風祭文庫・モノノケ変身の館






「節分合戦」
(後編)


作・風祭玲

Vol.928





「みんな、大変ですぅ」

社務所の中に春日野麗の上ずった声が響き渡ると、

「どうしたの?

 麗ちゃん」

何かを感じ取った浩二と共に居る希達が一斉に振り返った。

すると、

「あの、柵良先生が向かっていった鬼封じの祠の周辺で

 鍵が閉まる物音がしたと思って行ってみたんですけど、

 変な霧が立ち込めていて…

 これはきっと何かが起きたに違いありません」

麗は鬼封じの祠の周囲で発生した怪現象について説明をする。

それを聞いた途端、

「みんな!」

凛、小町、可憐に向かって声をあげると、

「えぇ、

 行きましょう!」

4人は一斉に立ち上がり、

「ココっ、

 ちょっと留守番してて、

 ぷりきゅあ・ふぁい部!

 出動!」

の声と共に少女たちは鬼封じの祠へと駆け出して行く。



『はぁ…

 門番役を引き受けたものの、

 こうも暇だと…』

壁のように立ちはだかる結界の霧を背にして門番をしている鍵屋だが、

『内側から鍵を掛ければよかったでしょうか』

と実質上何もすることがなくなってしまったことを悔いていた。

『はぁ…柵良さん達、

 大丈夫でしょうか』

後ろの様子を気にしつつ鍵屋は暇そうにため息をついていると、

「みんなっ、

 あれよ!」

「うわっ、

 何これぇ!」

「希さんっ、

 これって怪現象って言うものでしょか」

「バカ言ってないで、

 世の中には不思議なことなんて何も無いのっ!」

「でも…あったでしょう?

 カエルさんの事件が…」

社務所を飛び出してきた巫女装束姿の少女達が

鍵屋のほうを眺め驚きの声を声をあげるのが眼に入る。

「おやぁ、

 あの子達は…

 神社の関係者でしょうか。

 困りましたね。

 いくら神社の関係者といえども、

 ここを通すわけにはいきません…」

驚きながらも装束を翻して向かってくる少女たちをの姿に鍵屋は徐に立ち上がり、

パンパン

マントの裾をはたいて見せると、

スッ

手にしていた鍵杖を構えて見せる。

そして、少女たちが目の前に迫ったとき、

『お嬢さん方。

 残念ですが、

 ここより先は危険ですので通すわけには行きません!!』

と警告をしながら希たちの前に立ちはだかったのであった。

「誰?」

「うわっ、

 見るからに妖しい奴」

「シルクハットにタキシード?

 何のコスプレでしょうか?」

「あのぅ、通してくださいませんか?」

「すみません、急いでいるんです」

鍵屋に向かって少女たちは一斉に文句を言いだすと、

『なんででもですっ。

 ここよりは何人たりとも通しはしませんよ』

その声を精するように声を上げ、

鍵屋は手にしている鍵杖で地面を叩いてみせる。

すると、

ズズンッ!

ドォォォン!

霧によって封印されている奥から何かが暴れている音が響き渡る。

『おっとぉ、

 始まりましたねぇ』

それを背中で聞きながら鍵屋はそう呟いたとき、

「やっぱり、何かが起きているんだ。

 みんなっ、

 行くわよ」

と希の声が響き、

「なにがあっても通させてもらいます」

そう言いながら鍵屋に向かって突撃してくる。

『やれやれ、

 仕方がないですねぇ』

向かってくる希たちを見ながら鍵屋はため息をつくと、

『女の子ですし、

 少し驚かせば逃げ帰るでしょう。

 試作品の効果を見るようにとも言われていますしね。

 えっと、適当なところに投げるのですね』

と懐よりさっき巫女に制止させられたものを取り出し、

シュッ!

っと放り投げてみせる。

「え?」

鍵屋の手から放たれたものに少女達の視線が注がれる中、

クルクルとそれは空中を回りながら落下し、

カポッ!

っと稲荷の前にあった狐の置物に覆いかぶさって見せる。

「狐のお面?」

狐の置物に被さった物、

それは嘴のように口を突き出している”狐のお面”であった。

『で、スイッチを入れる。と』

お面が置物に被さったのを確認した鍵屋は持っていた鍵杖を徐に振り上げ、

ドン

っと鍵杖で地面を叩いて見せると、

シュワァァァァァ!!!

