風祭文庫・モノノケ変身の館






「鬼に土器」


作・風祭玲

Vol.930





すり鉢状にひな壇がぐるりと取り囲んでいる広大なホール。

照明が落とされたひな壇には狐面をつけた大勢の者達が無言で座り、

ただ真っ直ぐ正面を眺めている。

そして、暗いホールの中心は暗闇から浮かび上がるように輝く円卓があり、

円卓を取り囲まれるように置かれた椅子は

そこに座る主が戻ってくるのをひたすら待ち続けていたのであった。

と、そのとき、

ユラッ

円卓傍の空間がかすかに揺らぐと、

『ふぅ…』

大きく息を継ぎながらタキシードにマント・シルクハット姿の鍵屋が姿を見せ、

『いやぁ、

 近頃の女の子はお強いですねぇ、

 あはは…』

と笑みを浮かべつつシルクハットを脱ぎ、

自分に割り当てられている座席に手を掛けてみせる。

そしてチラリとひな壇上へと視線を向けるが、

誰一人として鍵屋の言葉に反応する者は無く、

ただ空の一点を見据えているだけだった。

『……無視ですか…』

その様子を見て鍵屋は憮然と呟いて見せると、

『そんなことはありませんよ、

 鍵屋さん』

と鍵屋の背後から男性の声が響いたのであった。

ビクッ!

突然響き渡った声に鍵屋は驚き、

慌てて振り返ると、

『ちょうどいまお茶が入ったところですよぉ』

と言う声とともに、

コト

鍵屋の席に湯気が立つ湯飲みが置かれ、

フワリと漂うお茶の香りが鍵屋の鼻をくすぐってみせる。

『どっ、どうもありがとうございます』

その声に向かって鍵屋は礼を言うと、

『そうそう、

 ここの連中の無反応に付き合っていると身が持ちませんから、

 居ないものと思ったほうがいいですよぉ』

と声は鍵屋に忠告をして見せる。

『そうですか』

その忠告に鍵屋は頭をかいてみせると、

『あっしまった』

何かを思い出したのか小さく声を漏らし、

『先日お納めをした商品の代金、

 柵良さんから頂いてくるのを忘れていました』

と鍵屋は節分以前に柵良へ納品をした

商品代金の回収をしてなかったことに気が付き、

『まぁいいでしょう、

 今度逢ったときに…』

と言いかけたところで、

フッ

鍵屋の背後に狐顔をしたスーツ姿の男性が姿を見せ、

『鍵屋さぁぁぁん』

と細い目をさらに細くして話しかけて来たのであった。

『え?

 あっ

 こっコン・リーノ…』

かつての鍵屋の後輩であり、

進むべく道を巡って鍵屋と袂を分けた男、コン・リーノを鍵屋は呼び捨てると、

『鍵屋さぁんっ、

 狐面をお使われになられたようですが、

 如何でしたでしょうか?

 なるべく早めに使用レポートをお願いしますよぉ』

とコン・リーノは鍵屋が狐のお面を使ったことを指摘する。

『判ってますよ。

 コン・リーノにいちいち言われる筋合いは無いですが』

コン・リーノの言葉に鍵屋は不服そうに言い返すと、

ムッ!

