風祭文庫・モノノケ変身の館






「鬼の首を取る」


作・風祭玲

Vol.894





県立沼ノ端高校。

この学園には地震・風水害などの自然災害から

暴動・革命・他校からの軍事的侵略といった様々な災害より学園を守るために

生徒会直下にA〜Cまでの災害即応委員会が設けられているが、

しかし、それらの対策室とは別に俗に”学校の七不思議”と呼ばれる超常的災害に対応するため、

校長直下に文化系・運動系の各部活動から選りすぐられた5人の乙女達によって

特殊災害等特別防衛救助隊・通称ぷりきゅあ・ふぁい部が結成されていたのであった…



「えぇ!

 なにこれぇ!」

「ひっどーぃっ」

「いつの間に…」

パソコン教室に置かれているパソコンの画面に見入りながら

制服姿の少女達は口々に非難の言葉を口走ると、

「あたし達の着替えを盗撮した上、

 盗撮サイトに投稿だなんて…

 よくもまぁ」

腰に手を当て料理部の夏木凛は呆れた表情をしてみせる。

すると、

「それにしても、よく見つけましたね」

一応目線は入れてあるとはいえ、

見覚えのある更衣室や制服の特徴などから

撮影日時は不明ながらも自分達の着替えであることが一目瞭然の画像を眺めつつ

春日野麗は感心すると、

「学校のHPの更新をしようと思って、

 色々検索をかけていたら偶然見つけたのよ」

パソコンを操作する秋元小町は返事をする。

とそのとき、

「あの…犯人って誰なんだろう?」

画面を見ながら夢原希が恐る恐る小声で尋ねると、

「そうねぇ

 このようなアングルで盗撮出来るだなんて、

 外からの侵入者でなくて内部の犯行としか思えないわね」

皆の声をまとめるようにして水無月可憐は腕を組んでみせた。

「内部って?」

「まさか、男子達?」

可憐の言葉に女子生徒達は一斉に顔をあわせると、

コクリ

彼女は頷き、

「まーっ、なんてことを」

「犯人を見つけてとっちめてやる!」

と皆は姿が見えない盗撮者に向かって拳を振り上げるが、

「…でも、どうやって犯人を見つけるの?」

一呼吸遅れて小町が指摘すると、

「あっ!」

そのことに気がついたのかパソコンルームに短い声が響いたのであった。



「ねぇ、何であたし達が着替えをしなくてはいけないのぉ」

女子更衣室の中で嫌々そうに希は声を上げると、

同じように着替えをしている麗に向かって尋ねる。

すると、

「仕方がないですよ、希さん。

 こうしてあたし達が囮になって、

 盗撮犯をおびき寄せないとなりませんし、

 こういう場合は現行犯逮捕じゃないと駄目なんです」

と麗は諭すが、

「でも、なんで…あたしがぁ」

半ばベソをかくように希は文句を言い、

シュンとうなだれて見せた。

「ここは我慢ですよ」

と麗はベソかく希の肩を叩いて慰める一方、

「みんな、配置はおっけー?」

「こっちはいつでも」

「あたしは大丈夫」

希と麗が着替えをしている女子更衣室を遠巻きにして

可憐、凛、小町の三人は3方から監視体制に入ったことをケータイで連絡し合い、

ジリッ!

盗撮犯がこの罠に嵌るのを今か今かと待ち構えていたのであった。

「まったく…

 大体、着替えなんて見て何処が楽しいのかしら」

ブツブツ文句を言いながら希は制服を脱ごうとすると、

「希さん…」

と小声で麗が囁き、

「あっさりと脱いでは時間が持ちませんよ」

そうアドバイスをしてみせる。

「え?

 そうなの?」

麗のアドバイスに希はきょとんとしてみせると、

「もぅ、希さんったら男心を知らなさすぎます。

 こういう場合は焦らして煽らないと盗撮犯を釘付けにすることは出来ませんよ」

と麗は言い、

シュルリ…

ワザとらしい手つきで制服のリボンを取って見せた。

「ほほぉ…」

それをみた希はややぎこちない手つきで制服のリボンを取って見せると、

「うーん、

 もうちょっと自然に出来ませんか?」

それを見た麗は注意をし、

「こんな風に…」

とくるりと回りながら制服の上着を脱いで見せる。

「おぉ!

