風祭文庫・モノノケ変身の館






「節分鬼ごっこ」


作・音色(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-277





「鬼わぁ〜そとぉ」

「福わぁ〜うちぃ」

春の足音が聞こえ始める立春を翌日に控えたその日。

世に言う”節分”と言う名のイベントが執り行われていた。

そしてその節分のクライマックスといったらもちろん豆まきである。

パララララ

パララララ

声を張り上げ桝に入れられた煎り豆を撒き闇に掬う鬼を払うこの行事。

人間にとっては鬼を追い出し福を招くという退魔招福の儀式ではあるが、

しかし、鬼にとっては折角得た安住の地より追い出されてしまうという残酷な儀式でもある。

それ故、追い出され行く場を失った鬼達が街中路頭に迷うが、

だが、毎年恒例と言うこともあってか然したる混乱も無く、

サササ

サササ

小さな光の点となった鬼達は三々五々落ち合うと、

この行事が終わるまで身を隠しているのであった。

ふわり…

ふわりふわり…

さて、そんな中、

ピンク色をした小さな光点が街中をふわついていると、

『っ!!

 そんなところで何をしているのっ』

と光点に向かって呼びかける声が響く。

『あっ!

 っちゃん。おっはよー』

それに気づいたピンク色の光点は暢気に返事をして、

街路灯が作る影へと向かっていくと、

ガバッ!

いきなり影から赤、黄、緑、青、紫の光点が飛び出してくるなり、

ピンク色の光点を影の中へと引きずり込み

『もぅ、ふわふわふわふわ

 暢気に飛んでないのっ、

 あなたリーダーでしょう?(紫)』

『節分なんですよ、一大事なんですよ(黄)』

『こういう時は緊張感を持ったほうがよろしいんじゃなくて?(青)』

『呆れてものが言えない(赤)』

『あのぅ、羊羹食べます?(緑)』

『いやぁ、ごめんごめん(桃)』

などと会話が交わされた後、

『ひそひそひそ』

『ひそひそひそ』

となにやらヒソヒソ話を始めだした。

そして、

ウンウン

ようやく話が纏まったのか一斉に頷いた後、

『よーしっ、

 けってーいっ!(桃)』

の声を上げた途端、

ドガッ

バギッ!

『ばかっ(赤)』

『いきなりなんて声を上げるのよっ(紫)』

『人間に見つかったらどーするんですかっ(黄)』

『もぅそそっかしいんだから(青)』

『あらあら(緑)』

などど光点の間で小さな騒ぎが起こるが、

しかし、豆まきに夢中になっている人間にはほんの一瞬の出来事でしかなかった。



「空気が騒ぐ…」

さて、街を見下ろす高台に木立に囲まれた社がある。

創建から1000年を越すとも言われ、

社の祭神は某学問の神である。

え?

学問の神と年代が合わないとな?

まぁ、細かいことは気にしてはいけない。

もしそれでも気になるというのなら、

この”某”変身ベルトを貸し出すから全てを破壊し、全てを繋ぎ直して来てもらうか、

それともこちらの定期で”某”時の列車に乗車して時間の流れを修正するかして欲しい。

さて、話が横道に逸れてしまったが、

その夜、社の敷地内にある鬼封じの祠は静かな佇まいを見せていた。

だが、この社を守る巫女は街から立ち上る鬼の気配を既に感じ取っていた。

「一騒ぎ起こるかのう…」

街中から立ち上る鬼気を感じ取りつつ巫女は

キュッ!

と装束の帯を締め直し、

「どれ、

 境内の”ぱとろーる”でもしてくるか」

そう言いつつサワサワと揺れ動く払い串を片手に表へと出て行こうとするが、

その直後、

スリスリ

一人の男子高校生が彼女の背中に擦り寄るしぐさをして見せたのであった。

「もろこしぃ〜」

体中の毛を逆立たせて巫女は声を震わせると、

「このぉ〜、

 鬼わぁ外じゃぁぁ!!!」

の怒鳴り声と共に巫女は男子高校生の襟首を捕まえるなり、

窓を開け放つと夜空に向かって勢い良く打ち上げる。

その後、

「まったくっ、

 えぇいっ

 今日はもぅ仕舞じゃ」

すっかり気分を削がれてしまったことに苛立ちながら、

巫女が部屋の窓を閉めてみせると、

ふわり

無数の光点が湧き上がり、

境内に鎮座する鬼封じの祠へと消えていく。



さて、場所は変わって街の中。

「姉さん、

 あちらこちらで豆まきが始まっていますね」

制服姿の少年が落ち着いた表情で横を歩く姉に向かって話しかける。

そして、

「節分かぁ…

 もうすぐ春ねぇ」

話しかけられた姉は感慨深げに周囲を見回してみせながら角を曲がると、

ぬぉぉっ!

