風祭文庫・モノノケ変身の館






「河童の水」



作・風祭玲


Vol.293





「まぁ、そう落ち込むなって」

「そうそう、隆也君だってそんなに気にしてないわよ」

「チャンスはいくらでもあるって」

梅雨が明けを間近に控えたある日の夕方、

そう言いながら市営プールから4人の少女達が出てくると、

「ぐしっ」

その中にで一人はんべそをかいている少女の姿があった。

「それにしても…

 加奈子があそこまでカナヅチだったとはねぇ」

と頭を掻きながら清美が呟くと、

「うっうるさいっ」

涙を流しながら加奈子がつっかかてくる。

しかし、

「はいはい…」

身長が頭一つ低い加奈子が幾ら抗議しても、

適当にあしらわれるのが関の山だった。

「もぅ、みんなのバカぁ!!」

ついに我慢が仕切れなくなった加奈子は声を張り上げると、

ダッ!!

っと駆け出してしまった。

「あっ加奈子…」

彼女を呼び止めようとする声が響いても

加奈子は立ち止まらずにそのまま去ってしまった。



「みんなのバカ…

 なにも、隆也君の前で恥をかかせなくても良いじゃない」

と加奈子はそう文句を言いながら

トットット

と周囲を歩き回るハトを眺めていると、

「こんにちわ」

「きゃっ!!」

突然男性の声が響き渡ると思わず飛び上がってしまった。

「あぁ、驚かせてしまいましたか?」

のそっ

そう言いながら加奈子の前に姿を現したのは

半袖のYシャツにネクタイを締め、

流れる汗を絶え間なくハンカチで拭う、

一見、営業で飛び回っているような中年の男性だった。

「(うえっ、おっさんだ)」

やや露骨気味に加奈子は嫌そうな顔をすると、

「おや、プール帰りですか。お嬢さん」

男性は加奈子の髪の毛が濡れていることに気づくとそう尋ねた。

「えっえぇ…

(なんかやばそーな、おっさんね)」

加奈子は警戒しながら適当な返事をして、

すぐにその場から立ち去ろうとすると、

「お嬢さん…

 その…

 お嬢さん、泳ぎは得意ですか?」

と男性は加奈子に尋ねた。

「得意なワケないでしょう」

男性の質問にカチンときた加奈子はややぶっきらぼうな返事をすると、

「あぁそれなら、これを使ってみませんか?

 試供品ですがきっと泳げるようになると思いますよ」

と言いながら男性は

手にした鞄から乳液が入った小さなビンを取りだして加奈子に手渡した。

「カッパ印のカッパの水?」

パッケージの河童の絵とそのネーミングに加奈子は眉を顰めると、

「えぇそうです…

 ほらっ、

 河童って泳ぐことが大の得意でしょう、
 
 で、その乳液にはその河童の皿の水のエキスが入っているんですよ、
 
 あっ、使い方は簡単です。
 
 その乳液を肌に塗るだけで効果覿面ですよ」

と男性は説明すると、

「はぁ…」

加奈子は疑り深い目をしながらも、

「(もしも泳げるようになったら、千晶達を見返すことが出来るかも)」

そう思うと、

「わかったわ、頂いていくわ

 でも、もしも利かなかったら、お仕置きよ!!」

加奈子は男性にそう言うと、

手にしたビンをバックの中に入れると立ち去っていった。



その夜…

「ふぅ…」

風呂から上がった加奈子はベッドの上に腰掛けると、

その男から貰ったビンを眺めていた。

「ふぅーん、本当に利くのかなぁ…」

そう思いながら瓶の蓋を開け、そのまま掌に乳液を垂らすと、

ぴしゃっ!!

っと身体に塗り始めた。

ボゥ…

「あっ、なにこれ、良い気持ち…」

全身の半分ほどを塗ったところで、

加奈子は奇妙な快感を感じ始めた。

「あぁ…なにかしら…

 まるで…一人エッチをするときよりもいっいぃ…」

次第に上気していく感覚に加奈子は身体を任せていると、

メリッ!!

「ひゃうん!!」

突然、電撃に襲った快感に思わず飛び上がってしまった。

「くぅぅぅぅぅっ、

 なっなに、いまの感覚は…」

ズキズキとくるような感覚を堪えながら、

そっと手を背中に回していくと、

コリッ!!

