風祭文庫・モノノケ変身の館






「河童の約束」



作・風祭玲


Vol.890





オーシツクツク…

オーシツクツク…

夏至の頃よりずっと南へと傾いた朝日が東の空より輝きはじめると

去りゆく夏を惜しむかのように蝉時雨が響きはじめる。

そして、

「うん…」

蝉時雨の中にも関わらず狩野泉は実家のベッドの中でスヤスヤと寝入っていた。

大都会から高速道をクルマで走ること3時間。

周囲に田畑が広がる実家は様々なストレスを溜めながら大学に通う泉にとって、

つかの間ながらも安らぎの地でもあった。

「クースー」

実家という環境のせいかも知らないが

いつもの起床時間をとっくに過ぎても泉は眠り続けていると、

フワッ

フワッ

カーテンがなびく窓の外でピンポン球ほどの小さな光の玉が舞い始めた。

そして、

『うーん、

 どうしよう…

 うっかりしてた。

 もうちょっと早く来れば良かったんだけど

 でも、時間が経ちすぎたかぁ』

と部屋の中をのぞき込むような素振りを見せながら悔やむような声が玉から響き、

考えがまとまらないのか、

右へ、左へと光の玉は泉の部屋の外を漂い続ける。

だが、時間の経過と共に白い色を発していた小さな玉は次第に赤みを帯びてくると、

『…あぁ、もぅ時間がないよ…

 えぇぃっ悩んでても仕方がない。

 今頃になってなんだけど、

 泉さん、

 あの時の約束を果たしてもらううよ』

と腹を固めたのか

スーッ!

光の玉は壁を通り抜けて泉の部屋へと侵入していく。

そして、寝ている泉の真上で一旦止まり、

『…これから君はに色々迷惑を掛ける事になるけど、

 あの時の約束通り、今日一日、君の身体に僕を宿して欲しい。

 頼んだよ』

相変わらず眠り続けている泉に向かって光の玉はそう告げると、

スーッ

音もなく降下し、

スポンッ!

泉の身体の中へと溶けるように消えて行ったのであった。



すると、

メキッ!

メリメリメリメリ!!!!!

光の玉が泉の身体に消えるのと同時に泉の身体に異変が生じ始めた。

色白の肌は徐々に明るい黄緑色へ染まり初め、

背中や身体の側面には点々と濃い緑色の斑模様が姿を見せていく。

さらに、肌の色が変わった部分から脂肪が消えていくと、

身体の至る所から筋肉と筋が盛り上がり、

黄緑色の肌を持った泉は筋肉質な姿へと変貌しはじめた。

泉の変身は以上で終わりではなく、

左右の手から人差し指と薬指が解けるように消えて無くなると、

代わりに薄い膜の水かきが親指・中指・小指の間に張り、

足も同じように指の喪失と残った指の間に水かきが張っていく。

さらに、

ベリッ!

大きく膨らんだ背中から皮膚を破り

甲羅がヌルリとした光を輝かせながら飛び出してくると、

その縁より粘液を分泌し始め、

ネトォ…

眠り続ける泉の身体を粘液が包み込むのと同時に

粘液を含んだ泉の下着やパジャマがぺたりと身体に張り付き、

部屋中に生臭い匂い漂わせはじめた。

メリメリメリ

メキメキッ

メリメリメリ

変身してゆく泉の身体より不気味な音が響き続け、

その音共に泉の身体は徐々に小さくなり、

泉は人ではない姿へと変貌していく。



『クワッ!』

太陽の陽がさらに高くなった頃

泉の部屋より異様な悲鳴が響き渡った。

『クワッ!

 クワッ

 クワッ!』

声を響かせながら粘液を含み山のように積み重なり

重くなってしまっているパジャマが独りでに蠢き、

モゾモゾモゾモゾと散々蠢き回った後

バッ!

何かの隙間から水かきが張った黄緑色をした手が天井に向かって伸びると、

そこを突破口にして

ズルッ!