なんと二人の前に大きな闇が姿を見せたのであった。

「うわっ

 なにこれぇ!」

街路灯の明かりも飲み込んでしまう闇の大きさと奥深さに怯えてか

弟は思わず尻込みをしてしまうと、

「困ったわ…

 ここを通り抜けないとならないし」

立ちはだかる闇を眺めながら姉は考える素振りを見せる。

すると、

「えぇいっ、

 仕方が無いっ

 走って通り抜けるわよ」

そう言うなり弟の手を引き姉は走り出したのであった。



『ちょっとぉ、

 人間がこっちに来るわよ(赤)』

『えぇっ、

 もぅ、そんなことを急に言われても(紫)』

『あらあら、ちょっと闇の大きさが大きすぎたかしら(緑)』

『どっどうします(黄)』

闇に向かって走ってくる姉弟の姿を見て

闇の中の鬼達はたちまち混乱に陥ってしまうが、

『仕方が無いわ、

 みんな、いくよっ(桃)』

リーダーのその一言で、

『いえすっ!(赤黄緑青)』

皆の気持ちは一つとなり、

闇の中に蠢いていた光点は紫色の光点へと集まっていく、

そして、

『ちょっと、あたしを土台にするのはやめてぇ(紫)』

と言う声が響き渡るのと同時に、

シュワァァァ

姉と弟が向かっていた闇より突如煙が立ち上ると、

「姉さんっ!」

濛々と煙を噴き上げる闇を指差し弟は声を上げた。

「危ないっ!」

弟を庇いつつ姉は走るのをやめるが、

しかし闇は見る見るその姿を変えていくと、

『コーホ

 コーホ

 ナケワメーケ!!』

の声と共に巨大な鬼となって立ちはだかったのであった。



「うわぁ!

 おっ鬼っ」

「こんなこと聞いたことが無いわ」

目の前に立ちはだかる鬼を見て姉と弟は慌てて物陰に隠れると、

『ナケワメーケ!!』

二人を見失った鬼はそう声を上げながら、

ガコンッ!

金棒を手にし、

ブンッ

ブンッ

と振り回しはじめる。

すると、

ドカンッ!

グシャァン!

音を立てて街が壊されはじめたのであった。



「うわぁぁぁ〜っ」

「本物の鬼が出たぁ!」

「助けてくれぇ」

暴れる鬼によってたちまち街は大混乱に陥り、

何処かに置かれているFUKOタンクが頼みもしないのに満たされていく。

『ナケワメーケ!』

ドカンッ

『ナケワメーケ!』

ボゴンッ

暴れる鬼によって街が壊されていく様子を見た姉弟は互いに抱き合って震え上がるが、

「そっそこの…お二人さん…」

鬼に投げ飛ばされたのか、

一人の翁が這い蹲りながら姉弟に近づいてくると、

「こっこれで…あの鬼を退治してくれぇ」

と一杯に煎り豆が入った枡を2つを差し出し事切れる。

「おっおじいさんっ」

「安心して成仏して、

 あなたのカタキはあたし達が取るわ」

戦力外となった翁を放り出し、姉弟は枡を受け取ると互いに頷き

ギュッ!

枡に入っている豆を握り締める。

そして、

「おにわぁそとぉ!」

の声と共に鬼に向かって豆を投げつけたのであった。

その途端、

『なっなっナケワメーケぇぇぇ』

豆の効果が現れたのか、

見る見る鬼が弱っていくと、

ズシンッ!

鬼の手から金棒が落ち、

さらに、

ズシンッ!

鬼の膝が地面に着いてしまった。

「やったぁ!」

まさに人類の勝利である。

「おにわぁそとぉ」

「おにわぁそとぉ」

塩を撒かれたナメクジのごとく弱っていく鬼に向かって姉弟は容赦なく豆を投げ続けるが、

しかし物事には限度と言うものがある。

スカッ!

なんと悲しいことにたった一杯の枡では豆の貯蔵量は限られていて、

「あれ?

 ねっ姉さん。

 豆がない」

空っぽになってしまった枡を逆さにして弟は悲鳴を上げると、

「こっちもよっ!」

同じく空っぽの枡を振りながら姉も悲鳴を上げた。

「どっどうするの!?

 豆はもう無いわよ!?」

「そういわれても」

鬼に対抗できうる唯一の武器を失った姉弟は困惑すると、

『ナケワメーケ!!』

これ以上の攻撃は無いと判断した鬼は渾身の力を込めて起き上がり、

ガコンッ

落とした金棒を拾い上げる。

「どっどっどうするのよっ」

「おっ落ち着いて姉さん」

大きく振りかぶった鬼を見上げながら姉と弟は抱き合ったとき、

「いや、豆はある!!!!」

何か思いついたのか弟はそう言うと

すばやく姉のスカートの中の股間に手を突っ込み、

グイッ!

っと何かをねじ切ってみせたのであった。

その途端、

「きゃああああああ!!!!」

姉は悲鳴を上げ、

股間を押さえながらその場に突っ伏してしまうが、

「ごめんね、姉さん。

 これが僕達…

 ううん、人類の最後の切り札なんだ」

手の中に一粒の豆(姉のクリトリス)が握りしめつつ弟はそう呟くと、

「ぐぅぅ…ちょっ、ちょっと、

 それをどうするつもりなの!?」

姉は苦しそうな顔を挙げ弟に問いかける。

だが、

クッ!

