風祭文庫・モノノケ変身の館






「星降りの夜」



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-166





「星降りの大会、今年の優勝は貴方です!」

ここは異世界の国・タイジュ。

いま、定期的に行われている各国対抗モンスターマスターの大会

「星降りの大会」

で優勝者が決まったところであった。

「今年もなんとか優勝できたな。

 この調子であと2、300回連勝はしたいものだな」

「それ言いすぎ」

「こら、こんな時にツッコミをいれるな。

 まったく、日常会話もロクに出来ん」

「それ言いすぎ」

「お前もしかしてそれしか言えんのか?」

「それ言いすぎ」

「冗談だ」

「それきっぱり言いすぎ」

「なんか新しいバリエーションが増えたな…」

この漫才コンビの会話はとりあえず無視してタイジュの国の牧場では

たくさんの流れ星が空を飛んでいくのが見えた。



この「星降りの夜」に願い事をすれば願い事がかなうというので、

「どうか今年こそFクラスに上がれますように…」

どうしても次のランクに上がれない弱小モンスターマスター、

「どうか市場で毎日が特売日になりますように…」

家計のことを年中心配している主婦等、

様々な人たちが牧場に集まり願い事をしていた。

そして、その中にいた1人の少女・ルナは、

「どうか、

 今年こそナイト(今年のタイジュ代表マスター)様のような
 
 かっこいい男性と出会えますように…」

という願い事をしていた。



この願いが後にルナの運命を大きく変える事になった。



星降りの夜が終り、

「どうか今年こそFクラスに上がれますように…」と願った父と

「どうか市場で毎日が特売日になりますように…」と願った母に連れられ

ルナは家へと帰った。

自宅の玄関から見て左前方にある扉を開け、

自分の部屋に戻ったルナは深い眠りについた。

そして全員が寝静まったころ、

ルナの体は光に包まれタイジュの中に吸い込まれていった。



「えーっとルナ君だったね、

 君が次の精霊に選ばれたよ」

(君は誰?)

「僕はわたぼう。

 タイジュの精霊だよ」

(精霊?

 私が選ばれたってどういうこと?)

「話せば長くなるけど、

 元々タイジュやマルタの精霊は代替わりするんだ。

 そして次の精霊になるのはその国の選ばれた子供なんだよ。

 いつもは少年なんだけど今回は特別に君が選ばれたんだ」

(な、なんで?)

「さっきナイトと出会いたいって言ったろ?

 このままだと出会うのは100%絶対無理だから、

 次の精霊ってことなら簡単に会えるからね」

(星降りの夜の願い事ってわたぼうがかなえてたんだ。

 ってそうじゃなくって、

 ナイト様のようなかっこいい男性って言ったんだけど)

「そうだっけ?

 でも、ここまで来たら引き返せないよ」

(そんなぁ)

「まあ、

今回は責任とって僕も手伝ってあげるから」

(何を?)

「住民の願い事成就」

(でも、わたぼうって星降りの大会が終わるごとにどこかへ行って

 新しいタイジュを作るんじゃなかったっけ?)

「あのね、

 一体今まで何回星降りの大会があったと思ってんの?

 そのたびに新しい樹が出来たらそのうち世界は樹で埋まっちゃうよ。

 それはただの迷信。

 星降りの大会が終わったら、
 
 精霊は仕事を次の精霊に引き継いで
 
 その後は人間に戻ろうが
 
 精霊のままでいようが精霊の自由っわけ。

 僕の前任のわたぼうも人間に戻らず、

 テリーっいうマスターについってたし」

(でも私がいなくなったら両親が心配するんじゃ…)

「その件についてはまったく問題ない。

 ルナが精霊でいる間は人間のルナはいなかったことになっているから」

(そんな!

 まって、

 わたぼうは人間に戻らなくていいの?

 あなたがわたしを手伝うんなら

 あなたは人間にもどれないんじゃ…)

「戻りたくない」

(いや、

 それきっぱり言いすぎ。

 なんでまた)

「色々あって」

(最後の望みも絶たれたか…)

「じゃあ始めるよ」

(そんなーーーーっ)



星降りの祠。



その周囲ではワイワイガヤガヤと

新しい精霊が誕生する瞬間を待ちかまえている人々であふれかえっていた。

「なんか今回は新しい精霊が生まれるのが遅いな…」

「なんででしょうか」

そんな会話が聞こえる中。

突如、祭壇の上が光り輝き一つの卵が出現した。

「おおっ!