モコモコモコモコ!!!

狐のお面の周囲から黒い影が沸き立つように盛り上がり、

それらが見る見る実体化していくと、

『オキツネコンコン、

 コン・わいなぁ〜!!!』

の声と共に額にお面を貼りつけた漆黒色の巨大狐が立ち上がったのであった。

「きゃぁぁ!」

「なっなにこれぇ!」

「なんて罰当たりなことを」

まるで行く手をさえぎるように姿を見せた狐に少女たちは驚くと、

『ほぉ、

 これは驚きましたね。

 でも、

 悪いことは言いません。

 速やかにお戻りください』

狐の頭の上に鍵屋は乗り、

希たちを見下ろしながら警告をする。

「だっ誰が!」

そんな鍵屋に向かって希が声を張り上げると、

「みんなっ!」

仲間たちに声をかけ、

コクリ

5人全員が頷いて見せると、

「ぷりきゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

の声と共に5本の手が空に伸び、

バッ!

バッ

バッバッバッ

5着の巫女装束が空を舞い踊る。

そして、

その装束がゆっくりと地面に落ちていくと、

「希望の力と、

 未来の光っ、

 華麗に羽ばたけ、

 5つの心っ、

 いえすっ、ぷりきゅあ・ふぁい部!」

の声と共に各々の部活で使っているユニフォーム

いや、バトルコスに身を包んだ5人の少女たちが

気合十分に鍵屋を見上げてみせたのであった。

『ほほぉ…

 なかなか頼もしそうなお姿になりましたね』

変身をした少女たちを見下ろしつつ鍵屋は感心しながら、

『どうしても来るというのなら、

 見せてもらいましょうか、君たちの力を』

その言葉と共に

コンッ!

鍵杖で乗っている狐の額を叩くと、

『コン・わいなぁ〜!!!』

巨大狐はそう声を上げ、

グッ!

と身構えてみせる。

すると、

ブワッ!

狐の背後から無数の尻尾が沸き立ち、

少女たちに襲い掛かったのであった。

だが、少女たちは逃げるどころか一歩も引かず、

パァンッ!

乙女の柔肌に締めこまれた緑色の廻しが叩かれると、

「大地を揺るがす乙女の怒り、

 受けてみなさい!!!

 ぷりきゅあ・みんと・しーるど!!!」

きゅあ・みんとの声が轟き、

パンッ

パンッ

パンパンパン!!

迫る漆黒の尻尾を相手に強烈な張り手が繰り出された。

すると、

『コン・わいなぁ〜!!』

少女たちに襲い掛かった尻尾はまるでバリアに弾かれるかのように動きを止め、

ジリジリと後退を余儀なくされていく。

『なるほど…

 少しは力があるようですね』

それを見た鍵屋はそう言いながら鍵杖をコツンと叩いてみせると、

『コン・わいなぁ〜!!!』

後退していた尻尾は向きを変え、

真横から少女たちに襲い掛かろうとするが、

「純情乙女の炎の怒りっ

 受けてみなさい!

 ぷりきゅあ・るーじゅ・ばーにんぐぅ!」

「岩をも砕く乙女の激流受けてみなさい!!

 ぷりきゅあ・あくあ・とるねーど!!」

の声が轟き、

ゴワッ!

バシャァァァ!!

炎と水が鍵屋が操る前足の動きを止めてみせる。

『なんと、

 火と水を、

 一体、どこから』

思いがけない攻撃に鍵屋は驚き、

改めて少女たちを見直すと、

”きゅあ・あくあ”の手には

神社を火災から守るために敷設されていた消防用のホースが握られ、

一方、”きゅあ・るーじゅ”の背中には

社務所で使っていたガスボンベとコンロが背負っていることに気づいたのであった。

『いやぁ、

 すでにそこまで用意をしていたとは、

 これは参りましたね、

 ではこうしましょうか』

その存在に気づいた鍵屋はシルクハットを被りなおしつつ鍵杖をコンッと叩いて見せると、

『コン・わいなぁ〜!!』

漆黒の狐は大きく声をあげ、

そして、

ズゾゾゾゾゾゾ!!!!

無数の尻尾を一斉に引いて行くと、

腰を挙げ、

ズシン!

ズシン!

