風祭文庫・モノノケ変身の館






「節分祭奇譚」


作・風祭玲

Vol.1080





『節分』

それは、その年最初の節目であり、

そして”お祭り”でもある。



『また今年もこの日が来たな』

地獄・閻魔大王庁の総司令執務室にその声が響くと、

『節分か…』

閻魔大王の横に立つ副指令ジョルジュは感慨深げに言う。

『準備は怠りないか?』

机に肘を付け、

口元で手を組むスタイルで閻魔大王は尋ねると、

『はい、

 既に迎撃準備は完了し、

 零号機、初号機、弐号機は

 所定の位置にて待機中です』

彼の正面に立つ作戦指揮の責任者は進捗報告をする。

『さて、節分と言えば猛者。

 今年は何体猛者が出現するかだ』

上を見上げる様に顎を上げてジョルジュはそう呟くと、

『例え何体現れようとも、

 我々は確実に猛者を殲滅いたします』

と責任者は強調する。

『節分はいわば地獄の棚卸でもある。

 この1年の間、

 地獄に堕ち滅せらずに生き延びてきた穢れた理は

 この日、群れて固まり、猛者へと姿を変える。

 我々は現れた猛者を全て殲滅する。

 何としても成し遂げろ』

『はいっ!』

大王庁に勇ましい声が響き渡った丁度その頃、

『おーぃ、

 カジさぁん』

カジの農園に彼を呼ぶ声が響くと、

『おうっ、

 豆の準備は出来てるぞ!』

尋ねてきた鬼にカジは豆が入った袋を見せる。

『さすがはカジさんだ。

 準備万端だね』

それを見た鬼は感心すると、

『年に一度の節分だ。

 どんな猛者でも俺の豆なら確実にしとめられるよ。

 えっと、注文は全部で1000袋だよな。

 そこに準備しておいたから、

 持って良くといいよ』

とカジは首にかけたタオルで顔を拭きながら

やってきた鬼に向かって指示をする。

『判った、

 ひぃふぅみぃ』

それを聞いた鬼は用意された豆の袋を数え始めるが、

『あれ?

 一袋足りないぞ』

と声を上げる。

『ん?

 足りない?

 そんなはずは…』

その指摘にカジも数え始めるが、

『999っ、

 やっぱり足りないな。

 仕方ない、1つ作るわ』

頭を掻きながらカジは返事をすると、

急いで一袋分の豆袋を作り、

『はいっ、

 これで1000袋目だ』

と言いながら袋の山に乗せる。



一方、ここは嵯狐津野原。

『では、巫女から扇の返還を受けてくるよう

 下の者に申し伝えます』

玉座に座る嵯狐津姫に向かってコン・リーノは言うと、

『その件はそなたに任せた。

 と言っておるだろう』

嵯狐津姫は不機嫌そうに返す。

しかし、

『いえ、

 筋は通しませんと』

そう言いながらコン・リーノは恭しく頭を下げると、

『何を企んでいるか知らぬが

 明日は節分。

 判っておろうな』

と嵯狐津姫は釘を刺す。

『判っております

 では』

コン・リーノはその言葉と共に場を辞すと

控えの間へと向かって行った。



『あっあのぅ?

 急な呼び出しを受けたのですが

 用件は何でしょうか』

その控えの間に戻ってきたコン・リーノに向かって

呼び出しを受けていた狐巫女の玉梓は話しかけてきた。

『おぉ、玉梓さん。

 良いところに見えられました。

 いまお呼びしましょうとしたところなのですよ』

目を細めながらコン・リーノは言う。

『はぁ』

その言葉に玉梓は小首を捻ると、

『誠に申し訳ありませんが、

 いまから人間界に赴き、

 風竜扇を受け取ってきてください』

コンリーノは玉梓に指示をする。

『えっと、

 どなたから?』

『あぁ、

 先日、あなたが赴いた巫女のところですよ。

 実はあの時、

 嵯狐津姫さまはあなたに言伝の他に、

 万が一に備えて言霊を授けていたのです』

と玉梓の質問にコン・リーノは答えると、

『え?

