風祭文庫・モノノケ変身の館






「おさげ髪の吸血少女」
(第一夜:少女の髪)

作・編髪(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-245





「きゃあーっ!」

「いひひひひ」

どくどくっ!!

じゅるじゅるじゅーっ!!!………

「はっ、

 またやっちゃった…」

結男は連夜のごとく夢精をしていた。

そして、夢精をするときは決まって同じクラスにいるいちばん髪の毛を長くしている、

藤原悦子(ふじわら・えつこ)が夢に出て、

彼女がよくやっているツインテールの髪の毛を

結男は左右の手で背中からわしづかみにしているのである。

そんな夢を見続けるうち、

結男は悦子の腰まで届いている長い髪の毛に興奮するようになっていた。

しかし、結男は悦子とはほとんど…

というより全くといっていいほど話をしたことがなかった。



さて、結男のクラスには悦子の次にもうひとり

髪の毛を長くしている少女・宮野昌子(みやの・まさこ)がいる。

昌子はいつも首の後ろに髪の毛をひとつに束ねていた。

しかし、ある日のこと、

昌子はその髪の毛を三つ編みのおさげ髪にして、

胸のあたりに垂らして登校してきたのであった。

「うっ」

それを見た結男は思わず股間か硬くなってしまうと、

慌ててトイレに駆け込むが、

だが、彼のパンツの中は生暖かい粘液で濡れてしまっていたのであった。

「あちゃぁ!」

あまりにも素直な股間の反応に結男は思わず目を覆うが、

かといってそのままにはしては置けず、

周囲を気にしながら手早く処置を済ますと何食わぬ顔で授業を受けるが、

そんな帰り道、

結男はヘアバンドをして後ろに髪をおろしていた女子大生とすれちがったのであった。

「ぴんっ!」

その直後、

結男は思わず振り返り、

女子大生の髪が腰まであるのをしっかりと確認する。

と同時に彼女の長い髪を見つめながら”ぼおー”っとしてしまうのであった。

結男のこの奇妙な性癖は日に日に症状が進み、

ついには幼稚園児の女の子であっても、

一束にしていた髪の毛がやはりお尻の近くまであることが

判るや否や彼の股間はしっかりと勃起してしまったのであった。

かといって対象が低年齢化しているわけではない。

毛先がお尻まで届いている女子高生の清楚な二本の三つ編みをでも

結男の股間はしっかりと反応をしているので、

結男は大人子供にかかわらず長い髪の毛の女を見ると興奮しているのであった。



「どうして…

 なんで…」

日頃、女の子に全く縁もない結男だったが、

最近顕著になってきた髪への異常な執着と性的興奮に悩んでいた。

とはいってもそうした長い髪の女の子と仲良くしたい。

付き合いたい。という気持ちはからっきし無いのである。

どちらかといえば、

自分も女の子のような髪の毛になってみたいと思っていたのであった。

つまり男の子でありながら、

女の子のように髪を長くしておさげや三つ編みなどがしてみたいと思っているのである。

結男はそんな女性的ともいえる性格の持ち主だったのである。

しかし決して女の子として生まれたい。とも思ってはいなかった。

だが、そんな結男の日々を陰で追いかけている者の姿があった。

『ふふふふ。

 まず、あの男の子を餌食にしてやるわ。

 そうしてこの男の子が通っている学校の子供たちの血も

 みんなわたしのものにしてやるよ』

真っ白な着物を纏い、

白い覆面で顔を隠した得体の知れない女がこっそり結男のあとをつけていた。

そして、

パタタタ…

着物女の姿が塀の影に一瞬消えた後、

一匹のコウモリが空高く舞い上がったのであった。

どうやら子供を狙う恐ろしい女妖怪のようである。



その夜。

結男が寝静まったのを見計らい、

家事を終えた彼の母親は入浴するため服を脱いでお風呂場のドアを開けた途端。

お風呂場にはどこからか忍び込んでいたのか、

コウモリが一匹、天井に張り付いていたのであった。

「え?

 なに?

 コウモリ?」

コウモリの姿を見つけるや否や結男の母親は驚きのあまり口を塞いでみせる。

すると、

『やぁ、奥さん。

 私の名前はキバット3世。

 決して”妖しい”ものではありません。

 奥さんの血を少し吸わせてくれれば、

 とっても素敵なことが起こりますよ』

とコウモリは馴れ馴れしく母親に話しかける。

すると、

「ドロボウさんですか?」

と母親はコウモリに向かって問い尋ねたのであった。

そして、

『そうです。

 ドロボウです』

とその問いにコウモリは返事をしてしまうと、

「まぁ、 

 伯爵に見つかったら殺されるというのに…」

『狙い狙われるのがドロボウの本性…

 ってなにを言わせるんですかっ!!』

脱線して行く会話に気付いたコウモリは怒鳴り声を上げるが、

「あら、

 わたしの話にしっかりと付いてくるあなたもなかなかですわ、

 ナントカ3世なんてそっちから言うから」

と母親は笑ってみせる。

『あぁっもぅ、

 これだから最近の奴はやりにくいんだよ。

 素直に怯えてくれれば仕事がやりやすいのに』

自分の思い描いた通りの筋書き通りに行かなかったことにコウモリは腹を立て、

『えぇいっ

 仕方が無いっ

 こうなったら実力行使あるのみ!!』

次第にしわがれた女性の声へと声色を響かせながら、

コウモリは結男の母親を目がけて襲いかかったのである。

「きゃあーっ!」

母親の悲鳴が風呂場に響き渡り、

ガブッ!