弟はその問いには答えずに

「これでえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

  終わりだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

と叫びながら、

ザッ!

弟は天空に向かって180℃の大開脚をしてみせると、

「喰らえっ、

 大リーグボール4号!!!」

の声と共にその豆を鬼に投げつけた。

その途端、

シュルルルン

弟の手から離れた姉の豆は一瞬揺らぐと、

たちまち、1個は2個に2個が4個と言う具合に倍々ゲームで増殖し、

バットのごとく金棒を構える鬼に襲い掛かる。

『Oh!ミラクルボール!!

 ミラクルボール!!

 ミラクルボール(ミルぅぅぅぅ)!!』

津波のごとく襲い掛かる豆に鬼は幾度も金棒をふるが、

だが、津波のごとく押し寄せる豆はあくまでも幻、

ドスッ!

本物の豆が鋭い起動を描きながら鬼の下腹部に命中すると、

カカッ!

辺りに閃光が走り、

『ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』

絶対無敵だった鬼は絶叫を上げながら崩れはじめたのであった。

そして、

ピョンッ!

スタタタタタタタタ…

崩壊する鬼の身体より6つの光点が飛び出していくと、

駆け足で闇の中へと消えていく。

「ふぅ…勝った」

勝利をかみ締めながら弟は額に浮かぶ汗をぬぐって見せると、

ポテッ!

鬼がいた後にはなんと男性器の様になってしまった姉の豆が転がり落ちていたのであった。

「うわっ、

 どうしよう姉さん。

 姉さんの豆、

 鬼の力を吸い込んでオチンチンみたいになっちゃったよ」

そう言いながら弟は豆を拾い上げると、

「ちょっ、ちょっと!

 何なのよこれっ!」

姉は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして見せる。

すっかり大きくなってしまったクリトリス。

口元を押さえながら姉は変わり果ててしまった自分の豆を眺めていると、

「えっとぉ、これ返す」

と言いながら、

弟は強引に姉の股間にそれを押し込んでみせた。

「いっ

 ちょっ、ちょっとっ!」

突然の事に困惑する姉だが、

直ぐに体に異変が現れると、

「ぐげげげげげ」

悲鳴を上げながら

ベキベキッ!

姉はポニーテールの髪の中より2本の角が生やし、

ムクムクムク!!!

さっきの鬼よりは小さいものの

成人男性の1.5倍くらいの大きさに身体を膨らませていく。

そして、その変化についていけない服が裂けていくと、

赤くなっていく肌が露となり、

さらに口には牙も生えていくと、

姉は面影を残しつつ立派な赤鬼になってしまったのであった。

「うわっ、

 あっ赤鬼さんだぁ…

 えっえっとぉ、

 ぼっ僕、しっし〜らないっ」

赤鬼と化した姉を見上げながら弟は無責任なことを言うと、

さっさと逃げ出して行く。

そして、

「うっうっそぉ!!

 って何なのよこれぇぇぇ!!」

中途半端に面影を残している鬼は近くにある交通安全の鏡を眺めながらそう呟くが、

ビクンッ!

直ぐに雄鬼としての本能が抑えられなくなってしまうと、

こみ上げてくる性欲が抑えられなくなっていく。

そして、

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 くはぁ」

初めはいきり立つ股間を自分で扱いていたが

しかし我慢できなくなってしまうと誰か人間を捜し始めたのであった。

ちょうどその時、

ワンワン!

「だめよっ、

 ラッキーっそっちに行っては」

犬の鳴き声と共に姉の友人である少女が犬に引っ張られて姿を見せると、

「え?

 きゃぁぁぁぁ!!」

少女は鬼を見つけるや驚いて腰を抜かしてしまったのであった。

「はぁはぁはぁ」

たとえ友人であっても雌としか見ることが出来なくなっている赤尾には

己の性欲に突き動かされるようにして少女に襲い掛かり、

無理やり服を引きちぎってしまうと後ろから犯し始める。

「いやぁぁぁ」

「いやぁぁぁ」

犯されながら悲鳴を上げる少女の顔は恐怖で真っ青になっていく。

そして、感覚と突くだびに快感で鬼の力が抜けていくのか

いきり立つ男性器は豆(少女のクリトリス)に当たるたびに力が抜けていき、

それと同時に鬼の体は小さくなっていくと姉は元へと戻りはじめたのであった。

しかしそれに反比例するように姉に突かれていた少女の体は突かれるほど大きくなっていき、

頭に角が生えると、

口に牙が生え、

肌の色は青くなると立派な男性器を生やしていく。

そしてひとしきりの変身とセックスが終わったとき、

そこには青鬼と裸の姉が立っていて、

「はぁ、はぁ、次はあなたが鬼ね…」

と言いながら鬼と化した少女の肩を叩いて見せたのであった。

その直後、

『ナケワメーケ!!』

新しい鬼の雄たけびが響るが、

「えーと、

 次に鬼になるのは…」

青鬼の横で姉はケータイを取り出し、

残る友人の一人に電話をかける。

「ねぇ、

 節分の豆まきやらない?

 とっても楽しいわよ」



おわり



この作品は音色さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。