 そんなことしたっけ?

 あっ待てよ、

 そういえばあの時、

 何かを落としたような…』

その返答に玉梓はあの戦闘時について思い返しはじめる。

すると、

『玉梓さん。

 扇の回収

 ぜひとも、

 よ・ろ・し・く

 お願いいたします。

 もし、邪魔が入りましたら

 これを使っても構いませんので』

そう言いながら

コン・リーノは豆が入った袋を玉梓に手渡した。



「柵良先生、

 さよぉならぁ!!!」

沼ノ端千メートルタワーに明かりがともる夕刻。

「おうっ

 準備もほどほどにな。

 帰るときは気をつけて帰るのだぞ」

夕日に照らし出される沼ノ端高校の校舎を背にして

今日の勤めを終えた柵良美里は

別れの挨拶をする生徒に向かって声を掛けていた。

だが、にこやかに挨拶をする彼女の表情とは裏腹に

その心の中はいまだ晴れては居なかった。

「女狐め…

 風竜扇を貸して欲しい。

 と言ってきてからだいぶ時がたつが、

 未だに目立った動きを見せてこない。

 何を企んでいるのじゃ」

走り去っていく生徒の後ろ姿を見送りながら

嵯狐津姫からの使いと言う狐娘が持ってきた伝言のことが

ずっと気に掛かっていた。

「油断をしてはならぬな、

 隙を見せたら必ず仕掛けてくる…」

ギュっ

と拳を握り締めつつ美里はそう呟いていると、

グワシャァァン!

突然校舎の一角よりガラスが割れる音が響き渡り、

グィィィン!!

その教室の窓から黒金色の戦車の砲塔らしきものが突き出して見せる。

「あそこは…

 確か…2年B組」

突然の事態に巫女は振り返りつつ見上げると、

「うわぁぁぁ!!

 おっお助けぇぇぇ!!!」

悲痛な叫びを上げながら

そのクラスの担任教師が砲塔に必死の形相でしがみついていた。

「やれやれ、

 一度戻った後にまた来るようじゃのぅ」

生徒の間から芳しい評判を聞かない教師の姿を眺めつつ

美里は呆れた笑いを見せると、

そのまま自宅へと向かって行く。



「引けぇ!

 力の限り引けぇ!

 根性見せてみろぉ〜」

「うわぁぁぁ

 そこのバルタン星人どけぇ!」

そう、沼ノ端高校は明日に控えた節分祭の準備の真最中であり、

日夜を問わず校内は文字通り野戦病院さながらの様相となっていた。

「…まぁ、年に一度の節分祭のことですから、

 生徒諸君の自主管理の尊重と言う意味合いからもですな、

 校長の私が今更口をさしはさむと言うのもなんなのですが…」

校長室より説教の声が響き始めると、

「生徒会長、

 戻って来たばかりで申し訳ありませんが、

 現在の進捗状況です」

の声と共に校内の巡回から戻って来たばかりの

生徒会長・相田愛(あいだまな)に報告書が提出される。

「ご苦労様です」

報告書を受け取った愛はねぎらいつつ、

”沼ノ端節分祭 第19次進捗報告”