 やっと生まれたか」

待ちに待った卵に人々は惹かれるようにして集まると、

出現した卵は即座に割れ、

その中から水色の毛並みをした丸い生物が誕生した。

「ほぉー、

 ♀の精霊とは珍しいな」

「えっ!ここは!?」

「あのな、

 自分の守る国の施設ぐらい把握してから生まれてこい」

「いやっ、

 そんなこと言ったって私…」

(あっそうそう。

 言い忘れたけど精霊が元人間だってばれたら存在が消滅するから)

(早よ言え!

 もう少しでしゃべっちゃうとこだったじゃん!!
 
 って言うかわたぼうテレパシー使えたの!?
 
 今どこにいるわけ!?)

(姿を消しているんで他の人には見えないけど

 同じ精霊のルナには見えると思うよ)

(じゃあ何で見えないの?)

(多分真後ろにいるから)

(何故後ろ!?)

「おい、

 どーしたんじゃ?
 
 私がなんだって?」

「いや、

 いくらなんでも私、

 生まれたばかりで施設の把握なんて出来ないって言おうと」

(ちょっと苦しくない?)

(うるさい!!)

「今回はまた変なわたぼうじゃな」

(大きなお世話!)

「今日はナイトがさっさと異世界に行ってしまったのでな、

 紹介するのはまた今度じゃな。

 それじゃあ、

 新しいわたぼうも生まれたことだしわしも寝るとするか」

「あっ!

 ちょっと!」

ガチャッ。



「閉めないでよ。

 出られないじゃない」

「あのね、

 僕ら精霊なんだからタイジュの中を自由に移動できるの!」

「うわっ!

 いきなり普通に話しかけないでよ、

 びっくりするじゃない」

「これくらいでおどろかないでよ」

「で、自由に移動するってどうやって?」

「急に話題を戻したね。

 それはともかく、

 ここを通りたいって思えば通れるよ。

 やってみたら」

「えっ、

 こうかな」

戸惑いながらルナが手を壁につけてみると、

その手が壁を通り抜けた。

「ひゃー、

 凄い」

「後は水で泳ぐような物だから」

「なるほど」
 
そして、

外に出たルナが真っ先に向かったのは自分の家だった。



「こうなったら別れの挨拶ぐらいしとかないとね。

 えーっと、

 あった!
 
 あそこ!」

自宅を見つけたルナは扉を潜り抜け左前方の壁を見て驚いた。

「そんなっ!

 私の部屋が無い!!」

ルナの部屋の入り口があった壁にはドアが無かった。

後ろでやっと追いついたわたぼうが叫んだ。



「おーい、

 ルナ!
 
 その家は違う!!
 
 君の家はそこから一段上!!!」

普段下の段へ行ってなかったためか

見事に自分の家を間違えたルナは

慌ててその家を出るとすぐ上の家に飛び込んだ。



案の定、

ルナの部屋は無かった。

二回目ともなると慣れたのか

まったく気にせずルナは両親の寝室に行き

両親に別れの挨拶をすると家を出た。



「で、

 これからどこに行くの?」

「別に何処でもいいよ。

 体を見せようとしない限りは見えないから、

 見つからないし。

 僕は一足先に牧場に帰って寝るけど」

「あっそう、

 じゃあ私一通り回ってみるね。

(また間違えたらシャレになんないし)」

壁の中に入ろうとしたルナをわたぼうがいきなり呼び止めた。

「すっかり忘れてたけど、

 これ」

「何これ?」

「星降りの夜の願いリスト。

 今日から君がかなえることになるんだから

 出来る限りのことはしてね。

 やりかたはとりあえず自由だから。

 それじゃっ」

「あ、

 ちょっと!
 
 まったく軽く500人分はあるわよ。

 それにしても精霊ってワープも出来るんだ」

まったく関係ないことに感心しながら

ルナは新しい体に慣れるべく

早速真夜中の散歩へと踏み出したのであった。



おわり



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。