風祭文庫・モノノケ変身の館






「淫魔」


作・(・∀・)(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-188





…ここは通称ゲフェニアと呼ばれる遺跡。

いわゆる強豪モンスターの巣窟。というところである。



富と名声を求めて

この遺跡に足を踏み入れる冒険者は多々あるが、

だが、中途半端な強さだと大概返り討ちにあい、

武器を捨て逃げ出していくのが常であった。

…とはいえ人が来なければ概ね平和である。



「あ〜暇じゃ暇じゃ、

 冒険者の殆どがここを恐れて誰も来ん」

黒く小さな体の小悪魔。

デビルチがあくびをしながらつぶやくと、

「ミニデモ兄(にぃ)も退屈しとるしのぅ

 …何かやることほしいわ」

そう言いながら岩にもたれる。

そんなデビルチの元に、

淫魔のサキュバスがやって来た。

「でびるちちぁぁん♪

 なんだか暇そうねぇ♪」

とても軽いノリで話しかける。

「んぁ?

 サキュバスか、

 わし、めっちゃ暇なんじゃ。

 冒険者も来んしやることないしでのぅ」

愚痴を言うかのように喋りはじめると、

「じつわねぇ〜

 あなたに頼みたいこと・あ・る・の・♪」

デビルチの顔にアップで近づいて言う。

「どわぁっ!!?

 び、びびっちまうじゃないか!!!」

サキュバスはとても可愛く、

普通の男なら一発で骨抜きにされてしまうぐらいだ。

無論このデビルチも♂。

でも恋愛関係0であるが

「あのね、

 あたしたちのような淫魔の生まれ方知ってる?」

サキュバスが問題を投げかけるような言い方でデビルチに言う。

「ん?

 たしかおめえらは人の女に自分達の遺伝子を与えて

 産ませるんじゃなかったか?」

デビルチが一般的な繁殖方法を答えると、

「それもあるけどねぇ♪

 人をあたし達と同じように淫魔に変えて繁殖させるという

 秘術的な方法もあるのよ♪

 この薬を使えば人間は一瞬で淫魔になっちゃう♪」

とサキュバスは青色とピンク色の薬の入ったビンを

1本ずつ用意してみせた。



「…それってめっちゃ強引じゃないか?」

ビンを見ながらデビルチが汗を流しながら言うと、

「人間の記憶とかも消えちゃうしね〜♪」

サキュバスは軽いノリで答える。

「…;で、わしに頼みたいってなんじゃ?」

「この薬ねえ♪

 1年に1回は使うのよ♪

 で、デビルチちゃんはペットになれるから

 街の中にペットとして入って

 男女2人に飲ませてほしいの♪

 淫魔繁殖時期だからね♪」

さっきよりやたらノリが軽くなってきている。

「ようするに人を2人、

 淫魔にかえてこいと?」

「うん」

そうチビルチが尋ねると

あっけなく返事を返された。

「…まあいいじゃろ、

 わしも暇だったしのぅ」

2本の淫魔に変える薬をさっと取る。

「ひきうけてくれるのね♪

 帰ってきたらおいしいところを…」

「それお前ら専用食事だろ;

 それにその言葉をだすな;

 危ない内容になっちまうじゃねえか;」

サキュバスの台詞にデビルチが汗を再び流しながら言うと、

「なんで?

 インキュ君とあたしたち以外食べないのよ〜

 おいしいのよ?」

サキュバスが指をくわえながら言う。

「…とりあえずわしは行ってくるぞ;

 (これ以上つきあってたらおかしくなりそうだしな)」

ペットと偽るため、

チビルチは”おしゃぶり”をくわえてテレポートをした。

「うーん、

 …なんか、忘れちゃってるような

 でも…気のせいねw」

能天気なサキュバスであった。



〜ルーンミッドガッツの首都プロンテラ〜

人気ないところにデビルチはテレポートしてくる。

「おしゃぶりくわえてるから、

 無闇に叩かれる心配ないと思うが…

 仕事はさっさと終わらせてズラかるとしよう」

青色とピンク色の薬の入ったビンをそれぞれ背中に背負い

チビルチは人を探し始めだした。



がやがや…

ざわざわ…

この街の中央にある繁華街は

方々の村々からの品物であふれ、

大勢の人でごった返していた。

「うへぇ…なんじゃこの人間の多さは」

そんな人だかりの中、

デビルチが少し唖然とした顔で見回して言うと、

「あ〜デビルチだっ、かわいい♪」

彼を見つけた小さい女の子がよって来ると

しゃがみこみながらデビルチをみつめる。

(…わしってかわいいのか?

