風祭文庫・モノノケ変身の館






「お宝」

作・風祭玲

Vol.835





カラン!

カラカラカラ…

私の足元から石が崩れ落ちていくと、

いまにも私を飲み込まんとして大きく口を開けている闇に向かって落ちていく。

「ひぃぃぃぃ!!!」

足を一歩引いて私は冷や汗を掻くと、

「おっ落ち着けっ

 落ち着くのよ!」

と自分に言い聞かせながら、

パンパン!

2回頬を叩いた。



ここは地球のどこかにある秘境と呼ばれるところ。

私の任務はこの秘境に眠るどんな願いも叶えると言われる秘宝を探し出し、

それを社に持ち帰ること。

「私は…負けない」

決意を新たにして崖をよじ登る私の脳裏に、

「…いい訳はいい訳よ…」

などとくだらない駄洒落を言うイケ好かない上司の顔がよぎる。

「まったく、

 現場の苦労も知らないでぇ…」

オールバックの上司の顔を心の中でぶん殴りながら、

私はひたすら身体を動かしていく、

そして、不意に私の目の前に広大な空間が開けると、

ひっそりと佇む古の神殿が姿を見せたのであった。

「ついに来た…」

神殿を眺めながら私は到達感に感涙咽ぶが、

しかし、それで”終わり”ではなかった。



そう、ここからが正念場。

仕掛けられているトラップを掻い潜り秘宝を手に入れなければならないのである。

グッ!

一休みした後、

気合を入れるようにして私は全身に力を込めると、

「行くよ!」

その掛け声と共に全力で走り始める。

原住民に伝わる言い伝えなどからトラップの位置は把握済み。

わたしは巧みにトラップを掻い潜り、

神殿内部へと突入していく。

すると行く手を阻むようにして無数のゴーストが私の前に姿を現してきた。

だが、これらは無害。

私とは住む世界が違うのだ。

住む世界が違う者同士は干渉することなく、

仮にぶつかってもすり抜けていくだけである。

「ふふっ」

笑みを浮かべながら私は余裕でゴーストの集団を突き抜けていく。

だが、

その先で私を待つ者…

それこそが最大に難関である。



この神殿には秘宝を守る5人の守護神がいて、

秘宝に近づくものを実力で追い払うという。

言い伝えでは

火の守護神。

金の守護神。

木の守護神。

水の守護神。

夢の守護神。

以上の5人が居るそうだが、

果たして私に倒せられるか不安に思いながらも私は進んでいくと、

ヒラリ…

天井から舞い降りてきた5匹の蝶と共に、

私の前に守護神が姿を見せた。

「出たぁ!」

守護神を見た途端、

咄嗟に社より支給された携帯型ガーディアンの種を取り出し、

適当なところに向けて放り投げる。

すると、

ムクムクムク…

放り投げられた種は周囲の物質を巻き込み成長してゆくと、

守護神に向かって攻撃を始めだした。

知能はあまり高くは無いが命令には従順で便利な存在である。

ガーディアンに適時命令を下しながら私自身も応戦をする。

守護神は攻撃と防御を巧みに使い分け私を攻撃してくるが、

だが、ココからは引くわけには行かない。

無敵と思える守護神でも弱点はあるはずだ。

そう思いながら私は守護神の1人に的を絞り、

それに向かって集中的に攻撃を加えた。

すると、

パキン!

