風祭文庫・モノノケ変身の館






「いしのキオク」
(第8話:ねらうはヒトツ)



原作・都立会(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-210





謎の電波が途絶えるとほぼ同時に、

訓練場の上空に組織のヘリが姿を現した。

森の上を飛んできたそのヘリは高度を落とすと、

ゆっくりと訓練場の一角に降り立つ。

そして、

黒ずくめの団員たちが整列して出迎える前でドアが開くと、

中からこの訓練場には少々不釣合いといえる

白衣を着た女が降りてきた。

「さっさとしてちょうだい」

その女がドアを開けた部下に怒鳴っている。

見るからに不機嫌そうである。

「何もたもたしてるの。

 研究部の私がわざわざ出向いてあげてるんだから。
 
 何で私までこんなところ呼ばれなきゃいけないのよ」

「ですがハルナ様。

 今度の作戦は組織の威信をかけるもので、

 部署も関係なく全員で遂行せよとの総帥からのご命令なので…」

そんな女幹部にあくまで丁寧に言う団員に対して、

「だったらぐずぐず言わずに並ばせて、

 早いとこ初めてちょうだい」

ハルナは理不尽な怒りをぶつけている。



それというのもこの所、

このハルナという幹部は面白くない事が続いていた。

組織幹部会の華を自称する彼女は、

それまで自分の気に入った者を集め、

組織内でちょっとした勢力となって動いていた。

しかし、

それが縦続けに起きた事件により、

弱まりつつあったのである。

その初めは町の研究所のある研究員。

自分に常に敬い付き従う彼女はハルナにとっていい部下であった。

そして自分の為なら何でもやるとまでいうので、

「自分に媚びようとしない、

 生意気な研究員を追い出してほしい」

と言って試しに罠をかける事を示すと、

彼女は見事にそれをやってのけたのであった。

ハルナはますます気に入り、

彼女をそこの所長にまでしてやったのだった。

それがある日突然、

気分が悪いとウソをついて研究所を早退し、

そのまま失踪してしまったのだ。

しかも研究用に与えていたポケモンを持ってである。

その恩をアダで返す行為にハルナは激怒し、

すぐに彼女を捕らえるように命令した。

しかしそれからもう半年以上も経つが、

未だに足取りさえつかめていないのであった。


それからしばらくして今度は追い出した方の研究員が

古代ポケモンの復活というとんでもない研究を成功させてしまった。

しかも彼女が高原の研究所に言ってからの研究成果だったので、

ハルナの所には何の報酬も入って来なかった。

それどころか

「本部の研究部よりも優秀だな」

と幹部会でイヤミを言われる始末であった。

その上幹部会は彼女を失踪した研究員の代わりに、

町の研究所の所長にしてはどうかとまで提言してきた。

またあの可愛げの無い研究員が戻ってくるのかと思うと、

ハルナは鳥肌が立つような思いだった。

幸いあちらにも戻ってくる様子は無かたのでまだ良かったが、

それでも自分の手柄にならない彼女の成功は、

癪である事に変わりはなかった。


そして先日は自分が可愛がっていた

諜報部員までも組織を辞めてしまった。

クソまじめで愛想も何も無い団員だったが、

諜報部を通さない個人的な指令も

喜んで受けてくれるという点でハルナは目をかけていた。

しかし郵送されてきた辞表によると

“本当にやりたい事と心から尊敬できる人が見つかったので組織を辞める”

というのである。

もちろんそんなことが組織で許されるわけがなく、

こちらもすぐに追っ手らが彼女の追跡を始めた。

しかし化石輸送の任務から一度本部に帰ってきたことまでは分かったのだが、

その後の行動が全くつかめず、

こちらもまだ見つけられずにいた。

しかも悪いことに彼女のデスクを団員が捜索したところ、

彼女のつけていた個人依頼のリストが出てきた。

これによりハルナが諜報部に黙って彼女を使い、

組織内の気に入らない人間を自分から遠くへ行くようにと

工作していた事までもが露呈しかけた。

何とかごまかしたハルナだったが、

彼女の評判はますます悪くなっていたのであった。

このままでは憧れの総帥も振り向いてはくれない。

何とかして以前のような、

いやそれ以上の勢力となり組織自体を動かしていくような人物になれるよう、

ハルナは躍起になっていた。

今回の作戦は自身も1グループを指揮することとなった

ハルナにとって挽回のチャンスでもあった。

しかしそんな彼女の気持ちとは裏腹に、

ノロノロとした部下たちの動きに

ハルナはイライラをつのらせていたのであった。

「ほら、さっさと並んで。

 ちょっとそこ!
 