頭に皿を頂き背中に甲羅を背負った身長1mにも届かない

小さな子供を思わせる生き物が姿を見せる。

そして、

『クワッ!

 クワッ

 クワッ!』

大きな目を見開きショックを受けたような表情で生き物は自分の身体を触りまくると、

バッ

バッ

部屋の左右に顔を向け、

「!」

右側の壁に姿見があるのを確認すると、

ペタペタ!

と足音を響かせながら姿見へと向かっていくが、

鏡に映る自分を姿を観た途端、

ペタン!

生き物はその場に座り込んでしまったのであった。



(かっかっカッパぁぁぁぁ!?)

鏡に映る変わり果てた自分の姿。

寝起きの悪い泉でもさすがにカッパと化した自分の姿を見せつけられた途端、

眠気など吹き飛んでしまい、

鏡の向こうで座り込み恐れ戦いてみせている生き物をジッと見つめていた。

(カッパって…

 なんで、

 なんで、

 あたしがカッパになんてなっているのよ)

頭の頂きで見事に開いている皿、

濃い緑の斑模様を浮かび上がらせている黄緑色の肌、

嘴のようにつきだした口。

何処をみてもおとぎ話で聞くカッパの姿そのものであることを泉は確認しながら

水かきの張った手で泉は鏡に写るカッパを指さすと、

同じように鏡の生き物も自分を指さしてみせた。

(どうして?

 なんで?

 コレって何かのストレス?

 人間辞めちゃうほどにあたしってストレスが溜まっていたの?)

仕事に追われる日々を思い返しながら泉は頭を抱えると、

『あっ、あんまり頭を傾けないで、

 水がこぼれ落ちちゃう』

と少年を思わせる声が泉の脳裏に響き渡った。

(!!っ

 だっ誰?)

その声に泉は顔を起こして周囲を見ると、

『あっ、僕の声が聞こえるの?』

と嬉しそうな声が再び響き、

(誰よ、

 嬉しそうに言わないで、

 あたしはいま大変なんだから)

姿が見えない相手に向かって泉は怒鳴るが、

「クワァァッ!!!」

実際に泉の口から出た言葉は人間の声とはほど遠いものであった。



『あーっ、

 えーと、なんて言ったらいいのかな…

 とっとりあえず、自己紹介しましょうか』

泉の剣幕に押された声は機嫌を伺うようにそう言うと、

『まずは、初めまして…

 って訳じゃないんだけどね、

 狩野泉さん。

 僕はあなたが子供の頃から遊んでいたトコロの沼を守っています土地神です』

と声は自己紹介をしてみせる。

(トコロの沼?)

声の説明に泉は我に返ると、

『思い出してくれました?

 夏になるとよく遊ばれていましたよね、

 毎年あなた方が私の沼で遊ばれることを楽しみにしていたんですよ』

と声は嬉しそうに言い、

(え?

 え?

 え?

 意味が判らないよぉ)

声に向かって泉は言い返すと、

『うーん、

 やはり時間が経ちすぎていましたか、

 よーく、思い出してください。

 あなたが9歳の時の話です』

そう声は泉に告げると、

フワッ…

泉の周囲にあの夏の日のことが再現された。



『ちぇっ、つまんないの…』

夏の日差しをバックにしてワンピース姿の少女がトコロの沼の縁で水面に向かって石を投げていた。

『あーちゃんも、

 みーちゃんも、

 旅行でいないだなんて…

 はぁ、あたしもどこか行きたいな』

ふくれっ面をしながら泉は黙々と石を投げていると、

『こらぁ!

 それ以上、石を投げるな!』

と少女の周囲に警告をする声が響き渡った。

『だっ誰?』

姿が見えない相手からの警告に少女は怖がりながら立ち上がるが、

ズルッ!

『あっ』

縁から少女の脚が滑り落ちてしまうと、

ドボン!