と書かれた報告書を受け取りパラパラとページをめくり始める。

そして、

「報告書は生徒会長が見ておきますので

 あなたは先に帰って良いです。

 明日は節分祭の初日でしょう?」

生徒会書記の菱川立花がそう話しかけると、

「では、お言葉に甘えまして」

と報告書を提出した女子生徒はペコリと頭を下げて去っていく。

「はぁ…」

女子生徒が去った後、

立花は小さくため息を一つ見せ、

「今年は去年以上に進捗が遅れているわね、

 こんなので間に合うのかしら…」

と呟いてみせる。

すると、

コンコン

ドアがノックされると、

「こんにちわ、

 愛さん、

 立花さん」

の声と共に四葉亜莉子と

続いて剣咲真琴が部屋に入ってくる。

「あなたたち…

 こんなところに来て、

 そっちの準備はいいの?」

それを見た愛は腰を浮かせながら聞き返すと、

「大丈夫です。

 もしお手伝いすることがありましたら、

 何なりと仰ってください。

 セバスチャンが対応しますので」

「私は様子を見に来ただけ、

 大丈夫そうだからすぐに戻るわ」

皆は愛に向かってそう言う。

「あっありがとう…」

それを聞いた愛は嬉しそうに笑ってみせると、

「?」

立花は浮かない顔をしてみせていたのであった。

「どうしたの?

 立花ちゃん?」

彼女のその見た愛が理由を尋ねると、

「うーん、

 なんかこの光景って見たことがあるような…」

と呟き小首を捻ってみせる。

「それはデジャブーっていうものだわ。

 疲れたときに人間の脳が生み出す偽りの体験…」

それを聞いた真琴は説明をすると、

「うーん、

 愛ちゃん、

 ずっと忙しかったみたいだからねぇ」

ウンウンと頷きつつ亜莉子は言う。



学校を挙げての準備作業の中、

『えっとぉ…』

生徒達を掻き分けて玉梓は美里を探していた。

『うーん、

 どこに居るのかなぁ…』

右を見ても左を見ても、

以前来たときとは様変わりしている校内に戸惑い、

そして、迷っていた。

『あーん、

 また同じところだぁ』

何度方向を決めて向かっても、

校長の胸像の前に戻ってしまうことに、

玉梓は苛立ちを覚えてくると、

『よーし、

 こうなったら』

一大決心をしてみせると、

『おいっ、

 そこのお前っ!』

と一人の生徒を呼び止めたのであった。



「俺?」

呼び止められた生徒が自分を指差して振り返ると、

「うわっ、

 狐耳の巫女なんて可愛い」

「何処のクラス?」

と玉梓の存在に気付いた女子生徒たちが寄ってきた。

『こっこらっ、

 勝手に耳を触るな』

『尻尾はだめ!』

『やめろ、

 私をヌイグルミみたいに扱うなっ』

迫ってくる手を叩き落としながら、

玉梓は抵抗をしていると、

ポトッ

彼女の懐から豆が入った袋が落ちてしまった。

『あっ』

その言に気付いた玉梓が慌てて拾おうとするが、

「なんだこれは?」

彼女の手が届くよりも先に、

生徒に袋を拾われてしまうと、

「あっ、

 豆が入っている」

と言いながら袋の中のものを出してみせる。

『こらぁ!

 人間が勝手に触るな!』

それを見た玉梓は声を上げるが、

「おっ、

 この豆、

 結構いけるじゃん」

一粒、豆を食べた生徒が声を上げると、

「俺も」

「私も」

と生徒達の手が伸び、

袋の豆は見る見る減って行く・

そして、

『あっ

 あっ

 あぁぁ!』

玉梓の目の前で全てが食べつくされてしまったのであった。



『こらぁ!

 自己中なお前たち!

 よくもぉ!』

コンリーノから渡された豆を

全て食べつくされてしまったことに怒った玉梓は

悔し涙を流しながら、

バッ

白紙の本のページを掲げると、

『世界よっ!

 最悪の結末、

 バッドエンドに染まれ!』

と叫ぶが、

その前に、

メリッ!

「ひっ!」

一人の身体に異変が生じると、

「ひやっ」

「ぐはっ」

次々と生徒達に異変が伝染していく。

そして、

『ぐわぁぁぁぁ!!』

女子生徒が頭を抱えながらうめき声を上げると、

メリメリメリ!!!

