風祭文庫・モノノケ変身の館






「購い」
(後編)


作・田中じろー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-102





次の日、父親が仕事にいったあと、

母親にちょっと散歩に行ってくると言い残して有紗はでかけた。

母親は「疲れたり具合が悪くなったりしたら、連絡をしなさい」と告げ、

有紗に携帯電話を持たせる。

有紗は迷いなく駅の向こう側に出て正樹の自宅へと向かった。

ちょっと息切れをしたが、しかしそんなに時間はかからなかった。

正樹の自宅に着くと自分の部屋を見上げる。

「あっ…」

窓際に正樹がいた。

有紗はしばらく見ていると正樹も有紗に気がついたようだ。

もし、有紗が仮定したように入れ替わりが起こっているとしたら、

自分に何らかの反応を示すはずだと有紗は思った。

が、正樹はしばらく有紗を見たがなぜかカーテンを閉めてしまった。

…おかしい、もし、入れ替わっているなら

…絶対自分の姿をみて飛び出してくる。

と思いつつ、有紗はさらに踏み込んで携帯電話から自宅に電話をした。

「もしもし」

有紗が話しかけると正樹が出た。

「もしもし」

「有紗といいます。

 正樹さんですよね」

「そうです。

 どちらの有紗さんですか?」

…え?

予想外の展開に有紗は目が点になると、

「本気でそういっている?

 私あなたと入れ替わってしまったんですよ」

とまくし立てた。

ところが、

「何をいっているるんですか?

 僕は僕のままですよ。
 
 入れ替わりなんてしていませんけど。
 
 変なこと言っていると切りますよ」

「ちょちょっと、待って。

 本当に?
 
 本当に変わっていないの?
 
 あなたは本当に正樹なの?」

携帯電話に齧りつく様に有紗は声を上げると、

「そうだよ」

電話の向こうはそういって切れてしまった。

「そんな…」

家に戻った有紗は考え込む。

…僕とあっちは入れ替わっていない。

…あっちは僕のまま?

…どうなっているの?

…もっと正樹を観察してみないとよくわからない。

…もとのままなら今の自分はいったい誰なんだ。

…木村正樹の記憶を持った有紗?

…でも、自分は有紗の記憶はない。

…いや、しっかりと有紗の記憶はある。

…狂ってしまったの?

有紗は自問自答しながらベッドの上に寝転がった。



それからしばらく経ったある日

有紗が散歩しているときだった。

正樹が前から歩いてきた。有紗の目は自然と正樹に行ってしまう。

「何、僕に何か用?」

「いえ、何でもありません」

そういい残して有紗走り去っていった。

正樹は昼間会った印象的な女の子のことを考えていた。

…中学生ぐらいだろうか?

…かわいい子だったな。

そう思っていた。

そう、今まで女性とつき合ったことのない正樹にとって

おとなし目の有紗は理想に近かった。

偶然は再び起きた。

2日後、またあの女の子に会ったのだ。

いつもはそんなに積極的に女性に声をかけることなんて無いのだが、

この時は、何かが違っていた。

正樹は女の子に声をかけた。

「僕に何か言いたいことあるんだよね」

正樹はそう尋ねる。

実際正樹はじろじろ見られて何か良いも悪くも

何か反応あるはずだと勝手にそう思いこんでいた。

有紗はそういわれて

「思い出したの?」

「思い出したって?」

「私はあなただった。

 あなたは私だった。
 
 違う?」

「え?

 何を言っているのかわからない。
 
 でも、もしかして君僕の家に電話してきた子じゃない?」

正樹はそう思い当たって聞いてみた。

「電話したわ」

「やっぱり」

「私はあなただった記憶があるのよ。

 だから、あなたは私だったんじゃない?」

「いや」

「そう、

 でも、そうあなたじゃないとわからないことを話してあげる」

そういって有紗は正樹しかわからないことを正樹に語った。



「驚いた。

 それを聞いてしまうとあながち君の言うことが嘘じゃないと思えるよ。
 
 でも、残念ながら、入れ替わりは起きていない。
 
 僕は昔から僕のままだ」

「わからない、いったい何が起きたの?