 凄いっ

 さすが麗ちゃんっ

 まるでモデルさんみたいだ」

麗の姿を希は感心しながら手を叩いて見せると、

「えへへ…」

うれしいのか麗ははにかみ、

「さぁ、希さんもやってみてください」

と希を促した。

「うっうん、

 こ、こんな感じかな?」

麗がやって見せたように希もくるりと回って上着を脱いで見せるが、

ガシッ!

彼女の足がロッカーに当たってしまうと、

「うわっ!」

ドガラガッシャーン!!

悲鳴と共に希は盛大にこけたのであった。

「希さぁん!」

それを見た麗が悲鳴を上げると、

「ぷりきゅあっ

 めたもるふぉーぜ!」

の掛け声と共に

ドドドドドド!

足音が近づいてくると、

バァン!

更衣室の3方のドアと窓が同時に蹴破られ、

「盗撮犯!

 御用だ!」

の声共に水泳部の競泳水着姿のきゅあ・あくあ、

料理部エプロン姿のきゅあ・るーじゅ、

そして、女子相撲部の廻し姿のきゅあ・みんとが女子更衣室に突入をしてきたのだが、

「えへへへへ」

3人の前には恥ずかしそうに頭を掻いてみせる希の姿があり、

「えっと…

 いまのは間違いなのです」

と申し訳なさそうに麗は事情を説明してみせる。

「もぅ、間際らわしいことはしないでよ、

 待っているだけでも寒いんだから」

「希ぃ、こんどミスったら容赦しないわよ。

 ところであくあ、

 せめてジャージでも着たらどうです?」

「窓…思いっきりぶち破ってしまったけど、

 用務員さんになんて言おうかしら」

などと文句を言いながら3人は所定の配置へとついていく。

「やり直しですね」

寒風が吹き込んでくる更衣室に残った麗は希に話しかけると、

「なんとか…なるなる」

希は引きつった笑いを浮かべ、

二人は再び着替え始めるが、

さっきのようなオーバーな演出はせずに、

やや淡々としかし、わざと時間をかけてゆっくりと着替えてみせる。

そして、最後のトレーニングウェアの上着を着ようとしたとき、

「あーぁ、見てられないなぁ」

と突然、男子の声が響くと、

「誰!?」

更衣室に希と麗の声が追って響く。

すると、

「いいかぁ、

 着替えってぇのは、

 もっともったいぶらないと駄目なんだよ」

の声と共に黒く光るデジイチを片手に一人の男子生徒が更衣室内に姿を見せ、

「俺がレクチャーしてやろうかぁ?

 一躍人気者になるぜ」

と大胆不敵に告げると、

「あなたは!」

「2年生の賀真央さん!」

男子生徒を指差して麗は声を上げる。

「あん?

 なんだよっ」

賀真央は不満そうに返事をすると、

「盗撮犯はあなただったのぉ」

賀真央を指差して希は怒鳴るが、

「さぁな?

 そんなことはどうでも良いんだ。

 俺はお前らの着替えがなってない。

 ってことを言っているんだよ」

と賀真央は話を摩り替えてみせる。

しかし、

「許せないっ、

 あたし達の着替えを盗撮するなんてぇ」

これまでとは打って変わり、

突き上げた拳を震わせながら希は怒りをあらわにすると、

「あん?

 なにゴチャゴチャ言っているんだ?

 俺がコーチしてやろうって言っているんだ

 ありがたいと思えよ」

と賀真央は言った途端、

「ぷりゅあっ、

 めたもるふぉーぜ」

希の掛け声が響き渡ると、

バッ!