あっという間に少女は沼の中へと落ちてしまったのであった。

ガボガボ

『誰か、助けて』

パニックに陥ってしまった少女は必死に助けを呼ぼうとするが、

しかし、たまたまこのとき人気が無いことが災いし、

溺れた少女の事に気づく大人の姿は無く、

力尽きた少女は沼の中へと沈み掛けたとき、

『よいしょ』

その少女の身体を何者かが支えたのであった。

『だっ誰?』

岸辺に運ばれ呼吸を整えた少女は我に返ると、

『クワッ』

少女の前の前には一匹のカッパの姿があった。

『カッパさん?』

驚いた顔をして少女はカッパを指さすと、

『驚かせてしまってゴメンネ。

 でも、あまり石を投げ込まれると僕も困るんだよ』

とカッパは少女に謝った後、

石投げについて注意をする。

それから少女とカッパは遊ぶようになり、

ある日、

『…そんなに人間の世界が気になるのならいいわ、

 あたしの身体を一日貸してあげるわ』

と少女はカッパに約束をしたのであった。



(………

 えーっ、

 そんな約束、覚えてないよぉ、

 って言うか、

 子供の時の話じゃない)

カッパより経緯を再確認させられた泉はそう指摘すると、

『えぇ、まぁ、

 本来なら遅くても翌年の夏に約束を果たして貰うべきなんですが、

 つい、その忘れてしまって…』

と声は申し訳なさそうに言う。

(なによっ、

 だったら、良いじゃない。

 なんで今頃になってこんな事をするのよ。

 忘れていたんなら、時効よ時効!)

カッパの説明に泉は文句を言うと、

『実は…

 先日ちょっと個人的事情でヘマをしてしまいまして、

 天界の元締めから罰として人間界で一つだけ良いことをしろ。

 と命じられてしまったんです』

そう声は事情を話し始めた。

(人間界で良いこと?)

『はい、

 ただ、良いことと言っても…

 僕は元々土地神ですし、

 軽々と沼から離れるわけには行きませんし、

 沼以外で人間に世界に対して干渉することは出来ないのです』

 それで、

 以前、あなたとしていた約束を思い出しまして…』

と声は事情を話すと、

(要するにあたしをキャンピングカー代わりに使いたい訳ね、

 あなたの個人的事情によるミスの尻ぬぐいのために)

それを聞いた泉はキツイ返事をした。

『ギクッ!

 まっまぁ、語弊もありますが端的に言えばそうなりますか』

泉の返事に声はしょげながら返すと、

(判ったわよ、

 こんな格好にされちゃっているし、

 昔の約束は果たしてあげないとね)

納得をしたのか突然泉は返事をした。

『良いのですか?』

(ただし今日一日だけよ、

 日が暮れたら人間に戻して貰うわよ)

喜ぶ声に向かって泉はカッパと化した自分の身体を見ながら返すと、

『もちろんです。

 では、早速参りましょう!』

(あぁ。ちょっとぉ!)

声に引っ張られるようにして泉は開け放った窓より屋外へと飛び出し、

ピョーン!

ピョーン!

と蛙の如く空高くそして遠くに向かって飛んでいったのであった。



そのころ、

ザブンッ!