 私は有紗だった頃の記憶がない。
 
 でもその代わり、木村正樹だったという記憶がある」

「ちょっと落ち着いて」

そういって正樹は

「とりあえず、君の言うことはわかったよ。

 ちょっと座って休もうよ。
 
 お互い退院からそう日が経っていないから」

「そうね」

「駅ビルの中にマックあったよね。

 そこで飲み物でも飲みながら」

「うん…」

そんな会話をした後、二人は駅ビルへと向かった。

目の前に紙のカップを置き向かい合って座る。

およそ恋人同士とは思えない不釣り合いな二人だった。

そして、二人で話し合った結果、

有紗は正樹が交通事故にあった日に一度死んでいるらしい。

同じ病院で治療を受けている。

二人は正樹が事故に遭うまで全く同じ記憶を持っていると言うことがわかった。

そして、正樹の魂が何らかの理由で二つに分かれ、

その一つが有紗の体に入ったのではないかという結論に至った。

その日はそれで分かれた。


そろそろ有紗は学校へ行かなければならない時期だった。

友人と称する女の子たちが訪ねてきていろいろ話していっていったがどの子も記憶にない。

アルバムと日記を動員して有紗の記憶として女の子に対応していた。

一度自分が長い間意識を無くしてしまった関係で

記憶混乱が起きていると説明して危ういところは切り抜けた。

正樹はとは時々会っていた。

正樹は再び予備校に通い始めているようだ。

アルバイトは辞めてしまって勉強に集中していた。



有紗にとって最大の問題はスカートだった。

家にいるときはジーンズをはいていたし、

それが楽だといってスカートをはくことはさけることができたのだが、

しかし、有紗が通う中学校の制服はブレザーにプリーツスカート。

学校に行く前の日スカートをはいてみてかなり沈んだ気分になった。

なんて無防備な服なんだろうと思った。

朝、親友と称する女の子が家まで迎えに来てくれた。

有紗は普通に制服を着て出かけた。

その子、田口みゆきは家から少し離れたところまでくると、

「もう、上げても大丈夫だよ。

 長いままなんてありえないよ」

と有紗に言う。

何のことを言っているのか全然わからなかったが、

みゆきが腰に手をやってスカートを巻き上げているのを見せてわかった。

どうしようかと迷ったが、

ここで変にいやがると不審がられると思い2回ほどスカートを織り上げた。

「なにやってんの?

 今はもっと上げなきゃ」

といって有紗のスカートをもう一つ織り上げる。

膝上20センチぐらいだ。

「え?

 パンツ見えちゃうよ」

「そうよ、見せても減るもんじゃないでしょ。

 ヤバイ場所は鞄で隠せばいいじゃない」

「そう、…だね」

みゆきに押し切られてしまった。

またの間を通り抜けていく風がすーすーして

なんか視線が足に集まっているような気がして落ち着かなかった。

学校での授業は退屈だった。

正直自分は高校を卒業して1浪中なのだ。

中学2年生の授業はまじめに聞かなくたってわかる。

正樹の時は志望校が高くて落ちただけで、

滑り止めは受かっていたけど納得がいかなくて浪人することを選んだのだ。



放課後、

先生に呼ばれて休んでいた間の授業についてどうするかを聞かれた。

今も授業についていけなくて授業に集中していないと思われたらしい。

なんだかムカッと来て、

「ちゃんと聞いていました。何ならテストでもしましょうか?」

つい有紗はタンカを切ってしまった。

有紗の思いがけない言葉に先生も驚いたようだったが、

「じゃあ、1週間前にやった小テストがあるからやってもらおうか」

そういってテスト用紙を持ってきて、

「時間は15分、これで70点以上取れたら、前言を撤回しよう」

そう言いながら用紙を渡す。

結果は95点だった。

本当は100点だったのだが、

計算式を一つ書かずに暗算をしてしまったためにマイナス5点、

それも強引に見つけたミスだ。

「すまなかった。

 ただ、授業中はよそ見を減らしてな」

そういって先生は解放してくれた。

友人たちはみんな帰ってしまっていた。

テストを受けているのを見て時間がかかると思ったらしい。

冷たいと思う反面、気を遣わなくて良いとほっとしてもいた。

電車を降りるとほっと一息ついた。

学校を出るときにスカートは元に戻していた。

ちょっとあのまま一人で歩き回るのは恥ずかしすぎた。

駅を出てすぐの所に本屋があってちょっと寄っていこうと思うと本屋の足を向ける。

これは正樹だった頃の習慣だった。

とそのとき、

ニィ…

一匹のネコが塀の上に居るのを見つけると、

まるで吸い寄せられるように有紗はネコへと近づき、

そっと手を差し伸べた。

しかし、その結果は、

ガブリッ!!