 …というか見つめられたら、少しも動けん;)

「あ、ほんとだ。

 デビルチだ〜」

「おしゃぶりくわえてるから誰かのペットかな?」

「なんだかビン背負ってるけどかわいい♪」

立ち往生をしているデビルチにぞろぞろと人が集まってくる。

(お、おい!?

 わしらってこんな人気あるもんなのか!!?;

 わしをみつけた途端、

 急にギャラリーができてきたぞ!!?;)

少し動揺してあせりはじめるが、

何せこいつ照れ屋なんです(・∀・)

「デビルチいいなぁ〜」

「テイミングアイテム手に入れるの大変なんだよなあ」

「誰かのじゃなきゃつれてかえるのに〜」

ギャラリーはわいわいとデビルチの件で喋り捲っている。

(ま;

 まずい;

 こんなんじゃこの薬のませれねえ;

 どうにかにげねえと;)

退路を求めてデビルチは少し後ずさりをすると、

(よし、あの隙間から…)

と逃げようとするが、

「あ、にげちゃだめ〜

 まだスクリーンショットとってないんだから〜」

最初の発見した女の子がデビルチを追おうと走り始めた。

「私もスクリーンショットとらせて〜」

「もう10枚くらいとっちまえw」

チビルチと女の子を追ってギャラリーも走り始めると、

「く、くるなああああああああああああああああああ!!!!!!!」

デビルチは必死に逃げ始めた。

しかし、それだけでは止まるはずもなく、

女の子とギャラリーはさらに後を追う。

(なんじゃあ!!?

 ほんっとにこんな人気あるのか!!?

 わしら!?;;;

 噂以上に人気あんじゃねえかあ!!!;;;)

チビルチも顔が必死である。

(…迂闊にテレポートしようとして

 ランドプロテクターされたらこまるしな……

 (ぴーん)そうだ、この手があったな)

チビルチは何かに気がつくと、

フッ!

その姿を消した。

「どこいったんだろ〜」

先ほどの女の子とギャラリーは足を止めてデビルチを探すが、

既にギャラリーの数は200人くらいになっていた。

「ワシ、デビルチ、ヨロシクノ」

少し遠くにデビルチがいたが、

なんだかさっきのと少し違う気がする

「あっ発見♪」

女の子がまた見つけ、

ギャラリーは女の子がみつけると同時に反応して

女の子の見ている方向に向いた。

「おいかけまーす♪」

女の子はもうリーダーのごとく

ギャラリーと一緒にデビルチを再び追いかけると、

「ニゲロニゲロ」

デビルチは再び逃げ始めた。

「ふぅ〜なんとか逃げ切れた」

彼女達が消えた後、空中からデビルチがおりてくると、

「うえっへっへっへ、

 わし手製「デビルチBOT・発言タイプ」の効果は抜群だな」

とにやけた。

そう、さっきのは偽者。

BOTというのは機械人形の意味である。

「さぁて…

 誰に飲ませっかな…」

そう呟きながらチビルチは背中のビンを確認するが

だが2本共なくなっていた。

「…げ!!!

 さっき逃げてる最中に落としちまったのか!!?」

落としてしまったことに気がついて、

デビルチは慌てふためくが、

既に後の祭りであった。

「まじぃ…

 あいつらって怒らせると

 とんでもねえことになんだよな;;;」



〜〜〜〜以前の出来事〜〜〜〜

「ほぉら

 ここっすごくこってる♪」

「いつみてもイイ体つきだぜ♪」

「や、やめれ!!

 俺が悪かったぁぁぁ!!!」

サキュバスとインキュバスが

鎧だけの体のモンスターレイドリックを

何やらいじりまわしてる。

レイドリックは逃げるようにもがいてるが

2人の力にかなわず逃げられない。

しかも、後ろには同じ淫魔の群れが

いじりたいといわんばかりに待機していた。

「…;ミニデモ兄、わしらには被害こねえよな…?」

このときもデビルチはこの淫魔のお楽しみタイムを見ていた。

見ている最中に

となりの黄土色をしたデビルチ、ミニデモに話しかける。

「…;仕事頼まれたらきっちりこなさねえとな;」

デビルチと同じように汗を流して言う。

なお回りのモンスターたちも惨劇、

淫魔たちにとっては宴を見て汗を流している。

「にしてもレイドの奴も悲惨だな;