と足音を立てながら少女達に迫って見せる。

「うわぁぁ」

迫る狐に少女達は思わず後ずさりしてしまうと、

「どりーむ!

 こいつ、

 手ごわいぞ!」

と”きゅあ・るーじゅ”の声が響き渡り、

『はははは、

 これでは手が出せないでしょう。

 さぁ、痛い目にあわないうちに大人しく戻りなさい。

 でないと怪我をすることになりますよ』

苦戦する少女たちを見下ろしながら鍵屋は警告をするが、

「だれがぁ!」

「あたしたちは絶対に諦めたりしない」

と少女たちは気勢をあげ、

「うりゃぁぁぁ!」

立ちはだかる狐に向かって突撃していく、

『まったく、

 諦めが悪い…

 そんなに痛い目にあいたいのですかぁ』

そんな少女たちの姿に鍵屋は鍵杖で再び叩くと、

『コン・わいなぁ〜!!!』

その声と共に狐の前足がゆっくりと引き上げられ

少女めがけて一気振り下ろされる。

だが、

「あたしに任せて!!」

”きゅあ・みんと”の声が響き渡ると、

ズンッ!

狐の前足を受け止めて見せたのであった。

『なんと!』

その姿に鍵屋は驚くが、

「ふんぬっ!

 あら?」

前足を受け止めた”きゅあ・みんと”が何かに気づくと、

「みんなっ、

 意外とこれ軽いわ!」

と狐が体の大きさに対して重量が軽いことを指摘した。

「そうか、

 元はお面だからそんなに重さは無いんだ」

「だからさっきのあたし達の攻撃に尻尾が止まったのね」

”きゅあ・みんと”の指摘に”きゅあ・るーじゅ”と”きゅあ・あくあ”が声をあげると、

「どすこーーぃぃっ!」

”きゅあ・みんと”は掛け声と共に

一気に前足を上に向かって放り投げて見せた。

すると、

『コン・わいなぁ〜』

の声と共に狐はあっさりとひっくり返ってしまい、

『うわっ』

同時に鍵屋も地上に落ちてしまうが、

『くっまだまだ』

倒れることなく着地をして見せた鍵屋は少女達を見つめつつ

再度鍵杖を振ろうとしたとき、

『あれっ?

 これではまるでわたしが悪役ではありませんか?

 それでは困ります。

 どこで間違えたのでしょうか?』

と自分の立ち位置について気づいたのであった。

そして、

『ちょっとぉ、柵良さぁん。

 ちゃちゃと終わらせてくださいよぉ』

後ろの霧に視線を動かし鍵屋は小言を言うが、

そのころ、霧の中では、

ゴワァァァ…

猛烈な鬼気をまとい、

ギンッ

不気味に輝く目を見開いた鬼に向かって

『ほらほら

 鬼さんこちらぁ!

 手の鳴る方へっ!

 あたしの体が欲しいんでしょう?』

と姫子の声が響き、

コォーホー

コォーホー

ズシン!

ズシン!

時に体を崩しながら逃げ回る姫子を鬼は追いかけていたのであった。

そして、その鬼の後方からは、

「何をしている!

 左っ、

 弾幕が薄いぞ!」

的確な巫女の指示の元、

「判っていますって!

 鬼はぁぁぁ

 うちぃ!」

敦は声を張り上げながら、

マシンガンの引き金を引くと、

ブォォォォ!!!!

鬼に向かって豆の弾幕を張ってみせる。

すると、

『鬼はぁーうちぃ!』

右翼より腕まくりをした黒蛇堂が情け容赦なく豆を鬼に打ち込むと、

ゴワァァァ!!

背後を撃たれた鬼は絶叫を上げるが、

だが、決して振り返って敦や黒蛇堂に襲い掛かることはせず、

ただひたすら姫子を追いかけていたのであった。

「あいつは馬鹿か?

 散々背中を撃たれているのに振り返りもしない」

まさにガン無視されてしまっている敦は呆れると、

「だからと言って、

 手を抜く出ないぞ!」

と巫女は警告をする。

「判ってますって、

 ところで…、

 なんで”鬼はうち”なんです?」

敦は言葉の違いについて巫女に尋ねると、

「決まっておろうがっ、

 ”鬼は外”では鬼が出て行ってしまうじゃろうがっ、

 そうなっては元も子もない。

 あくまで鬼はこの場から一歩も出さない。

 だ・か・ら、

 ”鬼はうち”なのじゃ!」

と巫女は返事を返す。

「なるほど…」

巫女の返答に敦は頷くと、

『きゃっ!』

姫子の悲鳴が響き、

コォーホー!!