ネコは有紗の手を噛むと、そのままどこかへと姿を消してしまった。

「痛ぇぇぇ…」

噛み跡が残る手を振りながら本屋に入ると、

そこには本物の正樹もいた。

「あっ」

二人同時に互いを確認した。

「まさか、噛まれたの?」

「うん」

「ふふっ

 僕も…」

そう言いながらお互いに手を見せ合う。

そして、少しの立ち話。

有紗は気疲れして大変だと言うことを訴え、

明日土曜日だから会おうと約束をしていた。



次の日、

正樹の家は両親が泊まりがけで出かけると言うことで

有紗は昼前から正樹の家に行った。

有紗は正樹の家にはいるとほっとしたようだった。

そう、何もかも懐かしいのだ。

トイレの場所の言われなくてもわかる。

冷蔵庫のどの棚に飲み物が入っているかもわかる。

正樹の部屋で秘密のH本の隠し場所も知っている。

そんな安心感からか有紗は居間のソファでうたた寝をしてしまった。

何か少し寒気がした。

目を開き顔を上げると正樹が有紗のジーンズとパンツを降ろしていた。

ブラウスのボタンはすでに全部開けられていた。

「ちょっと…」

そういう言いかけたときに口をふさがれた。

ものすごいスピードで正樹の唇が有紗の唇に吸い付いていた。

正樹が唇を離すと「静かにして」と囁く。

「うそ、

 私ならこんなことしない。

 あなた誰?」

驚きながら有紗は声を上げると、

「僕は正樹だよ。

 何でだろう。
 
 この頃ね、妙に絶倫気味なんだよ。
 
 なんだか力が内からわいてくるようで。
 
 がまんできないんだ。
 
 なぁやらせてよ。
 
 僕なんだろ。
 
 僕が童貞って知っているんだろ。
 
 僕に君の処女をくれよ」

「おかしい、

 ねえ、本当はあなた正樹じゃないんでしょ」
 
そう有紗が言っている間に正樹の手は股間に伸び有紗の割れ目を刺激していた。

「正樹だよ。

 二人で記憶を確認し会ったじゃないか。
 
 君に変化があったように、僕にも何かが起きているみたいだよ。
 
 何者かが入り込んでいるようなんだ。
 
 そう、この頃変な夢を見るんだよ。
 
 なんかね、四六時中誰かの目を盗んでしまくっている夢なんだ。
 
 おかしいんだよ。
 
 夢の中での僕の姿はペニスもあるのにオッパイもふくらんでいて、
 
 ペニスの後ろに割れ目もあるんだ。
 
 それにね、背中には羽があるんだ」

「うう、うう」

有紗は正樹の話を上の空で聞いていた。

女になって間もない。

女の快感を知らなかったので刺激がすごい。

自分でオナニーするのとは違う。

未知の刺激、予想外の力加減が有紗を襲う。

「あっ

 うっくっ」

有紗の口から喘ぎ声が漏れ、

漏らしてしまったかのように汁をしたたらせて快感に酔っていた。

「入れるよ」

そういわれたとき有紗は何の抵抗もできなかった。

むしろ早く入れてほしいと思っていた。

ぬる、

先っぽが入る。

ぐにゅ。

中まで押し込むと、

「うー、っ」

顔をしかめて有紗が呻いた。

痛みに耐えている様子だ。

正樹はその様子を見て動きを止めた。

「はっ、はっ」

止まっていた呼吸を再び始めたのを確認してペニスを少し抜く

「くっ」

と一言いって歯を食いしばる有紗。

浅い呼吸が始まると、正樹はもう一度ペニスを押し込んだ。

そうやってゆっくりゆくっりならすようにペニスを動かした。

有紗の方がだいぶ慣れた様子になるといちいち動きを止めずに出し入れを始めた。

のろのろとした動きからどんどん動きを早めていく。

「ぐっ」

正樹がうめき声を上げた。

達したらしい。

その一方で有紗はぐったりとしていた。

もう動こうとする気力もないらしい。

正樹も荒い息を整えるとソファから起きあがると

ゆっくりペニスを抜きコンドームをはずし始末した。

「君がさ家にくるっていったとき、

 もうするしかないって思っていた。
 
 だって、君は全然僕のこと疑っていなかったし、
 
 僕もなんか不思議な力に操られているような感じがいていて…」

よろよろと体を起こしながら有紗は聞いていた。

「今、していて夢の話したろ、僕の方も思い出したんだよ」

「何を?」

まだ少し息は荒い。

「今回のことがどうして起こったかわかった。

 今の僕は昔の僕と天界の天使が一つになったものなんだ。
 
 非常識かと思うけど
 
 君自身に起こっていることを考えると非常識なことじゃないよね。
 
 今、僕と一つになっている天使は天界で罪を犯したんだ。
 
 それは、有紗という少女が死んだとき無知にも彼女を生き返らせてしまったんだ」

「生き返らせた」

「そう、それも僕のつまり正樹の命を使って。

 その命のほとんどが君に注がれてしまったために、
 
 有紗という少女、つまり君は正樹の記憶を有することになったんだ」

「そんな」

「そして、この僕は生命エネルギーを取られてしまって寿命が著しく減ってしまった。

 それを補填するために今僕と一つになっている天使が種として僕に埋め込まれたんだ」

「なんだか、話が大きくふくらみすぎて理解しきれない」

「種が孵ったんだよ。

 セックスすることによって種が刺激され
 
 天使の記憶と意識を持ちながら正樹の記憶と感情も持ち合わせている。
 
 たぶん今なら天使の力も使える。
 
 といっても、地上だと力が制限されるからたいしたことができないけど」

「…」

「メタモルフォーゼできるかな?」

そう呟きながら正樹はぐっと力を入れた。

すると、髪が黒から金色へと変わりはじめた。

背中から羽が生え、

体型が女性っぽくなり豊かな胸がプルンと飛び出した。

その一方でペニスは一回り大きくなった。

「どう?