その頭から2本の角が伸び、

さらに、身体を赤く染めながら、

体中に筋肉が盛り上がっていくと、

『うごわぁぁぁ!』

筋骨たくましい”鬼”へと変身してしまったのであった。

『なっなに?』

周囲の生徒達が”鬼”に変身していく様子に

玉梓は怯えてしまうと、

『ひぃぃぃ!』

叫び声を上げて逃げ出していった。



『助けてぇ!』

廊下に玉梓の悲鳴が響き渡ると、

「ん?」

その声に気付いた生徒が立ち止まって振り返る。

すると、

『いやぁぁぁ』

その生徒の足元を玉梓が走り抜けていくと、

『ぐわぁぁぁぁ!!』

その後を目を剥き牙を光らせる

屈強な鬼の集団が追いかけてきた。

「へ?

 うっ

 うわぁぁぁぁぁ!!!」

「鬼だぁ!」

「鬼がでたぁ!」

それを見た生徒達はたちまちパニックに陥るが、

パァン!

『はいタッチ』

のい声と共に鬼の手が生徒の肩に触れると、

メリメリメリメリ!!

『ぐわぁぁぁぁ!!!』

肩に触れられた生徒はたちまち鬼へと変身してしまい。

『うごわぁぁぁ』

逃げる生徒を追いかけ始める。



「かっ会長!

 大変です」

血相を変えた生徒が生徒会長室に飛び込んでくると、

「どうしたの?」

愛は腰を上げて理由を聞く。

「おっ鬼が

 沢山の鬼がいきなり現れて、

 校内で暴れまわっています」

と生徒とは説明をすると、

「なんで鬼が暴れているの、

 節分は明日よ」

と立花が声を上げた。

「さっさぁ?

 そこはよくわかりませんが…」

困惑気味に生徒が返答すると、

「愛っ」

「うん」

「みんな行くよっ」

愛と立花は互いに頷き合い、

そして、部屋から飛び出していくと

亜莉子、真琴も飛び出していく。



突然の鬼の出現に校内は文字通り騒然となっていた。

「ちょっと、

 通してください」

愛たちは逃げ惑う生徒たちを掻き分けて、

鬼が暴れている現場へと向かって行く。

そして、

「居た!」

「ほっ本物の鬼?」

「うっそぉ!」

驚く4人を鬼の集団が一斉に振り向くと、

『ごわぁぁぁぁ!』

暴れている鬼の集団は雪崩打って

愛たちに向かってきた。

それを見た4人は互いに頷くと、

「ぷりきゅあっ

 らぶりんくっ!」

愛の掛け声が響くと、

追って皆の声も響くが、

「セバスチャン、

 ぷりきゅあ・らぶりんくです」

亜莉子は随行の執事にそう命じると、

「畏まりました、お嬢様」

パチン

セバスチャンの指が鳴り。

四葉家移動更衣室が瞬く間に組み上げられると、

シズシズ

と亜莉子は更衣室に入っていく。



バッ!

愛たちが着ていた制服が宙に舞い、

「大いなる愛っ

 きゅあはーと!」

の声と共に、

パァァァン!

愛はレオタードの上にまかれた廻しを叩く音がこだまさせると、

「英知の光!」

 きゅあだいあもんど!」

「勇気の刃

 きゅあそーど」

残る2人も続いて早業で着替えると、

少し遅れて

「陽だまりポカポカ

 きゅあろぜった!」

の声と共に亜莉子の着替えが終わり、

それぞれ弓道部、剣道部、茶道部の道着姿を晒してみせるが、

「もぅ、剣道部臭いって」

「しっ仕方がないだろう、

 防具が臭うのは当然だ。

(これでもちゃんと干しているんだぞ)」

「でも、せめて、

 ファブリーズはしてほしいですね」

と防具の臭いについて一悶着起きてしまった。

「ごめん。

 いまはそっちよりもこっちを優先して」

悶着を起こしている3人に向かって

”きゅあはーと”は声を上げると、

「うぉりゃぁぁぁ!」

鬼に向かって4人は立ち向かっていく。



一方、

「なんじゃ、

 随分とけが人が運び込まれてきたのぅ」

柵良は一気に増えたけが人を見て呆れた声を上げると、

「おっ

 鬼が…」

と彼女に向かって生徒は一言いのこして事切れる。

「鬼じゃと?