 やりたい放題やられてるぞ;」

ミニデモがデビルチにひそっと話しかける。

「各種ハーブとってきてって言ったのを

 道中遊んでさぼってたというのもあれだがな;」

デビルチはレイドが失敗したことをこそっとミニデモに言う。

「で、現状がこうと…;」

ミニデモは再び視線を中央に向けると

まだまだ淫魔たちがレイドリックをいじくりまわしている。




「…わしバージョンなことになりかねん;;

 なんとしても薬みつけねえと;」

前にみた淫魔たちの宴のことを思い出すと、

デビルチは大慌てで探し始めた。



〜ある裏通り〜

「ぜぇぜぇ…くそ…」

何やら20歳くらいのならず者とも呼ばれる

ローグが息を切らして人目のつかない場所にいた。

「ちっ…どこいったんだあの盗人め!!」

「見つけたらただじゃおかねえ…」

ペコペコという鳥に乗ったナイトや

いかにも危なそうな武器を構えるアサシンが

彼を追い掛け回しているようだ。

しかし、隠れたところが良かったのか、

「野郎」

「どこに消えた?」

そう言いながら2人はそのままどこかに行ってしまった。

「…ふぅ…

 なんとか撒いたか…

 だがもう逃げ切れんな…」

よくみると足に切り傷がある。

どうやら逃げてる最中にダメージを受けたらしい。

しかも、出血部分は化膿し始めている。

「くそ…

 せっかくいいカードとかを盗めたってのにここまでか…」

ローグはふらふらと歩き出す。

体力も限界、まさにピンチという状況である。

そんな時、

「…ん…?」

ローグが行こうとしている先に、

ピンク色の薬の入ったビンが転がっていたのであった。

「…赤ポーションでも

 紅ポーションでもなさそうだな…

 まあいい、助かった…」

まさに地獄に仏、

この幸運ももたらしてくれた神に感謝するかのように

パンパンと拍手を打ち、

ビンに向かってローグは歩いていくと、

落ちていたビンを拾い上げ、

グビッっと飲み始めた。

「んぐっ…

 んぐっ…

 ぷはぁ…

 むー、あんまり味はよくないな…

 素材の味がバラバラだ、

 しかも、出汁が効きすぎている上に

 煮込みも足りない。

 誰だ、これを作ったのは!」

すべて飲み干しながらも、

その味についてローグは美食倶楽部を率いる著名な陶芸家の表情で

味について文句を垂れていると、

ピクッ!

そんなローグの体に異変が起き始めた。

「なに?」

フワッ…

薄く赤い光に包まれ始めた体を見ながらローグは呆然としていると、

カタン!

コロコロコロ…

手から離れたビンが地面に落ち、

転がっていく、

「な…なんだ…!?

 何が起きたんだ?」

いままで出会ったこともない事態に、

ローグは困惑していると、

シュルリ…

彼の髪の色が黒から白い色になっていき、

さらに長さが伸びていく。

そして、身に着けている鎧や服が

胸の方に集中するように変化していき、

ピンクのブラを思わせる物になっていくと、

残っていた服が

袖が黒く肩やお腹の中央が丸見えな赤い服に変化していった。

「あ…あ…あ…」

傷ついた体で感じる変化はただならぬものであった。

平らな胸が見る見る膨らみ、

そこそこ大きくてふくよかな女性の胸になると、

支えるものがなかったブラが大きく張った。

そして、手はきれいな女性の爪が生え、

またきれいな手肌へと変化し、

メキメキメキ!!

頭には2本の曲がった白い角が生えると、

背中から赤い悪魔の翼のようなものが生えた。

ローグの変化はそれだけでは終わらず

履いていたズボンも赤い女性の下着に変わり、

もちろん、大事なところもすでに変化してなくなっていた。

キュッ!

左足の太ももの部分に

トゲの着いた黒いリングが装着され、

靴は女性にぴったりのブーツへと変わる。

「あ…あはぁん…」

変身中の感覚もすべて快感として感じ始めたのか、

その低い声色が高くなってしまうと、

ローグはものの1分程度で

淫靡なサキュバスへと姿を変えてしまった。

「あれぇ…?