それを聞いたコン・リーノは細い目が僅かに釣りあがり、

『鍵屋さぁん。

 このような場で公私混同はあまりなさらないほうがよろいですよぉ

 私とあなたはすでに立場が違うのですから』

と注意をする。

すると、

ムッ

今度は鍵屋が不機嫌そうな顔をするなり、

『・・・・』

何かを言いかけるが、

『まぁいいでしょう。

 こんなところで喧嘩をしても始まりませんし、

 レポートはすぐに提出をします。

 それでよろしいか』

その言葉を飲み込みながらも不満そうに返すと、

『判って頂けて光栄です。

 そうそう、ぷりきゅあ…でしたっけ、

 鍵屋さんの仕事の邪魔をしたという者達…

 私の記憶に伝説の戦士と呼ばれるものにそのような名前の者がありますが、

 もっとも、伝説ですから一概にそうとは決めかねますね。

 まぁ商売の邪魔をされないように油断しないでください』

ファサッ

お尻より筆のような赤茶色の尻尾を振りはじめたコン・リーノは細い目で鍵屋を眺めつつ

神社で鍵屋の前に立ちはだかった少女たちのことを指摘する。

『はぁ…

 そんな大それた存在とは思えないけど…』

その指摘に鍵屋は5人の少女たちのことを思い出しながら呟くと、

『よろしいですか。

 我々は嵯狐津姫様の大いなる野望の実現するために存在しているのです。

 そのことくれぐれもお忘れの無いように』

細い目の隙間から鋭い眼光を輝かせコン・リーノは釘を刺すと、

『頼みましたよぉ、

 鍵屋さぁん』

と念を押す言葉を言うのと同時に

ポンッ

コン・リーノは一匹の狐に化け、

尻尾を振りつつ部屋の奥で口をあけている闇へと姿を消して行った。

『はぁ…

 白蛇堂さんの薦めもあったので、

 このギルドに参加してみたのですが、

 まさか、コン・リーノが仕切っていただなんて…

 どうも選択を誤ったみたいですね、

 さて、レポート提出後に柵良さんのところに参りますか』

コン・リーノが姿を消した後、

鍵屋は後悔をしながらそう呟きながら湯飲みを啜って見せると、

『あぁ、鍵屋さん。

 よろしかったら、

 これ使われます?』

の声と共に鍵屋の手元に脱会願が差し出されたのであった。



チチチ

チュンチュンチュン

早春の日差しは日増しに強さを増すと、

節分祭を終えた神社を白い光が照らし出し、

そして、

「うーん」

その神社を背にして巫女は大きく背伸びをした後、

勤務先である沼ノ端高校へと向かっていたのであった。

「うん、

 実に清清しい朝じゃ、

 節分より見張ってはいたが、

 もはや祠からは鬼の気配を感じることは無いし、

 ふぅ長年の痞えが取れたようじゃ」

節分の日での激戦を思い浮かべつつ、

巫女は登校してくる生徒に挨拶を交わし、

彼女の担当である医務室へと向かって行く、

だが、

最初は晴れやかだった巫女の表情が少し曇ると、

「とは言ったものの素直には喜べん。

 鬼を焚きつけ、始末した者がおるのは間違いない。

 しかも、その者は姫子のことも熟知している上、

 鍵屋にも何かをさせた…」

と巫女は自分の目の前で黒紙を使い、

鬼の顔が消し飛ばされたこと、

さらに結界の外で起こされた出来事について言及し、

「とにかく、鍵屋におうて話を聞く必要があるな、

 どうもあの娘たちの話では判らない所がある」

と巫女は鍵屋にことの詳細について尋ねる決心をするが、

「それにしても、

 随分と女子生徒たちが浮いているように見えるのぅ」

廊下や教室から見かける女子生徒たちが

妙にはしゃいでいることに気づいたのであった。

すると、

「今日はバレンタインデーですよ。

 柵良先生」

後ろから追いかけてきた三池忍が話しかけてきた。

「ん?