 面妖な。

 節分は明日だというのに」

それを聞いた柵良は事の重大性を察したとき、

『コンッ』

彼女の背後で狐の声がかすかに響いた。

「ほぅ、

 もぅ尻尾を出したのか、

 最近の狐はガマンが足りないのぅ」

それを聞きのがすことなく、

柵良はすかさず払い串を構えると、

『これはこれは柵良先生。

 もぅ見つかってしまいましたか』

の声と共に保健室の様子が暗転し

コン・リーノが壁から滲み出るように姿を見せた。

「コン・リーノっ

 ほぅ、お主が直々に来るとは意外じゃのう」

コン・リーノの姿を感心するように見据えながら美里は言うと、

『わたくしも、

 たまには本気を出さないと、

 姫様にリストラされてしまいますのでね』

肩の埃を払う仕草をしながらコン・リーノがそう言うや、

ギンッ

攻撃的な殺気を周囲に向けて放った。

「ほぅ、本気…

 と言う訳か」

吹き付けてくる殺気に身構えながら美里は呟くと、

『さぁ、大人しく、

 風竜扇を渡してもらいましょうか』

ドォォォン!

さらに殺気の増幅させてコン・リーノは迫る。

しかし、

「はい、どうぞ。

 と言うわけには行かぬわぁ、

 致し方あるまいっ」

コンリーノに向かって美里はそう叫ぶと、

すっ、

懐よりあるモノを取り出し高く掲げてみせる、

そして、

「まぁず・すたぁ・ぱわぁ・めいく・あっぷぅ!!!」

と声高に叫ぶと、

ボッ!

たちまち美里の体は炎に包まれ、

一気に燃え上がった。

『なに?』

予想外の出来事にコンリーノは驚き、

そして2・3歩引き下がると、

懐に手を入れ一枚のお面を覗かせてみせる。

やがて、

バッ!

巫女を包み込んでいた炎が弾けるようにして四散していくと、

火星を守護に持つ

炎の戦士が赤いハイヒールを光らせ立っていたのであった。

「まったくっ、

 この姿にはもぅなるまいと思っていたところだったのにぃ…

 コンリーノっ、

 火星に代わって折檻じゃっ!」

巫女・いや、柵良美里にとって久方ぶりとなる変身に

頬を赤らめつつ口上を言うと、

『これはこれは、

 とても魅力的なお姿でございますね。

 しかしながら、

 あなた様のお歳とお立場を考えますと

 そのお姿は少々無謀なのでは?』

うんうんと頷きながらコンリーノはそう指摘すると、

「よっ余計なお世話じゃっ!」

その直後に美里の怒鳴り声が響く。

「確かに…

 こんな格好を他人に…

 まして、あの悪ガキどもに見られたら最悪じゃ」

と美里いや”せーらーまーず”は呟いた途端、

「柵っ良さぁぁぁぁぁぁん!!!!」

いま彼女が最も聞きたくない声が響き渡った。

そして、その次の瞬間。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!

 ふぁいやーそぉぉる!」

の掛け声とともに、

ハイヒールの踵が見事、

駆け寄ってきた唐渡の腹部を直撃すると、

「ぶるぅいんぱるすぅぅぅぅ!」

の声と共に空高く飛んでいく。

「はぁぁっ

 はぁぁっ

 はぁぁっ」

髪と息を乱してまーずは渡が飛んでいった方を見ていると、

「もぅ柵良先生ったら、

 そこまで焦らさなくてもいいじゃないですか」

と言いながら彼女の肩を渡は叩いて見せる。

「!!!っ、

 うわぁぁぁぁ!」

その途端、まーずの全身にトリ肌が立つと、

渡の腕を握りしめ、

「悪いのっ

 悪いのっ

 飛んでいけーっ(二度と来るなっ!)」

の声と共に再び大空へと放り投げる。



『まったく、

 少しは真面目に対応してもらいたいものです』

そんな彼女を呆れた視線で眺めながら、

コンリーノは呆れたポーズをしてみせると、

「やかましいわっ、

 第一、

 扇は竜宮より預けられたもの、

 そなたに差し渡す意味はないっ」

と言い切る。

『以上があなた様のご返答でよろしいのですね

 判りました。

 では力づくで頂戴いたします』

その返事を聞いたコンリーノはその体を丸めて見せると、

ザワッ

全身の毛を逆立てる仕草をしてみせる。

すると、

メリッ!