 ここゲフェニアじゃないの?」

サキュバスとなってしまったローグは

まるで別人のような台詞を言う。

そして、下に転がるビンに目がいくと、

「そっかぁ、

 あたしいま生まれたのねっ

 皆に生まれたことを言いに行こうっと♪」

と元ローグだったサキュバスは、

そう言うなりテレポートをしてしまった。

そして、サキュバスの飛んだ後には

色々なレアアイテムの入ったリュックが一つ

置き去りにされていたのであった。



〜またもや別の場所〜

「あ〜どうしよう…

 製薬が全然できないや…」

薬を作ることが得意なアルケミストが

人気のない場所で苦悩していた。

「こまったなぁ…

 製薬にあこがれてアルケミストになったのに

 これじゃあ厳しいよぅ…」

ガックリと肩を落としフニャッと座り込んでしまうと、

青色の薬の入ったビンが転がっているのが目に入った。

「…?

 青ポーションかな?」

不思議そうに首をひねりながらアルケミストが立ち上がると、

転がっている瓶を拾いあげた。

「…ふむ、

 見たところ、精神回復剤らしいけど、

 誰が落としたんだろう?

 ちょっとだけ味見を…」

アルケミストはそう言いながら

瓶の蓋を開け、味見をしてみた。

すると、

「むむっ!

 こっこれは!!!」

その途端、某美食倶楽部の主催者である、

著名な陶芸家の顔になると、

「素材、

 出汁、

 調理方法、

 すべてが完璧だ。

 うむっ

 まさに究極、まさに至高である」

と褒め称えながら

グビグビッ

っと一気に飲み干してしまった。

その途端、

「…!!?」

アルケミストの体に異変が起きると、

コトン!

手にしていたビンを落としてしまい、

彼女の体は薄く青い光に包まれ始めた。

そして、その中で、

ムキムキムキ!!

アルケミストの体から筋肉が盛り上がると

瞬く間に筋肉質のかっこいいタイプの体つきに変化し、

彼女が着ていた服が体の筋肉の見える部分や

肩が丸見えの服に変化すると、

太く逞しい腕には

黒く白い線の入ったブレスレットがついた。

「いやっ…

 なんなの…?

 これぇ?」

自分の体に起きている異変にとまどいながらも

アルケミストの髪は青い髪から

白色の髪に変化し、

ニョキニョキ!

その頭からは2本の黒い角が力強く生えると、

背中からは黒い悪魔の翼のようなものが生える。

そして、ズボンも太ももの上の部分だけが見える

黒いズボンに変化すると、

履いていたブーツが消え、裸足になった。

「うう…

 くはぁ…」

サキュバス変身の時と同じように

彼女…いや彼も少しの刺激も快感として感じるようになり、

「う…

 うん、ここは…?」

声は低めの青年の声になり、

変化が終わった。

アルケミストが変身したのは

男の淫魔であるインキュバスであった。

「ゲフェニアじゃないことは確実だな…」

周囲を見回しているうちにビンに目がいき、

そして、

「そっか…俺、いま生まれたんだな…

 とりあえず仲間に生まれたこと報告に行くか」

と言いながら元アルケミストはインキュバスに完全に変化し、

ゲフェニアへとテレポートして行った。



…一方。

「薬ぃ!!!

 どこいったんじゃあああああああああ!!!?」


薬をなくしたデビルチはおしゃぶりをくわえて

首都プロンテラを大爆走している最中であった。

顔がすごく必死である、

よほど淫魔たちの宴の被害者になりたくないのだろう。

そしてそんなチビルチを、

「さっきからデビルチがなんかがんばってるね〜」

「うんうん、

 あいつさぁ、照れ屋多いよな」

「そだね〜」

店を開いている商人達がのんびりと語りながら商売していた。



…あれから2日後。

「ねえダーリンっ

 今度ジャワイにハネムーンだっちゃ!♪」

「ねぇ、そこの彼女!

 お茶しない?」

「ダーリンのバカァ!!!」

「うぎゃぁぁぁぁ!!!」

何やら激烈に熱い淫魔カップルがいた。

「…で、これはどういうことじゃ…?;」

デビルチが依頼してきたサキュバスに言う。

「んっとねえ〜

 デビルチちゃんが落とした薬、

 誰かが飲んじゃったみたいなのよ〜

 実はこの薬性別問わずに変化しちゃうから

 性別自体変わっちゃうの〜

 まあ結果オーライだったからいいじゃない♪」

サキュバスがえへっといわんばかりの顔で言うと、

「まあなぁ…

 (まあわしが餌食ならんかったのはよしとして…;)」

デビルチが目と口を横線にして苦笑いする。

「待つっちゃぁ、ダーリン!!!」

「そ・こ・のお嬢さぁーん」

それからしばらくの間、ここゲフェニアは

この2人の淫魔の恋のせいで温度が少しあがったという。



おわり



この作品は(・∀・)さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。