ちょうど左右の肩胛骨の下辺りに奇妙な膨らみが盛り上がっていた。

「やだ、なにかしらこれぇ」

コリッ

コリッ

加奈子は後ろでに手を回してその膨らみを触ってみるが、

数回に一回の割合で強く刺激することがあり、

そのたびに、全身を突き抜けていく感覚に思わずしゃがみ込む。

と、そのとき、

モリッ

加奈子の肛門が盛り上がると、

ポトッ…

小さな玉が転がり落ちた。

しかし、加奈子はそれには気がつかずに、

「くはぁ…(はぁはぁ)

 あぁ…これ…癖になりそう」

そう言いながらベッドの上にうつぶせになって倒れ込んでしまった。

クーッ…

昼間の疲れもあってか、すぐに加奈子の口から寝息が響く、

しかし…

ミシッ

ミシッ

彼女の背中に出来た膨らみは浸食するように上下に伸び始め、

厚みも徐々に増していった。



チュンチュン!!

「うっ…あれ?もぅ朝?」

鳥の鳴き声に加奈子ははっと目を覚ますと思わずカーテンを開けた。

と同時に、

「うっそぉ!!

 もぅこんな時間なのぉ!!」

窓際に置いてある時計を見るなり血相を変えると、

慌てて着替え始めたが

ところが、ブラのホックを締めたとき、

ビクン!!

昨夜よりも更に強烈な感覚が加奈子を襲った。

「…………」

両目から滝のような涙を流して加奈子は快感の波が通り過ぎるのを堪えた後、

「…わすれてた…」

ひとこと呟くと、

まるで、這いずるようにして姿見に自分の背中を映し出した。

すると、

「えぇ!!、なにこれぇ!!」

自分の背中に張り付いている異形の物体に目を見張った。

ヌルン…

黒い輝きを放ちながら加奈子の背中の半分近くを覆っていた。

「夕べよりも大きくなっている?」

昨夜よりも大きく成長しているソレに加奈子は驚くと、

「どうしよう…

 お医者さんに行った方が良いのかなぁ…」

加奈子の心は次第に不安になっていった。

しかし、

「やば…時間が…」

加奈子は時計に視線を送るなり、

「えぇいっ仕方がない」

決断を下すと、

ブラはつけずにそのまま制服を着込み、

そのまま家を飛び出していった。



キーンコーン!!

ダダダダダ!!

本鈴の音共に加奈子は教室に滑り込む、

「おぉ、ギリギリセーフだな…」

加奈子の登場に千晶がそう声を掛けると、

「(はぁはぁ)、当たり前じゃないっ」

加奈子は必死の形相でそう答えると、

そのまま自分の席に着いた。

そして、

「はぁ…何とか間にあったぁ…」

とため息をつきながらイスの背もたれにもたれ掛かったとき、

ビクッ!!

「ひゃうっ!!」

っと飛び上がった。

「?」

「何をしているの?」

加奈子の様子に千晶が尋ねると、

「実は…」

加奈子は事情を説明した。



「なんだ?これは?」

昼休み、

シゲシゲと覗き込む千晶達の眼下には、

制服をめくりあげ背中を見せている加奈子の姿があった。

「夕べかなぁ…

 それ背中にでてきたの」

黒い輝きを放つ物体を晒しながら加奈子がそう訴えると、

「なぁ、こんなの見たことがあるか?」

千晶は横にいる初音に尋ねると、

初音は首を横に振って

「さぁあたしも初めて見るわ」

と答えた。

すると、

「加奈子…お前変な物でも食べたんじゃないか?」

千晶がそう加奈子に尋ねると、

「食べてないわよ」

と困った表情で加奈子は返事をした。

「うーん…」

千晶はそう唸りながら、

そっと、人差し指を加奈子のそれに触れると、

「あっ柔らかい…」

と呟きながら、

クッ

指先を押し込んだ。

その途端、

「きゃっ…」

ビクン!!

加奈子は小さく声を上げると身体をよじった。

「あっゴメン、痛かった?」

加奈子の反応に千晶は咄嗟に謝ると、

「ううん、痛いんじゃないの…その…」

顔を赤らめながら加奈子がそう言うと、

「判った…

 こうすると気持ち良いんでしょう?」

と言いながら清美は手を差しのばすと

そっと加奈子の背中をなぞっていく、

「あぁぁっ、やめて、感じちゃう!!」

快感に耐えるような表情で加奈子がそう訴えるが、

「へぇ、面白い」

たちまち数本の手が伸びると加奈子の背中を刺激し始めた。

「いや、やめて!!