人のシルエットをしていた彼の形が次第に崩れ、

牙を剥く狐へと変化していく。

「本性を現しおったなっ、

 こいっ。

 炎で焼き尽くしてくれるわ」

変身していくコンリーノを見据えて”まーず”は構えるが

その二人が拳と牙を交える直前。

『いやぁぁぁ!』

鬼を引き連れた玉梓が保健室に飛び込んでくると、

二人の間を突き抜けていく。

そして、その後をトレースするように鬼の集団が雪崩打ってきた。

「なに?

 鬼の集団だとぉ」

『この馬鹿者がっ!』

たちまち二人の戦いは水入りとなり、

「うりゃぁぁぁぁ!」

『ごわぁぁぁぁ!』

「このぉ!」

『うぉぉぉぉぉ!』

たちまち保健室内は大乱戦となった。

『くそっ、

 これではラチがあきません。

 えぇいっ

 撤退ですっ』

風竜扇の奪取を断念したコン・リーノが

素早くその姿を消してしまうと、

「ふっ、

 ここ貴様らに礼を言うべきかもな、

 ならば迷わず成仏せいっ!

 ふぁいやぁーそーうるっ!』

安心した表情を見せながら

鬼にめがけて”まーず”は火炎を放つと、

『ごわっ!』

乱入してきた鬼は次々と消され、

鬼にされていた生徒たちは皆もとの姿に戻っていく。



その一方で、

ギュォォォォォン!

沼ノ端高校上空で四葉戦略航空隊より投下された

支援武装ユニットを受け取ったセバスチャンは

格闘茶道・四葉流で鬼と闘っている亜莉子の下に駆けつけると、

「お嬢様、例の品が届きました」

と声を上げる。

「ご苦労様です」

それを聞いた亜莉子は彼をねぎうと、



「愛さん、

 立花さん、

 真琴さん

 これをお使いください。

 鬼に最も効果があるものです」

と言いながら、

ぎっしりと豆が詰まった銃を手渡した。

「ありがとう、

 亜莉子」

「鬼さん達、

 いきますわよ」

「手加減なしだ」

その掛け声とともに

4人は鬼に向かって一斉射撃を開始する。



「今年は節分は一日早かったですな」

『ふっ』

豆の一斉射撃によって駆逐されていく鬼たちの様子を

この学校の校長は同伴のネコともにお茶を啜りながら眺めていると、

「では、

 こちらも節分と致しましょう」

そう言いながら校長は鬼の面を付ける。

こうして、沼ノ端高校の節分祭は有耶無耶のうちに始まり、

そして、鬼が駆逐された頃、

祭りは終わりを告げたのであった。



「お祭りは終了しましたので、

 片付けの協力をお願いします」

「みなさーん、

 箒と塵取りはこちらです」

「順番に受け取って下さい」

「勝手に帰ってはだめだぞ」

校内に愛たちの声が響くと、

箒と塵取りを手にした生徒たちは

散らかった豆の掃除をはじめだすが、

「コン・リーノめ、

 やはり、

 力づくでもこの扇を欲しておったか」

美里は自分が預かる扇を握りしめながら、

コンリーノが力づくでそれを奪いに来たことに

彼の覚悟とその背後で蠢く野望を

思い知らされたのであった。



一方、地獄では。

ズズズズズズン…

次々と姿を見せてきた猛者を相手に、

『一斉射撃開始っ!』

ついに戦端が開かれたのであった。



おわり