その賀真央の目の前にアマレスウェアに身を包んだきゅあ・どりーむが立ちはだかり、

「大いなる希望の力っ

 きゅあどりーむっ

 その腐った性根を叩きなおしてあげるわ、

 いくわよぉ!」

の声と共に賀真央に飛び掛ってきたのであった。

「うわぁぁぁ!」

更衣室に賀真央の悲鳴が響き渡り、

「おまちっ!」

追ってどりーむの怒鳴り声が響く、

そして、

「みんなっ、

 盗撮犯が出たわよぉ!」

きゅあ・れもねーどが外に向かって声を上げると

「待ってましたぁ!!!」

じっと待ち構えていたあの3人が一斉に女子更衣室に突入し、

部屋の中は逃げ惑う賀真央を追いかける5人の少女達で大混乱に陥っていくが、

ダッ!

一瞬の隙を突いて賀真央が表に逃げ出すと、

「おっ、霧馬っ

 パスっ!」

賀真央はちょうど通りかかった親友の霧馬に持っていたカメラを放り投げると、

「おーぃ、

 本物の盗撮犯はこいつだ」

と真央は霧馬を指さして見せる。

「なんですってぇ!」

「あなただったのぉ!」

「許せないわ!」

それを聞いた5人は霧馬に向かって突撃して行くが、

「えぇ!!!

 わたしは何も知らないですよぉ!」

迫る5人を見て霧馬は縮み上がって逃げ出すと、

「あっ荒玖根さんっ、

 パス!」

と賀真央から渡されたカメラを通りがかった荒玖根に放り出した。

「え?

 え?

 ちょっとぉ!

 なんであたしが追いかけられるの?

 あぁちょうど良かった文美井さん、パス!」

「えぇぇぇ!

 なんで、私にこんなのがぁ!、

 あっ川利野さんパス!」

「わっわたしに…って、

 追いかけられる意味がわかりませんが、

 羽出夜さん、パスっ!」

「あん?

 なにこれぇ?

 なんでカメラが私の手元にあるのよぉ?

 まぁいいわ、

 武羅出さん、これあげる」

と賀真央のカメラは次々とパスされ、

そしてカメラを受け取った者は鬼気迫る5人の娘に追いかけられたのであった。



「あはははは…

 こりゃぁ愉快だなぁ」

その頃、ちゃっかり更衣室から逃げ出していた賀真央は一人

沼ノ端高校を見下ろす丘にある神社の境内より

眼下で繰り広げられるドタバタ劇を笑いながら眺め、

「どっこらしょっ」

生垣で区分けされた祠の傍に座り込むと、

起動したノートパソコンにメモリーカードを差し込み、

その画面に更衣室で撮影をした画像を表示させ始める。

そして、

「ふむふむ、

 夢原ってやっぱ胸薄いなぁ…レスリングのやりすぎだろうな。

 その点、春日野の方がまだ見込みがあるかな、

 とは言っても水無月会長の競泳水着姿もなかなかだし、

 夏木のエプロンもこうしてみると結構エロいな。

 それになんて言っても秋元の廻し姿、

 これはマニアには堪えられないぜ。

 ふふふふっ

 いやぁなかなかの収穫だった」

と撮影をした画像を満足げに吟味していると、

「ふーん、そういうことだったのぉ」

きゅあ・どりーむの声が響き渡った。

ギクッ!

