風祭文庫・モノノケ変身の館






「鬼の目にも涙」


作・風祭玲

Vol.885





ここはとある地方にある、とある高校。

カタン!!

黄昏時の日差しを浴びる運動部棟の一室で、

シュッシュッ

シュッシュッ

何かを激しく擦る音共に、

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 くはぁ…」

粗い息遣いの音がこだますると、

部員不足から数年前に休部してしまった相撲部が使用していた部屋の中では

ネームプレートが輝くセーラーの上着を盛り上がった胸板でパンパンに張り詰め、

岡本明菜は筋肉が盛り上がった肉体を細かく震わせながら

シュッシュッ

シュッシュッ

たくし上げたスカートの中から生える肉の棒を一心不乱に扱いていた。

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 はぁぁぁ」

喉仏が盛り上がる喉を鳴らしながら明菜は小さく喘ぎ、

シュシュシュシュ…

次第に手の動きを早めていく、

そして、

「あぁ…

 出る

 出る

 でる…」

野太い声を上げながら身体を倒して、

グッ!

と腰に力を入れると、

その途端、

「おっおぉぉぉぉ!!!」

荒れた部屋の中に雄たけびを響き渡らせながら、

シュシュッ!

ビュッ!

白濁した粘液が大きく弧を描きながら吹き上がらせ、

ピシャッピシャッ!

っと脚と脚の間に一本の筋を作って行く。

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 あぁぁぁぁぁ…」

体中の力を出し切ったかのように事を終えると、

「はぁぁぁ…

 また、しちゃった…

 どうしよう、

 止まらないよぉ…」

後悔するような言葉を呟きながら、

自分を見下ろすように聳え立つ錆が浮かび上がるロッカーを眺めていた。




「ったくぅ…

 岡本の奴、

 どこに行ったんだ?」

同じ頃、

一人の男子高校生・和泉友則は岡本明菜の姿を求めて

人気が途絶えた校内を歩き回っていた。

「まったく…

 授業中にいきなり消えやがって、

 それにしてもあいつの体、

 一体何が起きたんだ?

 あれじゃぁ、まるで…」

そう言いかけて友則は思わず口を塞ぎ、

その続きに出てくる言葉を飲み込んだ。

こうなったきっかけは数日前の男子達に言われた些細な言葉だった。

しかし、彼の言葉がよほどショックだったようで、

その日以降、明菜は学校を休んでしまったのであった。

そして今日、数日振りに登校をしてきたのだが、

だが、久方ぶりに見る明菜の身体はまるで別人のごとく変貌し、

学園一と謳われた明菜を飾っていたセーラー服は

マッチョな野郎を思わせる身体にピタリと張り付き、

綺麗に割れている腹筋の下で腰飾りの如くひらめくスカートには

女の身体には存在しないはずの膨らみの影がユラユラと揺れていたのであった。

「最初はどこかの変態野郎が女装でもしていたのかと思っていたけど

 でも、顔は間違いなく岡本だったし、

 あぁ、あの時”太った?”なんて聞かなければ良かった」

友則は自分が言った言葉が

明菜の変身のきっかけになってしまったことに後悔しつつ探し続ける。

そう、友則は明菜に心を寄せていたのであった。

そして、

”いつか明菜の告白をして彼女を自分のものに…”

と言う野望を持っていたのだが、

しかし、その気持ちが彼女を傷つけることになってしまったとは、

ある意味皮肉でしかなかった。



明菜の姿を求めて友則が校庭の端に建っている運動部の部室棟に来たとき、

「おぉっ

 おぉっ

 おぉぉぉ!!!」

休部となっている相撲部の部室から

野獣を思わせる野太い声がもれ響いていることに気が付いた。

「え?

 ここって確か」

無人であるはずの部室を仰ぎ見ながら友則はそう呟くと、

ガッ!

閉じられているドアに手を賭け、

そのドアノブをまわしてみる。

すると、

カチャリ!

鍵か掛けれていたと思っていたドアノブは回らないまま

キィ…

閉じていたドアは自然と開いてしまったのであった。

「え?