 忍かぁ、

 そうか、なるほど、

 今日はバレンタインデーであったか、

 いろいろ忙しかったのですっかり忘れておった」

それを聞いた巫女はハタと手を打つと、

「こんな大事な日、

 先生が忘れるなんて意外ですね」

クスッ

と笑いながら忍は指摘する。

「まぁ、いろいろと忙しかったからのぅ」

その指摘に巫女は節分のことを思い出すと、

「鍵屋さん…でしたっけ?」

と忍は鍵屋のことを指摘する。

「なっなんじゃいきなり」

忍のその指摘に巫女は驚くと、

「えぇ、

 チョコレートを差し上げるんでしょう、

 鍵屋さんに…

 結構、美形だったじゃないですか、

 もぅどれくらい付き合っているんですか?」

と忍は巫女に鍵屋との関係を尋ねる。

「まったくっ、

 近頃の娘ときたら」

その質問に巫女は考えるそぶりを見せ、

「鍵屋とわしとは何の関係も無い。

 強いて言えば鍵屋は神社への納入業者だ」

と言い切って見せる。

「あらまたぁ、

 無理しちゃって…

 判ってますって」

否定をして見せる巫女に向かって忍は笑って見せると、

「でも、何も用意してないのでは鍵屋さんに失礼ですね。

 じゃぁ、これを使ってください。

 昨日買ったものですが、

 手作りにすることにしたので余ってしまったんです」

そう居ながら忍は可愛らしく包装された小箱を柵良に手渡すと去って行く。

「あぁ、これこれ、

 このようなものは必要は無い

 鍵屋とわしはなにも関係は…」

巫女は髪を揺らして去って行く忍に向かって声をあげるが、

だが、その時には忍の姿は生徒たちの中に紛れ、

消えてしまっていたのであった。

「仕方が無い。

 これは預かり物として、

 後で返すとしよう」

追いかけるのを諦めた巫女は小箱をハンドバックに入れ、
 
閉じられている保健室のドアを開けた途端、

「おぉ、遅かったではないか」

すでに医務室の中には彼女の叔父である僧と、

コタツをこよなく愛するネコがコタツで暖を取っていたのであった。

「おっおっ叔父上っ!」

僧を指差し巫女が声をあげると、

「何をしておる、

 さっさとせねば生徒が来るであろう」

と僧は余裕たっぷりに湯気が上がる湯飲みを啜ってみせる。

次の瞬間。

ポイッ!

僧とネコがコタツごと廊下に放り出されてしまうと、

「いまから着替えじゃっ!」

の声と共に巫女はドアを閉め、

「まったく油断も隙も…」

そう言い掛けた所で、

ピタッ

巫女の手が止まり、

ジロッ

彼女の視線は自分が座る席へと向けられた。

するとそこには、

ズズズーッ

暢気に湯飲みを啜ってみせる僧の姿があり、

「叔父上ぇぇぇ

 なんの真似ですかぁ?」

と怒りに溢れる巫女の顔が僧に迫る。

しかし、

「何の真似も無かろう」

迫る巫女に僧はゆっくりと返事をしてみせると、

「叔父上っ!!」

巫女の怒鳴り声が医務室に響き渡り、

「今すぐっ

 出て行って貰えませんかぁ、

 わしはいま、そういう顔をしておるのが判りませんか!」

と僧に向かって怒鳴って見せた。

ところが、

「ん?

 念願の鬼退治を終えて、

 緩んだ顔に見えるがのぅ」

意外にも僧は落ち着いた口調で返事をして見せたのであった。

「なっ何を」

思いがけないその指摘に巫女は憮然として見せると、

「確かに祠の鬼は見事退治され、

 あそこからは害を及ぼす鬼はすべて消えた。

 じゃが、

 本当に鬼はすべて消滅してしまったのかのぅ、

 どこにも忘れ物は無いのかのぅ」

と意味深に僧は指摘する。

「そっそれは…」

その指摘に巫女は思わず言葉に詰まると、

「どれ、

 これ以上の長居は無用じゃな、

 邪魔をしたの」

言葉に詰まる巫女を横目に僧は席を立ち、

そのまま校内へと姿を消していく、

そして、

僧が去った医務室には

「ありえんっ、

 鬼はすべて滅したはずじゃ」

と呟く巫女の姿があった。



キーンコーン!!

校内に放課後を知らせるチャイムの音が響き渡り、

一呼吸を置いた後、

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

男子の絶叫がこだまする。

「ん?」

その声が耳が入った巫女は顔を上げると、

「唐かぁ…」

と呆れたように呟き、

「相変わらず懲りない奴じゃのぅ」

そう言いながらつけていた業務日誌に続きを書こうとする。

すると、

ドドドドドド…

医務室に向かって足音が迫り、

グワラッ!

いきなりドアが開けられると、

「さっ柵良先生っ!」

の声と共に生煮え状態の唐渡が駆け込んできたのであった。

「なんじゃ、唐っ

 治療などは行わぬぞ」

日誌から目を離さずに巫女はそう告げると、

「そんなことを言わずに治療をしてくださいよぉ、

 ほらっ、

 こんなに怪我をしているんですからぁ」

と渡は猫なで声でそう言いながら巫女に擦り寄ってみせる。

「なっ、

 誰がじゃっ」

バキッ!

持っていたボールペンを握り潰して巫女は怒鳴り声を上げたとき、

『見つけたぁ!』

の声が廊下から響き渡ると、

カッ!

閃光と共にドアが吹き飛ばされ、

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

電撃を浴びる渡の絶叫が響き渡った。

「なにっ!」

突然の電撃に巫女は驚くと、

『見つけたわよっ

 さっさと私のチョコを貰いなさいっ』

の声と共に頭に角を生やし、

長い髪とグラマナスなスタイルにトラジマビキにを身につけた鬼に変身をした忍が

空を飛びながら飛び込んできたのであった。

その途端、

「あ゛〜〜〜〜っ!」

渡の絶叫よりも大きく巫女の声が響き渡り、

「え?」

『は?』

巫女のその声に二人は何事かと顔を向ける。

そしてその視界には

「しっしっしもうた。

 お主がまだおったことを忘れてた」

と目をまん丸に剥きながら巫女はそう呟き、

ガックリと膝を落としてみせたのであった。



【…本当に鬼はすべて消滅してしまったのかのぅ、

 どこにも忘れ物は無いのかのぅ…】



うな垂れる巫女の脳裏に叔父の声が繰り返し鳴り響く中、

「なんということだ、

 すべてを滅したと思っていたわしが迂闊じゃった」

床に手を付き巫女はそう呟くと、

『どうしたんです?』

と宙に浮きながら忍は理由を問い尋ねる。

すると、

キッ!