その声に真央は振り返ると、

彼の背後には闘気をまとった5人の少女の姿があり、

一歩一歩、踏みしめるように真央へと近づいてくる。

「なんだよぉ!」

それを見た真央は悪態をついて見せるが、

しかし、自分の悪態が全く通じないことに気がつくと、

「おっおいっ、

 そうだ、良いことを教えたやろう、

 このボタンを押すとだなぁ、

 お前らの写真が全部投稿サイトにアップロードされる仕組みになっているんだぜ、

 しかも生写真だから目線などの加工はされないから、

 素顔がばっちりだ。

 どうだ、それでもやろうって言うのか」

と賀真央は脅しをはじめた。

「なんですってぇ」

それを聞いたきゅあ・どりーむは賀真央をにらみつけると、

「どりーむっ、

 短期を起こしちゃぁ駄目」

とすかさずきゅあ・るーじゅがどりーむの腕を掴んでみせる。

「だってぇ、るーじゅ!」

悔しそうにどりーむはるーじゅに向かって泣き声を上げると、

「あはははは、

 愉快愉快、

 お前らは俺には手も足も出ないというわけだ」

そんな5人の姿を見て賀真央は笑い転げながら祠に手を付けた途端、

シュルルルルル…

祠から一斉に黒い触手のようなものが伸び、

賀真央の体を飲み込み始めた

「うわっ、

 なんだこりゃぁ!」

触手に絡み取られるようにして賀真央は飲み込まれていくと、

『コーホー…

 コワイナァァァァァ!!!!』

と不気味な息遣いと声を上げる鬼へと変身していく、

「なにあれ?」

「おっ鬼?」

頭に角を突き出しながらムクムクと体を膨らましていく賀真央を見ながら、

5人は唖然とするが、

「みんなっ」

怯まずに希が声をかけると、

「Yes!」

5人は巨大な鬼と化した賀真央に向かって立ち向かっていく、

そして、

『コーホーッ!!!』

鬼は振り上げた金棒を5人に向かって振り下ろすと、

「うっしゃぁ!!

 大地を揺るがす乙女の怒り、

 受けてみなさい!!!

 ぷりゅあ・みんと・しーるどぉ!!」

の掛け声が上がり、

「ふんっ」

四股を踏んだ小町の体から、

バッ

テーピングされた腕が伸び、

ズンッ!

振り下ろされた金棒を見事受け止めてみせる。

と同時に、

「岩をも砕く乙女の激流受けてみなさい!!

 卒業された科学部・雪城さん特製の超高圧放水銃!

 ぷりゅあ・あくあ・とるねーどぉ!!!」

「純情乙女の炎の怒り、

 受けてみなさい!!!

 同じく科学部・雪城さんが残された特製の高火力バーナー!
 
 ぷりゅあ・るーじゅ・ばぁにんぐぅ!!!」

の声が同時に響くと、

ブワシューッ!

ゴワァァーッ!

鬼の左右から放水と火炎の同時攻撃が加えられた。

『コワイナァァァァァァ!!!』

左右からの攻撃に鬼は怯むと、

「輝く乙女のはじける力、受けて見なさい!

 ぷりゅあ・れもねーど・しゃいにんぐぅ!!」

の声と共に強烈な閃光が光り輝き、

『コーホーッ!!!!』

視力を奪われた鬼はよろめいた。

すると、

ガシッ!

その鬼の足に希が喰らいつき、

「夢見る乙女の底力っ

 受けてみなさいっ

 ぷりきゅあ・くりすたるしゅーと!!」

の声と共に

「うらぁぁぁぁ!!」

どりーむは鬼の足を持ち上げてみせる。

すると、

『コーホー…』

バランスを崩した鬼は大きくのけぞり、

ズシン!

仰向けになって倒れてしまうと、

シュワァァァァァ…

そのまま体を崩壊させ始めたのであった。



「やったぁ!」

「Yes!」

喜び称え合う5人の姿を見ながら、

「なんと…

 私が出る幕がなかったとは驚きじゃの」

影から見ていた巫女は驚きながら手にしていた破魔札を懐にしまうと、

そのまま社務所へと向かって行くが、

しかし、それで終わりではなかった。

「さぁて、

 こいつのパソコンを探して…」

5人は崩壊する鬼を横目に賀真央が持っていたパソコンを探すが、

「お探しのもってひょっとしてこれですか?」

という少女の声が響くと、

「げっ!」

5人の表情は一斉に硬くなったのであった。

「まっ増戸さん…」

少女を指差して凛が呟くと、

「はーぃ、

 みんなも知りたい、

 わたしも知りたい、

 沼ノ端通信・編集長っ

 増戸美代!

 続けて読めばぁ

 マスコミよぉ!」

と少女は自己紹介をし、

「ねぇねぇ、

 これって何?

 説明してくださいます?

 それと、この間のカエル騒動のときもあなた方の関与が囁かれているのですが、

 コメントをいただけますか?」

と取材攻勢をかけてきたのであった。



「やれやれ、

 鬼の首を取ったのは誰なんだろうかのぅ…」



おわり