 初めて天使を見た感想は?」

「なんて言って良いかわからない。

 きれいだけど。
 
 でも、ほら、
 
 ルネサンスの頃の絵画の天使って子供だから、
 
 あと、大人の天使だって女性っぽくかかれていて服も着ていたし…」

「これは出したり消したりできるよ」

有紗の言葉に正樹はそう返事をするとペニスを無くして見せる。

そして、

「羽も今は邪魔だね」

というと今度は羽を消して見せた。

天使は有紗をじっと見ていた。

「もう一度してもいいかい?

 今度はこの姿で」
 
そう言い切らない内に天使は有紗の口をふさいでいた。

有紗は抵抗できずにされるがままだった。

二人は快楽に酔っていた。

天使は何度も何度も有紗に精を注いでいた。



何度目かの時、天使が苦しみだした。

つながったまま天使はもがいている。

「もっ、もしかして、堕ちる?」

そうつぶやいたとき、天使の頭に声が響いた。

(欲望に溺れし者はそれにふさわしい姿になるがいい)

下にいる有紗は何が起こっているのかさっぱりわからなかった。

苦しみだした天使の髪の色が漆黒に染まっていくのを見た。

と同時にしまっていたはずの羽が背中から生え始め、

生えきったとたんに純白の羽が黒く染まり

コウモリの羽のように筋張り皮膜のようになっていくのを呆然と見ている。

有紗顔の横に着いていた正樹の手からは長い爪が伸び始めている。

足に何かもぞもぞする物が当たっているのを感じた。

後でわかったが、尻尾だ。

天使の変化が終わると自分の股間に熱い物が注がれるのを感じた。

天使は悪魔に堕ちていた。

(おまえはインキュバスに変わった。

 これより先聖なる物への変化はできなくなった。
 
 もうじき私の声も届かなくなるだろう。
  
 南の島より訪れる聖なる者に滅ぼされ
 
 浄化されるときがそなたを唯一救う手だてとなるであろう。
   
 願わくば巻き込まれた二人の人間に救いが…)

「主よ…」

天使だった者はそうつぶやいた。

有紗の中からペニスを抜き出すとインキュバスはあることを思い出した。

そう、インキュバスに犯された者はサキュバスになる運命だと…

その途端、有紗の変化が始まった。

有紗の顔つきは幾分大人びて唇は血のように真っ赤になり、

身長も伸び始めた。

そして、それと同時に

カァ…

有紗は体が火照っているのを感じた。

お尻のあたりがムズムズする。

ちょっとふくらんだかと思うとするすると尻尾がはえだした。

獣の尻尾だ。

背中からも羽が生え腕や足には獣毛が生え

胸は大きくふくらみ、有紗は淫靡なサキュバスとなりはてた。



それから数年が過ぎ、有紗は高校3年生になっていた。

高校入学時には有紗の髪は腰まで届く位に伸び、

男子と引けを取らないくらいの身長と、

メリハリのある3サイズ

そして、抜群の運動神経…

どれもサキュパスとして与えられた力のおかげだ。

そんな有紗は学校内でも常に注目を浴びる存在となるが、

しかし、どの部活にも所属をしようとは思わなかった。

「また、ネコに噛まれたのか」

手に巻かれた包帯を見ながら正樹が尋ねる。

「うん…

 いつものカミネコ…」

有紗はそう返事をすると、ジッと自分の手を見つめる。

「そんなの無視したらいいじゃないか」

「ふふっ

 どうしても手が出てしまうのよ」

「そうか」

「あのね、修学旅行・沖縄に行くの」

「沖縄?」

「うん、沖縄…

 西表島にいくんだ。
 
 あそこにはネコが居る」

「イリオモテヤマネコか」

「うん…」

そう呟きながら魔物と化した二人は口付けをする。

そして、その後二人は以前の姿へとメタモルフォーゼし、普段の生活に戻る。

無論、魔力の源となる性力は周りの者からセックスをして吸い上げているが、

しかし、吸い上げられた当人はその時の記憶をすっかり無くしているようだ。

またお互いに魔物の姿でセックスをし最高のエクスタシーを楽しんでいる…

南の島より訪れると言われる聖なる者に救われるその日まで…



おわり



この作品は田中じろーさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。