 何してるの!」

ハルナは自分の前に並んでいる列の中で、

一人後ろに下がっている団員に向かって怒鳴った。

その言葉にすかさず護衛のリーダー格の男が

「もう少々お待ちくださいハルナ様。

 ちょっとあのポケモンが言う事を聞かないようで…」

とハルナをなだめる。

見るとその団員は顔に鋼鉄製の口輪をはめたニドラン♀を連れており、

口輪に付いているロープでその団員は、

嫌がるニドランを無理やり引っ張っているのであった。

「あんなバカポケモン、

 ランチの材料にでもしてしまいなさい。
 
 役に立たない道具はすぐに処分することよ。
 
 あの団員にあのポケモンと一緒に
 
 後で私の所に来るように言っておいてちょうだい」

「…分かりましたハルナ様」

冷酷に言い放ったハルナの言葉に護衛は答えた。

そのポケモンの行く先を哀れむような視線の先で

ようやくその団員も列ついたので、

ハルナはその前に立つと一呼吸おくと、

「今回の作戦について……」

とやっと話始めようとした。

しかしその時であった。

突然甲高い鳴き声が聞こえたかと思うと、

彼女の後ろの森から大きな翼を持ったポケモンが飛び出してきた。

そのポケモンはものすごいスピードで団員たちの方に飛んでくると、

彼らの前に立っていたハルナをその足のツメで掴み上げた。

そしてハルナを掴んだままそのポケモンは激しく羽ばたくと、

ものすごい勢いで元来た森の方向に飛んでいった。

あまりにも一瞬の出来事に

あっけに取られていた団員たちであったが、

組織幹部がポケモンに誘拐された事に気がつくと、

すぐに後を追うため一斉にヘリに駆け込んでいった。



その頃演習場から少し離れた森の中、

町へと続く細い道の横では2匹のポケモンが、

彼女らが来るのを待っていた。

その中の1匹尖った目が両側に飛び出した龍のようなポケモン、

アーマルドが道と反対側の空を見上げている。

アーマルドの横にはトランクの開いたままの1台の自動車、

そして木々の間には張られた大きなネットがあった。

ほどなくしてそのアーマルドの見上げた空の向こうから、

灰色の影がこちらに向かって飛んで来るのが見えた。

『着たわね。

 出番よ、いらっしゃい』

アーマルドは飛んできたプテラの姿を確認すると、

車の上で日の光を浴びていたもう一匹のポケモンを呼ぶと

ネットの横に歩いていき、

『さぁ、

 プテラの能力の本領発揮ですね。
 
 ちゃんと落としてくださいよ』

と上空のポケモンに念を押すように呟いた。

彼女の視線の先で飛んできたプテラは

森の木のてっぺんギリギリまで高度を下げてくると、

『いくわよ、それ!』

甲高い声で鳴くと同時に、

その右足に掴んでいたモノをネット目掛けて落とした。

「きゃぁぁ〜!