いつの間にか姫子に迫っていた鬼は、

銀色を見せている姫子に掴みかかろうとしていた。

「このぉ!

 姫子に触れるんじゃねぇぇぇ!!」

それを見た敦は気合を入れ直し、

カチン!

鬼に向かって引き金を思いっきり引くと、

ブォォォォン!!!

ズゴゴゴゴゴ!!!

轟音と共に豆が飛び、

バキキキキン!

豆が当たる鬼の体が削られ抉られていく、

ゴワァァァァァ!!!

背後から豆を打ち込まれながら鬼は絶叫を上げると。

ガコンッ!

ブンッ!

ブンッ!

ようやく金棒を手に周囲に向かって振り廻し始めるが、

だが豆の直撃を受けた鬼の体から砂がこぼれ始めていたのであった。

「いいぞ、

 巨大化し頭の回転の鈍くなった鬼の注意を姫子一点に向けさせ、

 後方から盛大に豆を食らわせ削り取る。

 そして鬼を弱らせた後に一気に”くらいまっくす”じゃ。

 急場しのぎで考えた作戦じゃが、

 これはなかなか使える…」

昨年までの激闘を思い浮かべながら巫女はそう呟くと、

「鬼が出るか、蛇が出るか。

 なかな先が読めぬが、

 ここは気を抜くところではない。

 一気に叩のじゃ」

と声をあげ、

ブォォォォォォォッ!!

巫女もまた担いでいた黒蛇堂のロゴが入るガトリング砲の引き金を引いたのであった。

その一方で、

壮絶な戦いを横で見ていた業ライナーがゆっくりと動き始めると、

鬼の周囲をめぐる周回軌道を走り始める。

『ほほほほ…

 本当は傍観しようと思っていましたが、

 このような面白い企画を黙って見ているわけには行きませんなぁ

 ここはひとつサービスということで…』

ライナーのオーナーである業屋はチャーハンに舌鼓を打ちながら、

『思いっきりやっちゃってください』

とコクピットに連絡を入れる。

すると、

『まったく、

 天界の神もとんだ過ちを犯したものだ。

 このような厄介者は天界で面倒を見るべきなのに、

 何で人間界に置いておくのか』

文句を言いながら顎長の男はライナーの運行をつかさどる業バードに跨り、

ハンドルにあるボタンを押すと、

ジャコッ!

ジャキン!

業ライナーの各部が一斉に開いてバトルモードへと変形する。

そして、

『鬼はぁぁぁうちぃぃぃ!』

顎長の男の声がコクピットで盛大に響き渡るのと同時に、

ズガガガガガガガガガ!!!!!

ズドドドドドドドドド!!!!!

周回軌道を走る業ライナーより一斉射撃の音がこだまし、

鬼に向かって集中砲火を浴びせ始めた。

ゴワァァァァァァォォォォン!!!!

猛烈な攻撃を受けた鬼は堪らなくなると、

絶叫を響かせ、

ザラザラザラ…

体から零れ落ちる砂は幾筋の川となって地面に落ちていく、

そして、

ズンッ!

ついに立つことができなってしまうほど力をなくしてしまうと、

体を倒し四つん這いになってしまったのであった。

「よし、

 よし、

 よしっ」

豆による猛攻撃を受け確実に弱って行く鬼を見上げながら巫女は頷くと、

『柵良さん、

 これをお使いください。

 対鬼封印の銃です。

 吸血鬼退治用のを改良しました』

黒蛇堂の声と共に巫女に向かって一丁の拳銃が投げられる。

「助かるっ」

巫女は拳銃を受け取り、

スチャッ

最後の足掻きを見せる鬼に向かって照準を合わせるが、

ゴワァァァァン!

四つん這いになっても鬼はなおもしぶとく暴れ、

巫女はなかなか照準を合わせることができなかった。

「ちっ、

 無駄な悪あがきを、

 大人く砕け散り

 さっさとネコを開放せぬかっ」

定まらない狙いに巫女はいらだってくると、

タタッ!