 やめて、
 
 あん、感じちゃう…
 
 感じちゃう!!」
 
加奈子は悶えながら訴えるが、

「ほらほらほらっ」

加奈子のその姿が返って千晶達を刺激してしまい、

激しい攻めとなって加奈子を襲った。

その一方で、

「アンアンアン…」

悶える加奈子の皮膚から大量の粘液は沸き出してくると、

ピチャピチャと音を立て始めた。

「うっクセ…なっなんだ?」

最初は面白がっていた千晶達だったが

加奈子が放ち始めた生臭い臭いに気がつくと、

次第に間合いを取り始めた。

「いぃ…いくぅ」

粘液まみれになって加奈子は悶えると、

徐々にその肌は緑色の染まりはじめた。

そして、さらに、

メリメリメリ!!

加奈子の背中の物体は徐々に大きくなっていくと、

次第に彼女の背中を飲み込み、

また、彼女の両手の指には水掻きが張っていった。

「なっなんだこりゃぁ」

「こわい…」

次第に人ではなくなっていく加奈子を目の当たりにして

千晶達は用具倉庫の隅に固まってしまっていた。

メリメリメリ!!

加奈子の骨格が変わっていく不気味な音が響き渡ると、

『ぐわっ!!』

嘴を突き出した加奈子の口から不気味な声が漏れた。

そして、

『ぐわっ、ぐわっ』

2・3度加奈子は声を上げると、

ゆっくりと立ち上がる。

と当時に、

ベチャッ!!

パシャパシャパシャ!!

彼女の頭の上に出来上がっていた瘤が裂け、

多量の水がこぼれ落ちると、

そこには皿が姿を現していた。

「河童…」

加奈子の容姿をみて千晶が声を上げると、

「そんな…加奈子が河童になった」

続いて清美も驚いた声を上げた。

しかし、その言葉に笑うモノは誰も居なかった。

『クワッ…

 しっ尻子玉…』

ペチャ

ペチャ

河童となった加奈子はそう言いながら千晶に向かって近づいてくる。

一歩一歩近づいてくる加奈子に、

「よっよせ、近寄るな!!」

千晶は近くにあった棒を振って追い払おうとするが、

しかし、

スルリ…

加奈子は千晶の繰り出す棒の動きを巧みに避けると、

グッ!!

千晶の腕を思いっきり引っ張ると、

自分の眼下に引きずり倒した。

「いやぁぁ!!」

千晶の悲鳴が響き渡る、

しかし、加奈子はすぐに千晶の身体に飛びつくと、

すかさず彼女の下着をズリ下げ、

己の手を彼女の肛門の奥深くまで押し込んでしまった。

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

加奈子の手に肛門を犯された千晶は悲鳴を上げるが、

しかし、加奈子はお構いなしに、

グリグリグリ!!

加奈子は千晶の内臓をまさぐった。

そして、

グリッ!!

っと何かを掴みながら手を引き抜くと、

ビシッ!!

その瞬間、千晶の身体に電撃を受けたような衝撃がはしった。

「あっ…」

口を開けながら千晶は気を失ってしまった。

『くわっ

 しっしっ尻子玉…』

加奈子は千晶の体内から取りだした薄紫色をした玉を掲げると、

嘴を大きく広げて

ウグッ!!

っと一気に飲み込む。

「うえっ」

それを見て初音が口を押さえていると、

その途端、

「ぐわっ!!」

メリメリメリ!!

倒れた千晶が声を上げると、

その背中が見る見る膨らんでいった。

「ちっ千晶?」

ベリベリベリ!!

制服を引き裂き、

千晶の背中に現れたのは加奈子と同じ黒い輝きを放つ物体だった。

「そんな…」

メリメリメリ!!

見る見る加奈子と同じ河童へと変身していく千晶の姿に

清美と初音は呆然としているが、

しかし、そんな清美の背後に加奈子が音もなく迫ると、

『くわっ!!』

「きゃぁぁぁ!!」

彼女一気に押し倒すと、

素早く彼女の体内から尻子玉を抜き取ってしまった。

「清美ぃ!!」

清美を助けようと初音が加奈子を引き剥がそうとするが、

しかし、その初音も背後から河童になってしまった千晶が迫っていた。



ピチャピチャピチャ!!