 …うっ!」

プテラの落としたモノは悲鳴をあげながら森の中に落ちてくると、

張ってあったネットの真中に落下し、

アーマルドの目の前に垂れ下がってきた。

ターゲットの投下が成功した事を見たアーマルドは、

今度は彼女を落としたプテラの方に目を向けると、

そのポケモンは落としたモノ代わりに、

今度はすぐ先の木の上に置いてあったモノをまた右足で掴むと

森の向こうへと飛んでいった。

「はぁはぁ…、

 うぅ……」

薄暗い森の中、

アーマルドの耳にネットの中でプテラが落とした白衣を着た女性が、

手で頭をおさえながらうめいているのが聞こえた。

ケガなどはしていないようだが、

突然プテラに連れ去られ

そして空の上から落とされた精神的ショックからか

ネットの中で悲痛そうな声を小さく上げている。

しかしアーマルドはそんな事にお構いなしに、

『キレイハナ、

 “ねむりごな”をお願い』

キレイハナにネット向かって緑色の粉を吹きかけさせた。

ネットの中に緑色の粉が舞い散ると

その女は頭をおさえた格好のまま、

ネットに身を委ねるようにすぐに眠ってしまった。

『お久しぶりですねハルナ様。

 組織の華を自称されるだけあって
 
 相変わらず美人ですね。
 
 でももうすぐ本当の花にして差し上げますので
 
 しばらくお休みになっていて下さい』

アーマルドはネットの中で眠っているハルナの顔を見てそっと言うと、

四方の木に巻きつけてあったネットの紐をその鋭いツメで切り裂いた。

四方の紐が切られハルナが地面に落ちると、

アーマルドは彼女をネットに包んだままトランクに放り込んだ。

するとその時、

彼女の頭上を組織の黒いヘリが数機、

プテラを追って飛んでいくのが見えた。

『これで作戦はほぼ成功。

 あとは彼女次第ね。
 
 それじゃぁ私たちは迎えに行きましょうか。
 
 いらっしゃい、キレイハナ』

そう言いながらトランクを閉めるとアーマルドは、

キレイハナを腕に乗せて車に向かって歩いていった。



アーマルドの上を通ったヘリに乗っている団員たちは、

幹部を連れ去ったプテラを必死に追跡していた。

ハルナがさらわれたのが分かると彼らは急いでヘリで飛び立つと、

森の木々をかすめるように飛んでいるプテラを発見した。

そのプテラがちらっと彼らの事を見たかと思うと一気に高度を上げた。

プテラを下から見上げる形となった団員らは、

その足に白衣を着た人の姿、

ハルナ幹部と思われるものを確認した。

団員らはすぐにでも彼女を救出したかったが、

今彼女は空高く飛ぶプテラの足に宙吊りの状態である。

下手に攻撃してプテラが放してしまえばハルナは森の中にまっ逆さま、

そうなれば彼女の命は無い。

大きなネットで捕獲してヘリで吊るすことも考えたが、

中で岩タイプのプテラが暴れたりでもしたら

一緒にいるハルナもタダではすまない。

ハルナだけに直接ロープをかけることも出来そうにない。

それでも何とかプテラを下ろそうと、

ヘリを近づけたり空中に向けて威嚇射撃をしてみたが、

プテラは一瞬ビクッと驚いてはくれるが一向に降りる様子はなかった。

とにかく今はプテラを追うことしか出来ないR団団員たちであったが、

その間にもヘリの中で彼らは情報収集を行っていた。

トレーナー登録情報を解析することによって、

今目の前を飛んでいるプテラのトレーナーはすでに挙がっていた。

その名はアオバ。

高原の研究所での任務の後、

組織を裏切って消えた諜報部員であった。

その情報によってあのプテラはどうやって手に入れたのか、

なぜそのポケモンがハルナを連れ去ったのか、

そもそもアオバ団員はなぜ失踪したのか等という憶測が

ヘリの中で飛び交った。

そしてその結果、

高原の研究所で古代ポケモンに目がくらんだアオバがプテラを盗んで、

今度はそれを使って日ごろから恨んでいたハルナを誘拐したのだろうという

推理がまとまりつつあった。


そんなヘリの中の団員たちを尻目に、

プテラは悠々と空高くを飛んでいた。

『あぁびっくりした。

 でも本当に攻撃まではしてこないのね』

プテラは後ろを飛んでいるヘリを横目で見ながら言った。

一定間隔を置いて飛んでいるヘリの中の団員たちは

手が出せないのが苛立たしいのか、

なにやら話をしながらものすごい顔で自分を睨みつけている。

彼女のすぐ後ろではヘリの出す激しい突風が吹き荒れ、

それはまるで団員たちの気持ちを表しているようである。

そんな団員たちの様子にプテラもつい、

『ここでコレを落としてみたら面白いのでしょうけど…』

と足に掴んでいるものを見ながら言うと

思わずツメの力を緩めそうになったが、

さっきアオバに脅されたのが頭をよぎると

彼女は慌ててその考えをかき消した。

『ダメダメ!