 ドアが壊れている?」

何者かにねじ切られた跡を残すドアノブにショックを受けながらも、

友則は部屋へと入っていく、

そして、主がいない土俵の向こうで放置されさび付いているロッカーのところに来ると、

「岡本さん?

 いるの?

 あっ和泉だけど」

と恐る恐る声をかける。

「・・・・」

しかし、その声に返事は返っては来なく、

「いないのか」

半ばガッカリしながら友則はロッカーに背を向けたとき。

ヌッ!

その友則の背後から手が伸びると、

ガシッ!

いきなり背後から穿き抱えられ、

「!!!っ

 うわっ!」

友則の悲鳴が響く間もなく、

グルンっ

彼の景色は一回転した。



どすんっ!

「痛ぇ!」

ほぼ同時に土俵の上に何かが落ちる音と友則の悲鳴が響き渡り、

「イタタタタ…」

痛む腰を摩りながら友則は見上げると、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

彼の視界には股間を勢い良く持ち上げた明菜の姿があった。

すると、

シュッシュッ

シュッシュッ

明菜は硬く立ち上がるイチモツに制服のスカートを絡ませ扱き始める。

「おっ岡本…」

そんな明菜を見ながら友則は声をあげると、

「えへへへ…

 おっ俺、こんな姿になっちゃった…」

明菜は笑みを浮かべながら告げ、

「こうなっちゃったのも、

 いっいっ和泉のせいだよっ、

 おっお前があんなことを言わなければ、

 おっ俺、

 こんな身体になることはなかったんだぜ」

と続ける。

「うっ、

 それは…

 それは悪かったよっ、

 だけど、

 だけど、なんで岡本が男になるんだよっ

 どうすれば女の子が男の子になれるんだよっ」

一段と筋肉を盛り上げる明菜を見つめながら友則は問い尋ねると、

「えへへ…

 やっ痩せるためのトレーニングをしようとじっジムに行ったら、

 へへっ、

 なぜか、こんなになっちゃったんだよ。

 へへへっ

 おっ俺、いまとっても力だ有り余っているんだ。

 けっ稽古っ

 つけてやるよっ」

シュッシュッ

シュッシュッ

イチモツを扱きながら明菜はそう答えると、

ムンッ!

と力を入れ、

体の筋肉を盛り上げる。

すると、

メキメキメキ!!

小山のような明菜の身体がさらに盛りあがり、

ビシッ!

と言う音と共にセーラー服の上着とスカートがはじけ飛ぶと、

ムキッ!

友則の前にギリシャの彫刻を思わせる肉体美を晒した。

そして、壁に掛けられたままになっている廻しを腰に締め、

「さぁ、どこからでも掛かってきな」

ポンッとその廻しを叩いて見せた後、

四股を踏み始めた明菜はそういうと、

「じゃぁ、来ないからこっちから行くぞ!」

の声と共に、

「どすこーぃ!」

全力で友則にぶつかってきた。



「痛い!

 痛て痛て痛て!

 ギブアップ、

 ギブアップ!」

その直後に友則の悲鳴が上がるが、

「まだまだ」

体中から汗を噴出しながらも明菜は体を休めることなく、

相撲の稽古の如く友則にぶつかってきた。

「やめて!」

「助けて!」

「俺が!」

「悪かった!」

明菜の稽古に友則はたちまちズタボロの姿となって土俵の上に倒れこんだ。

「はぁはぁはぁ、

 何でこんなことに…

 俺はただ惚れちゃった岡本に意地悪をしただけなのに…」

と泣き始めてしまうと、

「おらぁ!

 まだまだ稽古は終わらないぞ!!」

鬼を思わせる明菜の声がとどろいた。

「おっ鬼め…」

その声に向かって友則は言い返しながら起き上がると、

「うぐっ!」

メリッ!

目の前に立つ明菜の身体が見る見る真紅に染まり、

さらに、

メキッ!