『変身っ!』

追ってコウモリの声が響く。

程なくして眠っている結男の部屋に母親が入って来るなり

ベッドの上に寝ている結男の頭に手をかけて頭の上を何度もなで回しはじめる。

『うふふふ、

 おまえの願っていたこと、

 叶えてあげるわよ』

と母親は呟いてみせる。

そうお風呂場で襲われた母親には恐ろしいあの妖怪が乗り移っているのであった。

その一方で結男はまたもその日におさげの姿で登校していた宮野昌子の夢を見ていた。

夢の中で昌子の三つ編みに結った髪をわしづかみにしてしまった結男は

慌てて飛び起きるが

既に彼の股間は夢精をした後であった。

「ああ、また…、

 ううっ」

絶望感を感じつつ結男は身体を起こすが、

だが、それと同時に自分の頭が重く感じられた。

「?」

それを不思議に思いながら起き上がると、

肩の上にばさっとなにかが落ちてきた。

「え?

 なに?」

恐る恐る落ちてきたもの握ってみると、

同時に自分の頭がひっぱられているように感じた。

「なんだろう。

 とにかく洗面所へ行って下着を替えよう」

そう言いながら結男は立ち上がり廊下を歩くが、

常に自分の身体になにかがひっついてかかっているように感じた。

歩きながらそれを引っ張ってみると、

なんとそれは黒い毛束であった。

「なんか、髪の毛みたいな…

 ってまさか…」

自分の頭から伸びている髪に結男は驚き、

そして、実際に鏡で自分の姿を見ると、

まさしく自分の髪の毛が背中を覆うほど長く伸びていたのであった。

「ああっ!」

前髪もモナリザのように伸び、

背中の髪は自分のお尻まで届いている。

「こんな、いつのまに女の子みたいな長い髪の毛に…

 はっ」

自分の背後に人の気配を感じた結男は慌てて振り返ると、

彼の背後に母親が立っていたのであった。

そして、

『おほほほ。

 結男、こんな夜中にどうしたのかしら』

と洗面所に立つ結男を問いただすと、

「ママ、ぼくの髪の毛がこんなに…」

と結男はすっかり伸びてしまった自分の髪を握って見せた。

だが、母親は結男のその姿に驚いている様子もなく普通に笑っていたのであった。

「ママ…」

笑みを浮かべる母親の姿に結男は寒気を感じるものの、

また夢精をやってしまい、

下半身やパジャマ、下着も汚しているところも隠さずにいられなかった。

『結男、

 その鏡の前にすわりなさい』

「えっ?

 うん」

結男は仕方なく打ち明けた話に驚きもしない母親の姿を不審に思ったが、

しかし言われたとおりにして見せると、

母親は女もののヘアブラシを取り出して、

結男の髪の毛を梳きはじめたのであった。

自分の長い髪が梳かされる様子を鏡で見ながら、

結男は次第にぼおーっとなってくる。

そして、髪の毛を長くしている女の子を羨ましがっていたこと、

今度は女の子たちに羨ましがられる様になるのだと思っていると、

『ほら、こんなにきれいになったでしょ』

と言う母親の言葉と共に、

左右の前髪を身体の前に垂らされ、

残りの髪を背中に流している自分の姿が鏡に映し出される。

「うっうん」

そう返事をしながら結男はよりうっとりと自分を見ていると、

『ふふふふ、

 そしたら、今度はこれを結えてみない?』

と言いながら母親のさしだしたのは、

ピンク色のリボンがついたヘアゴムだった。

髪を左右に振り分け、

いわゆるツインテールの髪形にまとめようというのであった。

「うん」

母親の問いかけに結男は喜んで答えると、

耳元より少し下の位置で髪が纏められ、

その纏めた髪にリボンが結えられたのであった。

こうして結男は少女らしいツインテールの姿になると、

また自分の姿を鏡で見て喜ぶのであった。

『じゃぁこの髪の毛を編んであげようか』

「もしかして、三つ編みに?」

『そうよ。

 うふふふ』

夢に出ていた昌子よりも長い髪の毛になったと思いつつ、

今度は自分があこがれの三つ編みの姿になれると思うと結男はより興奮し、

そして母親の手を見ると、

その両方の手首には毛先を結ぼうとするチョウチョ結びの黒いヘアゴムが巻かれていた。

また自分の髪の毛がていねいに三つ編みに編まれていくのを見て、

結男またぼおーっとなる。

片方の髪の毛が編まれて行くとその毛先に黒いヘアゴムが結ばれ、

結男の身体の前に垂れかけられた。

結男はその毛先を手にとって見つめ続けるのだった。

そして母親の手がもう片方の髪を編んでいるその時だった。

『うふふふ』

母親はますます不気味な笑いを浮かべると、

口の中に恐ろしい牙が出てきている。

しかし、そのことに結男はまだ気づいていない。

母親の恐ろしい正体は…

そして結男はこの後恐ろしい目にあうことが…



つづく



この作品は編髪さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。