『尻子玉…』

そう呟きながら午後の授業が始まった校舎に4匹の河童が歩いていく、

やがて、更衣室とかかれた部屋にたどり着くと、

コクリ…

4匹は頷き合うと、

スッ

っと音もなくそのドアを開け、

次々と中へ入っていった。

間もなく、

「いやぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

着替え中の少女達の悲鳴が上がりはじめた。

ガラッ!!

「助けてぇ!!」

悲鳴を上げながら下着姿の少女が逃げ出そうとドアから身体を乗り出すが、

しかし、

『ぐわっ』

ヌッ!!

水掻きが張った緑色の手が伸びると彼女たちの身体を次々と引っ張り込み、

そのままパタンと閉じられてしまった。


しばらくして、

カラッ

再度更衣室のドアが開かれると、

『ぐわっ』

『尻子玉…』

口々にそう呟きながら河童になってしまった少女達がゾロゾロと出てくると、

獲物を求めて校内に散って行った。

そして、河童達が向かったのは授業中の各教室だった。

「なっなっなっなんですか?」

『ぐわぁぁぁぁ』

「きゃぁぁぁ!!」

次々と桃華女学院の各教室から悲鳴が響きはじめると、

教室内の女子生徒達は乱入してきた河童に次々と襲われ、

尻子玉を抜かれると、河童へと変身し、

河童になった者は尻子玉を求めてクラスメイトを襲っていった。



「いやぁぁぁ」

「きゃぁぁぁ!!」

メリメリメリ!!

『くわぁぁぁぁ』

まさに地獄絵と化した教室から一人の女子生徒が逃げ出すと、

びたびたびた!!

河童となった女子生徒達が彼女を追いかけ始めた。

「たっ助けてぇ!!」

必死で逃げる彼女は裸足のまま校庭に飛び出すと全力で校門めがけて走っていく、

あと10m

あと5m

見る見る近づいてくる校門を目標に少女が走ると、

ヌッ!!

突然彼女の前に一人の男性が姿を現した。

「あぁっ」

止まることが出来ず、少女はそのまま男性に激突をしてしまうと、

「大丈夫ですか?」

文字通り倒れてしまった少女に男性はそう告げると、

「やれやれ…

 人間には効き目が強すぎましたか…」

残念そうに男性はそう言うと少女をそのまま寝かせ、

スッ!!

河童の一群が待ちかまえる校庭に足を踏み入れた。

『くわっ』

『くわくわっ』

男が目の前に立ちはだかると河童達は一斉に鳴き始め、

その途端、

ザァァァァァ!!!

突然激しい雨が校庭に降り始める。

「…やれやれ、どうもその様子では

 みなさん尻子玉を食べられてしまったみたいですね…」

河童達を眺めながら男性はそう呟くと、

手にしている大きい鞄から一枚の護符を取り出し

「この世界は河童には住み難い世界です。

 さぁ、水の世界にお行きなさい」

と言うなり、

ビシッ!!

っと校庭に護符を投げつけた。

その途端、

『ぐわぁぁぁぁ!』

河童達の身体が見る見る地面に沈み始めると、

トプン!!

トプン!!

っと一匹一匹、その中へと姿を消していく、

こうして、校庭を埋め尽くしていた河童は呆気なく姿を消してしまうと、

さぁぁぁぁ!!

雨はあがり、

キーンコーン…

文字通り、無人となってしまった校舎内にチャイムの音が響き渡った。



夕暮れ…

「はぁ…」

一軒の赤提灯で男性が大きくため息をつくと、

「どうしました?、不景気な顔をして」

トン!!

冷気が流れる大ジョッキを男性の前に置きながら主人が尋ねる。

「いやねぇ…

 どうして、こう、仕事がうまくいかないのかってね」

そう言いながら男性が

グィッ

っと冷えたジョッキを空けると

「ははは…

 まぁ、そう言うときもあるってモンよ、

 元気を出していきましょうや」

オヤジはそう言うと、

「へいっ、焼き鳥お待ちっ」

と言って男性の前に焼き鳥が入った皿を置いた。



おわり