巫女は顔を上げて忍を睨み付け、

「ちょっと来いっ、

 重大な話がある」

と言うなり彼女のの手をとり、

さっさと表へと連れ出して行った。



『えぇ!

 あたしを封印するって、

 それって、どういうことですか?』

神社の社務所に忍の驚いた声が響き渡ると、

「いや、

 封印といってもお主の”鬼”を封じるだけじゃ」

と巫女は言い、

「実はの…」

事情を話し始める。

『はぁ…そういう事情なら仕方が無いのですが、

 でも、結構気に入っているんですけど、

 この体…』

と巫女より事情を聞かされた忍は鬼の娘と化している自分の体を見て見せる。

「まっまぁ…

 そこは堪えてくれぬか、

 鬼はすべてを滅したいのでな」

そんな忍に向かって巫女はすまなさそうに言う。

『判りました。

 確かにあたしが持っている鬼の力が何かの弾みで他に広がってしまったら、

 取り返しが付きませんですよね。

 いいです。

 お返しします』

巫女のその表情を見て忍は決意すると、

「助かる…」

それを見た巫女は安堵した表情を見せる。

すると、

『ところで柵良さん、

 もぅチョコを鍵屋さんに渡しのですか?』

忍は尋ねた。

「はぁ?

 なっなにをいきなり」

突然話が変わったことに巫女は驚くと、

『そっかぁ、

 まだあげてないんですね、

 で、鍵屋さんとはいつお会いになるのですか』

と問い尋ねる。

「いっいまはその話とは関係ないじゃろうが」

動揺しているのか巫女は声を震わせて反論をすると、

『早く鍵屋さんが来てくれるといいですね』

と忍は言った途端、

「大きなお世話じゃ!」

巫女の怒鳴り声が響いたのであった。



そして、その社務所の外側では

「いったい、俺を抜きで何を話しているのだ」

壁に張り付き聞き耳を立てている渡がそう呟いていると、

『君っ

 そこで何をしているのです?』

と鍵屋の声が響いた。

「!!っ

 やばっ」

突然、鍵屋に話しかけられた渡は慌てて逃げ出すと、

『柵良さんのところから逃げ出すとは怪しい奴、

 待ちなさいっ』

逃げる渡を見て鍵屋はすぐに追いかけるが、

「待てといわれて、

 待つ奴なんていませんよぉ」

の声を残して渡は逃げ足早く駆け抜け、

『待ちなさい!』

その渡を鍵屋は追いかけて行く。

神社の境内でそんな鬼ごっこが行われているとは露知らず、

「そうなのよ、凛ちゃんっ、

 ココたらねっ」

授業を終えた夢原希以下5人が神社に続く道を登ってくると、

その姿が渡の視界に飛び込んできた。

そして、次の瞬間、

「ねぇねぇ、君、

 僕とお茶しない?」

と希に声を掛けながら渡は彼女の手を握り締めてみせたのであった。

「はぁ?」

突然のモーションに希はキョトンとして見せると、

「こらぁ!

 あなたは2年B組の唐君でしょう。

 もぅ希から手を離しなさいよ」

それを見た夏木凛が渡を指差して怒鳴るが、

「いやだなぁ、

 手を離せって…

 そんなに僕のことが魅力的ですか?」

と今度は凛の手を握り歯をキラリと輝かせて見せる。

「だれが、あんたとぉ」

笑顔の渡に向かって凛は殴りかかろうとしたとき、

パッ!

