴り声をあげると、

ヒュン!!

俺を追うようにして近藤さんが飛び込んできた。

「うわぁぁぁぁ」

俺は慌ててよけると、

ザブン!!

スグ横で水柱が上がった。

「ぷはっ」

程なくして同じように人魚になった近藤さんが浮き上がってくると

俺に抱きつき、

「ねぇ…海中でデートと言うのも良いと思うんだけど」

と囁いた。

「はぁ?」

意外な彼女の言葉に俺は聞き返すと、

「あたし一人で寂しかったの…

 面白いところがあるんだけど教えてあげるね」

近藤さんは俺にそう言うと手を引いた。

「そうだ、海の中ではあたしのことはマコって呼んでね、

 矢上クンはユウだからね」

事実上の仲間が出来て嬉々としている彼女を見ながら

「人魚を探しに行って人魚にされたんじゃぁ…

 まるでミイラ取りがミイラになったのと一緒だな…」

俺はそう呟きながらマコに手を引かれて海の奥深くに向かっていった。



「ふっ、人魚探しは諦めたわけではないからね〜っ

同じ頃…

生物部の部室で部長がミケを抱きながらそう宣言していたことは後で知った。

一生やっとれ…(人魚はスグ目の前にいるぞ)



おわり