巫女の横を人影がすり抜け、

『神の過ちって…兄貴は言うけど、

 もぅ、こんな大騒ぎにしちゃって、

 来年もこんなことをやる気ないでしょう?』

呆れ顔モードの白蛇堂は鬼に向かって走りながら、

その右手より一振りの鞭を伸ばし、

『まぁ、

 節分って言うお祭りだから大目に見てあげるわ』

の声と共に大きく振りかぶるが、

ゴワァァ!

迫る白蛇堂を追い払うかのように鬼の腕が動き、

白蛇堂を一気に引き裂いた。

だが引き裂かれた白い衣装がその場にフワリと落ちると、

『残念っ』

白蛇堂の声が上から響き渡り、

シュルッ

鬼の首に鞭が巻きついた。

ゴワァァァ!!!

巻きついた鞭を振りほどこうと鬼は暴れようとするが、

『ふふっ、

 どこを見ているのっ

 あたしはここよ』

周回軌道を走る業ライナーにたどり着いていた白蛇堂の声と共に、

グンッ!

鞭は一気に引っ張られ、

グォォォォ!!!

首を鞭で絞められた鬼は上体を起こし大きくえびぞって見せる。

そして、

『いまよっ!』

業ライナーのドアからショートパンツ姿の白蛇堂が声をあげると、

「鬼よっ

 これで終わりじゃ!!

 悪鬼、退散っ!」

巫女の声が響き、

ドォォン!!

鬼に向かって銀の豆が放たれた。

ビシッ!

『ゴワァァァァ!!!』

巫女が放った豆に鬼は胸を打ち抜かれると

絶叫と共に

ドザァァァァァ!!!

その体からは堰を切ったかのごとく怒涛のごとく砂が噴出するが、

しかし、

タンッ

巫女は構わずに飛び出すと、

崩壊してゆく鬼の体を一気に駆け上がり、

まだ健在の鬼の額に銃を突き付ける。

そして、

「鬼っ、

 誰に吹き込まれた?」

と問い尋ねたのであった。

「え?」

その巫女の問いに皆が一斉に驚くと、

「今年に限り、

 このような手の込んだ真似するとは、

 どう考えてもおかしい。

 言えっ、誰に吹き込まれた。

 姫子と鍵屋をここに呼び寄せ、

 お主に決戦を起こさせるよう唆した奴じゃ」

巫女はそう声を荒げると、

『ゴワァァァ…

 サ・キ…』

と鬼の口から名前らしき声が漏れる。

その途端、

ピタッ!

どこから飛んできたのか、

いきなり鬼の顔に黒い紙らしき物が張り付くと、

ズォォォッ!!!!

紙は一気に広がり、

鬼の顔を飲み込み始めた。

「なにっ!」

突然の事態に巫女は慌てて飛び降りるが、

バキッ!

ズドォォォン!

紙に顔を飲み込まれてしまった鬼は一気に崩壊してしまうと、

たちどころに業ライナーや巫女たちを飲み込んでいく。



ズゴゴゴゴゴゴン!

ズズンン!!

ズゴォォォォォン!

鍵屋の背後に立ち込める霧の奥から鈍い音が響き渡り、

追って、

グワォォォン!!

得体の知れない獣の絶叫が響き渡ると、

『よしっ、

 決着がついた様ですね。

 これで私の仕事も終わりですね』

鍵屋は安堵してみせると、

「どりーむっ、

 この場でモタモタしている暇はないわ」

と”きゅあ・あくあ”が声をあげ、

「みんなっ、

 いくわよっ」

その声を受けて”きゅあ・どりーむ”の声が響くと、

「いえすっ!」

その声に応えるように皆の声が揃う。

そしてそれを合図にして

ダダダダッ!

5人が鍵屋に向かって突撃してくる。

『なにっ』

迫る少女達の姿に鍵屋は驚くと、

「はいっ」

トン!

トン!

トトトン!

『え?

 わっ

 私を踏み台にした!』

シルクハットを落としながら鍵屋の声が響くのと同時に、

言葉のごとく鍵屋を踏み台にした5人は宙を舞い、

「目標はあの狐のお面よ!

 ぷりゅあ・ふぁい部・えくすぷろーしょん!!」

”きゅあ・どりーむ”のその言葉と共に宙を舞う五人は手をつなぎ、

『コン・わいなぁ〜!!!』

巨大狐の額についている狐のお面に向かって一点加重攻撃を仕掛けたのであった。

ズドォン!