ついに一人の守護神が倒されると、

姿を消し星を2つ宿す球となってしまった。

「よしっ」

それを見た私は手ごたえを感じると、

一人ずつ集中攻撃をかけていく。

そして、一人また一人と守護神を倒し、

ついに全ての守護神を倒すことに成功すると、

そこには1〜5つまでの星を宿す球が5つ落ちていたのであった。

「一星球から五星球までか…

 言い伝えでは七星球つあると聞いていたけど、

 残りの二つは…どこ?」

言い伝えの球の数と、

守護神の数の食い違いは前々から気になっていたのだが、

秘宝を得るには7つ揃えなければならない。

私は残り二つを探しながら神殿を進んで行く。

やがて私の前に大量の書を納めた区画が姿を見せると、

その区画の奥で神々しい光りが目に飛び込んできた。

「秘宝だっ

 言い伝えどおりだ」

それを見た私の足は自然と速くなり、

光に向かって引き寄せられるようにして向かっていく。

そのときだった。

突如、私の目の前に2匹のケモノが姿を見せると襲い掛かってきた。

「ちっ、

 こんな所に潜んでいたのか」

強靭な爪を光らせ、

ケモノは侵入者である私を切り刻もうとする。

私はすかさず待機しているガーディアンを呼び寄せると、

ケモノに向かって攻撃をかけさせた。

ケモノとガーディアンの壮絶な戦いが始まり、

区画は見る見る破壊されていく、

だが、感傷に浸っている暇はない。

「いまだっ」

一瞬の隙も見逃さず怯んだケモノに攻撃を行うと、

パキン

パキン

二体のケモノは星を宿す球となり、

私の前に転がり落ちる。

「7つ…

 ついに7つの球を集めたぞ…」

震える手で私は先ほどの5つをその球のところに落とすと、

カカッ!

7つの球は一斉に光り輝き、

その輝きに呼び寄せられるように

秘宝が光の中へと飛び込み消えて行った。

「え?

 ちょちょっと、

 消えてはダメぇぇぇ!」

思わぬ展開に私は慌ててしまうが、

光はさらに強くなり、

そして、

ドォォン!!!

ついに私の目の前で巨大な柱と化すと、

『お前の望みはなんだ?

 望みを一つ叶えてやろう。

 さぁ言え!』

と聞くものを押しつぶすような声が響き渡った。

「え?」

その声に私は上を見上げると、

巨大な竜が宙に浮かび、

燃え上がるような瞳で私を見つめていた。

「えぇっと…」

まさかこんな展開になってしまうとは…

私は自分の判断の甘さに悔やみながらも、

この事態を収束させる方法を考えた。

「望みって言われても

 困ったわねぇ」

「出世をしたい…」

「うーん、先が無いような気がするのよね、あの会社」

「あのいけ好かない上司を追放して…」

「放って置いてももぅすぐ左遷されるか」

「世界一の大金持ち!」

「強盗に入られたらどうするの?」

「イケメンをはべらかす?」

「趣味じゃないし、

 それに3日も見てれば飽きるわ」

「超豪華グルメ」

「これだけ苦労して一夜限り?」

「じゃぁ永遠の命?」

「ううん、一人だけ長生きしてもつまらないわ」

「絶対的権力者?」

「初めのうちはいいかもしれないけど、

 こういうのって必ず革命か何かでギロチンにかけられたりするし」

私は一人で浮かんでくるネタに一人突っ込みを入れていると、

『早く言え!』

と竜はせかしてきた。

「チョット、待ってて」

竜に向かって私はそう言うと、

「とにかく、

 秘宝に戻さないと社には戻れないわ、

 よし、

 決まったわ、

 私の願いは…」

考えを整理してようやく決めた望みを私は言おうとすると、

『望みは叶えた』

と竜の声が響き渡る。

「はぁ?

 私はまだ何も…」

思いがけない竜のその言葉に私は唖然とすると、

『お前の望み、

 ”ちょっと待ってて”

 それを叶えた』

と竜は言う。

「ちょっと待って、

 それって望みじゃぁ…」

竜に向かって私はその言葉は自分の望みではないことを説明しようとするが、

『では、交代だ!』

竜のその声が響くと、

ビクッ!

私の体の中を電撃に似た衝撃が走り、

ジワジワジワ

見る見る体中からウロコが生え始めだした。

「ちょっとぉ

 何これぇ!!!」

湧き出すように生えてくるウロコに私は驚いていると、

メキっ

メキメキっ!

今度は体が伸び始め、

瞬く間に私の身体は蛇のように長く伸びてしまった。

しかし、それだけで終わりではなかった。

手足には鋭く鍵爪が伸び、

尾が伸び、

そして口が裂けながら伸びていくと、

頭から角が突き出してきた。

『ぐわぁぁぁぁ!!』

震える声を響かせながらも私は竜になってしまうと、

『では、さらばだ!』

その声を残して先代は砕け散るようにして消え去り、

私は一人この神殿で秘宝のなかで眠りに就いた。



まさか、球を集めると自動的に秘宝が発動するなんて…

まさか、発動した秘宝の竜が交代制だったなんて。

そんな重要なこと、

どこかにしっかりと書いておいてよぉ



おわり