頭の両側から角が伸び始めると、

「なっなんだこれは!」

友則は思わず呆気に取られた。

そして、

『コーホー!』

いつの間にか虎皮の褌となってしまった相撲廻しを明菜は締めなおすと、

『コーホーっ

 コーホーッ』

不気味な息遣いをしながら、

ガコンッ

どこから持ってきたのか棘だらけの金棒を構える。

「じょっ冗談だろう…

 おっ鬼に…

 岡本が鬼になったぁ?」

男性化しただけでも信じられないのに、

さらに鬼と化した明菜の姿を見て友則は悲鳴を上げる。

だが、その悲鳴に帰ってきたのは、

ドズンッ!

棘だらけの金棒の直撃であった。

「ひぃぃぃ!」

間一髪、自分を掠めて土俵に落ちてきた金棒を横目に見ながら、

友則は這い蹲るようにして逃げ回るが、

ドスンッ!

ドスンッ!

金棒は土俵に落ちまくり、

瞬く間に土俵を穴だらけにしてしまった。

「ひぃひぃひぃ」

腰を抜かしてしまった友則は必死になりながら逃げ惑うが、

ブンッ!

ついに友則を捕らえたのか真っ直ぐ金棒が向かってくると、

「あはは、

 もうダメ…」

同時に観念したのか友則はただ笑うだけだった。

その瞬間。

「悪鬼退散!!!」

の叫び声と共に、

シュッ!

一枚の破魔札が飛んでくると、

パァン!

友則目掛けて落ちてきた金棒を弾き飛ばした。

「え?」

涙目になりながら友則は振り返ると、

「間に合ってよかったな」

の声と共に学校の女性保険医が仁王立ちで立ち、

「鬼よっ

 お前は近所のトレーニングジムに居ついていた奴だな、

 なるほど、うまい事をしてその娘に憑り付いたもんだ。

 さぁーて、

 大人しく去るか。

 それともわたしに退治されるか?」

と問い尋ねる。

『コーホーッ!』

保険医のその言葉に鬼は大きく息遣いをしながら、

ガコンッ!

改めて金棒を持ち上げると、

ズシンっ

ズシンっ

と保険医に向かって歩き始めた。

「来るかっ」

迫ってくる鬼を見据え保険医は懐から3・4枚の破魔札を取り出すと、

「やめろっ

 やめるんだ、岡本!」

その声と共に友則が鬼の前に回り全力で止め始めた。

「危ないぞ!

 すぐに離れろ」

友則に向かって保険医は指図するが、

「明菜がこうなったのも俺の責任です。

 俺が…

 彼女を元の姿に戻しますっ」

と友則は声をあげる。

「ダメだ、

 お前の力ではもはやどうすること出来ない、

 離れろ!」

友則に向かってなおも保険医は指図すると、

「いやですっ!」

キッパリと友則は言い切った。

すると、

『ごごごご…』

金棒を構えていた鬼に異変が起き、

『ぉぉぉぉん…』

その場で泣き出してしまった。

「え?

 鬼が泣いている?」

その声を聞いた友則は顔を上げると、

『おぉぉん、

 おぉぉん』

鬼は声をあげて泣き、

金色の目から涙が溢れ出ると、

シュワァァァァァ!!!

真紅の肉体を溶かし始めた。



ドゴッ!

鬼の手から金棒が落ち、

ドスンッ!

鬼はガックリと両膝を突くと、

しゅわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

体中から一斉に湯気が沸き起こり、

見る見る身体を溶かし始めた。

そして、

ドサッ!

鬼の身体が溶けきってしまうと、

その場には元の姿に戻った明菜の姿があった。

「なるほど、

 鬼の目にも涙。

 という奴か」

それを見た保険医はそう呟くと、

「鬼はもぅ消えた」

と言い残して白衣を翻し部室から姿を消していく。



「こらぁ!

 よくも言ったわね」

翌日、校舎内に明菜の怒鳴り声が響くと、

「俺は素直に太っている。

 って言ったまでだ」

と言い返す友則の姿があった。

友則が彼女のハートをゲットするにはまだ時間が掛かりそうである。



おわり