いきなり渡は姿を消し、

「やぁ、春日野麗さんですよね。

 僕とお茶しない?」

と今度は麗に声をかけ、

さらに、

「ねぇねぇ、秋元さんっ、

 いま時間あるかな?」

「水無月さんっ、

 あなたの趣味に合いそうな喫茶店を見つけたんだけど」

と渡は次々とモーションを掛けていった。

「さっすが、

 沼ノ端高校No1の尻軽男、

 はっきり言って手当たり次第ね」

小町、可憐と口説いて行く渡を見ながら凛は呆れて見せる。

そして、

「でも、

 唐君には御蔵さんって子が居たんじゃぁ?」

と希は忍のことを指摘しながら何気なく渡が来た方向を見ると、

『こらぁ、

 君っそこで何をしているっ!』

そこには渡を追いかけてきた鍵屋が姿を見せたのであった。

それを見た途端、

「あっ!」

希は声を挙げ、

「みんなっ!」

と仲間たちに声を掛けると、

「あなたは!」

希に声を掛けられた4人は一斉に鍵屋を睨み付ける。

『しまった。

 君達は!』

まさにばったりと出会ってしまった形になってしまった鍵屋は思わず絶句してしまうと、

「うんっ」

少女達は希を見つつ頷いてみせ、

「ぷりきゅあ・めたもるふぉーぜ!」

と声を揃え、

バッ

バッバッバッバッ!

5着の制服が宙に舞いあがったのであった。



「ここでいいのですか?」

結界が張られた社務所の奥の部屋で

鬼娘の姿をした忍が尋ねると、

「うむ」

払い串を片手に持つ巫女は頷いてみせる。

「この中で封印をすれば、

 二度と鬼は祠には宿らん」

鬼の完全制圧が頭にある巫女はそう計算をしながら、

「では参るぞ」

と忍に声を掛ける。

そして、

バッ!

大きく払い串を構えると、

「払いたまえ…

 清めたまへ…」

そう口ずさみ出した。

一方、鬼封じの祠の近くでは、

「ふんっ!」

レスリング部のシングレット、

料理研究会のエプロン、

光画部のジャージ、

相撲部の廻し、

水泳部の競泳水着を身にまとった5人の少女たちが横一直線に並び、

闘魂たくましく、

「希望の力と、

 未来の光っ、

 華麗に羽ばたけ、

 5つの心っ、

 いえすっ、ぷりきゅあ・ふぁい部!」

と声をあげたのである。

『まずいっ

 不審者を追ってきたのですが、

 これではわたしが不審者ですね』

対峙する少女たちを見て、

鍵屋はそそくさと立ち去ろうとするが、

「お待ちなさい」

「逃がしはしないよ」

「決着をつけてあげますわ」

立ち去ろうとする鍵屋を少女たちは引きとめて見せる。

だが、

「ねぇねぇ君たちぃ、

 制服姿もいいけど、

 その姿もなかなか格好いいよぉ

 それってコスプレっていうんでしょう」

と言う声と共に渡が中に割って入ると、

”きゅあ・どりーむ”の手を握り締めたのであった。

「ちょっと、邪魔よ、

 どいてよ」

ある意味、少女たちの前に立ちはだかった格好になってしまった渡に向かって、

”きゅあ・るーじゅ”はそう命じるが。

「そんな…

 僕に退けだなんて…

 なんでいじらしいんだ」

と渡は”きゅあ・るーじゅ”の手を握り締めてみせる。

すると、

『この隙に…』

少女達の注意が渡に向けられたのを感じ取った鍵屋はそそくさと逃げ出してしまうと

「あぁっ、

 あいつが逃げてしまうわ」

去って行く鍵屋を指差し、

”きゅあ・みんと”が声をあげる。

「あぁ、

 逃がすなっ!」

「もぅ、どいてよ!

 邪魔よ」

少女たちは鍵屋を追いかけようとして、

言い寄る渡を押しのけるが、

「そんなぁ、

 折角お知り合いになったんだからぁ

 もっといろんなことを教えてよぉ」

渡も負けじと食い下がる。

「どきなさいっ」

「いやだ」

「どきなさいって」

「いやだぁ」

少女達と渡の押し問答は続き次第に大声での騒ぎへとなり。

その声が社務所に届いたのであった。

その途端、

『・・・・・・むっ!』

巫女の御払いを受けてた忍の表情が変化し、

カッ!

閉じられていた目が見開くと、

『渡ったら、

 私のチョコを貰わずにまた女の子にちょっかいを出している』

と呟いたのであった。

そして、フワリと体が浮き上がり、

社務所の部屋から出て行くと、

「あぁ、

 これ、どこに行く。

 まだお払いは終わっておらんぞ」

と追いかけ注意をする巫女を無視して表へと飛び出し、

「だからぁ!」

「あぁもぅ、寄らないでよ」

「こっちにこないで」

社務所向こうの雑木林で

渡がスポユニに身を包んだ少女達を追いかけているのが目に入ったのであった。

そして、それを見た途端。

パリッ!