 とにかくこのままあそこに行かないと。
 
 何よりも研究のためよ』

とプテラが思った時である。

背後でピュッという音がしたと思うと、

しっぽの付け根にチクリと痛みが走った。

『痛っ!

 いったい何なの?』

と行ってプテラは自分のしっぽを見てみると、

足の近くに何か光る物が見えた。

『攻撃してきたじゃないの。

 話が違うじゃない!』

そうプテラは文句を言ったが、

ちょうどその時目的地の茶色い屋根が見えた。

『ふぅ、やっとついたわ。

 それじゃ、最後の仕上げね』

そう言ってプテラはくるっと後ろを向くと

ヘリに向かって大の字の炎を吐いた。

ヘリはトレーナーの指示も無く突然出された

“だいもんじ”を見て慌てて避けている。

その隙にプテラは高度を落とし、

下に見える茶色い屋根の建物の前に下りていった。

それは古い山小屋であった。

昔はハイカーやキャンプボーイ達が使っていたのだが、

ここしばらくは全く使われていない感じである。

プテラはその前の狭い山道に下りると、

自分のしっぽを見た。

付け根に刺さっているには小さな弓の矢のようなもの、

その先には電波を出す機器が付いている。

プテラは翼の中ほどの手で矢を抜いて見ると、

それは組織がよく使う発信機であった。

『もう、

 レディのお尻に何してくれるのよ。
 
 あいつら覚えていらっしゃい』

とプテラは一人で悪態つくと、

発信機を手に持ったままドアを開けて中に入っていった。

『トーピー、

 着たわよ』

ドアを閉めると共にプテラが何かに呼ひかけると

『待ってましたよ』
『それじゃ行きますよ』
『早く入ってください』

その声に何匹かのポケモンが答える鳴き声がした。

『分かっているわよ。

 ちょっと離れてて』

そのポケモンにせかされたプテラはそう言った次の瞬間、

小屋のドアの隙間から赤白い光が一瞬外に漏れて消えた。

『(ふぅ…、

 それじゃ頼むわよ。
 
 間違っても途中で置いて行ったりなんかしないでね)』

『任せてください』
『任せてください』
『任せてください』

中にいたポケモンが元気に一声鳴くと、

小屋の中はしんと静まり返った



程なくしてその小屋の周りは

殺気だった団員達に取り囲まれていた。

プテラが小屋の中に入っていったの見た団員たちは、

ロープを使ってヘリから次々と降りてきたのだった。

そして様々な武器やポケモンの入ったボールを手に、

着実に小屋を包囲していった。

プテラに付けられた発信機の信号もまだ小屋の中から出ている。

団員たちは中にいるはずであるプテラのトレーナーの

アオバに呼びかけてみたがその声に返事は全くなく、

窓もカーテン等で目隠しがされていて

中の様子も窺い知ることが出来ない。

団員たちは小屋を攻撃する事を決めると、

まず小屋にモンスターボールがいくつか投げ込まれた。

中でボールが開きラッタ達が飛び出すと、

小屋の中がガタガタと騒がしくなった。

それにより中にいる者がたまらずに出てくるのを団員たちは、

待ち構えたが一向に出てくる様子が無い、

程なくして中が静かになったので団員たちは小屋の中に突入した。

ドアが壊され小さな山小屋の中に

黒ずくめの団員たちがなだれ込んだ。

しかしそこに人の姿は見当たらなかった。

彼らが見たものは、

床に落ちている発信機と

ラッタ達にかじられてボロボロになった

白衣をまとった等身大の人形、

そして土の床にぽっかりと口を開いている

ポケモンが掘った小さな穴だけであった。



森の中の細い道を車が一台走っている。

窓には一面真っ黒なフィルムが張られている。

その車は山小屋から遠く離れた森の外れ、

高原への入り口まで来ると道の脇に止また。

そして運転席のドアが開くとそこから降りてきたのは