泉の家からほど近くを流れる流量の多い小川を海パン姿の少年がひとりで泳いでいた。

少年の名前は後水毅、13歳・中学1年生である。

毅はいま、自分の人生にとって最も難関である大問題を克復しようとしているのであった。

それは…ほとんど泳ぐことが出来ないカナヅチ状態からの一刻も早い脱却であった。

去年の小学6年生までは毅の他にもカナヅチ仲間が居てあまり肩身の狭い思いはしなくても済んだのだが、

しかし、今年は状況が一変し、

学年で泳げないのは毅本人のみとなってしまっていたのである。

加えて夏休み明けには早速プールのテストが実施されることは決定事項となっていたのであった。

『大丈夫だってぇ、

 来年には泳げるようになっているわよ』

様々な焦りとプレッシャーに毅は追いつめられていたが、

何よりもひとりの女性から掛けられたこの言葉が重くのし掛かっているのである。

狩野泉。

実家の隣に住んでいる6歳年上の彼女は毅が幼少の頃から何かと面倒を見て貰い、

毅にとって気軽に相談できる「隣のお姉さん」的な女性であった。

昨年の夏、その泉に掛けられたこの言葉が毅の両肩に重くのし掛かり、

「まずいっ、

 僕がまだ泳げないことを泉さんが知ったら…」

と泳げないことを知ったときの泉の表情を思い出す度に

毅の頬を冷たい汗が流れ下って行くのである。

「泉さん、昨日帰ってきたそうだけど、

 どうしよう…」

彼女だけはガッカリさせたくない。

その思いに駆られながら毅は300m先でせき止めている下流に向かって泳ぎはじめるが、

ものの10mも泳がないうちに

「だめだぁ」

と泳ぐのを諦め、川の底に足をつけてしまうのである。

その時、

チャプン!

川の上流からカッパが顔を出すと、

(毅君じゃない、

 あらあらまだ泳げないのぉ?)

と泳げない毅を見ながら泉は困った声を上げた。

『知り合い?』

泉の言葉に声は聞き返してくると、

(うん、

 ちっちゃな頃から面倒を見て居るんだけどね、

 中学生になってもまだ泳げないだなんて…)

泉はそう返事をし、

呆れたように肩をすくめ両手の肘から先を軽く持ち上げてみせる。

『ふぅーん』

それを聞いた声は関心をしながら返事をすると、

『ねぇ、

 彼を泳げるようにしてあげようか』

と提案をしてきた。

(え?

 いいの、それで?)

声の提案に泉は驚くと、

『うん、決めた。

 こぼれちゃったお皿に水を入れる為にこの川に立ち寄って良かったよ。

 僕がしなくてはならない事はあの子を泳げるようにしてあげること、

 これなら、元締めも納得してくれると思う』

確信を持ったように声は言うと、

(はぃはぃ、

 実はあたしも気になっているのよね)

カッパの身体に宿る2つの意識は目的を一つにして毅へと接近していった。



バシャッ!

「ぷはぁ!

 だめだ泳げない!」

水面から顔を出して毅は弱音を吐いていると、

『うふふふふふ…』

どこからか気味の悪い声が響きはじめた。

「!!っ

 誰だ?」

その声に驚いた毅は慌てて周囲を見渡すと、

チャポン!

毅のスグ傍から小さな子供を思わせる生き物が姿を見せ、

『クワッ!

 お前、
 
 泳ぎ下手!』

と水かき張る3本指の手で指さしながら告げたのであった。

「なっなんだ、お前は!」

いきなり出てきた生き物を睨み付けながら毅は怒鳴るものの、

「!!っ、

 かっカッパぁ!?」

その生き物が妖怪のカッパであることに気づくと、

まるで飛び上がるかのようにして驚いたのであった。

(あらまっ

 そんなに驚かなくてもいいのに)

目を剥いて驚く毅を見ながら泉はそう思うが、

(でも、あの毅君がねぇ…)

男性として成長しつつある彼の身体の姿に関心しながら、

『ケケッ

 お前、水をせき止めて

 何をしている』

と指さして尋ねた。

「別に…

 いいじゃないか」

カッパの質問に毅は膨れながらそっぽを向くと、

『クワッ、

 お前、泳げないんだろう』

と指摘してみせる。

「うっ!」

思いがけないその指摘に毅は声を詰まらせると、

『クワッ!

 泳げない奴が流れをせき止めた。

 この罰当たり!

 罰当たりな奴にはこうしてくれる!』

声を詰まらせる毅に向かってカッパはそう告げると、

ヒラリ!

まるで水の中を舞うように泳ぎ、

毅の背後に回ると、

グニッ!

すかさず彼のお尻に手を入れ、

『お前の尻子玉、

 頂き!』

の声と共に毅の身体の中から光る玉を取り出してしまったのであった。

(ちょっとぉ、

 何をする気!)

泉にとっても思いがけないカッパの行動に驚くと、

『見ててご覧』

と声は告げる。

すると、

『くっくっくわぁぁぁ!!!』

頭を抱えながら毅は声を上げると、

メリメリメリメリ!!!!