パリパリパリ…

忍の体に行く筋もの放電現象が起き、

「くぅぅぅぅぅぅ…

 渡ったら

 女の子を追い掛け回してぇ」

と呟くや否や、

ゴワァ…

忍の体から鬼気が湧き上がると、

バリバリバリバリ!

彼女の右脚に放電が一斉に集まり、

雷エネルギーでできたボールへと成長してゆく。

「忍っ

 落ち着けっ、

 気を休めるのじゃ!」

激しく鬼気を沸き起こさせる忍の姿を見た巫女は慌てて話しかけるが

だが、

巫女の声は既に忍には届かず、

フワリ、

彼女の体が見る見る空へと上っていき、

そして、

『このぉ!

 浮気者ぉぉ!』

の声と共に忍の脚が高く上がり、

バリバリバリ!

ズドンッ!

眼下の渡めがけて忍のキックが炸裂したのであった。

「いかんっ!

 その先には祠が!」

空間を切り裂き稲妻となって落ちて行く忍と、

渡を結ぶ2点の延長線上には浄化したばかりの鬼封じ祠があり、

「うぎゃぁぁぁぁ!!!」

キックの直撃を受けた渡が悲鳴を上げながら弾き飛ばされてしまうと、

バァァァン!

祠の壁に叩きつけられてしまうと、

ビシッ!

背後の壁に鬼の文様が大きく描かれ、

主を失っていた祠に鬼気が注がれて行く

そして、

「あっあっ

 なんということじゃぁ!!!」

渡を追って巫女が祠に駆けつけたときには、

コォォォォ…

祠には満ち溢れんばかりの鬼気が宿り、

節分の日に彼女が行った決戦は無意味となってしまっていたのであった。



「どうする?」

「うーん」

祠の壁に叩きつけられ、

電撃とあいまってボロボロになってしまった渡を眺めながら、

”きゅあ・どりーむ”他の少女達は話し合うと、

「あの男の人も見失ってしまったし、

 今日は帰りましょう」

と言うどりーむの提案がされ、

「やれやれ、

 とんだ草臥れ儲けだわ」

「まぁまぁ」

そんな声を掛け合いながら制服に着替えた少女達は階段を下りて行く。

そして、

「さっ柵良さん、

 治療を…」

半分黒焦げになった渡が

駆けつけた巫女に縋り寄ろうとすると、

「ふんっ、

 ”鬼に土器”と喩えもあるが、

 お主の今の状況はまさにそれじゃの」

渡を見下ろしつつ巫女は肩を震わせながら告げると、

クルリ

背を向けて社務所へ向かって歩き始めた。

そして、

「唐めぇ!

 わしの苦労をすべて無にしおってぇ!」

行き場の無い怒りに巫女は文句を言っていると、

『あっ、柵良さぁん』

ようやく柵良を見つけた鍵屋が声を掛けるが、

「鍵屋か、

 すまんっ、

 いま、お主と話をしている暇は無いっ、

 これをやるから、今日は帰っていいぞ」

鍵屋に向かって柵良は言うや否や、

ズンッ!

包装された小箱を突きつけると、

スタスタ

と社務所へと向かっていったのであった。

『え?

 なんですか?

 これは?』

去って行く巫女を見送りながら鍵屋は立っていると、

シュンッ!

鍵屋の前を重傷を負ったはずの渡が駆け抜け、

『待てぇぇぇ!』

その後を相変わらず鬼娘姿の忍が追いかけてくる。

そして、鍵屋が持つ箱を見た途端、

ピタッ!

忍は立ち止まり、

『あっそれって、柵良さんから貰ったの?』

と問い尋ねる。

すると、

『えぇ、まぁ』

鍵屋はキョトンとしながら返事をし、

『そっかぁ、

 やっぱり…鍵屋さんのことが』

それを聞いた忍は歓心する振りをして見せるが、

ピクッ!

『そこに隠れても無駄よ!』

近くに潜む渡の気配を察知するや否や、

バリバリバリ!!!

潜む渡に向かって電撃を放ち、

『さぁ、

 わたしのチョコを貰いなさぁぁぃ!』

の声と共に黒焦げになりながらも逃げて行く渡を追い掛け始めたのであった。



『柵良さんから頂くプレゼントと言うのは…

 そんなに凄いことなんでしょうか』



おわり