パァァン!!

少女たちのキックを受けた狐のお面は瞬く間に砕け散り、

お面を失った巨大狐は

『コン・わいなぁ〜!!!』

の声を残して雲散霧消していく。

『しまった。

 これは侮っていましたね』

衝撃のシーンに鍵屋は驚きつつも冷静な口調でそう呟くと、

『さらばです、また会いましょう』

の声と共にマントで体を隠すように

フッ!

その姿を消し、

それと同時に、

カチャンッ!

霧の向こうから鍵が開く音が響き渡る。

だが、

ズゴゴゴゴゴ…

鍵が開いた霧の向こうより地響きが響き渡り、

ブワッ!!!

轟音と共に濛々たる砂が一斉に押し寄せてくると、

「うわぁぁぁ!!!

 なにこれぇ!」

たちどころに少女たちは押し寄せる砂に押し流されていくが、

その砂に埋もれるのもわずか一瞬のことであり、

瞬く間に砂が消えてしまうと、

「あら?

 あれ?」

少女たちの前には何事もなかったかのように祠が建っていたのであった。

そして、

ノソッ

同じように何事もなかったかのように祠からネコが姿を見せ、

少女達の方へと向かってくると、

ノソッ

ノソッ

っと少女たちの脇を通り過ぎ、

ネコは学校へと下りて行く階段へと向かっていったのであった。



「お主ら、

 こんなところでなんて格好をしているのじゃ」

キョトンとしながらネコを見送る少女たちに向かって巫女の呆れた声が響り、

「わっ、

 なんのコスプレですか?」

と困惑する敦の声が追って響く。

「え?」

「キャッ!」

「あっまぁ…」

「クショッ!」

「うぅ寒い…」

巫女と敦の声に我に返った少女たちは

慌ててさっき放り投げた巫女装束を取り、

社務所へと消えていくと、

「なかなか面白そうな女の子たちですね」

と姫子は見送りながら少女たちの感想をいう。

「まぁなっ」

そんな5人を見送りつつ、

巫女は苦笑いをして見せ、

「さぁ、夕方から節分祭じゃ、

 祠の鬼も無事退治したし、

 今年は存分に祭りを楽しもうぞ」

と姫子と敦に言う、

そして、振り返りながら

「どうじゃ、

 黒蛇堂と鍵屋も…」

と言いかけるが、

巫女の背後には黒蛇堂と鍵屋の姿は無く、

「なんじゃ、

 もぅ帰ってしまったのか、

 礼を言いたかったのにのぅ」

フォォォォン…

亜空間へ向けて走り去っていく業ライナーを見送りつつ、

巫女はそう呟いていた。



「ほぉぉ…

 神社を包んでいた鬼気がきれいさっぱり晴れおったか

 やりおったようじゃのっ」

沼ノ端高校の屋上で神社を眺めていた僧が感心したように呟くと、

ノソッ

僧の背後に小山の影が迫る。

「ん?」

その気配に僧が振り返ると、

『・・・・・・』

そこには夕日を背にしたネコが立ち、

じっと僧を見つめている。

「おぉ、

 どこに行っておったんじゃ?

 何も言わずに居なくなったので心配していたぞ」

ネコに向かって僧は話しかけ、

そして、

「まぁ、立ち話も何じゃし、

 どうじゃ、

 節分祭が始まるまでここでコタツにあたって行かないか」

と僧はネコにコタツを勧める。

だが、夕日に長く伸びた校舎の影より、

コツリ

革靴の音が響くと、

『まことに困ったことです。

 嵯狐津姫様、ご所望の鬼と銀。

 残念ながらお届けをすることができなくなってしまいました。

 折角、祠から抜け出る方法をお教えした上に、

 いろいろ準備をしてあげたのに』

髪を7・3に分けたスーツ姿の男性が姿を見せると、

その細い目をさらに細くしてみせる。

そして、

『まぁ、鍵屋さんにお預けいたしましたお面の力を確認できただけでも良しとしますか。

 とにかく次の手を考えないとなりませんね』

考える振りをしながらそう呟くと、

ポンッ!

という音と共に男は狐に変化し、

尻尾を振りながら闇の中へと消えていったのであった。



おわり