見る見る彼の身体が変化し始め、

日に焼けた肌は泉と同じ黄緑色に染まると、

その肌の所々に濃い緑の斑模様が姿を見せる。

そして、背中が膨らむみ切ると皮膚を突き破って甲羅が姿を見せ、

さらに頭には皿が開くと、

両手両足に水かきが張り、

毅は瞬く間にカッパになってしまったのであった。

(なっなんて事をしてくれるのよっ、

 カッパはあたしだけで十分でしょう!

 戻してよ、毅を人間に戻してよ!)

自分と同じカッパになってしまった毅を見ながら泉は声を上げるが、

『人間に戻りたければ僕を捕まえるんだな』

と声は泉の口を通して毅を挑発する。

すると、

『くわぁぁぁ』

毅が変身したカッパは声を張り上げて追いかけてくると、

『クワッ!』

泉は水を巧みに操り逃げはじめた。

(なっなにを…)

カッパとカッパの追い駆けっこに泉は驚くものの、

最初はぎこちなかった毅の泳ぎが次第に様になっていくのを見るにつれ、

(そうそう、

 ほらっ、
 
 こっちよこっち)

と泉は毅を導きはじめた。

そして、

ヒタッ!

ついに毅の水かきが張った手が泉の甲羅を掴み挙げると、

(よしっ、

 お見事!)

と言う泉の声がその場に響いたのであった。



「あれ?

 僕は何を?」

毅が我に返ったとき、

毅は人間の姿に戻っていたが、

だが、カッパを捕まえた手に握りしめられていたのは一枚の海パンであり、

何も身につけてない毅の股間を流水が洗っていたのであった。

その一方で、

『ありがとう、

 どうやら僕のしたことが元締めに認めて貰ったようだ』

夕日が照らすトコロの沼の中に浮かぶカッパはそう呟くと、

(あれでオッケーなの?)

と泉は声に向かって聞き返す。

『うん、彼は泳げるようになった。

 人間界で僕は役に立つことをした。

 これで僕が犯した失敗は償われた。

 君のおかげだよ』

泉に向かって声はそう告げ、

そして、

『君には世話になった。

 ささやかながら僕の気持ちを受け取って欲しい、

 じゃぁ…』

声はそう言うと、

パキーン!

カッパの身体は沈む夕日と共に砕けるように消え、

ドスンッ!

同時に泉は寝ていたベッドから転げ落ちたのであった。

「あれ?

 あれ?

 あれ?」

頭を掻きながら泉は起きあがると、

「何の音?

 まぁ一日中寝ていたの?

 全く呆れた子ね」

と音に気づいて駆けつけた母親の呆れた声が響いた。

「え?

 あれ?

 あたし…カッパに…」

なおも状況が飲み込めない泉がそう訴えると、

「夢でも見ていたんでしょう?

 どうするの?

 夕ご飯食べるの?」

と母親は言うとそそくさと泉の部屋から出て行った。

「っかしいわねぇ…

 確かに…」

母親を見送りながら泉はそう呟くが、

「ん?」

右手に何かを握らされていることに気づくと、

手を持ち上げてそっと開いてみせる。

すると、

キラッ

泉の右手に握らされていたのは見たこともない輝きを放つ大きめのビー玉を思わせる玉であった。

「きれい…」

玉を見ながら泉はそう呟くと、

『それは泉の尻子玉だよ、

 泉は自由に尻子玉を出せる身体になったんだ。

 そして尻子玉を出すと、

 泉はカッパになれるんだ』

と言う声が泉の脳裏に響くが、

『クワァァァ!!!』

既にその時には泉はカッパに変身をした後であった。



パァァン!

新学期、

プールサイドにピストルの音が響くと、

タンッ!

華麗なフォームを描いて毅はプールへと飛び込む。

そして、皆が驚きの表情で毅を見つめる中、

タンッ!

校内の水泳大会の決勝で毅は見事1着を取ると、

「やったぁ」

と声を張り上げてみせていたのであった。



おわり