あのアーマルドであった。

そのアーマルドはしばらく辺りを見回した後、

車のすぐ横の一本の木に寄りかかるとその根元に開いた穴を見ながら

彼女はそれが到着するのを待った。

しばらくすると穴の中からザクザクと音が近づいてくると、

頭にモンスターボールを乗せたダグトリオひょっこりと顔を出した。

『アオバさ〜ん』
『着きましたよ』
『やりましたよ』

ダグトリオが目の前にいるアーマルドに呼びかけると

『よくやったわトーピー。

 ゆっくり休んでてね』

とアーマルドはにっこり笑って言うと、

車の中に置いてあったボールを両腕で挟むように持ち、

ツメの先でスイッチを押した。

ダグトリオは赤白い光となってボール中に吸い込まれ、

地面の上には彼らが持ってきたボールだけが残った。

『お帰りなさい。

 どうやら計画通り、
 
 上手くいたようですね』

アーマルドが紅白2色のボールを持ってそれに話かけると

『(計画通りじゃないわよ。

 何が“攻撃されないことは私が保証する”よ。
 
 しっかり発信機を打ってきたじゃない。
 
 しっぽにグサっと刺さったのよ。
 
 どうしてくれるのよ!)』

と中からさきほどの女幹部に負けず劣らず

不機嫌そうな声が聞こえてきた。

『そんなの攻撃された内に入りませんよ』

アーマルドは「やれやれ…」と心の中で呟きながらも

『それでは任務報告します。

 ターゲットは無事捕獲。
 
 後ろでスヤスヤお休みになっています』

とその声に対しアーマルドが作戦の結果を報告すると、

『(やったわねアオバさん。

 本当によくやったわ。
 
 こっちも大丈夫。
 
 途中で何度か穴を崩ながら着たから。
 
 これならヤツラも追っては来れないわよ)』

とボールの中のポケモンは一気に機嫌を直したようであった。

『ちなみにどうですかその中は?』

アーマルドはまだ自分は体験したことの無い、

ボールの中の事を聞いてみた。

『(そうね…、

 悪くはないわね。
 
 でも羽ばたいてもないのに
 
 プカプカ浮いてるのは変な感じね。
 
 せっかくポケモンになったのだから、
 
 次はボールについて研究するのも面白そうね)』

と中のポケモンはその世界を表現した。

それを聞いたアーマルドは

『それならもうしばらくその中で浮いたまま、

 中の研究をしていて下さい』

と言ってプテラの入ったボールを持ったまま

運転席に乗り込んだ。

『(え?

 ちょっとそんな事言わないで
 
 早く出して頂戴よ)』

と慌てて言うボールの中のプテラに対し、

『研究所に着いたらちゃんと出してあげますよ。

 タダでさえ狭いのですからこの車。
 
 それに今見つかったら計画が台無しですので、
 
 もうしばらくそこに居て下さい』

と言って助手席の上に置いた入れ物に

2個のボールを入れるとエンジンをスタートさせた。

『(それならもっと大きなのに

 乗ってくれば良かったじゃないの)』

『オートマチックの車はこれしか無かったのです。

 それにちゃんとスモークも張ってあるから調度良かったのですよ』

『だからもうちょっと待っててくださいね。
 
 着いたらちゃんと起こしてあげますから』

アーマルドに続き横に居た葉っぱのスカートを履いたポケモンも

ボールに向かって言った。

『(キレイハナまで…

 進化したら性格までずいぶん可愛くなちゃって…。
 
 分かったわ。
 
 帰ったら早速実験するつもりだし、
 
 それまで中でゆっくり休ませてもらうわ)』

再び高原の研究所に向けて走り出したその車の中では、

ポケモンの鳴き声が賑やかに響いていた。



つづく



この作品は都立会さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。